第8回ILEC 幸せさがし文化展
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俳句の部
連合大賞(1名)
こいのぼりスカイツリーの深海魚 さくら 千葉県
ILEC大賞(1名)
冬至湯や産湯のように母洗ふ アリス 大阪府
シニア特別賞(1名)
餅搗くぞ搗くぞ搗くぞと子が跳ねる 平井 辰夫 退職者連合(クラレ労組OB)
ジュニア特別賞(1名)
霜柱弱い自分も踏みつぶす 高橋 ゆい 電機連合(ホシデン労組家族)
秀作(5名)  作品一覧
空だって時に反抗積乱雲 かすみ草 広島県
母の日を母と迎うる日の幾度 植木 裕美 東京都
行きは銀帰りは金のすすき原 ヨシノボリ 東京都
母の日に一日シェフの子どもたち カンナ 大阪府
ひたすらに真面目に生きて日向ぼこ 竹中 啓子 山梨県
佳作(10名) 作品一覧
春の水呼吸は幹の中でする 松下 幸子 兵庫県
母さんの子守り帯解け若葉風 古河 章男 東京都
ごきぶりを逃した夜の明けにけり 松久 茂嘉 東京都
春ららら妻に一言愛してる 青木 忠平 静岡県
七十年戦なき世の花月夜 佐々木久仁子 退職者連合(NTT労組退職者の会
奈良県支部協議会)
花杏子母に寄せたる父の恋 楠原 絢子 東京都
胸の傷癒す桜の木の下で 下川 晴美 神奈川県
「ただいま」の早口に合格を知る 岸野 由夏里 京都府
開墾のあの日日よぎる草いきれ 西田 敏之 兵庫県
旅に買う記念の切手麦の秋 掛井 広通 静岡県
入選(15名) 作品一覧
山迫る青田は狭くなりにけり 山田 幸子 兵庫県
みんな来てみんな帰りし夏の星 今泉 敏雄 退職者連合(NTT労組退職者の会
青森県支部協議会)
ひたすらに乳ふふむ吾子夏来る 信安 淳子 岡山県
まっすぐに落ちる重さよ落椿 永松 東興 埼玉県
緑陰に入りて話題を変へにけり 園田 浩 熊本県
赤い糸気づけば赤いちゃんちゃんこ 簗嶋 凌 栃木県
雪ちらり老いて詩作の燈火かな 不孤 大阪府
猫の背を柔らかにして春は来る あまけん 東京都
鯉のぼり帰郷の子等を待ちにけり 高野 菊枝 石川県
お花見ではしゃぐ孫らもさくら色 ヒデじい 大阪府
幸せは足下に在り犬ふぐり 福田 良光 宮城県
夢に見た君と見ている桜かな 三浦 由美子 秋田県
おかえりの厨に母の冬日あり 吉野 麻子 石川県
栗の実を拾ひに帰る故郷かな 山田 齊 神奈川県
フクシマを忘れじと打つ盆太鼓 山形 太 茨城県
特別審査員賞(3名) 作品一覧
花屑をまとひて夫の帰宅かな 橋爪 あゆみ 埼玉県
じいちゃんも待ち遠しいぞ夏休み けいこ 神奈川県
あのひとを笑わせたいのチューリップ 久留 素子 東京都

俳句の部

小島 健

俳人協会理事
「河」同人

 俳句の部に、熱心なご応募をいただき、深謝申し上げます。
 美しい自然を季節感豊かに詠んだ作品、生活の中の人情を深く表現した句、明るく楽しい笑いの句など多彩な詩情に感心しました。

 こいのぼりスカイツリーの深海魚
 冬至湯や産湯のように母洗ふ
 餅搗くぞ搗くぞ搗くぞと子が跳ねる
 霜柱弱い自分も踏みつぶす

 上記の大賞、特別賞の作品は、視点がユニークで独自の詩情が輝いています。一句目は鯉幟をスカイツリーの下の深海魚と見立てたところに、大胆で斬新な詩人の目を感じます。二句目は「産湯」の比喩が警抜で、優しい作者の気持ちが嬉しいですね。三句目は「搗くぞ」を三回繰り返したリズムの愉快さに拍手! 何だか月の兎の餅搗きも想起するではありませんか。四句目はジュニア特別賞。自我の目覚めが強い意思となって一句に凝縮されています。こんな子供が増えれば、日本の未来も明るいぞ!
 その他の秀作、入選作品にも、大きな拍手を送ります。
俳句は世界で最も短い詩であり、日本の誇りです。その俳句を通じて、美しい日本の四季を大切にし、世界のあらゆる人々に優しくなろうではありませんか。また、俳句には自分と他人を慰め、励ます強い力があります。この「俳句力」を信じ、より豊かな人生をお過ごし下さいますよう、心よりお祈り申し上げます。

鈴木章和

「翡翠(かわせみ)」主宰

ことばが直立してやってきます。

 餅搗くぞ搗くぞ搗くぞと子が跳ねる  平井辰夫
 霜柱弱い自分も踏みつぶす  高橋ゆい

 木も草も道もない場所に、ことばが立ち上がって、明るい光の中へ出てきたのです。そしてしっかりとした声で、「餅搗くぞ」といい、霜柱を「踏みつぶす」というのです。
 俳句はいのちが深呼吸するところ。いのちが声を発する大気のある場所。今年の「幸せさがし文化展」の投句の作品を読んで感じたことは、そうした堂々とした人間のくらしといのちが息づいているという驚きでした。
 みなさんはなにゆえ、選者がこの作品を選んだのか、それを思いながら、この入賞作品の一句一句を読んでみて下さい。選ばれたこれらの俳句の中に何が語られているか。と同時に、その一句のあわいにある、人間とくらし、人間と自然の持つ関係のおもしろさを読み取っていただきたいと思います。あるときは生きることの喜びであり、あるときは自然の恐ろしさが垣間見えることでしょう。そしてさらに選ばれた作品すべてが、みごとに組立てられたことばの構築物であることに気付いていただきたいのです。私たち選者は、みなさんの作品を読み味わうことと、さらに選ばれた作品をみなさんに読んでいただくことで、私たちを語っているのだということを知っていただきたいと願っているのです。


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