埼玉大学「連合寄付講座」

2014年度後期「働くということと労働組合」講義要録

第4回(10/22)

非正規労働者の組合加入をすすめる-全労金の取り組み報告-

全国労働金庫労働組合連合会(全労金) 中央執行副委員長 櫻井 大介

1.全労金の組織について

 全国労働金庫労働組合連合会(略称:全労金)は、全国にある労働金庫(略:ろうきん)の労働組合が集まった連合会です。結成は、1956年とかなり昔になりますが、その間様々な変遷を経て、今のかたちに至っています。
 構成組織は、労働金庫の労働組合ということで、関連事業も入れて全国に14の単組があります。1956年結成当初は、労働金庫は全国47都道府県に、50の労働金庫がありました。そして、この50の労働金庫それぞれに労働組合がありました。労働金庫はその後、地域ごとに統合が行われ、現在は全国で13の労働金庫になっています。労働組合は、13の単組と中央機関の労働組合である「ろうきんセントラル労組」の14単組となっています。全労金は、結成当初から、「全国の労働組合を一つにする」ということを目標にしていましたので、今はそれに向けた議論を進めています。
 2014年8月1日時点での組合員は、8,843名となっています。雇用区分で内訳を見ると、正職員組合員が6,953名、嘱託等組合員が1,890名となっています。男女別の内訳に関して言えば、男性3,925名に対して女性が4,918名なので、全労金は、女性が多い組織となっています。
 現在、組合員全体のうち嘱託等組合員の割合がやっと2割を超えました。すべての嘱託等職員に占める組合員の割合は現在約48%で、もう少しで半数を超えるという状況です。

2.労働金庫(略:ろうきん)について

 こういった全労金全体の組織を踏まえ、事業体である「ろうきん」について少し話をしたいと思います。ろうきんは、業種としては金融機関の一つになりますが、一般の銀行などとは大きく違う点が3つあります。
 1つ目は、目的が違うということです。労働金庫は、労働組合や生活協同組合で働く仲間が、お互いを助け合うために作られた金融機関です。労働金庫が作られたのは約60年前、戦後間もないころになります。GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の民主化政策の一環として労働組合の結成が進められる中で、当時まだまだ貧しかった労働者が、労働組合として、自分たちでお金を預けたり、貸してもらえる金融機関を作ろうということになりました。今は労働組合員でなくても利用できますが、ろうきんの事業の本質は、労働組合及び組合員が中心となって預金を募り、労働組合の中で必要な組合員に融資をするという組織です。
 2つ目は、運営が違います。ろうきんは、営利を目的にしていないということです。もちろん事業体として運営をしていますから、職員の賃金などを捻出しなければなりませんので、必要最低限の利益は上げていますが、それ以上に儲けることはしない組織です。
 3つ目も運用に関することです。一般の銀行などと違い、営利企業に対する事業融資は取り扱っていません。労働組合に所属する組合員から預かる資金は、大切な共有財産として、住宅や自動車、教育、育児などの資金として、必要とされる組合員に融資をするということで事業を行っています。したがって、融資の取り扱いのほとんどが、組合員への融資に使われている世界的にも珍しい金融機関だということです。今、ネパールでも労働金庫を作ろうという動きがあり、先日もネパールの政府の方にお会いして、労働金庫の運営などについて説明をしてきたところです。

3.全労金の運動について

 次に全労金の運動についてお話しします。
 全労金の活動は、《全労金運動の3本柱》と《2014年度の運動の基調》を基本に、各種の取り組みを進めています。産別である全労金が運動の方針を立て、それを全労金に所属する14の労働組合が、それぞれの現場において、具体的な運動を展開するということで進めています。
 《全労金の3本柱》の1つ目の柱は、「社会的な労働運動の役割を発揮し、全単組が結集する運動と組織運営を確立する」ことです。2つ目の柱は、「労金業態で働くすべての労働者の雇用と生活を守り、労働条件の統一をめざす」です。この「すべての労働者」というのは、今回の講義のキーワードになると思います。労働組合ですから、組合員のことを第一に考えるのは当たり前のことですが、そこにとどまらず、労働組合に入っていない人も含めて、ろうきん業態全体の雇用と生活を守るということを目標に掲げています。
 そして、3つ目の柱は、「協同組織としての健全な労金事業の確立と社会的使命を果たす」です。ろうきんは、労働組合員を中心に作られた企業ですから、労働組合の活動の延長が、ろうきんの事業につながっているという面があります。ですから、労働金庫が社会的使命を果たしているかどうかをチェックするといった取り組みを、全労金として運動の柱の一つにしています。
 《2014年度の運動の基調》については、今の3本柱に則った取り組みを4点挙げています。これらの取り組みの中で、ろうきんの事業を表す言葉として「労働者自主福祉運動」があります。ろうきんが、労働組合員からお預かりしたお金を、必要とされている人に融資をして生活をサポートするという、お互いがお互いを助け合う「共助」の取り組みを、労働者自主福祉運動と呼んでいます
 ろうきんと同じように、労働者自主福祉運動を進める金融機関として、全労済(全国労働者共済生活協同組合連合会)があります。全労済は、保険や共済部分の取り扱いをしています。それに対して、ろうきんは、お金を取り扱っているということで、「全労済とろうきんは車の両輪」ととらえている労働組合が多いと思います。

4.非正規労働者(嘱託等労働者)の組織化に向けた取り組み

[1]組織化の背景:2001年3月時点の組織状況から
 ここからが、本日の話の本題になります。
 全労金は2001年の定期大会において、「全労金組織拡大にむけた取り組み方針」を確認し、非正規労働者の組織化の取り組みに着手しました。この背景には、当時、嘱託等職員が非常に増えてきたということがあります。1987年までの組織状況を見ると、組合員数は10,000名以上いて、全員が正職員でした。また、その頃の職場には、嘱託等職員はほとんどいなかったというのが実情だったと聞いています。
 そして、13年間で約1,800名も組合員が減って、2001年3月時点の組合員数は約8,200名となっています。組合員が減ったということは、正職員が減ったということです。しかし、正職員が減っても、事業としてはこの間ずっと続いていますし、事業規模も、労働金庫そのものは拡大してきています。その背景で、嘱託等職員の数が2,000名以上増えました。つまり、正職員が減った一方で、嘱託等職員を2,000名以上増やし、事業を続け、ろうきんは規模を拡大してきたということです。
 私も2000年当初は職場にいましたが、4月に採用されて入って来る新入職員の他に、職場には「嘱託職員」と呼ばれる職員の方がたくさんいたという記憶があります。

[2]「新たな仲間づくり」運動の展開
 そうした中で、全労金としては、非正規職員の労働条件を改善する観点から、嘱託等職員といわれる人たちにも労働組合に入ってもらい、一緒に組合活動をしようと2001年から方針を立てて取り組んできました。
 当時の職場には、嘱託等職員を労働組合に入れようといった雰囲気はまだありませんでした。労働組合の規約にも、組合員になる人は正職員となっていましたので、正職員で採用された以外の人は労働組合に入ってもらう必要はないのでは、という声もありました。実際これまでは、ある意味企業側が決めた正規・非正規という区分で、労働組合への加入の可否を決めていたことや、非正規は組合員ではないから、職場の改善に一緒に取り組むことができないといったことに、労働組合としても違和感を抱いていませんでした。
 しかし、非正規も正規も同じ職場で、同じ仕事をしているのに、正規だけが労働組合に入ることができ、何か問題があれば労働組合が改善してくれるというのはおかしいのではないか、あるいは、隣に座っている非正規の人のほうが、正規の私よりも仕事ができるかもしれないのに、雇用契約の期間が半年であったり、3か月だったりすることにより、その都度更新を続けている。賃金も私に比べたらずっと少ない。このような状況を労働組合としても矛盾として感じ始め、私たちの運動は、そういった矛盾に目を向けるところからスタートしました。
 そして、3年間を取り組みの期間に設定し、具体的な取り組みを展開しました。取り組む視点としては3点です。まず、非正規といわれる皆さんの雇用の確保と身分の安定を求める。その上で、賃金・労働条件における正職員との「均等・均衡待遇」の実現に取り組もうということです。そして、当時の関連法規などや、労働協約といった職員との違いについて、法律に違反することがないかということのチェックも進めました。
 このように2001年から3年間取り組みをしました。しかし残念ながら、最初の3年間ではこれらの運動をすべての職場に定着させるまでには至りませんでした。

(2)全労金組織拡大にむけた取り組み方針~「第2期行動計画」
[1]立案の背景~労働組合の危機~
 2004年8月に、すべての仲間に開かれた組織をつくり、1万人の全労金組織をめざそうということで次なる取り組みを展開しました。当時、連合が評価委員会を開き、労働組合のあり方について、外部の有識者によって評価を受けた報告書がとりまとめられています。この内容については、連合のホームページ(http://www.jtuc-rengo.or.jp/about_rengo/data/saishuuhoukoku.pdf)で閲覧できます。
 この報告書の内容は、労働組合にとって非常に辛辣です。簡単にいうと、「労働組合は大企業の雇用の安定した労働者の声を代弁しているにしか過ぎないのではないか。労働組合の組織率が20%を切るか切らないかといっている中で、その20%の人の声を代弁しているだけでいいのか。このままいくと労働組合は、人も減るし、運動の質・レベルもどんどん下がっていく」という評価でした。この評価に、当時、労働運動を進めていた人たちも大変なショックを受けただろうと、今私が見ても思います。
 また、この評価報告書の中には、これまでの取り組みの総括から、今後、労働組合は何をめざすべきなのかという提言も記載されています。この先、労働組合が存在意義を発揮していくためには、すべての労働者が結集する組織になる必要があり、さらに、すべての労働者の均等待遇をめざしていくこと。また、賃金の考え方にしても、雇用の区分で賃金や労働条件に差をつけるということではなく、やっている仕事、役割、責任に応じた賃金制度、同一価値労働・同一賃金にするというものでした。
 ほかにもいろいろ書いてあるのですが、全労金が第2期行動計画を立案したのは、連合評価委員会の報告書の影響を受けたということも多分にあるのではないかと思います。このようにして第2期の行動計画では、「嘱託・パート・派遣労働者等の組合加入」と「組合員範囲の見直し」を柱に、10,000人の組織をめざしました。

[2]実現に向けた取り組み
 第2期については、第1期よりもさらに具体的に取り組むということで、まず、「目標の確立・公表」を実施しました。何をするのか、何を目標とするのかということをそれぞれの単組ごとに目標を立て、組織内外に公表しました。
 目標の立て方は、労働組合に加入している人のニーズを聞くということから始めました。組織化までたどり着いていない労働組合の場合は、職場にいる非正規の嘱託員の方々との意見交換会を開催するなどといった具体的な取り組みを展開するようにしました。そして、このような目標を掲げ、単組によっては意見交換会を深め、取り組みの目標に合わせた方針を立てたりしました。
 また、この頃は組合規約の中で、組合員に加入するのは正職員のみという縛りがありました。そこで、これからは非正規の嘱託等職員の方々についても労働組合の組合員として迎え入れていくということで、経営側と協議をし、規約の書き替えなども行いました。
 こういったことを第2期の中で進めていきました。そして、この時期は社会的な流れもあって、全労金の取り組みは大きく前進していくというかたちになります。

(3)「新たな仲間づくり」から「仲間をひろげる取り組み」へ
 そして、第3のステップの取り組みを、2011年8月の定期大会で確認しました。
 今までは、「新たな仲間づくり」ということで、嘱託等職員の人たちに、労働組合に加入して、一緒に職場をよくしていきませんか、という取り組みでした。それを第3のステップでは、「仲間を広げる取り組み」ということで、全単組に展開していきました。組合加入の働きかけとあわせて、加入後の労働組合運動の発展に向けて、職場活動の強化や地域運動への参画など、あらゆる観点から組織強化をめざすというものでした。
 嘱託等職員もこれからはもう「お客さん」ではなく、労働組合のメンバーとして、一緒に我々と労働組合の活動を広げていくことを宣言したのが、この「仲間をひろげる取り組み」という運動方針になります。

(4)すべての仲間が結集できる組織をめざして~仲間をひろげる取り組み方針~」へ
 次に第4のステップ、いよいよ最終ステップです。
 2014年8月に、労働金庫業態で働くすべての職員に労働組合に加入してもらい、一緒に労働組合活動をやっていくための取り組み方針を確認しました。
 すべてのろうきん労働者の労働条件の底上げ、誰もが平等に参画できる組織の確立、経営に対する発言などを、労働組合として一緒にやっていくことを確認し、現在14の単組で取り組みを進めているところです。

(5)この間の取り組みの経過
 この間の取り組みを見ると、第1期行動計画期間中の2007年の時は、嘱託等職員の組合員数は全体の4%ほどでした。それが、直近では21%となっています。この数字からも、嘱託等職員の組合員数の割合が確実に増えてきていると言えます。

5.嘱託等職員の処遇改善に向けた取り組み

(1)各年度の基本スタンス
 次に、嘱託等職員の処遇改善に向けての取り組みについて話をしていきたいと思います。
 嘱託等職員の処遇改善の取り組みは、2005春季生活闘争の要求以降、処遇改善を進めてきました。2005年度以降、各年度で基本スタンスがありました。全労金は、産業別組織となりますので、各年度の基本スタンスを確認した後、実際の要求については、単組それぞれに、自分の職場に合った要求、取り組みを考えるということになります。
 2005年度以降の基本スタンスの特徴的なこととして、格差是正といった言葉が取り上げられるようになったことです。そして、2011年以降の春季生活闘争を最後に、基本的には嘱託等職員をお客様としてではなく、すべてろうきん労組の組合員だということを言葉の中でも整備していったことが見てとれるのではないかと思います。
 それぞれ取り組みを進めていく中で、民主党が政権を取った時は社会情勢と重なり、労働関係の法律の改正が追い風になったこともあります。そして、今私たちが最も力を入れているのが、3年間労働金庫に有期契約で働き続けている嘱託等職員については、本人が手をあげれば無期契約にできるようにすることです。
 2013年4月に改正労働契約法が施行され、有期で5年を超えて雇用を継続された場合は、本人が希望すれば無期雇用にすることが規定されました。実際には、改正法施行後の契約で5年経過してからということが法律の趣旨ですから、法律が適用される第1号の人が出てくるのはまだ先ということになります。しかし、全労金は、本人が手をあげれば無期契約にできる雇用期間を、法律では「5年」となっているところ、「3年」にすることを、2013年の春季生活闘争で要求しました。
 この結果、ほぼ3分の2のろうきんの労組では、3年間以上継続して雇用された人については、無期にすることを実施、もしくは、実施の予定が確認されています。

(2)春季生活闘争の取り組みの成果
 今もっとも力を入れているのは、無期雇用への転換ですが、これまでの春季生活闘争の取り組みでは、時給の引き上げ、一時金の制度化、退職金の制度化が実現しました。
 労働運動において賃金の引き上げは最も重要な取り組みです。ただ、それだけがすべてではありません。今回の正職員と嘱託等職員との格差の是正という観点でいけば、共に賃金の引き上げを要求していては、格差が一向に縮まらないということがありました。ですから、単組によっては、格差の是正を最優先に進めるという考え方の中で、正規職員の賃金の引き上げを止めてでも、非正規の賃金、時給の引き上げに取り組んだ単組もあります。
 また、一時金というのは、本来、その企業が半年間に上げた収益を、従業員に還元するものです。それを有期契約の職員には、「時給制であるから」とか、「契約期間が決まっている雇用計契約だから」といったことを理由として、一時金や退職金という制度はありませんでした。私たち労働組合は、有期契約であっても同じように労働金庫の発展に協力してくれているのだから、きちんと還元すべきだということで、春季生活闘争の要求に盛り込みました。そして、単組が労働金庫と交渉をして、すべてではありませんが、退職金、一時金の制度が実現しました。
 賃金的なことの要求の他に、各種休暇の付与日数・有給化について、正職員と同一の制度としました。また、特に、子供を産み育てることに関して言えば、正規、非正規といった雇用区分によって差を付けることに合理的な理由はないというのが全労金のスタンスです。このスタンスに則って、妊産婦や育児などに関する権利についても正職員と同一の制度を要求していきました。
 教育制度についても、嘱託等職員への拡充が実現してきています。これまで嘱託等職員は、雇用の区分が違うからということで、同じ労働金庫の仕事をしていても、研修の対象になっていない状況がありました。しかし、今、取り組みを進める中で、嘱託等職員も正職員と同じ内容の教育制度が整ってきています。

6.まとめ

○嘱託等職員の組織化と処遇改善に取り組む意義
 現在、ろうきんでは、正職員の3割に迫る人数の嘱託等職員が働いています。そして、この人たちを組織化して、一緒に労働組合を盛り上げていくというのが全労金の方針です。労働組合が、すべてのろうきん労働者の声を代表するためには、この3割の嘱託等職員を無視して、正職員だけで取り組んでいてはだめだというのが基本にあります。
 非正規が増えた背景には、正職員が減って非正規の採用が増えていることがあります。正職員を解雇するということはなかなかできないことですが、毎年の定年退職などによる自然減で正職員を減らしていって、その分、非正規を増やしていくという図式になっていると思います。
 同じ仕事ができるのであれば、賃金の安い非正規を経営者が雇っていきたいと考えるのは当然のことと思います。ですから、非正規の処遇の改善や、雇用の安定の取り組みを労働組合がしていかなければ、正規から非正規へとどんどん人が入れ替わっていくことになってしまいます。我々が職場の中で、この取り組みの意義を説明する時には、嘱託等職員の労働条件を改善することは、自分たちの雇用を守ることにつながることだと言っています。
 そして、何よりも同じ職場で隣に座り、正職員と同じ仕事をする嘱託等職員も労働金庫の中では重要な戦力です。かつては補助職員などといっていた時代もありましたが、今では、嘱託等職員を抜きにしては、ろうきんの運営は回らないのが事実です。したがって、そういった人たちを労働組合に迎え入れ、一緒に活動していくことは当然といえるわけです。そのことが組織化、処遇改善に取り組む最大の意義ではないかと思っています。

○これからの取り組み
 残念ながら、まだ労働組合に加入していない嘱託等職員は5割ほどいます。この5割の人たちに加入していただき、一緒に活動していただくことが、今後、全労金の取り組みの最大の目標だろうと思います。
 私たちは、ろうきん業態で働くすべての労働者の雇用を守り、同一価値労働同一賃金を基本とした処遇の改善に、今後も力を注いでいきたいと考えているところです。
 ご清聴ありがとうございました。


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