小島 健
俳人協会理事
「河」同人
俳句の部に、熱心なご応募をいただき、深謝申し上げます。
美しい自然を季節感豊かに詠んだ作品、生活の中の人情を深く表現した句、明るく楽しい笑いの句など多彩な詩情に感心しました。
こいのぼりスカイツリーの深海魚
冬至湯や産湯のように母洗ふ
餅搗くぞ搗くぞ搗くぞと子が跳ねる
霜柱弱い自分も踏みつぶす
上記の大賞、特別賞の作品は、視点がユニークで独自の詩情が輝いています。一句目は鯉幟をスカイツリーの下の深海魚と見立てたところに、大胆で斬新な詩人の目を感じます。二句目は「産湯」の比喩が警抜で、優しい作者の気持ちが嬉しいですね。三句目は「搗くぞ」を三回繰り返したリズムの愉快さに拍手! 何だか月の兎の餅搗きも想起するではありませんか。四句目はジュニア特別賞。自我の目覚めが強い意思となって一句に凝縮されています。こんな子供が増えれば、日本の未来も明るいぞ!
その他の秀作、入選作品にも、大きな拍手を送ります。
俳句は世界で最も短い詩であり、日本の誇りです。その俳句を通じて、美しい日本の四季を大切にし、世界のあらゆる人々に優しくなろうではありませんか。また、俳句には自分と他人を慰め、励ます強い力があります。この「俳句力」を信じ、より豊かな人生をお過ごし下さいますよう、心よりお祈り申し上げます。
鈴木章和
「翡翠(かわせみ)」主宰
ことばが直立してやってきます。
餅搗くぞ搗くぞ搗くぞと子が跳ねる 平井辰夫
霜柱弱い自分も踏みつぶす 高橋ゆい
木も草も道もない場所に、ことばが立ち上がって、明るい光の中へ出てきたのです。そしてしっかりとした声で、「餅搗くぞ」といい、霜柱を「踏みつぶす」というのです。
俳句はいのちが深呼吸するところ。いのちが声を発する大気のある場所。今年の「幸せさがし文化展」の投句の作品を読んで感じたことは、そうした堂々とした人間のくらしといのちが息づいているという驚きでした。
みなさんはなにゆえ、選者がこの作品を選んだのか、それを思いながら、この入賞作品の一句一句を読んでみて下さい。選ばれたこれらの俳句の中に何が語られているか。と同時に、その一句のあわいにある、人間とくらし、人間と自然の持つ関係のおもしろさを読み取っていただきたいと思います。あるときは生きることの喜びであり、あるときは自然の恐ろしさが垣間見えることでしょう。そしてさらに選ばれた作品すべてが、みごとに組立てられたことばの構築物であることに気付いていただきたいのです。私たち選者は、みなさんの作品を読み味わうことと、さらに選ばれた作品をみなさんに読んでいただくことで、私たちを語っているのだということを知っていただきたいと願っているのです。