勅使河原 純
美術評論家
節目のときを祝う盛りだくさんの内容
本展もとうとう第10回目を迎えた。ILECなど教育系の公益社団法人が行うこの種の文化事業としては、恐らく例をみない長さだろう。この節目のときを祝うかのように、今回の絵画展も盛りだくさんの内容となった。
なかでも目立つのは、人々の日常生活に密着し、その中から直接生まれ出てきたと思われる作品が非常に多かったことである。多様な画材を駆使して、思っていることを何とかして相手に伝えようという気持ちが溢れ、入選作の主流を占める特色だったといっていい。
連合大賞に輝いた北詰和子さんの「ひなまつり」はその典型で、お孫さんと思われる女の子の初雛を画面一杯に描き、その喜びを爆発させたかのようである。ILEC大賞の吉田柚香さんの「甘党のおじいちゃん」は、両手にソフトクリームをもって、大切な人のもとへ急ぐやさしそうな人物を活写した作品だ。日本画では難しいリアルな表現が胸を打つ。
シニア特別賞の市川貞夫さん「海辺」は、水彩の透明感を生かして、海岸でいっとき寛ぐ海女さんたちを生き生きと描きとった一枚だ。各人各様の表情がいい。ジュニア特別賞の杉本観月さん「はばたくふくろう」は、思い切りのいい線でグイグイ鳥たちへ迫った描写が魅力的。17歳以下という若い世代から、こうした渾身の力作が生まれたことは、本展にとってもきわめて喜ばしいに違いない。その他にも、目を見張る傑作が少なくなかった。
織作 峰子
写真家
大阪芸術大学教授
幸せさがし文化展も今年は第10回という記念の年。時代の変化でしょうか、ラメなどの素材を使ったり、表現方法にもカジュアル感が加わり、進化してきているようにも感じました。ただ残念だったのは、額装など仕上がりの形に手抜きの作品が見受けられたことです。装丁までもが作品という意識で作品を提出していただけますことを願います。
連合大賞の作品「ひなまつり」は、雛壇の前にあどけない表情で鎮座する女の子の自然な表情を描いた作品です。膨よかなお顔がうまく描かれ、雛壇と着物共に華やかな色彩でとても艶やかな作品です。
ILEC大賞「甘党のおじいちゃん」は、淡い色の岩絵具を使い、若い感覚でチャーミングな印象の作品です。シニア特別賞「海辺」は漁村で働くお母さんたちの表情を捉え、会話が聞こえてきそうな作品です。寒い時期のようですが、パステルトーンの絵の具にしたことで、明るい印象になりました。ジュニア特別賞「はばたくふくろう」はカラフルな羽根の細部を独特なタッチで描きながら、瞳の強さと人物や昆虫などをバランスよく入れ込みました。完成度の高さに感動しました。
特に今年はジュニアの力作が光っていました。勢いよく描かれた世界が画用紙の中に収まりきれず、飛び出してきそうな作品がたくさんありました。これらの作品のように夢と希望を持って未来の世界に向かって羽ばたいてもらいたいです。