1.合同会社西友と西友労働組合の概要
西友の会社自体の創立は、1963年4月です。以前は、株式会社西友という名前だったのですが、現在はアメリカのウォルマートという会社の100%子会社になり、社名が合同会社西友に変更しました。
事業内容は食料品、衣料品、住居用品などの小売りチェーンの運営です。北海道から九州まで店舗があり、店舗数は、2011年8月現在で369店舗です。店舗が一番多いのは関東で、埼玉県は、東京都に次ぐ店舗数だと思います。
西友労働組合が結成されたのは、1968年9月ですので、かなり古い組合といえます。現在は、北海道、東北、関東、中部、関西東海、九州に6つの支部をおき、各店舗、事業所単位に分会が384あります。分会は、店舗だけではなくて、肉を加工している加工センターや物流センター等にもあります。埼玉県三郷市にも大きな物流センターがあるのですが、そこで仕分けやお店へ商品を運んだりする仕事をしている人たちも組合員になっています。
組合の組織人員は、2011年3月現在で3,952です。そのうち正社員である本社員は2,598、メイト社員と呼んでいるパートタイマーは、1,354です。
上部団体は、流通サービス産業の組合が集まっている、日本サービス・流通労働組合連合(JSD)です。
西友の場合は基本的には本社員と呼ばれる正社員と、メイト社員と呼ばれるパートタイマーの2種類の働き方があります。今日は、メイト社員(パートタイマー)の組合加入についてお話しします。
2.非正規労働者の組合加入
(1)社会的背景
労働組合の組織率は、年々減ってきています。また、正社員でない人の割合が、年々増加しています。その内訳は、パート労働者が1,150万人、契約・嘱託労働者が324万人、派遣労働者が98万人となっています。なかでも、総合スーパーのパートタイマー比率は、ここ5年間で76.8%から83.9%と、かなり大きく増加しています。
2008年にパートタイム労働法が改正されて、通常の労働者と均衡のとれた待遇の確保や、通常の労働者への転換を推進するための措置が求められています。また、最低賃金法の改正により、生活保護にかかる施策との整合性にも配慮しなければならないということで、特に東京、埼玉では、最低賃金がかなり上がってきています。
さらに、社会保険制度の適用範囲拡大が議論されています。たとえば、現時点では、厚生年金や健康保険に加入しなければならないとされている週の労働時間30時間の範囲をもっと広げていくことなどです。
このように、パートタイマーを巡る環境が変わってきていることが、社会的背景になります。
(2)社内の環境変化
[1]多様化するパートタイマー
西友の従業員の推移は、以前はメイト社員と本社員(正社員)の数はあまり変わらなかったのが、今ではほとんどの人がパートタイマーになっています。本部を除く店舗で働く87%がメイト社員というのが、西友の現状です。
20年くらい前は、パートタイマーというと、子育てが一段落した主婦が、自分のお小遣いを稼ぎにきた、という30~50代の方が大多数を占めていました。しかし、最近では、男性のパートタイマーも増えています。特に男性は、若年層と言われる20~30代の方が増えています。その一方で、以前から勤めている主婦パートも依然として多く、パートタイマーと言っても、今は一括りにはできません。
JSDが、パートタイマーとして働く理由を調査したところ(2010年「JSD意識調査」)、男性のうち67.3%の人は、正社員として就職できなかったからという理由を選んでいます。女性も3割が正社員になれなかったことを理由にしています。ただ、女性の4割は、古くからのパートタイマーのイメージである、働く時間・働く日が選べるからということを選んでいます。
この調査は、いわゆるリーダー層の人たちだけの数字を抽出していますが、それでも、なぜパートタイマーとして働くのか、様々な考えを皆さんが持っていることが理解いただけると思います。
[2]メイト社員の基幹化
社内の環境変化のもう1つの要因に、メイト社員の基幹化があります。西友では、2004年に人事制度を改訂した際に、本社員とメイト社員のグレード体系を見直しました。
この時に、メイト係マネジャーとリーダーメイトを創設し、以前のような補助業務ではなく、どんどんリーダー的な役割を担ってもらうようにしました。さらに、メイト係マネジャーの本社員への転換も可能とする制度に変更しました。
また、変更した制度では、メイト係マネジャーとリーダーメイトには、金額は違うのですが、賞与を年2回、正社員と同じように支給し、同一グレードの場合、同じ評価表を使って、同じ基準で評価することになっています。
このように、本社員もメイト社員も同じグレードであったら、求められることは同じということで、当時としては、かなり画期的な取組みだったと思います。
(3)西友労働組合の取り組み
[1]これまでの取組み
西友労働組合は、メイト社員組織化方針を1979年の大会で確認しています。その時に、人事処遇制度に関する委員会を設置したのですが、組織化をしていくことはできませんでした。その後、2002年に改めて、メイト社員組合加入に向けた見直しを始めました。その時に、意識調査や全事業所で社員集会を行いました。そこで、メイト社員の人たちに、組合加入について説明しました。
2006年には、グレード2および3のメイト社員の人には、組合に加入してもらいました。この時の対象者は、約900です。
[2]現在の取組み
現在、西友労働組合では、メイト社員の組合加入をすすめています。
具体的な取組みとしては、2010年9月の定期総会において組織化を確認し、10月から全分会において既存組合員への組織化理解促進に向けた活動を行いました。そして、2011年3月の中央労使協議会においてユニオンショップ協定の改定を確認し、全事業所において加入説明会および同意書回収をスタートしています。加入対象は、週20時間以上勤務のメイト社員全員で、対象者は15,000名です。
組合加入をすすめるにあたっては、メイト社員と既存組合員の間でトラブルにならないように、きちんと全組合員に理解していただくことが大変重要となります。
また、ユニオンショップ協定と同時にチェックオフ協定も会社と結んでいるので、基本的に組合費は給料から天引きしてもらえます。メイト社員の組合加入をすすめることは、組合が独自で行うことなのですが、会社に協力してもらうことも非常に大切です。
[3]組織化のメリット
説明会では、組合加入のメリットは何かということをよく聞かれます。メイト社員が組合員になれば、今まで交渉できなかった労働条件・会社制度について、組合を通して交渉が可能になり、労働条件が向上する機会がもてます。不利益な契約内容に泣き寝入りしなくてすむわけです。また、相談窓口が明らかになりますし、保養施設等のサービスや、共済給付を受けられます。こういったことがメリットになります。
一方組合にもメリットがあります。一番大きな点は、従業員の過半数代表になれることです。労働基準法に規定されている過半数代表になれれば、36協定を会社と結ぶことや、就業規則を変更するときに意見書を出すことができます。また、全社の従業員の声を代表する組織として、会社に対して影響力が強くなります。さらに、生産性の向上も考えられますし、組合費増により活動基盤を強化していくこともできます。
会社にもメリットがあります。従業員の意見収集の一本化、情報伝達の強化、現場視点での職場の状況、実態把握、従業員の声を反映した制度づくりということが考えられます。また、会社の計画や制度の変更といったことを、組合が会社に代わって、組合員に伝えられること、交渉の対象が一本化することによって、集中できるということがあります。
[4]組織化活動を通じて寄せられた声
説明を聞いた皆さんから、いろいろな声が寄せられています。最も多く寄せられているのが、組合費が高いのではないか、何に使っているのかということです。これまで引かれていなかった組合費というお金が、給料から引かれるので、皆さん非常に関心を持っています。今後の私たちの活動の中で、成果をきちんと示していかなければいけないと実感しています。
それから、労働条件について、賃金、賞与について会社と交渉してほしい、もっとコミュニケーションをよくしてほしい、職場で困っていることに対応してほしいというような意見もいただいています。
[5]メイト社員組合員対象の取組み
メイト社員組合員への取組みとして、集会を開いて、情報提供や意見収集をしています。また、労働条件等の交渉をする前に、自分たちの制度を知ってもらおうとパンフレットを作ったり、機関紙での情報提供を行ったり、フリーダイヤルで毎日相談を受ける体制を作っています。
1万人以上の組合員が増えるので、今まで通り中央を中心に活動をしていくと、メイト社員の人たちにメリットが見えにくくなります。そのため、分会を中心とした各事業所や店舗での体制をもう一度見直し、身近な組合になれるように活動しています。
今後は、メイト社員部会を設置し、意見反映の場を徹底させていきたいと考えています。
3.処遇改善の取組み
(1)これまでの取組み
次に処遇改善について、西友労働組合と会社のこれまでの取組みを簡単にお話しします。
組織化以前の制度として、本社員と同一基準の慶弔休暇、上期・下期連休制度(無給リフレッシュ休暇)、退職慰労制度として、勤続5年以上の人を対象とした1万円相当の物品の支給というものがありました。
リーダー層が組合加入した以降の取組みとしては、賃金水準の向上、会社都合による異動時の交通費上限の見直し、年次有給休暇取得日数増(計画年次有給休暇制度)、業績連動賞与支給指標の見直し等があります。業績連動賞与については、これまでリーダー層のメイト社員に限って支給されるものでしたが、来年度から新たな基準となることが決定しています。
(2)合同会社西友の制度
[1]グレードについて
合同会社西友の処遇制度には、グレード1、グレード2、グレード3、グレード4とあり、基本的にはグレード1だったら、本社員でもメイト社員でも制度上は、仕事は同じです。そして、評価する際にも相対評価ということで、同じ枠の中で行うことになっています。
基本的には、グレード1から2、グレード2から3は、評価と面談で上がります。アシスタントマネージャーというメイト社員は、本人が希望すれば、全員本社員への転換が可能になっています。実際に、年間数十名単位で本社員へ転換しています。本社員に転換すると、コアマネージャー、副店長であるグレード4にも上がることができます。そして、グレード5からの店長、さらにはもっと上も目指せる制度になっています。
会社では、メイト社員の登用を積極的に進めていて、組合役員をやっていたメイト社員の人もグレード3になって本社員になっています。ただ、組合員の範囲はグレード3までで、中には、グレード4になって、組合員範囲から外れてしまった人もいます。
メイト社員の役員を育てたいという組合の思いはあるのですが、本人が上を目指すことを止めるわけにもいかないので、ちょっと頭の痛い問題ではあります。
[2]本社員と同等の制度
実際に、本社員と同等になっている制度は、評価制度です。同じ評価表で評価されていて、グレード2と3のみですが、固定賞与の制度があります。それから、業績連動賞与、基準のところで少し違っているのですが、同じ数字を使って支給率を計算していて、本社員と同等となっています。
育児介護休暇は、1年半取れることになっています。また、1日6時間以上で契約している人は、小学校4年生が始まるまでは1日30分単位で、6時間まで勤務時間を減らせるという本社員と同等の育児短時間勤務制度になっています。その他に、慶弔休暇や、特別休暇(裁判員休暇等)も本社員と同じです。
[3]見直しが必要と考える制度
組合として見直しが必要であると考えている制度は、1つは、賃金、すなわち月例給、賞与の水準です。このことは、本社員と何が違って、何が一緒なのか、というところが非常に大きな問題となっています。一応転勤はないとか、契約時間外は働かないとかいう違いはあるのですが、そこのところも実際の運用とは違っているという話もあるので、しっかりと見直しをしていかなければならないと思っています。
メイト社員に全くない制度が、退職金制度です。退職慰労制度はありますが、これは本社員に支給される退職金とは内容も額も全然違うので、これを見直すということです。
また、1万円以上かかる交通費は自己負担となっているのを、通勤手当として支給すべきと会社に申し入れています。しかし、会社は仕事とは関係ないということで、組合と意見が食い違っているのが現状です。
(3)メイト社員の抱える不安・不満
次に、リーダー層のメイト社員は、実際にどういう不安や不満をもっているのか、2010年のJSD意識調査から抜粋してみました。
男性で一番多いのは、本社員になれないことです。賃金が安いこともあげられているのですが、リーダー層は通常のメイト社員に比べると、賃金水準はそんなに悪くないので、賃金が安いというのは、やはり本社員と比べてということだと思います。
一方女性は、有休休暇が取りづらいということで、賃金よりもそういうところに関心があるというのがわかります。
あとは、昇級制度の不満や、制度以外でも職場環境や自分の上司とのコミュニケーションなど、メイト社員の人たちが抱える不安や不満は、いろいろなものがあると考えられます。
(4)今後の主な取組み
[1]組合員全体を対象とした取り組み
今後、西友労働組合としてどういうことに取り組んでいくか、大きく2つの柱に分けています。1点目が、組合員全体を対象とした取り組みとして、職場環境の改善に取り組んでいきます。働きやすい環境づくりのために、ワークルールの整備をしていきます。たとえば、サービス残業はしないで、働いた分はきちんと賃金をもらうというようなこと、年次有給休暇・連続休暇の取得推進です。
2010年の春の交渉で、年次有給休暇が取れないと組合が言った時、当時の社長は、お休みは好きなだけ取ればいいじゃないかと言いました。西友は24時間営業で、夜間営業は子会社に委託しているので、24時間働く人がいるわけではないのですが、実際にお休みが取りづらいということがあります。
土日が休みの会社だと、平日を休む時は、年次有給休暇をとることになるのですが、1週間全部営業しているところだと、その日休みにしたら、違う日に出勤することになります。また、誰かが休めば、他の誰かがその日に出勤することが、暗黙のルールとなっているので、年次有給休暇や、連続休暇が取れないというのが、非常に大きな課題だと思います。
さらに、休暇については、本社員は、年間休日を取らないと、その分賃金として精算して人件費が増える仕組みになっているため、メイト社員よりたくさん休みを取っているという不満の声があります。また、売り場によって休みがたくさん取れるといったこともあり、かなり不公平感を持っていると考えられます。
それから個別相談への対応では、相談フリーダイヤルの件数が増えてきています。相談内容は、パワハラについてが多いです。たとえば、上司からこういうことを言われたとか、評価の時にきちんと説明をしてくれずに給料を下げられた等です。相談を聞いていて、コミュニケーションが取れていないなと感じます。ローテーションによっては、上司と1週間に一度も顔を合わせないという人もいます。
これは本社員同士、メイト社員同士全ての場合に当てはまるのですが、きちんとコミュニケーションが取れていないことが課題となっています。組合としても、今後きちんと取り組んでいいかなければいけないと思います。
[2]メイト社員を対象とした取組み
2点目がメイト社員を対象とした取り組みで、均等均衡ということが関わってきます。
親会社がウォルマートになってから、メイト社員もかなり働き方が変わってきました。これまでの補助的ということから、本社員と同じような仕事をしなければならなくなりました。それにより、新しいことをいろいろ覚えたり、今まで以上に負荷がかかってきたりしています。そういうことを踏まえて、賃金も含めた人事制度全体を、今の働き方に合ったものに作り直していこうと、会社と協議を行っている最中です。
それから、雇用契約です。毎年雇用契約の見直しを行っているのですが、その中できちんと説明をして、納得していただいたうえで、雇用契約を結んでもらうようにしています。そして、契約を結んだ以上は、それを守ることは最低限やらなければなりません。しかし、それがどうしてもできていないというところがあります。たとえば、働く時間を、契約していない時間に変更されたりするわけです。メイト社員は、どうしても上司に対して、一対一だと弱い部分があります。ですから、組合が、契約の持つ意味をしっかり伝えると同時に、そういうことで困ったことがあったら、バックアップしてあげられるような体制を、今後作っていかなければならないと思います。
[3]働きやすい職場を目指した取組み
私たちがメイト社員に組合加入をすすめる説明をするときに、いつも話すことがあります。それは、ごく少数の本社員や、リーダー層のメイト社員だけの条件をよくしても、本当にいい会社にはならないということです。賃金や労働条件以外にも、上司との関係であったり、安心や安全であったり、そういったことも含めて、より働きやすく、よりやりがいのもてる会社にしていくためには、社員全員の条件を改善しなければならないということです。
今後、大部分のメイト社員の人が、西友労働組合に加入されると思います。そういう人たちを巻き込んで、いかに会社全体をよくしていくかが、今、求められています。そして、それが労働組合の大きな役割だと考えています。全ての労働者にとって、いい会社になるように活動を進めていきたいと思っています。
私からのお話は以上とさせていただきます。どうもありがとうございました。
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