勅使河原 純
美術評論家
この展覧会には油絵から鉛筆・ペン画まで、実にさまざまな手法の作品が寄せられる。また出品者の年代も、ILEC(教育文化協会)の性格を反映してか、幼い子供からシニア世代にまで大きく広がっている。なかには今年烈しい災害に見舞われた、ネパールの小学生たちの作品も含まれていた。それらを一まとめにして入賞・入選を決めようというのだから、いきおい審査は難しい作業とならざるを得ない。おまけに最終的な入賞作品数は限られているので、そのハードルを越えるのは容易でない。審査員からみても、なぜこの作品が外れてしまうのだろうと、残念な思いにかられる傑作が少なくなかった。
にもかかわらずである。目先の奇を衒って、作為的に見る者の関心を引こうとするいわゆる「会場芸術」はきわめて少なかった。ほとんどの作品がそれぞれの実生活に根差した自然体から生まれたもので、また賞もそこから多く採られたと思う。本展の出品者が、大いに誇っていい特色ではないだろうか。
それを象徴しているのが連合大賞・西部隆哉「想いを胸に」だ。親しい女性と思われる人物を真正面から捉えた画面で、その堂々たる描き振りがまずもって好ましい。両腕を組みまっすぐに正面をみつめて立つ姿は、若さゆえの存在感に満ちていよう。ジュニア特別賞・河見優希「夏の森」は、トンボの翅を徹底的に観察した眼の成果でもある。秀作・下原彰禮「花瓶の中の小さな春」は、最高のテクニックから生み出された光あふれる情景。内田鈴子「晩秋」と岸野友里歩「親子のカンガルー」なども、動物に愛情を託す描写で深く印象に残った。
織作 峰子
写真家
大阪芸術大学教授
第9回目となる連合・ILEC幸せさがし文化展は、いつものベテラン勢に加え新しく応募された方、そして子供たちの夢のある作品がたくさん寄せられました。
連合大賞西部隆哉さんの作品「想いを胸に」は、タイトルからイメージするに、何かの目標に向かい覚悟を決め、しっかりと目を見開いた威風堂々の姿に迫力を感じます。
初応募でいきなりの連合大賞受賞も凄いです。
ILEC大賞受賞片岡美男さんは過去にも連合大賞受賞歴のあるベテランです。
今回の作品「流木のあるスペース」は、過去の作品を更に構築され、カット割りにした構図や木肌の細かい表現は、まるで写真と見紛うような細密さです。
秀作に選ばれた作品の中では下原彰禮さんの「花瓶の中の小さな春」が表現する水の透明度と布のシワによる微妙な影とグラスの水への映り込み等に思わず吸い込まれてしまいました。
河見優希さんの「夏の森」の筆使いの細かさと観察眼には驚かされました。
先日震災に見舞われたネパールの子どもたちから震災前に届いた絵30点、また元のような平和が一日も早く戻ることを願います。