1.はじめに
ハローワークの中で、国家公務員の職場でなぜ非正規職員の労働組合を作ったかということ、そしてなぜ世の中で労働組合が必要なのか、その前に労働法というのは一体何だというところを少しお話しさせていただきたいと思います。
(1) 労働三権「団結権」「団体交渉権」「団体行動権」
憲法第28条に「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する」と書かれています。労働組合とは文頭に書いていないわけで、主語は「勤労者」です。働く人の権利が憲法第28条で保障されている。これはどういう意味なのか。そして集団的労使関係の権利として、労働三権「団結権」「団体交渉権」「団体行動権」が、労働者に認められているということです。労働者に認められている集団的労使関係の権利というのはこれもまた難しいところです。法律上の集団的労使関係の主体は労働組合ということになります。
例えば事業をやっていて、物を売らないといったら大変なことになってしまいます。結託して自分の会社の作っている商品を値上げしようなんていったら独占禁止法に抵触しますが、経済のルールではありえない労働市場のルールとして、労働者は労働法でその権利が保障されている。明日から労働力を売ってやらないぞということで、争議権(団体行動権)として、ストライキを含めた権利まで保障されている。労働組合以外の人が会社に行ってそこを占拠して事業活動を妨害したら、みんな警察に逮捕・連行されます。だけど、労働組合が同じことをやっても、それは認められているのです。何でそうなのか、今はあちこちでストライキをやっているという状況ではないので、不思議に思うことかもしれません。
労働法の話の前に、私たちは労働市場、市場経済の中で生活をしています。みなさんがお店に行くとリンゴは200円、とある産地で味も素晴らしい。でも買う、買わないはこちらの自由です。隣のお店に行ったら同じリンゴが180円で売っていたとすると、当然そちらで買います。全く同じ商品なら安いところに行くでしょう。私の妻は大体スーパーを5か所くらい、どこに買いに行くかは新聞に毎朝折り込まれてくるチラシで比較して、今日はここが安いと選択しています。多くの生産者と消費者によって自由な競争が行われる市場では、完全な競争と情報の対称性というものを前提としています。しかし、労働市場だと労働者と使用者・企業との経済関係については圧倒的に使用者側が力を持っているのです。
就職活動でみなさんご苦労されていると思うのですが、もし、「私の労働力は売らないよ」と、2週間前に会社に通告すればどんなところも退職できますから、労働者がそういう決断をすれば、退職ということになります。しかし雇用を維持されないと生活に困る、生きていけないという弱みがある。したがって、圧倒的に立場が弱い。そのため完全な市場というものを本来の形で維持をするためには、労働法が必要だということです。労働者のためになる、働く者の権利を守る法律ですが、市場経済を維持していくため、それを補完する作用もあるのだろうと考えています。
(2) 労働市場法と労働関係法
労働法は大きく分類して労働関係法と労働市場法とがあります。労働関係法については連合が作った『知って帳』という小冊子にも労働基準法について書いてありますが、労働基準法は強行法規です。使用者がこれを守らない場合、例えば契約は自由だからと言って労働者を週60時間働かせて全然残業代も払わない、などは違法になります。労働基準監督官という国家権力を行使する監督官がいて、いきなり手錠をかけるというわけにはいかないですが、違法行為を行う使用者を逮捕する権限(司法警察権)を持っています。これが強行法規です。
詳しくお話しできませんけれども、法律では労使の個別的労使関係について、一般規制として労働基準法、労働契約法、労働審判法、最低賃金法、労働安全衛生法、労災保険法など、特別規制として男女雇用機会均等法やパートタイム労働法、労働者派遣法といった法律があるのはご案内の通りです。そして、公務員については、国家公務員法、地方公務員法、行政執行法人労働関係法、地方公営企業労働関係法などの法律があります。冒頭お話しした集団的労働関係法では、労働組合法、労働関係調整法、スト規制法。労働市場法として、雇用政策一般については雇用対策法、雇用・生活の安全保障については職業安定法、雇用保険法があります。
雇用保険法が一番分かり易いですが、資本主義社会ですから景気が良くなったり悪くなったりというのは、各国政府が一生懸命政策を行うものの、ある程度は景気の波がある。したがって、景気が底になった時には失業者が多数出る。そうすると路頭に迷って生活できない人が大量に増えたら困るわけですから、雇用保険法という法律に基づく給付で生活を維持できるようなシステムがあります。その他には職業能力開発促進法や障害者雇用促進法などもあります。
労働法の強行法規の話をしましたが、私たちが働いて仕事をして守らなければならないルールなり規制というのが広い意味で法ということになりますと、労働基準法をはじめとした強行法規だけではなく、勤めている会社に労働組合があれば、団体交渉などで、労働組合と会社が労働条件や組合活動について合意し、その内容を文書でとりかわし、署名または記名押印した労働協約を、企業と労働組合が交わします。この労働協約というのは、法的拘束力を使用者側にも課す法源として位置づけられています。
もうひとつは就業規則です。就業規則とは、労働者の賃金・労働時間などの労働条件に関することや職場内の規律などについて、労働者の意見を聴いた上で会社が作成するルールブックで、一般的に入社と同時にきちんと配布してくれるところとそうでないところがありますが、従業員としてはそれを守る義務がある。それも労働契約の一部を構成することになります。あとは個別の労働契約です。
(3) 「三種の神器」と非正規雇用
「三種の神器」という言葉を聞かれたことはありますか。日本の雇用制度を象徴する「三種の神器」とは、企業別労働組合、年功賃金、終身雇用制です。「『三種の神器』は過去の遺物である。こんなものがあるから、日本はグローバリゼーションで負けるんだ、雇用を流動化しろ」と言うような人たちもいます。したがって、労働組合も含め、市場として産業として残す必要のない企業などはどんどん淘汰して、新しい産業が開発されれば経済社会が発展するからその方がいいということも言われますが、「三種の神器」という言葉はぜひ覚えておいてください。
まずは終身雇用制ですが、もともと日本は経済成長期だって終身雇用ではなかったのです。中小企業では定年まで勤めている人は少なかったです。しかし終身雇用制、年功賃金、企業別労働組合、これらを敵視する論調が市場流動化論として、新自由主義とも言われていますが、小泉内閣の時に世の中の論議、政策に影響を与えて席巻した、跳梁跋扈したと言えると思います。
「正規雇用と非正規雇用労働者の推移」という図をご覧いただきたいと思います。これは厚生労働省が出している資料です。
雇用者の3割を超える、4割近い、女性に限って言えば5割を超える人たちが非正規雇用で働いています。これは率の問題もあります。正規労働者はいなくなったのかということですが、非正規雇用が増えた分大幅に減ったというわけではないのです。正規労働者は、日本経済が絶好調の時期だった平成元年(1989年)で3,452万人です。その後増減はしていますけれども、平成26年(2014年)で3,278万人、もちろん産業によっては正規雇用の減少はあります。サービス業などは特にそうで、全然減っていないわけではないですが、この水準を見ますと日本経済の絶好調の時期とあまり変わっていない。これはまともな企業家は正社員の雇用を維持するような経営をしているためです。なぜかというと新卒一括採用だからです。新規学卒一括採用という雇用慣行があるのは、世界中がそうだと思っていたら間違いで、日本と韓国だけなのです。日韓以外の国では、非常に大げさに言えば、会社の定員に欠員が出なければ若い人はその会社に就職はできません。もちろんハーバード大学など名門校を卒業した人は別格でしょうけれども、イギリスなどでは若年者の失業率が非常に高いです。
新規学卒一括採用の功罪もあります。マクロ的にみれば、日本は若い人の失業率が増えたといってもヨーロッパ諸国に比べれば低いのは、新規学卒一括採用のシステムがあるから。ただし、ワンチャンスです。ワンチャンスでうまく就職できないと非常に苦労するというのは事実としてあると思います。今は経済・雇用状況が好転していますから、会社による学生の囲い込みまで始まっていますが、私の娘などは超氷河期で、その頃は特に女子学生は就職に非常に苦労した。そういう経済変動で若い人が被害を受けるというマイナス面は現実にあります。
次にいわゆる年功賃金ですが、特に大企業では、入社してからずっと長期に人材育成をする。怒られるかもしれませんが、埼玉大学を出ても、大企業で採用1年目から即戦力として活躍できるという人はいないのではないかと思います。非正規と正社員で、職業スキルを向上するための訓練コストは桁違いに違います。企業は長期に人材を育成してその企業の中心になるメンバーを育てていく。そしてそのためには、モチベーションが必要ですから、家族形成期等々含めて、右肩上がりの年功賃金というのが基本的には維持されています。ただし、成果主義、能力主義という賃金体系が導入されていますから、昔みたいに、年齢によって差がなくどんどん上がっていくということではなくなっているのは事実ですけれども、育成して賃金をだんだん上げていくというのはあります。
終身雇用という言い方を「三種の神器」ではしていますが、定年制度と退職金制度です。退職金制度が大企業に行けば行くほどきちんとある。もちろん年功賃金といっても、50歳そこそこでそれまで上昇してきた賃金カーブを寝かせています。定年まで右肩上がりに一直線という時代は終わりましたけれども、基本的には年齢や勤続に応じて上がっていくラインです。
非正規労働者は2,000万人近くいますが、内訳を見ていただくと、943万人がパートタイム労働者です。圧倒的に女性が多いです。他に派遣社員、契約社員、嘱託。嘱託というのは、団塊の世代が60歳を過ぎて膨大な数の人たちが定年を迎えたわけですが、引き続きこの形で働く方が多い。定年後は同じ会社で1年ごとの有期契約で再雇用が多いので、先ほどの図では非正規労働者でのカウントになります。雇用者数全体がどんどん右肩上がりで増えていて、確かに率でいえば非正規労働者が大幅に増えている。ただし正社員がやたらと減っているわけではないということを押さえていただきたいと思います。
(4) ハローワークの三つの仕事
ハローワークの3つの仕事について説明します。ハローワークでは職業紹介や雇用保険の給付を行っていますが、ハローワークが雇用対策も行っていることをご存じの人はあまりいないです。例えば、障がい者の雇用の促進は、国の機関としてハローワークが行います。雇用保険は、働いたらみなさんも保険料を納めるのですが、賃金の1000分の5が労働者の負担になっています。そして、会社側も失業給付部分で1000分の5、他に雇用対策分で1000分の2を払うということで、雇用保険特別勘定という財政基盤となっています。政府はそれを使って雇用対策を行っているのです。
(5) 労働法と判例
実は、このような日本的雇用慣行にあって日本の労働法というのは、例えばフランスのナポレオンから始まった労働法典のような、国家が細かいことまで決めるというのとは違います。企業が非常に社会の中で、信頼、信用されてきてうまくいっていた。今はうまくいかなくなってきてはいますけれども。
以前から各産業で解雇することがなかったのかというと、あったのです。日本の法律でいかなる場合も絶対に従業員を解雇してはいけないという条文はどこにも全くありません。採用も企業の権限ですから。その産業が国際的にも非常に競争力がなくなったということになると、大勢の人が一度に解雇されることもありました。一番分かり易いのが石炭です。日本の基幹産業、中心産業だったのですが、主要な燃料エネルギーが石油に替わった。炭鉱で働いている人たちがたくさん解雇されました。これは極端な例ですが、そういうことはいっぱいある。そうすると、解雇が正当か不当かの判断をどこに委ねるのかというと、裁判所になります。日本の労働法は、それをどのように適用するかを最終的には裁判所が決めています。つまり解雇権濫用法理として、裁判所が長年培って判例をいっぱい出してきたわけです。裁判所が判例として、解雇権濫用法理に照らして、客観的合理性や社会的相当性がない場合、解雇権を企業・使用者側が濫用しているからこの解雇は無効だ、としてきたわけです。日本の中では判例法理がひとつひとつ積み上げられて定着して、労働法を構成してきたと言えます。まだまだ労働契約法の中に入れなければいけないものがあるそうですけれども、何でこんな話を延々としてきたかというと、官の非正規職員についてお話しするためです。
2.東京ハローワークの非正規労働組合
(1) 東京ハローワークについて
東京のハローワークの非正規職員労働組合を一緒に協力して作ったところです。作るにあたっては人事院の関東事務局に行って登録をする、ということが必要です。みなさん、『任用』という言葉をご存知ですか。公務員は『任用』という形で働いています。先ほど法源の話で申し上げましたが、公務員の労働組合には労働協約の締結権すらないです。公務員の労働組合は大変実力を持っています。平和の問題その他様々な問題で連合が主催して大きな集会があると、公務員の労働組合からの参加者が大変多いです。だから、実力は持っているのですが、基本的に雇用ではなく任用なのです。
ハローワークの中には職員が全国で1万900人強、相談員という名称ですが非正規職員が1万5,500人強、職員より多いです。東京だけでいうと職員数が1,269人、これは職業紹介に携わっている。相談員である非常勤職員が1,536人ですから、やはり非正規職員の方が多い。ハローワークに行って職業紹介の相談を受けるときは相談員の対応を受ける方が多いです。大学生のみなさんにぜひご利用、活用いただきたいですが、新宿に東京新卒応援ハローワークというのがあります。ジョブカウンセラーという専門職に当たる人たちがずらっといますが、この人たちも非常勤の国家公務員という位置づけになっています。賃金は現在日額13,960円で、1年契約の更新ですが、民間企業に勤めた経験をお持ちの方、教育訓練機関で働いていた方などもいらっしゃいますが、キャリアカウンセラーという資格を大半の方が持っています。あるいは企業の中で人事労務経験者の方でそれに相当する経験をお持ちの方も現場で力を発揮していただいています。
労働組合を作ったとき、当局側に要求書、解明要求を出して「私たちには何の法律が適用されるのですか」と聞いてみました。採用の時に「あなたたちは国家公務員です」と言われました。「国家公務員ですか」「そうです」と。「では労働基準法は適用されないのですか」「されません」「最低賃金法は適用されるのですか」「違います」。
先ほど申し上げた、国家が働く人の権利を守るために強行法規として定めた法律はすべて適用ではありません。労働契約法も然りです。それでは、国家公務員法のすべてが適用されているのかというと、そうではありません。
現在、一般職の国家公務員はみんなそうですが、労働三権の争議権など、本来は認められてはいない、そのためILO(国際労働機関)から、国際的な労働基準に則って労働基本権を付与すべきという勧告を何度も出されている。日本政府はどう言い逃れているかというと、公務員は確かに法律上労働基本権を制限されているけれども、民間で行われている労使関係で定着をしている賃金をはじめとした水準に準拠して、国会と政府からも独立した人事院が毎年勧告して、国会と政府はそれを適用しています。したがって、間接的に労働基本権を今のところ維持をしているので、検討して改善はしていくけれども、ILOが指摘するような全く無権利状態の労働者ではありませんとしているのです。
特に非正規の人たちは『任用』だと言われていても、集団的労使関係が現実にあるか、働く上での権利があるかというと全くないです。賃金額についても東京労働局は「わかりました。改善が必要でしょうから本省(厚生労働省)に意見を上げておきます」とは言いますけれども、民間の労働組合で認められているのと同等の団体交渉権はありませんから。したがって、働いていく上での基本的な権利がない。みんなどうやって暮らしているのかというと、ダブルワークです。専門職の方ですから、土曜日なり日曜日なり、相談員としての給与以外にも、そちらの方が多い方もいらっしゃいますが、仕事をして収入を得ています。従って官の非正規職員というのは権利関係としては非常に制約されているというのが、そもそも問題ではないかと私は思います。
自分で言いにくいのですが、ハローワークはいい職場でした。定年までお世話になって。正職員は労働組合があって、大半の人は労働組合に入っています。何かあったら労働組合が許しません。交渉で「局長、こういう現場でこんな問題が起きている、これはおかしいじゃないか」と正職員はやり取りをしますけれども、非正規職員の人たちはその埒外です。例えば言いにくいですけど今の言葉でいうパワハラ、セクハラ。あるいは1年契約の更新ですので、毎年予算の査定で人が増えたり減ったりします。ここ数年来減ってばかりですが、10人から8人に減りますという話の場合、1人は「すみません、私は都合があって辞めます」となると1人は辞めてもらわなければならない。では、「あなたは更新しません」と言われた場合に「あいつの方がよほど出来は悪いのに、何で俺なのだ」「更新を希望していたのに、どうして私が」という不満が当然出てきますし、やはり所長や部長といった使用者側で恣意的なことが行われていないとは言えなかった。きちんと説明責任を果たさないで、あんた辞めろというような話もないわけではなかったようです。
労働組合が結成され、問題があった時には当局側の責任をきちんと示せ、ということになってこれは激変しました。労働組合を作ったら全く変わりました。私も正職員の労働組合の委員長だったので気が付いてなかったのですが、組合事務所に毎年訪ねて来る方々がいて、「私は辞めることになったけれども、こんなこと言われて許せん」という話を何年も聞き、職場を訪ねるようになると、要するに労働組合がない職場では、使用者側はだんだん横暴になることがわかりました。
自分の産業やわが企業、あるいは従業員の福祉を含めた働き甲斐のある、きちんと利益を上げていくいい企業にしていくためには、労働組合があった方が結果として一番いいのです。これは確信を持って言えます。ただし、労働組合結成の時に社長は嫌がります。うちに労働組合なんてない方がいい、俺がしっかりしているのだから、ということをおっしゃいます。一般論ですけれども、労働組合があった方がいいか、なかった方がいいかを経営者に聞いた場合、従業員が200人を超えると、労働組合があった方がいいという経営者が匿名だと圧倒的に多いです。それはなぜかというと、一般的な職制でいうと部長や課長がイエスマンになって、都合のいい話しか社長には上がらない。働いている現場の人、営業担当者が何で苦労しているか、工場現場の製造ラインの人たちが何を不満に思っているか、何を改善して欲しいと思っているか、工場長が全部把握なんかできない。だから、組織のモチベーションを上げるには労働組合が必要だ、というアンケート結果もあります。
官の非正規職員はそのような状態で今日まで増えてきました。私の問題意識ですけれども、働いている人の過半数を労働組合が組織しないと大きな力にはならない、というのがあります。正職員だけの労働組合を作って、正職員だけの利益を守っていたのでは、何ともならないわけですから、そういう意味で、非正規職員の労働組合を作って良かったなと思っています。また、対等な労使関係を現場でどう築いていくのかという問題もあります。元はいい人でも権限を持つと何か勘違いをして、横暴になる管理者も出てこないわけではないです。そういう意味では、ハローワークの非正規職員が置かれている実態についてお話をしました。
(2) 結成の経験を通して
結成の経験をいうと、労働組合を作りますよということを厚生労働省や東京労働局長に言い、「当然です」というコメントも公式にもらいながら、結成準備会や要求をみんなで決めました。
ハローワークでの求人で交通費がいくらまで出るか。一般的には大きな企業だとあちこちにありますから、例えば東京に住んでいて新幹線通勤で小田原から通っていても全額出します、というのもありますし、中小企業でなるべく近い人に来てもらいたいというのはあるかもしれませんが、月額3万円でそれを超える分は自己負担、あるいは限度額が実費全額、と求人票の交通費支給欄に書かれている場合もあります。しかしハローワークの非正規の人たちは、支給される交通費が往復で日額350円だったのです。知っている限り99.9%の人が全部持ち出し(自己負担)有りでした。こんなバカな話があるかというのをまず重点的にやりました。予算がどうのこうのっていうけど、おかしいだろうということで、ここを重点に進めて翌年が日額500円になり、その次の年が日額1,000円になり、今年の4月から日額1,500円になりました。やる気になればできるじゃないかと。いい例です。職場を改善するには労働組合が、当事者がこうして声を上げないと改善できないと、ここで痛感をしました。マスコミでもいろいろ報道されました。
(3) 労働協約締結権がない、ということ
皆さんの中にも、県庁や都庁といった地方自治体の職場で就職される方もいらっしゃるかと思いますが、公務員の法律をどう改善していくかということもあります。自治労は、非常に大きい、地方自治体の労働組合の連合体で全国に80万人強の組合員がいますが、地方公務員全体でどのくらいの数が減っているかというと、ざっと50万人くらい減っています。50万人くらい減っていて、図書館などで非常勤の人が非常に増えて、70万人増えている。これはなぜだろうというと、役所の人件費は安ければ安いほどいいという論調があるのも否定はできないのですが、労働組合の権限が制約をされているのです。両手を縛られているようなものです。
思い出していただきたいのですが、日比谷公園に年越し派遣村というのができたことがありました。主に自動車産業で働いていた大勢の派遣労働者がリーマンショックの影響で仕事を無くし、派遣会社から解雇された。社宅も急に出なければならず、家賃も払わなければならない、生活費や食費も必要となる。家族や親戚といったネットワークの支援がない人たちは、気が付いたら手元に300円しか無くなってしまったといって、日比谷公園に大勢集まった。それで社会問題になったわけですが、そのときの論調で、自動車業界はけしからんという話があった。けしからんかどうかは置いといて、北米大陸で大量に車が売れ、労使で協約を交わし、仕事が増え車を増産していかなければならないけれども、正社員をクビにして派遣社員を入れるようなことはするなよ、という約束をして、派遣会社からどんどん人を入れました。しかしリーマンショックで車がパタッと売れなくなり、協約どおり正規の雇用は守って雇用の調整弁として非正規の人たちについては退職してもらったということにあの時はなる。
その時に感じたのですが、民間ではそういう労使協定を交わせますが、公務員はこのようなことは交わせません。いくらでも地方公務員は減らせるのです。そして、非常勤を増やすから現在の状況になってきたということを、地方自治体の政策についての意見としてきちんと主張はしていますが、協約のような労使関係で約束できないから、やられやすい。ハローワークも同様です。ハローワークの職員は激減させられています。正職員は毎年削減される一方で仕事は増えるから、キャリアカウンセラーなどの非常勤職員が増えてきてしまっているという状況で、そうはいってもどちらが悪いということではなく、公務部門は労働協約の締結権がないということが、任用とともに、非常勤職員の法制度上のひとつの課題だろうと言われています。
(4) 非正規雇用の問題を変えていくために
労働法の大家の先生によると、正義を守るために法律が作られているという側面があり、日本の雇用システム、経済システム、社会システムの中から労働法が作られて定着をしているのだとされています。例えば、東京大学の山川隆一先生などは「日本の法律は周回遅れで実現をしている」と発言されています。そうであれば、努力次第で法律にして矛盾は解消できると労働組合が本気で思わないと、世の中の矛盾は解消できないじゃないですか。
官の非正規職員の問題も、国家公務員法の適用を受けながら、正規の国家公務員には保障されている諸権利などが保障されずに、正規と同等に近い仕事をして雇用が不安定である。一般的に非正規労働者が抱えている問題は、資格を持っている人もいますから必ずしもそうとは言えないですが、1つは雇用が不安定であること、3か月契約を細切れ更新の派遣の働き方の問題、働き方というか雇われ方の問題です。1年契約であっても来年更新をされるかどうかという不安がありますし、雇用が不安定である。
私は正職員で定年まで勤めましたが、職場の非常勤の仲間から聞き、非正規というのはこんなことなのかというのを初めて知ったことがあります。その人が職場を辞められたら非常に困る。みんなが頼りにしていて能力もあり、資格もあり、経験もあり、仲間に対する指導力もあり、中心的なリーダー役をされている人で、定員が減ろうが増えようが管理者が「あなた辞めてください」なんて言うはずがないような人です。その人と現場のことをいろいろと話していたら、私は特に問題はない、不満はないと最初は言っていたのに、ある時「正月に目が覚める」と言ってきた。正月ですよ。来年今の職場で雇用が継続されるのかどうか、やはり心の底で心配になって夜中に目が覚めるという経験を聞いたのです。私や私の同僚の仲間でこんな経験をした人はひとりもいません。よほどの不祥事や交通事故とかで処分があったりクビになりやしないかというのは、例外的にあったりしますが、来年どこに異動になるかという心配はあっても、雇用が維持されるかどうかなんて心配した正職員はひとりもいないはずです。雇用が不安定というのはそういうことだとわかりました。
非正規の問題は他に、雇用の調整弁ということからすると労使関係で賃金を決められていないということがあります。したがって、傾向としては賃金水準が非常に低い。労働市場の中の、他の人を雇った場合に誰が来るかという原理で決まっていますから、賃金は低い。
あとは若い人が非正規のままだと日本の社会の雇用の土台がおかしくなるのではないか、というのを連合が主張しているところですけれども、先ほど申し上げましたように、企業の中で職業訓練というか人材育成のシステムからはやはり除外されるわけです。本人が努力して自分で学校に行ったりしない限り、企業内の訓練からは外の人、外部労働市場の人、正社員以外の人と扱われてしまって、企業の中でスキルアップができない。
あと、もし辞めた場合に社会保険の適用が不十分であるということもあります。当然年金もそうです。年金も非常に大きな社会保障ですが、途中で雇用が中断している場合、雇用保険とか諸々の問題が発生しています。ただし、非正規はすべておかしいと言い切るわけではありません。もちろんご本人の選択で非正規として働いている場合もあります。例えば、大学を出られて就職される方の中で、デザイン関係とかでプロになる場合には、入口がもう、会社の正社員というよりもまず契約関係から始まるように聞いていますから、非正規がすべておかしいということではないでしょうが、不本意に非正規で就労している人が5割を超えているというのはやはり問題の1つであろうと考えています。
最後にもう一度、労働法の世界で周回遅れと言われていますが、闘うというとイメージが悪いかもしれません。裁判闘争がすべてだということを申し上げているわけではないですが、やはり個々の事例が蓄積され司法が判断して、諸外国には無い解雇権濫用法理というのが日本の中では定着してきたということを考えれば、みんなで連帯して努力して、例えば、非常勤公務員の問題は法律的に明らかな欠陥ですから、そこにきちんと法体系を作る。あるいは本人が希望して選択している場合は別として、非正規雇用の問題が拡大していくという状況に対しては、皆さん労働組合にお入りいただいて、労働組合が連帯して、声を上げて、世の中を改善していくことは十分可能であると申し上げたいと思います。