埼玉大学「連合寄付講座」

2014年度後期「働くということと労働組合」講義要録

第7回(11/12)

グローバル時代でのCSRに取り組む
-髙島屋労使が共に推進する社会的責任(SR)、グローバル枠組み協定の締結と実践-

髙島屋労働組合中央執行委員長 末吉 武嘉

1.はじめに~髙島屋と労働組合の概要

 髙島屋は、1831年に京都で古着・木綿商として創業しました。その後、店舗の焼失などに遭いながらも、1919年に株式会社髙島屋呉服店が誕生。その後、大阪に大型新店舗を開設し、近代的百貨店経営が始まりました。
 現代の「株式会社髙島屋」に商号が変更されたのは戦前の1930年です。戦時中から戦後の混乱期を経て、1993年にはシンガポール、翌年には台北と海外進出をしました。2011年には創業180周年を迎え、上海にも出店し、現在では、海外向け卸・小売販売の合弁会社設立を予定しているほか、ベトナム、タイにも出店を予定しています。
 2014年2月期の百貨店国内営業収益は7,583億円です。無期雇用の従業員は、5,111人で、男性2,383人、女性2,728人で、女性比率は53%となっています。平均年齢は44.6歳です。
 髙島屋労働組合は、1946年に東京、京都、大阪支店で従業員組合として結成し、1973年に全髙島屋労働組合連合会が10の単組によって設立されました。1998年に契約社員の組織化、2002年には、定年後再雇用社員の組織化も行ってきました。2012年には、UAゼンセン(全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟)の結成に参加しました。
 2013年9月1日時点で、組合員数は約10,100人で、女性の割合が7割以上となっています。雇用形態別には、正社員が約50%、契約社員が約15%、パート社員が約20%、定年後再雇用社員が15%となっています。

2.労働組合とCSR~労働組合はなぜCSRに向き合うのか~

 本日は、働くことの尊厳とそれを守る社会づくりについて、「CSR」(企業の社会的責任:Corporate Social Responsibility)をキーワードにして、その重要性を理解していただくことが目的です。その上で、労働を取り巻く社会問題——人権問題をはじめ、人種差別、性差別、格差問題、多国籍企業における国際労使紛争の激化など——についてさらによく知っていただきたいと思っています。

(1) 労働CSRの意味と正当化の根拠
 労働CSRの意味するところは、「労働」に関して受益者(労働者)以外のステークホルダーへの説明責任を企業に求めるということです。
 その正当化の根拠は、第一に、企業社会の現実として、長時間労働や行き過ぎた成果主義、雇用における男女差別、非正規社員の不当に低い賃金処遇などが「自殺増加」「少子化」「貧困」などの社会問題を助長していること。第二は公正競争の視点からで、従業員にしわ寄せをしながら、高い利益を上げるのはアンフェアだというところにあります。

(2)労働組合とCSR
 連合では、雇用・労働・人権分野を重視し、その中で労使協議および社会的・政策的取り組みの重要性を呼びかけています。その上で、雇用・労働・人権分野のCSR実現の取り組みを進めています。
 コーポレート・ガバナンスの観点からすれば、コーポレート・ガバナンスと労働組合は深く関わっています。1990年以降、企業不祥事が相次ぎました。企業のリスクは労働者のリスクとなります。CSRにおける労働組合の役割は非常に重要なのです。

2.髙島屋労使の取り組み事例

(1)(株)髙島屋のCSRへの取り組み
 髙島屋グループは、お客様をはじめ多くのステークホルダーに支えられており、経営理念で掲げる「いつも、人から。」の精神で、ステークホルダーとのコミュニケーション強化・信頼強化に取り組み「社会との共生」をめざしています。
 2006年にはCSR経営の考え方と中長期的な方向性を示した「髙島屋グループCSR経営の方向性」を策定すると共に、CSRレポートの作成・開示など社内外に当社のCSR経営の取り組みを積極的に示し、意識風土改革を推進する組織として「CSR推進室」を設置しました。
 また、環境問題をはじめとする社会の要請や期待の変化を踏まえ、2008年3月に新たに企業メッセージを「‘変わらない’のに、あたらしい。」とし、経営理念の強い思いを社外にも発信しました。

(2)髙島屋労働組合のUSR政策
 髙島屋労働組合では、主体的な社会的責任に向き合うUSR(労働組合の社会的責任:Union Social Responsibility)に基づき、雇用・労働条件に関わる「本質的役割」、人権や人の尊厳の追求などの「倫理的役割」、環境問題などの「今日的役割」といった3つの役割を柱として活動を進めています。
 
 活動のテーマは4つです。1つ目は、「個人の人権・尊厳を重視した労働運動の実践」です。その中では、労働法の精神に基づき、職業における基本的人権を守る取り組み、公正・公平な福祉・労働条件の整備、そして、個人を守る視点を重視した労働運動の実践を行っています。
 2つ目は、「CSR経営推進における重要なステークホルダーとしての労働組合の役割を果たす」ことで、労働組合としてのモニタリング機能を発揮し、従業員重視の「人間尊重」といった理念経営の追求を行います。
 3つ目は、「地球市民としての役割・機能の発揮」です。企業人の枠組みを超えた「人間」としての存在意義を追求し、循環社会の創造ということで地域の共生といったことに取り組みます。
 4つ目は、「新たな時代の労使関係のあり方を追求する」ことです。ここでは、労使がビジョンを共有化し、協力してガバナンスの変革に取り組んでいきます。生産性運動に関する3原則である「雇用の維持・拡大、労使の協力と協議、成果の公正配分」を堅持し、魅力ある産業づくり、業界の社会的地位向上に向けた強固な産業別労使関係を構築していきます。

(3)労使による社会的責任への取り組み
 髙島屋の労使は、1997年より、コンプライアンスを中心に企業行動を振り返り、検証・修正する仕組みとして「これからの行動計画」を導入しました。毎年、労使で継続的に計画を確認し、2006年からはCSR全般を意識した内容に見直し、さらなる企業価値の向上をめざす「グローバル枠組み協定」の基盤としました。

(4)グローバル枠組み協定とは
 グローバル枠組み協定(GFA:Global Framework Agreement)とは、グローバル企業と国際産業別労働組合との間で締結する労使協定です。企業の社会に対するコミットメントを企業自らが宣言するだけではなく、労働者を代表とする労働組合と調印し、ともに推進することを謳う共同公約となります。
 その中では、CSRの実行主体である従業員自らが現場から湧き上がる動きとして当事者となり、取り組みを推進していきます。協定当事者間でチェックし合う仕組みも持っているので、取り組みの実行性が担保されます。

(5)髙島屋労使におけるグローバル枠組み協定
 髙島屋労使は、日本で初めてグローバル枠組み協定を締結しました。この協定では、(株)髙島屋・髙島屋労働組合・UNIグローバルユニオン(UNI、商業・通信の国際産業別労働組合)・UAゼンセンの4者が署名し、国際組織や産業別労働組合も含めて、ともに社会的責任を推進するという形式を取っています。
 主な協定項目は、国内及び国際レベルでの社会的パートナーシップの枠組み、地球環境に対する影響への対処の必要性に関する共通の認識、職場における人の尊厳・基本的人権に関する共通の認識、地域社会における人の尊厳・基本的人権に関する共通の認識、本合意に関する実施、です。
 髙島屋労使では、「協定締結はスタートであって、ゴールではない」ということで、この協定をスリーピング協定にしないこと、社会的対話を切らさず、モニタリングを継続していくことを、締結時に決意しました。
 そして、会社、労働組合、UNIそれぞれが役割を決め、その上で髙島屋労使は、労使協議の場を通じて、対話を行いながら、実践状況を相互に把握し、一体となってCSRのレベル向上をめざしていくということになっています。

(6)グローバル枠組み協定締結以降の取り組み
 締結以降は、日本で初めてグローバル枠組み協定を締結した企業の労使であることを踏まえ、グローバル枠組み協定の理解浸透に重点を置いた活動を推進してきました。
 具体的には、グローバル枠組み協定締結記念日を設け、労使による従業員への理解浸透を図っています。また、広く社会に向けた理解浸透を図る活動も推進しています。UNI・UAゼンセンとの意見交換による社会との対話や、UNI世界大会における当社労使メッセージの発信、外部での講演や、勉強会への参画などを通じて理解浸透を進めています。外部からの取材や研究への協力といったこともしています。

(7)グローバル枠組み協定の実践強化に向けた活動
 髙島屋労使におけるグローバル枠組み協定では、協定の実践強化に向けた活動も行っています。それは、グルーバル枠組み協定における推進項目に基づいて検証されます。
 具体的取り組みの検証では、企業は、当社独自のCSRに関する内部統制の仕組みである「行動計画」において検証します。一方、労働組合は、組合としての「実践プログラム」において検証し、毎年、中央経営協議会にて労使双方でそれぞれの取り組みの内容をモニタリングしていきました。その労使双方のモニタリング結果をもとに、UAゼンセンおよびUNIと意見交換をしていく、という流れになっています。

(8)グローバル枠組み協定の2013年度検証の総括
 最後に、グルーバル枠組み協定の2013年度検証の総括を抜粋して紹介します。

当社では、企業や個人を含むかつ社会の価値観の変化を確実にとらえながら、常に社会に目を向け、社会的責任(SR:Social Responsibility)を履行していく取り組みが重要と認識し、「グローバル枠組み協定」締結企業の労使として、その役割とその責任を踏まえた活動を実施。

2013年度は、各協定項目の取り組みが概ね適正に運用されているものの、ハラスメントは未だ根絶に至っておらず、就労管理などコンプライアンスにかかわる事案なども発生している状況であり、改めて経営、現場、労使がそれぞれの立場で、できなかったこと、足りていないことを現場起点でしっかり受け止め、継続的に、より実効を高めていくことが求められる。

また2013年11月に発生した表示問題(※1)を受け、グループ全体として速やかに実態を把握・報告するとともに、現場の声を労使で共有し、会社、労使、労働組合それぞれがなすべきことを議論し、対応、取り組みを確認。今後はこれらを実効性と継続性あるものとすべく取り組むことが必要。

様々な雇用形態で働く従業員を抱える企業として、企業内はもちろんのこと、取引先も含めた多様な人材の共生は、経営の重要な要素であり、関わりあう職場づくりを通じ、その力を企業の社会的責任の推進力に変えていくことが重要。2012年より強化しているローズスタッフ(※2)の方々を含めた当社で働く全従業員へGFAの理解・浸透に向けた取り組みを継続し、一人ひとりの主体的な行動を喚起し、実践的に高めていくことが必要。

当社はアジア戦略を強力に推進しており、当社グループが標榜するCSR経営を海外事業も含めたグループ総体の企業文化として根付かせていくことが不可欠と認識。GFA締結企業グループとして、会社は、GFAの理念を国内百貨店事業のみならず、海外も含めたグループ全体で共有し、労働組合は、様々なネットワークを通じて取り組みを浸透させていく必要性を強く認識する。

こうした取り組みを「UNI」「UAゼンセン」との意見交換を通じ、社会との積極的対話による信頼構築を図りながら、当該協定のさらなる実践力向上に繋げていく。

※1:2013年10月以降、ホテルや百貨店のレストランなどにおいてメニュー表示と異なる食材を使用していたことが大きな社会問題となった。
 (出所)独立行政法人国民生活センター「消費者問題に関する2013年の10大項目
 2013年12月19日公表

※2:ローズスタッフ=髙島屋の取引先に所属し、そこから髙島屋に派遣される販売員


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