Ⅰ.憲法、労働法での労働者の権利の規定
1.就職するということ:法的に労使対等の労働契約関係
使用者と労働者は、民法上も労働契約法上も、対等の契約と位置づけられていますが、実際の働くものと使用者との力関係は、交渉力、情報力など労働者側が圧倒的に弱いといえます。そこで、憲法、労働関係法で労働者保護を法制化し、自由な競争を制限し、労働時間や賃金など最低基準を法で定めています。同時に、労使間の力関係を対等にするために、労働三権(団結権、交渉権、団体行動権)を労働者に付与し、団結することで労使の対等をはかっています。
2.憲法・労働関係法の法規定と労働者の権利
憲法第27条は「賃金や就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」としています。これを受けて、労働基準法(労基法)では、週に40時間あるいは1日8時間を超えて働かせてはいけないことになっています。残業させる場合は、労使協定を労基署に届けなければならないことになっています。これらは労基法で規定されていますが、法の実効性を確保するためには、やはり、労働者の団結が必要となります。
労働者の団結については、憲法第28条に「労働三権」として規定されています。団結権、交渉権、団体行動権という権利によって、初めて労使が対等となり交渉できるのです。
8年前になりますが、2004年にプロ野球選手会が1つの球団の存続を巡ってストライキをしました。オーナー側は「たかが選手ごときが経営問題に口を出すな」という態度だったのですが、プロ野球選手会が労働組合として手続きを踏んでいた組織であったため、ストライキという合法的手段をとることができました。結果として、オーナー側は組合との交渉を行い、1つの球団はなくなりましたが新しい球団ができ、セ・パ交流戦も始まりました。このことから言えるのは、労働者がいくら有能であっても、労使の関係になると労働者の方が弱いということです。だからこそ、団結権を保障し、労働組合として権利を与えるという法的な枠組みになっているのです。
3.法律の行間を埋める告示、通達、指針および判例法理
飲食店などでは、若い人たちを店長にして、管理監督者だから残業代はなしという場合があります。しかし、管理監督者については厚生労働省が、経営者と一体的で、処遇もそれなりによくて、出退勤など裁量権があり、時間管理をしなくてもよい者、という通達を出しています。したがって、法律だけではなく、通達も見なければいけません。裁判例そのものも労働者の権利を定めるうえで大切な事項となります。
ここでしっかり頭に入れておいていただきたいのは、働くということは、本来、使用者と労働者の対等な契約関係であり、不利益変更など、使用者の都合で勝手にはできないという法的な権利もあるということです。
Ⅱ.労働相談の内容と法による権利
1.就職・労働契約締結時の相談
(1)労働契約の締結=就職するということ
これから皆さんも就活をすると思いますが、募集、面接、そして内定が出た後に入社となり、その後試用期間を経て本採用になります。この一連の経過のなかで労働契約を交わす段階を、裁判所では内定時と捉えていて、会社側も内定のときには、本人が働くことを承諾したということで、採用条件を提示してきます。
内定は「始期付解約権留保付き労働契約」とされていて、内定時に会社側が知りえなかった事実、たとえば経歴の重大な事実での詐称等があれば解約は成立しますが、会社都合での一方的な内定取り消しはできないことになっています。
一方、学生の側は自分の都合で解約することができます。民法上の労働契約については、両者が解約できるとなっているのですが、会社からの解約の場合は労働者が被る不利益が大きいため、労働法で合理的な理由がなければ会社のほうからは解約できないことになっています。
また、試用期間にも解約権が留保されているとなっています。しかし、この解約権も濫用することは許されないし、社会的相当性や合理性のある内容でなければ解約できないことになっています。
(2)入社時の相談内容と労働法による規定
[1]募集内容と違う労働条件で働かされている
入社時における労働相談では、新卒よりも中途採用の場合のほうがたくさんあります。なかでも、募集内容と実際に働く条件が違ったという相談が多いです。そういうことがないように、労基法第15条では書面できちんと労働条件を明示することが規定されています。労働契約の期間、就労する場所、従事すべき業務、始業と終業の時間、時間外労働があるかどうか、休憩時間や有給休暇、賃金の支払い、退職に関する事項等を書面で明記することになっています。しかし、書面を出さない経営者が多いのが現状です。つい先日も、東北から上京した女性が、残業しても時間外手当が支給されず、賃金を時給に換算すると最低賃金以下で働かされていたという例がありました。
また、10人以上の労働者がいる会社は必ず就業規則を作り、労働基準監督署に届けるとともに、働いている人が就業規則を必ず見られるようにしておかなければいけません。就業規則を見せない企業も中にはありますが、このような企業は要注意といえます。
労働契約関係は、書面でなくても口頭でも成立します。ただし、何か違反があって訴える場合、口頭だけだと労働者側は立証することが難しいので、書面がない場合は必ずメモをしておくことが必要といえます。
[2]入社時に法違反を強要
法違反を強要する契約も入社時の相談では多いです。実際の例として、残業しても時間外手当は支給しないとか、実際の労働時間で月額賃金を換算してみたら最低賃金法違反であったとか、有給休暇を取る場合は、手当を3万円引くと言われた等があります。しかし、法を下回る条件で労働契約を交わしてもそれは無効であり、法の基準が適用されることになっています。
[3]雇用保険・社会保険への加入
働くうえで大切なこととして、公的年金や健康保険といった社会保険があります。入社したら、会社側は、社会保険に必ず加入させて、保険料を労使が折半して負担しなければいけないことになっています。ところが、会社側が折半したくないので「入るのだったら、これだけ控除です」と言われて、いまだに加入できていないという相談が多くあります。
社会保険は、企業の意思で加入するのでなく、法にもとづく強制加入ですから、正社員の概ね四分の三以上の労働時間を働く者は雇用形態にかかわらず、加入させなければならないことになっています。
[4]有期労働契約
現在、期間の定めのある雇用が増えています。有期雇用は、正社員より労働契約の履行に関する権利が強いです。有期の期間は、会社の都合では、本当にやむを得ない事情がある場合でなければ解約できないことになっているからです。
ただし、有期雇用の場合、契約している期間についての権利は強いのですが、契約期間が終わってまだ働きたいと思っていても、雇い止めになることがあります。そのため、常に雇用不安にさらされてしまう問題があります。連合は、仕事そのものが恒常的な業務の場合には有期でなく期間の定めのない雇用が原則であるべきだと主張し、非正規雇用労働者の条件改善に向けての取り組みをすすめています。
2.働いている期間での相談内容
(1)働くものの権利が行使できない状況
働いている期間での相談内容で多いのは、残業代未払いや年次有給休暇がなかなかとれないというものです。日本での有給休暇は労働者平均で付与日数17.9日、取得日数8.6日、取得率は、48.1%という低さです。ただし、労働組合があるところの取得率は、68.3%となっています。これは、労働組合のあるところは、みんなで有給休暇を取っていこうという風土があるためです。
労組がある場合の方が20ポイントも高いのですが、国際的にみるとそれでも低いのが現状です。ドイツでは、付与30日で取得率95%、イギリスは25日付与で取得率100%、イタリアは28日付与で取得率71%、カナダは19日付与で取得率90%という調査結果もあります。
また、不払い残業代は、労働基準監督署が摘発した部分だけで120億円を超えています。多くの人が、ただ働きさせられているということです。
育児休業については「雇用均等基本調査」では、働く女性の83.7%がとっていることになっていますが、「第8回21世紀出生児縦断調査」で見てみると、出産1年前に常勤だった人が、出産半年後に常勤で働き続けている割合は4割でした。6割の人たちは、出産を契機に非常勤になるか退職しています。このことから、83.7%というのは、常勤で働き続けている4割の人たちのパーセンテージであり、全体からみると3割しか育児休業はとれていないことになります。
このように、働く者にとっての制度そのものは改善されてきているのですが、誰もが利用できる制度ではないということです。誰もが利用できる制度にするためには、労働者が団結して、職場の雰囲気や労働条件を改善していくことが必要だと思っています。
(2)残業代未払い
残業代未払いで難しいのは、労働時間をどう割り出して、どう立証するのかということです。本来会社は、何時に出てきて、何時に退社したかを管理する役割があります。しかし、これをあえて管理せずに、残業代を払わない会社があります。その場合には自衛手段として、きちんと労働時間をメモしておくことが大切です。また、実質的な労働時間よりも割安の一定額を手当で時間外込みと称して時間外手当を支払わない、裁量労働制だとして、超過しての労働が不払いになるなど手当や変形労働時間制を理由にしての不払い労働がひろがっている実情にあります。
(3)その他の労働時間について
労働時間が1日8時間を超えるときには、60分の休憩を必ず入れることになっています。ところが、飲食店関係での労働相談では「立って食事をとらなければならず、その間もお客さんが来たら応対しなければならない。それが休憩時間と言えるのか。」といったものが多くあります。休憩時間とは、仕事の指揮命令から解放されることで、その間に仕事をした場合は労働時間となることを知っておいてほしいと思います。
(4)育児休業の権利行使ができない
妊娠を理由に解雇することは禁じられています。禁じられているので、会社は直接には解雇するとは言いません。
ある相談では「あなたがやっている仕事はなくなったから別の部署に移ってくれ。ただし、別の部署でも応募者はたくさんいるから、一旦退職してその応募に通ったらまた働き続けられるよ。」と言われたというのがありました。その相談者に対しては「他の部署で採用しているのだったら、たとえ今の仕事がなくなったとしても、会社には雇用を維持しなければいけない責務がある。会社が一方的にあなたを辞めさせたならば、それは不当解雇になるのだから頑張りなさい。」というアドバイスをしました。
2年後にその相談者から「あの時相談してよかったです。」というメールが届きましたが、私としては、妊娠や出産に関する問題が多くなってきていると思っています。
(5)うつ病などの罹病関連
最近増えているのは、うつ病での相談です。パワハラや若者を使い捨てするような会社において精神的な面での労働相談が多いです。
問題は、職場で一緒に働いている仲間がたくさんいるはずなのに、仲間同士が競争に駆り立てられ、本音で相談ができない現実があることです。職場で働いている人たちが孤立している状態にあります。
今、大学で一緒に勉強している友達は、これから生きていくうえで非常に大切です。財産になります。学生時代に、社会に出てからも相談ができる友達を作ってほしいと思います。また、職場においても、同僚など悩みを話せる友達をきちんと作っておくことは、仕事をするうえで非常に大切なことだと思います。
(6)異動・配転及び労働条件の不利益変更
労働契約は対等の契約ですから、労働法上では、会社の都合で一方的に賃金をカットすることはできないとなっています。異動や配転などについては、法的な制限での規制より労使交渉が重要になってきますし、その場合には労組が職場にある場合とない場合では処遇に大きな開きがあります。労働基準法や労働契約法で定めている「労使対等決定」の精神を生かしていくうえでも労組があり、集団的労使関係を確立していくことが、働くものひとり一人の権利を守っていくためにも重要であることを相談活動を通じて実感するところです。
また、労働条件や賃金の不利益変更する場合は、両者が合意のうえで変更することになっています。労働契約法の3条、8条、9条はこのことが規定されています。
3.解雇、退職に関わる課題
(1)解雇
働くうえでの大きな問題の3つ目は、解雇・退職に関わることです。雇用の終了場面では、自分から退職する場合もあるし、会社から解雇される場合もあります。雇用契約の解約ということです。解雇の場合には懲戒解雇(企業秩序違反行為に対する制裁罰としての解雇)と普通解雇(労働者側に解雇の原因がある懲戒解雇以外の解雇)、整理解雇(経営上の理由により人員削減を行う場合の解雇)等がありますが、とりわけ整理解雇は、会社都合での解雇ですから、それなりに理由がなければできないことになっています。
また、労基法の解雇制限規定で、国籍などを理由とした解雇や産前産後休暇中の解雇は禁止されています。さらに組合員であることを理由とした解雇はできないとされています。また、労働契約法では、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は無効であるとなっています。
有名な判決に高知放送事件があります。アナウンサーの女性が、寝坊して生放送に2回穴を空けてしまい解雇されたのですが、解雇という処分が重すぎるとして、不当とする判決が出されたことがあります。それは、放送に穴をあけたのはアナウンサーの女性1人の責任ではなく、彼女を起こすはずの人たちも一緒に寝坊していた、彼女だけに責任を負わせるのは酷だということで、何らかの処分は仕方ないけれど、解雇までは行き過ぎだということです
(2)会社都合での解雇の制限
このように、解雇する場合は、客観的・合理的な理由があり、社会通念上相当でなければならないということになっています。これは労働契約法第16条に定められています。
会社都合での解雇の判例法理として、整理解雇4要件があります。第一に人員整理の必要性、第二に解雇しないための努力をしたのかどうか、第三に解雇する人を恣意的に選別していないか、第四に労働者や労働組合と話し合う等手続きをきちんと踏んでいるか、という裁判所の判断が示されています。
理由のない解雇や会社が大変だからなどという漠然とした理由での解雇は、法的に認められていませんし、不当な解雇には異議の声を上げることが必要といえます。
(3)退職を申し出ても辞めさせてもらえない
民法上の契約関係では、解約の自由があります。この場合、14日前に言えば雇用契約は解約できます。
最近労働相談で多いのは、劣悪な労働条件であるので、会社を退職し新たな道を選択しようと思って退職を申し出ても辞めさせてもらえないという相談です。劣悪な環境である会社ほど、また労働者が真面目で異議を申し立てることなく働く場合ほど、辞めさせたくないので「辞めるならこれまであなたにかかった教育費分を賠償しろ」と言われたりするということがあります。損害賠償については、労基法第16条では、使用者は労働契約の不履行について違約金を予め定めて契約することは禁止されています。
退職を申し出るということは、労使の合意による労働契約の解約の申し出でありますが、会社が退職を認めないといっても退職することは可能です。退職の申し出は、退職願になりますが、もう一つ、退職届という道もあることを知っておいて下さい。
「退職願」は、本人が会社に辞めたいと申し出て、それを会社も認めている合意解約です。「退職届」は、使用者の意思に関係なく労働者の意思で退職する場合です。先の相談では、この「願」と「届」をはっきりさせる必要があります。
4.有期労働契約による雇い止め
有期労働契約の場合も、契約期間中はやむを得ない事情がある場合でなければ解雇はできません。しかし、期間満了のときには期間の定めのない正社員より立場は弱く、1年単位の契約更新で働き続けることは、不安定で難しいことです。
派遣社員として10年間働いてきた女性の相談ですが、毎年の契約更新でそのたびに胃が痛むような思いをしてきたそうです。10年目にやっと正社員になれたのですが、今度はその正社員の椅子を失いたくないために無理して働いて、うつ病になってしまったという例があります。有期雇用だと、1年後、5年後、10年後に働き続きけられるかという大きな不安が常にあります。
今年、労働契約法が改正されました。何年も契約を繰り返している場合は、期間の定めのない雇用と同じように雇い止めには客観的で合理的な理由が必要になりました。また、有期契約を5年間繰り返している場合、本人からの申し出があれば期間の定めのない雇用となることが決められています。ただし、それが実効性を持つのが5年後ですので、今悩んでいる有期の人たちに即効性があるというわけではありませんが、このような法改正がなされています。
ただし、5年を超えた場合に無期雇用へ転換できる制度が出来たことによって、一部の経営者では、有期は5年未満に限定するという脱法的措置が広がっていることも要注意といえます。
5.解雇、退職と雇用保険
退職した場合、セーフティネットとして雇用保険制度があります。これは、労働者が失業したら、失業している間の生活が困るので、失業中の保護をしようというものです。
給付金額は、在職中に給料をどれだけ受けているかで変わってきます。また、会社都合退職と自己都合退職とでは、給付金の支給開始日や給付日数が違い、会社都合のほうが高くなっています。ただし自己都合であっても、会社の嫌がらせやリストラで辞めた場合には、失業手当を会社都合で受け取ることができます。
Ⅲ.職場で問題があった場合の対応について
1.労働組合に加入(結成)して問題解決=基本
最後に、いざ問題があったときにどうするかです。ひとつは、憲法で保障された労働組合として解決していく方法があります。
有給休暇でも残業手当でも法で定められてはいますが、労働者は1人では弱い立場にあります。したがって、団結して取り組んでいくことが必要です。同じ職場の仲間と一緒に労働組合を作って、会社と交渉して職場を改善していくことだと思います。
労働組合とは何のためにあるのかといえば、労働者の権利の主張だけでなく、職場環境をよくして皆が安心して働けることによって、会社を発展させるためでもあります。
とはいえ、労働組合がなかったり、結成できなかったりする場合も多くあります。その場合、相談する場所として、労働基準監督署や、公的相談機関があります。
2.労基法違反などについては、労働基準監督署への違反申告・相談を
最低賃金以下で働いている等の労基法違反には、当該事業所に対して労働基準監督署の指導が入ります。労基法というのは、交通ルールと同じ強行法規ですので、会社側にどんな事情があったにせよ、法律違反として申告出来ますし、その申告にもとづいて法違反は強制的に是正されることになっています。
この強行法規を取り締まるのは、労働基準監督官です。監督官は警察官と一緒で、司法警察権があります。
3.公的相談機関での指導を求める=行政型ADR(裁判外紛争解決手続)の活用
法律違反だけでなく様々なことに対応する場合には、公的相談機関の指導を求めることになります。労働局(厚生労働省の出先機関で各都道府県にある)や都道府県労働委員会及び地方自治体で労働相談活動を行っています。これらは、あっせんが基本で公的機関の指導のもと話し合いで解決していこうというものです。例えば、東京で働いている場合は、東京都の労働相談情報センターです。ここでは、年間52,363件の相談があります。
4.司法の場での個別紛争解決
また、労働審判や簡易裁判所といった司法の場に解決を求めることもできます。
労働審判には、残業代を払えとか、解雇は不当といった訴えに対して、裁判官・使用者・労働者の3者が審判員(官)として、調停や審判を行うことになっています。
しかし、経営者がもっと労働法を知っていて、労働者ももっと自分たちの権利を知っていれば、裁判所に来なくても解決できる問題が多くあります。また、解雇を不当とする判決が出たとしても、その日のうちに一定の解決金支払いで合意退職してしまう例もあります。したがって、こういうことを解決するためにも労働組合を結成し、問題を労使で解決してほしいと思います。
未払い賃金請求でも請求額が60万円以下の場合は、簡易裁判所による少額訴訟があります。訴状は、鉛筆書きでよく、1回30分程度の審理で決定されます。これは、ある結婚相談所での例ですが、2カ月間交通費と賃金が支払われておらず、監督署から是正勧告が出ていました。しかし、経営者は「うちは今金がないので、金ができたら払う」と言い続けて、実質的に労基署の指導を無視していつまでも払わないでいました。そこで、支払額も50万円に満たない額だったので、簡易裁判所へ訴訟をおこすことになりました。実際に金は払われていなくても明細書だけは出ていましたからそれを添付して、弁護士もたてずに、簡易裁判所で賃金未払いを審議してもらい、未払い分をそこで受け取ったという経過があります。
今日話したのは、あくまでも労働相談に寄せられる労働現場の実態ですから、世の中の企業が全部そうだとは思わないでください。
たとえば、本田技研工業では、有給休暇を100%近く取得しています。また、労働組合が職場をパトロールしながら有給休暇を取るようにしたり、不払い残業がないように職場点検活動をしたり、こういったことが当たり前の企業も多くあります。
しかし、労働相談に寄せられるような企業も存在するわけです。こういった事実を知ることは、これから皆さんが社会人になっても役に立つと思います。
そして、労使は対等の契約関係で、それを使用者の都合で解雇・解約はできないことや、労働者にも対等の権利があること、しかし、その権利をきちんと主張するためには、1人では弱い、だからこそ、団結権等の労働三権という権利があり、労働組合が社会的にも重要な役割を果たしていることも憶えておいてほしいと思います。