埼玉大学「連合寄付講座」

2013年度後期「働くということと労働組合」講義要録

第12回(1/6)

若年者雇用にかかわる課題とその対応
-若者の雇用に関する連合の考え方と労働組合のとりくみ-

連合 非正規労働センター総合局長 村上 陽子

1.はじめに

 現在、連合には約675万人の組合員がいます。そのうち、およそ100万人はパートタイムや派遣で働く非正規労働者です。
 非正規労働センターは、こういった非正規雇用で働く人たちの労働条件の改善や労働組合を作るために設置されています。全国にある地方連合会にも非正規労働センターがあり、連合本部では全国の非正規労働センターのまとめ役をしています。主な活動は、電話での労働相談のとりまとめや、非正規労働者の組織化の取り組みなどです。それから、大学生や若い組合員を対象とした若者向けの運動、およびイベントを行ったりもしていますので、組合員以外の人たちと接点を持つ部署となっています。

2.若者の雇用問題とは

(1)増加する失業率と不安定な職場
 日本では高卒の場合、この会社に就職すると決めたら、学校が仲立をして就職していきます。大卒についても今は就活が厳しい状況になっていますが、それでも毎年4月になると、企業はポストの空きがあるなしに関わらず、新卒採用を定期的に行う新卒一括採用というシステムがあります。
 こういったシステムにより、日本の若者は、学校を卒業して切れ目なく就職できているので、「日本は若者の雇用に関しては優等生」だといわれてきました。欧米の場合はポストに空きがなければ就職できないので、一定程度の空白期間ができてしまいます。そのために20%くらいの失業率になってしまいます。
 しかし、バブルが崩壊した1997年頃から就職氷河期といわれるほど、新卒の採用が抑えられ、その後の何年かは正社員での就職が狭き門になってしまっています。そのため、新卒の就職状況は大変厳しくなっています。
 文部科学省の調査によると、2012年に大学を卒業した人は約56万人で、そのうち就職した人は約35万7千人(63.9%)です。就職した人のうち約2万2千人は「正規の職員等でない者」で、卒業者の3.9%を占めています。また、「正規の職員等でない者」と「一時的な仕事に就いた者」「進学も就職もしていない者」を合わせると約12万8千人となり、安定した職に就けていない人が卒業した人の中で22.9%となっています。
 では、年齢別の失業率はどうかというと、約1年前の統計になりますが、15~24歳で6.5%、25~34歳までが3.9%です。9%という時期もあったので、少し落ち着いてはきていますが、全年齢の平均と比べると若い人たちの失業率は高いということがあります。

(2)若者側だけの問題とはいえない現状
 若者の失業率については、問題ないという見方があります。どういうことかと言うと、若い時期は自分に一番合った職業はなんだろうと模索する時期でもあるので、必ずしも転職することが悪いことではない、そして、転職があるとどうしても空白期間ができてしまうので、失業率が一時的に高くなってしまうのだという見方です。こういったことは、昔から言われていることです。
 しかし、決してそれだけではありません。自分に合った仕事を探すことができない環境で働いているケースもありますし、自分は辞めたくなくても1年の契約なので、更新されない場合は失業になってしまうため失業率が高くなってしまうこともあります。
 また、若い人はこらえ性がないのではないかと言う人もいます。いつの時代でも「今の若者は・・・」と言われますが、本当にそうなのだろうかと考える必要があると思います。

(3)受け入れ側の問題
 若者の雇用問題のなかで、卒業後の離職率でよく出てくる「七五三現象」があります。これは、中卒で7割、高卒で5割、大卒で3割が3年以内で辞めてしまうという現象を指しています。近頃は、高卒の人たちは辞めなくなっているようなので、「五」にはなっていないのですが、傾向としてはそのようになっています。
 これも「石の上にも3年。我慢しろよ」と、やはり我慢が足りないという人たちもいます。政策決定の席でもそういう説を唱える人がいます。しかし、若者の雇用問題を若者側だけのせいにしていいのか、むしろ受け入れる側の社会が受け入れられる態勢を整えていないのではないかと思います。
 たとえば、職場に問題がないか。最近話題になっているブラック企業の問題でもわかるように、働き続けられない職場になっているのではないか、我慢できないような働き方になっているのではないかということがこの離職率の数字にあらわれているのでないかということです。

(4)就職活動における問題
 いわゆる就活にも問題があります。インターネットを使っての就活はすでに10年以上になると思いますが、だんだんエスカレートしてきています。
 そもそも就活の時に、自分に合った仕事が見つけられずにいるのではないか。あるいは、過大に募集して、後でふるいにかけていくというやり方が企業にも見られるといった雇う側の問題があるのではないか。あるいは、会社と皆さんを結び付ける間に介在している人たちは、学生に合った企業をマッチングさせるのではなく、とにかくビジネスとして収益を上げるために仕事をしているのではないか。そういうことが結果となって、企業とのミスマッチにつながっていく、こういうことも、離職率の陰にあるのではないかと考えます。

(5)大学側の問題
 それから、大学側にも問題があるのではないかと思います。大学の進学率が51%となっている今、大学の数が増加し、新しい学部もどんどん開設されてきています。そういったなかで、大学側が設けている学部と、企業が必要としている人材の間にミスマッチがあるのではないかとも言われています。学生が興味を持つ学部であったとしても、企業側にすればもっと他にやってほしいと思うものがあって、そちらについてはあまり充実していない。なかなか採用に直結しない学部・学科を設けている大学もあるのではないかと思われます。
 それから、早すぎる就活、厳しすぎる就活によって、大学生の皆さんが学業に専念できないということを大学の先生や学生から聞きます。大学で講義を受けたり、レポートを書いたりすることは、社会に出てから役立つ勉強なのですが、なかなかそちらに集中できない、学生にとって気の毒な状況だと思っています。
 こういう大学の問題も、離職率の高まりなどの雇用問題につながっているのではないかと思われます。

3.若者の雇用問題改善のために

(1)増加する若者の非正規社員
 また、若者の雇用問題は、離職率や失業率といった量の問題だけではなく、雇用の質の問題も考えなければいけません。質の問題として、正規社員か非正規社員かということがあります。非正規雇用には期間の定めがあったり、直接雇用ではなく間接雇用であったり、労働時間が短いパート労働であったり、派遣労働であったりしますが、こういう働き方が増えてきているという問題があります。
 新卒で初めて職に就く人でも、非正規という人がここ5年間で増加してきています。非正規として入ったとしても、それが1年たてば正規になれるような制度であれば特に問題にはならないのですが、実際は、非正規で社会に出ると、その後もずっと非正規だという人が54.2%もいます。もともと半分以上は正規で就職していますが、なかなか非正規から正規になっていくことは難しいということがあります。
 このように、若者の雇用問題は量も大切ですが、雇用の質という点で安定した雇用でなかったりするという問題があります。

(2)企業側
 今までの話をまとめると、企業側においては、雇用の質の問題と働かせ方の問題があります。ブラック企業の中で行われている違法な働かせ方、その他にもハラスメントの問題などもあります。そして、早期離職の問題です。これは、七五三問題といわれるように、企業側に辞めざるを得なくなるような問題があるのではないかということで、企業側の問題として考えるべきです。
 それから、人材育成の問題もあります。昔の日本における雇用慣行というと、潜在能力はありながらも、顕在的にはその能力を発揮できていない若者たちを採用して、企業内で訓練して長期的に育成し、その人たちがまた次の若い人たちを教えていくというように長期的に企業が職場で育成していくものでした。しかし、最近は即戦力志向になってきていて、職場の中で人材育成していく視点が希薄になってきています。
 そういった状況のなか、若い人から、企業が何も教えてくれず、教えてほしいと頼んでも無視をされると悩んでしまって、鬱になってしまったという相談も寄せられます。

(3)若者側
 それから、若者側としては、働く現実をわかっていないという指摘もありますが、それ以上の問題として、家庭の経済的問題があります。貧困の連鎖といわれるように、経済的余裕のない家庭では、教育投資がきちんとできないので、高校までしか行けない、もっと勉強したいと思っても大学進学が難しく、大卒を必要とする企業には就職できないという問題があります。

(4)教育機関
 高校や大学に対して、最近、指摘されているのは、「キャリア教育をもっとやってほしい」ということです。実際に自分が仕事に就くとはどういうことなのかを考える機会や、労働基準法などのワークルールや社会保険や雇用保険について、学生の段階から教育をしてくれる場が少し足りないのではないかと指摘されています。
 それから、マッチングの問題です。企業の情報が行きわたらず、学生の間に大企業志向があるのではないかとよく言われます。最近は少し変わってきていて、中小企業にも目を向ける学生も増えてきているということですが、実際、良い中小企業はたくさんあるので、もっと目を向けてほしいです。

(5)政府の雇用戦略対話での議論
 2012年の民主党政権下で、政府と連合、そして使用者側の経済団体等との間において雇用戦略対話という政策会議がありました。その中で、若者については機会の均等、キャリア教育の充実、若者のキャリアアップをどのように推進していくのか、それと雇用のミスマッチをどう解決していくのかということが議題にあげられ、検討されたことは、「若者雇用戦略」としてまとめられました。
 議論において連合が主張したことは、「良質な雇用の創出」「若者への投資」「働き続けられる環境の整備」「地域における連携」の4点です。若者への投資は、働く力をつけてもらうための教育投資です。学ぶ権利や機会の保障に加え、キャリア教育についても検討されました。働く力をつけて、働き続けられる企業を作って、それを働く場と結んでいこうということでマッチングの問題についても検討されました。マッチングの問題では、中小企業の情報がまだまだ少ないと思っています。ただ、情報をきちんと提供してもらおうとしても、中小企業は規模も大きくなく、お金の問題もあるので、なかなか難しいところがあります。その場合は、ハローワークの求人情報をきちんとしていくとか、大学と厚生労働省が合同の中小企業説明会をやっていくことなどの必要性を話してきました。
 また、キャリア教育については、もう少し早い段階から仕事について考える機会があってもいいと思っています。フィンランドでは中学校ですでにキャリアカウセリングを受けているそうです。そして中学3年になると、1対1のカウンセリングを受け、将来を決めていくということです。そこまで早く進路を決めるのかという疑問はありますが、外国のことも参考になると思っています。

4.連合・労働組合の取り組み

(1)職場・地域における取り組み
 このような議論をもとに連合では、職場や地域において様々な取り組みをしています。職場においては、長時間労働の撲滅など働き続けられる職場づくりに取り組んでいます。また、組合がない職場で働く人たちのために行っているのは、厚生労働省の労働政策審議会や内閣府の若者雇用戦略推進協議会などを通じた政策実現です。
 それから、若者に労働組合を知ってもらわないと組合に入ってもらえないということもあるので、そのためのイベントもいろいろ行っています。その一つとして、2012年10月に「女子学生のための、就活応援セミナー」をやりました。このセミナーで好評だったのが、就活のためのビューティー講座です。講師を招いて、身だしなみや立ち居振る舞といったことについてお話してもらいました。その他にも、女性組合員から、実際働く中でどんな楽しみや喜びがあったのか、また苦労があったのか、ということを話してもらいました。
 もう一つは「就活応援カフェ」です。2013年4月の中央メーデーで、会場の一角に場を設けて、20代30代の若い組合員と学生で、仕事ってどういうことなのとか、就活の時どうだったのかということを話し合ってもらいました。これは、社会人がどんなことをしているのかを知ってもらう意味もありましたし、自分が仕事に抱いているイメージが実際とは違っていることもあるということを知ってもらう目的もありました。そこに参加した学生と組合員の「声」を紹介します。学生からは「自分の悩みは誰もが抱えているんだな」「働くことのイメージがよりリアルになった」といった声が寄せられました。組合員からは「刺激を受けた」「明日からまた仕事を頑張ろうと思った」など、プラスの声をたくさんいただきました。 
 東京以外の地域においても、たとえば連合北海道では「就活応援セミナー」を年3回くらい行っています。そこでは実技もしていますし、人気の講師を呼んで講演会をしたり、実際にいろいろな業界で働いている人たちに来てもらって話をしてもらったり、直接いろんな話を聞ける活動を行っています。
 また、連合愛媛には「労働ハンドブック&セミナー」というものがあります。このハンドブックには、社会保険の話や派遣と請負はどう違うのかといった働く上での制度的なことが書かれています。こういうものを地方独自で作って、セミナーを行っています。

(2)若者を対象にした労働相談
 連合では全ての働く人に向けた労働相談を行っているのですが、若い人を対象にした労働相談も行っています。
 2012年6月には「新社会人のため、全国一斉労働相談キャンペーン」として、社会人になりたての人をクローズアップしたキャンペーンを行いました。寄せられた相談としては、長時間労働の相談の割合が非常に高かったという特色があります。親御さんからも、夜遅くまで帰ってこない、休みもとれていないようだという相談がありました。
 2013年12月には「就職後に泣かないための、就活応援ホットライン」を行いました。就職活動が解禁になった直後ということもありますし、求人広告や求人票をめぐるトラブルが増えているということもあり、注意喚起をしたいという思いもあって、こういうテーマで取り組んでみました。求人票に書いてあることと実際の待遇が違っていたなどの相談が2日間でおよそ30件寄せられています。
 皆さんに注意してほしいのは、会社説明会や求人広告では調子のいいことを言っていたり、曖昧だったりしていたにもかかわらず、実際の労働条件は違っているといった問題が増えているということです。疑問に思うことがあれば、大学のキャリアセンターに聞いていただいても結構ですし、私どもの労働相談に電話していただければベテランの相談員が対応しますので、ぜひ頼っていただきたいと思います。
 特に、固定残業代だといって、月に90時間とか100時間の残業をしても、ここまでしか払わないという契約をしている会社もあります。これは賃金の問題だけでなく、心身を壊してしまうことにつながります。ですから、困ったことがあればまわりにいる大人の社会人に相談してみてください。ここまでは大丈夫だとかこれは確認した方がいいというアドバイスはもらえるはずです。

5.結びに

 一番言いたいのは、できれば労働組合のある職場に就職してほしいということです。実際のところ、組合があってもハラスメントなどの問題がないわけではありません。しかし、組合があれば、ハラスメントなど困っていることを相談することができ、集団的に職場の問題として解決していくことができるという利点があります。
 しかし、今は労働組合の組織率が18%を切っていますので、組合がない職場に入る可能性も大きいです。その場合は、組合を作るという方法もありますが、会社に入ってすぐ組合を作ろうとするのはなかなか難しいと思います。ですから、そういうことも頭の片隅におきながら就職活動をしてほしいと思います。
 それから困った時は、誰かに相談することを忘れないでください。誰に相談すればいいかわからないという人がとても多いのですが、誰でもいいからまず相談することです。相談していくうちに、解決のヒントに辿りつきますので、相談して声をあげていってください。そうしないと、求人票に問題があることや若者の失業率の増加が社会の問題であることなどが伝わっていかないので、ぜひ声をあげていただきたいと思います。


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