埼玉大学「連合寄付講座」

2010年度前期「働くということと労働組合」講義要録

第12回(7/7)

社会的課題への取り組み①
防災、ボランティア活動を通しての地域社会への貢献

ゲストスピーカー:林 道寛(連合組織拡大・組織対策局長)

1.連合の「お助けカード」

 本題に入る前に、皆さんにお配りした「お助けカード」について紹介します。このカードには、連合の電話番号が書いてあります。皆さんが今後、社会に出て、会社等に就職をしたとき、職場の中で、上司からセクハラやパワハラを受けたり、納得のいかない処遇を受けたり、あるいは一方的に解雇されたりすることがあるかもしれません。職場で困ったことに直面した時、職場の仲間や友達に相談することも大切ですが、それでも解決できなければ、その時は決して1人で悩まず、ぜひこの「お助けカード」を見て連合に連絡をしてください。
  2年前に、派遣村ができて、大変話題になりました。私も派遣村に入って、そこに来ている人たちの相談にのりました。通常労働組合が受ける相談は、会社を解雇されたとか、いろいろな仕事上の不利益を被ったというものが大半です。ところが、派遣村で受けた相談は、「住むところがない、これからどうすればいいのか」というものばかりでした。実際に、所持金がわずかしかなく、池袋から派遣村まで歩いてきた、などという人たちが大勢いました。彼らは、派遣切りにあって会社の寮から追い出された後、ネットカフェなどで過ごしていました。そのため、生活保護を受けられるようにしたり、住所を定めないと就職もできませんから、住居のめどをつけたりしました。
  本当に気の毒だと思いましたが、もし、きちんと相談できるところがあれば、あれほど大勢の人たちが派遣村に集まってこなかったかもしれません。こういうこともありますから、この「お助けカード」は、いつでも常備しておいてほしいと思います。

2.阪神・淡路大震災に見る連合の救援活動と地域貢献の具体的な取り組み

(1)大規模震災における救援活動
 では、本題に入ります。皆さんが抱く労働組合のイメージというのは、賃金や労働条件の向上などについて経営側と交渉したり、5月のメーデーの時に旗を持ってデモをしたりするといったものではないでしょうか。その他にも労働組合ではさまざまな活動をしています。そのひとつが、大規模災害における救援活動です。
  今から15年前の1995年1月17日に阪神・淡路大震災が起き、当時7,000人弱の方が亡くなりました。連合では2005年に10周年を記念して、神戸でシンポジウムを開催しました。そのときに、あの震災でどういうことが起きたのか、そして、労働組合による震災直後の救援と、その後10年間にわたり、地域の労働組合がどのような支援をしているのか、という内容のDVDを作成して、上映しました。これを見ていただくと、実際に労働組合がどういう活動をしたか、わかると思いますので、10分程度上映します。

<DVD上映>

 DVDにもあるように、労働組合では、阪神・淡路大震災が起きた直後から3ヵ月間の緊急支援として現地に入って、いろいろな救援活動を行いました。

(2)組織力の強みを生かした救援活動
①被災直後の状況
 被災直後の状況は、1月18日時点で死者6,308名、負傷者34,900名、家屋の倒壊192,706棟と、大変ひどいものでした。当時、連合の組合員54,000人が救援に駆けつけました。私たちは拠点を5つ設けて、それぞれに分かれて救援活動を行いました。この時、全国から多くの個人ボランティアも救援に駆けつけ、ずいぶんマスコミ等で取り上げられました。
  しかし、私たち労働組合も50,000人以上がボランティアに入ったことは、ただの1行もマスコミに取り上げられませんでした。私は知り合いの記者に「これだけ労働組合が活動をしているのに、なぜマスコミは取り上げないのか」と聞いたところ、「労働組合がこのような救援活動をするのは当たり前だから、ニュースにならないので取り上げない」ということでした。そういうことで、労働組合は、阪神・淡路大震災のほかにもさまざまな救援活動をしていますが、世の中に知れ渡る機会は滅多にありません。

②個人のボランティアと組織ボランティア
 マスコミに取り上げられることが本来の目的ではないので、それは問題ではありません。しかし、重要なことは、ボランティア活動には、個人で行うボランティア活動と組織力を必要とするボランティア活動があるということです。労働組合が、大規模災害のボランティア活動を行う意味はここにあります。
  「組織力」でまず頭に思い浮かぶのは、国では自衛隊、自治体でいえば警察だと思います。そして、民間では労働組合です。労働組合は、自衛隊や警察と同じように組織として自己完結型の力をもっています。
  連合の組合員は、震災直後に被災地に入って、それぞれの拠点で救援活動を行いました。私も被災地に入り救援活動の指揮をとりました。震災直後は、被災地に通じる交通手段がなかったので、私は日本海から山を越えて被災地に近いところまで電車などを乗り継いでいき、あとは歩いて神戸市内に入りました。
  兵庫県庁のそばに連合兵庫の建物があり、あまり被災を受けていなかったので、そこを拠点に災害救援活動を行うことにしました。

(3)救援活動の内容
①救援物資支援活動
 具体的な活動として、まず救援物資関係があります。大災害が起こると、衣類などさまざまな物資が山のように被災地に送られてきます。そのため、避難所ごとに必要なものを仕分けして、それぞれの避難所に届けなければなりません。
  当時は、神戸商科大学の体育館が救援物資の集積センターになっていました。「○○避難所に、△△が足りない」という連絡が県から連合の現地本部に入るので、ここで仕分けをしてその避難所に持っていきます。このような作業を迅速に行うには、人手や組織力が必要です。個人のボランティアでは絶対にできないことです。

②避難所支援活動
 個人のボランティア活動は、給食の手配などの活動が中心です。しかし、ボランティアが必要とされるのは、きれいな仕事だけではありません。たとえば、避難場所になっていた学校や公民館にあるトイレは水洗が機能していないので、溜まった排泄物の処理が必要です。また、ゴミの収集や避難所の掃除も必要となります。これらのことを引き受けたのは労働組合でした。市から要請を受けると集団で出向き、一斉に片付けます。こうしたことは、系統だった組織行動でやらないと、なかなかできません。
  また、避難所の実態把握も労働組合が行いました。実は避難所というのは、県や市が指定するわけではありません。震災が起きたとき、みんな着の身着のままで近くの安全な場所に逃げこむので、どこに避難所があるのか、県としても把握しきれないのです。それでは救援物資を含め、必要な支援ができないので、私たちがどこに避難所があるか、そこに何人避難しているかを歩いて調べ、県に報告をしました。
  それから、避難者の健康状態のチェックという活動もあります。連合の加盟組織である自治労の組合員に保健婦さんがいますので、その保健婦さんが避難所を訪問し、避難している人の健康のチェックをしました。
  また、避難されている皆さんに、「あったか湯」というお風呂も提供しました。これは、和歌山の白浜温泉のお湯を無料でわけてもらって、やはり連合の加盟組織である運輸労連のトラックの運転手さんに運んでもらいました。湯船は自衛隊から借りて、そこに温泉を入れて、男湯と女湯にわけて入ってもらいました。お風呂は気持ちを生き返らせるうえで、とても大事なものだと考え、このような支援をしました。
  これらのことは、さまざまな職種の人がいる労働組合だからこそ、できた支援だと思います。

③高齢者・身障者への訪問入浴活動
 また、高齢者・身障者への訪問入浴活動も行いました。これは、高層マンションに取り残された高齢者・身障者の人たちを中心にした支援活動です。
  高層マンションでは、被災直後ではエレベーターが機能しませんから、ここに住んでいる高齢者・身障者の人たちは、下に降りて来られません。食事は届けられますが、お風呂に入ることはできません。そこで、三菱造船労組や川崎重工労組の力自慢の労働組合員に協力してもらい、東京から運んできた大きな鍋にお湯を沸かし、そのお湯を持って10階まで階段であがり、お年寄りや身障者の人にお風呂に入ってもらいました。

④行政への支援、法律相談など
 もうひとつは、行政への支援です。たとえば、区役所の窓口の職員もみな被災者ですから、仕事に出て来られません。そのため、罹災証明を出す職員や、災害救援支援金の支払い手続きとか、物資の受け渡しなどを担当する職員がいないわけです。その業務支援をするため、各自治体で同様の業務を担当している自治労の組合員が全国から集まり、被災地の区役所の窓口で業務を代行しました。
  また、電力会社の組合員は、とにかくライフラインを復旧しようと取り組みました。ライフラインで大切なのは、電気とガスです。やはり電気がつくことで人間はほっとしますが、そのまま通電をすると火災になりますので、専門的に熟知している人たちが救援しなければ、意味がありません。給水関係では、水道局の組合である全水道が活躍しました。
  行政も被災して機能していないということで、労働組合の全国の仲間が集まって、それぞれ自分たちが日常的にやっている仕事を神戸でやったわけです。これはまさに、労働組合・働く者の組織だからできる支援です。
  また、連合本部の雇用担当者と労働担当者と、労政事務所が一緒に連携して、街角に相談所も作りました。そこでは、失業手当の手続きや会社がつぶれてしまった人の労働相談などにものりました。これらの司令室となっていたのが連合の現地本部で、そこで全国から集まる労働組合員の役割分担を行いました。
  このように、神戸の被災地で3ヵ月間緊急支援を行いました。

3.大規模災害に対するさまざまな取り組み

(1)組織力の重要性
 阪神・淡路大震災から10年後に開催したシンポジウムには、ゲストスピーカーとして、当時、陸上自衛隊中部方面総監として最高指揮をとられた松島悠佐・元陸将をお招きし、当時自衛隊がどのように動いたかという話を聞きました。そして、組織力を持って救援活動をすることの大切さをお互いに確認しました。
  このような支援活動を通じて、私たちはいろいろなことを学びました。とりわけ、マグニチュード8級の大地震は、いつ来てもおかしくないと言われているなかで、大規模災害に対して、労働組合が日常的にどう対処していくのかということです。こうした課題が今問われています。

(2)連合の防災・緊急対応の基本
 連合では、阪神・淡路大震災の時の反省も込めて、大規模災害のときの緊急対応方針を決めました。まず、連合に災害対策救援本部を設置して、発生直後からどういう救援体制をとるのか定めています。基本的に東京以外で災害が起こったときを想定していますが、東京直下で大地震が起きた場合は、連合の本部機能を関西に移して対応することになっています。私たち連合が、組織力を生かせる体制をまず作ろうということです。
  私が担当責任者だったときは、震度5強のニュースが報道されると、すぐに連合本部に出向いて、その当該県に連絡をして、災害状況の点検をし、何かあれば間髪いれずに救援活動ができるようにしていました。
  現在、連合の倉庫には300人分の物資を常に備蓄して、組織的に対応できるようにしてあります。2004年に起きた中越地震のときに、阪神・淡路大震災で学んだ教訓が生かされ、これらの物資を現地にすぐに送り、救援活動にあたることができました。
  阪神・淡路大震災と中越地震を体験して感じたことは、都市での災害と山間部での災害は、全く違うということです。同じようなやり方で救援に当たっていてはだめだということがよくわかりました。中越山間部では共同体の存在が大きく、救援活動といえども地域ごとのそれぞれのつながりを壊さないように、黒子に回って活動を進める必要がありました。行政と連絡をとりながら、必要なものを山古志村などにそっと送る、という支援の仕方で進めました。

(3)海外への支援活動
 連合・労働組合では、国内だけでなく海外の大規模災害についても支援活動を行っています。そのひとつはスマトラ沖巨大地震です。この時は、現地に組合員を派遣するわけにはいきませんので、全国でカンパを募りました。その結果、2億921万5,928円が集まりました。この支援金は、政府を通さず、現地に入っているNGOに直接渡しました。そうすれば、本当に支援を必要としている被災者の皆さんに、確実に行き渡ると考えたからです。
  同時に、インド、マレーシア、スリランカ、タイ、インドネシアの労働組合に義援金を渡しました。NGO関係では、日本国際ボランティアセンターやシャンティ国際ボランティア会などにカンパ金を送りました。NGOには、単にカンパを送るだけでなく、それをどのように使ったのかということも、後できちんと報告してもらっています。

(4)大規模災害を想定した取り組み
 国内ではほかにも、福井や北関東などを中心とした集中豪雨による被害もありました。また、北海道の礼文島でも大きな地震がありました。
  このように大きな災害時には、連合が組織的かつ地道に社会的な役割として取り組んでいることについて、ご理解してもらいたいと思います。
  そのうえで、現在連合で取り組んでいる活動のひとつをご紹介します。今、東海・関東地方に、マグニチュード8クラスの大地震がいつ起きてもおかしくない状態であるといわれています。もし、実際に起きた場合には、東京に勤める人は自宅に帰るのが困難になると考えられます。この「帰宅難民」は、東京都内だけで390万人もいると想定されています。
  そこで連合では、東京、神奈川、埼玉、千葉の一都三県において、首都圏での大規模な災害が起きたときに、どのように自宅に帰ることができるか、東京災害ボランティアネットワークと連携をして、毎年「帰宅困難者訓練」を行なっています。昨年は約4,700人が参加しました。参加者の8割以上が5~6時間かけて約20キロを歩き、無事に自分の家までたどり着くことができました。

4.社会的課題における労働組合の役割

 阪神・淡路大震災を教訓として、世のため、人のために、労働組合が組織力を最大限生かしながら、どのように役割を果たしていくかが、ますます重要になると考えています。
  今、労働組合は、企業や役所の中に閉じこもるのではなくて、少しでも地域社会に出て、そこで社会貢献していくことを、活動の大きな柱のひとつとしています。そういった意味で、連合・労働組合は、今後も大規模災害時の救援・復興支援へ積極的に取り組んでいきます。
  復興支援については、民間ボランティアを支えていくことも労働組合の役割のひとつだと考えています。具体的には、「愛のカンパ活動」を毎年実施しています。47都道府県のそれぞれのボランティア組織に申請をしてもらい、一定の基準を満たした申請内容に対して、カンパで集まったお金を支援金として使ってもらいます。これは20年前からやっていて、これまでに集まったお金は20億円を超えています。これも、680万人という組合員を抱えている労働組合だからこそ集まる金額だといえます。
  さらに、災害時の救援だけでなく、平和を守ることも労働組合の大変重要な役割だと考えています。日本では、労働組合に関心がないといわれますが、国際的な労働組合組織である国際労働組合総連合(ITUC)のなかで、連合は3番目に大きな労働組合です。世界では、今でも東南アジアや南米を中心に、労働組合の活動家が暗殺されたり、捕まったりしています。労働組合の活動をしていて、こういう目に遭うのは、むしろ世界では当たり前のことです。
  平和であることと人権が守られることは、労働組合活動をするうえで一番大事なことであるといえます。連合は、これらの課題についても、運動の柱としてしっかり取り組んでいます。

以上、労働組合の社会的役割について話してきました。皆さんもこれから卒業して、企業などに就職されると思いますが、ぜひ労働組合にも積極的に参加をして下さい。そして、自分たちの労働条件も当然ですが、世のため、人のために自分は何ができるのか、ということを考えてほしいと思います。そして、その時にひとつの参考として、今日の話が少しでも役に立てば大変うれしく思います。
  これで私からの話は終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

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