川合広太郎
書家
NHK学園教諭
大東文化大学講師
この公募展も10回を数え、ますますレベルもあがっています。選考はたいへんですが、今回も素晴らしい作品が集まりました。特徴としては、全体的に若い方の出品が増えたような印象でした。しかもただ若いだけでなく、しっかりとした実力を持った方が増えたな、という印象です。
それを代表するのが連合大賞、佐塚恵奈さん二十歳の作品。全紙に銀泥で千字文を、しかも篆書で書きました。篆書はとても書くのに時間がかかる書体。その忍耐力と仕事量はもちろんのこと、なかなか素晴らしい統一感をもって書けています。若さゆえこれだけのことができるのか、いやいや若いだけではこれだけの筆運びはできないものです。
ILEC大賞は濱田聴雨さん。何気ない言葉や思いをどう表現するのか。しっかりと培われた技術で、奇をてらうことなく淡々と書き進められています。現代の漢字かな交じり書のひとつの答えがここに表現されていると感じました。
シニア特別賞は飯野蒼明さん。このリズムと力強さ、八十を過ぎた方の運筆とは思えません。書は健康の薬なのでしょうか。ますます磨きをかけていただきたいと思います。
ジュニア特別賞は森脇潤くん。紙を目一杯に使い、力強く巧みな筆さばきで堂々と仕上げました。見ていて誰もが気持ちのよくなる書です。
そう、見る人を楽しませるには、実は書く本人が気持ちよく書かなければいけません。仕事での悩みがあっても、筆を持っている間は心はそこに集中し、開放され、また元気が蘇ってくるものです。
さて、最後にひとつだけ。今回残念なことに作品の大きさが規定外ということで、涙をのんで選外とせざるを得なかったすばらしい作品がありました。出品規定にもご留意されて、またのリベンジ、お待ちしています。
河合 仁
書家
日本大学講師
今回も古典の臨書作品や現代的感覚で創作された作品など、多種多様な表現が見られました。
佐藤奎山さんの「望外」は、曲線を主体にした厚みのある線質で、全紙の空間を大胆に構成した迫力のある作品です。
森田秀玄さんの「般若心経」は、唐時代の整った楷書で一点一画を一字一仏の願いをこめて丁寧に書き進め、すっきりした格調高い作品です。
宮島悠果さんの七言体句の隷書作品は、直線的な横への動きを強調した点画の粗密による構成力と潤渇の線質の変化が絶妙です。
田坂真由美さんの「寛」は、弾力に富んだ長峰筆を使い、鋭く伸びやかな直線と筆圧やねじれをつけた曲線の集合体との調和に工夫がみられます。
会田祥石さんの篆刻は、「萬世不易」を朱文と白文の二顆作品として、文字構成や運刀のリズムに変化をつけた力強い作品です。
直線の組み合わせを工夫した作品です。
関野洋美さんの「宝」は、金文を直線で構成し、筆毛の開閉を大胆に変化させた作品です。
高橋孤舟さんのかな作品は、線に潤渇の変化を効果的に入れて遠近感を出し、流麗な美しさが表現されています。