川合広太郎
書家
NHK学園教諭
二年に一度、働くみなさんとその家族の「幸せさがし」に出会えるのを楽しみにしています。出品年齢もさまざま、年を追うごとにこの展覧会の良さが出てきているように思います。
今回も昨年とほぼ同数の作品が集まりました。すべての出品作を広いフロアに並べて審査がスタートします。毎回出品される方の作品にうれしくなり、また初出品の多さとその技術の高さにまたうれしくなり、しかしその実力ゆえにどのような審査結果に落ち着かせるか、その難しさを想像しながら審査を続けていきます。こちらもみなさんの気迫に負けないよう、すべての作品にしっかりと拝見させていただきました。
連合大賞は阪本真吾さん。百人一首の後半の50首をおそらくは付けペンで白いインクで書きました。字形の美しさもさることながら、注目すべきはペンとは思えないその濃淡の表現です。ペンの表現も立派な「書」です。ぜひみなさんもこの表現を参考にされてみてはいかがでしょう。
ILEC大賞は佐藤雅嵐さん、初応募での快挙です。柔らかい長鋒筆を巧みに使って万葉集の一首を書きました。墨量と線の太細の変化が絶妙で空間がとても美しく見える作品です。
シニア特別賞は森下桂石さん。昨年の九成宮醴泉銘に続いて今年も楷書の王道、雁塔聖教序の臨書です。88歳にしてこの線の安定感、ぜひ間近で見てもらいたいものです。
ジュニア特別賞は佐藤日香さん、15歳。決して大きくはない半紙作品です。穂先の微妙な使い方、運筆のリズム、大人の方も、この作品から学ぶところが大きいのではないか、と思います。
特に今年度は子供達の作品も多く、家族みんなで「幸せ」をさがしているな、と気持ちがほっこりとしました。ぜひ今度はご家族で、展覧会を見にいらしてください。
河合 仁
書家
日本大学講師
今回も一点一画に思いを込めた多数の作品が集まりました。
関野洋美さんの「風の道」は、筆先の割れた表現を生かし、ダイナミックなリズムでまとめた作品です。
石橋航也さんの行草作品は、各文字の造形と大小の変化を巧みに展開し、心地よいリズムで一貫しています。しっかりと紙に食い込んだ渇筆の美しさも効果的です。十七歳の今後が楽しみです。
斉藤浩子さんの「海」は、飛び散る波のしぶきを連想させ、筆の動きによる線の集団とうまく融合した作品です。
金田次雄さんの篆刻作品は、唐代の「書譜」から語句を選び、それぞれほぼ8cm角の石に刻されました。特に白文印の造形、線の切れ味がよく、印の押し方も丁寧で美しく仕上げてあります。
今泉敏雄さんの行草作品は、渇筆が美しく、直線的な切れ味のよい線質で統一されています。変化に富んだ縦への流れがリズミカルな伸びやかさを出しています。
安達輝美さんの「胡桃の花」は、4文字の造形を大胆に変化させ、息の長い深みのある線質と渇筆の味わいが独特の空間をつくっています。左側の細字も揺らぎをつけて、全体の調和が工夫されています。
吉川昌子さんの作品は、ひらがなのあ行、か行、さ行、た行、な行を5グループの集団として変化をつけ、筆先の開閉を巧みに生かした線質も味わいがあります。
長坂多津子さんの作品は、木簡の敦煌漢簡の臨書です。深みのある線質で伸びやかに表現されています。