1.はじめに
私たちは人的資源活用を最大化するため「ワーク・ライフバランスの追求と生産性の向上を両立していく」というコンセプトのもと、意識改革、働き方改革を労使で進めてきました。その成果となったのが、2009年4月から導入したFamily Friday(FF DAY)です。夕方5時45分の終業時間を、金曜日は思い切って1時間45分切り上げて、午後4時にすることで、年間80時間相当の所定労働時間短縮を実現しました。現在も気を緩めることなく、ワーク・ライフバランスの実現に向けた活動を進めている状況です。
まず、アステラスについて紹介します。1894年に創業した藤沢薬品工業と1923年に創業した山之内製薬の2つの製薬会社が「患者さん一人ひとりの力になりたい」という同じ思いを持って合併し、2005年4月1日にアステラス製薬として発足しました。「先端・信頼の医薬で世界の人々の健康に貢献する」を経営理念に掲げる医療用医薬品の製薬企業です。
次に、私たちアステラス労組の概要ですが、会社が合併して半年後に、2つの労働組合が合併し、国内アステラスグループ8社の労働組合として活動しています。組合員は2012年6月現在5,115名で、中央執行委員長が1名、副中央執行委員長が6名、中央書記長が1名、副中央書記長が私です。そして、中央執行委員11名、中央会計監査2名の体制です。支部は11支部体制で、研究所や工場など会社の事業所があるところに9支部、さらに、北海道から沖縄までの営業支店のうち、東日本エリアは東営業支部、西日本エリアは西営業支部として、大きく2つの支部があります。
労組の理念は、「一人ひとりの豊かな発想とそのハーモニーをもって、組合員とその家族、さらに私たちを取り巻く人々の幸せをめざして」で、縁あってめぐり会えた職場の仲間を大切にしながら、自分らしく輝くことを大事にしていこうとの思いを基本に活動を始めました。
2.ワーク・ライフバランスとは
(1)ワーク・ライフバランスの定義
まず、ワーク・ライフバランスの定義を確認したいと思います。これは政府が示している定義で、仕事と生活の調和が実現した社会は、「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方を選択・実現できる社会」とされています。平成19年の官民トップ会議において政労使で調印された『仕事と生活の調和憲章』で、このように定義されています。
具体的には、就労による自立が可能な社会、健康で豊かな生活が確保できる社会、多様な働き方・生き方が選択できる社会、とされています。この他にも、「老若男女誰もが、仕事、家庭生活、地域生活、個人の自己啓発など、様々な活動について、自ら希望するバランスで展開できる状態」など様々な定義がされています。
(2)ファミフレとダイバーシティ
似た言葉に「ファミフレ」と「ダイバーシティ」があります。
ファミフレとは、ファミリー・フレンドリーのことです。従業員の家族的責任に配慮した施策を行うことによって、従業員の能力発揮ひいては生産性の向上を目指す施策のことで、家庭を軸に考えることが主になります。それに対してワーク・ライフバランスは、必ずしも家族ばかりをみているのではなくて、自己啓発やボランティア、地域社会貢献活動、そして独身の男女、定年前の高齢者をも含む広い概念になっているので、ワーク・ライフバランスの中にファミフレがあるような形です。子どもを持つ女性だけでなく、介護が必要な家族がいる人や高齢者雇用もワーク・ライフバランス施策の対象となります。
ダイバーシティとは、多様な人材を受け入れることで、同質的な発想や価値観を打ち破り、創造的な組織を形成しようとする経営戦略です。様々なキャリアをもつ従業員が能力を発揮するという意味では、かなりの部分がワーク・ライフバランスと重なるかと思います。
図で示すと、ワーク・ライフバランスのなかにファミリー・フレンドリーが含まれてきます。現在の日本では、ダイバーシティとワーク・ライフバランスは8割程度重なっています。
(3)アステラス労働組合におけるワーク・ライフバランスの考え方
アステラス労働組合では、2007年にライフキャリアデザインプロジェクトを企画し、全国各地から集まった支部役員が中心となり、ライフキャリアデザインに関する考え方を整理し、答申書をまとめました。メインメッセージは「なりたい自分になり、充実した“人生を楽しむ”ための一歩を踏み出そう」というものであり、現在の活動のベースとなっています。そして、重要なキーワードのひとつにワーク・ライフバランスを挙げています。
アステラス労働組合のワーク・ライフバランスは、「自分らしく充実した心豊かな人生を楽しむ」ために、家族や環境との絆を大切にして感謝すること、職場の仲間とのコミュニケーションを通し、互いに尊重し合い、力を合わせることで新しい働き方を確立すること、一人ひとりが主体的にワークとライフをバランスし統合させながら自分らしいライフキャリアを考えること、このように考え方を整理しました。まさに意識改革や働き方改革、そして企業文化づくりのための取り組みです。
ワーク・ライフバランスは必ずしも、仕事と私生活を50%、50%でバランスをとることではありません。がむしゃらに仕事に打ち込まなければいけないときもあるでしょうし、時期によっては家族に思い切り関わり、私生活のほうに力を入れることもあるでしょう。新人のときや仕事を覚えるとき、また納期のある仕事のときはワーク中心の生活もあるでしょう。やるべき仕事ができていないのに、早く帰らなくてはいけないということではありません。一人ひとり状況は異なりますので、その人が、今どういう状態にあるのかで全然違いますし、同じ人でもライフステージや環境によって仕事に大きく時間をかけるときもあれば、私生活に時間をかけるときもあります。
私も20代、30代前半の頃は、仕事に比重がかかっている生活をしていました。今は1歳になる男の子がいますので、仕事時間は、9時から16時までを基本として、2時間の育児短時間勤務を申請して、仕事を免除してもらっています。その分の時間は子どもの保育園の送り迎えや、子どもとの食事などに使っています。ですので、私生活のほうに時間配分が傾いているような生活です。この先、子どもの成長に伴い、時間配分は変化すると思います。
繰り返しになりますが、ワーク・ライフバランスとは、仕事と私生活を50%、50%でバランスをとらなければいけないということではなくて、その時その時のライフステージに合わせて、自分できちんとバランスをとっていくということです。また1人でバランスをとることは大変なので、真の意味で、理解して尊重し合う職場風土が大切です。今の私も職場の仲間に支えられている状況です。
(4)ワーク・ライフバランスは個人・会社・社会のWin-Win-Win
ワーク・ライフバランスは、会社や社会にとっても大切なことだと言えます。会社で言えば、ワーク・ライフバランスが充実していれば社員の満足度も上がりますので、生産性の向上にもつながると言われています。会社にとって、働く場の質を高めること、多様な人材を活かすことでもあります。
また、社会を考えると、仕事だけではなくて、家庭責任、地域責任、教育責任を果たすことが重要ですし、そうすることが自分の人生の充実にもつながります。多くの先進国では、男性・女性に限らず家事・育児を担い、地域やボランティア活動も行っていますが、注目すべきはそれらの国々の方が日本より出生率も労働生産性も高いとされる点にあります。
このことも踏まえながら、私たちは、効率性・生産性を高めながらワークとライフを統合し、一人ひとりが成長し自分らしい人生を楽しむという、とても大切なことに挑戦し続けます。一人ひとりが与えられた時間をいかに主体的に使い、個性を活かしながら個人の能力をいかに最大限に発揮していくのか、ワーク・ライフバランスは、まさに「個人と会社と社会のWin-Win-Win」の関係構築手段だといえます。
(5)ライフキャリアデザインプロジェクト答申
ライフキャリアデザインプロジェクトの答申では、メインメッセージを「なりたい自分になり、充実した人生を楽しむための一歩を踏み出そう」とし、それが私たちの活動のベースとなっています。さらに、5つのキーワード「『なりたい自分』になるために」、「環境への働きかけ」、「ワーク・ライフバランス」、「エンプロイアビリティー」、「ソーシャルサポートの形成」が提案されています。
その提案のなかにもあるワーク・ライフバランスの考え方を浸透していこうということで、実際に私たちのワーク・ライフバランスの取組みがスタートしました。
3.これまでの具体的な取り組み
(1)アステラス労組のワーク・ライフバランス実現の過程
ライフキャリアデザインプロジェクトの答申を踏まえ、2007年の春季交渉で会社に対して「ワーク・ライフバランスの追求に資する各種取組み強化」を要求しました。具体的には、実質労働時間ならびに所定労働時間の短縮に加え、仕事の内容・進め方、職場風土、個人の意識など職場における多面的な取り組みを実行することです。会社は、実質労働時間の短縮に向けて、職場の上長を時短推進責任者に任命し、各職場の状況に応じた課題対応を勧めました。労働組合も各職場での実現性をより確実にするため、各職場の委員を時短推進担当者として配置し、労使一体となって取り組みました。所定労働時間については、「単なる所定労働時間の短縮ではなく、実質的なワーク・ライフバランスに有効な手立てとして検討していく」「年間1800時間を目指して検討していく」との回答でした。
次の段階は、ワーク・ライフバランスを経営方針に設定し、推進体制を整備することです。2008年の春季交渉では、会社から「ワーク・ライフバランスや労働時間短縮は、社員の能力を最大限発揮するために必要不可欠」との経営トップの強い意思を引き出すことができました。それを踏まえて、それぞれの職場で労使が努力した結果、2008年度のトライアルを受け、2009年4月から所定労働時間を短縮することができました。そのほかの制度も続々と導入されました。今は、個人が制度を認知して、利用している段階です。
今後の課題は、個人にとって本当にワーク・ライフバランスを達成していくことと、経営パフォーマンスを実現していくことです。
(2)3つのポイント
私たちの取り組みのポイントは3つです。
まず、「経営トップの強い意思」を引き出したことです。このことは取り組みを進める上で大きな推進力となりました。
そして、「できるところからやる」ということで、グループ全社共通の施策ではなく、各社の業態、競争力の観点から、会社別・職種別に相応しい対応を検討し、実効ある時短が可能なところから順次実施していきました。
さらに、「賃金は改定しない」ということです。労働時間を短縮しても賃金は変わらないので、時間当たりの単価は上がることになります。賃金は改定しないことを最初に確認しました。
(3)経営トップの強い意志
2008年春季交渉では、社長から、「ワーク・ライフバランスや労働時間の短縮は、社員の能力を日々最大限発揮するために必要不可欠なこと」、「必要な睡眠時間の確保、適度な運動、家族との団欒がストレスを低減し、高いパフォーマンスを発揮することにつながる」、「ワーク・ライフバランスの実現や恒常的な時間外労働の削減は、割増率を引き上げることではなく、業務効率の改善、業務量と要員数の適正化、社員の生産性向上、タイムマネジメント意識の向上で実現していくべきもの」で、「人事部として各部門・各社での実施状況や時間外労働のトレースをすすめながら、全社最適の視点で取り組みを推進する」といった内容の発言があり、経営トップの強い意思を引き出すことができました。これが、各社・各部門・各支部・各職場にて取り組みを進めるうえで大きな推進力となりました。
(4)2007年12月の労使合意内容
2009年4月から所定労働時間を短縮することを前提に、まずは2008年度を準備期間とすることになりました。
その方向性として、金曜日は1時間45分切り上げて、8時45分から16時の就業時間にすることを労使で合意しました。
2008年度は、2009年度から就業規則で定める所定労働時間が短くなったら、その分時間外労働が発生することがないように、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)といった仕事の進め方を各社・各部門で検討・実施していくことにしました。
また、各社ごとに所定労働時間を実施可能な範囲で考えていくこと、可能な部署は、2008年度の金曜日は定時前の帰社を推奨しました。そして、アステラス製薬の営業部門については別途検討すること、所定労働時間短縮に際し賃金は改定しないこと、これらの合意事項を基にスタートしました。
(5)2009年4月に向けた取り組み
労使で取り組んだことは、まず、実際の労働時間を減らすことです。
事業場協議会や職場協議会において各職場の具体的な対応策を検討し、各職場において「自分たちはこういうことをやる」と宣言してもらい、それを社内のイントラホームページに掲載して公開しました。また、職場のマネージャーが時短推進責任者、各職場にいる労組の職場委員が時短推進担当者になって、実行推進していきました。仕事の進め方を工夫し、知恵を出し合い、お互いに連携強化を図ることにより、一人ひとりが仕事の質と能力発揮を高め、生産性の向上を目指しました。
また、労組の独自の取り組みでは、「どうしてワーク・ライフバランスを推進するのか」という研修資料を作成しました。私たちは「共に育む」という意味をこめて、「共育研修資料」という字を使っています。この共育研修資料を作って、ワーク・ライフバランスや実質労働時間の短縮の意義について職場での理解浸透を図りました。
また、この共育研修資料は、職場の労使協議会における共通議題として取り上げ、「経営トップ ― 職場マネージャー ― 組合員の認識合わせ」を進めました。
労組の取り組み姿勢は「本気でやること」です。そして、ワーク・ライフバランスの意義と考え方を明確にし、深く共有し、一人ひとりの「自律」と「自己責任」を促します。
労働時間の取り組みで何が重要かというと、生産性の維持だけでなく、むしろ生産性を向上させることが前提となっていることです。また、多様な働き方に対応できる勤務形態を継続検討していきました。
(6)職場における時短推進の事例
時短推進のために「今日は残業しない」という「NO残業day」を設定しました。職場の実態に合わせて、職場単位、それが難しい場合は個人単位でもいいからやるという形です。当時は、所属長や労組の職場委員が「今日はNO残業dayだよ」という声かけをして回ったりしました。最初は月2日から、週1回と徐々に増やしていくようにしました。
また、36協定ガイドラインという、時間外労働のための労使の社内ルールを適正に運用していくことを進めました。さらに、有給休暇の取得推進や、会議は短く、終業時間後には設定しないことを基本にしました。
それから、早く帰りたくても上長がいるとなかなか帰りづらいという雰囲気がありますので、まずは上長に一番早く帰ってもらうようにしました。また、部署単位で時短プロジェクトを実施する等の取り組みを行いました。
いずれも単に「早く帰れ」にならないようにすることがポイントです。実際の取り組み結果では、前年度との比較で、60時間相当の時間外労働が減りました。労使で共に推進した成果は確実に表れました。
4.所定労働時間短縮の申入れ
2008年12月には、所定労働時間短縮について、正式に会社から申入れされました。
基本形は、最初のアステラス製薬の方向性で示されたことと同様、金曜日の終業を1時間45分繰り上げ、そのことで年間85時間45分の所定労働時間短縮につながります。ただし、生産系グループ会社は、金曜日だけ短いというのは制度化しにくいので、工場の稼働日数を変えず、会社休日を5日増やす形にしました。それで、5日×8時間で=年間40時間の所定労働時間の短縮がなされます。また、営業部門は、医薬品の役割を医師に正しく伝えるという重要な役割を持っていますし、競争力の観点からも重要なので、会社の休日を3日増やすことと、毎日15分ずつ労働時間を短くする、この2つのセットで年間82時間15分短縮するという内容になりました。
その申入れの際、社長から、「短縮する所定労働時間85時間までには至っていないけれども、2007年度下期以降より皆さんと共に推進してきた成果は確実に現れている。取り組んできたプロセス・成果に対しては真摯に応えたい。今回の所定労働短縮に伴って一過性の時間外労働増加によるコストはある程度やむを得ない。しかし、組織や一人ひとりの生産性の向上無しにこれだけ大きな所定労働時間短縮をおこなうことは経営としては大きな負担であり、リスクも伴う。したがって、引き続きBPR、仕事の進め方の見直し、ということを真剣に取組んで、生産性の向上を実現していただきたいと強く要請する。新たに生じる時間では、家族との団欒、健康増進などによる心身のリフレッシュや自己啓発などプライベートの充実を図っていただき、そのことが自己成長にも繫がりその後の各自の業務に活かされ、生産性の向上や業務効率のアップにもつながることを期待する。」といった発言もありました。
この会社申入れと会社発言を労働組合は重く受け止めました。「労働時間短縮の取組みは、今回の会社申入れで終わるものではない。慢性的な時間外労働や、会社で労働時間が減らされた分、家に持ち帰って仕事をするといった持ち帰り業務が発生しないように、また、年次有給休暇の取得が減少しないように、労組として取り組みを継続していく。そして引き続き、従業員一人ひとりが積極的に仕事の進め方を見直して、仕事の価値を向上させていくことが重要で、その中かで、チーム内外・部門間での連携を今まで以上に図ることや、各自の仕事内容がお互いに分かるように工夫することが必要。この取り組みは、将来、私たち一人ひとりの力、組織の力、アステラスの競争力になっていく」と捉えて、ここからが本番という意識で始めていこうという提案をしました。
こうして、2009年4月から所定労働時間短縮が実現しました。
5.その後の取り組み
(1)2009年度~現在
所定労働時間短縮が実現してからも、いろいろな取り組みを行っています。たとえば、労使で協力して「労働時間適正化キャンペーン」をおこない、「FF day」といって金曜日は4時帰宅を定着・推進する取り組みや過重労働防止に関する啓発、労働時間管理の強化を進めました。労働時間管理は、個人が自己管理する部分と上長が管理する部分がありますが、どちらも意識を高く持って、強化していくことを進めました。また、全社的に職場研修を行って、ワーク・ライフバランス実現に向けた仕事の進め方を見直す取り組みを全ての職場でやりました。実際の労働時間の検証では、部門によってバラつきはあるものの、概ね削減が認められ、当初の目的は達成できたと捉えています。こうした労使の取り組みが評価され、日本生産性本部の2009年度の「ワークライフバランス大賞」を受賞することができました。
最近の特徴的な取り組みとしては、「休息時間(インターバル11)」があります。勤務終了から次の勤務開始までを休息時間と考えて、少なくとも11時間を確保していこうというものです。就業規則に定めるのではなく、できるところでは運用していったらどうかというもので、特に、長時間労働が喫緊の課題となっていた営業第一線では「深夜に及ぶような勤務をした場合は翌日ゆっくり出社しても良い」という考え方を具体的な数値とともに明示して、実効性を担保しています。
労組の取り組みとしては、各支部・分会に時短担当者を設置し、「経営トップ - 職場マネージャー - 組合員の意識合わせ」、「36協定ガイドラインの運用徹底」を進めました。
また、所定労働時間短縮の効果について全組合員を対象にアンケート調査したところ、「所定労働時間短縮がワーク・ライフバランス推進のきっかけとなった」、「私の会社・部門の所定労働時間設定について満足している」の設問に対する肯定的な回答が70%前後であり、前向きに評価されました。また、同じアンケートから実質労働時間の短縮に向けた職場の取り組み工夫をピックアップし、うまくいっている事例のインタビュー報告書をまとめ、組合員に広報しました。できない理由を100個並べるよりも、できる方法を1つ考えることの価値の方が大きいと思い、そこに光を当てるという工夫をしています。さらに、組合員への啓発として、広報誌に「ワーク・ライフバランス」という新しいコンテンツを作って、自分時間の使い方を紹介しています。
(2)営業部会としての整理
営業部門は、顧客との関係などから労働時間を減らすのがなかなか難しいところですが、労組の専門部会で課題として「労働時間」を取り上げて、営業部会報告書を作成しました。
営業部会では、労働時間に関する取り組みは大きくわけて「意識」と「業務の効率化」があると整理しました。意識面においては“理想のMR(医薬情報担当者)・スタッフ像をきちんと持っているかどうか”、“個人の考え方や習慣を見直そう”、“労働時間に関する啓発を行っていこう”というような取り組みが必要であることと、業務の効率化の面では、“全体で取り組む、すなわち仕組みを作る”ことを意識しています。
なぜワーク・ライフバランスの実現と実質労働時間の短縮が必要なのかというと、「仕事を効率化して、自分の時間を作れたとしたら、その時間を仕事以外に使えます。適度な休息で健康を維持、自分の視野や価値観が広がります。そうすると、新しい視野や価値観を仕事・家庭・社会に役立てることができます。そういったことを通じて、新たな発想で、仕事の効率化にもつながり、さらに自分時間を作るといういい循環ができ、人生を楽しむことにつながります。」と整理しています。
また、「ワーク・ライフバランスが実現できているMR・スタッフってこんな人!!」ということで、意識、行動、仕事のスキルごとにまとめました。
業務の効率化取り組みは、「現在の仕事のなかで重要度の低い仕事はやめて、その空き時間でもう一度今の仕事を見つめ直す。そこで、改善可能な仕事と重要度の高い仕事を分けてみる。改善可能な仕事を効率化していけば、重要度の高い仕事により時間をかけることができるし、さらに、次の新しい仕事にも取り組んでいくことができる。」という趣旨です。
こういった意識と日々の業務効率化に働きかける報告書をまとめて、営業部門の組合員に広報しています。
6.アステラスにおけるワーク・ライフバランスの実現
(1)意識改革・働き方改革⇒「人」の成長
アステラスにおけるワーク・ライフバランスの実現は、一人ひとりが、高い目標に向かって、仕事に、人生にチャレンジし続けることそのものだと考えています。私たちの意識改革・働き方改革は、人の成長につながる取り組みだと考えています。人の成長があるからこそ、中長期的な視点では、会社の成果・業績につながるものだと思っています。
今日の講義内容は、労働時間を短縮するというものでしたが、労働時間を短くしながらパフォーマンスをさらに上げるには、仕事の進め方における業務改善や、コミュニケーションが必要です。同時に達成した時に見えるのは、人の成長や、会社の経営パフォーマンスだと思います。何か取り組みを始めるときには、組織あるいは個人がどういう状態になっているのかをしっかりイメージしながら取り組むことが重要だと思っています。私たちは今後も前向きに、活き活きと働ける職場づくりをさらに推進していきます。
(2)労使が共に目指すもの
労働組合は「ぬくもりのある職場づくり」をキーワードに活動を進めていますし、会社は「共生(ともいき)」という言葉を大事にしています。労使で、一緒に働いている人たちと連帯感が持てる会社をめざしています。
豊かな果実が実るのは、葉が太陽の光をいっぱいに受け、葉は枝に、枝は幹に、幹は根にしっかり支えられているからです。根は地中深く目に見えませんが、丈夫な根は環境に適応して隅々まで張りめぐり、土壌の水や養分をきちんと吸い上げます。
目に見える企業の発展も、根幹にある目には見えない現場で働いている一人ひとりの貢献や組織の力があってこそ実になるものです。
労働組合の活動は、企業の功績に比べると目には見えにくいものですが、丈夫な根っこをしっかり張り、たくましくしなやかで、自由で柔軟な発想をもった質の高い活動を通して、組織の底力を養うことが大切です。それが企業の健全な
発展につながっていくと思っています。
7.終わりに~一人ひとりが輝く未来を創る主役!
最後に、皆さんへのメッセージです。
ここにいる一人ひとりが輝く未来を創る主役です。皆さん、どうぞ立派な社会人になってください。社会人とは、社会に貢献する人です。給料は、会社からもらうのではなくて、社会からもらうものだと私は思っています。
主体的に、自分らしいワーク・ライフバランスを考えて、それを実現しながら社会に貢献して、自分らしく成長して輝いていけば、未来は明るいものだと信じています。私もまだまだ成長途上で、これからも成長するつもりです。ですから、皆さんと共に成長しながら明るい未来を作って行けたらいいなと思っています。
今日、同じ時間を共有できたご縁に感謝して、終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。