埼玉大学「連合寄付講座」

2010年度前期「働くということと労働組合」講義要録

第6回(5/26)

働く現場・地域での取り組み⑤
ワーク・ライフ・バランスで大切なこと
―みんなで一緒に考えよう、世代や性別を超えて―

ゲストスピーカー:横山 薫(連合埼玉女性委員会委員長)

1.はじめに

 今日は、今までとは違った切り口でワーク・ライフ・バランスについて話をしたいと思います。私の話は必ずしも専門的ではありませんが、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

(1)職場環境・働き方の移り変わり

 ワーク・ライフ・バランスの話に入る前に、私の職場の紹介をします。私は、埼玉県市町村共済組合というところで、地方公務員の福利厚生を扱う仕事をしています。地方公務員の福利厚生には、健康保険証を交付するなどの医療保険、老後の資金である年金の給付、お金の融資といった貸付制度があり、私の職場ではそれらを扱っています。私はそこに1977年に就職しましたので、勤続33年になります。その間、職場環境や働き方が大きく変化したことを本当に実感しています。
 職場環境で大きく変わったのは、女性のお茶入れ業務がなくなったことです。私が入った当時は、女性は自分の持ち分の仕事以外に、朝昼と午後3時にお茶入れをしていました。それが、本来の業務が多忙になり、女性の仕事も増えたということもあって、お茶入れ業務をやっている暇がなくなってきました。そして、女性がいろいろと話し合いをした中で、そうしたことは廃止され、自分が飲みたいときに自分で淹れるように変わりました。
 また、働き方も変わりました。たとえば昔は、出張は男性しか行かせてもらえませんでしたが、それも先輩たちの運動により改善されました。このように、男性と女性の仕事の分担も標準化されました。
 それと、大きな出来事といえるのは、女性管理職の登用です。私が入った時には男性管理職しかいませんでした。女性に大学卒がいないという理由からでした。ただ、男性は高卒で入っても夜間の大学に行って大卒扱いになり、管理職になれる資格ができました。それは男性の必須条件でした。しかし、女性は夜間の大学に行っても行かなくともよいということになっていました。今は時代も変わってきて、3人の女性管理職が働いています。
 今年画期的だったのは、4年制大卒の女子が職員として採用されたことです。就職においても女性に道が開けてきたのだなと思う瞬間でした。

(2)職場における人間関係の大切さ

 私は今、福祉課で主幹として貸付業務の統括をしています。最近、仕事をしていて感じることは、子どもの教育費の貸付がものすごく増えていることです。もし、私立の学校に子ども2人を行かせるとしたら、ちょっとした住宅ローンと同じくらいの額になります。貸付分は毎月給料の中から返済をしていただいて、退職をするときに残金を一括返済してもらいます。ですから、退職金の約半分がこの教育ローンで消えていく、という例が増えていて、これは時代を反映しているのかなと思います。
 現在職場の人数は、職員55人、派遣労働者10人、パートが30人と総勢95人です。100人前後の職場という数は微妙で、人数が多すぎて社員の顔を知らないという大企業でもないし、アットホームで家族のようなかたちで仕事ができるという人数でもありません。派閥などもできます。
 職場というのは、大なり小なり利害関係があって、ちょっとしたことで職場全体の雰囲気が悪くなってしまうことがあります。人間関係がすごく大切ということです。働き始めると、人間関係を円滑にするために、ときには自分の感情を抑えたり、言いたいことを我慢したりもして、人間関係がうまくいくように工夫していきます。また、組織のトップがかわるごとに大きな影響があります。
 このように33年間勤めてきて、いろいろな出来事がありましたし、今も起きています。でも、こうして振り返ってみると、働きやすい職場だといえます。30年間あっという間に過ぎてしまったと思っています。

2.働き続けることの大切さ

(1)働く現場の現状

 ここから本題に入っていきたいと思います。まず、「働くことの大切さ」ということです。働く現場の現状は、公務員でもとても厳しいものとなっています。サービス残業は当たり前で、家に仕事を持ち帰る「風呂敷残業」も年々増えてきました。そのなかで、市町村の生活保護や生活保障などを扱う職場は、とくに厳しくなっています。人も足りないうえに、それらの申請件数も増えているわけですから、1人当たりの仕事量は大幅に増えていると聞いています。

①地方公務員の人事異動

 そういった現状を踏まえたうえで、地方公務員の人事異動の話をします。民間でもそうですが、公務員も突然辞令が出ます。そして、180度まるで違う職場に行くわけです。ですから、異動先での個人の対応力がものすごく求められます。ただ、皆が皆すぐに対応できるというわけではありませから、適材適所を考えて異動させるべきだ、という論議もあります。そして、何よりも問題なのは、市民生活の何を優先してそのような異動をしているのか、見えないということです。
 今の市長になったとき、大きな異動はありませんでした。通常、市長が変わると、主要な役職の人事異動が必ず行われます。しかし、現市長はそれを最小限に抑えました。その時、なぜ人事異動をしないのかという質問に対して、「市民生活を優先して人事を考えていきます」と答えていました。これは、当たり前のことですけれども、前例がありませんでしたので、かなり画期的なことでした。

②民間企業の人事異動

 では、民間企業はどうなのかというと、地方公務員の異動との大きな違いは、転勤があることです。特に全国規模で展開している企業では、転勤が頻繁にあります。それも突然辞令がでます。たとえば、1週間くらい前に、突然「沖縄に行ってくれ」といわれたら、1週間後に沖縄での辞令の交付に間に合うように、その間に仕事の引き継ぎをし、引越をしなければなりません。その間、家族で相談する時間もなく、とりあえず自分だけ現地に行くというように、家族バラバラの生活が余儀されるわけです。
 転勤の持つ意味合いは、企業によって違います。支店の活性化とか、人事交流という場合もあるのですが、企業への献身度をはかるための転勤であったりもします。その場合、その転勤を断ることは、そこの会社にいられなくなるということになります。私としては、このような企業の一方的なやり方は非常に理不尽だと思うし、こういう制度はない方がいいと考えています。

③評価制度

 今、民間ではほとんどの企業で人事評価制度が導入されて、上司が部下の仕事の度合いをみて、給料を決めるのが主流になっています。このような制度は今、地方公務員にも導入されてきていて、民間と同じような評価が始まっています。
 この人事評価で問題なのは、自分の評価が公正に行われているのかどうか、わからないことです。ですから、こういう給料の決め方は十分気をつけていく必要があると思います。

(2)なぜ働き続けるのか

①さまざまな意味合い

 このように大変なことがあるなかで、なぜ働き続けるのかといえば、「生活のためということがあります。日々の生活をしていくために働き、給料をもらう。これが基本にあると思います。そして、それを突き詰めていけば、自分や家族を豊かにするといった目的につながっていきます。
 この目的は、自分の夢のため、家族を養うため、あるいは自己実現のため、というように、個人の価値観によって違ってきます。また、一ヵ所で長く勤めて、定期昇給の中で安定した生活を送りたい人も、転職しながらスキルアップしていきたい人もいると思います。働き続けることの意味や働くことによって得られるメリットは、人それぞれであり、自分がどのような働き方をしたいのかというところで、決めていけばよいことだと思います。

②「人財」を得ること

 このように、働く意味というのは人それぞれですが、働き続けることで必ず得られることがあります。人は、生まれた時から人と一緒に生きています。最初の人間関係は親で、次に学校に入って友達という社会の中で、成長していきます。そして、学校を卒業して社会にでると、同僚とか、上司とか、取引先とか、人の輪が広がっていきます。そういう人たちのなかで、学校の勉強とは違うことを経験し、知識が得られるわけです。そして、仕事をしていくなかで、失敗をして怒られたり、うまくいかず壁にぶつかったりしながら、人は大きく成長していくのだと思います。こういったことが働くというなかにプラスとしてあるわけです。これは、給料についてくる「おまけ」みたいなものだと思います。
 その「おまけ」には、仕事の達成感や充実感もあるでしょうし、「人財」というものもあります。「人財」とは、人の財産ということです。学生生活においても、よい友達ができると自分の生活が潤うと思います。それと同様に、社会に出ていろいろな分野の人たちと仕事をしたり、交流をしたりする中で、この「人財」に恵まれていきます。給料以外にこういう「おまけというのも、働き続ける大きな意味合いになってくるのではないかと思います。

3.世代ごとに展開される「ワーク・ライフ・バランス」

 では、次に、世代ごとに展開されるワーク・ライフ・バランスというものについて、女性の場合を例に、一緒に考えてみたいと思います。まず20代のワーク・ライフ・バランスは何かというと、20代というのは、一般的には、自分のやりたいことを考えて、給料も自分のために全額つぎ込んでも許される、自分中心の生活の世代といえると思います。20代のワーク・ライフ・バランスは、仕事も生活も全部自分のなかで調節できてしまうといえます。
 では、30代ではどうか。日本は晩婚化が進み、今では結婚年齢が30歳前後になってきました。そうすると、ここから20代とは違うワーク・ライフ・バランスが出てきます。というのは、結婚や出産によって、自分と違う人間と一緒に生活をするようになるわけです。その中で、そのバランスをどうとっていくかが問題となります。特に、この時期は子どもが一番手のかかる時ですし、また、大学を卒業して就職8年目くらいになってきますので、仕事のほうもある程度責任のあることを任されるようになってきます。この年代は、家庭生活と仕事のバランスを、どのようにうまくとるか悩む世代です。
 40代になると、ある程度子どもも手を離れて、家庭生活に若干余裕が出てきて、仕事にエネルギーが戻せる時代になります。ただ、40代後半~50代前半は、今度は介護という問題にぶつかってきます。
 このように、女性の人生の流れをみると、自由で楽しめるのは20代だけで、30代以降は、人の世話で終わるというふうにみえるかもしれませんが、決してそうではありません。ただ、育児や介護は必然的に出てきます。その時に、責任ある仕事を持った自分がどうやっていけばいいのかということを考えて、ワーク・ライフ・バランスを自分なりにやっていく必要があります。それをどのように支えるかというのは、会社や国が制度としてきっちりやっていかなければいけないと思いますが、自分の中で世代ごとのワーク・ライフ・バランスを決めることはできるわけです。それが個人のワーク・ライフ・バランスだというふうに、私は思います。
 こういったことを頭に入れて、子育ての変遷についてみていきたいと思います。

4.子育ての変遷から

(1)私が就職した1977年当時

 ここでは、女性がどのような子育てをしてきたか、というところに焦点を当ててお話をします。私が就職をした1977年というのは、子育て支援のための制度は労働基準法による産前産後休暇しかなかった時代です。子どもを生んで8週間たつとすぐ職場に復帰するわけです。復帰後は、1日1時間の育児時間をとることしかできませんでした。
 当時の保育園は、0歳児の受け入れをしてくれませんでした。「0歳児の壁」といわれましたが、そうすると、子どもが0歳の間は、母親が面倒をみるか、無認可保育所に預けるか、いずれかの選択をしなければならない時代でした。
 当時、私の隣の席の先輩が出産後8週間で職場に復帰して、無認可の家庭保育室というところに子どもを預けて仕事をしていました。しかし、その家庭保育室では着替えもさせてもらえず、よく面倒をみてもらえていないということでした。その先輩が、自分の子どもがそういう扱いを受けているという悲しみと、そういうことをさせている自責の念にかられて辛いといって流した涙を、私は今も忘れることはできません。本当に、当時のお母さんたちはがんばっていました。

(2)1992年から:育児休業法の制定

 ところがこの時代でも、学校の先生や病院の看護婦といった特殊な能力を持った女性は、育児休業を1年間取れるという制度がありました。
そのため、同様の制度を一般の働く女性にもぜひ制度化してほしいということで、私たち連合の女性委員会は、 育児休業法の早期制定を求めて800万人の署名活動を行い、それを国会にもっていきました。さらに、企業にも働きかけをしました。企業にとって、1年間職場から人がいなくなるのはマイナスになるということで、なかなか受け入れてもらえませんでした。そのため、埼玉県内の企業に対して懇談会を申し入れるなど地道に活動を続けたこともあって、1991年に育児休業法が成立、翌年から制度がスタートしました。
 最初は1年間無給という形での実施でしたが、これによって多くの女性が救われました。職場でも子どもができると、きちんと育児休業をとって、また復帰するというようになってきました。たぶん、この頃に生まれたのが皆さん方です。ですから、働いているお母さんで、1年間育児休業を取られた人もいらっしゃると思います。
このように「0歳児の壁」はなくなったのですが、保育園には制約が多く、当時から待機児童の問題もありまし た。また、病気になると「迎えにきてコール」というのがあって、子どもが熱を出したりすると、保育所や幼稚園は必ずお母さんのところに電話をしてきます。そうすると、子どもを早く迎えに行きたい、でも今やっている仕事も続けたいというジレンマに陥りながら、お母さんは迎えにいくわけです。そして、その間の仕事は、風呂敷残業をしたり、休日に出てきて仕事をしたりして、その職責を果たすということになります。
 皆さんは、お母さんが働いていて、さみしかったり、辛かったりした思いがあるかもしれません。でもその裏側で、お母さんたちも悩んだり、苦しんだりしてきたという姿だけは、本当に理解してほしいと思います。

(3)2010年では

 そういった時代を経て、2010年6月から改正育児休業法が施行されます。育児休業は、本人が申し出て会社が認めれば、原則1年、一定の場合1年6ヵ月まで育児休業をとることができます。公務員の場合は最高3年です。今回の改正内容は、子どもが3歳になるまでは、勤務時間を短縮して勤務してもいいとか、残業や休日出勤をしなくてもいいようにすることを会社に義務づけるなど、育児休業を経て職場復帰したあとの子育て中も働き続けやすくするためのものとなっています。また、お父さんの育児休業取得もすすめています。子育ては親としての責務であって、女としての責務ではないわけです。少子化の問題をどこかで止めたいという意味合いも含まれているのだろうとも思いますが、お父さんの育児休業取得は、地方公務員の中にもちらほら出てきています。一般的には給料が高い方が働き、給料が低い方が育児休業を取るというのが、一番シンプルです。そういった形でやっていこうという考えの男性も、結構増えてきています。
 また、画期的なことは、病児保育が開始されたことです。今、「迎えにきてコール」が来ても、すぐ迎えに行けないお母さんが増えています。そのなかで、子どもに熱が出ても預かってくれる保育サービスも出始めました。なかには、病気の子どもを健康な子どもと一緒の施設で預かるということに対して、反対する人もいます。でも、病気だと言われると、仕事を中断して帰らなければならず、ずっと悩んできた女性の声が、今やっとこの病児保育に結びついたわけです。

(4)ワーク・ライフ・バランスの意義

 このように、個人の思いだけではなく、社会全体で考えたときにどうすべきなのか、改めて考えていかなければいけないと思います。そのように考えていくと、ワーク・ライフ・バランスというのは、大きな意味があると思うのです。個人の部分で考えるところ、社会全体で考えるところ、国で考えるところ、自分はどこでやっていくのかを考えて、ワーク・ライフ・バランスをやっていくという考え方もあるということを、知っておいてほしいと思います。

5.働き続けることで大切なことは

(1)みんなで支え合う社会になること

 今日私は、女性の視点から、働き続けるうえでの女性の大変さについて、お話ししました。しかし、働き続けることの大変さは、もちろん男性にもあります。転勤だったり、異動だったり、人事や派閥の荒波にもまれることもあります。男性も女性も、働くことは本当に大変なことですが、働き続けなければいけないわけです。自分たちが働き続けるために何が必要なのかということを、今一度の若い皆さんに考えていただけたらと思います。
 昔はどちらかというと、男とか女で語られることが多かった社会です。今は男女平等参画社会といわれて、男も女も一緒になって考えようということが建前になっています。今後、男とか女とかの括りをなくしたなかで、人としてどうしたらよいかを考えていく時代に、皆さんがしていただけたらと思います。ですから、今日のサブタイトルを、「みんなで一緒に考えよう、世代や性別を超えて」としました。

(2)固定観念を打ち破る勇気

 今、男も女もなく一緒に考えていこうという時に、必ずぶつかるのが固定観念という壁です。たとえば、「青春リアルというテレビ番組のなかで、仕事を辞めて専業主夫で、子ども2人を育てている“いっこくさん”という人の体験談が紹介されていました。この人は1日中子どもの世話をしているのですが、平日に公園で子どもを遊ばせているお父さんは、仕事はどうしたのかと思われてしまう。あるいは、ママ同士のグループの中に入りづらい雰囲気があり、そのため自分の子どもを一緒に遊ばせることができないということでした。専業主夫を否定するのではなくて、私たちは「認めてあげる」という世代になっていかなければならないと思います。性別で人を決めつけるのではなく、「この人は子育てをしている“いっこくさん”なんだということを認められる社会になっていくことが、一番大切だと思っています。
 働き続けることで大切なことは、みんなで支え合う社会にしていくこと、そして、固定観念を変えていかないと、何も変わらないということです。その変わる努力を、私たちもしますが、皆さんも、ぜひなさってみてください。

(3)誰もが生き生きと働ける社会へ

 日経ウーマン<女子部>というサイトで、ワーク・ライフ・バランスについてどう思うかを聞いていました。そこに投稿されたものをみると、「ワーク・ライフ・バランスは、一部の大きな企業と公務員の話だという意見が多く寄せられていました。また、「うちではそんな余裕なんかない
 「国はワーク・ライフ・バランスなどといっているが、髪を振り乱して、毎日必死で生きている自分たちにはそんなの関係ないという意見もありました。なかには、これはとても大切な問題だから、連合に相談してみたらという意見もありましたが、やはり、ワーク・ライフ・バランスはまだまだ浸透していないようです。言葉だけが独り歩きしていると思います。
 このように、実社会の姿をみると、難しい問題が山積しています。私たちはこのことを少しでも改善していかなければならないと思っています。その一方で、私たちが先輩から引き継ぎ、改善を加えていったものを、今日この場で聞いていらっしゃる皆さんが引き継ぐ段階に入ったと思います。これから皆さんが社会に出た時に、今以上に男も女も生き生きと働いている社会になっていたらいいなと思っています。

6.他者を大切にするためのワーク・ライフ・バランス

 最後に、50代のワーク・ライフ・バランスについて少し話をします。50代のワーク・ライフ・バランスでは、先ほどふれましたように、介護ということが大きなウエイトを占めてきます。私も86歳になる母を介護しています。うちの母はアルツハイマー型の認知症の症状を抱えています。たとえば、私の職場に母のことで電話がかかってくるということは、死に直結した電話です。そういう不安を抱えながら毎日仕事をしているわけです。
 私がなぜ母の介護にこだわるかというと、2008年2月に父親を亡くしました。その日は朝、父の病院に寄って、ご飯を食べさせてから職場に行こうと思っていたのですが、バタバタしていてできませんでした。職場が忙しい時期で残業もしていました。危篤の知らせを受け、病院に駆けつけたのですが、結局父の死に目には会えませんでした。今でも、あの時父のところに行っていれば・・・と後悔が残っていて、いまだに納骨ができません。その時出会った詩を読み上げます。

もし、私が知ってさえいたら

もし、ぐっすり眠っているあなたを見るのがこれで最後だと知ってさえいたら、
私はあなたをもっとしっかり毛布に包んであげ、神様に祝福を祈っただろう。

もし、外出するあなたを見るのが、これで最後だと知ってさえいたら、
私はあなたをしっかり抱きしめキスをし、出かけるあなたをもう一度呼び止め、
もう一度しっかり抱きしめただろう。

(中略)

もしかしたら、明日はこないかもしれないし、
もし、そうなったら、きっとその日あなたは後悔することになるだろう。

笑顔を見せること、抱きしめたりキスしたりするための、ほんのわずかな時間。

相手があなたに求めている、ただ一つの最後の願いだったかもしれないそれらのことを、
多忙を理由に拒否してしまったとしたら、きっと後悔することになっただろう。

だから今日愛する人をしっかり抱きしめよう。
そして耳元でこうささやこう。
愛していることを、いつも大切な人だということを、
「ごめんなさい」「ありがとう」「大丈夫」「いてくれてありがとう」と、時間をとって伝えよう。

そうすれば、もし明日がこないとしても、今日この日に後悔することはないだろう。

(作者不詳:関根一夫訳)

 このように50代のワーク・ライフ・バランスというのは、人の生死にかかわり、非常に重いものだと思います。もし、皆さんのお母さんやお父さんがそういう立場でいれば、家に帰ってぜひ優しい言葉をかけてあげて下さい。その一言がとても励みになると思います。
 それから、朝出かける時、あるいは見送る時、お互いに気持ち良く一日が過ごせるようにしてほしいと思います。何が起こるか本当にわかりません。私は父を亡くしたときに本当に後悔をしました。皆さんも健康で生きているからこそ、隣の人や、家族を大切にしていただけたらと思います。それも一つのワーク・ライフ・バランスだということをお願いして、私からの話を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

以上

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