1.はじめに
福沢諭吉の言葉に「世の中で楽しいのは、一生涯続けられる仕事を持つということです。世の中で一番さびしいのは、する仕事のないことです」というのがあります。この言葉が私はとても好きなのですが、今日のテーマとしても大きな意味を持っていると思います。
本日は、「働くこと」について、この場で時間を共有している皆さんと考えてみたいと思っています。自分とは違う意見を持った人は周りにたくさんいます。しかし、話してみないとわからないこともいっぱいあります。そういう意味では、たくさんの人と意見交換をする、話し合いをする、そして、自分とは異なる意見を、自分の中にどう取り入れていくかが最終的には重要なことだと思っています。議論をし合える柔軟性を持つことが、個人を育て上げる上では非常に大切なことなのではないかと思います。
2.連合寄付講座について
〈連合寄付講座とは?〉
「連合寄付講座」は、各大学において、単位認定科目の位置づけで開設している講座です。プログラムの作成や講師陣(労働組合役員)の配置など、講座全般の企画・運営に労働組合が主体的に関わるという意味で、他に例を見ない講座となっています。
2005年4月から、日本女子大学を皮切りとして着実に広がりを見せ、現在、連合の関係団体である教育文化協会が主体的に運営する同志社大学、一橋大学、埼玉大学、法政大学の4大学、および47都道府県すべてにある地方連合会という地方組織が、地元の大学と連携をしながら主体的に運営をしている、山形、福井、三重、滋賀、佐賀、長崎、大分の7つの大学、計11大学において当講座を開設しています。開設以降、延べ約5,500名の方に受講していただいている講座です。
〈開設に当たっての課題認識とその目的〉
労働組合の組織率が年々低下し続ける中、労働組合への関心、期待の低さなどが課題となっています。そのような中で、足もとの課題に取り組むことはもとより、中長期的な視点に立ち、“社会人予備軍”である学生に、労働組合の存在とその役割、さらには労働運動の意義などについて正しい理解をしてもらうことが、極めて重要なことと思っています。
こうした認識のもと、それぞれの大学において、[1]学生の働く上での課題を具体的に理解し、その課題解決に向けて考える姿勢を培う、[2]学生が労働組合の役割と労働運動の意義、企業のマネジメントの意義を自ら考える能力を養う、[3]大学と労働組合との連携を強化し、双方の現代的ニーズに積極的に応える、といったことを目的に、当講座を開設し、運営しているところです。
3.労働および労働者のための機関・制度
〈国際労働機関(ILO)〉
1919年、世界の労働者の労働条件および生活水準の改善を目的とする国連最初の専門機関として国際労働機関(ILO)が創設されました。社会対話の推進から国連機関の中で唯一、加盟国が政府、労働者、使用者の三者構成で代表を派遣しています。そして、1944年、アメリカのフィラデルフィアで開催されたILO総会で、ILOの4つの根本原則を定めたフィラデルフィア宣言が採択されています。
その宣言の中で労働について、「労働は、商品ではない」「一部の貧困は、全体の繁栄にとって危険である」と言っています。特に、「一部の貧困は、・・・」を見れば、今もなお格差が非常に大きくなってきていますので、今から95年前にこの宣言を出したということは、大変意義あることだと思っています。
〈三者構成主義〉
政府、使用者、労働組合の三者が平等な立場で社会・経済政策を協議・決定していくことが、先進国では、政策を形成し実現していくプロセスの基本になっています。日本でも、厚生労働省が事務局となっている労働政策審議会では、使用者側からは経団連や全国中小企業団体中央会、日本商工会議所、労働者側からは連合や、産業別労働組合の役員、そして政府に代わる公益代表として大学の教授などが出て、それぞれ同数の三者で労働政策について協議し、政府に対して意見を述べる場となっています。
ただ、最近、政府の安倍内閣総理大臣、経団連の榊原会長、連合の古賀会長が出席して、政労使会議が開催されました。この中で、安倍総理大臣から、年功賃金制度を見直して、成果評価制度を入れた方がいいのではないかという話が唐突にありました。賃金制度や人事制度などの個別の制度については、労使協議で決めることが基本原則です。労働組合の結成以降、それぞれの企業の労使で協議をし、制度を構築してきたものです。三者構成であっても、その内容に政府が介入してはならないと私は思っています。
〈労働に関する法律:「労働組合法」と「労働基準法」〉
働く上での代表的な法律に「労働組合法」と、「労働基準法」があります。労働組合法の第1条において、この法律の目的は、「労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること」と規定されています。また、第2条において、労働組合とは、「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体」と規定されています。ですから、企業経営者が労働者に対して、労働組合を作りなさいとか、労働組合を解散しなさいということは言えませんし、労働者が結成した労働組合を企業は承認しなければなりません。そして、労働組合を作ろうとする、もしくは労働組合として正当な行為をした者に対して、不当な配置転換や解雇など不利益な取扱いをすることは、「労働者が主体となって自主的に」という労働組合法の条文を犯すことになるので、できません。そういう意味で、これらの条文は大変重要であり、労働組合の結成を保障するための法律です。
次に労働基準法の第1条第2項では、労働条件の原則として、「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない」と規定されています。つまり、少なくとも労働組合のあるところでは、労働条件の内容について、労働組合が自ら会社と協議や交渉をしながら最低基準を上回る内容にすることができることになっています。労働基準法は違反した場合に罰則規定があります。ただし、労働基準法を守らなくても実際に刑罰が科せられることは非常に少ないのが実情で、もう少し罰則を強化するための法改正も必要だと思いますが、連合の場合は、法律を守らない企業に対して、不買運動をやった経験もあります。そういうことをしながら、働く者の権利を守っていかなければならないと思っているところです。
「労働組合法」と「労働基準法」は、第二次世界大戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)による民主化政策の一環として制定されたものです。この他に、労働関係の公正な調整を図り、労働争議を予防し、または解決するための手続きを定めた「労働関係調整法」という法律があり、これら3つを総称して「労働三法」と言っています。さらに、労働法制の基礎となる憲法の条文として、憲法第25、27、28条があります。
4.日本型雇用システムの変貌
〈日本型雇用システムの特徴〉
来年で戦後70年になりますが、激動する時代を乗り越えて、我が国は経済大国となりましたが、ここまで経済発展を遂げた理由の一つに「日本型雇用システム」が挙げられます。その特徴の一つが、終身雇用制(新卒者定期採用制と定年制)と言えます。
もう一つは、年功序列制です。勤続年数に応じて、賃金が上がり、昇格・昇進する制度です。先日行われた政労使会議の中で、安倍内閣総理大臣から年功序列制について見直すべきという趣旨の発言がありました。具体的には、「労働生産性の向上を図り、企業収益を拡大させ、それを賃金上昇や雇用拡大につなげていくことが重要だ」ということでした。
安倍内閣総理大臣の発言はもっともなことではありますが、今、企業が収益を上げた段階で、それは株主への配当なり、または内部留保となって、ここ10数年賃金は上がっていないのが現状です。ですから、これは企業に対しては大変ありがたい言葉ですが、我々働く者にとっては、この言葉は信用することができないということになろうかと思います。
それで、連合の古賀会長は、「中小企業や、非正規労働者の底上げが鍵で、物価上昇に国民所得が追いついていないということで、今の賃金体系については、長い間労使で協議をして決めてきたものだ。年功序列だけを見て、解消すべきだというのは乱暴だ」と発言しています。
年功序列制を廃止し、成果主義・評価主義を取り入れた場合、どういうことになるかというと、企業では人事異動があります。何年間か同じ部署にいて、新たに配置換えをされる制度です。配置換えをされた人は、先にその部署にいた人よりも知識も仕事も劣り、どうしても差が出ます。そうすると、評価が下がり、賃金が下がってしまう可能性があります。会社の命令によって異動したことにより賃金が下がってしまうのは問題ではないかと考えます。それから、やっている仕事が同じでも、評価者が変わることによって、その人の評価が変わってしまうこともあります。
成果主義・評価主義を取り入れるにあたっては、こういったことも含めて、まだまだ改善しなければならないことが多くあります。実際、グローバル化に伴い外国人労働者を多く雇い、そのために成果主義・評価主義を最初に取り入れた製造業でも、これらの制度について見直すという検討が進んでいます。
〈人件費の削減〉
グローバル化の中での企業の生き残り策ということで、人件費の削減ということがまず考えられてきました。今は、人件費が安いということで、海外に移転する企業が非常に多くなっています。2013年にタイで水害がありましたが、水害で日本の細かい部品を作っている工場が動かなくなりました。そのため、日本の大きい工場に部品が入ってこないということで、タイの水害が日本の経済にも大きな障害となったというニュースを皆さんもお聞きになったと思います。
人件費の削減ということでは、整理解雇について少し付け加えておきます。企業が、不況や経営不振などによって、解雇せざるを得ない場合に人員削減のために行う解雇を整理解雇と言います。しかし、簡単に行わせるわけにはいかないので、整理解雇については、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、権利の濫用として、労働契約法の規定により、無効となります。また、これまでの裁判例により形成された、「整理解雇4要件」という判断基準があります。1つ目は、人員削減措置の実施が不況や経営不振などによる企業経営上の十分な必要性にもとづいていること。2つ目は、配置転換や希望退職者の募集など他の手段によって解雇を回避する努力を経営者がしたこと。3つ目は、整理解雇の対象者を決める基準が客観的・合理的でその運用も公正であること。4つ目は、解雇の必要性とその時期や規模・方法について納得を得るために、労働組合との協議や労働者への説明を行うこと。これら4つの要件が満たされて初めて、整理解雇が有効であると認められることになっています。
この整理解雇については、直近の約10年間で大変多くなってきています。その時に、労働組合が有るか無いかで、働く人たちに大きな影響を及ぼしてきたと言えます。
〈非正規社員の増加〉
次に、雇用形態別労働者数を見ると、1985年では、役員を除く雇用労働者は約4,000万人でした。それが、2012年では5,100万を超える数になっています。正社員については、1985年も2012年も大きく変わっていませんが、非正規労働者数が大幅に増えています。このことから、新卒の正社員の採用を抑え、抑えた分を非正規社員に置き換えていると考えられます。つまり、定年で退職した人が10人いても、その翌年の新入社員は1人くらいしか採らず、あとは全員非正規社員を雇うといったことです。固定費を減らしたいということで非正規社員を増やしてきたということが言えると思います。
このことは、これまでの日本型雇用システムを大きく変えました。1995年に日経連(当時、現在の経団連)が、「新時代の日本的経営」という提言を発表し、長期勤続型、専門能力活用型、柔軟型に切り分けました。これは、正規労働者から賃金の安い柔軟型つまり非正規労働者へ転換し、総額人件費の抑制を狙ったもので、これが発表されてから非正規労働者が急激に増加していくようになりました。
正社員と非正規社員では、生活実態においても差があります。現在、年収200万円以下の労働者数は、1,100万人を超え、年収300万円以下の労働者数は年々増加し、全雇用労働者の3割以上を占め、1,700万人に及んでいます。非正規社員の増加に伴い、低所得者が増加し、雇用労働者の所得格差が広がっています。
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ここでちょっと一休みをしたいと思います。
連合では、47都道府県にある地方連合会と連合本部で労働相談ダイヤルを設けています。毎月1,000件近い労働相談があるのですが、そのうちのいくつかを紹介します。
一つ目は、就職活動中に提示されていた労働条件と入社してから渡された労働契約書の中身が違うというものです。会社説明会では、基本給が25万円と聞いていたのに、実際は25万円の中に60時間分の時間外手当が含まれていたということです。このことについて我慢するしかないのかという相談です。
この相談については、我慢する必要はないということをまず言っておきます。裁判例では、[1]時間外割増賃金に相当する部分が、他の賃金と明確に区分されていること、[2]何時間分の時間外割増賃金に相当するのか定められていること、[3]実際の時間外労働時間で計算された割増賃金が時間外割増賃金に相当する部分を上回る時はその差額を支払うこと、が求められています。ですから、本来、基本給25万円の中に時間外手当が入っているということはあり得ません。
また、残業60時間分を含めたケースは、企業の安全配慮義務に照らして問題であり、このことは相談者だけの問題ではなく、職場全体の問題となります。ですから、相談者には、問題解決に向けて一緒に考えていくために、ぜひ連合にお越しくださるよう伝えています。
今は一人でも労働組合に入ることができます。47都道府県にそれぞれ地方連合会があります。そこには一人でも加入できる地域ユニオンがありますので、そこに加盟することで、それぞれの地方連合会がその企業に行って、この人の契約はおかしいのではないかという交渉ができるという制度もあります。一人で悩まず、相談をすることが必要だと思います。
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5.最低賃金について
最低賃金は、まず、三者構成にもとづいて、公益(大学)の皆さん、経営者、労働組合の役員が委員となっている厚生労働省の中央最低賃金審議会が、毎年7月末に全国の引上げ額の目安となる金額を提示します。今年の目安額は16円でした。中央最低賃金審議会で目安が決まった後、各都道府県で同様に設けられている三者構成の地方最低賃金審議会が、都道府県ごとの金額を決めていきます。これを地域別最低賃金と呼んでいます。
10月1日から、新たな最低賃金が適用され、全国平均は780円です。東京都が一番高くて888円、埼玉県は802円です。ですから、埼玉県では10月1日から802円未満で働くことは許されません。ただ、企業経営者の中には、最低賃金があることさえ知らない人が結構います。厚生労働省が、最低賃金のポスターを駅などに貼っていますので、自分の地域の最低賃金を知っておいてください。
6.労働組合の果たす役割と責任
〈会社規模と労働者数と組織率〉
2012年の厚生労働省の調査によると、従業員数が1,000人以上の会社では、そこで働く人は1,135万人いて、労働組合のあるところは約45%となっています。また、従業員数が100人以下の会社では、約2,500万人が働いていますが、労働組合のあるところはたったの1%ということです。
それから、労働組合の組織率と労働協約(団体交渉などで、労働組合と会社が労働条件や組合活動について合意し、その内容を書面にしたもの)の適用率の国際比較を見ると、日本は今、労働組合の組織率が約20%で、労働協約の適用率もそれに似通った数字で約20%です。一方、フランスでは、労働組合の組織率はわずか7.7%ですが、労働協約の適用率は約93%となっています。
ただし、日本とヨーロッパでは労働協約の適用範囲に違いがあります。ヨーロッパやアメリカでは職種別や産業別で労働組合を作りますが、日本は企業別で労働組合を作ります。ですから、日本の場合は、組合員以外の人は労働協約の適用が受けにくくなっています。
〈労働協約と就業規則、労働組合の組織形態〉
労働協約が適用されない場合は、労働基準法の第9章に就業規則に関する規定があります。その作成の手続きは、第90条で「使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない」となっています。
労働組合を作る場合、日本では主にオープンショップ制とユニオンショップ制があります。例えば、東京電力では、労働協約において、東京電力に入社した者は、1か月後に労働組合に加入するというユニオンショップ制をとっています。オープンショップ制は、労働組合に入っても入らなくてもいいというものです。そういう意味で、「労働者の過半数で組織する労働組合がある場合」という文言がこの条文の中に入ってきているということです。
後半の「労働者の過半数で組織する労働組合がない場合」には、労働者の過半数を代表する者を選出して意見を聴かなければなりません。選出の方法は、投票や挙手などによる選挙が民主的と言えますが、実態は、使用者が指名するなど民主的とは言えない不適切な例が少なくありません。つまり、仮に私が使用者だとして、皆さんの中から何人か指名をします。そして、その何人かから意見を聴く。意見がなければそのまま出せばいいということになります。ただ、意見を聞かれた人は、自分の意見だけしかいうことができませんし、周知することもできません。したがって、就業規則には、労働者の意思が反映されにくいということになります。
労働組合では、組合員の意見を聞いてから、会社との交渉に入っていくことができますが、労働組合がなければ従業員の意見を吸い上げることもできません。そのため、どうしても就業規則は経営者が一方的に作った規則となり、行政官庁に届けられるということになるわけです。
こういったことを考えれば、企業に労働組合が有るか無いかによって、労働条件はかなり違ってきます。日本の場合は、労働組合を作らないと労働協約の適用が受けられませんので、労働組合を作るということが非常に大切なことになります。
〈労働組合の組織形態〉
日本の労働組合は企業別労働組合ですが、その他の組織形態として、企業連合(企連)というのもあります。たとえば、自動車会社では、製造するところ、販売をするところ、部品をつくるところがありますので、それぞれのところで労働組合をつくります。そして、それらを集めて、企業連合というものを作るということです。
それから、産業ごとの産業別労働組合(産別)というのもありますし、一人でも加盟できる労働組合として地域ユニオンといったものも機能しています。
さらに、連合は世界組織にも加盟しています。ITUC(国際労働組合総連合)の組合員は約1億7,518万人いますが、そこに連合が加盟して、国際的な連携をしているということになります。
〈労使関係が果たした役割と評価〉
1955年に労使が同意をして、日本生産性本部という団体がつくられました。そこで生産性運動が継承されてきました。この中で、生産性向上のための生産性三原則というのがあり、「雇用維持と拡大」「労使の協力と協議」「成果の公正な分配」といったことで長らく運動が続けられてきました。
しかし今、三つ目の「公正な分配」というのがなかなか行われてきていません。企業が利益を内部留保に回して、分配に回していないということです。パナソニック(旧社名:松下電器産業)を一代で築き上げた松下幸之助のように、労働者を大切にする経営者は、なかなかいないというのが現状です。
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ここでまたちょっと一休みします。労働相談には、「ブラック企業」に関わる相談も多く寄せられます。「ブラック企業」についての公式な定義はありません。しかし、インターネットなどで「ブラック企業」と検索すればいろいろな企業の名前が出てきますし、その中でのランク付けなどもされています。また、東京都産業労働局が作った「ポケット労働法」という冊子があります。こういったものに目を通しておくといいかと思います。
企業規模に比べて、募集人員が過大であることや、離職率が高いことも問題であると言われています。そういったことについては、「就職四季報」が役に立ちます。ここには企業の離職率や年次有給休暇の平均消化率などが記載されています。ぜひ、本屋さんで立ち読みでもいいので、そういうものも活用されるといいかと思います。
そして、「おかしい」と思ったら、すぐに連合や都道府県労働局などに相談してください。
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7.連合がめざす社会:「働くことを軸とする安心社会」
今、連合では「働くことを軸とする安心社会」という提言を社会に対して発表し、意見交換などをしています。「働くことを軸とする安心社会」とは、働くことに最も重要な価値をおき、誰もが公正な労働条件のもと多様な働き方を通じ社会に参加でき、社会的・経済的に自立することを軸とし、それを相互に支えあい、自己実現に挑戦できるセーフティネットが組み込まれている活力あふれる参加型社会を言っています。
〈「働くことを軸とする安心社会」を創りだすために〉
「働くことを軸とする安心社会」では、人々がやりがいのある仕事に就くことを妨げる要因を取り除き、「働くこと」に結び付ける「安心の5つの橋」をかけていきます。その橋とは、一つ目は、教育と労働市場をつなげる橋です。教育費負担を軽減し、実践的な生涯教育を提供し一旦働いても学び直すことができる条件を整備するということです。民主党政権の時に、連合が提言をして実現した高校授業料の無償化といったようなことを、もう一度整備をする必要があるのではないかと思っています。
二つ目は、出産・子育て、家族のケアに関わりながら、働き続けられるための橋です。保育や介護などのサービスを充実するとともに、生まれた家庭の経済状況にかかわりなくすべての子どもたちに基本的な認知能力の習得や就学機会を保障し、すべての働く人、また働きたいと考えているすべての人に橋をかけたいということです。
三つ目は、雇用がディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)であることを保障したいということです。それぞれのライフステージに合わせて働くかたちを変えることができる橋です。
四つ目は、解雇または自発的離職から再び戻るための橋です。雇用保障の改革、第2のセーフティネット(生活給付+職業訓練)の整備、職業紹介の充実などにより、一人ひとりの能動的な就労への取り組みを支える。失業しても、職業訓練などを受けて自分をスキルアップさせ、新たな自分となって再度就職できる、そういう制度を充実させることです。
五つ目は、生涯現役社会をつくる橋です。高齢者や障がいを持つ人びとを就労に結び付ける支援体制を整備する必要があると思っています。
そして、この5つの橋をかける前提は、ディーセント・ワークの実現と創出です。仕事に見合った所得、ワークルールの確立、ワーク・ライフ・バランス、ディーセント・ワークの創出、切れ目のない生活保障、こういうことが非常に重要だということです。
〈労働運動に求められる役割と責任〉
今、連合は労働組合として何をしなければいけないのかということで、一つは、社会運動の軸となるということです。雇用労働者は、5,000万人を超えていますが、労働組合の組織率は18%を切りました。2020年までに、より多くの企業に労働組合を作りたいということで、今、連合では、ヒトも情報も集約する部署を連合本部につくり、少しずつその成果が上がってきているところです。
また、今の政府がいろいろな規制緩和をやろうとしていますが、労働法制についての規制緩和はすべきではないと思っています。こういった考えを明確に出しながら、広く皆さん方に理解を求め、連合の政策を応援していただきたいと考えています。
それから、労働者福祉事業団体、全労済、労働金庫といったところと一緒に労働者福祉事業をやっていこうということで、今、連携を強くしているところです。さらに、地域で顔の見える運動ということで、47都道府県すべてに地方連合会、その下に組織されている260の地域協議会が、皆さんにより近い運動を展開しているところです。
そして、次世代の育成ということで、連合の役員、企業別・産業別においても役員を育てていかなければなりません。それから、世界につながる運動をしなければならないということもあります。そういうことをしながら、連合は今、「働くことを軸とする安心社会」という提言をまとめ、広く意見交換をしているところです。皆さんも、これから15回の講座の中で、働くということについての意義や役割といったことをぜひご理解いただければと思っています。
8.おわりに
これから皆さんは、社会に出て、企業などで働くようになるわけですが、もしかしたら、本意ではない企業で働くことになるかもしれません。しかし、そこで諦めてはいけないと思います。私たちは、それぞれ全員、DNAが違います。育った環境も違えば、考え方も違います。違った者同士が集まる組織の中で、その環境にどう合わせていくのか、その環境の中で自分をどう見出していくか、そのことが自分の資質を高め、その企業の中でも役割分担が出てくると思っています。
そういう意味では、何か困ったことがあれば、連合、あるいはそれぞれの地域にある都道府県労働局、労働基準監督署に相談してください。そして、働きたい・働き続けたいという気持ちを持ちながら、大学で今学んでいることを社会に出てからも生かし続けていただきたいと思います。
これで私からの話を終わらせていただきます。ありがとうございました。