川合広太郎
書家
NHK学園教諭
大東文化大学講師
前回10回という節目をすぎ、また新しい歴史がスタートした幸せさがし文化展。今回は書の応募総数が前回の倍を超えました。今まではすべての作品を床に並べての審査でしたが、今回は床では足りず、壁面にもたくさんの作品が張り出されています。作品の表現は本当にさまざま。幸せさがし文化展ならではの審査です。初心者には経験者に勝る感性をときに発見したり、また熟練者の技術にはやはり感心したりと、楽しみながらも難しい審査でした。
連合大賞は矢内さおりさん。まだ29才とお若いながらも、とてもリズミカルで錬度の高い線で書かれています。特に渇筆の表現は圧倒的なものがあります。
ILEC大賞は今泉杏鵬さん。毎回卓越した技術を披露していただいています。筆の割れや偶然に起こるアクシデントをむしろ楽しみながら筆を運んでいるところをぜひみなさんにご覧いただきたいものです。
ジュニア特別賞は尾藤ななみさん。2回目のご出品ですね。家族のために毎日働いてくれているお父さんへの気持ちを表現したと聞きました。美しい字形を追求しながらも、そこにはちゃんと自分のリズムが感じられます。名前も美しく、気持ちのよい書です。
シニア特別賞は森下桂石さん。毎回のご出品ですね。92才でここまでの書を書かれると、もう説明はいりませんね。次回もまたお元気で新しい世界にもチャレンジしていただきたいなと思います。
今回は若い高校生や小さなお子さんの出品がとても増えました。技術だけでなく、心をほっこりとさせてくれる作品もたくさんあり、すべてをみなさんにご覧いただけないのが残念です。これからもみなさんそれぞれの人生にひとつの励みとなるような文化展であり続けられるといいなと思っています。
河合 仁
書家
日本大学講師
上野の東京国立博物館では、2019年1月から2月にかけて、台北の国立故宮博物院に所蔵されている唐時代の顔真卿(ガンシンケイ)の名筆「祭姪文稿(サイテツブンコウ)」が展観されました。日本人よりも多いと思われる程の中国人が連日列をなして熱心に鑑賞する姿が印象的で、毛筆文化に対する意識の高さに驚嘆しました。
今回も長年の熟練を感じさせる作品や初出品の方まで、多様な表現を楽しまれている姿が目に浮かびました。
吉川梢風さんの青墨で書かれた「帰家」は、二文字のアレンジがポイントです。「帰」の縦画を側筆で渇筆を出し、「家」は横への動きを大きくとり、紙面構成に変化を工夫しています。
斉藤浩子さんの、「明」は、線質と構成の面白さにあります、紙面の左側は鋭い直線で空間を切っていく動きをつけ、右側部分はリズミカルな曲線の輪を重ねて立体感を出しています。対照的な要素をうまく調和させた作品です。
阪本青悠さんは、宋時代の書家米芾(ベイフツ)の「苕渓詩巻(チョウケイシカン)・尺牘(セキトク)」を白色のペンで臨書されました。毛筆で書かれた筆跡の骨格をしっかりとらえ、筆圧の変化をつけながら躍動感のある力強いリズムが一貫して見事です。
脇壽子さんの「春逐鳥聲開」は、抑揚をつけた厚みのある線質で、漢時代の木簡に見られるゆったりした雰囲気を出しています。
岡崎宵兎さんの「新樹より梅雨さむき霧の噴きいづる」は、長鋒の柔毛筆を使い、複雑な線質や造形で伸びやかな動きを展開しています。