はじめに~今日のテーマについて
JUKI労働組合で中央執行委員長をしております芳野でございます。単組で女性の執行委員長というのは珍しいと思いますが、JUKI労働組合が加盟している産別JAMには、単組で中央執行委員長をやっている女性がもう1人います。また、支部レベルになりますと、女性の支部長が少しずつではありますが誕生しています。
今日のテーマである「働きやすい職場」とは、男女が対等なパートナーとして、どちらか一方の性に不利なことがなく、個人として尊重される社会・職場ではないかと考えます。
そのためには、労働条件をよりよくしていく必要があります。ただ、企業が発展していかなければ、労働条件をよくしていくのは非常に難しいことです。一人ひとりが、生産性を上げていき、それと共にスキルもあげていき、その結果として企業が発展していけば、さらに私達の労働条件も上がっていくことになります。
男女が対等なパートナーとして、働き続けやすい、というところを中心にして、今日のテーマを考えていきたいと思っています。
1.JUKI(株)の概要
私の所属しているJUKI(株)は、工業用ミシンが主力の企業です。家庭用ミシンもあるのですが、80%が工業用ミシンです。その他に産業装置も手掛けており、半導体の製造で強豪企業を相手に上位を目指しているところです。
工業用ミシンですので、いわゆる専用機になります。お客様も直接消費者というよりも、縫製工場にミシンをおろしています。今は、国内の縫製工場は、アジア圏にどんどん進出しています。特に最近では、ミャンマーやタイに企業が移動して、JUKIもそちらに移動するという形になっています。また、輸出企業ですので、為替の変動により大きな影響を受けます。民間製造業は、世界経済の波に企業経営が大きく左右されると言えます。
従業員数は、1,539名で、男性1,289名、女性250名と、圧倒的に男性中心の企業です。
2.JUKI労働組合の概要
(1)組合員数の推移
JUKI労働組合は、ユニオンショップ協定を結んでいますので、従業員は本採用と同時に組合員になります。経営に携わる部署や、管理職は組合員から外れることになっていますが、原則は、本採用と同時に全員が組合員になるという規定になっています。
これまでの組合員数の推移をみると、最も多かったのは1991年です。バブルが崩壊してからは、組合員数はどんどん減っていきます。バブル崩壊と同時に、JUKIでは国内にあった工場を、人件費つまり固定費が非常に大きいということで、海外移転することにしました。海外移転によって、製造現場で働いている人たちも海外に行くことになるわけですが、様々な事情から簡単には海外に行けない人もいました。組合では、海外に行けない人たちの雇用を守るために、職種転換していただき、グループ会社に出向し、JUKI(株)の身分のまま、JUKI労働組合の組合員のまま、新たな仕事を得てもらいました。職種転換も嫌だということで、辞めていった方もいらっしゃいますが、組合のスタンスとしては雇用を守っていくということで、労使合意のもとに協力してきました。
また、2002年に金融緩和策がとられた時も、組合員数が大きく減少します。当時JUKIは銀行の貸しはがしにより危機に陥ったのですが、これを乗り切るために、地方の工場を分社化しました。そのため、それまでJUKI労働組合員だった人は、別の労働組合に転籍になりました。それが2007年と2008年に、組合員数が再び増加します。これは、会社が分社化した地方工場を、またJUKIに合併させたことによります。会社が合併したことで、組合もまた一緒になったわけです。
このように会社の状況の浮き沈みによって、組合員数が減ってくればそれだけ活動を縮小していかなければならないですし、人数が増えてくればそれだけ活動も活発になってくるということで、会社の経営環境と組合の役割は密接な関係があります。そして、状況が悪くなればなるほど雇用の危機がやってきますので、組合としても慎重に活動していかなければいけません。
(2)JUKI労働組合の組織について
一般的に企業はトップダウン方式がとられていて、社長以下取締役が事業計画を策定し、それが方針管理のもとに部の方針、課の方針というようにブレイクダウンされてきます。それに対して、労働組合はボトムアップ方式がとられています。
JUKI労働組合の組織をみると、「大会」があり、これが最高決議機関となります。ここで過去1年間、方針に則りどういう活動ができたのか確認し、そして、向こう1年間どういう活動をしていくのかという運動方針を決定していきます。その運動方針に則って、予算もこの大会で決定します。
大会に次ぐ中間決議機関として、「総合委員会」があります。JUKI労働組合の場合は、就業規則よりもう一段拘束力の強い労働協約を持っていますので、この総合委員会では、賃金も含めた労働条件を決めていきます。ただ、春闘で争う月例賃金や、一時金(ボーナス)等賃金に関わる項目は最高決議機関である大会決定になります。
さらに、総合委員会の下に「中央執行委員会」があり、ここで、運動方針に則ってより具体的に活動をすすめていくことになります。この中央執行委員会の下に専門部が置かれ、中央執行委員がそれぞれ役割を担います。組織部、財政部、調査部等があり、それぞれが任務をもってJUKIの中でどんなルールが必要なのかを調査・検討しているところになります。
もうひとつ、JUKI労働組合の中で非常に重要なポジションとして、「専門委員会」があり、そのひとつに雇用平等委員会があります。当初は、女性委員会といっていたのですが、社会の流れが男女平等に向かっていったことに合わせて、女性委員会から雇用平等委員会へと名称を変更しました。JUKIの中で何が女性にとって不利なのかということを専門に議論する専門委員会として設置しました。
3.JUKIにおける男女がともに働きやすい職場環境づくりの取り組み
(1)取り組みの経過
JUKIは男性が圧倒的に多いこともあって、各専門委員会の中に、女性を複数配置するという方針を立てています。中央執行委員も委員長を含め、12名のうち3名が女性です。支部にも同じように女性の執行委員を配置しています。このように、あらゆるところに女性の顔が見えるように活動していく、という方針に則り、女性の登用を進めています。
これまでの取り組みをみていきますと、1991年に、女性の処遇改善を目的に地方工場部門も含めて女性委員会を発足させました。それまで各専門委員会は男性だけで議論していたのですが、男女雇用機会均等法(均等法)ができ、女性の採用が研究開発部門を中心に非常に増えてきたこともあって、もっと労働組合として女性の声を吸い上げなければいけないということで、女性の声を受け止める場として、女性委員会を発足させました。
1994年には賃金専門委員会に女性を配置しました。この時に私も初めて執行委員の立場で、賃金専門委員会に入ったのですが、これまでの賃金専門委員会の考え方というのは、男性が一人で働いて、妻子を養うことがベースでした。ですので、女性の賃金水準については、賃金専門委員会ではあまり議論されていませんでした。そこで、女性委員で、女性の賃金分析をしっかりと行っていこうということになり、プロット図等をこの時期から作成していくことにしました。
そして、1996年に、女性委員会から雇用平等委員会へと名称を変更します。なぜ雇用平等委員会に変えたのかというと、この時期に労働基準法が改正され、女子保護規定が撤廃されました。たとえば、これまでの時間外労働は、男性が年間360時間までなのに対して、女性は150時間まで、さらに休日労働の上限、深夜労働の禁止など、基本的には女性に制限がかかっていました。それが撤廃され、女性も年間360時間、休日も深夜も働けるようになりました。このように、法律がどんどん男女平等の流れに変わる中、労働組合として真の男女平等職場にしていこうということで、名称を雇用平等委員会に変えました。
さらに、JUKIの中で、女性にとって何が不利なのか、女性の声を集めるだけではなく、もっと専門的に取り組む必要があるということで、1998年にすべての専門委員会に女性を複数名配置しました。
(2)男女が対等なパートナーとして
対等なパートナーの基本は何かということですが、私は、男性と女性の違いは、産む性を持っているか、持っていないか、これだけの違いだと思っています。産む性というのは、生まれながらに持っている性です。男性がどんなに努力をしても、子どもを産むことはできないわけです。
よく男性と女性の違いについて、「女の人は力がない。だから重いものが持てない。」と現場で言われたりします。確かに一般的には、男性の力のほうが強いかもしれません。けれども、男性でも腰の悪い人は重いものを持てません。したがって、重いものが持てるように設備投資して、誰でも重いものが運べる設備に変えていけばいい、というのが労働組合のスタンスです。こういったことは、努力すれば解決できることです。ところが、性の問題というのは、努力しても解決できない問題です。これが絶対に不利になってはいけない、ここのところをしっかりと組合としては押さえています。
(3)労使賃金専門委員会の取り組み
[1]家族(扶養)手当の問題
現在、JUKIでは「成果能力主義型」の賃金制度を導入していますが、他社では賃金から属人的な要素をなくす流れが強くなっています。属人的要素というのは、住宅手当であれば、持家なのか借家なのか、家族手当や扶養手当では、扶養家族がいるかいないかです。こういった個人の自由で選択することができるものは、仕事に関係のない部分です。成果能力主義は、この手当のウエイトを低くしていこうということです。
しかし、JUKIのような製造業では、研究開発部門は成果能力主義の色合いはとても強いのですが、製造現場のラインだと同じ作業を繰り返しているので、能力差をつけることが非常に難しくなります。ですので、いいか悪いかは抜きにして、基本給を低くして、手当を上積みしていって、最終的な手取りを増やしていく、というやり方が過去からの流れでした。
また、「男一人が働いて、妻子を養う」という性別役割分業意識がとても強かったこともあって、扶養手当が高くなっていました。さらにその中でも、配偶者に対する手当を厚くしていました。しかし、賃金専門委員会のなかに女性が入ったことで、これまでの支給要件のもとで、男女差はどうなっているのかを見ていこうということになりました。
[2]間接差別の問題
ちょうどこの頃、厚生労働省から、「男女間賃金格差是正のために」というガイドラインが出されました。この中で、配偶者手当が家族手当の中で一番ウエイトが高く、このことは男女間の賃金格差を生む一つの要因であるということが初めて示されました。
それから、均等法改正のときに間接差別がとりあげられました。間接差別とは、制度上中立的であっても、結果としてどちらか一方の性が不利になることです。たとえば、手当の支給要件を世帯主としていると、一般には住民票の世帯主は男性がなることが多いので、結果として男性に手当がついてしまうということになってしまいます。
このことは、国際条約に照らしますと、完全に間接差別なのですが、日本の均等法の中では間接差別には含まれません。ですので、私たち女性は、今度の均等法改正で法律の中に間接差別として盛り込みたいとしています。
ただ、間接差別として法律に入れてしまうと、世帯主である男性が、扶養手当や住宅手当をもらえなくなってしまい、給料が下がるということで強硬に反対しています。しかし、女性の側からすれば、この手当は、毎月のことですので、生涯賃金に影響してきますし、最終的には退職金の基礎額にも影響します。さらに、将来の年金にも影響してくるので、トリプルパンチになってきます。ですので、これはやはり女性が働き続けていく上では不利になるという認識を持って、運動を展開しているところです。
[3]調査から見えてきたこと
JUKIの中で、手当を含めた賃金と基本給ではどれだけ差があるのか賃金専門委員会で調査してみました。JUKIの場合、手当には住宅手当と家族手当があります。両方とも世帯主に支給することが条件ですので、多くの男性にこの住宅手当、家族手当が支給されています。
調査の結果をみると、手当が入っている賃金ですと、大体女性の最高額が男性の平均額くらいです。均等法がありますから、スタート地点は変わらないのですが、年齢が高くなるほどこの差が大きくなってきます。
次に手当を除いた賃金を見ると、男性の最高と女性の最高の差が小さくなります。つまり、手当を含むか含まないかによって女性の賃金水準が違ってくるわけです。さらに、手当を除いた賃金を分析すると、女性で大きく下がっている部分があります。これは手当を抜いているから見えてくる部分で、育児休業を取得した人のところです。JUKIの規定では、育児休業をとっても、不利にはならないことになっていますし、昇進昇格もしっかり評価するとなっています。
しかし、育児休業を1年とって休む前の評価を反映した処遇で復帰をしたとしても、やはり何年かたってくると昇進昇格が遅れてきます。育児休業の多くは女性がとっていますので、どうしても女性の昇給が少なくなってくるということが明らかにされました。
[4]女性に対する処遇の遅れ
手当がつくかつかないかによって、女性の賃金水準が大きく変わってしまうわけですが、このことがよく示されているのが、家族手当です。住宅手当は、JUKIの場合は社員寮に入っていても出ますので、男女とも必ず入っているものですが、家族手当になりますと女性がもらっているケースが本当に少なくなります。圧倒的に男性がもらっていて、男女に大きな差があることがわかります。
また、家族手当や住宅手当の問題だけでなく、JUKIの賃金制度である職種別賃金にも問題があります。JUKIでは、職種によって賃金が分かれるのですが、男性が各職群のレベルの高い方に、年齢がいけばいくほどプロットされています。それに対して女性の方は、高い方にはあまりプロットされていません。職種別賃金からも、やはり女性の処遇が遅れていることがわかります。
[5]労使賃金専門委員会の課題
賃金専門委員会での今の課題は、勤続や年齢が高くなればなるほど、仕事の質が求められ厳しくなるにも関わらず、支給要件により賃金に差が出ることです。職級が高い人より職級の低い人のほうが、借家であったり、家族の扶養者数が多かったりすると、高い額の賃金を貰っている場合も出てくるわけです。こういったことは、成果能力主義のなかでは、モチベーションに影響してきます。このことも含めて、労働組合として取り組みを進めていかなければならないと考えています。
賃金というものは、透明性と納得性が非常に重要です。事実は事実として受け止めて、改善していくことを説明していけば、多くの組合員の納得を得られると思って、取り組みを進めています。
ただ、今よりもさらに高い賃金水準に是正していきたいと思っても、今の経営環境のなかでは、非常に難しい部分もあります。しかし、こういう時期だからこそ、今の賃金体系の中で何が女性にとって不利なのか、何が問題なのかを労使の共通認識として持つことが非常に重要となります。そういう意味も含めて、労働組合では、賃金専門委員会を中心に会社と意見交換をしているところです。
(4)雇用平等委員会の取り組み
長い人生においては、いろいろなことが待ち受けています。それらのハードルの高さを低くしていくことが、労働組合の役割だと思っています。
働く女性にとって、一番大きなハードルは、やはり妊娠出産です。国のデータでも、約7割の人が第一子妊娠時に辞めざるを得ない状況になっています。
社会の中で女性が働きにくいということはたくさんあります。その一つに、旧姓使用の問題があります。旧姓が認められていないと、特に営業系の女性は本当にやりづらいということで、JUKIでは名字選択規定を導入しました。
また、最近話題になっている不妊治療休暇を取り入れています。それから、妊娠中の措置としては、通勤緩和措置や、個人によっては体調の変化がいろいろと出てくるということで、短時間勤務といった制度もあります。短時間勤務については、育児・介護休業法では子どもが生まれてからですが、JUKIの場合には妊娠が分かった時から、15分単位、2時間まで1日の労働時間を短くして働く制度となっています。これは毎年申請することにより、子どもが小学校を卒業するまで使えるものです。現在、晩婚化の流れが職場の中でも同じようにあり、初産も高齢化してきています。30代後半から40代前半で初産を迎える人は、やはり産前より産後の方が大変だという組合員の意見もあって、労基法では8週間の産後休暇を、JUKIでは10週間にしています。
また、日本の企業の中ではJUKIが初めてかと思いますが、「両親学級参加のための父親休暇1日」という制度を導入しました。均等法の改正によって母性保護が強化されたときに、これまでは「母親学級」といわれた、妊娠・出産・子育て等について学ぶ場が、両親学級と呼ばれるようになりました。しかし、この勉強会に参加する時、妻の場合は通院休暇を1日使って休めますが、夫の場合はそういった制度がありません。そのため、男女平等を求めていく上でも、「両親学級参加のための父親休暇1日」を組合から要求し、制度化しましした。これは、通院休暇と同様に会社が特別に付与する特別休暇で、賃金も100%保障しています。
当初は、このような制度を作っても誰も使わないのではないかという組合員からの声もあったのですが、導入したところ多くの男性に喜ばれた制度となっています。
4.今後の課題
(1)手当の属人的要素をどうするか
今後、手当の属人的要素をどうするかということでは、間接差別が一番大きな課題です。賃金制度の他にも間接差別に当たるものがないかを見ていく必要性があると思っています。
(2)性別役割に根付いた仕事の与え方
性別役割に根付いた仕事の与え方についても見ていく必要があります。労働者は上司の命令によって仕事をしています。与えられた仕事が、評価が出やすければ、そのまま昇進昇格にも影響が出てくることになります。たとえば、同じ営業部門であっても、外回りは男性、内勤は女性ということになると、直接お客さんに出向いているほうが、評価が出やすいと考えられます。そういう一人ひとりの働き方についてもこれからはしっかりと見ていかなければならないと思っています。
また、男性向きの仕事、女性向きの仕事となってはいないか、こういったことも見ていかなければと思っています。JUKIの中では、女性がお茶くみ、というのはなくなりましたが、他社では「お茶くみは女性がいい」というふうになっているところもあります。こういった仕事は、20代の頃はまだいいのですが、年齢が高くなり、求められる仕事も高いレベルになってくるなかで、こういう仕事ばかりしていると行き詰まりも出てきます。ですので、そういうこともしっかりと見ていく必要があります。
(3)男性の働き方
そして、男性の働き方についてですが、ワーク・ライフ・バランスの問題が取り上げられ、長時間労働の問題があります。どうも日本企業は、有休をとらない、残業をたくさんやる、休日出勤も厭わないという人たちの評価のほうが、若干高くなっているという傾向があります。評価基準に照らして、それに見合った評価になっているかも今後組合として、しっかりと見ていきたいと思っています。
おわりに
長い人生のなかで仕事をしていると、さまざまなハードルに当たります。働きやすい職場にしていくためには、それらのハードルを低くすることや、一人ひとりが選択できるメニューを増やしていくことが重要だと考えています。労働組合として、組合員一人ひとりの声を聞いて、さらに調査をして、何が必要で何が制度として行き詰まっているのかを常に見ていく必要があると思います。
制度というのは生き物であって、使い方によっては成長もしますし、成長が止まることもあります。社会ニーズも変わってくるものと思っています。そういう点では、会社から言ってくるのを待っているのではなくて、組合から、働いている人にとって何が重要なのか、何が足りないのかを問題提起して、労使交渉をとおして制度に結び付けていくように活動を進めているところです。
女性が働きやすい職場というのは、男性も働きやすい職場です。今後も労働組合では、結婚していてもいなくても、どういう家族構成であっても、一人ひとりが、尊重される職場環境を作っていきたいと思っています。