I.労働組合による就業支援活動
1.既卒3年以内の方対象「就職面接会」
(1)連合埼玉と就職支援活動
2010年に雇用対策法に基づく青少年雇用機会確保指針が改正されました。その中で事業主が取り組むべき措置として、学校等を卒業後3年間は新卒として応募できるようにすることが盛り込まれました。これを受けて、連合埼玉でも既卒3年以内の皆さんに対して何か支援できないかと考え、既卒3年以内の人を対象とした就職面接会を埼玉労働局との共催で開催しています。今年は、6月11日に大宮ソニックシティで行われました。
以前から連合埼玉では、新卒支援として企業にハローワークへの求人登録を要請してきました。既卒3年以内の人は新卒と同じという指針に変わったのを機に、連合埼玉加盟の労働組合を通じて、直接企業に働きかけ、連合埼玉独自の就職面接会を計画しました。しかし、当初予定していた数より登録企業が少なかったため、面接会は見送らざるをえませんでした。ところが、この話を埼玉労働局にしたところ、埼玉労働局の面接会にその企業もエントリーしてもらえばいいのではないかという話になり、この就職面接会を開催することとなり、今年で3年目となったわけです。
私たちが就職面接会に関わる大きな理由は、若い人には労働組合のある職場、さらには連合の加盟組合のある職場に就職していただくことが一番いいと考えているからです。連合の組合があるところには、今問題となっているブラック企業はありません。むしろ、労働組合が経営と一緒になって会社をよくしていこうという発想ですから、経営に対するチェック機能もしっかりしています。若い人にはそういう企業に入ってほしいと思い、この就職支援活動に取り組んでいるところです。
(2)「就職面接会」の参加状況
今回の就職面接会に連合埼玉の要請により参加いただいた企業は、114社のうち3社でした。求人数は全体で1,210名、うち連合埼玉の要請による参加企業の求人数は60名です。参加者は299名で、昨年の585名と比べると大幅に減っています。
参加者が減った理由として、新卒者の就職率が少しよくなってきたことが考えられます。就職率は、ここ2年くらい間違いなく改善されています。さらに、就職先を探している若い人たちが、大手企業だけでなく地元の中小企業にも目を向けていることが新卒者の就職率の改善につながっていると思います。既卒者も新卒対象の面接会に参加
できるようになったことも、要因の一つとして考えられます。
就職面接会に参加した理由を聞いてみると、新卒で就職したけれども思っていた仕事とは違っていて退職した人、残業がとても多くて、休みもなく、体がもたないと辞めた人、在学中に真剣に就職活動をしなかった人など様々です。中には、ずっとコンビニのアルバイトをやっているけれども、このままではまずいと思ってこの面接会に参加したという人もいました。同じ面接会に参加する人でも、事情が違うという状況です。
(3)「就職面接会」で感じたこと
私がこれまで面接会を開催して感じていることは、面接を受けに来る人たちからあまりエネルギーを感じられないということです。たとえば、1人当たり面接を受けた数は平均1.56社でした。114社も企業があるのに、1人2社も受けていません。それに、事前にエントリーしている企業はわかっているはずなのに、あらかじめ準備をせず、当日会場に来て資料をもらって、初めてどの企業を受けようか考えているといった具合です。
面接の受け方にも問題があると感じました。特に男性ですが、椅子の座り方や大きな声ではっきり話すといった基本的なことができていません。また、こうしたテクニック以上に、誠意やエネルギーといったものを面接官にどう感じてもらうかが非常に大事だと思うのですが、それがあまり感じられませんでした。この面接会において、その場で採用が決まることはありません。面接会では「○日に改めて来てください」と言われるだけです。だから、まずそこにひっかかるくらいのインパクトがないと次に進めません。
どの就職面接会でも、大切なのは「この企業で働きたい・仕事がしたい」という誠意を相手に見せることだと思います。運などもあるかとは思いますが、諦めずに自分のできることはしっかりと身につけて、面接に臨んでほしいと、この面接会で感じました。
2.東日本大震災県内避難者支援「ホームヘルパー2級養成講座」
(1)「ホームヘルパー2級養成講座」開講のきっかけ
連合埼玉では、東日本大震災の県内避難者支援に取り組んでいます。埼玉県内には、福島県の方を中心に6千人くらいの人が避難しています。そこで、連合埼玉では、諸活動を通じて集めたカンパ金を活用して、避難されている人たちに何とか就労支援をしたいと「ホームヘルパー2級養成講座」を開講しました。
これまでも連合埼玉では、被災地支援として支援物資を送ってきました。また、県内に避難されている方々に対しては、日常的なところで支援できないかと、一人ひとりに必要なものを直接お聞きして、即日届けることができるよう対応していました。そういったやり取りのなかで、ある避難者が「支援物資をいただけることは本当にありがたいことです。でも、私たちはいつまでも支援物資をいただいているわけにはいきません。私たちに今一番必要なのは、働くことです」と言われました。このことを聞き、私はその通りだと思いました。そして、就職支援を労働組合としてやっていかなければならないと考え、この養成講座を実施することになりました。
(2)資格取得を雇用に結び付ける
ホームヘルパー2級は、養成講座を130時間受講すれば資格がとれます。国家試験に合格する必要がないので、比較的取りやすい資格です。資格取得後には埼玉の介護施設で働くこともできるし、いずれ福島に戻った時に、その地域でこの資格を活用することもできます。そういったことも含めて、このヘルパー養成講座を実施しました。受講が終了して資格が取れたら、希望者全員をさいたま市のある介護施設で採用してもいいということまで事業者と話しがついていました。
今年4月に「原発事故避難者が障害児デイサービス/温かい杉戸に恩返しの施設」という記事が新聞に掲載されました。福島から避難されてきた佐藤さんという男性が、埼玉県杉戸町で障害児向けデイサービス施設の開設準備を進めているという記事です。この佐藤さんは、私どもが開催した養成講座に参加されました。また、このデイサービス施設で働く女性3人と男性1人も養成講座の受講者です。
この施設は、すでに6月1日にオープンしています。今、地域の皆さんへの恩返しということで、佐藤さんを中心に杉戸で事業が行われています。
(3)養成講座の成果と今後の支援活動
避難されている人たちは、限定された地域から出なかったり、外出を避けたりしがちです。その意味では、大宮で開講したこの講座は、外に出るいい機会になったと思います。また、3ヶ月の講座を通して、受講者同士のつながりができました。そして、自分たちで事業を起こすことなどもでき、いい活動ができたと思っています。
今後の支援活動としては、福島県ではこれまで原発の放射能の影響で入ることができなかった地域に、徐々に入れるようになってきました。そこで、震災後手つかずになっている避難者の自宅の片づけを手伝っていくことを考えています。今、そういったニーズがどのくらいあるのか調査をしているところです。ニーズがあって、実施できるようでしたら、来年春くらいには実現させていきたいと思っています。
II.地域・NPOとの関わり
1. ネットワークSAITAMA21運動
(1)運動の内容
地域・NPOとの関わりとしては、「ネットワークSAITAMA21運動」に取り組んでいます。この運動では、「出会い・つながり・支えあい」をキーワードにして、3つのことを目指しています。
一つ目は「共生の地域社会づくりへの積極的参画」です。私たちの生活のまわりには、労使間だけでは解決できない、地域に関係する多くの課題があります。たとえば、少子高齢社会では、子育てや介護など、地域で解決していかなければならない課題がたくさんあり、ますます地域の大切さが求められます。そこで私たちは、地域での支えあい・助け合いに積極的に取り組むことを理念としています。
二つ目は「勤労者の生涯サポート活動」です。長寿国の日本で、勤労者の定年後の活動は、地域が基調になると思われます。これまでは職場の中だったのが、今度は自分が住んでいる地域が活動の場になるわけです。そういったことで、地域での生活・暮らし、市民活動などをサポートすることを活動のポイントの一つとしています。
三つ目は「市民社会との連帯と協働」です。最近では、地域の少年野球・サッカーチームの監督やコーチをやることをとおして、地域とのかかわりをもつ若い人も増えてきています。しかし全体を見ると、地域で活動している現役サラリーマンは少ないのが現状だと思います。そうなると、定年後、老後、地域でどうやって活動していくのかという問題がおこります。余暇とは、余った暇な時間という意味ではありません。たとえば定年後に「私、時間が余っているので何かやりますよ。」と言っても、誰も相手にはしてくれません。やはり現役時代から、自分の時間を割いてでも人とのかかわりを持たなければ、絶対に地域は受け入れてくれないというのが事実です。ですから、今のうちから地域との関わりをもつようにする、その支援を連合埼玉でやっていこうというものです。
(2)運動の仕組み
この運動の財源は、ふれあいコミュニティーファンドという、ネット21ボランティア・カードおよび団体と個人からの寄付で成り立っています。ネット21ボランティア・カードとは、500円でこのカードを買ってもらい、そのうち200円が自動的にこの運動に寄付されます。そして300円に関しては、全国のホテルやレジャー施設、県内の飲食店、ボウリング場等の契約店において年間割引価格で利用できる仕組みづくりにかかる費用です。
そして、ふれあいコミュニティーファンドにより、勤労者の暮らしと市民活動を応援するプログラムを3つ用意し、運動を進めています。
(3)具体的なプログラム
一つ目は「ライフサポートプログラム」です。勤労者の生活と暮らしに役立つ各種セミナーの開催、出前講座を行っています。講座は、ライフプランセミナー、退職準備セミナー、介護体験セミナー、年金セミナー、健康づくりセミナー、葬儀葬祭に関わるセミナー、メンタルヘルス、成年後見制度に関するセミナー、賢い消費者セミナーなど多岐にわたっています。「○○な講座をしたい」というオーダーがあると、それに合わせて講師を探して派遣します。講師料は一切いただきませんが、会場代と参加者に係る費用は負担していただく形で、セミナーを開催しています。
二つ目は「ボランティアサポートプログラム」です。ボランティアをしたい人とボランティアをしてほしい人をマッチングさせることも含めて、情報提供や活動紹介を行っています。また、連合埼玉OBを中心にシニア人材バンクを作っていて、そこにも情報提供したり、環境に関わるボランティアに参加してもらったりしています。さらに、このプログラムでは自然環境体験事業も行っています。埼玉県内にある自然豊かな場所に親子で行って、山歩きをしたり、お昼には家族でバーベキューをしたりします。山の学校という、尾瀬の山小屋に泊まるプログラムもあります。
三つ目は「NPOサポートプログラム」です。このプログラムは、NPOに対して物品の助成や小額助成を行っています。物品助成では、NPO組織からのパソコンがほしいというニーズに対して、これまで60台ほどのパソコンを寄贈しています。小額助成は、予算外の急な事業に対しての支援です。一件4万円までという限度はあるのですが、これまでも、DVを受けている女性のためのシェルターが必要とする布団や洗濯機などの購入費用を助成しました。お金の支援だけでなく、親子で焼き芋を作るという活動に、お芋の送料を負担するという助成の仕方もあります。それから、実際のNPOを知ってもらう目的で、体験(訪問)ツアーの実施やNPOインターシップとして実際に体験してもらう事業を行っています。こういった体験をとおして、今度は自分でNPOに参加して、地域活動をしてもらうことを狙いにこの活動を行っています。
2.地域に根ざした顔の見える運動
労働組合の事務所というと、ほとんどは企業の中に組合事務所を作っていますので、一般の人が相談に来ることは基本的にはできません。そこで連合埼玉では、大宮、川越、熊谷、久喜に地域事務所を置き、それぞれの地域で活動し、地域に根ざした顔の見える運動を進めています。
具体的には、市民や県民の皆さんからの労働相談や生活・くらしの相談を受ける窓口を設けています。労働相談では、雇用契約や賃金や職場での問題、労働組合結成などの相談を受けています。生活・くらしの相談では、弁護士、医師、ケアマネージャーなどいろいろな専門の方と連携をとって、相談を受けられるシステムとなっています。
その他にも、無料で会議スペースを提供しています。どの事務所も100m2はありますので、ちょっとしたセミナーなどはできますし、写真展などのギャラリーとしても活用してもらっています。また、震災支援のための物資をここに置いて、必要な方には取りに来ていただくということにも活用しています。
3.深谷若者サポートステーション(愛称:サポステ)への協力
サポステとは、厚生労働省と地方自治体が協働し、働くことに悩みを抱えるニートなどの若者の職業的自立を目指し、包括的に支援する国の事業です。若者支援の実績やノウハウを持つ地域NPO法人などが運営する「地域若者サポートステーション」を深谷に設置し、キャリア・コンサルタントなどによる専門的な相談や協力企業による就労体験など、多様な支援策を提供しています。
連合埼玉としては、熊谷地域事務所をサポステの熊谷サテライトとして無償で提供しています。毎週水曜日に無料相談会を開催し、働くことや自立について悩みを抱える若者や家族に対する支援を行っています。
III.最低賃金
1.最低賃金法
最低賃金については、これまでの講義でも触れてきていると思いますが、最低賃金法を抜粋して、説明したいと思います。
最低賃金法第1条に、この法律には、労働者の最低額を保障することだけではなく、それにより企業、国民経済も良くしていくことを目的としていることが書かれています。そして、原則としては、第9条に地域別に最低賃金を決めなくてはならないと書いてあり、金額については、地域における生計費を考慮しなければならないとあります。その上で、生活保護費を下回ることがあってはならないので、連合埼玉としては、しっかり取り組んでいます。
今年10月20日に埼玉県の最低賃金は、時給778円から785円になりました。多分、皆さんの中では785円でアルバイトをしている人はいないと思います。コンビニでも時給800円くらいだと思います。
最低賃金には、地域別と、業種別の2つがあります。埼玉県では、6つの業種の最低賃金が決まっています。たとえば、コンビニ以外の各種商品小売業として、百貨店や総合スーパーなどで働く人は、埼玉県の地域別最低賃金は785円ですが、産業別の最低賃金で802円と決まっていますから、802円を下回る金額で働かせてはいけないということになります。
2.最低賃金審議会
埼玉県の最低賃金を決めるための審議会に、連合埼玉では5人の代表委員を送っています。あとは、大学の先生などの公益委員が5人、経営者の代表委員が5人となっていて、その中で議論をし、決めていきます。7月から10月にかけて議論が行われるのですが、今年は7回審議会が開かれ、14円のアップを決めました。
中央最低賃金審議会で先に目安を出して、その金額をもとに各都道府県の最低賃金審議会で議論をして決めるのですが、今年は埼玉の目安は12円でした。それを14円にしたというのが、今年の実績です。
産業別の最低賃金も、連合埼玉から委員を派遣しています。このように最低賃金を決めるときには、連合が関わっていることを覚えておいてほしいと思います。
3.第4回雇用戦略対話における合意(2010年6月3日)
政府、労働界、経済界の代表などでつくる政府の雇用戦略対話では、2010年6月3日の第4回会合において早期に全国の最低賃金を800円にし、2020年までに全国平均1,000円を目指すことが合意されています。私たちは、この合意をもとにして最低賃金の審議を行っています。
埼玉県は、今785円になりましたから、あと15円を来年の審議会で上げたいと思っています。景気や企業の状況もありますが、なんとか800円に上げていきたいと思っています。
IV.安心して働くために
連合埼玉では、「なんでも労働相談ダイヤル」を設置しています。
この1年間の相談件数は711件で、相談者の内訳をみると、男性が60%、女性が40%で、50%は正社員からです。アルバイトやパートからの相談が多いと思っていたので、正社員の50%というのは意外でした。年齢では、30代、40代の働き盛りが多く、業種については、最も多いのがサービス業関係、続いて卸小売業、製造業の順になっています。最近の特徴としては、医療関係が増えてきていることです。
相談内容をみると、賃金や雇用に関することが多く、雇用関係では、解雇など退職に関わること、賃金関係では、不払い残業、割増賃金の未払いといったものが多く、残業代を払わないという他に、もともと賃金に残業代が入っているなどと言う企業もあります。企業が倒産して、賃金が2か月分支払われていないというような、賃金未払いの相談も結構あります。こういった場合は、倒産した企業に代わって国が賃金を保障してくれる制度があります。しかし、一般の労働者はこういった制度をあまり知りません。何しろ困ったら連合に電話をいただければと思います。それぞれ地域の連合が、対応するシステムになっています。
実際に働く上では、就業規則、雇用契約、最低賃金の話、割増賃金、有給休暇などに関する法律を、労働者もわかっていたほうがいいと思っています。労働基準法では、第1条と第2条においては、労働に関する法律は経営者だけが知っていて守っていればいいのではなく、労働者も知っていて守らなければいけないと規定されています。
連合埼玉では、「知らないと損をする『労働法ハンドブック』」という冊子を作っています。この小冊子は、駅頭で配ったり、ポスティングしたりしています。皆さんに労働基準法の中身をもっと知ってもらい、安心して働いてもらおうと取り組んでいます。
このハンドブックに書かれていることは、ぜひ知っておいてもらいたいことです。社会に出てからも、鞄の中などに入れておいていただき、ぜひ役立ててほしいと思っています。