埼玉大学「連合寄付講座」

2015年度後期「働くということと労働組合」講義要録

第7回(11/17)

公正な賃金制度を確立する

JUKI労働組合中央執行委員長 芳野 友子

1.JUKIの概要

 創立は1938年12月15日、社名はJUKI株式会社となっていますが、戦前はピストルや機関銃の銃器を作っていました。銃器の技術を使って、戦後平和産業への転換ということでミシン会社になったということです。軍需産業だったので、銃器やピストルを作っているとわからないようにその当時は重いに機械と書いて、東京重機工業という名前を使っていました。平和産業に転換し、時代の流れとともに東京重機工業という社名が古いという事もあって、創立50周年の時にアルファベットの社名に変わっています。
 営業品目は、工業用ミシンが主力になっています。ミシンといいますと、皆さんには家庭用ミシンのイメージがあるかと思いますが、家庭用ミシンというのは1台あれば洋服が1着縫えるわけですけれども、工業用ミシンというのは専用機になりますので、ポケットならポケットだけを縫うミシン、襟なら襟だけをつけるミシンとなっています。
 工業用ミシンについては、ただ販売するだけではなく、生産性の高い工場を作っていくという視点で、縫製工場ができるとメーカーさんから依頼があった場合には、どういう種類のミシンを置くことによって効率的に、例えばスーツならスーツ1着が縫えるのかということも、私どもの方で研究をして工場に提案をしながら販売をしているということです。
 それともうひとつ、産業装置ということでチップマウンターといいますが、携帯電話とかゲーム機に入っている基盤にチップを搭載する機械も作っています。それから、家庭用ミシンです。今は労働組合の専従で委員長をしていますけれども、私は会社に入社した時、家庭用ミシンの職場にいました。従業員数は6,153名ということで、これは国内の連結になりますからグループ会社も含めた人数になっています。連結子会社は国内外合わせて31社となっています。

2. JUKIの海外展開

 JUKIの販売拠点は、国内はもちろんですが、全世界に亘ってきています。最近ではこれまでは中国が最大の市場だったわけですけれども、今ではどちらかというと東南アジアへ、産地移動などという言い方もしますけれども、シフトしています。特にカンボジアですとか、バングラデシュ、それからミャンマーなどでも市場が広がってきています。国内のシェアよりも海外、特に東南アジアの方にシェアが広がってきているということと、主力の工業用ミシンの売上高ももう約9割弱が海外になっています。このように、JUKIは完全に海外での様々な場所での営業が始まっているということで、国内に留まるだけではなく、グローバルな社員をめざしていかなければ生き残っていけないという状況になっています。さらに、縫製工場が新興国にどんどん広がっていますので、そういうところへの駐在のニーズが非常に高まっているというのもあって、いかに海外で活躍する社員を増やしていくかということが最大の課題です。しかし、旅行でカンボジアに行ったりバングラデシュに行ったりするのと違って、やはりそこで生活をしていくということは、社員としては自分の人生での様々なイベントがある中で非常にハードルが高いということで、どういう制度にしていけばそういった働き方ができるのかということがあります。
 現在、製造は中国がメインですけれども、第二のメイン工場としてはベトナムが非常に注目を集めていて、徐々に中国からシフトしています。会社の方針としてはミシンが売れる所に近い所で製造をする、また部品も売れる所に近い所で調達するということですから、製造拠点も新興国にどんどんシフトしていっているということです。
 それから開発です。新興国にミシンを売るということは、皆さんのイメージで言いますと例えば100円均一ショップのように、100円で売るということは企業としては儲けがないといけないので、材料費とかその物を作る人件費とかそれを作る工場の地代家賃とか様々なことを考えていると、日本の人件費ではやっていけなくなってくる。物を作るのはただ組み立てたりするわけではなくて、研究開発においても人件費といった経費はかかってきますので、今では国内の開発拠点だけではなく、ベトナムや中国にも開発拠点を置き、物を作る最初の段階からコストダウンを図っているということで、徐々に海外にシフトしていっています。ただあまり海外に持って行ってしまうとJUKIの技術というものが流出する恐れがあるということで、モノづくり企業として生き残っていくために新製品開発や研究開発部門は国内に残し、いわゆるモノづくりのメンテナンスだとか製品のモデルチェンジをするものだとか、そういうものを海外拠点で展開しています。縫製工場ですが、海外の縫い子さんたちは女性が多いですが経営者は男性ということで、JUKIとしては縫い子さんたちが縫いやすい、使い勝手がいいミシンを開発していくということを考えていますので、設計者や販売も男性が中心ですけれども、最近では女性も海外駐在員が増えてきていますし、営業で女性が商談で海外を飛び回るということで、非常に女性の職域も拡大してきています。

3. JUKI労働組合の概要

 JUKI労働組合はJAMという産業別組織に所属しています。JAMという組織は金属機械産業の労働組合が集まった産業別組織になります。皆さんのなじみのところではクボタだとかダイキン工業だとか、時計でいうとシチズンとかセイコーといった企業の労働組合がJAMに加盟しているのですが、JAMというのは中小、中堅企業の労働組合が非常に多くて全体の8割が中小、中堅で集まっているという組織です。自動車産業や電機産業の産業別組織は大手企業の労働組合が中心ですけれども、JAMという組織は、自動車でいうと自動車部品を作るような企業の労働組合がこのJAMに結集しているということです。JUKIグループの関連企業の中にも労働組合がありますが、それぞれの労働組合もJAMに加盟しています。
 労働組合というのは会社と決定的な仕組みの違いがあります。企業というのはどこの企業もそうですが1年間の経営計画、実行計画というものと、2年ないしは3年の中期経営計画というものがあります。この計画は売上高いくら、経常利益いくら、営業利益いくらというような経営に関する数値目標が出されます。その数値目標にもとづいて、それぞれのセクションにおいてその数字を達成するためにはどんな企業戦略が必要なのかということで、方針管理という言い方をしますけれども、その数値達成のために施策がブレークダウンをされていきます。私たち労働組合の組合員は非管理職になりますので、上司からの命令を受けて仕事をする、トップダウンで仕事をするということになります。
 前後しますが組合員というのは非管理職で、課長以上が非組合員ということになります。それから経営の根幹に関わるようなセクション、例えば経営企画室ですとか、役員さんたちのお世話をする秘書室といった部署については非組合員の職場ということで、これも会社と組合の労使協議の中でどういう仕事をしているかということによってこの職場は組合員、この職場は非組合員ということで協定を結んでいます。非管理職だからといって全員が組合員というわけではなく、職務によって組合員の職場、非組合員の職場ということになっています。
 先ほども言ったように、会社は経営計画にもとづいてブレークダウンされて上司の命令のもとに仕事をしていくトップダウン形式ですが、労働組合というのはその逆でボトムアップです。どういうことかというと、労働組合の活動というのは大会、総合委員会、中央執行委員会といった機関会議あります。この大会というのは最高決議機関として、全組合員がそこに参加してこういう活動でいいですかということに賛成または反対の票を投じて決定をされるということになりますので、組合員に決定権があるということです。執行委員というのは大会で決定された運動方針にもとづいて決定事項を執行する権限しか持たされていないです。だから私たち執行部というのは、組合員が何を思い悩んでいてどんな要望を持っているのかということを吸い上げながら、それを運動方針に反映させていく。そしてそのことを組合員さんたちに決定してもらうという仕組み、つまりボトムアップの活動ですので、会社と組合というのは全く逆の方法を取っています。
 大会では向こう1年間の運動方針ももちろん決定をしていきますが、JUKIの場合には例えば2月から3月に行う春季生活闘争で、会社との賃金交渉、賃金に関わるすべての問題についてはこの大会で決定する事項というように組合規約の中に謳われています。大会に次ぐ決議機関である総合委員会では賃金以外の労働条件について、労働協約といって会社と組合でJUKIの労働条件について結んでいるその内容を決定していくということになっています。この総合委員会においても必ず職場での機関討議を経て、そこで職場の皆さんから賛成または反対の意見をもらい、最終的には総合委員会で執行部と各職場代表の職場委員さんによって最終的には職場の意見にもとづいて判断をし、決定していくということをしています。ですから、最高決議機関である大会では賃金に関わるすべての課題について決定しますので、これからお話しするJUKIの賃金体系などについてもこの大会で決定をしていくということです。もちろん民間企業というのは経営に非常に左右されますので、常に労働条件が上がっていくだけではなくて時代背景によっては賃金を下げるということも局面としてはありますが、そういう場合にも大会で決定をしていくということです。
 それぞれの企業内の労使によってやり方は違うのですが、JUKIの場合には2月~3月の春季生活闘争の時に4月からの給料、ベースアップと向こう1年間の一時金、世間でいう賞与、ボーナスという言い方もしますが、それも決定していきます。企業労使によっては夏だけ先に決めて、秋に冬のボーナスを決定していくというのもあるようですけれども、JUKIは年間協定を結んでいますので、4月の時点で1年間のボーナスについて決定をしていきます。しかし、下期に入って業績がすごく悪化をした時に、4月に会社と調印をしていた月数について一時金をカットするということも、会社の事情もしっかりと受け止めながらここは施策に協力していった方がいいだろうという判断の中で、大会決定をしていくこともあります。労使協議機関の中で会社と様々な協議をしながら、組合としては判断をしているということです。
 すべてを中央執行委員会で提案しているのかというとそうではなく、専門部というものがあります。専門部として組織部や財政部がありますが、調査部は他社比較等調査担当執行委員が担います。もうひとつは専門委員会というのがあって、賃金専門委員会というのがあります。これは組合員さんから選出をして、同業他社比較ですとか、JUKIに関わる賃金について何か不都合が生じているかだとか、評価制度でわかりにくいとか納得しにくいとかそういう問題や日常の疑問を吸い取って、この賃金専門委員会として中央執行委員会に答申をいただき、それをどうやって会社との交渉の中で要求項目に載せていこうかということをしています。ですからJUKIの労働組合の仕組みとしては、執行部として専門的に考えていく部分と、一般組合員の人たちも巻き込んで日常生活の様々な課題についても議論をする場を設けています。
 今触れました調査部ですが、上部団体のJAMが全数調査ということで組合員の実態調査をしていますので、それにもとづいてJAM全体の中でJUKIはどういう賃金水準にあるのかということも調査しているのが、調査部の役割になります。それから生活実態アンケート調査、JAMがやっているものについてJUKIも一緒にやり、JAM全体の傾向とJUKIの組合員の傾向にどういう開きがあるのか、どういうニーズがあるのかということも比較をしています。
 それから人事考課に対する苦情処理アンケートの実施ということで、これもJUKIの労働協約の中にしっかりと盛り込んでいます。賃金だけではなくて職場の上司との関係だとか仕事の悩みとか、職場の中での苦情もしっかり労使がきちんと聞いて処理をするということが、労働協約の中で謳われているわけです。このため、人事考課に関する苦情処理アンケートは組合の方で積極的にやっていまして、4月に過去1年間の評価が明らかになります。その考課によって昇給をしていくわけですけれども、やはりその昇給について納得がいかないというのがありますし、夏と冬のボーナス、一時金にも評価が入ってきますので納得がいかないという場合については、この苦情処理にしっかり書いていただいて、なぜ結果としてそういう評価になったのかということについて、苦情を挙げてきた本人にも納得できるように、そしてどうすれば次のステップに進むことができるのかということも、しっかりと上司を話し合いができるように、この苦情処理アンケートにもとづいて会社と調整をするということをしています。
 ただ、この苦情を出したからといって、すぐに評価をB評価からAに上げるということは残念ながらありません。それをやってしまうと皆どんどん苦情を出してしまいますので、本当に評価が正しかったのかどうなのかということを、この苦情処理にもとづいて評価書を人事の方でしっかりと点検をしながら、フィードバックをしていく、ということをしています。
 それから組合員さんたちが関わっている賃金専門委員会です。JUKIの賃金カーブの検証、それから他社比較データの作成ということで上部団体であるJAMが様々なデータを出してきますので、特にJUKIとしては規模が非常に近いものですとかJUKIに近い、いわゆる機械を作っているメーカーをピックアップして、それから、本社が東京にあって工場が地方に点在しているというようなJUKIと近い経営環境にある会社をプロットして、他社比較をしています。
 それから賃金に関わるすべての水準確認ということで、JUKIの場合には属人的要素の中で家族手当だとか住宅手当とかがありますので、その水準が他社に比べてどうなのかということについてもこの賃金専門委員会の中で検証をしているということです。

4. トータル人事制度

 JUKIでは1999年までは年功型の賃金制度を持っていました。年齢給、勤続給、そして家族手当、住宅手当、これが属人給ということになります。家族手当については他社では扶養手当という言い方もしています。それから仕事給ということでは職務給と職能給というものがありました。職務給というのはどういう仕事に就いているのかということで、給料が決まります。職能給というのは業務遂行能力ですので能力給に近い部分がこの職能給に当たります。1999年までは年齢、勤続給がありましたので、1歳年を取ると年齢1つ上の先輩の年齢給に追いつきそして勤続年数もそこで上がっていくということですので、仕事給のところで評価が低かったとしても毎年ごと確実に給料が上がるという体系でした。
 しかし、1990年前半、バブルの崩壊とともにJUKIも経営環境が一気に悪化してきまして、会社として政策転換が迫られました。先ほどJUKIの販売拠点があちこちにあるというお話をさせていただきましたけれども、1990年に入ってからベトナムに工場を作ったり中国にどんどん生産拠点を移したりということでコストダウンを図るようになってきました。私たちの人件費もただ下げるということではなく、景気が悪かったとしても、もっともっと一人ひとりの生産性を高めていかなければならない。それから成果に報いる、やればやった分だけ上がっていく給料にしていかなければいけないのではないかということと、組合員の中からも「こんなに一所懸命に仕事をしているのにこれしか給料は上がらないのか」というような意見があって、組合としてもそういった意見を聞きながら時代背景とともに、年功型ではなく成果・能力主義型の賃金体系に変えていく時代に来ているのではないかという判断をし、1999年に成果・能力主義型の賃金体系に変えています。
 この時は年齢給と勤続給を1つにして本給という形にしました。それから家族手当、住宅手当はそのままで、仕事給についても職務給と職能給とを合わせて仕事・成果給ということにしました。このとき組合としても問題視していたのが年齢給の部分だったのですが、例えば大卒ストレートの人、何らかの事情で大卒扱いだけれども事情があって年齢が1つとか2つとか違うメンバー、どちらも同期として入ってくるわけです。入口の部分は初任給で決まるので、その時はみんな同じ給料ですが、1年経つと年齢給はその年の年齢に張り付くので、22歳の人は次の年23歳の給料になるのですが、入社初任給の時に24歳で入ってきた人は次の年に25歳になるので、入ってきた時には同期と同じですけれども次の年は25歳の所に入ってしまう。そうすると最初に入っていた前の先輩たち、ストレートで入っていた先輩たちを1年経ったことで年齢給が飛び越してしまうということがあって、それはおかしいのではないかという組合員さんたちの意見もあって、1999年7月の導入の時には本給ということでこの考え方を1つにしています。
 それからどんどん会社が海外へシフトしていく中で、工場が移転する時に現場で働いていた人たちは技術応援ということで、ラインを持っていく時に海外に行ってそこで現地スタッフに仕事を教えるということもありました。しかし、やはり家庭の事情や様々な事情があって海外に行けないという人たちについて、職種転換をしなければいけないということもあり、ローテーションも非常に増えてきたということで、どういう仕事をしているのか、職務給を残しておくと仕事を変わった時に評価が難しくなるということからも、1999年7月に仕事・成果給1本にして1等級から7等級ということに変えました。
 しかし、やはりそれでもまだまだ年功型の考え方が強いということと、本社から海外もそうですし地方事業所に転勤になるとか、逆にその地方事業所の人が本社に転勤になるとか様々なことが発生しました。また、現場で働いている人と研究開発職の人と、違う仕事なのに同じ基準のもとで同じ評価でいいのかなど、様々な考え方が出てきました。そうした中で2002年9月、ちょうどこの時も経済の様々な影響をJUKIも受けているのですが、ちょうど2000年代初めくらいに金融崩壊があって、JUKIもその貸し剥がしの危機等業績が悪化し、もう一段の施策をしなければいけないということで仕事・成果給を1等級から7等級ではなく1等級から6等級に変えて、職種別、地域別の考え方を入れました。
 そして職種も1本ではなくA職群からS職群を設定し、A職群というのはいわゆる企画とか管理とか営業とか経理といった職種。B職群というのは研究開発職になりますが、地域で分かれています。本社の研究開発職とマザー工場として栃木に工場がありますが、栃木の工場の設計部門は新製品開発というよりもメンテナンスが中心となり、栃木のB職群の方がテーブル表としては若干低くなっています。それからC職群というのは警備、守衛さんとか社内の清掃といった職種です。ここは元々本社に製造現場があった時に工場で働いていた方々ですが、製造現場が海外にどんどん移転して本社には現場がなくなったのですが、海外に行けなかった方たちが、語学研修をするとかいきなりパソコンを覚えるというのがもう年齢が高い皆さんなので非常に厳しいだろうということで、職種転換で設備管理だとか警備だとかそういうお仕事に就いていただきC職群というのを作っています。E職群というのは生産活動に関わる間接部門になるわけですが、これは主に栃木の工場の方で生産管理ですとか販売の補佐、品質保証、それから工場の計数管理という職種。そして栃木の製造現場の人たちがS職群ということで職群を作って、そして職群ごとの評価制度にもしています。
 テーブル表は1等級から6等級もあると進級が非常に大変になってきますので、1等級から2等級に上がる、2等級から3等級に上がるのに非常に時間がかかって、6等級まで行かないと管理職にならないというので、これをもっと大括りにして1つ1つのテーブル表の幅ももっと持たせれば、テーブル表の頭にくっつくことはないので長くなれば長くなるほど、進級も必要ですがずっと上がっていくことになるので、6等級から3等級に変えたということです。
 そしてもうひとつ、2014年4月からキャリア制度を導入しました。先ほども言ったように海外に製造拠点、販売拠点を増やしてきたということでグローバルに海外で活躍する人材を作っていかなければいけないというので、どうすれば海外に行ってもらえるのか。現在、入社の時には全員グローバル社員ということで雇っていますが、いざ内示が出るとやはり家族の理解が得られないだとか、海外で実際に生活するということに抵抗があるとか、先進国ではなく新興国ですので出張で行っているとそこの様子がわかって、食事が合わないとか衛生面とか様々なことがあり難しいということが出てきます。駐在になるのは業務命令になりますが、JUKIの場合は労働協約の中で本人同意事項となっていますので、命令が下された時に本人が同意しなければ職場異動させられないということで、断ることができてしまう。
 普通の企業では本人同意事項というのは入っていないのですが、JUKIは元々本人が納得をしてそしてモチベーションを高めて次の職場で活躍をして欲しいというのがありましたので、本人に目的だとか役割をきちんと上司が説明をし、同意の上で転勤に応じて欲しいという歴史があり同意事項を作っています。しかし、最近では彼女が反対しているからというのも理由の1つになってしまうなど、若い社員、組合員から断るケースが非常に増えてきています。裁判闘争になった時には企業が完全に勝つことになるのですが、労働組合としてはそんな手荒なことはして欲しくないので、どうやって海外に行くことに応じてもらえるのか。入社した時からの心積もりとしていつかは海外で活躍していくというのももちろん、病気を抱えていれば海外に行きたくても行けないケースもありますし、親の介護があったり子どもが小さかったり、様々なケースによっては行けないこともあるので、正当な理由がある場合についてはきちんと保護していく必要があるのではないだろうかということになりまして、2014年4月からキャリア制度を導入しています。
 キャリア制度とは、住居移転を伴う転勤・出向または1週間以上にわたる長期出張の免除措置ということで、あくまでも本人の申請によって地域型(リージョナル)コース、地域に根差した働き方ができるコースというのを設けました。事情ができた時にはリージョナルコースを選択できるということです。そして、このグローバルコースとリージョナルコースを何度も行ったり来たりしても困りますので、コースの転換は原則2回までとしました。基本は全員がグローバルコース、海外で活躍する人材としています。ただそれに加えて地域をベースにした働き方も導入をしていきますよということで、リージョナルコースを設定しています。
 地域に根差した仕事、働き方になったからといって管理職の道は無くなるのかということですが、地域型コースを選んだとしても管理職登用の道をしっかり作っていくということで、何か持病を持っていてなかなか海外出張を長期にわたってできないということでも、管理職登用の道をしっかりと作っているということです。ただし、全域型(グローバル)コースの人たちに比べて、地域型を選ぶと賃金のテーブル表が10%低くなるということです。しかし、またグローバルコースに転換した時には元の賃金水準に戻ることになります。このリージョナルコースは、地域に根差した働き方ということですが、以前に安倍総理から地域型、地域限定社員の構想が出たと思うのですが、地域限定社員というのはそこの地域でしか働けないということですので、例えばスーパーで、地域限定型で働いていて、もうこのスーパーは閉店します、もう無くしますということになってしまうと、その人たちはもうその時点で解雇になってしまうわけです。しかし、JUKIは「地域限定」ではなく「地域に根差した」働き方ということですので、例えば大阪の営業所を廃止しますということになっても、では名古屋の事業所に転勤できますか、本社に来られますかということで雇用をしっかりと守っていく制度になっていますので、地域限定とは違うということです。
 もうひとつどこの企業も主任、チーフ、それからグループリーダーというか課長、役職があってその役職が上がるごとに管理職に近づいていくケースがほとんどだと思うのですが、JUKIは部門によっては主任だとかチーフといった役職がなく、非管理職からいきなり管理職になっていくケースがあります。職場によってはそういう役割をつけていて、主任とかチーフといった役割があるところについては、主任になったらどういう役割を持って後輩と接するのか、先輩たち上司と接するのか、チーフや係長になったらどうなのか、管理職が部下をどう評価したらいいのかということが非常にわかりやすいですけれども、全くそういう役職のない研究開発職のような所は非管理職からいきなり管理職になってしまい、急に部下の評価をしなければならないということがあります。そのため、マネジメント補佐職というのを作って第一次評価者である課長の補佐をしながら、マネジメント能力を高めていき管理職の準備をするという段階も新人事制度と一緒に作ったということです。
 そして合わせて評価制度も見直しを行いました。目標面談制度と人事評価のフォローということで、JUKIの場合には上司と面談の中でどういう仕事をしていくのかということを決定していきます。その目標に対してどれだけ達成できたのかということによって評価付けされていくわけですけれども、この目標面談、それから今回強化したところはフィードバック評価ということで、結果として何でこの評価になったのかということをしっかりと本人が納得理解していかないと、次のモチベーションに繋がっていかないということもあって、フィードバック評価もしっかりこの人事評価の中に入れたということです。評価の流れですが、目標面談シートがあって、もちろん仕事というのは自分のレベルよりも高い仕事もあれば、レベル共通の仕事もありますし、自分のレベルより低い仕事というのも組織ですからいくらでもあるけれども、その割り振りがどうなっているのかというのでも変わってきますし、もうひとつは1年間では評価しきれない仕事もあります。例えばプロジェクトを組んでいたりすると、3年間のプロジェクトでは1年間で結果を評価できないということがあります。それも面談シートを使いながら進捗管理を行って、毎年の評価をしていくということです。
 非常にわかりにくいかもしれませんが、新制度における改善点ということで先ほど6等級から3等級(1等級から3等級)のグレードになったとお話ししましたが、その定義をきちんとしたり、フィードバック面談の時にはどういうことを行ったらいいのかということを入れたり、面談のやり方などについても会社と組合の話し合いの中で改善点を見出していったということです。
 それから組合員さんたちにも公表していますが、各職群、自分達のグレード、レベルによってどういうところが評価をされていくのか、どういうところが大事なのかということを示しています。グレードが高くなれば高くなるほど、業績の評価が非常に強くなってきますし、新入社員では対応力とか行動力とか積極性のようなところが評価されていくということで、それぞれのグレードによって評価項目を変えているということと、態度・意欲・能力の考課の着眼点ということで、これもそれぞれのレベルによって変わってくるわけですが、積極性だとか協調性だとか規律性だとかいろいろ項目がありますが、どういうことが求められているのかということも示してあります。
 こうして体系だけではなく、評価制度の中身についても意見交換、会社と交渉を通じながらいかに私たち働いている人たちが理解できるのか、納得できるのかということについて時間を費やしながら会社と協議をしています。評価というのは、一度つまずいてしまうとモチベーションを上げていくのがなかなか難しくなります。若い時にはあまり気にしないですが、同期と差がついてきたり、ローテーションを繰り返していたりすると目標がその都度変わってくるというのがあり、目標の達成度合いが変わると評価にも影響します。ローテーションが多かったりすると、なんとなく進級が遅れていったりしますが、様々な職場を歩いた方が結果として経験を積むことができ人間関係も広がって、40歳代くらいになってくるとそのことが活かされて進級も早くなってくるということもあるのですが、その時点での心情としては同期と差がついてくると焦りが出てくるようで、そういうところでなぜそうなのかということを本人が納得するのが大事だろうと、それからやはり評価の透明性、納得性、公正性をきちんとやっていこうということです。
 人件費というのは固定化されていますので、評価をするということはその決められた原資の中でどう配分していくかということになります。第一次評価は絶対評価ですが、最終的にはそれぞれのグレードと職種の中で正規分布されますので、並び換えるとせっかく頑張っていてももっと他に頑張っている人がいれば標準になってしまう。上司との面談で「頑張ったね、今回はいいと思うよ」と言われていたのが、全体を見たら標準になってしまったとすると、ではどうすればいいのかということになるので、そこはフィードバック評価の中で上司がきちんと「全体のレベルがこのぐらいまで上がっていたから、もう少しやらなければいけなかったね」というのもしっかりと話し合いをしてもらって、納得の上で次の目標を設定していくということをしています。
 現在の問題点ですが、そのひとつとして間接差別の問題があります。先ほど触れた属人給のところです。家族手当と住宅手当ですが、家族手当についてはJUKIの場合は第一扶養から第三扶養までありますけれど、第一扶養というのが配偶者になっています。実はこの配偶者については、うちの企業だけではなくて全体の問題ですけれども、金額が非常に大きくなっています。第二扶養からが若干金額が下がる制度になっています。専業主婦を抱えている人たちは非常に家族手当が大きいものになっています。それから住宅手当です。住宅手当についても支給要件が世帯主要件になっています。世帯主ということは住民票上の世帯主になりますので、多くが男性である夫の方に住宅手当がついてしまう。そうすると結果として家族手当も住宅手当も大きい額が男性についてしまうということで、組合としては間接差別に該当するということで会社と交渉しています。
 間接差別とはどういうものかというと、制度の文言上は性に中立的であっても結果としてどちらか一方の性が不利になることを間接差別といいます。世帯主要件がそうではないかということです。世帯主ということはイコール夫ではなく別に女性も申請すれば住民票上の世帯主になるのですが、一般的に住民票上の世帯主というのは男性になっていることが多いので、結果として男性の多くに属人給がついているというのは間接差別で、成果・能力主義を求めてきたJUKIの賃金制度から考えますと、こういう属人的な要素によって、能力とは関係ないところで一方の性に金額が多くなるというのは毎月の給料だけではなく生涯賃金にも影響しますし、特に女性にとって退職金や年金にも影響してくるので、おかしいのではないかという考え方を持っています。
 それから男女間賃金格差です。間接差別と一緒ですが、制度の透明性・納得性の部分、先ほど評価制度の話をしましたけれども、目標管理をしっかり徹底していくとか、社内ローテーションももっときちんとやっていきながら実力をつけていく。それから労使共通ですが、上司とのコミュニケーションといったものが必要だということがあります。
 仕事に関係ない要素によって賃金に格差が出てくるというのは、やはり女性も一所懸命やっている中、成果・能力主義を求めているところで納得がいかない部分ですので、この手当の支給要件は、やはり改善するべきではないかと言っています。
 また、育児休業や短時間勤務制度は法律で認められた権利ではありますが、やはりそういう制度を使うと昇進が遅れるという実態がわかっていますので、ここについても労使の課題として、ただ休んだからといって昇進が遅れるだけではなく、復帰してきた時にしっかりと追いつくように目標を設定し、上司がマネジメントをし、昇進が遅れないようにしっかり持っていくことが必要ではないかということも課題として挙げているところです。


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