大木俊秀
全日本川柳協会常務理事
選を終えて
「連合」の文化展も回を重ねて今年は第9回。川柳に限って申し上げれば、課題の「祈る」と「結ぶ」に、それぞれ一千句を超えるご応募をいただいた。数の伸びもさることながら、句の内容の充実ぶりにも目を見張るものがあって、選句に骨が 折れた。
笑い、風刺、本音が川柳の大切な要素であることに変りはないが、最近はこれに、ほのぼの、しみじみといった情緒を感じさせる作品が尊重されてきているように、私には思える。納得、共感、新鮮という前提は当然のことである。
これまでにも機会あるごとに書かせていただいたように、第一に大事なのは、その句が何を詠み何を伝えたいのかが、一読してわかることだ。第二が、五七五の定型リズムを基調とした句であること。第三に、リズムと関わることであるが句全体の流れがスムーズであること。そして四つ目に、手垢のついていないこと、フレッシュな作品であることを望みたい。こうした観点から上位入選作品を読み返して、今後の句作りの参考にしていただければ幸せである。
秀句目白押しの中で特に感銘を受けたのが連合大賞受賞句の、「田を植えるそれは祈りの姿とも」であった。その情景が目に浮かんでくるような句を、といつも申し上げているが、これはまさにそのお手本句。末尾の「とも」に、作者の実力がうかがわれた。
小金沢 綏子
川柳きやり吟社社人
句は心、リズムは人の息遣い
課題の「結ぶ」と「祈る」は、身近な題材であり、日常的で着想が広がりやすく、作句しやすかったのでしょう。会心の作品が多く出品され、かなりの厳選になりました。
●連合大賞:橋爪 あゆみ 「田を植えるそれは祈りの姿とも」
文明化は生活を豊かにしましたが、人とのつながりを希薄にしたようにも思えます。田植え機よりも人の手により田植えを「祈る」姿と見た作者の感性は素晴らしく、光り輝いています。これからの活躍に期待の持てる作品です。
●ILEC大賞:門脇 かずお「赤い糸ちょうちょ結びにしてしまう」
「赤い糸」は、目に見えない縁(えにし)によって結ばれるべき運命にある二人を指しています。作者は、嬉しくて弾む胸の内を「ちょうちょ結びに」と象徴的に表現しています。心理状態をよく掴んでおり、笑いを誘います。
●シニア特別賞:岸野 洋介「見知らない人をネットが結びつけ」
子どもたちはもう独立して、侘しい日常生活を過ごしているのかもしれません。そんな日常の中で、インターネットは容易に人々と結びつくことができる良さもありますが、逆に誰とも知らない人とつながる怖さもあります。現代社会への風刺が効いていて柳味を添えています。
●ジュニア特別賞:高橋 ゆい「朝日さす祈り祈られ今日受験」
受験生らしい若さ溢れる新鮮な作品です。爽やかな笑顔とやる気が伝わってきて、「祈り祈られ」の繰り返しがなお効果を上げています。リズミカルで楽しい作風に仕上がっています。