埼玉大学「連合寄付講座」

2010年度前期「働くということと労働組合」講義要録

第15回(7/28)

修了シンポジウム

パネリスト: 南雲 弘行(連合事務局長)
宮本 重雄(連合埼玉会長)
コーディネーター: 禹宗梡(埼玉大学経済学部教授)

1.連合がめざす社会

禹:今日は、シンポジウム形式で講義を進めます。最初に、今までの講義の内容を簡単に振り返ってみます。この講義は「働くということと労働組合」をテーマに、雇用、ワークルール、労働時間、賃金、非正規問題等に対して、働く現場で、地域で、企業レベルでどのように取り組まれているか、一方では観察し、他方ではもっと良い方法あるいは政策がないかを議論してきました。
 今日はその総まとめとして、お二人から話を聞かせていただきます。特に今まで勉強してきたディーセント・ワークとは何かをコアに据え、連合が掲げる「労働を中心とした福祉型社会」の実現に向けて何をすべきかを中心に議論します。
 まず、南雲さんから、連合が目指す「労働を中心とした福祉型社会」の軸となるディーセント・ワークについて連合の考えをご紹介ください。

南雲:連合は、10年前の第7回定期大会で「21世紀連合ビジョン」を採択しました。そこでは、これまでの家族と企業に補完された「日本型福祉」の限界、労働運動との関わりなどから、あるべき社会の姿、いわゆるビジョンと戦略を提起しました。そして「労働を中心とする福祉型社会」が、連合が目指す社会の形だと述べました。
 その後、学者の方から、社会は福祉を提供しない、福祉型社会ではなく、福祉国家が正しい、と指摘されました。福祉型がわかりにくいこともあり、その意味を「働くということに最も重要な価値を置き、全ての人に働く機会と公正な労働条件を保障し、安心して自己実現に挑戦できるセーフティネットがはめ込まれた社会」としました。そのうえで、「しっかりした雇用保障を維持しつつ、男性正社員に限らず、女性や非正規労働者を含めたすべての労働者が自立できるように、公的な支援を充実させた社会が望ましい社会だ」と運動を推進してきました。
 昨年の連合結成20周年を機に、この社会像をもっと掘り下げようということになりました。そこで、再提起すべきだということが昨年10月に確定し、改めて「労働を中心とする福祉型社会」を運動の柱としていくことになり、現在取り組んでいます。
 10年前と基本的な部分はそれほど変わっていませんが、「働いている人たちの経済的自立のための支援と保障をすることによって活力のある社会が成り立つ」という考えを前面に出しています。それから「労働を中心とした福祉型社会」という名称を「働くことを軸とする安心社会」というわかりやすいものにしようという議論もすすめています。
 次に、なぜ今「労働を中心とした福祉型社会」の再提起なのかですが、誰もが多様な働き方を通じて社会に参加し、社会的・経済的に自立できることが基本です。その実現のために、互いに支え合い、活力あふれる参加型社会を目指そうということです。さらに、そのためには、すべての人々に希望がもてる就業の機会が与えられることが前提となります。ただし、さまざまな障がいがあって、就業の機会に結び付かないこともあります。そういうところに「安心の橋」をかけることが必要だと考えています。

禹:ありがとうございます。全体像は皆さんも理解できたと思います。次に、若い人たちに関する話をお聞きします。今、世界でも日本でも「雇用なき成長」が問題となっています。そこで、若い人たちに雇用のチャンスを増やすことや、いい職に就けるような職業訓練等も含めて、連合としてどのような考えを持っているのか教えてください。

南雲:たとえば、知識や学歴によって自分の夢が果たせない人がいます。失業者や障がいを持った人が公的な訓練を受けようとしても、順番待ちをしていて訓練を受けられない状況もあります。あるいは、子どもを抱えて仕事を諦めざるを得なかったり、就職先が見つけられなかったりすることがあります。また、親の介護もあります。さらに、高齢になっても柔軟な形で働き続けたいという人もいます。
 今、連合では、このような人を取り込んでいくための橋をかけ、この橋を誰もが渡れる活力ある社会を目指して議論しています。そのためには、参加支援と参加保障が大事です。それは単に福祉を与えるというものではありません。困難から抜け出せない人、あるいは高齢、病気、障がい等で働き方が制限されるような人に、もっと積極的な生活ができることを促す社会を作るということです。
 ですから、単に生活を援助する社会を作るのではありません。働く意思があれば、それを支援して働く機会を作る社会です。とにもかくにも仕事を見つけてがむしゃらに働け、と言っているわけではありません。その支援が、子育て、家事、自治体、NPO等への参加や、職場の外で学んだり訓練を積んだりしていくことにもつながると考えています。
 ただし、雇用労働を中心に据えなければなりません。日本は雇用社会と呼ばれていて、雇用労働者の比率が高く、付加価値を生み出す労働によって社会が支えられています。そのため、働きたい人を雇用に結び付けていくことが大事になります。そして、その雇用は、人間的で誇りの持てるものでなければなりません。そのような雇用により、社会的経済的に自立し、相互に支えあうことができないだろうかということです。

禹:女性の社会参画が問題になっていて、それを改善してバックアップしない限り、希望する女性全員が社会に参加することは難しいという話もあります。せっかくですので、女性に焦点をあわせた連合の考えをご紹介ください。

南雲:日本は、女性の社会進出がまだまだ遅れています。制度も含め、長い間男性正社員を中心として日本社会は成り立っていましたが、少しずつ変えていかなければなりません。
 そのなかで、最低賃金の話があります。昨年8月30日の衆議院選挙で、多くの国民が民主党に投票することにより政権が交代しました。それ以降、連合では政府と意見交換をしています。その中の一つが最低賃金の引き上げです。今まで最低賃金を上げようと運動してきましたが、従来の政権は最低賃金を上げることに二の足を踏んできました。今日本では、最低賃金の1ヶ月分と生活保護を比べると、1ヶ月20日間働いても生活保護を下回る賃金が12県あります。働くことを中心にして考える中で、最低賃金は生活保護を上回るべきだと連合はずっと訴えてきました。その結果、今年6月に政府・日本経団連・連合で、最低賃金を当面は800円とし、2020年までに1000円に引き上げるという数値目標を決めました。
 しかし、それでも1日8時間1ヶ月20日間働いてもそんなに高くありません。今までの日本の主たる生計者は男性正社員でしたが、この10年で非正規労働者が1700万人となりました。この数字は、主たる生計者が正社員とは限らないことを示しています。さらに、年間収入が200万円に届かない人が1千万人以上います。非正規労働者同士で結婚した場合、2人合わせても年間400万円にも届きません。そういう状態のなかで子どもを産み、育てるのは非常に厳しいことです。したがって、今一番力を入れているのが、最低賃金の早急な引上げです。少しでも最低賃金が上がるように交渉しています。
 もう一つは、結婚して子どもを産んでも、保育園になかなか入れない問題があります。その弊害の一つに、幼稚園と保育園を管轄する省庁が違っていることがあります。そのため両方を一体化できるような省庁間の移管体制に連合では力をいれています。
 また、少子化を考えれば、子どもを産みたくても産めない状況を変えることも大事です。子どもが保育園にきちんと入れること。 今待機児童も大変多くなっていますので、そういう制度づくりもあわせて行政に求めています。

2.「ディーセント・ワーク」実現のための、職場・地域での具体的な取り組み事例

禹:ありがとうございます。詳しいことは、後で政策を中心に伺います。
 では、宮本さんにお話を伺います。宮本さんは、地域でいろいろな運動に取り組んでおられます。そこで、ディーセント・ワークの実現に向けて、実際に、職場や地域においてどのように取り組んでいるのかご紹介ください。

宮本:連合には47都道府県に地方連合会があり、地域でいろいろな活動をしています。すでに聞いていると思いますが、労働組合にはまず企業内に組合があります。その企業別組合の上が産業別組合で、南雲さんは、東京電力でしたので電力総連、私はパイオニアでしたので電機連合です。そして、これら全部の労働組合をまとめているのが連合になります。
 私は、ディーセント・ワークのための具体的な行動は、企業内の組合で実現するものだと思っています。企業内の組合が、賃上げ、福利厚生の充実、時短の推進、メンタルヘルス等に取り組むのが理想です。地方連合会の役割は、企業内に組合のない中小零細企業に勤めている人たち、企業内の組合に入れないパートや臨時採用といったいわゆる非正規の人たちに対して、労働組合に加入してもらうこと、またその制度を知ってもらうことです。それが、地方連合会の運動の基本です。
 そのために、街に出て、連合の旗をたてて、チラシ等を配り、連合が目指していることを説明しています。チラシだけではなかなか目にとめてくれないので、ポケットティッシュなども配り、雇用保険・社会保険などの制度、男女間の賃金格差などを知ってもらう運動をしています。
 また、小冊子も作っています。そこには、就業規則、雇用契約、最低賃金、有給休暇、割増賃金、会社で問題が起きた時にどこに相談にいけばいいのかなどが書かれています。そうしたものを埼玉県内の各地域で配布しながら、皆さんに訴えています。
 実際に運動を進めるにあたり、地域の連合では、3つのことを運動の大きな柱としています。まず、地域ミニマム運動、二つ目が法定最低賃金、三つ目がなんでも労働相談です。これらを柱として、ディーセント・ワーク実現のために運動を推進しています。とりわけ、企業内の組合に加入されていない人に働きかけています。

禹:今、連合埼玉で、どのような取り組みを行っているかが十分伝わったと思います。
 それを踏まえてもう一歩進めたいのですが、日本は地方分権が言われてかなりたちます。でも、労働に関しては地方分権が十分には進んでいないような気がします。それを切り開いていく試みとして、地方で組合が、一方では経営者団体と手を結んで、または説得しながら、自治体に働きかけることをしています。たとえば、ある水準以下では自治体の工事や請負をしないといった条例を作るとか、そういうことに取り組んでいくという話もあります。そういった連合埼玉の取り組みを教えてください。

宮本:連合本部では、国に対して政策の実現を訴えていますが、連合埼玉は、県庁および市町村に対して政策・制度を要求しています。
 今、市町村には、安い価格で請け負う業者がどんどんでています。そうなると、そこに雇われている人たちの賃金が低いのではないかと問題になります。連合は、最低ラインの賃金を提示して、これ以下で従業員を雇っている業者は雇わないようにと訴えてきました。昨年千葉県野田市では、このようなことが条例として制定されました。
 連合埼玉でも、現在、県・市町村に対して、政策制度の要求を作っています。請負業者が、きちんと従業員に賃金を支払っているかも見るように決めた制度を作るように、今年9月に上田知事に申し入れをします。さらに、連合埼玉の傘下に地域協議会があるので、それぞれの市町村にも要請をしていくことになっています。

禹:ぜひ、頑張っていただきたいと思います。
 学生たちは、都道府県に就職先を求め、埼玉県にも就職していくと思います。たとえば、県において、新しい雇用を創出するとか、または、ディーセント・ワークを実現するために、地方連合会も含めて連合ではどのような取り組みをされていますか。

南雲:まず「仕事の価値に見合った所得が保障されなければならないということが、働く者の経済的・社会的自立の基礎である。同一の価値をもつ仕事には同一の賃金を支払って処遇の均衡均等待遇をしなければならない」ということです。昔の有名な句のように、「働けど働けど我が暮らし楽にならざり じっと手をみる」では自立もできないし、互いに支えあうことができません。ですから、給料だけでは不十分な場合は、さまざまな支援のための社会的手当などが重要な手段になると思っています。
 二つ目は、ワークルールの確立です。残業しても手当は支払わない、ということがまかり通っている職場がみられます。そういう職場はディーセント・ワークがありません。信頼できる労使関係は、ワークルールによって支えられています。労働組合が大切な理由はここにあると、連合でも訴えています。
 三つ目はワーク・ライフ・バランスです。ワークルールの重要な課題の一つとして、連合では、労働時間を短縮して、仕事と家庭生活の両立をしようと訴えています。男性も女性も職場のコミュニティーだけでなく、家庭や地域のコミュニティーと関わることができる、ワークとライフが調和することが、ワーク・ライフ・バランスだと思います。
 これについても、政府と経団連、全国中小企業団体中央会、連合で「ワーク・ライフ・バランス憲章」とその実現に向けた〈行動指針〉を締結し、具体的に進めています。育児や保育、介護など、サービス分野での需要が生まれれば、雇用の創出にもなり、子育ての負担が女性に集中することがなくなれば、少子化にも歯止めがかかるのではないかと言っています。教育や訓練を受け直したりすることもできます。ワーク・ライフ・バランスを一層深めていくことで、生産性を高め、より多くの人たちの就労を可能にすると考えます。
 これらが重要な三つの要素ということで、連合が今力をいれているところです。

禹:ありがとうございます。ディーセント・ワークの基本的な要素について、親切な説明をしていただきました。
 連合埼玉の話をうかがいますが、連合労働相談ダイヤルに電話すれば、労働について何でも相談できますね。連合埼玉で、たくさんの労働相談の経験を蓄積されていると思いますが、地域の皆さんにどのような形で役立てているか、ご紹介ください。

宮本:連合のフリーダイヤル、0120-154-052「行こうよ、連合に」は、全国共通です。埼玉県からかけると連合埼玉に、東京からかけると連合東京につながります。
 すべての相談は蓄積されるシステムになっていて、連合埼玉のホームページに、今までの労働相談の概略を載せてあります。これを見ていただくと、就業規則の問題、賃金未払い、または残業代が支払われない、休暇の問題などがありますが、なかでも解雇問題が非常に多くなっています。労働相談の中には、会社が労働法を少しもわかっていないと思えるようなことや、これは人間の扱いとしてはひどいのではないかというものもあります。
 埼玉には、NACK5というFM放送があるのですが、そこに宣伝を出すと、その時は労働相談が増えます。さらに相談が増えるのは、NHKが労働組合等について放送したときです。この時は、相談の電話が一挙に増え、普段の3人のメンバーでは足りず、非常勤も含めた6人のメンバーで対応します。このように、我々はラジオにコマーシャルを出したり、NHKの取材に応じたり、いろいろなメディアを使っています。
 先ほど紹介した小冊子に、相談機関が書いてあります。あるところに相談すると、連合埼玉に相談してくださいと言われる場合もあるし、私たちも、他の機関を案内することもあります。たとえば、内容がメンタルヘルスにかかわる時は産業カウンセラー協会を紹介したり、法律にかかわる難しい問題のときは、埼玉県の労働局を案内したりしています。
 このように、埼玉県の労働局とも連携していますし、産業カウンセラー、弁護士の皆さんとも、横のネットワークを作って、お互い持てる専門知識を生かそうと取り組んでいます。そして、私たち連合の専門は、労使紛争や労働問題です。

禹:ありがとうございます。もう一つうかがいたいのですが、講義で出た問題のひとつは、連合は恵まれた人たちの集まりではないかということです。組合が組織されていない中小零細企業の人たちはどうしたらいいのか、皆さん関心を示されていたと思います。
 それと関連して、連合埼玉で取り組んでいる地域ミニマム運動は非常に大事なものです。それは中小零細含めて、底辺の人たちの労働条件を改善していきましょうと連合埼玉が積極的に取り組んできた運動ですが、その成果や展望についてお話しください。

宮本:連合埼玉は今、19万人弱の組合員が集まっています。連合は大企業の組合の集まりと言われますが、実は連合埼玉に集う組合の8割は中小労組の皆さんです。そこの皆さんにお願いして、連合埼玉では、県内の中小労組に働く2,571名の個別賃金調査を実施し、その基礎データをもとに「地域ミニマム賃金」を設定しています。
 その基準を見ると、大企業なら35歳で221,000円あたりですが、これを下回る中小零細が非常に多くあります。埼玉県は98%が中小零細企業の集まりですから、経営者の皆さんにミニマム賃金の一覧表を配って、これが世間相場だから下回らないようにというアピール行動を10年間続けています。これを配ると、「自分の賃金がミニマム賃金よりも低いのではないか」という労働者の相談も寄せられます。

3.「労働を中心とした福祉型社会」の実現に向けた、連合の政策と取り組みについて

禹:ありがとうございます。話を中央レベルに移して、また南雲さんにうかがいます。菅首相は「強い経済、強い財政、強い社会保障」というキャッチフレーズを掲げて登場しましたが、この社会保障と財政の問題は、学生が非常に関心を持っている問題でもあります。今の民主党が打ち出している財政と社会保障の全体的な政策に関して、連合の考えを教えてください。

南雲:この10年間の数値を見ると、非正規労働者が1700万人を超え、10年前と比べ3倍近く増加しました。それから、年収200万円以下のワーキングプアと呼ばれる人が1000万人を超えました。いくら働いても生活がよくならないという人が増え、それに対する政策がとられてきたと言えます。
 昨年8月の政権交代以降、連合と民主党は政策協議をしています。自民党政権では、連合が要請して、やるかやらないかは相手次第でした。私たちは連合を結成してから20年間、2大政党制を提唱してきました。そして、連合が支持してきた民主党が政権をとりました。その結果、連合は政府と政策協議ができるようになり、その協議のなかで働くことを軸とする社会整備を求めています。
 具体的には、連合で作っている「政策・制度 要求と提言」で、①持続可能で健全な経済の発展、②雇用の安定と公正労働条件の確保、③安心できる社会保障の確立、④社会インフラの整備、・促進、⑤くらしの安心・安全の構築、等々を求めています。
 現状の課題として、世界を混乱に陥れた金融危機、新自由主義の政策がもたらした「負の遺産」、格差拡大に対する政府の姿勢があります。そこで連合が求める政策の基軸を5つの政策理念としました。
 一つ目は、連帯です。「お互いさま」という、協力原理を社会の中心に据えることです。
 二つ目は、公正です。市場に任せていると、偏って格差を生みだすので、きっちりと分配が受けられるような交渉を労働組合がしていくことを第一に考えています。
 三つ目は、規律です。市場原理だとルールを撤回し、なんでもありになってしまいます。それを止めるために、必要な規律を守ることや、倫理的な企業行動をしていくことです。
 四つ目は、育成です。これは質の高い労働力を作ることにつながります。そのための教育・人材育成、公正な処遇を含めて、労働の価値を重視した人材政策がなされなければ、経済成長もままなりません。
 五つ目は、包摂です。インクルージョンといいますが、社会参加にあたってハンディのある人を排除ではなく包摂する政策理念です。

 このように、再挑戦のチャンスを与え、雇用、生活、健康、安心、安全のために、セーフティネットが張り巡らされ、困難に直面している人が孤立や排除されることなく、すべての人にディーセント・ワークを保証していく社会を目指し、連合は政策を考えています。

4.まとめ

禹:ありがとうございます。受講者の皆さんと連合が深い関係があることを、一つ紹介します。
 皆さんは、就職活動をして、いい会社に就職できればいいですが、もし、就活がうまくいかなくて、たとえば、卒業したけれど就職できないとしたら、どうしますか?皆さんは、雇用保険にまだ入っていないので、国から失業給付はもらえません。仕送りがたくさんあればいいですが、なければどうしますか?そのような人たちのために、連合では今「求職者支援制度」を一生懸命考えています。
 つまり雇用保険の対象にならない人でも、職業訓練を受けていれば、生活支援をしましょうと考えています。だから今、南雲さんがおっしゃっていた連合の政策が、皆さんと遠いものではないことをまずは理解してください。「求職者支援制度」は軌道にのりますか。

南雲:のせなければいけないと思っています。これから臨時国会が始まります。衆議院では多数を占めている民主党・国民新党ですが、参議院では、民主党・国民新党あわせて大変少ない数になってしまいました。政策の実現性からも、大変由々しい問題です。しかし、連合として、自民党、公明党とも働くことに関する政策について、意見交換をしています。
 この10カ月間には、「雇用調整助成金」という制度ができました。リーマンショック後、特に自動車、電機などの製造業の下請である中小企業の仕事がなくなり、一時休業をしなければならなくなりました。そのときに、前年度に比べて5%以上収入が下がった企業には、雇用調整助成金を出して、そこに働いている人たちを解雇しなくても済むという制度です。
 連合は、今後の臨時国会においても引き続き、働くこと、働いている企業が倒産しないですむ制度を重点に置き、民主党を中心に他の野党にも要請していきたいと思っています。

禹:ありがとうございます。話題がかわりますが、この間、ヨーロッパでも財政危機をきっかけにして、国の財政事情に対する懸念が高まっています。それと関連して、学生たちが授業の中でも出してくれた問題の一つは、この社会保障を重視していくことは何となく理解できるが、それをするにはまた財源が必要となるのではないか、それを今の日本の財政事情でどのようにやっていくのかということだと思います。
 それと関連して、なぜ今のような状況でも、社会保障を厚くしていくことが大事なのか、それを日本の財政の中でどのようにできるのか、ご説明ください。

南雲:大変難しい問題だと思います。リーマンショック以降、企業の経営も厳しくなりましたので、税収も減っています。そのなかで、従来のような社会保障を全てできるのかというと難しいものがあります。さらに、少子高齢化へと大変速いスピードで進んできています。あと5年、10年たちますと、働いている人3人で1人の高齢者を支えていかなければならないので、社会保障はますます重要になってきます。
 その中で、税収の確保という点では、連合も検討し始めていますが、どの程度の保障を受けられるのか、どれだけ自分たちが納めるのか。将来にわたって受ける社会保障と、自分たちがどれだけ納めるのかという両方を検討しなければなりません。
 ですから、税収を増やすために消費税を増やせということではなくて、全体的な社会像のなかで、少子高齢化がすすむ日本の社会保障をどうしていくか。そのときに、社会保障に必要な財源をどう捻出するのか。両方を考えていかなければなりません。

5.連合事務局長と連合埼玉会長からのメッセージ

禹:ありがとうございます。税収と社会保障は、もっと検討しなければいけないですね。
 これまで南雲さんと宮本さんから企業レベル、地域レベル、政策レベルでのお話をうかがいました。残った時間を使って、お二人から、若い皆さんに送るメッセージをお願いします。最初に宮本さんからお願いします。

宮本:メッセージの前に、生活保護と最低賃金について少し補足させてください。生活保護費は、全国の市町村ごとで基準が決まっています。どのように決まるかというと、実際にそこで生きていくための調査が入ります。住宅費がいくらか、食費がいくらか、それらを調査して市町村ごとに生活保護費が決まります。
 今問題となっているのは、埼玉県も含めて12の県で最低賃金と生活保護の支給額が逆転しているのですが、問題は各県の市町村の平均の生活保護費よりも最低賃金が低いということです。本来ならば、さいたま市や川口市といった埼玉県でもっとも生活保護費が高い地域であっても生活保護費より最低賃金が高くなくてはならないのに、県の平均の生活保護費に比べても最低賃金がかなり低くおさえられています。このような問題が起きているということを知っていただきたいと思います。
 皆さんに送るメッセージは、私も社会人になって30年たちますが、まずは就職することが大切だと思います。日本は、新卒の時期に就職に外れると一生不利益な働き方を強いられます。そうならないために連合は動いていますが、まずは就職してほしいと思います。
 自分の望む大企業に入れたとしても、自分がやりたい仕事ができるとは限りません。不本意な部署に配属されるかもしれません。私も、大学の理工学部を出て、エンジニアになりましたが、今は連合の仕事をしています。大学を卒業するときは、労働組合の仕事をするとは思っていませんでした。もし今、大学に戻れるなら、経済学部や社会学部で学びたいと思っています。このように、自分が勉強してきた専門分野とは違う仕事をすることがありますので、どんなことにも常に対応できるよう勉強していってほしいと思います。そのことが自分を高め、最終的には自分に返ってくると思います。
 それから就職に関して、みなさん希望の会社を選びエントリーシートを書くことになると思いますが、自分が知っている会社にばかりを選んでしまうと思います。東京電力とか、ホンダとか、日産とか、みんな大企業の一般的に知られている会社です。でも実は、名前はそれほど知られていない会社でも、ものすごく業績のいい会社もあるし、ものすごく社員を大事にしている会社もあります。
 また、埼玉の人たちは東京の企業に入りたがります。埼玉には、中堅企業で素晴らしい企業がたくさんあって、多くの求人を出しているのに、応募してもらえないという現状があります。連合埼玉では、就職活動がうまくいかず、なかなか就職できない人がいたら、埼玉労働局と連携して、埼玉県内の企業を中心に高校生・大学生に紹介していくような就職支援をしていこうと考えています。そのことをお伝えしておきます。

禹:どうもありがとうございます。では、南雲さんからお願いします。

南雲:私は、皆さんに友達をたくさん作ってほしいと思います。同じ埼玉大学の友達でもいいのですが、いろいろな友達を作っていただきたいと思います。そのためには自分の周りだけに目線を置くのではなくて、広い位置に目線をおいて、いろいろな人と付き合ってほしいと思います。大学、地域、いろいろな学ぶ場があるので、いろいろなところに目線を広げて、大きな人間になっていただくことが一番いいのではないかと思います。
 連合本部には、連合で採用した人、連合埼玉の会長のように産業別労働組合から連合にきている人たちが約120名おります。人それぞれ考え方も、育ちも学歴も違います。でも、それぞれの人の役割があります。そのつながりが人間関係だと私は思っております。
 ですから、何かをしてもらった時には「ありがとう」という言葉をかけるだけで違ってくると思います。朝は「おはようございます」、帰りは「さようなら」という一言から人間関係ができていくと思いますし、自分を高めていくのだと思います。
 大変厳しい状況ですが、目線を広めていただくことを私からのメッセージとさせていただきます。今日は、こういう機会をいただきまして本当にありがとうございました。

禹:ありがとうございます。私からは、授業のまとめは省きたいと思います。今お二人から非常にいいお話を聞かせていただきました。私からは皆さんに一言、お願いというか、希望というか、それをお話しします。
 それは何かというと、私自身も学生時代を送ってきましたが、今、自分が大学時代に何を学んだのかを思い出してみると、そんなに思い出に残る授業というのはないわけです。私は、この授業が皆さんに、大学を卒業した後、いつかふと考えたときに記憶に残るそのような授業になってほしいと願いますし、そのような授業になっているだろうと思います。これは、基本的に連合のご厚意で寄付をいただいて、また立派な講師の方を派遣して頂いて、今日も責任者のお二人に来て頂き議論した、そのような賜物だと思います。
 では、今期の授業を終了します。お二人に盛大な拍手をお送りください。どうもありがとうございました。

 

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