埼玉大学「連合寄付講座」

2011年度後期「働くということと労働組合」講義要録

第10回(12/12)

職場・地域の現状とその対応⑦
労働組合と地域との関わり

ゲストスピーカー:連合埼玉 事務局長 佐藤 道明

1.連合埼玉 新中期運動ビジョン「『働くことを軸とする安心社会』の実現をめざして!」

(1)私たちがめざす社会像

 今回の寄付講座の冒頭では、連合が提起した「働くことを軸とする安心社会」でめざす社会像の説明があったと思います。このめざす社会は、働くことに最も重要な価値を置き、誰もが公正な労働条件のもと多様な働き方を通じて社会に参加でき、社会的・経済的に自立することを軸とし、それを相互に支え合い、自己実現に挑戦できるセーフティネットが組み込まれている活力あふれる参加型の社会です。
 連合埼玉では、こうした提起をうけて、この社会像をもう少しわかりやすくし、「『働くことの意義』と『労働の尊厳』が尊重される社会」、「働き暮らす人々が主人公で、その『幸せ』が実現できる社会」をめざすこととしました。

(2)働くことの意義

 「働くことの意義」には、まず、社会的・経済的に自立した生活をおくるということがあります。今、若い人がなかなか仕事に就けず、また、仕事に就けたとしても賃金が安く、結婚もできない、結婚しても子どもを産み、育てることをためらうという状況があります。そして、このことは日本社会の構造をおかしなものにしています。働く人が減れば、税金や社会保険料等を納める人も減ってしまいます。つまり、社会を支える人が減ってしまうということです。そういう意味では、1人ひとりがしっかり働き、賃金を得るということは、経済を支えることにつながる重要な社会活動であると思います。
 もう1つは、働くことは社会に参加・参画するということです。人間は、1人で生きていけると強がっても、社会との関係なしに生きていくことはできません。ですから、働くことを通じ、社会に貢献するということが大切だと思います。
 そして、働くことは自己実現にもつながります。働くことを通じ、自己実現に挑戦できることが可能になると考えています。

(3)労働の尊厳

 「尊厳」という言葉を辞書でひくと、「尊く厳かなこと、気高く犯しがたいこと」と書いてあります。そこで、「労働の尊厳」とは何かということになりますが、このことを考えるうえで重要な出来事として、たとえば、2008年のリーマン・ショックがあります。皆さんも「派遣切り」という言葉、そして「派遣村」のことを覚えていると思います。あの時に非正規労働者、特に派遣労働者の皆さんは、会社を解雇され、仕事を失い、それと同時に住む場所も失ってしまいました。派遣労働者の皆さんは、会社の寮に入り、そこから仕事先に通っていましたから、仕事がなくなれば、その寮からも出ていかなければならず、仕事と生活の場をいっぺんに失くしてしまいました。そして、直近では、東日本大震災があります。この災害では、雇用においても危機的な状況が生まれ、今まで働いていた職場、一緒に働いていた仲間が、あの地震と津波に巻き込まれてしまいました。
 私は、働くということは、生きることだと思っています。生きるとは働くことと言い換えても過言ではないと思います。
 「労働の尊厳」とは、生きていくために、誰もがいつでも働く機会が与えられ、働く場を得ることができることであり、これがあってこそ、人々は安心して生きていけると思います。そうした考えからすれば、今は労働の尊厳が守られている状態にはないと感じます。

(4)働き暮らす人々が主人公で、その「幸せ」が実感できる社会

 私たちがめざす社会像では、その対象を労働組合の組合員や働く人に限定していません。雇用形態や働き方、職業、年齢、価値観など、そういったものを全て乗り越えて、働き暮らす人々の幸せを考えていきたいと思っています。たとえば、定年退職した人、定年退職されるまでは労働者だった方たちです。また、何らかの理由で、今、働けない方もいます。そして、皆さんのように、これから社会に出て働こうとしている方たちもいます。
 私は、こうした人たちも含め、働く意欲のある人すべてが労働者だと思っています。そこで、標題を「労働者」とすると、その範囲が「働く人」に限定されてしまうと考え、多様な立場の人々を主体とする社会づくりの観点から「働き暮らす人々」と表現しました。

2.労働組合による就業支援活動

  次に、労働組合による就業支援活動への取組みについて、実際に行った2つの事例をもとにお話ししたいと思います。

(1)既卒3年以内の人を対象とした「就職面接会」

 1つは、2011年6月16日に実施した、既卒3年以内の人を対象とした就職面接会です。これは、新規学卒一括採用の仕組みのもと、新規採用者でないことが先々まで不利になることや、雇用のミスマッチ、就職内定率の低さなどから、労働組合として新卒の皆さんを何とか支援しようということで取り組んだものです。
 全体の参加企業は69社、そのうち連合埼玉から加盟組合経由でお願いし、この面接会に参加いただいた企業は3社です。実際には5社が手を挙げたのですが、このうち2社は、就職面接会の前に採用が決まったということで、エントリーを取り下げました。
 全体の求人数は260名で、そのうち連合埼玉がお願いした3社の求人は25名でした。3年以内の既卒者で、この面接会に参加した人は208名で、採用された人は22名でした。そのうち2名が連合埼玉の呼びかけで参加した企業の求人でした。これだけを見ると、かなり少ない数と思われるかもしれませんが、この取り組みは、連合埼玉22年間の活動ではじめて行ったものです。
 この面接会は、埼玉労働局と一緒に行いました。実は、2010年に連合埼玉単独で就職説明会を計画しましたが、予定していた企業数に満たず、実施をあきらめた経緯があります。その後、労働局の担当者と話をした際、労働局に登録する求人企業と一緒に就職面接会をやってはどうかという話になり、今回の開催となったわけです。この就職面接会は、今後も引き続き取り組んでいきたいと思っています。

(2)基金訓練・介護コースへの協力

 2つめは、基金訓練への講師派遣の協力です。基金訓練とは、雇用保険を受給できない離職者(受給終了者を含む)に対して、専修・各種学校、教育訓練企業、NPO法人、社会福祉法人、事業主等が、中央職業能力開発協会により訓練実施計画の認定を受けて行う無料の職業訓練です。なお、この基金訓練は9月末で終了し、10月からは恒久化された「求職者支援制度」としてスタートしています。
 私たち労働組合に、基金訓練を実施する、ワーカーズコープというNPOから講義の要請がありました。働く人の権利やワーク・ライフ・バランス等も注目を集めていることから、訓練の一環として、受講者が労働組合の取り組みや役割、労働組合の意義について理解できるよう、また、働く仲間による団結や連帯、「やりがい」や「働きがい」、人や社会に対する貢献といった、働くことの根本的な価値に目を向けられるよう、講義をしてほしいとの依頼でした。介護の現場というと、汚い、きつい、給料が安いなどと言われがちです。事実、本当に大変な職場であることは間違いないと思いますが、そうしたなかにあっても、働きがいや生きがいも生まれてきます。この要請を受け、介護職場の労働組合の委員長が講義をさせていただきました。

(3)「新しい公共」の担い手を育成するための起業・事業支援(私案)

 これはあくまで私案ですが、今後実現をしたいと思っている活動です。
 「新しい公共」とは、民主党が政権をとり、鳩山元総理が2009年10月の所信表明演説で掲げた理念です。これまで「官」が支えてきた教育や子育て、防犯や防災、医療や福祉などの公共サービスに、地域のNPOや市民が積極的に参加できるようにし、社会全体として支援する新しい価値観を生み出そうというものです。
 今、市町村、県ともに、財源問題を抱え、県民であれば県によるサービス、市町村であれば、そこの住民へのサービスが限られたものになってきています。また、今までは無償だったサービスが、有料にもなってきています。そのようななか、ただ単に公共サービスをすべて行政に任せるのではなく、たとえばNPO、市民団体などが行政と連携をとり、市民サービスを提供していくこともこれからは必要ではないかと考えています。そして、当然その役割を労働組合も担わなければならないと思っています。
 私は、地域において行政の課題に取り組むような人々・団体を、何とか支援できないかと思っています。そのことが、起業につながり、新しい公共サービスとしての雇用につながるとも考えており、このことにNPOと一緒に取り組んでいきたいと思っています。
 労働組合というと、春闘で闘うというイメージが皆さんには大きいことと思いますが、決してそれだけではなく、働くことに関わる事柄にも、しっかり取り組んでいるということをご理解いただきたいと思います。

3.労働組合と地域・NPOとの関わり

(1)ネットワークSAITAMA21運動

 ネットワークSAITAMA21運動は、「出会い・つながり・支え合い」をキーワードに、ⅰ共生の地域社会づくりへの積極的参画、ⅱ勤労者の生涯サポート活動、ⅲ市民社会との連帯と協働をめざす活動です。
 私たち労働組合は、基本的には企業における労使協議を通じ課題の解決をはかっていますが、その労使協議では解決できないことも山ほどあります。組合員は家に帰れば地域の生活者として、行政の取り組みにも対応しなければなりません。また、地域には、自治会やPTAなど、いろいろな活動があります。私たちは、こうした共生の地域社会づくりへ積極的に参加していきたいと考えています。
 男性、特に団塊世代から私の世代までの中には、仕事が中心の生活で地域活動に全く参加しない、隣近所にどんな人が住んでいるかも知らないという人が多くいます。そういった人たちが定年を迎え、時間ができたから地域で何かをやろうとしても、地域は、すぐには受け入れてくれません。現役時代から地域で自分のできることにしっかり関わっていくことが必要です。勤労者の生涯サポート活動では、こうした現役世代の皆さんを支援する活動や、定年を迎え何かやりたいと思っているOBの皆さんに、活動の機会を提供するための取り組みを行っています。
 具体的な活動として、「勤労者の暮らしと市民活動を応援する3つのプログラム」と「ふれあいコミュニティーファンド」があります。

① 勤労者の暮らしと市民活動を応援する3つのプログラム
 この3つのプログラムのうち、「ライフサポートプログラム」では、いろいろなセミナーを企画し、出前講座を行っています。今年は特に原子力の問題がありましたので、「放射能と食」というセミナーの要望が多くありました。私たちのネットワークで講師を探し、出前先には講師料を負担させない方法で取り組んでいます。また、東日本大震災の際には200万円を拠出し、とくに旧騎西高校に避難している双葉町の皆さんへの支援に取り組みました。
 さらに、「ボランティアサポートプログラム」では、ボランティアをやりたい人とボランティアが必要なNPOとのマッチングにも取り組んでいます。
 「NPOサポートプログラム」は、はじまって5年になりますが、50台以上のパソコンを寄贈し活動に役立ててもらっています。なお、NPOの活動を知ってもらうため、NPOを訪問し、実際の活動を見て回るという事業や、NPOインターシップにも取り組んでいます。

②ふれあいコミュニティーファンド
 これらの運動の財源は、「ふれあいコミュニティーファンド」という、団体や個人からの寄付と、「ネット21ボランティア・カード」の販売によって支えられています。
 ネット21ボランティア・カードというのは、カードを500円で購入すると、そのうち200円が寄付されるというものです。カードを買った人は、ボランティア運動に貢献したことにもなりますが、このカードを提示すれば、全国のホテルやレジャー施設、県内の飲食店、ボーリンク場等の契約店において、割引価格で利用できるようになっています。

③シェルター事業の展開
 私たちは、2008年にリーマン・ショックが起きたとき、職と住まいを失った派遣労働者を一時的にでも支援しようと、2009年2月4日から4月24日の間、シェルター事業に取り組みました。
 総宿泊者数は32名(うち女性4名)、延べ宿泊者数は754名となりました。そして、支援宿泊費の約300万円は、ネットワークSAITAMA21運動からすべて拠出しました。なお、宿泊される方にも一部費用負担をしていただこうということで、1日1,000円の宿泊費をこの運動に寄付していただくことにしました。しかし、宿泊される皆さんは、あまりお金をお持ちとは言えません。そこで、シェルターに入った後、生活保護を受給できるようになった方にシェルターを出られる際に寄付をお願いすることとしました。生活保護が受給できた方の中には、この運動への恩返しということで、日数分の寄付をしていただいた方もいましたが、実際に宿泊代として寄付があったのは 5万円程度で、ほとんどの方は、支払いがないまま出ていかれました。
 このシェルター事業の展開を通じ、いろいろな人間模様を見たように思いますが、もとは皆さん労働者だった方々であり、こうした支援ができたことはよかったと思います。

(2)東日本大震災復興支援

①被災地へのボランティア派遣
 連合埼玉では、5月2日から9月25日までの間、派遣日数128日、派遣人数51名、延べ261名を、福島、宮城、岩手の三県に派遣しました。この数字は、連合埼玉が募ったボランティアに関するものですが、連合全体では、延べ35,000名を超えています。

②義援金カンパ活動
 支援活動の1つとして、街頭における義援金カンパ活動を行いました。3月は、所沢、大宮、熊谷、南越谷の4ヵ所で、カンパ活動を行いました。そして、5月から9月の間、毎月浦和駅前でカンパ活動を行いました。災害時の3月は本当に多くの皆さんにカンパをしていただいたのですが、その他の月は毎回1万円程でした。しかし、私たちは金額の問題ではなく、あの震災を風化させてはいけないと考え、せめて月に一度は皆さんに被災地の状況を伝えるということを目的として取り組みました。このことは、連合埼玉だけでなく、県内に12ある地域協議会でも同じように取り組みました。
 また、連合埼玉から連合本部へ500万円を拠出しました。さらに他のカンパ金も含め、連合埼玉では、連合本部「連合東北地方太平洋沖地震救援カンパ」に合計6,212,078円の寄付を行いました。連合全体では、総額約8億円のカンパ金が集まり、宮城、福島、岩手の各県にそれぞれ2億円ずつ、そして、茨城県と千葉県に各2千万円を義援金として寄付し、残りの約1億5千万円を「あしなが育英基金」に寄付しました。私たち連合埼玉の寄付金、約621万円がここで役立ちました。また、連合埼玉ではチャリティーゴルフ大会を9月に開催しましたが、ここでもカンパ活動を行い、カンパ金20万円を「東日本大震災宮城こども育英会」に寄付しました。

③県内避難者への支援活動
 今、埼玉県内の避難所は旧騎西高校だけとなっており、避難者の皆さんは市営住宅、公営住宅、雇用促進住宅など、公営の住宅に入り、プライバシーはある程度守られるようになりました。しかし、支援物資が届かず、さらには、情報が得にくくなっています。こうした状況に対応するため、被災地出身の人がNPOをつくったり、様々な市民団体が連携しながら支援しており、私たちもこういった人たちと連携を取りながら支援を進めようと思っています。
 今まで私たちが行った支援活動としては、旧騎西高校に避難している双葉町の親子を、第82回埼玉県中央メーデーの子ども向けアトラクションや東武動物公園に招待しました。また、メーデー会場では、茨城県産の野菜等を販売しました。さらに、メーデーでは100万円を超えるカンパ金を集め、これを県内避難者への物資支援に使っています。私たちが普段使っているものが、避難者の方々にとっては貴重品となるため、連合埼玉では、避難者へのヒアリングを実施し、必要な物資の支援を実施しています。
 また、物資だけでなく、精神面での支援にむけた、つながり、ネットワークがますます必要となってきています。労働組合では、それらをサポートするような取り組みをこれからやっていきたいと思っています。

④狭山茶購入活動
 震災によって、埼玉県のブランド茶である「狭山茶」が、今、危機的な状況にあります。今は、お茶といえばペットボトルを購入する人が増え、お茶の葉を急須に入れて飲む家庭が少なくなりました。こうした状況に加えて、放射能の風評被害を受けています。
そこで、連合埼玉では、組合員の皆さんに狭山茶の購入支援をお願いしました。また、お茶の購入代金の3割を狭山茶農協から連合埼玉に寄付していただき、それを復興支援に役立てることとしています。
なぜこのような支援の仕組みを考えついたのかというと、以前「彩のかがやき」というブランド米の購入支援に取り組んだ経験からです。

(3)埼玉県ブランド米「彩のかがやき」購入支援

 2010年夏の高温障害で、規格外米が大量に発生しました。そこで、JA県中央会より、農家の生活支援のための購入要請があり、連合埼玉として組合員の皆さんに協力を呼びかけ、約19トンを購入しました。これは連合埼玉がまとめて買ったわけではなく、組合員1人ひとりが購入した購入量で、その他に、企業の食堂でも購入してもらうことができました。

 このように、私たち労働組合は、組合員だけでなく、働く人全体を支援するために取り組んでいるということをご報告したいと思います。

 最後に、資料に掲載した7月29日付けの読売新聞の記事にふれたいと思います。ここでは「働けない社会はおかしい」という主旨で発言したことが掲載されました。私は、一生懸命働く人が報われない社会は成長できない、労働が優先される社会でなければ、発展はないと思っています。働きたい人が働けない社会は問題であり、誰でも働けることこそが「新しい社会保障」だという発言をしています。そのことを紹介し、終わりにしたいと思います。
 どうもありがとうございました。

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