はじめに
先ほどご紹介頂きました、連合の非正規労働センターの石黒生子と申します。今日は「労働相談から見た働く現場の現状と労働組合の取り組み」という話をさせて頂きます。
実は今、学生のアルバイトでも色んな悩みがあって、連合に労働相談の電話をかけてこられる方もいらっしゃいます。この中で働いたことがある人、アルバイトとか短期でも働いたことがある人はどのくらいいらっしゃいますか?はい、けっこういるんですね。学生に限らず、20代の若い人も含めて働くことに関する悩みを抱えている人が多くいます。多分、皆さん将来就職すると思いますが、就職する時にどういうことに気をつけたらいいのか。もちろんアルバイトも。働くなかで、困ったときはどうすればよいのかも含めて話しをさせて頂いて、その後は皆さんが疑問に思っていること、今働いているところでの悩みでもいいですし、これからの悩みでもいいですので、質疑を受けられればと思っています。
自己紹介
みなさんは、「アピタ」というお店をしっていますか?もしくは「ピアゴ」は知っていますか?埼玉にはないかもしれませんね。それでは、ファミリーマートやサークルKはありますね。私はそういうところで働いていました。よく「なんで労働組合の仕事をしようと思ったのですか?」と聞かれますが、私の場合、よくあるパターンですが、途中で騙されて労働組合に行ったまま出られなくなった。大学を卒業してすぐに連合で働く人もいますが、自分のパターンが多分多くあるパターンで、いわゆる企業別労働組合、ユニーという会社に就職して、そこの労働組合の役員になって現在に至っています。当時、そこの会社の組合の役員から「どう、組合やらない?」と言われて、「えー、やだよ」って断ったのですが、「組合のこんなところが気に入らないんだ」と悪口を言っていたこともあって、組合は大体、文句を言う人を引っ張り込む手法をよく使うのですが、自分も「お前文句あるならちょっと」、「君みたいな人がきて組合を変えてくれるために、組合は門戸を開いているんだ」と体のいいことを言われて組合の専従役員をやることになり、それでそのまま行ったきりです。93年から専従休職となって、そのまま2014年、ついに会社も辞めてしまいました。
今、UAゼンセンという組織に籍がありますが、その前は単組の役員をやった後、スーパーや百貨店の産業別労働組合の事務局長を務めていました。その組織が他の組織と統合して、今のUAゼンセンになり、そこでも役員をやって、今年の10月から連合にいます。多分、日本には労働組合の役員は何万人といると思いますが、その人たちに聞くと7割くらいは私と同じパターンで組合役員をしていると思います。私も、もともとは店長をやろうという志を持ってスーパーに入社しましたが、気がついたら労働組合の役員をずっとやっているというパターンです。
今日は、まず今の日本の雇用の話をした後、簡単に連合のことを紹介し、その後、非正規労働センターの話をしたいと思います。また、今日は、『働くみんなにスターターブック』と『YELL』という2つの冊子を配布しています。若い人たちに色々なことを理解してもらって、ブラックバイトとかひどい目に合わないために作っているものです。講義の中でこの2つの紹介もさせて頂きたいと思います。
1.非正規雇用の現状と問題
実は「非正規」には明確な定義があるわけではありません。「正社員」、「正規」と呼ばれている人ではない人たちのことを総称して一般的に使われています。あとでまた説明しますが、正規とは、無期、期限を定めずに定年まで、8時間なり7時間半なりフルタイムで働く人のことをいいます。今、このようないわゆる正社員ではない労働者は、2千万人を超えており、全体の37.5%もいます。その非正規の中でも女性の割合は67.9%と、非常に多くなっています。
そのような中で、非正規労働というのは問題だ、という認識で10年前に連合に非正規労働センターができました。なぜ非正規が問題なのかというと、もともと非正規で働く人はそんなに多くありませんでした。下のスライドを見て頂くとわかりますが、1990年には800万人くらいしかいなったものが、どんどん増えてきて、もう今は2000万人にもなっている。
大きく問題になったのは、皆さんも覚えているかわかりませんが、2008年の秋にリーマンショックが起こり、急に世の中景気が悪くなって、派遣で働く多くの人が急にクビを切られるということが起き、その年末に年越し派遣村というものができた時です。もともと、日本の雇用では、期限を定めずにフルタイムで働くことが当たり前で、それ以外の人たちが一部いる、というのが非正規でした。しかし、今はもう非正規が4割近くにまでなっており、政府は働き方改革とか多様な働き方とか働く側の裁量やメリットを強調していますが、非正規で働くということは必ずしもいい面だけではありません。
もう1つ、この非正規のなかには色んな人がいます。まず、パートタイムやアルバイトと呼ばれる短時間で働く人たちがいます。アルバイトは約400万人、パートタイムが1000万人弱。それから給料を時給ではなく月給でもらっているけれど、雇用期間を1年や半年など有期で契約している契約社員。その他、嘱託とよばれる雇用形態もあります。このように、非正規雇用といっても様々な雇用形態があります。現在も、正規雇用が約3,300万人いますので、雇用労働者の多数ではありますが、1985年と比べるとずいぶん世の中は変わってきています。
非正規の問題の1つは、いわゆる不本意非正規とよばれるものです。正社員として働くことを希望したが、学校を卒業して正社員として働けなかった人たちのことです。これは例えば、僕は学校に行くから1日4時間しか働きたくないよとか、私は子育てをメインにしたいのでパートタイムでいいですとか、私は3年働いたらしばらく遊びに行きたいから派遣でいいですといったかたちで自ら望んで選んでいるのではなく、正社員で働く機会がなかったなどの理由で非正規雇用になってしまった人のことです。そういう人が、徐々に減ってきてはいますが、2006年の調査では16.9%います。特に問題なのは、25~34歳といったいわゆる働き盛りの世代に、不本意非正規が多くいることです。今は大変景気がいいので、売り手市場といわれていますが、景気の悪い時代に大学を卒業して、その時に正社員としての働き口がなかった人もいます。例えば、今40歳弱くらいの人たちは、当時非常に雇用状況が悪く、全然求人が無い。全然求人が無いために非正規で働くしかなかったという人たちがそのまま現在に至っている。日本の場合は、途中から正社員になるというのがまだまだ難しく、大学を卒業した時に景気が悪くて正社員になれなかった人たちは、実は正社員になりたいという思いをもったまま、非正規でずっと働いている。これが非正規の一つの問題です。
それからもう一つは賃金の問題です。次のスライドは、雇用形態別に時給ベースの賃金カーブを表しています。
一番上の青い折れ線グラフは一般労働者、いわゆる正社員といわれている人たちの賃金を時給換算したものです。50代後半や60代になると下がってきますが、ピークの50代前半は時給2457円となっています。ただ、これは、下の注釈(2)の通り「月例の所定の給与を実働時間数で割った値」ですので、ボーナスなどは含まれていません。また、正社員だと退職金をもらうことが一般的ですので、実際の収入は、ここで示されている額よりも高くなります。正社員はだいたい18歳や19歳ぐらいから働いて、賃金が右肩上がりに上がっていきます。
しかし、赤い折れ線グラフを見て頂くとわかりますが、一般労働者、正社員以外の方は、賃金があがっていない。要はいわゆる正社員は、年齢とともに賃金が上がっていくのですが、正社員じゃない人たち、いわゆる非正規といわれている人たちは、年齢とともに賃金が上がっていかないという問題があります。年齢を重ねると、子育てなどでお金が多く必要になります。でも非正規の人たちの賃金は上がっていかないので、必要なお金が稼げない状況にあります。
なぜ非正規の賃金が上がらないかには色々な理由があります。例えば、教育訓練。会社は、正社員であれば60歳や65歳まで雇わなければならないので、教育訓練をしてスキルを身に付けてもらい、それで生産性をあげて、それに見合う賃金を払う。だから、はじめは1000円台だった賃金が、ピークには約2400円まであがる。一方、正社員以外の人たちは教育訓練を受ける機会を与えてもらえず、単純な仕事をずっと60歳まで続けることになるので、賃金も上がりません。やった仕事に対して対価が払われるのは当然ですが、非正規の方は、そもそも訓練をしてスキルを身に着ける機会がないという非常に不運な状況になっています。
それからもう一つ、各種制度の適用状況が違うという問題もあります。退職金が一番顕著なのですが、正社員は8割の方がある一方で、正社員じゃない人は9.6%、1割もない。健康保険の加入対象にならない人も多くいます。労働時間や日数、期間等働き方が異なるということにより、色んな制度が正社員を非常に大きく下回っているという問題があります。
このように、正社員と非正規社員との賃金格差はかなり大きく、世帯主でも年収200万円未満といった人たちがかなり増えてきています。その結果、非正規の方は、生活苦のために、食事の回数を減らすとか、医者にかかれないといった状況に陥ってしまいます。このようなことが非常に大きな問題になっているというのが今の非正規の問題です。
だからといって、必ずしも働き方は正社員、つまり直接雇用で1日8時間、定年まで同じ会社で働かなければならないのか、というとそうではないと思います。政府の肩を持つわけではありませんが、「多様な働き方」、要は生き方の選択になりますが、働くことだけが人生のすべてではないと思いますし、色んな選択肢がある世の中は正しいと思いますので、いわゆる正社員以外の働き方が間違っているとか、それが良くないとは思っていません。しかし、今の問題は例えば、4時間働いている人と8時間働いている人の賃金格差が1対2ではないんですね。4時間の人が8時間の人の半分の給料をもらっていれば、それは選択としてそういう働き方もあるのかなと思いますよね。4時間はもうちょっと勉強しようとか、子どものためや親の介護のために1日の半分は時間を使うから、しばらくは働く時間を半分にするので賃金は半分でいいよ、という選択肢があればいいと思います。しかし、先ほど図表で示したように、時給換算した賃金格差が倍以上もあるので、今はそのような選択ができる状況ではない。
同一労働同一賃金が導入されれば、変わってくるのですが、今はそうではないところが多いので、非正規労働センターとしてはやはり正社員になりたくてもなれない人たちなどが、時間、雇用のあり方が違うだけでこれだけの格差、退職金もないし、健康保険も対象にならない、そういうことを変えていこうと今取り組みを進めているとご理解頂きたいと思います。
2.連合(日本労働組合総連合会)と労働相談センターの取り組み
連合についてですが、日本の場合は海外と違って、企業別組合が中心で、その企業別組合が産業ごとに集まり産業別組合を形成し、それを束ねているのがナショナルセンターである連合というイメージです。そして、連合は「働くことを軸とする安心社会」をめざしています。働くということを中心にして、将来にわたって安心できる社会をつくる。そのために国の政策や制度を変えるなど、色んなことをしています。
連合には、労働相談センターがあります。ここに労働相談の電話を掛けてくる人は、実は6割ほどが正社員です。必ずしも非正規の人だけが困っているわけではない。もちろん、組合員の方もいますし、組合のない人もいます。学生からも電話がかかってきます。平日の9時半から5時半まで受け付けています。これは面白い仕組みになっていて、このフリーダイヤルの番号(0120-154-052)に電話すると、電話をした都道府県にある地方連合会に繋がります。昔は、東京で沖縄からの電話も受けていましたが、沖縄まで行って問題を解決するのには時間がかかりますので、現在はこのような仕組みにしています。連合は全都道府県に地方連合会を設置し、事務所を設けていますので、例えば、埼玉で電話すると連合埼玉にかかります。
それから、日常的に受け付けている労働相談以外にも、時節のテーマに合わせて集中労働相談キャンペーンもやっています。実は来週やるのですが、今の時期、年末だと時間外労働が増えてきますので、長時間労働でひどい目にあっていませんかとか、不払い残業をさせられていませんか、というキャンペーンをはります。
3.労働相談の傾向・特徴とみえてくる問題点
連合は全国で年間大体15,000~16,000件ほどの労働相談を受けています。相談内容の割合と年代別の割合をみると、相談内容で、今、多いのは「差別等」。これもちょっと言葉が難しいんですが、男女差別、パワハラ、セクハラといった問題が一番多い。それから次に「労働契約関係」が多いのですが、これは配置転換とかで、たとえば、東京で働いていた人が急に北海道や沖縄に転勤することを命じられたなどの話。それから「賃金関係」は、残業代を払ってもらえないとか、賃金を払ってもらえないまま会社が倒産し大変困っているなどの話。
年代別でみると、若い人は少なくて、40代、50代、30代の順に、働き盛りが多くなっています。もちろん、若い世代からも相談があります。
雇用形態別でみると、そもそも雇用形態として正社員の方が多いので、多くなっています。
相談内容は、深刻なものから色々と問題があります。
20代からの労働相談を見ると、賃金を払ってもらえないとか、パワハラ・セクハラ関係の相談が多くなっています。あと、年休が取れないとか。そういう問題が多いのは、20代だけに限ったところかなと思います。
2015年の厚労省の調査では、アルバイトをしている学生の半分が色々な形で何らかのトラブルを経験したという結果になっています。
これも、トラブルのレベルは色々ありますが、上の図表の四角囲みにしてあるものは法律違反のおそれがあるものです。要は賃金が払われなかったとか、労働時間管理が適切に行われず、長時間働かされたとか。四角囲みではないものは、正確にいうと問題なんですけども、明らかに法律違反とは断言できないものです。
このような労働相談の内容をみると、職場における問題やトラブルは、大きく2つに分類されます。
1つは明らかに法律違反のもの。「残業代は出ません」とかですね。これは絶対に間違っていますし、「有給休暇という制度はうちの会社にはありません」というものもあります。一番信じられないのは「うちは労働基準法ありませんから」というもので、これは結構あります。労働基準法がない(適用にならない)会社は日本にはありませんっていう話なんですが、経営者の方と話すと、平気で胸を張って、「うちには基準法はないからって言ってあるんだけど、なんでこんなこと言うかな」みたいなこと言われて、こっちが思わず倒れそうになっちゃいます。実際に、そういうことを言う会社の経営者がいらっしゃって、「基準法がないので、有給なんかあるわけないだろう」みたいな話になったりすることがありますが、これは明らかに法律違反です。
他にも「辞めたいけれど辞めさせてくれない」、これも結構多いのですが、明らかに法律違反ですので、労働相談では「すぐに辞められますよ」といって対応しています。
もう1つは職場風土の問題です。例えば「挨拶されても無視されるんですよ」とか、「こんなに仕事が多くて毎日大変なんですよ」とか、「上司がえこひいきをして、私に辛く当たる」とかですね。こういった相談が結構多いんですけど、これは詳しく聞いて対応していく必要があります。それに、実際に「じゃあ、これ問題なんで、すぐに会社の人に会って対応して直してもらいましょう」と言うと意外に「それはちょっと困ります」や「ちょっと会社名は言えません」みたいなことになるので、対応がなかなか難しい。
1つ目の明らかな法律違反というのは、その場で会社にすぐ話をするなり、組合があればもちろん組合から話をして頂くなり、労働基準監督署に行ってもらっても解決はすぐにできるような問題です。皆さんもこれから働かれる時に、法律を知らないと法律違反だからこれはすぐ直せるよということさえもわからないので、このスターターブックなどを是非読んで法律を知って、ということをご理解頂けると助かるかなと思います。
他にも色々と相談事例があります。多いのが全然帰ってこないという相談です。これは本人からの相談で「仕事でなかなか帰れない」という場合や、意外と、夫や子どもについての相談もある。
それから、有給休暇はパートタイムの人にはないという相談。これはよくあるパターンです。それから深刻なのが、雇止めとか解雇。労働契約を自動更新にしているのに、セクハラ・パワハラをして辞めさせるパターンも結構あります。
アルバイトも含めて20代などの若い人に多いのが、「仕事を辞められない」。皆さんもそういうことがもしあれば、これはちゃんと辞めることができますので、辞めてもらっても問題ありません。会社から「お前辞めていいと思ってんのか」みたいな話をされると、「辞めちゃいけないんだ」と思っちゃう。これはマインドコントロールに近いのかもしれませんが、毎日会社に行くのが辛くてたまらないのであれば、もう辞めた方がいいと思います。実際にあった労働相談でも、アドバイスして辞めてもらいました。民法の627条で、日本の国にいる限りは退職する自由が認められているからです。
他にも賃金の問題などもありますが、会社全体の問題の場合は、結論としては労働組合をつくったほうがよいと思います。個人で困っていることで民法などの法律ですぐ対応できるものはそれで解決する。それが会社全体の問題であると、その会社には、そういう問題が起きる風土がある。パワハラとかが当たり前にあるとか、そういう会社風土をなおしていく場合に一番いいのは私たちと組合をつくっていくことだと思います。
日本の場合は、企業別労働組合、企業別労使関係が基本ですので、会社全体の問題、職場のもめごとの場合は、組合をつくって解決していく。実際に、半年や1年かかって組合をつくって解決することもあります。このように労働相談では対応しています。
4.こんなとき、どうする? Q&A
これからお話しすることは、スターターブックに書いてありますので、後でじっくり見ておいてください。
Q学生アルバイトでも法律で守ってもらえるの?
学生アルバイトも従業員の一人で、同じ労働者ですので、基本的には労働基準法などのあらゆる法律で守られることになります。
一方で、これは労働法で守られることではありませんが、学生の皆さんは、基本的には働くことがメインではありませんので、アルバイトで働く場合には、基本的にはシフトなどの労働条件が大学の授業に差し障りがでないように事前に確認をしておくことが大事だと思います。
Q働く条件を口頭で伝えられた。これってあり?
働く条件は、労働基準法上では書面で明示すると決まっています。働く期間、働く時間、休みの日、給料、辞める時はどうするなどの基本的なことは必ず文書でもらいましょう。たとえアルバイトであったとしても、働く期間が短かったとしても、どういう条件で働くかについては、必ず文書でもらうことが今の日本では当たり前ですので、皆さんももらうようにしてください。もらいにくいと思うかもしれませんが、もらわないと後でもめることになるかもしれません。人を雇う場合は必ず、どういう期間働いて、どの場所でどんな仕事をしてどういう休みなんだということは、口頭ではなくて文書で確認するというのが今の日本のルールなので、それはちゃんとやらなければなりません。
Q就業規則ってなに?
就業規則っていう言葉を聞いたことありますか。ないですね。会社で働く時には色んなルールがあります。例えば、社長の都合だけで日によって労働時間がかわるようなことは許されません。一日何時間働くとか、休みはこうだとか、賃金はどうやって決まっていつ払われるか、辞める時はどうするかといったことが書いてある就業規則というものを、常時10人以上の労働者を雇う会社は必ず作成しなければなりません。これは会社のルールブックみたいなものですから、これを従業員の皆さんが見られるようにしておかないといけない。そして、従業員から見せてくれと言われたら見せないといけない。就職する時は必ず就業規則を見るようにしてください。
Q遅刻をしたら罰金って聞いたけど、そんなことあるの?
これは結構アルバイトであることなのですが、経験したことがある人はいますか。実際に、自分も電話で相談を受けたことがあります。遅刻したら罰金で10分1000円だと言われましたという相談です。基本的には、例えば、時給が1000円だったら、遅刻をしても、時給を10分に換算した分以上の額は引けません。罰金といって勝手に賃金以上のものを引くことはできません。それに、遅刻をした場合の罰則を設ける場合は、就業規則に書かないといけないというルールもあります。
それからもう一つよくあるのは、例えば、レストランでアルバイトしていて、皿を割ったら「弁償せい」っていう相談です。それも基本的には、勝手に給料から皿代を差し引くことは出来ません。給料は給料、弁償は弁償。弁償もわざと割った場合は別ですが、事故で割れちゃった場合に、割った責任を労働者に全面的に負わせることもできません。基本的にはそういうのはできませんし、就業規則上に規定しておく必要があると思います。
Q学生だと時給が低くてもしょうがないの?
これは「君、アルバイトだから」みたいな話がよくあって、学生バイトと主婦バイトの時給が違う場合があります。時給が違うこと自体は法律違反ではありませんが、日本には最低賃金という制度があり、それを下回ってはいけません。埼玉の最低賃金はいくらか知ってますか?871円ですね。学生バイトといえども、埼玉で働いていて時給871円を下回っていたら、それはもう即座に問題です。毎年10月1日前後に都道府県ごとに改定され、ホームページでも確認できますので、確認して、それ以上の賃金にしてもらうのが当たり前です。
Q働く時間に制限ってないの?
働く時間に制限はないのか?これもよく「学生だから」、「バイトだから」みたいな話がありますが、しつこいようですが、学生だろうが、アルバイトだろうがパートだろうが何だろうが、基本的には、1日8時間を超えて働かせることはできません。8時間を超えて働いている人がいるじゃないかと思うかもしれませんが、それは、8時間よりも長く働く場合は、労働組合、ない場合は、従業員の代表者と会社で労使協定とよばれる約束事をつくって、どういった場合に、どれだけ働くかなどを予め決めた場合は、働くことができます。これを36協定といっています。労働基準法36条に定められています。自分も組合の役員をして初めてサブロク協定っていう言葉を聞いてびっくりしました。労使で時間外のルールを決めないと、基本的には1日8時間、週40時間より長くは働けない。ただ、日本の場合は、36協定で無制限に時間外労働を決められるのが問題になっています。今、過労死とか過労自殺とかが問題になっていますが、おそらくその会社では、一日4時間、月間100時間といった労使協定を結んで働かせているのだと思います。
また、休憩時間も決まっています。一日6時間を超える時は45分、8時間を超える時は60分休憩をとらせないといけないということも労働基準法で決まっています。
Qパート・アルバイトには有給休暇ってないの?
学生もパートもアルバイトもみんな、働く人たちなので、有給休暇を取ることができます。週の所定労働時間と週や年間の働いた日数によって付与される日数が決まっていますが、学生のアルバイトでも必ず有給休暇はあります。
Q退職したいと伝えているが辞めさせてもらえない。どうすればいいの?
これはさっき言った通りです。この相談は本当に多くて、若い方、20代で一番多いのはこれです。辞めたいんだけど辞めさせてもらえない、どうしましょう。「辞めなさい!」と申します、もうこっちは。すぐに辞めなさいで話は終わるんですが、多分この中でもアルバイトを辞めたいんだけど辞められない人がいらっしゃるのかもしれません。人間関係が気になるとか、心が優しい方々はそうなっちゃうかもしれませんが、そんなことまでして働いて身体を壊すくらいだったら、人間関係を壊した方がいいと思います。民法上は辞めるという意思表示をしたら、辞めることができるのが基本です。悩んだ場合は、連合の労働相談に電話をかけて頂いてもいいんですが、基本的には辞めたいと思った時に辞めることができるということを覚えておいてください。
Q明日から来るな!クビ!と言われたら、すぐクビになるの?
よくテレビドラマなどで「お前クビ」とかやりますけれど、実は簡単にはクビにはできません。客観的にみてどうしようもない場合、例えば、会社に行かないとか、無断欠勤を続けたらクビになることがありますが、そのようなことは就業規則に定められているのが一般的です。ただ、普通に働いていて、クビになることはまずないと思います。特に、アルバイトなどで雇用契約を半年間とか2ヶ月とか期限を限って雇われている人については、その期間はきちんと雇うというのが基本原則ですから、よほどの問題がない限りは、期間内はクビにならないのが基本です。一方、正社員は無期限に雇っていますから、特別な事情として会社が傾いて大変な状況になった時には、解雇される可能性があります。これも本当に何か問題があったら労働相談に電話して頂ければいいと思います。
Q仕事中にけがをして治療した。治療費は自己負担?
仕事中のけがは、労働災害ですので、これは自己負担ではありません。学生の皆さんだと、多くはご両親の健康保険の被扶養者となっていますが、仕事中のけがを健康保険を使って治療してはいけません。これは労働災害として、治療費は労災保険で治療するのが基本です。ただし、労災保険に加入するのは会社の方ですので、働く人は保険料を払う必要はありません。
Q上司から毎日長時間、怒鳴られる。これってパワハラ?
これはパワハラですね。これは、アルバイトの場合はもう仕事を辞めた方がいいから、もし、こういう会社だったら是非連合に相談して下さい。
Q育児休業(育休)って男性でも取れるの?
今、育休を男性がとらないのが問題といわれています。なので、出来るだけ男性の方にもとって頂きたい。むしろ、育休をとる男の人のほうが結婚出来る可能性が高い世の中になっていますので、宜しくお願いします。
5.“ブラック企業・ブラックバイト”から身を守るために
ブラック企業のチェックポイントは色々ありますけれども、就職活動をする皆さんの場合は、まず先輩に話を聞くのがいいのかもしれませんね。とはいっても、今ブラック企業について本当に色んなことが言われていますので、ブラック企業とは何かについて、連合でも議論をしています。連合が調査したところ、20代の3割以上の人が自分が勤めている会社はブラックだと思うという結果がでました。そして、どのようなことをブラックだと思うのかを聞いた結果が下の図表です。
長時間労働が当たり前になっているとか、仕事に見合わない低賃金だとか。このように、色々なことで自分の企業をブラックだと思っているんだなと感じました。
ブラック企業の特徴としては、募集要項とは違う働き方を強要されるとか、残業代を払わないとか、1人ひとりを孤立状態にさせて退職に追い込むなどがあります。
皆さんこれから就職活動をするときに企業のことを調べると思いますが、募集要項には賃金や労働時間など労働条件について必ず記載しなければならない事項が決まっています。募集要項には8時間労働と書いてあったのに、実際に働きだしたら10時間労働が当たり前だった、そして「2時間くらいは修行だ」みたいなこと言われるのは明らかにブラック。それで残業代を払わないのもブラック。それから、出来るだけ友だち付き合いをさせないようにするのもブラック。同期の人たちと付き合わせない。そして、最後に何となく辞めにくい雰囲気にもっていく。「お前が辞めたら困る奴がいっぱいいるんだ」が常套句らしいです。ブラック企業には色々なパターン、特徴があるということです。
ブラック企業については、色んな調べ方があります。必ずしもブラック企業を見分けることができるわけではありませんが、例えば「えるぼし」とか「くるみん」とか、これは女性の活躍促進やワークライフバランスの実現などに取り組んでいる企業が認定されるものです。他にも「ユースエール」という認定もあり、このような認定を受けている企業が働きやすいのではないかと思います。ただそうはいっても、それがすべてではないので、大学の先輩に具体的に話を聞くのがベターかもしれません。
また、若者雇用促進法というものもあります。今、特に若い人たちが3年くらいで仕事を辞めてしまうという問題があり、若年層の雇用促進のためにこういう法律ができました。この法律により、企業は応募者から求められた場合は、以下の3類型ごとに1つ以上の職場情報を提供しなければならなくなりました。
埼玉大学でも色々と就職に関する情報を調べることができると思いますが、こういうものも活用しながら慎重に調べることが必要かなと思います。
6.まとめ ~皆さんへのお願いなど~
ここからは会社に入ってからの話です。アルバイト先で労働組合を作ってくださいとは私も申しませんが、もし会社に入って、これまで説明したようにみんなが困っているなあと思うことがあったら、組合がない場合は、組合をつくって解決することも選択肢の一つとして頭の片隅に入れつつ、卒業して頂けると嬉しいなと思います。労働組合は色んな形でできることがありますので。やっぱり労働者は一人では使用者と闘っても勝てませんが、「みんな同じ気持ちなんです」という言って対等に経営者と話をしたり、交渉したり、いざとなったらストライキをやったりとか、そういうことができるのが労働組合です。自分もずっと、組合のある企業に入って、組合の活動をしていますので、組合のない会社のことはあまり実感としてわからないんですが、少なくとも労働相談を受けて、組合のない企業で働く多くの人の話を聞いていると、やっぱり組合があるとないとでは大きな違いがあります。皆さんも、できれば組合のある会社に入った方がいいだろうと思います。海外では労働組合があるということが、正規雇用、いわゆる典型雇用の要件の一つになってるという国もあるくらいですから、やっぱりちゃんと交渉できる集団があるかないか、というのは大きな違いがあると思います。ブラックバイトもそうですし、会社に入って、しばらく経って何か困ったことがあった時には、0120-154-052に、ご連絡頂ければいいかなと思います。
最後になりますが、配布したスターターブックは結構役に立ちますので、困った時は見るといいことが書いてあります。働く時に確認することも書いてあります。アルバイトで疑問に思った時や、これから就職活動をする時に、是非参考にして頂くといいと思います。
さっきも申しあげたように、例えば、辞めようと思ったらすぐに辞めることができるのが日本の法律なのに、それを知らなくて悩んでしまう。ワークルール、働く権利とか労働法などの法律を知らないで、悩んで自殺したり、「辞めれなくてもう死にたいです」という話になってしまうよりは、まずは法律を知って法律で解決する。労働時間も1日8時間を超えて働けないのが基本ですし、36協定を結んだら、その時間は時間外労働ができますが、時間外労働をすればその分は割増賃金が支払われなければならないというのが基本的なルールです。他にも、週に一日は休みを取る、法定休日というのもありますので、休みなく永遠に働かされてしまうということがないのが日本という国のルール、私たちがつくってきたルールです。そういうルールをまず知って、「法律ですからこれは出来ません」と言って断ることができるように。「なんかそういう法律あったよな」と頭の片隅に入れて、間違った認識で悩むということがないようにしてほしい、そのために是非活用してほしいと思っています。「YELL」もためになることが書いてあるので、使ってもらえればいいなと思います。
今、日本でも世帯収入400万円以下の人が4割を超えるようになってきています。自分が会社に入社したのは1984年ですので、その頃はまだ世の中は右肩上がりでよくなるといういい時代でしたが、だんだん将来があまりよくない状況になってきてしまいました。統計的には何パーセントとか色々と数字が出ていますが、確率というのは常にデータにしかすぎません。何が言いたいのかというと、皆さんが例えば、就職した大卒の人の30%が離職しますと言われても、皆さん一人ひとりにとっては離職するかしないかというのは100%と0%しかないわけです。それぞれの選択については○と×しかないのです。将来の不安もあるし、大変な世の中だなあと思って不安になってもしょうがないんですが、何か起こった時に相談したり、解決する相手がいるっていうのは大変大事なことです。是非さっきのルールブックも活用していただきたいですし、働くようになって困ったこととか、今バイトをやってて「おかしいな、これ、辞められないぞ」みたいな話になったら、是非連合にご相談頂ければと思っています。私たちもアルバイトの方も含めてすべての働く人たちを応援する組織を目指していますので、是非これから頼りにして頂ければと思っています。
非常に雑駁なお話ですが、以上でございます。どうもありがとうございました。