自己紹介・教育文化協会の紹介
みなさん、こんにちは。この寄付講座には長く携わっており、2018年もこちらでお話をさせていただきました。第一線で活躍する労働組合役員の生の声を聞く機会というのはなかなかないと思いますし、それよりも今、皆さんがアルバイトなどで働いている時に直面する問題もあるでしょうし、これから就職をしていくその先の職業人生、そういったものすべてに関わってくることを学んでいただくということで、本講座を受講していただくことは、皆さんの人生にとっても大変ためになるのではないかと思っております。
まず、公益社団法人教育文化協会を紹介させていただきます。この協会は連合が立ち上げた労働教育・文化事業を営む団体です。連合がつくった団体に公益財団法人日本労働文化財団というのがありまして、2020年に教育文化協会と統合しようと準備をしています。ここは主に、法政大学大学院内に連合が労働金庫や全労済などとともに設立した連帯社会インスティテュート、社会人大学院の運営を担っています。この連帯社会インスティテュートにはは労働組合コース、協同組合コース、NPOコースが設けられていまして、3つの分野について、それぞれの分野を掘り下げるとともに席を同じくして互いの分野も学んでもらうという国内外でも稀有の特色を持つ大学院になっています。
教育文化協会は労働教育、文化事業を行っています。大学生向けの労働教育である連合寄付講座は教育文化協会が直轄をして実施しており、埼玉大学のほか一橋、中央、法政、同志社の各大学と東工大大学院で開講しています。それから全国に連合の地方組織がございます。47都道府県にあり、ぜひ地元の大学で寄付講座を開設してほしいと要請してきましたが、現在のところ全体で教育文化協会直轄を含めて25大学で開講しております。準備中の大学もいくつかありますが、将来的には47都道府県すべてで開講できればと考えています。
そのほか提言募集事業も行っています。提言募集には学生を対象とした特別賞があり、今年度は岩手大学の寄付講座を受講した学生が応募していただき、極めて優秀な提言ということで、入賞しました。この賞は毎月1万円12か月支給する奨学金もありますので、皆さんもぜひ挑戦していただければと思います。
連合寄付講座について
今日は初回ですから、おそらく皆さんは、まだ労働組合のこと自体あまりよくわからないと思います。もちろんウィキペディア、あるいはググっていただくと色々出てくると思いますが、実際にどういう活動をしているのか、どういう人間が組合活動をやっているかはわからなくて当然ですね。だからこそこの寄付講座があるわけです。最近はブラックバイトあるいはブラック企業といった言葉も飛び交っていますし、パワハラやマタハラ、セクハラという言葉もニュースになります。中には既にそういった問題に直面している方もいらっしゃるかもしれません。今後、現役の労働組合のリーダーがここで話をすると思いますが、そういった働く上で最低限知っておいた方がいい情報がたくさんでてきますので、ぜひ注目していただければと思います。労働組合は、我々もそうですが、ボランティアではないのでタダでは動けません。お金がかかります。そのために組合費を徴収しています。組合費を納入していただいて我々は活動しているということです。ただ、その組合は、組合員のためだけに活動をしているのではないということをこれから説明させていただきたいと思っています。職場の問題から社会的な問題あるいは世界の問題についてまで私たちは関心を持って活動しています。
なぜ連合が寄付講座?
なぜ寄付講座を実施しているか、なぜ連合がということです。実は2005年から実施しており、日本女子大学が最初に開講した大学です。以降、徐々に増やしてきています。2009年2月、厚生労働省において「今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方に関する研究会」が開催され、この研究会が報告書を出しました。この研究会には当然労働組合側の人間も参加しています。当時はブラック企業という言葉はありませんでしたが、当時から働くことをめぐる様々な問題が起きていました。法律に平気で違反したり、パワハラで自殺に追い込まれるなどの問題が多発しており、今と同じような問題がありました。研究会で、なぜこんなにも問題が起きてくるのかということを議論した結果、働く人たち自らが、自分たちの権利を守っていく必要性があると。しかしながら、雇われる側も、雇う側もあまり知識を持っていないという現実があるということでした。つまり、ワークルールの知識が全くない。雇う側はもしかすると知ってはいるがコストとして1円でも安く雇いたいと思って、知らないふりをしているということも実際はあるわけです。それで、働く側も雇う側も、様々な場面でワークルールを学ぶ機会を持たなくてはいけないという結論に至りました。問題提起は良かったのですが、厚生労働省と文部科学省の縄張り争いがあったり、実際には進んでないということから、連合としては、自分たちでやらなきゃいけないということで寄付講座をどんどん増やしていこうということになりました。
また、小中学生向けに、学研の漫画でよくわかるシリーズの『働く人たちのひみつ~みんなを守る労働組合』という本も発行して、全国の公立小学校、公立図書館に収め、皆さんに学んでいただこうということもやりました。小さなころから問題意識を持ってもらおうという試みです。
最近では、働くときに必要な法律や決まりを身につけられるワークルール検定という検定事業にも参画しております。初級と中級がありますが、6月と11月の年2回実施しています。2020年の秋には全都道府県で実施をしようと考えていますので、ぜひ皆さんも挑戦していただきたいと思います。日本人は検定好きということから検定事業によって、こうした労働分野の正しい知識を普及させようという取り組みです。私はたまたま、この検定を主催している日本ワークルール検定協会の専務理事も務めております。ワークルール検定は、現在では、厚生労働省、日本生産性本部も後援していただいておりますし、労働側弁護士はもちろんのこと、経営法曹といいますが経営側の弁護士の方にも参画いただいております。それから学識経験者にも協力いただいて普及啓発に努めています。行政側では、村木厚子さんという厚生労働省の事務次官を務められた方にも参加していただいております。
ワークルールの知識を持っていただく必要性は高まっているという事例を紹介します。
2018年8月頃でした。ジャパンビバレッジという会社があります。この企業は、自動販売機に飲み物を供給する会社でサントリーの子会社ですが、ここの支店長が、自社の社員に対して仕事に関するクイズを出して、全問正解しないと有給休暇をとらせないという問題が明らかになりました。これは社員の一人が、一人でも加入できる労働組合に駆け込んだことで問題が発覚しました。サントリーには連合加盟の立派な労働組合がありますが、子会社にはなかったそうです。支店長の行為、つまり年次有給休暇をとらせない行為は、労働基準法39条違反となり、違反者には懲役6か月以下、罰金30万円以下が科されるという法律違反です。立派な企業の、そして少なくとも分別があるであろう管理職が堂々とこうしたことをやってしまうというのが悲しいかな、現実なのです。大手の会社であったからニュースになったのだと思います。中小あるいは零細企業では、こうしたケースは結構ある。実際に労働相談も連合には沢山きています。今、働き方改革が叫ばれていて法改正も進んでおりますが、基本的なことを知らなさすぎるということで、雇用する側あるいは雇用される側も、そういった知識が欠如しているために、こうした問題が起きてしまうということです。ぜひこの講座を活用してこれからの人生に役立つ知識の武装をしていただきたいと考えています。
「若者応援マガジン YELL」
連合は様々な発行物を出していて、その中にYELLという無料配布の雑誌があります。現在、第5号まで出ていますが、2016年6月の第1号は俳優の小栗旬さんが表紙を飾っています。小栗旬さんのインタビューも載せているほか、働くことに関する様々な情報を載せています。連合のホームページにも掲載していますので是非ご覧いただきたいと思います。
実はYELL創刊当時、小栗旬さんは俳優の組合を作りたいと周囲に漏らしていたそうです。芸能界は非常に古い体質があり、過酷な労働環境、労働条件を変えていこうと言い始めていたようです。彼自身はスターですから何ら困ることはないと思いますが、映画、テレビ、舞台などには、照明さんやスクリプター(記録)さん、大道具さんがいたり、マネジメントにかかわる人たちなど様々なスタッフが関わっていることから、そういうことを考えたのかもしれません。彼がめざしていたのは、アメリカの全米俳優組合、スクリーンアクターズ・ギルドをめざしたのではないかと言われています。2019年に入ってからも、吉本興業の闇営業問題が話題になりました。その時に、芸人の中から「労働組合を作ったらいいのではないか」と発言をする人も出てきましたし、有識者の中には、労働組合を作った方がいいと発言する人もいました。教育文化協会で提言募集をしていますが、その審査員を務めていただいている大谷由里子さんという方がいます。この方はもともと吉本興業の社員だった方で、伝説の漫才師とよばれている横山やすしのマネージャーを務めた方です。書籍も出版しておりましてその方もテレビで発言をしていましたが、そこでも彼女は労働組合を作ったほうがいいと発言をしていました。実力勝負の世界で一人親方のように働いている芸人でさえ、実は吉本興業あるいは他の興行会社に管理監督をされて働かされているわけです。会社の命運を左右するような大物だったらまだしも、普通の芸人一人が、いくらがんばっても会社には太刀打ちできないということです。
小栗旬が夢見たアメリカの俳優組合の委員長を務めて後に大統領になった人がいます。ロナルド・レーガンです。現在は、スクリーンアクターズ・ギルドにプラスして「AFTRA」、「American Federation of Television and Radio Artists」、つまり、テレビ、ラジオのアーティスト連盟が加わって一緒に活動しています。そしてそれは、アメリカでの日本の連合の位置づけにあたる全国組織のAFL-CIOに加盟しています。AFTRAには、俳優、モデル、声優、スタントマン、ジャーナリスト、歌手など様々な人たちが加盟しています。例えば、アメリカの俳優を起用してCMを撮りたいといった時には、まずこの組織に個別の契約をしないと起用できないということになっています。このように労働組合として、プロジェクトが違法な労働条件、労働環境になっていないかをチェックして、違法なことを行っていることが分かった場合は、製作者側を罰することができる仕組みがあるそうです。アメリカの労働組合組織率は10%と非常に低いのですが、このような取り組みによって働く人たちを守っている組織だということです。
労働組合をやっている人って、どんな人?
労働組合に携わっている人はどのような人かということで、私自身の経験を話そうと思います。普通、会社に就職して、労働組合をやろうと入社する人はほとんどいません。たまたま何かのきっかけにより、組合に関わり、そのまま組合の仕事に従事していくという方がほとんどです。もちろん職業として労働組合に就職する方もいます。その結果、連合の会長代行を務めている方もいますが、大抵は普通に勤めてたまたま組合があったからやる、あるいは組合がなく、酷いことを会社にされて組合を結成して、組合の仕事に入るという人ももちろんいます。組合役員の形態には二種類あり、会社の仕事をし、会社から給料をもらいながら組合の仕事もするという非専従組合役員と、企業あるいは自治体の籍は残しながらも休職して組合から給料をもらって組合の仕事をする専従組合役員がいます。非専従、専従という言葉で表されます。なお、公務員の場合は、専従職7年で職場復帰するということになっていて、それ以降は完全に籍を抜かれて組合に雇用されることになります。そういったことで誰にでも機会はあるのではないかなと思います。
私は東京電力に入社して、三鷹にある武蔵野支社に配属され、窓口業務を担当しました。引っ越しのシーズンになると、電話が鳴りっぱなしになるという状況でした。そこで初めて組合に出会いました。最初は、組合にあまり馴染みがなく、距離を置いていた部分もありました。選挙になると土曜日や日曜日に動員されてポスター張りをさせられたり、ボランティアでカーブミラー磨きをしたりと、非常に面倒なことをやらせるなと感じていました。しかし、組合がキャンプファイヤーや地元のお祭りに参加するなど様々なイベントを開催していて、そういった場で他の部署の人たちと知り合いになり、非常に職場の居心地がよくなりました。当時、150人くらいの職場でしたが、大学卒は支社長も含めて5,6名しかいませんでした。職場では、「お前らはどうせ偉くなってこの職場から抜けていくんだろう」と、今で言ういじめにあったりもしましたが、組合を通じて他部門の人たちあるいは先輩方と非常に仲良くなり、仕事をしやすくなったという経験がありました。
約3年その職場にいて、その後本社に勤務することになりました。本店資材部ということです。営業所や支社と雰囲気が全然違って、当時はまだバブルがはじける前の時代で本当に大変な仕事量がありました。私は電線ケーブル班というところで地中線ケーブルのバイヤーを務めており、年間数十億円の契約を背負っていました。ですから、定時の仕事では終わりません。朝8時半に勤務が始まり、夜の11時40分くらいまで仕事をし、新橋駅に駆け込んで、11時56分発の下りの最終電車で帰ることが毎日続いていました。それに加えて、週に最低1回は完徹を余儀なくされて、会社に泊まり込んで仕事をしました。非常に怖い主任の下で、とにかく期日までに契約しなくてはならない、そのための査定をして、適正な価格を導き出す。昼間は電線ケーブル会社の営業担当者と交渉し、各支店や技術系職場からの問い合わせや要望を聞いて対応する。本当に大変でしたが、そうことを続けていると、だんだん感覚が麻痺してきます。ワーカーホリックという言葉を聞いたことがあるかと思いますが、それが当たり前になってきてしまいます。そうすると、例えば夜の11時過ぎに取引先のメーカーに電話して、担当者が帰ったというと、もう激怒してしまうわけです。
そういった生活を一年間くらい続けていたところ突然、「俺の後釜にならないか」と声をかけられました。私の学校の先輩がたまたま本店,関係個所3000名の組合員を擁する本店総支部というところの副委員長を務めていて、学校の先輩だし言うこと聞こうということで、じゃあ一度課長に相談しますと言って相談したところ、課長からは勉強になるからいいじゃないかということで、労働組合に送り出してもらいました。課長から「(仕事と組合業務と)両立できるか」と聞かれ、今の業務ではとても無理ですと答えました。そうしたら、調査グループという課内でも割とひまなところに異動させてもらって、組合支部の活動にも従事することになりました。その時は支部の常任執行委員という役柄でした。
その時に初めて、労働法、ワークルールというものを知りました。私は当時残業が月に150時間以上、200時間近い月もあったものと思います。それでも、給料明細では時間外手当が20時間しかついていなかった。それが当たり前だと思っていた。ところが労働基準法第36条では、会社と労働組合あるいは従業員代表と労使協定を結ぶのですが、協定を結ばないと残業させてはならない。そして協定では、協定で定める時間があり、それ以上働かせた場合は違法になるということでした。そして、協定を締結して労働基準監督署に届け出て初めて残業ができるということを、初めて知るわけです。150時間あるいは200時間も働いて、20時間しか時間外手当がついていないとなると、これは奴隷労働と一緒です。サービス残業という言葉ではごまかせない立派な労働基準法違反です。違反した場合は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という立派な犯罪が普通に行われていたということです。
私も職場に仲間が大勢いましたので、2ヶ月間毎日何時まで残業したかをつけてもらい、翌月の給与明細にどれだけ時間外手当がついているかコピーしてもらい、それらを比較表にして、総支部の役員会にかけて労務課長を呼びました。かなりの騒ぎになりました。もちろん労基署に持って行けばおそらく部長、担当役員は引責辞任に追い込まれるぐらいの衝撃度がありました。ただ、その課長が懸命に対応してくれて、管理職を回ってルールを周知してもらい、なんと翌月以降、協定内の時間が全て時間外手当としてつきました。組合員の給料はどんと増えるわけです。その結果、組合員からものすごく感謝されました。これは組合活動の方がおもしろいぞということで入り込んでいったというのがきっかけでした。職場のよろず相談なども一生懸命やっていました。その後、総支部で副委員長になりますが、その任期途中で、民間連合が結成された時に設立された研究所に研究員として派遣されます。そこでも苦労するのですが、その時に初めて、組合から給料をもらう生活が始まり、以降、労働組合の専従役員として活動をしてきました。これはあくまで私のケースでして、いろんな人が様々なきっかけで組合にかかわっていくということも覚えておいていただければ、今後の講師の話も多少は理解が進むのではないかと思います。
労働組合は職場の健全性チェック!
労働組合は何をやっているかということですが、運動方針、活動方針で決めた活動、取り組みをその都度検討し、実施する執行部があります。その中に常任部、常任会というものがあり、組合の仕事に専念をしている、あるいは組合の仕事を中心に行う人たちがいます。委員長、副委員長、書記長。この委員長、副委員長、書記長はだいたい三役と呼ばれています。そこに常任の執行委員などが加わって、常任部、これにそれぞれの職場の代表である執行委員会加わり、会計監査なども含めて執行部と呼んでいます。そういった組織構成で組合の仕事が行われています。
職場の環境は安全か、それから先ほどの協定の締結、時間外労働を行う場合にも協定違反をしていないか、パワハラやセクハラはないか、危険な場所はないか、様々なことを職場で聞きながら改善をしていくということです。もちろん春闘や大きな職場の改編がある時には会社と交渉しますが、そういったこと以外にも様々な活動をしています。生活上の相談、好条件での共済の提供、金銭の相談も受け付けます。私の場合もよろず相談で浮気の相談まで受けていました。
一番大事な労働安全衛生
労働組合にとって最も重要な課題は労働安全衛生です。約四年前になりますか、大学卒業後に電通へ入社した高橋まつりさんという女性がいました。この方は過労で精神的にも追い詰められてクリスマスの夜に電通の独身寮の屋上から飛び降りて自死してしまいました。2016年に労災認定がでて、2017年には捜査が入り、会社に有罪判決が出て、社長が引責辞任しています。過労とパワハラです。電通は、実は1991年にも同様の事件を起こしていますが、なかなか改善しなかったということです。事件後のことですが、電通にも組合がありますが、その組合から、管理職の登用試験にワークルール検定を導入したいので協力してほしいという話があり、協力をしました。ところがその翌年には、予算をとっていないので止めたいということで、本当に反省しているのか危惧を抱きました。大企業や優良企業といわれる会社でさえ、そういうことが起こりうるということを、みなさんぜひ覚えておいていただければと思います。
仮に自分の働く職場がそうした状況であったのなら、働く気概あるいは生きがいさえ失いかねないということです。こういった違反やおかしなことがないかということをチェックするのも労働組合の大切な役割です。人の命が仕事で奪われることは不合理、不条理な話です。労働組合が一番大切にしているのは労働安全衛生です。春闘に比べると地味かもしれませんが、一丁目一番地の大事な仕事です。
黒部ダムや佐久間ダムの建設現場では、ヘルメットも墜落防止のための安全ベルトも着用せずに作業をしていました。これは働かせる側も働く側もそうした意識がなかった。ダム建設では大勢の人が亡くなっています。また、港湾労働者などの他の産業も似たり寄ったりの状況がありました。かつて、私の父親は電源開発という会社に在籍しており、佐久間ダムの建設にも関わっていました。当時、佐久間ダムを建設していた浜松市佐久間町には、全国から労働者が集まってきて非常ににぎわっていたそうですが、一方で喧嘩も絶えない世相の中、なかなか安全意識もなかったということです。あまりに死者が出るので国会でも問題になりました。現場監督が指導しても作業員は全く指示に従わないということでしたが、結局、佐久間ダムの時に初めて大型機械を使って建設をし始めますが、その技術指導に来たアメリカのアトキンソンという建設会社の社員に指導をお願いしたことで、ようやくヘルメットを着用してもらったそうです。
黒部ダムもそうです。映画にもなっていますので皆さんご覧になっているかもしれません。「黒部には怪我はない」と言われました。どういった意味かというと、怪我では済まないということです。みんな死んでしまう。現在からすれば相当無茶苦茶な時代があった。これではいけないということで、会社側も働く側も労働組合もそして行政も一体となって取り組み、労働安全衛生を改善するようになってきた。その結果、労災による死者数は減少してきているということです。その取り組みの中心として、中央労働災害防止協会(通称:中災防)をつくり、法律も整備して取り組んでいる。しかし、まだ過労死も100名前後で推移しており、それを含めて年間約1,000人もの方々が労働災害で亡くなっている。労働組合としてはこの数字がゼロになるまで取り組んでいかなければならないということです。
鉄鋼や造船の会社の労働組合で作る基幹労連という産業別組織があります。そこに電話すると、電話を取った人は最初に「ご安全に。基幹労連です。」と応えます。必ず「ご安全に」と言います。それだけ安全が大事だということで、労働組合は働く人たち、組合員に、安全に通勤をしてもらい安全に働いてもらい、夕方になれば無事に家、家族のもとに帰ってもらう、こうしたことに最大限の意を払うのが労働組合です。もちろん連合にも職員の労働組合があり、安全衛生委員会といって一定規模の事業所には設置しなくてはならない委員会があり、そこで月に1回意見交換をして改善をはかっていますし、連合本部の中にも安全衛生委員会はあります。
もちろん賃金・労働条件も大事!
もちろん賃金労働条件、各種手当、福利厚生も大事です。こうしたものについて会社側と交渉し、向上させていくということも非常に大事な仕事です。賃上げ交渉を一斉に始める取り組みは春季生活闘争と言って、そういった仕組みがあり、この点については今後の講義の中で詳しく話があると思います。その他に職場の要員が替わる、あるいは職場のレイアウトが変わるなどといった時も必ず労働組合がそうした変更は働き方に影響がないか、安全性はどうかといったチェックをしながら会社と交渉の上、合意をして組合員の皆さんに仕事を進めていただくということもやっています。
低い組織率と世間相場の形成
しかし、実態は雇用労働者約6,000万人のうち労働組合に加入している人は17%しかいません。5人に一人もいないという状況です。連合は幸いなことに、徐々にではありますが組合員を増やしてきています。ただ、雇用労働者数を考えれば、本当にまだまだです。しかし、社会の仕組みとして個別の企業が交渉して勝ち得た労働条件あるいは賃上げは、いわゆる世間相場になっていきます。世間相場になれば、労働組合のない企業であっても、そうした水準まで引き上げないといけないと考えます。また、公務員は民間の状況を見ながら人事院勧告を出し、それによって労働条件を改善していきます。このように繋がっていく、17%とはいえ他の組合のない企業にも影響を与えている。企業は利益を出すためにコストを絞りたい。つまり、安くかつ長く働いてくれた方がいいに決まっていますが、それで賃金を削減すれば、優秀な人はもとより人が来ない。そういった仕組みになっていることを頭の隅に置いておいていただければと思います。
労働組合の有無で最も大きな違いは?
労働組合の活動は、基本的には憲法の条文が基礎となり法律が作られ、その法律によって守られています。憲法では、労働基本権が規定されています。勤労の権利と労働三権です。労働三権とは、労働組合をつくる権利、それから労働組合が経営者と話し合う権利、そして労働組合がストライキなどを起こす権利です。また、労働基本権は基本的人権のうちの社会権のひとつであるといわれています。労働組合は労働組合法によって保護されています。例えば、ストライキをして会社に損害を与えた場合、普通であれば、営業妨害等で訴えられます。しかし、きちんとした組合が、適正な手続きに基づき、交渉が上手くいかなかった時にストライキをする場合には、刑事免責、民事免責となります。つまり、ストライキの結果、会社に損害が生じても、組合は賠償に応じる責任はないということです。
そして、労働法は労働三法だけではなく、様々な法律の総称であるということだけ知っていただければと思います。労働契約法、労働安全衛生法、最低賃金法など様々あることだけ覚えておいていただければと思います。
労働基準法は強行法規と言われており、守らないと罰せられる法律です。つまり、働く側である労働者と会社側が合意しましたといっても関係なく、この法律に従いなさいという強い法律です。そして労働基準法の遵守状況を監督するために労働基準監督署があり、そこに労働基準監督官という強い権限を与えられた人たちがいます。逮捕権、拘留権も持っています。どこを監督するかといえば会社、事業所です。しかし、全国に会社は400万社以上あると言われています。事業所数では500万社以上です。それに対し、全国で労働基準監督官が何人いるかというと約3,000人しかいません。ですから、たまに大手の優良企業が法律違反として摘発されたりします。ある意味、見せしめの効果を狙っているのだと思います。全ての会社を見るには30年くらいかかるそうで、頼りがいはありますが、全部それにお任せしていていいのかということです。
そういうことから、労働基準法第1条では、労働基準法は労働条件の基準を定める最低のものであるから労働関係の当事者、つまり会社と労使は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならない、そして向上をはかるように努めなければならないとあります。そして第2条では、労働者と使用者が対等の立場において労働条件は決定すべきだとある。つまり労使関係がないと、法律に書いてあることが担保できないという話になっているということです。ですから、労働組合は法律に定められたもの以上の労働条件を獲得でき、それをルールとして持てる、労働協約を結べるということです。労働協約は就業規則や労働契約よりも強い効力があり、そのために労働組合は必要だということです。中には従業員会や従業員組合という名前のものもありますが、これは労働組合法の保護は一切受けられません。
以上、ほかにもお話したいことはありますが、時間ですので、これで私のお話は締めさせていただきます。今後の講義にご期待下さい。ありがとうございました。