はじめに
今日は、労働に関するルールの話と、労働相談の内容を4つのシーンに分けてお話しします。1つ目が就職するときの問題、2つ目が会社に入ってからの問題、3つ目が会社を辞める時、解雇される時の問題、そして4つ目に、そういう時に労働者がどういう権利を持っていて、どういう対処をしたらいいのか、ということを話していきます。
Ⅰ.働くということは労使対等の労働契約関係
1.契約の自由と労働者
契約とは、自分自身で選択する自由をもっているということです。たとえば、皆さんが昼食を食べるときに、何を食べるか選択の自由があるように、日々の暮らしの中では契約関係が繰り返されています。その1つが労働契約ということです。
しかし、労働契約というのは、労働力の売り手と買い手に強さの違いがあります。たとえば今、失業率5%で、一家に働き手が2人いれば、10軒に1人は失業者がいるという時代です。売り手と買い手を考えた場合、買い手の方が今は労働市場では有利な時代です。それから、有効求人倍率が0.6などといいますが、0.6とは就職を希望する人が100人いるときに、採用する会社のほうは60人しかいらないということですから、40人は就職できません。
したがって、労働契約とは、使用者と労働者は対等の契約といっても、あくまでも原則で、実際は使用者のほうが力が強いわけです。これを対等にするために、法律で労働者に団結権を認めることや働くルールの最低規制を定めています。
賃金では、これ以下で働かせてはいけないという最低賃金が決められています。また、労働時間は、今は最長週40時間になっています。残業は、経営者側の都合だけで残業させて週40時間以上働かせたら、日本では法律違反になります。法律違反にならないためには、残業することについて従業員の代表がサインをして、労働基準監督署に届け出なければなりません。
このように日本の労働法は、労働者保護の立場にたち、契約の自由を規制しているといえます。
アメリカの場合は少し違います。たとえば労働時間ですが、残業させるのに届け出の必要はありません。届け出をしなくても何時間でも残業させることができます。そして40時間を超えた場合は、5割増の賃金を払うことが決められています。
なぜこのようになっているのか、アメリカの労働組合に聞いたところ、アメリカの場合には労働者保護の観点より、企業ごとの競争を公正にするためなのだ、ということでした。日本と同じように40時間規制の制度はありますが、それを超えて残業した場合には、賃金の5割増、休日出勤したら10割増の賃金を支払います。日本と違って労使協定や監督署に届け出る必要はありません。
使用者と労働者の間に力関係には違いがあるので、これを労使が労働条件など契約関係を対等に決定できるようにするために、労働者に特権が与えられています。それは、憲法28条で規定されている「団結権」「交渉権」「団体行動(ストライキ)権」で、労働基本権あるいは労働三権と言います。どんなに有能な労働者でも個人で会社にたち向かっても、やはり雇う側(使用者)の方が力関係は強いのが現実です。仕事の面でも会社には指揮命令権があります。したがって、働く者に先に挙げた、団結し、賃金や労働条件について交渉すること、そして不満な場合、ストなど団体行動権を保障することによって労使が対等な関係を築くための働く者の権利が憲法で保障されています。このような権利は、憲法で定められ、労働関係法で保障されています。
このように、労働組合を結成し、労働条件など交渉する権利が保障されているにもかかわらず、今日の労働組合の組織率は、雇用労働者全体の2割にも満たないのが現状です。大手企業には労働組合があるけれども中小企業やパートや派遣など非正規雇用労働者の多くは労働組合に組織されておらず、結局は有給休暇など諸制度の活用についてだけでなく、憲法で保障されている団結して対等の交渉を行う権利も行使できない人たちが多数に上っています。結果として、経営者のいいなりで働かざるを得ない労働者が数多くいるということになります。
2.就職(労働契約の締結)するということ
では、次に就職するということはどういうことなのか、対等な契約関係ということを頭に入れて、聞いてください。
(1)内定
会社に応募してから、入社するまでの間で、労働契約がいつ成立するのかということは、以前労働法学者の間でも論争がありました。そして、最高裁が一定の判断を下して、この労働契約の成立は内定時だということになっています。ただし会社側は、これは始期付解約権留保つきの労働契約だとし、解約権もあるとしています。
東日本大震災の後、労働相談がありました。大学を出て就職が決まっていたが、地震の影響で建物が壊れ、死者も出たため、これ以上営業を続けるのは無理だから、新規採用内定を取り消すと会社から言われた、というものでした。この時は、会社そのものが続行できないことは客観的に見て明らかなので裁判所で内定取り消しについて争うよりも、今後の就職の斡旋をその会社に求めた方がいいと話しました。そして、会社でも内定取り消しは申し訳ないと、2カ月分の賃金相当分を支払ったうえで、関連の別会社を紹介し、就職することができました。
また内定は、本人に非があった場合、社会的相当な根拠や内定時に知り得ない重大な違法行為が労働者にあれば内定取り消しとなることがあります。そうはいっても、あくまでも労働契約は成立しているので会社側の都合で一方的に内定を取り消しはできません。
それから、就職活動のときは、複数の会社を受けるのが通常です。ABCの3社の試験を受けて、先にA社の内定が出て、内定の承諾書を出したとしても、後でB社が決まった時にA社の内定を取り消すことはできます。
契約とは、解約の自由があって、民法では14日前に通告すれば解約できます。ただ、これをあまりやっていると、採用してもキャンセルが多い学校という評判がたち、後輩にもその影響が出てきます。ですから、その点は先生と相談をしながら、慎重にしなければいけないと思います。
(2)入社→試用期間→本採用
入社してから大抵3カ月の試用期間が設けられています。その試用期間を経て、本採用となり、通常の社員と同等の立場になります。
この試用期間は、解約権留保つきの雇用契約であることを覚えておいてください。試用期間で解約されることはほとんどありませんが、稀に、仕事に馴染まないので、本採用はしない、とする場合もあります。しかし、新入社員に対して働く上での教育などを行っていたのか、行わないまま「仕事ができないから」と簡単に解雇することは無論できません。
この試用期間は、解約権留保つきの雇用契約ですが、その他の働く上での権利は本採用となっている人たちとまったく権利は同等であり、雇用保険や社会保険への加入も入社時からとなります。
3.入社時に多い労働相談内容
(1)労働契約時に課せられている使用者の義務
入社時において多いトラブルの1つは、労働条件が明示されないことです。労働基準法では働くときに基本的な労働条件を明示しなければいけない、としています。最近では、ハローワークに出している労働条件と、実際に入社してからとでは違っているということもあります。こういうことを防ぐためにも、ハローワークで見た労働条件を控えておくことが大切です。また、もともと労働条件を明示していない企業もあり、その場合は要注意ということになります。
もう1つは、就業規則です。就業規則はその企業で働くルールで、10人以上の企業で必要となります。その就業規則で、特に賃金ですが、一時金、退職金、通勤手当、家族手当といったものを出すところと出さないところがあります。賃金は法律で支払うことが決められていますが、手当は企業で決めるものとなっています。ですから、労働者が団結して、労働組合を作って、企業と交渉して、自分たちの労働条件を作っていくことは、いざという時にとても大切だということを覚えておいてください。
(2)労働基準法を下回る規定や契約は無効
労働基準法とは最低限の規則であって、その基準を下回るような労働契約や就業規則は無効になり、法の定めによることになります。
50代の男性から「就職の面接に行った印刷会社の社長から、残業代は出ないが、それでもよければ採用すると言われた。家族を抱えていて就職しないと大変なので、どうしたらいいか」という相談を受けました。
この場合、残業代は労働基準法で決められているので、その社長の言うことは法律違反になります。「残業代は出ません」と契約を結んだとしても、それは払ってもらえます。ですからその男性に、その会社に入ったら、残業時間をきちんと管理し、記録するようにと言いました。そうすれば、その時点で残業代が支払われない場合は、裁判で残業代を請求することは可能ですし、あるいは、労働組合を作り、会社と交渉することもできます。
経営者の中には、法律違反を承知で言ってくる場合もあります。労働基準法は、「強行規定」です。会社の経営が厳しくて残業代が払えないという理由があったとしても、残業代を支払うことから逃れることはできません。
(3)雇用保険、社会保険(健康保険、厚生年金)の加入
本来ならば、試用期間も本採用と同様の権利があるので、社会保険に入れなければいけないというのが、法的な規定です。社会保険への加入は企業の都合や判断で加入する、しないと決められるものでなく、法定事項であり入社時に加入させなければなりません。このように規定されていても、会社側は試用期間中に辞めてしまう場合もあるということで、アルバイト雇用であるとして雇用保険、社会保険への加入手続きをしないところがあります。
しかし、試用期間中に会社が社会保険に入れなければ、その間労働者は、国民年金や国民健康保険の保険料を支払わなくてはなりません。企業は労働者を雇う場合、社会保険料の負担分もコストとして計算しているはずなので、試用期間中でも加入させなければならないことになっています。
(4)求人時の募集条件と実際の労働条件が違う
事例の1つに「正社員で23万円の月給で採用されたのに、入ってから2カ月間はアルバイトで10万円しかもらえなかった。さらに、この中から本人の承諾なしに研修費用が勝手に引かれ、2カ月間は給料が6万円しか支払われなかった」というものがあります。30歳代の女性ですが、これ以外にも、社会保険にも全然入れてくれないし、残業代も払われないということでした。
ここでの問題は、[1]採用時に労働条件が全く明示されていないこと、[2]正社員の募集だったのに、アルバイトとして採用されたこと、[3]本人の承諾なしに勝手に4万円控除したこと、[4]残業代も支給されていない、[5]社会保険へ未加入のままである、ということです。
まず未払い賃金分を取り戻そうと、残業代の未払い額、一方的に引かれた控除分、その他の手当てを要求しました。さらに、遡って社会保険への加入も要求しました。このときは少額訴訟で簡易裁判所において訴訟を起こしました。少額訴訟とは、簡易裁判所でほぼ30分の審理で決着しました。未払い賃金など争点がはっきりしていて、請求額も60万円未満の場合に少額訴訟で解決することもできます。訴状も鉛筆書きで行えます。
この女性も少額訴訟で解決しましたが、結局、彼女はその会社を辞めざるを得なくなりました。しかし、彼女のおかげで他の社員全員が社会保険に入ることができました。
Ⅱ.働くものの権利を憲法・労働関係法でどのように定めているか
1.就業規則、労働協約、労使協定
労働者の権利は、まず、労使対等の決定をする労働基準法や労働契約法、労働組合がある場合には労働協約、10人以上の従業員がいる会社では就業規則、そして、会社に入った時の契約事項である労働契約です。
労働契約は、法律を下回っていれば全て無効となります。ただし、労使協定というのがあり、たとえば、36協定という労使協定を結べば、その時間を超えて残業をさせてもよいことになっています。それから、変形労働時間制というのがあります。これは、日々によって就業時間がかわったり、フレックスタイムで出退勤ができたりするものですが、これらも会社が一方的にできず、労使協定がなくてはいけません。
労働協約は、労働組合がみんなの意思を反映させて、会社と交渉ができます。けれども、8割は労働組合がないから、従業員代表で誰かが選ばれて、そして、多くの場合、会社のいいようにされてしまう、それが今の日本の実態です。
2.働いている時の労働相談
(1)残業しても残業手当が支給されない(賃金不払い労働)
労働相談で多いのは、残業代が支払われないことです。企業は残業代を支払わないようにするために、意図的にいろいろなことをしています。
まず、出退勤の管理をしないことです。出退勤は、会社としてきちんと管理しなければならないことです。なぜかというと、会社は従業員を健康で安全に働かせる「安全配慮義務」があるからです。にもかかわらず、管理すれば残業代を払わなければならないので、管理しないということです。出退勤の記録がないと裁判の時に証明することが極めて大変になります。また、労災の認定についても極めて難しくなります。
2つ目は、残業代を固定給にしてしまうことです。たとえば月々3万円という額を決めて、残業をしてもしなくてもその金額を含めた賃金を支払うというものです。本来ならば、毎月残業時間を計算して2割5分増にして支払わなければいけないのに、3万円で済むので会社にとっては好都合となるわけです。
3つ目は、定時に終わりそうもない仕事を、残業命令を出さずにさせ、そして、残業になった場合は、本人に能力がないから勝手に残ってやったのだと言われることが結構あります。これは「黙示の指示」です。「仕事をいつまでにしなさい」といった場合には、残業命令を出したのと同等となります。
4つ目に、実際にあった事例です。派遣で長年働き、ようやく正社員に登用された若者が、不安定な派遣にはもう戻りたくないと思って、違法だと思っていても長時間労働をしてしまうケースですが、その人は、長時間のサービス残業を声をあげずにがんばってきた揚句、働きすぎで病気になってしまいました。
5つ目に、実際は、管理・監督の権限はなく、時間管理も自由でないのに、店長として管理職扱いし、残業代を支払わないようにする、これは、マクドナルドの店長の事件で判例が出てから、このような「名ばかり店長には残業代が出るようになりました。また、管理・監督者とは、店長などの名称ではなく、経営に関わり、出退勤について自由裁量があり、それなりの待遇を受けている人ということを厚生労働省が通達を出しています。
(2)労働時間について
小さな店舗で、忙しくて休憩も満足にとれず、ご飯を食べながら接客をしなければならない、という相談があります。労基法では、1日6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は、60分の休憩時間を与えるとなっています。この休憩時間は、あくまでも労働から解放されていることが必要です。
(3)有給休暇
有給休暇は労働組合がなくても、労基法で、勤めて6カ月を経過し、その間に8割以上出勤していれば、10日付与となっています。しかし、日本の有給休暇の取得率は47%で、この数字も年々下がっています。
労働組合があるところでは、有給休暇を取ったことがあるという人が圧倒的ですが、労働組合がないところは、有給休暇をなかなか取らせてくれません。
相談にきた例で、友達の結婚式があるので、有休をとらせてほしいと言ったところ、会社に結婚式の招待状のコピー持ってくるよう命じられた、というのがあります。本来有給休暇というのは、理由を言う必要はありません。これらの行為は、有給休暇を取得することをためらう動機にもなっています。
なお、厚生労働省では、民間会社が、有給休暇を残して退職するときに、その分を金銭として解決することを黙認しています。これを制度化したらどうかと労働審議会で言ったところ、会社側の弁護士から「与えられた権利を行使しないのに、どうしてそこまでサービスをしなければいけないのか」と反発を受けました。でも労働者は、業務上の都合や職場の雰囲気等で、有給休暇を取りづらいから取らないわけです。そういう状況をきちんと理解してほしいと思います。
(4)母性保護、女性の権利
これまでは女性の場合、学校を出て就職をして、結婚・出産を機に退職をして、一定の子育てが終わったら再就職ということが、一般的でした。しかし、今は、育児休業制度などは以前よりよくなっています。厚生労働省は、この制度を取得している女性は、83.7%で、これからは男性がどれだけとることができるかが課題だと言っています。
それも課題ですが、女性が誰でも取れるようにするというのが政策課題だと思います。「第6回21世紀出生児縦断調査」を見ると、出産1年前の「常勤」を100とすると、出産半年後に常勤でいるのは4割です。ということは、後の6割は辞めざるを得なかったということです。初めの100から見ると、女性でもまだ3分の1しか育児休業制度は取得できていないという現実があります。
Ⅲ.退職(労働契約解約)に関わる権利
1.労働者本人の都合による退職
民法では、解約はいつでも申し入れることができるとなっています。この場合、雇用契約は、解約の申し入れの日から2週間(会社の就業規則によっては1カ月前など)を経過することによって終了するとなっています。
また、退職願と退職届の2つの方法があります。「退職願」は使用者との合意による退職、「退職届」
は会社の意思に関係なく、退職の意思を表明して退職するものです。
2.本人の意思に反しての解雇
会社都合での整理解雇というのがあります。会社が整理解雇する場合には、合理性があり、社会通念上相当でなければ解雇できないと、労働契約法16条に規定されています。
また、会社都合での解雇の場合、最高裁の判例法理があり、ここでは整理解雇の4要件というのを定めています。それは、
[1]人員整理については、その必要性が本当にあるのか。
[2]解雇を避けるために努力をしたのか、配転、異動、希望退職などを行ったか。
[3]解雇する人を恣意的に分類していないか、公平に選んでいるか。
[4]解雇手続きの妥当性、労働者や組合に納得が得られたものであるか。
これら以外の会社都合の解雇はできないことになっています。
労基法等での解雇の規定は、身分差別禁止、労働組合の否認、母性保護で出産を機に女性を解雇すること、その他男女雇用機会均等法、育児介護休業法等でも制限があります。
3.退職・解雇をめぐる相談
労働相談では、次のようなものがあります。
[1]希望退職募集に応じないことを理由に配転・降格された。
[2]仕事を与えられず日常的にパワハラされ退職を強要された。
[3]有期雇用で毎年更新し、10年間も同一の仕事をしてきたが、新たな契約はないと実質的な解雇を通告された。
有期雇用の場合の解雇については、指針で1カ月前の通知を課しているのみで、雇い止めについてもやむを得ない場合のみとされているだけです。毎年更新し続けるならば、期間の定めのない雇用にすべきだと思います。
[4]会社都合での解雇なのに、離職票では、本人都合とされた。
なぜそうなったかというと、会社は各種助成金受給資格があり、会社都合での解雇にしたくないからです。本人都合での退職なら、助成金の対象から外れないため、このようなかたちにしたわけです。
[5]退職願を出してから1年たつのに認めてもらえない。
先ほども話したように、退職願は合意解約の申し入れですが、使用者側の意思にかかわりなく、退職届を出し14日経過すれば、労働契約は解約はできることになっています。
[6]経営者がワンマン経営であり、気にくわないという理由で解雇された。
使用者の恣意的な解雇は労働契約法違反です。合理性や社会的相当性のない解雇は解雇権濫用で無効とされています。
[7]些細なミスで損害賠償を求められた。
就業規則にあったとしても払う必要はないです。本人に重大なミスがあったら別ですが、最初から損害賠償の予定や、罰則は労基法上では認められていません。
Ⅳ.労働者は個人では弱い、団結してこそ労使対等を実現
1.労働条件をよくするために=団結
皆さんがまだ中学生時代のことですが、労働組合を結成して活動してきたからこそ、成果をあげた取り組みがあります。プロ野球は国民的スポーツとしてとても人気があります。セ・リーグ、パ・リーグそれぞれ6球団ずつありますが、2004年に、日本プロ野球連盟、オーナーたちが当時のパ・リーグで大阪に本拠地をおいている近鉄球団をなくすと発表したことに対して、パ・リーグを5球団にしてしまったらパ・リーグは成り立たないし、日本シリーズもできなくなってしまう、また、1チームに所属する選手70人はもちろん球団職員を含め多くの人たちの働く場所が失われてしまうし、プロ野球界の縮小につながるということで、労働組合プロ野球選手会がオーナー側と交渉しました。当初は、経営問題だから選手は口を出すな、当時の選手会の古田敦也会長(労組委員長)に対して、「無礼者、たかが選手が・・」と暴言したオーナーまでいました。はじめは日本プロ野球連盟は、選手会との交渉を拒否していましたが、東京高等裁判所で、選手会は労働組合であり、雇用・労働条件については義務的団体交渉事項だから、交渉に応じなければ不当労働行為という法に違反する行為だと命令が出され、交渉が開始されたという経過があります。選手会が単なる選手の互助会的なものであれば、「交渉しなければならない」という裁判所の命令が出されることはありませんが、労働組合として組織していたからこそ、交渉が実現し、近鉄という球団はなくなったけれども、その代わりに楽天という球団が仙台に誕生しました。また、この闘いの後に、セ・パ交流戦というリーグを超えてのゲームも観られるようになりました。
そして今年、Jリーグでも選手たちも、労働条件をよくするために、オーナー側と対等に交渉しようと、労働組合をつくりました。
このように労働条件等、労働に関する問題については、労働組合で解決していくことが原則です。いくら有能な人であっても、労働者個人は弱いです。だからこそ団結し、少しずつでも働く条件を改善していくために取り組んでいくことが大切ですし、そのことによって、職場の働く環境が改善され、労働意欲やモラルが向上することによって、企業にとってもプラスになりますし、経営者が参加する生産性本部では、「労働組合は産業民主主義のバロメータ」であると指摘をしています。
2.職場で問題があった時の対処
また、個別でも問題を解決する場として、さまざまな個別相談ができるようになっています。連合本部でも地方連合会でも労働相談をやっています。労働基準法違反については、労働基準監督署が見張っていて、残業代の不払いや長時間労働が恒常化しているところには、是正勧告を行うなど指導しています。それから、東京都や埼玉県等の公的な機関での相談もありますし、裁判所での労働審判や少額訴訟等個人が争う制度もあります。
今、個別労働紛争は、246,907件とたくさんあるのですが、いざという時の窓口が足りません。紛争になる前に相談をすることが大切です。
おわりに
労働相談を受けていて思うのは、職場に相談する仲間がいなくて、孤立してしまった人が多いということです。
職場に仲間を作ることは、とても大切です。また、職場だけでなく、学生時代の友達も大切です。職場が違っていても、友達がいろいろな意味で鏡になります。自分のところでは有給休暇は取れないけれど、君のところはどうかと、鏡があればいろいろなことが相談できるわけです。そういう意味でも学生時代の友達は一生の宝です。
そして働く上では、自分たちの権利をしっかり持って働き続けてほしいと思います。
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