埼玉大学「連合寄付講座」

2018年度第4ターム「働くということと労働組合」講義要録

第10回(1/9)

地域で雇用と生活を守る

連合埼玉事務局長 佐藤 道明

はじめに

 皆さんこんにちは。ご紹介いただきました連合埼玉事務局長の佐藤です。「地域で雇用と生活を守る」というテーマで、連合埼玉の活動について紹介します。
 本日の内容ですが、大きく5点ございます。まずは、「労働組合における就業支援活動」について紹介します。2つ目に「安心して働くために」ということで、労働基準法などについて触れたいと思います。そして3つ目に、皆さんの中にも奨学金を借りている方もいらっしゃると思いますが、私たち連合も奨学金に対する取り組みを行っていますので、そのことについて紹介します。4つ目にブラックバイト。皆さんの中にもバイトをしている方は多くいると思いますが、「ブラックバイトのパターン」についても紹介したいと思います。そして最後に「地域・NPOとの関わり」ということで、私たちが地域で取り組んでいる活動について、NPOとの関係を含めて紹介します。

労働組合における就業支援活動

 私たちは日常的に様々な活動をしていますが、まずは、私たちが若い方に対してどのような活動をしているか紹介します。その活動の1つが既卒3年以内の方を対象にした就職面接会です。2018年6月8日に実施しました。これは連合埼玉単独ではなく、厚生労働省埼玉労働局と共催で行っている事業です。2010年に「雇用対策法に基づく青少年雇用機会確保指針」が改正され、事業主が取り組むべき措置として、学校等を卒業後3年間は新卒として応募できるようにすることが盛り込まれました。つまり、2010年の改正がされるまでは、新卒の方は様々な事情により就職ができず、その後ハローワークに仕事を探しに行くという時には、卒業した年の6月までは新卒扱いですが、7月になると新卒扱いとはされなかったのです。ですから、7月以降は社会人経験を有する方々と同じように取り扱われていたのですが、2010年に法律が変わり、学校を出てから3年間は新卒と同じ扱いをしなさいということに変わりました。
 連合埼玉としてもこうした指針見直しを受け、埼玉労働局と調整をしながら、若い方たちが少しでも早く就職できるようにということで、この取り組みを始めました。2010年という時期を考えますと、2008年にリーマンショックがあり、以降、派遣切りなど様々な雇用問題が発生しました。当然のことながら新卒者についても、やはり雇用情勢が非常に厳しい状況になりました。こうしたことから、国として2010年にこのような施策を取ったということです。私たち連合としては、単純に労働局と開催するということではなく、できれば連合の加盟組合がある企業に入社して欲しいと思い、連合埼玉から連合埼玉加盟組織に対して、当該企業から一人でもいいから求人を出してほしいということを求めて、2010年の見直し以降、つまり2011年から取り組みを続けています。

 参加企業数が最も多い時でも2013年の114社となりますが、これは会場のスペース上、100社程度までが限界であるためです。最近では、参加企業は90社ぐらいという状況です。求人数は、参加企業から出された求人数です。参加者は仕事を求めて来られている方です。直近の3年間を見ると、ここのところ参加人数が減っています。今は全国平均の有効求人倍率も1倍を超え、埼玉県で1.50倍(2019年1月現在)ですから、仕事に就けるチャンスが非常に高くはなっており、人数は減っていますが、それでもまだ新卒の時に仕事に就けなかったという方達がいるということです。採用者のところを見ていただくと、2011年から2018年までの取り組みによって、合計169名が仕事に就くことができました。括弧内は、連合埼玉からお願いをした企業が採用した人数です。参加企業欄の括弧内は、連合埼玉からお願いをして、連合埼玉の加盟組合がある企業で、面接会に参加をしていただいた企業数ですが、これまでの間で計25人を私たちの仲間にすることができました。169名中の25名ですから、比率で見れば決して多くはないのかもしれませんが、時期を見ていただくと、2016年は採用者15名中、連合埼玉の加盟組合のある企業だけで5名を採用していただきました。ただ、残念ながら2017年は1人も採用できませんでした。このような取り組みは引き続き実施をしていきたいと思っています。
 既卒3年以内といっても、様々な事情があるのだと思います。実際に私も面接会に参加をさせて頂き、来場された方達に直接話を聞いたりもしました。例えば新卒で就職したが、ミスマッチ。自分が思っていたのと違うと感じてやめた方もいました。それから過重労働。まさにブラック職場という状況だったのかもしれませんが、長時間労働、休日を含めて休みが取れない、有給休暇は「もっての外」というような状況の中で働き、体を壊し、これ以上働くのは無理だということで、退職された方もいらっしゃる。また、新卒の時に就職活動をあまり真剣にしなかった方もいたようです。高校卒業後、無理して就職活動しなくてもと思い、最初はアルバイトをしていたようです。しかし、途中で「やはりこれではいけない」ということで面接会に参加したという女性の方がいらっしゃいました。そして、真剣に取り組んできたが、未だに就職に結びつくことができないという方達もいます。最初の3年間続けて会場で同じ方を見かけましたが、やはりなかなか難しいのです。ただ、私が感じたのは、「事前に面接会に参加する企業の情報等を下調べしてきたのか」と思いましたし、実際に面接をする企業側として来られた方達にもお聞きをしましたが「来場者にどうもエネルギーを感じない」とおっしゃっていました。そして、2018年6月8日に実施した面接会で、参加企業86社に労働局がアンケートを取った結果がございますが、これは参考にしていただければと思います。

 まずは「新卒者の採用にあたって重視すること」。「人柄・人間性」と回答した企業が44社。「コミュニケーション能力」が必要と回答した企業が43社。そして「協調性」と回答した企業が29社です。2つ目の問いでは、「書類選考で不採用とする着眼点」ですが、まずは「書類に空欄が多い」と回答した企業が44社。「字が汚い・誤字脱字・訂正の跡がある」と回答した企業が43社。また、写真に関して「服装」や「貼り忘れ」というものが書類選考での着眼点としているという企業が29社です。3つ目の問いが「面接試験で不採用とする着眼点」です。「やる気・意欲が感じられない」44社。そして「挨拶ができない」43社。「礼儀・マナー・態度」と回答した企業が29社です。私が特に大事だと思うのは「礼儀・マナー・態度」です。例えば、面接の時に椅子に座りますが、ベタッと背もたれに背中が着くのは良くないです。普通は背中と背もたれの間を少し開け、手を膝におく。面接している企業の担当者の方の顔を見ながら、場合によっては話に対してしっかりと頷く、あるいは返事をするという事が基本だと思います。労働局にお聞きをしたところ、高校生はこうしたことがしっかりとできるそうです。高校では、先生方がしっかりと教えるようです。大学ではそこまでは教えないというのもあるそうです。皆さん方はそうではないと思いますが、そういったことを私も感じました。参加された方の中には、間違いなく30歳ぐらいであろうという方がいましたが、面接の際に、机の上で前のめりに乗り出していました。面接後に、対応された企業の方に「今の方はどうですか」と聞きましたが、「あのように乗り出していては、まずやる気を感じるとは思いません」とのことでした。やはり姿勢正しくということだと思います。この話を聞いて、多分皆さんは「そんな事は当たり前だ」と感じていると思いますが、実際にそうしたことができない方がいるということも事実です。改めて皆さんもこのことを意識していただければと思います。
 次に、東日本大震災の県内避難者に対する支援についてお話します。2011年に発生した3.11の東日本大震災。それに合わせて福島第一原子力発電所の事故によって、福島県の多くの皆さんが埼玉県に避難されてきました。現在も埼玉県に約4,000名の方が避難されています。ただ、避難というよりは、長期間埼玉県にお住まいになっており、今後は避難者という扱いではなく、きちんと地域の中で暮らしていけるよう支援していくことが必要なのだと思っています。いずれにしても、当時、様々な支援活動をさせていただきました。物資の提供もしました。埼玉県であれば、加須市にある廃校となった騎西高校に、福島県双葉町の方たちが町ごとそっくり移ってきました。これは全国的にニュース等でも報じられ有名になりましたから、様々な支援物資、それからボランティアの皆さんも毎日のように来られました。私たちとしてもそこへの支援ももちろんしましたが、そこ以外にも埼玉県には約10ヵ所、人数は50人から場合によっては2、3人の一家族で避難されている地域の施設もありましたが、そういったところも廻りました。直接、避難されている方達に「今、何が必要ですか」とお話を聞き、必要な物資を提供しました。冬に震災があり、その後避難されてきたため、服は冬物です。私たちが伺ったのが5月ぐらいでした。最初に伺ったのが熊谷の廃校となった女子校の体育館でしたが、暑いのです。避難された方に最初に言われたのは「夏物の服が欲しい」ということでした。全ての避難所で夏物の用意をさせていただきましたが、高いものは買えず、数は一人当たり上下3点ぐらいを提供させていただきました。埼玉県には有名なファッションブランド「しまむら」がありますから、しまむらで、一遍に10万円以上の買い物をしました。これは大変な点数で、レジが30分ぐらい私達の買い物だけで止まりましたし、申し訳ないので私は隣でお店の方を手伝いました。避難されている方に必要なものをお聞きしたその日または翌日に、必ずその品物を届けました。何日か間が空くと、「何だったのだろう」と不審に思われるかもしれず、また必要なものですからすぐにお届けしました。なおかつそのお金は、連合埼玉の通常の資金ではなく、組合員の皆さんからのカンパなどを活用させていただきました。
 そして、1年が経過した時に避難者を支援している議員がいたので、その方に「1年が経ち、これからどういった支援をしたらよいか」ということを聞いたところ、「確かに避難者の皆さん達はまだまだ物資が足りないので、支援物資を提供していただくことはありがたい。しかし避難者は決して『ものもらい』ではありません。今、本当に避難者の皆さんに必要なのは仕事です。雇用です」というお話をその議員からいただきました。さすがに連合埼玉で採用するのは難しいですが、何か労働の場を提供することができないのかということで、ホームヘルパー2級の養成講座の実施につながります。この講座を連合埼玉で開催し、避難者の方に受講いただき、資格を取っていただこうと考えました。今もそうですが、介護現場で働く方達は非常に不足しており、まず手に職を持つことができ、さらに就職に結びつく。なおかつ埼玉県で資格を取得したとしても、福島に戻って資格を活用することもできるということで、この講座を実施しました。この取り組みのための資金は先ほどのカンパだけではありません。埼玉県には狭山茶という有名なお茶があります。所沢・狭山・入間などが中心的な栽培地ですが、実はその狭山茶に放射性物質であるセシウムが検出されてしまいました。その前段で、たまたま狭山茶の農業協同組合の方と繋がるきっかけがあり、「狭山茶を活用して震災復興の一環として避難者の方への支援ができないか」というご相談を頂いていたのですが、いざその取り組みを始めようと思った時にセシウムが出てしまい、最終的には埼玉県が全部検査をし、セシウムが出ないことを確認してから、この活動を始めました。狭山茶を連合埼玉で販売し、その売り上げの30%をお茶屋さんから私たちに寄付頂き、そのお金で先ほどの取り組みをしました。実際に、連合埼玉組合員の皆さんや、関係する企業、また近隣の地方連合会にもご協力をいただき、狭山茶を1,000万円販売しました。そして、その3割となる300万円を使い、ヘルパー養成講座を実施しました。その際、当然私たち自身がヘルパー養成講座はできないので、これもまたお付き合いのある介護施設の社長に協力を依頼しました。なおかつ、この社長が「養成講座を修了した方で、希望する方は全員自分の介護施設で採用します」といってくれたのです。ただ、残念ながら、どなたも希望されなかった。これはその介護施設に問題があったということではなく、例えばご家族で介護が必要な方がいらした、あるいは福島に戻るという方もいらしたことから、この企業で働く方はいなかったのです。ただ、杉戸町に避難された方は、近所の住民の皆さんたちからの支援への恩返しをするため、ヘルパー養成講座を受けた方達が5人ぐらいで、杉戸町に障害を持っている子どもたちのデイケアサービスの施設を作り、スタートをさせました。

安心して働くために

 次にテーマの2つ目「安心して働くために」というお話をします。労働基準法の話です。労働基準法は1947年に出来ました。もう70年以上が経っています。皆さんも昨年、ニュース等で国会の動きの中で「働き方改革」という言葉を耳にしていると思います。2018年に「働き方改革関連法」が成立し、長時間労働の是正や、有給休暇を企業が指定して取得させる、また同一労働同一賃金などといったことが決められましたが、久しぶりに労働基準法が改正されました。労働基準法については、おそらく皆さんも今まで中学校や高校の授業の中で学んできたと思います。もしかすると、労働三法を書きなさいという問題がテストに出たかもしれません。では、その1つの労働基準法とはどういうものなのか、また労働組合法や労働関係調整法がどういうものかというところまで深く学んではいないと思います。労働基準法について簡単にいうと、この法律で定める労働条件を下回る働き方はしてはいけないし、させてはいけないという法律です。また、法律を上回る働き方は、企業と労働組合との間、経営者と労働者の間で決めることができる。労使の中で労働基準法以上の働き方を定めていくことは自由です。この労働基準法の第1条、労働条件の原則では「労働者が人たるに値する生活を営むために」という事がポイントの1つです。また「労働関係の当事者」これは企業だけではありません。さらに「その向上を図るように努めなければならない」労働条件を低下させてはならない、向上させなきゃいけないということです。労働関係の当事者は、企業だけではなく、働く人もいます。つまり、労使がいます。第2条に労働条件の決定が定められています。労働条件は労働者と使用者が対等の立場において決定すべきものですから、会社が一方的に決めるものではない。会社と労働者が一緒に決めていくわけですから、それを企業だけが守るのではなく、労働者もしっかりと守らなくてはならないという責務が双方にあるということです。誠実に各々が義務を履行しなければいけないということが、きちんと法律に書かれています。
 労働基準法を詳しくお話すると、何時間もかかりますので、本日お配りした連合埼玉が毎年作成している労働ハンドブックに書いてあることを最低限覚えておいてください。労働契約や就業規則、また雇用保険、最低賃金、時間外の割増賃金などが書いてあります。パート労働者は有給休暇が取れないと思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、労働時間や一週間の勤務日数に応じ、有給休暇は取れます。当然、パート労働者でも割増賃金はあります。労働基準法を全部覚えることは大変ですから、まずこの部分だけでも是非目を通していただきたいと思いますし、アルバイトをされている方については、鞄の中にでも入れておいて、いつでも見られるようにしておいていただくといいと思います。ぜひ後でお読みいただきたいと思います。
 次に、最低賃金の話をさせていただきます。最低賃金法の第1条、目的の条文に「この法律は賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」と書いてあります。この法律では、人が人たるに値する生活、そこは日本国憲法でも定められ、保障されていますが、「これ以下の賃金で働かせてはならない、働いてはいけない」という法律なのです。ただし、最低賃金は47都道府県それぞれで決めます。ですから、埼玉県の最低賃金は、埼玉で決めます。ただし、最低賃金法の第10条に「厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、一定の地域ごとに中央最低賃金審議会又は地方最低賃金審議会の調査審議を求め、その意見を聞いて地域別最低賃金の決定をしなければならない」とあります。この中央最低賃金審議会に対して、厚生労働大臣が諮問します。この審議会の中で、全国をA、B、C、Dという4つのランクに分けます。埼玉県はAランクです。そして、「Aランクであれば、今年は何円あげましょう」、「Bランクであれば、何円あげましょう」という目安を中央最低賃金審議会で決めます。それを参考としながら地方最低賃金審議会に対して、埼玉県で言えば埼玉労働局長から諮問がされ、そこで埼玉県の最低賃金を決めていくということです。ただし、勝手に決めるわけにはいきません。最低賃金法の第9条にもあるように、「労働者の生計費及び賃金並びに、通常の事業の賃金支払い能力」、例えば埼玉県で生活をしていく上で、必要な生計費や賃金、通常の事業の賃金支払い、つまり埼玉県の企業が普通に支払うことのできる賃金といったものを基礎に定めないといけない。高額な賃金にすれば、企業が倒産してしまうこともあります。そうしたところも加味しながら最低賃金を決めています。どういった仕組みで決めているかというと、経営者を代表する方が5人、労働者を代表する方が5人、それから大学教授などの公益の方が5人、計15人で審議をします。そして、労働側の5人は全て連合埼玉の役員がその任に就いています。こうしたメンバーで毎年、最低賃金を決めています。よって、東京都と埼玉県の最低賃金は違いますし、神奈川県と埼玉県も違うということです。今、説明したものは「地域別最低賃金」といい、埼玉県で言えば埼玉県の地域別最低賃金が、基本的には県内で働く全ての方に適用されます。パートタイマーやアルバイト、臨時や嘱託社員といった雇用形態は関係ありません。

 配布資料には関東各都県の最低賃金を掲載しております。埼玉県の最低賃金は2018年10月1日から898円になりました。前年よりも27円上がっています。ですので、今、898円未満の時給で働いているとすれば最低賃金法違反になりますので、見直さなくてはならないということになってきます。全国で一番額が高いのは東京都です。985円です。全国平均が874円です。全国で一番額が低い県は鹿児島県で761円です。2018年の改定前までは、鹿児島や沖縄など九州の辺りの県が横並びだったのですが、2018年改定により鹿児島だけがワーストとなってしまった。ただし最低賃金額自体は上がっており、上がり幅が少なかったということです。配布資料にある引き上げ額を見てください。東京・神奈川・埼玉・千葉は27円です。栃木・茨城・群馬は26円です。これは東京・神奈川・埼玉・千葉は先ほどお話ししたランクでいうと、一番高いAランクです。そして、これも先ほど、中央審議会で目安を作っていると説明しましたが、2018年はAランクの目安が27円でしたので、埼玉県の中でも議論して、「27円上げることが妥当である」ということで、27円アップしたということです。では、次に栃木と茨城ですが、この2県はBランクです。Bランクは目安が26円だったのです。じゃあ群馬はどうかというと、群馬はCランクで、Cランクの目安は25円だったと思いますが、ちょっと頑張って目安を上回ったということです。こうしたことで26円という状況です。各都道府県によって最低賃金は違うということを知っておいて下さい。
 もう1つ、「特定最低賃金」というものがあります。これも埼玉県の中である一定の業種、非鉄金属製造業や電気機械器具製造業や自動車小売業など、特定の業種に対して地域別最低賃金よりもさらに高い金額を最低賃金として設定しているということです。これも私どもの代表が審議会の中で議論をして決めているということです。おそらく皆さんの働いているアルバイト等は特定最賃に関わることはないと思いますので、先ほどの地域別最低賃金の時給を必ず覚えておいていただきたいと思います。

若者を苦しめる奨学金問題の解決を!

 次に、「若者を苦しめる奨学金問題の解決を!」ということで、お話をさせていただきます。これは、実際には連合というよりは、連合と一緒に活動をしている労働者福祉協議会が中心となって取り組んでいますが、連合もともに署名活動を行いました。署名活動は全国で約304万筆を集めました。これにより一昨年、法律が変わりました。今までの日本の大学生の奨学金は、簡単に言うと教育ローンです。借りたら返さないといけませんから。しかし、諸外国の奨学金は、実はほとんどが給付です。返済しなくていいということです。それが、2017年3月31日に法律が変わり、日本学生支援機構の目的と業務に学資の支給、つまり給付型奨学金が追加されました。今までは給付型の奨学金がなかった為、返済義務がありましたが、今回の法改正により、一部ですが、返済の必要のない新たな奨学金制度ができたということです。2018年4月から、住民税非課税世帯のうち、1学年2万人を対象に月額2万円から4万円が支給されることになりました。2017年度は約2,800人を対象に先行実施しましたが、まだまだ少ないです。実は、学校では1校に1人あるいは2人という話になってしまい、その1人ないし2人をどうやって選ぶのかということになることから、実際は、なかなか使いづらい制度になってしまっています。法律の施行から5年後に見直すとの付帯決議がついており、2022年に見直しがあるのだと思います。前進はしましたが、まだまだ課題があるということです。配布資料には「増加する奨学金利用者」とありますが、学生の2人に1人は奨学金を借りています。そして貸与なのに奨学金と先ほど話をしました。こうした中、高卒求人数は激減していて、「奨学金を借りて返せないのなら、大学に行かなきゃいいじゃないか」という声もあります。高校を卒業して就職すれば良いという方もおられますが、「では、今、高卒の求人ってどれだけあるのですか」という話です。少し数字を申し上げます。昭和60年から平成29年までの間、3月卒業の求人数を見ると、この間で一番求人数が多かったのは平成4年。数字にして約167万3,000人。一方で、一番低いところは、平成23年3月卒で約19万6,600人。1/10とまでは言わないものの、求人数が激減している状況です。よって高校を卒業して働きたいと思っても、働く場所がないのが現実で、結果として大学に進学し、自分のレベルを上げて社会に出るということを選択せざるを得ないという状況です。また奨学金の関係では、借りざるを得ない理由の1つが、親の収入が減っているということです。親に負担をかけたくないということも含め、奨学金を借りざるを得ないということです。返したくても返せないという状況もあります。奨学金を借りた場合、大学卒業時に、平均300万円以上の返済金を持って社会に出ます。まだ、正規の社員として働いているのであればいいのですが、パートや嘱託採用、派遣などの雇用形態で、しかも300万円以上の借金を背負った状況で社会に出なければいけないというのが今の日本社会です。実際に、借りている方の平均返済期間は約14年。月平均の返済金額は約1万7,000円です。月に1万7,000円をすでに払わないといけない状況の中、現在の学卒初任給は、20~21万円ぐらいですかね。20万円行くか行かないという企業もありますが。そのような金額から、税金が引かれ、住居代があり、食費、生活費を支払い、それら以外に奨学金の1万7,000円も払わなきゃいけないという状況ですから、実際には、滞納する方たちも出てきています。滞納が続けば、保証人である親に請求がなされるという事態も出てくる訳です。しかし、「じゃあ借りなきゃいい」ということにはならない。やはり給付型奨学金制度がさらに広がり、無理のない返済制度になるよう、私たちとしても引き続き取り組みをしているという状況です。

ブラックバイトのパターン

 次に「ブラックバイトのパターン」ということで、皆さんのバイト先は大丈夫かお聞きをしたいと思います。差し支えなければアルバイトしている方は、手をあげてください。結構いらっしゃいますね、ありがとうございます。その中で自分の働いているアルバイト先がブラックかなと思う方、手をあげてみてください。小さく手をあげた方がいらっしゃいましたね。ありがとうございます。ブラックバイトにはいくつかパターンがあります。職場への過重な組み込み、緊急の呼び出し、また長時間労働・深夜勤務、シフトの強要、複数店舗・遠距離へのヘルプ、責任感で辞めさせない、ノルマ・罰金、商品の自腹購入。
 緊急の呼び出し、皆さんどうでしょうか。夜中に「明日入ってくれないか」とか。当日に「深夜の勤務に入ってくれないか」とか。「本来シフトで入っていた人が体調を崩し、シフトが組めなくなったので入ってもらえないか」とか。昼間の勤務だったけど交替時に次の人が来ないので引き続きの出勤を依頼され、応じてしまうという話になってしまうのです。しかし、場合によってはシフトを組めるだけの人数が元々おらず、シフトを組まず、引き続き勤務してもらうことを前提としているようなブラックバイトが過去にはあったと思います。また、長時間労働もそうですし、特に責任感で辞めさせない。辞めたいと言っても、「もし君が今辞めたら、アルバイトをしている他の仲間はどうなるの?君の分、他の人たちに負担がかかるのだよ」とプレッシャーをかけるのです。責任を追及することで、結局、辞められないということもあります。商品の自腹購入。季節的には終わりましたが、例えばクリスマスシーズンのケーキ販売です。そのケーキにもノルマがあり、売れ残れば自分で買わなくてはいけない。そういうことが実際にはあるのだと思います。最大限安く働かせる。最低賃金ギリギリで上がらない賃金、さっきの最低賃金、最低賃金を下回っていれば違反で当然いけませんが、最低賃金ちょうどの金額は当然OKです、法律上は。つまり、2018年に埼玉県の最低賃金が27円上がったので、それに応じて27円上げていれば問題ないということにもなります。しかし、皆さんは京浜東北線なりで赤羽まで行けば、時給がグッと上がります。交通費も支給される場合であれば、電車に乗って赤羽まで行くということもありなのかもしれませんが。こういった最低賃金ギリギリ、あるいは働いているのに給料を支払ってもらえない、サービス残業、仕事の道具の自腹購入、不十分な研修、そのような中での即戦力化といったこともあります。私が読んだ本では、不十分な研修で即戦力化という事例が載っていました。ある牛丼チェーン店にアルバイトとして採用されたばかりの方が、かつては深夜でも一人でお店に出勤するということがあったのです。今はおそらく複数名で対応していると思いますが、その書籍では、1人、ましてや勤めて間もない、どのように牛丼を作ったら良いかもわからない、マニュアルがない。何を見て牛丼を作ったかというと、スマホで牛丼の作り方を検索して作ったとありました。このような研修不十分といったこともあるそうです。職場の論理に従属させる、従属的支配。パワハラ・暴力です。不当な内容の労働契約書による支配。たとえ契約書にどんなに様々な事が書いてあったとしても、また、皆さんが判子を押したとしても、法律に認められないような中身は全てに無効になります。判子が押してあっても無効になりますから、まずは判子を押す前に確認することが大切ですが、無効になるということを覚えておいてください。しかし、おそらくそういったことをアルバイトではなかなか知らず、さらに「君は判子を押したじゃないか」と必ず向こうは言ってくる。それにより辞めさせないということもあります。そして、いざ辞める時には「君が辞めることにより、お店にこれだけの損害が出るから、損害賠償違約金を」といった金銭の請求がされると。しかしながら、こうした損害が当然にあるわけがないのです。
 今、申し上げたようなブラックバイト、現在はここまでのことはないと思います。ここまでやっていたら、アルバイトの募集に人が集まらないと思います。ここでもう一度聞きます。ここまでの話を聞いて、やはり自分のアルバイト先はブラックかなと思う方、手を上げてください。小さくてもいいです。はい、ありがとうございます。2017年の講義でも同じ質問をしました。今、もしかしたら小さく手をあげた方がいらしたかもしれませんが、はっきりと手をあげた方はいなかったです。2017年はかなり手が上がりました。一年間でこんなにブラックバイトがなくなったのかなと安心をした面もありますが、実際には、まだアルバイト先がブラックのところという方も、この中にはいましたから、おかしいなと思ったら労働相談ダイヤルへご連絡をいただければと思います。皆さんがお勤めになっている勤務先やアルバイト先がブラックでなかったことが一番良いことであり、皆さんは今いいところにお勤めなのだということで安心したところです。

地域・NPOとの関わり

 最後になりますが、地域・NPOとの関わりについて触れさせていただきます。私どもは「ネットワークSAITAMA21運動」という、「出会い・つながり・支え合い」をキーワードにした運動を進めています。財源は連合の財源とは全く別で、共生の地域社会づくりへの積極的参画、勤労者の障害サポート活動、そして市民社会との連帯と共同。こうしたことをめざす運動として取り組みを行っています。
 まず、共生の地域社会づくりへの積極的参画という部分では、少子高齢社会により、ますます地域の大切さが求められています。特に、埼玉県は、今は非常に若い県です。ところが若い県ということは、今後急速に高齢社会が進んでいくということです。ですので、埼玉県では重点課題として検討し、対策を講じているということです。私どもが関係する審議会ではこうした議論をしています。地域では今言ったように、少子高齢社会における子育ての問題、介護の問題など地域で解決しなければいけないことが沢山あります。介護や子育てなど多くのものは、市町村などの地方行政の話です。国が政策や法律を決めますが、それに則り実施をするのは市町村です。ですから、私たちは、もっと地域との関わりを強く持たなくてはならないということで、この運動を積極的に進めていこうとしています。
 2つ目、勤労者の生涯サポート活動です。現在、日本は長寿国で、最新の日本人の平均寿命は、男性が81.09歳、女性が87.26歳。女性の方が圧倒的に長生きだということですが、これは生きている年数ということです。最も大切なことは健康でいられる期間はいつまでかということです。今、健康寿命という言葉も言われていますが、男性であれば平均寿命の81歳より10歳くらい低かったと思います。つまり、70歳を超えると、身体に病気を持つようになったり、75歳を超えれば、医者にかかったり、介護が必要になったりすると思います。一方で、「人生100年時代」とも言われていますが、実際に90歳を超え、さらに100歳を超えるまで長生きをされる方もいらっしゃいます。そういった中で健康もですが、どのようにして生き甲斐、場合によっては働きがいを持って生活を送るかということも考えなければならない。やり甲斐という意味では、市民活動やボランティアであったり、そういったことを支援する取り組みをしなくてはいけないなと思います。平成29年に県が「県政サポーターアンケート」というものを実施した中で、3人に1人が60歳以降を見据えた準備を「何もしていない」と回答しました。「何もしていない」が37.2%、「健康体力づくり」が37.1%、「知識技能の習得」が25.8%。皆さんには60歳以降を見据えた準備はまだまだ必要ないですが、ただ1つ言っておきます。これから社会に出て、将来に向けて貯蓄はしてください。年金は制度を理解して保険料を払っていただきたいと思いますが、自分できちんと自分を守っていくということも必要なので、貯蓄もしっかりとしていくということは、お願いをしておきたいと思います。

 それともう1つ、市民社会との連帯と協働ということで、私たちは労働組合ですが、先ほど話に出てきました奨学金問題の取り組みをしている労働者福祉協議会、労働者のための金融機関である労働金庫、そして労働者のために作った保険を取り扱う全労済、さらに生協。私たち労働組合も含め、これらの団体は働く仲間の集まりです。そして、この団体は助け合い、支え合いを原点に組織されています。こうした機能を十分に活かしながら、市民社会との連帯や協働を進めていこうということです。では、具体的にはどのようなことをやっているかということですが、1つは勤労者の生活と暮らしに役立つ「くらし応援セミナー」という出前講座を実施しています。私たち労働組合は、どちらかというと1ヵ所に人を集めて研修会を行います。例えば、浦和に集める、あるいは大宮に集めるなど。なおかつ平日の日中に行います。平日の日中に参加できる組合の役員は、私たちと同じように組合の仕事だけをやっている人にどうしても限られてしまいます。日中に会社で仕事をしている役員の方は、場合によっては休暇を取得して参加しなくてはいけない。しかし、同じ労働組合の役員ですから、同じように知らなくてはいけないことは知っていただかないといけない。そのためにも場所と時間を決めて、そこに人をちゃんと集めていただければ、講師を派遣しますということをやっています。講師料と講師の交通費は、ネット21運動が負担しています。2017年には、この取り組みとして23のセミナーを開催し、679人の方に参加いただきました。どのようなセミナーを開催しているかというと、相続・年金・資産運用・生命保険・カードローン・ふるさと納税・更年期障害・介護・認知症・育児・貧困・メンタルヘルス・話し方・コミュニケーションスキル・食事による健康増進・リラクゼーションストレッチ・セルフリンパドレナージュ・リンパマッサージということで、全く労働組合の活動とは関係のないことも含め、「実は学びたい」ということに関して講師を派遣しています。
 生活困窮者支援もこのプログラムの中にあります。生活困窮者等への支援に取り組んでいる団体やNPOと連携し、必要な支援を行っています。具体的にはフードバンク。生活の苦しい方たちがいます。その方たちに、皆さんからお預かりした食材を提供していくという運動ですが、この運動にも実は連合埼玉が関わっています。また、最近よく聞く「子ども食堂」。こういったところの支援も、この中で実施しています。
 また、ボランティアサポートプログラムというものがあります。これはボランティア活動をやりたいという人と、ボランティア活動をしてもらいたいNPOをマッチングさせるという運動です。また、親子を中心に尾瀬などの自然を体験してもらい、自然の大切さを学んでいただくための事業も行なっています。
 そしてNPOへの支援ということでは、2007年度から毎年パソコンを10台、10のNPOや市民団体に提供してきました。昨年までで121台のパソコンを寄贈しました。つまり、 120のNPO・市民団体と繋がりを持ってきたということです。それ以外にも、少額物品が急に壊れたが、NPOはお金がない団体が多く、買い換えたくてもできない。しかし必要なもの。そういう団体に対して4万円を上限として寄付もしています。それ以外にも、NPOの活動を理解しようということ。さらには、おじさん変身講座。定年後に、どういう風に地域社会の活動をしていったらいいのかということを含め、取り組みをしています。東日本大震災の避難者の方達への支援もやっています。
 こうした活動には財源が必要ですから、私どもは財源を集めるために「ネット21ボランティアカード」を作っています。このカードを持っていれば、私どもが契約している飲食店で10パーセントの割引が受けられます。こうしたカードを販売する取り組みにより財源確保をしています。こうした運動を実施して地域との関係、NPOとの関係を強化しているということです。
 最後になりますが、皆さんがアルバイト先で困った、あるいは皆さんでなくても友人の中で「おかしい」ということがあれば、気軽にフリーダイヤル「0120-154-052」に電話をかけてください。携帯・スマホからでもつながりますし、埼玉から電話すると連合埼玉につながります。東京でかければ連合東京につながります。何かあれば、是非私どもにご相談いただければと思います。ご清聴ありがとうございました。

以 上


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