1.情報産業労働組合連合会について
情報産業労働組合連合会(情報労連)は、名前のとおり、情報産業の労働組合が集まった産業別組織です。KDDI、NTTグループといった大きな会社の組合から、5人10人の小さな企業まで、この連合会に入って一緒に活動しています。皆さんau、docomo、softbankなど、それぞれ携帯電話をお使いだと思います。企業ではそれぞれ競争していますが、労働組合では同じ産業で働く仲間として手をとりあって労働条件の改善などを進めています。
私は、1993年に国際電信電話株式会社(KDD)に入社しました。国際電信電話株式会社は、2000年に第二電電株式会社(DDI)、日本移動通信株式会社(IDO)と合併したのを皮切りに、16社と合併して、現在のKDDI株式会社に至っています。
2.労働者とは?
『労働』を辞書で引くと、「からだを使って働くこと。特に、収入を得る目的で、からだや知能を使って働くこと。(大辞泉)」となっています。
では、『労働者』はどうでしょうか。世の中には働くことに関する法律がいろいろあります。それぞれの法律で、『労働者とは』と定義されています。まず、労働基準法第9条では、「職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」となっています。次に、労働契約法第2条では、「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」となっており、労働基準法と書き方が少し違っていますが、共通しているのが、使用者に使用され、賃金をもらっているということです。最後に、労働組合法第3条では、「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」とあり、労働基準法、労働契約法と少し違っています。「使用されて」という言葉が、労働組合法の中には入っていません。
このように、それぞれの法律の中で、労働者と言った時に若干定義が異なっているのですが、どの法律をみても、「労働者」とは、労働の対価として賃金・給料を払われる人と謳われています。したがって、アルバイトも、法律において立派な労働者です。アルバイトも含めて、労働者は法律に守られている存在だということです。
3.あなたにとって働くことの意味は?
某社において、2013年度の新入社員251名にアンケートをとりました。「あなたにとって働くことの意味は何ですか」という質問に対しては、一番多かったのが「収入確保のため」でした。その他に多かったのは、「社会への貢献」「自己キャリアの開発」「自分の夢の実現」といったものです。
私から見ると、皆さん優秀だなと思います。働いて、社会に貢献したいという考えを持っていることに、心強く感じます。やはり学生のアルバイトと、社会に出て働くことでは、皆さんの感覚も変わってくるのではないかと思います。
4.入社後のライフスタイルは?
入社してからどのような生活を送っていきたいかという問いには、一番多かった答えが、「仕事とプライベートを両立させた生活を送りたい」です。約8割にあたる223名がこの回答を占めています。その一方では、約3割の77名が、「スケジュールの詰まった多忙なビジネスライフを送りたい」と回答しています。やはり会社に入ったのだから、バリバリ働きたいということです。
その他にも、「のんびりした生活を送りたい」、「仕事よりもプライベートの時間を大切にしたい」というものもあります。これは素直な答えだと思います。ある程度収入が得られるのであれば、やはりプライベートを大切にしたいと思って、この人たちは素直に回答したのだと思います。
5.がむしゃらに働くことは良いこと?
では、新入社員の3割が望んでいる、「スケジュールの詰まった多忙なビジネスライフ」は、本当にいいことなのでしょうか。
会社に入った当初は、早く一人前になりたい、一人で仕事を任されるようになりたいという考えを多くの人が持つと思います。そして、早く一人前になるために、たくさん仕事をし、覚えていきたいと思っている新入社員も多くいると思います。
会社に入ってがむしゃらに働くことは、決して間違いではないと思います。ただ、「がむしゃらに働くこと」と「長時間働くこと」をはき違えてはいけないと思います。
昔は、長く働いている人が、優秀だという見方をされていた時代もありました。いまだにそういう考えを持った人が存在しています。しかし、トータルに考えれば、定時内でがむしゃらに働いて成果を出す人が優秀で、終業時間でさっと帰り、プライベートを過ごすことが理想だと私は思っています。
6.働く上でのルール
(1)労働基準法 労働時間
労働基準法は、私たちが働く上での最低限のルールを取り決めたものです。この中で、労働時間については、会社は一日8時間以上、一週間で40時間以上働かせてはいけないことになっています。しかし、法律ではそうなっていても、この時間内で終わることが成立していないのが社会の実情です。
そうした実情から、労働基準法第36条において、この条文にもとづく取り決め(36(サブロク)協定)を働く側と会社とで行い、労働基準監督署に提出すれば、1日8時間・週40時間を超えて働かせてもいいことになっています。
ただし、厚生労働省で、限度時間が定められています。例として、1カ月は45時間、1年は360時間までというように時間外労働の上限の規制をかけています。そして、そこには割増賃金が発生します。1日8時間を1時間でも超えれば、通常の賃金に25%割増、夜10時以降だったらさらに25%を上乗せすることになっています。会社が、法律に反して、8時間以上働かせるのだから、ペナルティーとして割増賃金を払う義務が発生するということです。
さらに、特別な事情がある場合に限り、さらなる労使間協定を締結すれば、1カ月45時間、1年では360時間を超えて働かせることができるとなっています。ここで若干規制しているのは、特別な事情で働かせる期間は1年間の算定期間単位の半分(1年間のうち6カ月間)までということで、限度時間の設定はありません。
以上のことから、1日8時間、週40時間以内と労働時間が法律で決められていても、実質的には、労働組合と会社が協定を結べば、時間外労働は青天井ということです。これは日本の大きな問題だと思います。
(2)労働基準法 休日および年休
労働基準法のなかで、原則として1週間につき1日、もしくは4週間で4日の休日を義務付けています。今は、多くが週休2日ですが、このうち1日は所定休日といい、1日は法律で決められた法定休日です。
所定休日というのは、就業規則の中で、賃金は減額せずに休むことが決められている休日です。週休2日にしないと5日で40時間を超えてしまうので、そういう対応をとっているところが多いといえます。休日に働いた時には、割増賃金が支払われることになっています。
また、年次有給休暇は、最高20日与えられます。これは、働く側の権利として、法律でこれだけの年次有給休暇が認められています。
(3)労働基準法 特別な働き方
その他にも、研究・開発・企画管理業務などにおいて、労働者の裁量に委ねる必要がある時には、裁量労働制がとられます。この制度は、上司の指示がなくても、その人が裁量を持って、自分で時間をコントロールできる・した方が、会社にも働く人にもメリットがある場合にとられることが多いです。
また、事業場外みなし労働制というのもあります。これは、営業で外に行っていて、労働時間の算定が困難な場合は、所定労働時間を労働したものとみなすことができるものです。労働時間は管理者が管理しなければいけないのですが、外に出てしまうとわからないので、一定の取り決めで、事業場外で働いている場合は、みなしで所定労働時間を働いたことにしましょうというルールです。
それから変形労働時間制というのもあります。たとえば、毎週金曜日が忙しい業務なので、金曜日の労働時間を10時間にし、その代わり月曜が暇なので6時間にする、そういうことができる制度です。その場合、1週間40時間は守らなければなりませんが、働く人たちの意見を聞いた上で協定を結ぶことになります。
7.一般のサラリーマンはどのくらい働いているか?
(1)年間総実労働時間と年次有給休暇取得率
厚生労働省が作成したデータによると、1997年から2011年までの年間総実労働時間は、上がったり下がったりをしながら波がある状態です。この波が何を表わすかというと、時間外労働です。単純に考えると、景気がいい時は、労働時間が増えますが、景気が悪い時には、残業代を軽減するために時間外労働が減る、ということになります。
年次有給休暇の取得率は、1997年頃は5割を超えていましたが、その後ずっと下がっています。年次有給休暇は、取らなくても会社には罰則はありません。労働者は、権利を持っているのに、それを行使できていないというのが現状です。
(2)週60時間働くということは・・・
総務省の労働力調査が出している、1週間当たり60時間以上働いている労働者の割合は、一番高いのが30代40代の働き盛りといわれる男性です。特に30代が高くなっています。毎週20時間残業している人が、30代40代では2割近くいるということです。
1週間当たり60時間以上ということは、週休2日制とすると、5日間で60時間、1日で割ると12時間会社で働くことになります。会社の就業時間が、朝9時から夜6時まで(途中休憩時間1時間)の場合、夜10時まで働くことになります。
ただし、これは会社にいる時間で、通勤時間も含める必要があります。3~4年前に情報労連で実態調査をやってみると、通勤時間の片道が平均1時間でした。そうすると往復で2時間です。朝8時に家をでて、帰ってくるのが、夜中の11時だとすると、睡眠が6時間としてプライベートの時間は3時間くらいしかありません。では、土日でプライベートを充実できるのかというと、これも難しい。日々の仕事で疲れ、土曜日は何もできずほぼ寝ていて、日曜日に好きなことをちょっとやって・・・という状態です。
8.長時間労働と健康への影響
長時間労働のもとでは、本当に充実した生活はあり得ないし、健康にも大きな影響をもたらすという非常に大きな問題があります。
厚生労働省の平成24年度「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」によれば、労災の補償支給決定件数は、残業時間が月80時間を超えると急増していて、脳・心臓疾患の病気を引き起こすことになる危険性が高くなっています。なかには残業が1ヶ月160時間という例もあり、こうなると土日も関係ない、休息時間もないという状態です。
また、メンタル疾患関係の労災件数のグラフを見ても、残業が月100~120時間未満の件数が非常に多くなっています。ただ、メンタル疾患関係というのは、長時間労働が発生する以前に、職場での嫌がらせだとか、パワハラだとかでメンタル疾患に陥る人も多いです。また、職場ではなく家庭の問題で精神障害に陥る人もいます。それでも、統計調査から残業が月80時間を超えている場合はメンタル疾患になりやすいということがわかり、ここ数年増加しています。
長時間労働によって、脳や心臓などの病気を引き起こしたり、精神障害にもなったりしうるということがこのような調査で出てきています。
9.労働時間削減の必要性
平日は夜遅くまで働き、休日は心身の休息にのみに充てる状況では、ワーク・ライフ・バランスがとれません。また、長時間労働は、健康に被害を与え、最悪の場合は過労死を引き起こすことになります。
したがって、健康で働き続け、充実した私生活を過ごすためには、労働時間を削減することは避けて通れないことだと思います。そして、労働時間をいかに短くしていくかということが重要な課題だと思っています。
長時間労働の削減は、労働者側だけでなく、会社にとっても良いことだといえます。
たとえば、時間外労働をさせればその分割増賃金を支払うことになりますし、過労による病休の人が出た場合、その人がやっていた業務の穴埋めとして人を雇うことになるので、コストが増えてしまいます。それに、過労死などが起これば、今は、インターネットなどですぐに広まりますので、会社のイメージが大きく低下します。
一方、長時間労働を是正し、通常の勤務時間内で終わるようになれば、時間外労働への割増賃金を支払うこともないし、十分な休養が取れれば、心身ともにリフレッシュでき、キャリアアップのための勉強の時間も確保でき、仕事の能率も向上します。会社としても、費用の問題、イメージの問題、業務能率の向上につながるということです。
10.情報労連の取り組み
(1)『情報労連21世紀デザイン』:「暮らしやすい社会」に向けて
[1]時間主権の確立
次に情報労連の取り組みについてご紹介させていただきます。2006年に「情報労連21世紀デザイン」を作りました。これは、暮らしやすく、働きやすい社会を作っていきたいと作りました。
具体的には、時間主権の確立ということで、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて、地域社会などとの関わりや、家事・育児・介護などといった時間が積極的に取れるような取り組みをやっていこうというものです。
[2]多様な働き方の確立
それから、多様な働き方の確立という点では、今の自分の置かれている状況に応じて、働き方を選べる社会にしていこうということです。
ただ、誤解しないでいただきたいのは、非正規と正規を行ったり来たりするという考え方ではないです。正社員の中でフルタイムやショートタイムを選択できるといった考え方です。そのためには、雇用形態の違いによる処遇の格差を、解消していく必要があります。
(2)具体的な取り組み
[1]新たな時短目標
情報労連では、自分たちの取り組んだ結果がわかるように時短目標を決めています。新たな時短目標として、年間の所定労働時間の中間目標を1900時間以下、最終到達目標を1800時間以下としました。あわせて時間外労働時間を、360時間から最終的には150時間まで減らしていきます。そして、月45時間、年間360時間を超えて労働者と取り決めをした時に上限を設けることにするといったものです。
また、情報労連に加入している組合は大小様々ですので、3段階で目標を設定して、自分たちで取り組んでいくことを提示しています。この中で一番大事なのは、労働時間などの設定の改善に関して労使が話し合いをする場の設置・開催です。労使双方が、自分たちの働いている職場がどうなっているのかを認識し合い、労使で改善策に向けて話し合いをすることを目標にして設定しました。
それから、従業員の中には、1日8時間、週40時間の労働時間が法律で決められていることを知らずに働いている人もいます。そのため、11月と2月を「労働時間適正化月間」に設定し、ポスターなどを作り職場に配布したりしています。
[2]加盟組合の労働時間における労使協定
今、労使が結んでいる所定内労働時間は、一日7時間30分というのが多く、法律の8時間よりも短くなっています。一方、所定外労働時間については、労災認定時間の100時間を超えて、協定を結んでいるところもあります。
実際にはここまで働く人はいません。ただ、36協定に違反すると罰せられるため、マージンを多く取っているということです。これがいいのか悪いのかも含めて、36協定では残業時間を多く結べるということを知っておいてください。
[3]勤務間インターバル規制導入の促進
最後に「勤務間インターバル」の導入促進について紹介します。
日本では、労働時間について法律で決められていますが、36協定や、特別条項などがあるため、実質上限がないようになっています。さらに、仕事が終わってから、次の仕事まで何時間休めるのかについても、何の規定もありません。そのため、通常勤務で、9時から5時半まで働く、そして協定があるので時間外労働をして、翌朝6時半に仕事が終わり、その後、9時から通常勤務ということができてしまいます。このような状態では、ワーク・ライフ・バランスはおろか、睡眠時間すら取れないということが発生しうるわけです。
長時間労働が健康に及ぼす影響も大きいですが、睡眠時間の確保も健康確保のためには重要な要素となります。既にEUでは、加盟国に対して「24時間について最低連続11時間の休息を付与しなさい」という「労働時間指令」を出しています。これにより、EU加盟国では、休息時間を付与するための国内の法律を成立させるという義務を負っています。
情報労連でも、労働者の健康確保のためには、この「労働時間指令」が必要だろうと、勤務と勤務の間に休息時間の確保のための「勤務間インターバル」の取り組みを2009年から開始しました。
「勤務間インターバル」のイメージとしては、夜中の12時まで時間外労働をすれば、その後10時間を休息時間として、翌日は11時を業務開始するというものです。本来は、朝9時から勤務ですが、2時間は勤務を免除することになります。
もしくは、通信関係の作業は夜中に行ったりしますが、その作業が夜中の2時までかかるとすれば、夜中2時から翌日の午後12時までは休息を付与するということになります。
実は、この取り組みは、「勤務間インターバル」という名前がまだなかった、2009年以前から自主的に取り組んでいた労使もあります。
[4]情報労連の目指す勤務間インターバル規制
休息時間については、EU指令と同様に11時間は確保したいと考えています。また、休息時間が、次の勤務時間に及ぶ場合の扱いは、基本的には勤務を免除し、賃金は支払われることになります。
ただ、この「勤務間インターバル」は、一部の企業が取り入れているだけで、あまり浸透していません。会社の方でも、「よくわからない。なぜ11時間空けなければいけないのか。」というところがあります。
それで、最低でも、6時間は睡眠が取れるようにするということで取り組んでいます。締結している企業を見ると、休息時間8時間というところが多いのですが、「睡眠時間6時間確保」という名目で締結している企業が16社あります。
なかなかメジャーではない「勤務間インターバル」ですが、情報労連以外の産業別組合でもこういったことを取り組んでいきたいというところも出てきています。連合も、数年前から春季生活闘争で「勤務間インターバル」を要求する動きになってきています。労働時間見直しの面から、「勤務間インターバル」について法的な整備も必要なのではないかといった考え方も連合の要求に入れてもらうことになりました。
休息時間の大切さということが少しずつ広まって、連合の中でも法律として顕在化させる取り組みが進んでいるところです。情報労連が始めた取り組みですが、多くの産業別組合にも浸透できるように、今後も取り組みを進めていきたいと思っています。
11.最後に
働くことは、生活していく上で重要なことですが、健康を害してしまっては意味がありません。長時間労働や、それによる睡眠不足になるような無理な働き方は、見直していかなければなりません。
労働時間短縮の取り組みは、非常に昔から行っていることです。私が労働組合で活動をし始めた15~6年前から続けて取り組んでいますが、なかなか難しい課題です。一朝一夕にできない労働時間短縮ですが、今後も情報労連としては、健康に働ける職場の整備を大きな課題として、取り組んでいくこととしています。