1.はじめに
(1)連合寄付講座について
私たち連合と教育文化協会は、労働組合の存在や労働運動とは何なのかを、これから日本の社会を担う皆さんにぜひ知っていただきたいという思いで、この連合寄付講座を始めました。連合寄付講座で、労働組合を理解してもらいたいのと同時に、皆さんに、労働者はどのような権利をもっているのか、社会のなかでどのように位置づけられているのかを理解したうえで、社会に出て大いに仕事をしていただきたいと思っています。そういった趣旨でこの寄付講座を開講しています。
(2)なぜ労働運動を仕事としたのか
私は、福岡県の中間市役所に就職しました。地方公務員として社会人のスタートを切りました。そして、そこにある労働組合の組合員になって、その後、市の職員を退職して、地方公務員を中心に公共サービスを提供する労働者の産業別労働組合である、自治労の専従役員になりました。私が、労働組合の専従役員という仕事を選択したことには、市役所に入って2つの大きな出来事にぶつかったことが影響しています。
[1]救急医療体制の確立
1つは、私が最初に配属された中間市立病院でのことです。当時、救急患者の「休日夜間のたらいまわし」が全国でおきていました。中間市立病院も例外ではなく、ある時、交通事故で複雑骨折した重篤な患者が運ばれてきました。その時、緊急手術の準備ができず、他の病院を探したのですが、残念ながらその患者は亡くなりました。このことは、中間市立病院の責任ではないかもしれませんが、あのとき直ちに緊急手術ができていたら、患者は助かったかもしれません。そういう出来事があって、これは制度として整える必要があると考えるようになりました。
同じ頃、千葉県木更津市でもたらいまわしにあった青年が亡くなり、そのお父さんが病院と千葉県に対して訴訟を起こしました。これは「救急医療たらいまわし訴訟」といって、当時全国的に非常に有名になった事件です。訴訟を起こしたお父さんは、福岡県庁職員で自治労の元組合員だったこともあり、自治労が組織を挙げて支援しました。キャンペーンを展開して、多くの労働組合が協力してくれ、マスコミも大きく取り上げました。それは国を動かす力となり、政府は、一次・二次・三次という救急医療体制をつくりました。
自分たちの仕事を通して、現場で起きている矛盾に対して声をあげて、そのことが制度として実現することを、仕事の中で身を持って体験したわけです。
[2]自治体財政破綻に直面
もう1つは、財政問題です。
1978年頃、私は中間市役所の労働組合の書記長でした。その頃第一次オイルショックがあり、中間市の財政が非常に悪化していました。そのため、中間市当局から、財政が悪化しているから賃金を下げてくれという提案が出されました。労働組合としては、当局の責任で経営が悪化したのに、どうして労働者にしわ寄せがくるのか、そんなことはまかりならんということで、交渉が始まりました。
市の財政は完全に赤字になっていて、このままいけば民間会社の倒産に近い状況でした。私は、ここまで財政が悪化してしまったことに労働組合側が全く無関心であったこと、関与していなかったことに対して反省しました。そこで、なぜ財政が悪化したのかを明確にしない限り、合理化提案を受けるわけにはいかないと、徹底して労使で財政分析を行いました。これは勇気がいることでした。労働組合は経営の問題に立ち入るべきではない、迂闊に入れば結局合理化提案をのむことにつながってしまう、あくまで断固反対せよ、という強い意見があったからです。
しかし私は、財政分析に立ち入りました。その結果、財政悪化の一番大きな要因は、建設事業の乱発であることを労使で確認しました。自分たちの責任でたくさん箱モノを建てたことが財政悪化の一番の原因ということですから、当時の市長にとっては認めたくないことでした。それでも、これを認めない限り労働組合は協力できないと主張し、最後は市長が認めました。そして、今後二度とこういうことが起こらないように、労使でチェックし、財政計画をたてていくことを確認しました。
今では当然のことのように、労働組合が自分の会社の経営状態に立ち入っていますが、当時はまだまだそういうことができていませんでした。にもかかわらず我々が踏み切ったのは、自治体の経営悪化が、自治体で働いている人たちの処遇を下げるだけではなく、それ以上に市民に対して、福祉政策の削減など大変なしわ寄せがいくことを痛感したからです。そして、労働組合でも自治体の財政状況をきちんとチェックし、財政が健全であるよう主張していく責任があると考えました。
この時も頼りになったのは自治労でした。自治労は、そういったときの闘い方、データ、研究者をたくさん紹介してくれました。私が中間市役所の労働組合で交渉するときに膨大なデータを提供してくれたのが自治労だったのです。
その後、自治労の福岡県本部に専従役員として出ました。市の職員として市役所で働いた経験は13年間しかありません。その後は、労働組合の専従役員として30数年やってきました。自治労は、地方公務員が中心となっている労働組合ですから、市の仕事に常に関わっているわけですが、労働組合という仕事を選択したのは、このような体験がありました。そして今日に至っています。
2.連合とは
(1)ナショナルセンター:連合
次に連合について紹介します。連合とは、ナショナルセンター、労働組合の中央組織と考えていただいていいと思います。現在約680万人の組合員がいます。以前は、日本にはいろいろなナショナルセンターがありましたが、それらが1989年に「連合」という形で統一して、今日に至っています。
労働組合には、まず企業別の労働組合があります。これを単位組合(単組<タンソ>)と言います。労働組合の出発点は単組です。そこから同じような業種の単組が集まって産業別組織を作ります。私の場合は、地方公務員の労働組合が集まっている「自治労」という産業別組織になります。民間企業も一緒で、単組から産業別組織を作ります。自動車産業では、日産やトヨタの労働組合が「自動車総連」という産業別組織を作っています。その自動車総連や自治労が加盟しているのが連合です。連合は単組が直接加盟するのではなく、産業別組織ごとに加盟します。そういう意味で、労働組合の中央組織といっています。
(2)なぜナショナルセンターが必要なのか
自分の会社に労働組合があればそれでいいではないかと思われるかもしれませんが、そうではありません。労働組合の出発点は、一人ひとりが弱いからその職場ごとに労働組合、単組を作ることですが、単組だけでは問題は100%解決できません。
たとえば単組で賃金交渉をします。しかし会社は、自分のところだけで賃金を簡単に決められません。同業他社がどのくらい賃金を出しているのか、経営側も組合側も当然気になります。そうなると、業種ごとに産業別組織が必要です。
賃上げを勝ち取ったとしても、税金や物価が上がると、それが帳消しになる場合もあるでしょう。あるいは、賃金が1,000円上がったとしても物価が800円上がれば、実質的には200円しか上がったことになりません。こういうことは、経営者では決められない問題で、社会全体の制度や法律を整備することが必要になります。そこでナショナルセンター、連合が求められるのです。
連合の大きな役割は、働く人たちのための政策をいかに作っていくかです。そのために、経団連あるいは日本商工会議所、与野党の政党本部に対して、いろんな働きかけや交渉をします。それがナショナルセンターの仕事です。
労働組合の大きな仕組みとして、単組があって、産業別組織があって、そしてナショナルセンターである連合があり、労働者・働いている人たちの権利を守っていくことに取り組んでいます。こういった労働組合の仕組みについてご理解いただきたいと思います。
(3)連合が抱える問題
連合結成当時は、800万人の組合員がいました。それが現在では、680万人になっています。今、日本の雇用労働者は5,500万人いますが、連合以外の労働組合を併せても、日本の労働組合の組織率は18.5%です。戦後直後は、この2.5倍近い組織率だったのですが、だんだん下降していきました。その一番大きな原因として、高度成長が終わり産業構造が変化していくなかで、働き方が多様化したことがあります。
今、非正規労働者の問題がありますが、非正規と分類される雇用労働者を連合は十分に組織できていませんでした。これは反省すべきことで、今、連合では、非正規労働者を含めた組合のない人たちについて、どのように支援するかを大きな課題として取り組んでいるところです。その取り組みをとおして、組織率を上げていきたいと考えています。
3.関係団体
連合には、社会に対して政策を訴え、実現していくために、3つの関係団体があります。
(1)公益財団法人連合総合生活開発研究所(連合総研)
連合総研は、連合のシンクタンクで、政策立案に必要なデータなどを連合本部に提供したり、あるいは社会に向けて発信したりします。東日本大震災が発生した後には、日本の復興について直ちに提言を出したり、非正規労働者の実態調査・研究等を行ったりしています。
(2)公益財団法人国際労働財団
国際労働財団は、労働分野での国際交流を推進しています。特に力を入れているのが、途上国の労働者の支援です。奴隷のごとく使われている労働者がたくさんいるので、そういうところに労働組合を作るために、法制度の作り方などいろいろな支援をしています。また、特にアジアを中心に、児童労働に対する支援を行っています。児童労働をなくすための現地の人たちの養成や子どもたちが児童労働から脱却できたときの支援等をしています。
アジアやアフリカの労働組合から要請があるのが生産性向上運動です。途上国の労使は、工業発展を遂げて、労働者が豊かに生活できることを考えます。労使において生産性の向上という意識が大切になってくるのです。労使が馴れ合うのではなく、協力して、生産性や働く環境、労働安全を高めていくといった関係が必要になってきます。日本では、戦後そういうことを通して復興していったので、ノウハウをぜひ教えてほしいということです。セネガルなどの地域からも要請があり、貢献しているところです。
(3)社団法人教育文化協会
教育文化協会は、労働組合の人材育成だけでなく、広く労働教育を行っています。大きな取り組みとして、連合寄付講座があります。それから、労働運動の次代を担うリーダー育成のためのRengoアカデミー・マスターコースがあります。また、写真や絵画などを一般の方からも公募する文化展を行っています。そして「私の提言」という、働くということをつうじて、日本社会に対してどういったことを考えていくか、という提言募集を行っています。これは、毎年募集しているので、ぜひ応募してみてください。
4.働くことの意味と我が国が目指すべき社会像
(1)働くということの意味:フィラデルフィア宣言
働くということを一番よく示しているのは、1944年にフィラデルフィアで開催されたILO第26回大会で宣言された「労働は商品ではない」「一部の貧困は全体の繁栄にとって危険である」という言葉だと思います。
確かに経済学では「労働力は商品」という考え方ができるかもしれません。しかし、労働は生身の人間の営みです。商品として置き換えることができるものではありません。労働者を一般の経済活動から保護するための労働法という法律があるのは、そのことを意味しているのです。
「一部の貧困は全体の繁栄にとって危険である」というのは、貧困があるとすれば、それは巡り巡って自分の働いているところにもやってくるので、世界の果てであっても貧困を見過ごしてはいけないと言っているものです。このことは、現在の非正規労働者が置かれている劣悪さを放置すれば、働いている労働者全体の待遇が下がることにつながる、ということです。これは今でも非常に優れた指針だと思います。
では、なぜこのようなことが言われたのでしょうか。第二次世界大戦が終わる1年前、その時の労働者は、二度と戦争を起こしてはいけないと考えました。戦争の原因になるのは貧困です。貧困が飢餓を呼び、社会を不安にさせる、社会不安が極度に高まっていくとそれは外に向かって、戦争となります。つまり労働条件の改善は、平和維持のために必要だと宣言したわけです。ILO憲章の冒頭にもこの言葉が引用されています。
この宣言が採択されてから68年たちますが、ますますこの言葉が真実味を持って迫ってくる社会になっているのではないかと思います。そういう意味で、連合の役割は非常に責任があると思っています。
(2)日本社会における不安
かつて日本は、雇用の維持・拡大、労使の協力と協議、成果の公正配分という生産性三原則が機能したことで、雇用社会が形成され、経済成長を遂げてきました。しかしバブル経済が崩壊し、市場原理主義が台頭するなかで、日本型経営といわれる終身雇用、年功序列的な賃金制度といったものが崩れていきます。会社も従業員中心主義から株主中心主義へ変わっていきます。政府が企業を保護して、日本経済を発展させていくということもできなくなっています。そして労働においては、非正規労働者が非常に増大しています。今、非正規労働者が占める雇用の割合は、全体の3分の1になっています。また、年収200円以下の人が1,000万人います。
そういう状況で、若い人たちは、これから安定した収入を得て家族をもてるのだろうか、母親たちは、育児と仕事をどうやって両立していくのか、進学期の子どもを持つ親たちは、教育費をどうやって作っていくのか、子育てを終えた親たちは、老後の生活はどうなっていくのか、という不安を抱えています。また、非正規労働者は低賃金なうえ、いつ雇い止めにあうかといった不安があります。正規労働者も残業といった超過勤務等のストレスに悩まされながら、健康に気遣いながら働いています。さらに、自分に見合った賃金や待遇という面から、自分がきちんと評価されているのだろうかという不安もあります。
そういった不安の中で多くの人々が生きていっているのだろうと思います。今、日本はそういう社会になってしまっています。
(3)連合が目指す社会像
連合は「働くことを軸とする安心社会」を提起しています。この「働くことを軸とする」とはどういうことかというと、私たちは生活の糧を得るために、自分のためだけに働くのだと思っていても実はそうではないということです。会社で働くとき、モノを作る時、サービスを提供するとき、ボランティア活動をするとき、家事をするとき、私たちは、働くことによって人と結びついています。そして、働くことによって経済的に自立し、税や社会保険料を払うことによって社会を支えています。
人は1人では生きていけません。人と人との絆があってこそ、社会は成り立ちます。だから働くことを軸とする、と言っています。したがって、年齢や性別、障がいの有無にかかわらず誰もが働いてつながりを持てる、いわゆる参加できる、チャレンジできることが保証される、そういう社会を作っていくことが必要であり、それを制度として作っていく、実現しなければいけないと連合では考えています。
5.「働くことを軸とする安心社会」に向けて
(1)どのようにして安心社会をつくるか
人々が就労し、所得を得て、健康で文化的な生活を送り、税や社会保険料を払うことは、社会を支える根本です。自ら働くことによって経済的に余裕が出て、自立できるわけです。この仕組みというのは非常に大切だと思います。しかし今、雇用形態が多様化しているため、皆が同じように税や社会保険料を負担できなくなっています。
では、安心社会をどのようにつくるかというと、連合は、働くことにつながる安心の橋をかけることを提起しています。
まず、全ての人が誇りをもって働く機会がなければなりません。しかし、やりがいのある仕事に就きたいと思っていても様々な困難があります。したがって、困難を取り除いて、誰もが雇用の場に就くことができる仕組みをつくりたいと思っています。そのために5つの橋をかけます。それは、意思があれば自由に行き来できる橋です。
(2)働くことに結びつく「5つの安心の橋」
この橋は、多くは公共サービスという形で、国や自治体が積極的に提供していくわけですが、それだけでは到底賄いきれませんし、きめ細やかなものにもなりません。そのため、多くの民間企業やボランティアやNPO、あるいは個人の人たちも含めて、お互いに参加して協力し合い、橋を充実させていこうとしています。これを連合では「新しい公共」と言っています。
たとえば、現在では、親の収入に合わせて子どもの教育が決まり、その教育によって、子どもの生涯賃金が決まることは、統計から見てもかなり間違いのないことです。つまり、裕福な環境に生まれた子どもは、高い教育を受けることができ、高収入の仕事につくことができる、経済的に豊かな生活につながっていくわけです。しかし、そうでないところに生まれた子どもは、十分な教育が受けられなかったり、経済的に恵まれていなかったり、あるいは家庭環境が悪かったり、そういった中で安定的な形で育つことができなくなっていきます。
このように自分の生まれた環境によって、こういう仕事をしてみたい、こういうことを学んでみたいと思っていても、いろいろなハンディがあるわけです。環境だけの問題でなく、病気をすることもあるだろうし、会社でリストラにあうこともあります。
こういった障害をできるだけ除去していき、安心の橋を架けて雇用に結び付ていこうという考えです。具体的には、次の5つがあります。
[1]教育と雇用をつなぐ橋 経済的な問題で教育が受けられないことがないようにする、つまり、学ぼうと思っている若い人たちに対しては、その機会が十分に与えられるように、様々な奨学金制度や就学支援金制度等を充実させることが必要です。
日本くらいの経済レベルにある先進国ならば、とりわけ北欧の国では、教育や医療はほとんど無料です。これらが自己負担になることはほとんどありません。残念ながら日本ではまだそうなっていませんが、早々にそういう水準に持っていくべきだと思います。
[2]家庭と雇用をつなぐ橋
出産後、勤めようとしても、子どもを預ける保育所が足りず、定員がいっぱいのため入所を待たなければならないため、仕事に復帰できないことが多くあります。その場合、保育所や保育士を充実させていくことが必要です。
あるいは、家族に病人がいて、介護のために仕事をやめなければならなかったり、仕事に就けなかったりすることもあります。そういう場合にも、就労を継続できるようにしていくことが必要です。
いろいろな対応がありますが、第一に、仕事と家庭の両立を実現することが大切です。
[3]失業と雇用をつなぐ橋
現在、いつどのような形で、自分の会社がつぶれたり、リストラされたりするのかわからなくなっています。どんな一流企業でも安定企業といわれているところでも、安心していられる状況ではありません。また、一流企業、安定企業にいても、仕事がハードで病気になってしまうこともあります。やむを得ず一旦仕事を離れなければいけないことが長い人生のなかではありうることです。
そうなった時に、もう一度仕事につけるチャンスが必要です。職業訓練や療養、その間の生活保障が求められます。現在でも、雇用保険や医療保険がありますが、不十分です。
また、若い人は、ハローワークに行っても希望する仕事がないためになかなか自分に合う仕事がみつかりません。仕事に就くための技術を習得しようと思っても、技術を習得している間は働けません。そのため、職業訓練を受ける間は生活給付を出しましょう、という制度が日本でもできました。「求職者支援制度」(生活給付金付きの職業訓練)で、これはリーマン・ショックで本当に大変になったときに、連合が強く要求して、制度を政府につくらせました。まだまだ不十分な制度ですが、月10万円の給付を受けることができます。
こういうシステムがあることで、失業しても職業訓練を受けたり、病気を治したりして、もう一度仕事に就くことができます。
[4]退職と雇用をつなぐ橋
今、65歳までは雇用は継続しますが、働くということは、雇用によるものだけではありません。先ほど「新しい公共」の紹介をしましたが、NPOやボランティア等さまざまな働き方があります。町内会の世話人というのも含まれるかもしれません。そういった様々な働き方で、社会と関わっていくことができます。これは大きな意味での働くということだと思います。
退職してもまだまだ働きたいと思っている人が、生涯現役でいられるような制度を整備していこうというものです。
[5]働き方を選べること
以上の4つの橋の真ん中にあるのが雇用です。この雇用は、働き方を選べるようにします。それは、正規・非正規という選択ではなく、正規同士の働き方をもっとレベルアップしたものとして捉えてください。
どういうことかと言いますと、ヨーロッパ等でもフルタイム、パート・タイムという働き方があります。フルタイムは1日、パート・タイムまたはショートタイムというのは、1日のうち、3時間とか4時間とか短い時間で働くというものです。働く時間の長短の違いだけで、そこにおける権利や待遇には基本的に差はありません。同一価値労働同一賃金という考え方なので、差をつけてはいけないことになっています。したがって働く時間が短ければ、長い人に比べて賃金は少なくなりますが、退職金の制度はあります。また、給付水準に違いはありますが、健康保険に入ることも、年金に入ることもできます。先進国のそういったイメージを連合では目指しています。
日本でいう正規は、厚生年金・共済年金、健康保険に加入でき、退職金もありますが、非正規で一般的には週30時間以下の労働だと、健康保険、年金には入れないので自分で国民保険や国民年金に入ることになっています。退職金もありません。これぐらい差があります。まずはこういった差がないところまでレベルアップしていって、なおかつフルタイムとパート・タイムを選ぶことができる、さらにそのなかで移動できることを目指しています。
移動というのは、たとえば、しばらく育児に専念したい場合は、3年間はパート・タイムで働き、子育てが一段落したらまたフルタイムに戻ることができるということです。一つの企業でそういうことが選べるイメージです。働き方を選べるというのは、そういうことを言います。連合が目指しているのは、正規か非正規かを選ぶのではなく、働く時間を選べる、働く時間が違っても権利は同じということです。
こういった社会が連合のめざす「働くことを軸とする安心社会」です。実現にあたっては、財政の問題も当然出てきます。財政負担は、働く我々が担わなければなりません。しかし、「働くことを軸とする安心社会」が実現できるという前提、税の公正さが保たれるという前提が必要です。そういった前提があれば、財政負担にも納得できると思います。連合は「働くことを軸とする安心社会」の実現をめざして、各界に訴えているところです。