埼玉大学「連合寄付講座」

2010年度前期「働くということと労働組合」講義要録

第4回(5/12)

働く現場・地域での取り組み③
労働時間

ゲストスピーカー:縄倉 繁(情報労連 政策局長)

1.はじめに

 最初に、情報労連(情報産業労働組合連合会)とは、基本的には情報通信関係の産業が集まってできている労働組合です。NTT労働組合、KDDI労働組合などが加盟しています。
 今日、お話させていただく1つ目は労働時間に対する規制、2つ目は労働時間を取り巻く現状、3つ目は長時間労働となる要因、4つ目は長時間労働に対する連合の取り組み、そして最後に、私たち情報労連の取り組みについてお話したいと思っています。
 皆さんは、「過労死」という言葉をご存知だと思いますが、これは、英語でも「カロウシ」で通用します。日本語が英語化してしまっている数少ない例の一つです。つまり、過労死というのは、日本でしか起こっていないということです。今日の話をとおして、皆さんに労働組合は何をやっているところなのかを理解していただくのと同時に、働くうえでもっとも重要な労働時間とはどういうことなのかを考えて頂ければと思います。

2.労働時間に対する規制

(1)日本における法規制
 今日本では、労働時間を規制する法律には、労働基準法、労働安全衛生法があります。さらに、政府から出されている労働時間等設定改善指針などがありますが、ここでは、労働基準法について詳しくみていきます。

①労働基準法における労働時間の上限規制
 労働基準法第32条では、労働者の法定労働時間を1日8時間、1週間40時間と規定しています。法律でこのように決められているにもかかわらず、実際には、週60~80時間も働き、過労死の問題がおこるのはなぜかと思うかもしれません。それは、同じ労働基準法の第36条に、但し書きがあるからです。そこには、会社がそこの労働組合もしくはその職場の労働者の過半数を代表する者と協定を締結すれば、それ以上働かせてもいいというルールがあります。これは、第36条の協定なので、俗に「36協定(サブロクキョウテイ)」と呼ばれています。

②割増賃金の支払い
 このように労働基準法では、36協定を締結していれば、週40時間を超えて働かせてもいいということになっていますが、その場合にもルールがあります。法定労働時間を超えて働いた場合、25%の割増賃金を支払うことになっています。これは正社員だけのルールではありません。労働基準法は雇用されて働いている全ての人に適用されますから、皆さんがアルバイトで1日8時間を超えて働いた場合には、このルールが適用されなければ違法行為となります。この25%という割増賃金は、2010年4月1日に法律が改正されて、月に60時間以上の時間外労働をした場合は50%増となりました。

③36協定の上限規制と特別条項
 36協定は、労使双方で合意し協定を締結したら所轄の労働基準監督署に届け出ることとなっています。
  その際、これは法律で定められていることではありませんが、1ヵ月の時間外労働は月に45時間まで、1年間では360時間にしなさい、という厚生労働大臣告示というものがあり、それ以上の時間(例えば月に50時間など)で届け出を出そうとすると、告示時間以下にするよう指導されます。
  ただし、特別条項というものを設けて、1年間の算定期間単位の半分まで延長して労働することができるようになっています。たとえば、36協定で1ヵ月45時間と上限が定められていたら、そのうち6ヵ月は45時間にしなければいけないのですが、残りの6ヵ月間は特別な事情があれば、45時間を超えてもOKという措置も取られています。
  このため、1ヵ月で100時間とか3カ月で250時間などの過労死につながるような長時間労働が発生するのです。

④適用除外
 また、労働基準法には適用除外が規定されています。一つは管理監督者です。労働基準法が定める管理監督者は、経営者と一体になって経営に影響を及ぼす人ということが本来の意味です。最近問題になっている「名ばかり店長」は、管理監督者ではなく、適用除外の対象とはなりません。最近では、マクドナルドの店長の裁判で判例なども出てきて、店長や課長という名称のみで管理監督者として適用されることはなくなってきました。

⑤裁量労働制
 専門的職種や研究・開発・企画管理業務など特殊な業務に従事する人は、裁量労働制というルールを定めることが可能となっています。
  たとえば、携帯電話のインターネット接続機能を開発した人はまさしく裁量労働制です。彼は、携帯電話で簡単にインターネットにアクセスできる機能の開発という仕事が与えられました。開発期日だけを言い渡され、あとは何も指示は受けませんでした。彼の行動をみてみますと、最初の3ヵ月間は本を読むだけでした。最後に、若い人たちが携帯電話でインターネットに接続するときに何を求めているのか、それを把握したうえで、携帯電話のインターネット接続機能を開発しました。
  その結果、携帯電話が爆発的に売れたわけです。このような研究開発の業務が、裁量労働制の対象となります。
  ただし、これについては当然のことながら、結果を出さなければ会社の評価はものすごく悪くなります。

⑥事業外みなし労働制
 最近の新聞に、旅行会社の添乗員は何時から何時まで働いていたのか見えないということで、この人たちについては、「1日8時間働いたとみなす」ということをルール化していた旅行会社に、このルールを認めないという判決の記事が載っていました。これは、実際には2時間だけ働いたとしても10時間働いたとしても、労働時間は8時間とみなすということをルール化していたということなのですが、判決では報告書や電話連絡などで確認できるということで、8時間を超えた分の時間外手当を払えとした判決です。このように、何時間働かされても賃金が支払われないのはたいへんなことです。事業場の外での労働で、そのために労働時間の算定が困難であるというものであれば、事業外みなし労働制を適用できるわけです。ですから、かなりの多くの職場で影響をうけます。
  特に、営業系の職種では、事業外みなし労働とされる場合が多くあります。その場合、時間外労働は月平均でこのくらいだろうと算定して、その分の残業手当を支払わなければならないことになっています。しかし、多くの職場でこの決まりを無視して、事業外みなし労働制の適用だからと言って、残業したとしても残業代を支払わないということが横行しています。それを防ぐために、営業職などになったときに、事業外みなし労働制の適用だと言われたら、事前に何時間分の時間外手当がもらえるのか確認することも一つの方法だと思います。

(2)諸外国における規制
①ヨーロッパ型の規制
 次に諸外国の例について説明します。一つは、ヨーロッパ型の規制です。ヨーロッパ型は「EU指令」による規制ということで、加盟国には遵守義務があるため、労働時間はかなり厳しく規制されています。その目的は、労働者の健康確保と、ワーク・ライフ・バランス実現のための生活時間の確保です。
  労働時間の上限規制は週48時間で、日本の40時間より長いのですが、ヨーロッパの規制にはこの48時間を超えたら日本のように割増賃金を払えばいいという決まりではなく、それ以上労働させたら経営者は罰則を受けます。国別に見ると、たとえばフランスは、1日7時間、週35時間です。時間外労働をさせる場合でも週41時間を超えてはならないと決められています。
  EU指令は、基本的にEU加盟国には全て適用されますが、ただし、オプトアウト規定というものがあります。これは、最初に労働契約を締結するときに、労働者が上限規制を受けないことを承認すれば、週48時間を超えて働かせることができるという規程です。しかし、これを活用しているのはイギリスとマルタ共和国くらいで、EU加盟国のほとんどが48時間というルールのなかで労働時間が規制されています。
  ヨーロッパでもう一つ特徴的なのは、インターバル規制です。この規制は、一回の勤務就業を終えてから、次の勤務就業までの間、一定の休憩時間を必ず確保するというものです。ヨーロッパでは、24時間につき連続11時間の休憩をはさむことになっています。したがって、時間外労働を夜中の12時までした場合は、翌日は午前11時まで仕事をさせてはならず、会社の始業時刻が9時だったら、9時から11時の間は勤務免除ということになります。勤務免除ですから、賃金については会社との締結条件によるのですが、連続11時間は仕事をさせてはならないというのが、ヨーロッパ型の規制です。
  情報労連でもインターバル規制を目指して、昨年から取り組みを始めています。時間というのは、私たちにとって物理的に決まっています。どんな人間でも、1週間は168時間(24時間×7日)しかありません。そうすると、その中から、法定休日の24時間を引いて、さらにインターバル規制の11時間×6日を引けば、1週間で絶対に働ける時間は週78時間にしかならない。こういう上限規制を設けることができるわけです。
  情報労連の加盟組合のなかに、ソフトウェア開発をしている情報サービスの企業があります。ここは長時間労働の温床です。ソフトウェア開発に携わる人たちは、労働時間があってもないに等しく、どの人も平均労働時間の2割は多く働いているというのが実態です。そこで、過労死を避けるためには最低限の休憩時間をとっていく必要があり、そのルールをつくらなければならないということで、私たちは、ヨーロッパ型のインターバル規制を、日本なりになんとか導入しようと取り組んでいるところです。

②アメリカ型の規制
 アメリカの場合、連邦法には労働時間に対する規制はありません。州法では、ニューヨーク州などで週80時間という規制がありますが、そういう規制がない州では、何時間働かせても、それが労働契約上有効であれば問題はありません。ただし、アメリカは別のところで規制がかかります。週40時間を超えたら、5割増の賃金の支払いが義務化されています。仮に週80時間労働の場合は、120時間分の賃金を払わなければなりません。とすれば、1人の人間に長時間働かせて、割増賃金を支払うよりも別の人間を雇った方がコスト安ということになります。
  少し前に話題になったホワイトカラーイグゼンプションというのは、割増賃金の適用除外というルールです。それが日本では、残業手当を支払わなくても済む法案ということで広まってしまいました。アメリカは契約社会ですから、週40時間労働と契約しているのに、週60時間働かせたら、60時間分の賃金を支払わなければ当然訴訟になります。ホワイトカラーイグゼンプションの場合も、割増賃金ではなくて、賃金として60時間働いた分の賃金を払えばいいというものです。しかし日本では、時間外労働の支払い制限のような内容で報道されてしまったということです。

3.労働時間を取り巻く現状

(1)長時間労働の実態と要因
 2007年に政労使の合意による「ワーク・ライフ・バランス憲章(仕事と生活の調和憲章)」が策定されました。それが今どのくらいの進捗状況か、そして、今何が問題でどういうルールが必要なのかについて、話し合う審議会が開かれました。
  調査結果からみると、残業等を含めた日本の総実労働時間は、毎年徐々に減ってきています。これは、パート労働者が増えたためです。かつては、5400万人の雇用労働者のうち、パート労働者は1000万人弱でした。それが今や2000万人までパート労働者などの非正規労働者が増えています。パート労働者が増えるということは、短時間勤務が増えるということなので、その分全体の平均労働時間は減ります。しかし、正社員の労働時間は逆に長時間傾向です。正規労働者の総実労働時間も、一番いいときは年間2000時間を切るところまでいったのですが、今は2100時間を超えるところにきており、むしろ増加傾向にあります。
  このように、今働いている現場では、ものすごい長時間労働の正規社員と、安い賃金で短時間労働の非正規労働者という二極化が進んでいる状況です。そんな状況では、安定・安心は得られないわけです。
  また、年次有給休暇についても検証しています。労働基準法では、会社に6ヵ月以上勤めていれば、年に10日間有給休暇がもらえることになっています。1992年はその取得率が56.1%ということで、10日のうち5~6日くらいは消化していました。ところが、2007年は46.7%の取得率で、4~5日に減ってしまいました。この原因としては、職場で人が減っているからということが考えられます。

(2)多様な働き方・生き方の選択
 内閣府は、現代における多様な働き方・生き方ということを踏まえての取り組みを進めていくために、「仕事と生活の調和連携推進・評価部会」を開催しました。この中で気になることは、長時間労働といったときの日本の住宅事情の悪さです。日本は通勤時間が長いです。実は私も往復3時間かかります。24時間のうち、3時間は通勤のために使っています。そこで、今政府ですすめているのは、在宅勤務をもっとルール化していこうということです。私たちとしては在宅勤務を受け入れていきたいところなのですが、ただ、すんなり受け入れるわけにはいきません。やはりそれなりのルール化が必要です。
  たとえば、労災保険法のルールは、自宅を出てから会社で勤務をし、自宅に帰るまでに起きた事故についてのみの保障です。勤務していても、自宅の中にいるときには保障されないわけです。また、個人情報など、データが流出する可能性もあります。その場合、それは会社の責任になるのか、個人の責任になるのか、そこのルールもまだ定められていません。こういった法制備をしてからでないと、在宅勤務をすんなり受け入れることができません。しかしながら、長時間労働を減らしていくためには、こういうことも必要だろうということで、検討は続けていくつもりです。

4.長時間労働に起因する疾患の現状と労働災害防止

(1)東京都労働局調査による実態
 長時間労働で一番怖いのは、やはり過労死にいたるような疾病です。2007年に東京労働局が、長時間労働に起因する疾患の現状について、1367社(50人規模以上1108社)を調べています。この結果をみると、脳・心臓疾患については、1367社中686社(50.2%)で、社員の発症が懸念される、ということで、うつ病などの精神疾患に関しては、729社(53.3%)の会社で発症が懸念されるという、かなりひどい状態です。さらにひどいのは、うつ病などの精神疾患の発症例があるという企業が186社(13.6%)となっています。また、発症の懸念が少ないとしている企業は、587社(42.9%)でしたが、そう言っておきながらも、実はそのうち79社(5.7%)の企業で発症例があったのです。

(2)過労死認定基準の強化
 もう一つ重要なことは、過労死の認定基準です。これは、労働基準局長通達で出ているのですが、1ヵ月100時間、もしくは2ヵ月以上6ヵ月以下の期間で平均80時間以上の所定外労働をして心臓疾患を起こしたり、うつ病になったりした場合には、この基準をもって過労死認定されるのが実態です。
  ここで、労働時間を巡る判例についてご紹介しておきます。「電通過労死自殺事件」という有名な事件です。これは新入社員が、ラジオ広告をとる仕事をしていたのですが、ラジオ広告は宣伝効果があまり高くないため、広告がなかなか取れないということで、昼間は必死に営業活動をやり、夜になると翌日会うお客さんへのプレゼンテーションを夜中まで作る、という時間外労働を1年間くらいずっと続けていました。その結果、うつ病となって自殺をしてしまったわけです。そのことに対して、会社が時間管理をする義務があったかどうかということで争われた裁判だったのですが、最終的に、会社側が1億6800万円を支払い、和解が成立しました。
  この事件をきっかけに、労働時間の管理が大企業を中心に見直されるようになりました。この時大きな問題とされたのは、会社がその従業員の労働時間を把握していなかったということです。労働時間を把握していなかったことに対して、裁判所は厳しく指摘をしました。ですから、今はまともな会社であれば、時間外労働の有無は別として、従業員がどのくらい働いているか、しっかり管理するようになってきています。そうしなければ、あとで裁判になった時に、不利になってしまいますから、労働時間の管理はしっかりするようになってきています。

5.長時間労働となる要因

(1)長時間労働が発生する理由
 長時間労働の発生については、先ほど説明した特別条項付36協定が大きな原因であるといえます。この特別条項付協定を締結している職場で、どのくらい長時間労働をやっているかというと、1年間の延長時間が、1000時間超の事業場は全体の4.3%です。これは、どういうことかというと、1日8時間労働として、年次有給休暇を全く取らなければ2000時間働くのが限度です。それにもかかわらず、さらに1000時間超えてもよいという会社が4.3%あるということです。800時間超~1000時間超以下が23%、600時間超~800時間以下も28.3%です。延長時間が年間600時間を超える会社の合計は、50%を超えています。
  私たちは、長時間労働が可能な特別条項付36協定が、社会問題ともなっている過労死や、過労自殺につながるメンタルヘルスの問題を引き起こしている原因の一つと考えるわけです。

(2)情報労連における長時間の実態
 では、私たち情報労連の時間外労働の実態ですが、NTT労組(NTT東日本、NTT西日本、NTTコミュニケーションズ、NTTドコモ、NTTデータなど)をみると、640~1000時間の間となっています。KDDI労働組合の時間外労働は720時間、ソフトウェア系の会社のアイネスは880時間となっています。

6.連合の取り組み

 このような長時間労働の現状のなかで、連合は基本的に、年間総実労働時間を中心にした取り組みをすすめています。要するに、所定の労働時間を働くけれども、年20日なら20日間、10日なら10日間の年次有給休暇がきちんととれるし、ゴールデンウィークなどはまとめて休む、という前提のもとで、年間総実労働時間は1800時間程度が一番望ましいとしています。ヨーロッパでは1600時間~1750時間なので、日本も1800時間を目指してやっていこうということです。
  そのためにはまず、会社が就業規則上決めている年間所定労働時間を、1年間で2000時間を上回る組合をなくす。年次有給休暇の初年度付与日数は、法律では10日以上ですが、これを15日以上とする。さらに、組合員の時間外労働を1ヵ月45時間以下に抑えることを基本として、少なくとも過労死につながるような1ヵ月100時間あるいは2ヵ月160時間を超える過重労働をなくしていく。こういうことを目標にして取り組んでいます。
  連合として、こうした労働時間管理徹底の取り組みを定めて、これに基づいて各職場の指導をしなさいということを、傘下の各産業別労働組合に指令として出します。私たちはこれを情報労連としてどう取り組んでいくかを決め、それを各職場段階に降ろしていきます。

7.情報労連の取り組み

(1)『情報労連21世紀デザイン』の取り組み
 情報労連では、21世紀にふさわしい働き方はどういうものなのかを考え、『情報労連21世紀デザイン』を策定しました。そのなかで私たちは労働時間に対して、2つの考え方を確認して、これを推進していくことにしています。
  一つは、「時間主権の確立」です。この言葉は、最近ようやく認められるようになりました。労働時間というのは、私たちが会社と契約をして、労働力を売って、それに対する対価としての給料をもらうという契約に基づいた時間です。その一方で、家事だとか、育児、趣味、自分の勉強の時間といったものがあります。このような時間を、誰もが自由に主体的に創り出せるようにすることが、時間主権の確立ということです。これは、長時間労働からの脱却だけでなく、地域社会とのつながりをもつうえでも非常に大切なことだと考えています。
  もう一つは、「多様な働き方の確立」です。出産前に働いていた女性は、今でも6割以上(第1子出産前後の継続就業率38%)が、出産を機に会社を辞めています。これは今日のテーマとはまた別の問題となっていきますが、日本の育児環境が整っていないことが大きな原因であるといえます。そこで私たちは、子育てが終わってパートで働くとか、あるいはもう一度教育を受けて就業するという機会が必要だと考えています。そのため、フルタイムとパートタイムの自主的な選択、フレックスタイム、テレワーク等ができるような環境整備に取り組んでいます。
  ただし、そこで問題になるのが、正社員とパートタイマーの処遇の格差です。フルタイムで働いていれば、月給25万円もらえるのに、パートになった途端、それが1日1時間か2時間労働時間が少ないだけで、月10万円とかに減ってしまう。もちろん、8時間労働が6時間になれば、2時間分の給料は下がるわけですが、それ以上減らされるのはおかしいだろうということです。それをどうしていくかが大きな課題です。

(2)中期時短最低到達目標の策定
 情報労連では、連合が先ほど掲げた目標よりも厳しい目標を策定しています。最終的な中期時短目標として、年間所定労働時間1800時間、1日7.5時間として、年次有給休暇の最低付与日数を20日、最高付与日数を25日以上としています。
  今年の春闘では、ワーク・ライフ・バランスの取り組みに向けて、「中期時短目標・最低到達目標」の達成の取り組みを強化・推進するとともに、長時間労働による労働者の健康被害を防止するため労働関係法令遵守の徹底に取り組むことを確認しました。そして、具体的な取り組みの一つとして、インターバル規制の取り組みを掲げました。

(3)インターバル規制の取り組み
①取り組みの内容
 インターバル規制はEUでは進んでいますが、日本では一般的ではなく、法律は全くないのが実情です。したがって、休息時間の確保をはかるという観点から、労使間で積極的に話し合いをして、可能な組合は協定の締結をしていくことを定めました。
  もう一つは、長時間労働の温床の一つである36協定の見直しをすべきだろうということです。そのために、労災認定基準を意識した上限時間の縮減と、恒常的な事由による特別条項の適用の排除をはかるべきだとしています。労災認定基準を意識した上限時間の縮減とは、労災認定基準とされる80時間に6ヵ月を掛けて、通常の36協定上限45時間×6ヵ月を足すと年間750時間です。このような長時間労働をさせたら過労死がいつ起きてもおかしくないので、それ以上仕事はさせないというものです。
  インターバル規制というのは、1週間における労働時間の上限規制をはかるものです。ですから、それとともに特別条項の見直しにより年間の労働時間規制もはかっていくことになります。つまり、短期での規制と長期での規制の両方をやっていこうということです。

②インターバル協定の締結状況
 インターバル規制を締結しているところは、KDDI労組、通建連合といって電柱をたてたり、電話線や光ファイバーケーブルを取り付けたりする会社が集まっている組合ですが、これらを含めて現在では15組合しか締結していません。情報労連の加盟組合は約300あるので、今後ますます協定を締結する組合が増えるように取り組んでいるところです。
  また、インターバルの時間は、本当は10時間を目指したいのですが、実際には7時間、8時間、8時間+通勤時間、10時間とかなりばらつきがでています。しかし、7時間であっても、7時間は確実に休息をとるということであれば最低でも6時間は睡眠がとれるだろうということです。ここから出発して、これ以上の時間を目指してさらに取り組みを進めていきたいと思っています。
  しかし、このインターバル規制を進めていくうちにわかったことは、病院や工場などの連続勤務が必要な職場では、8時間以上のインターバル確保は難しいということです。いわゆる交代制勤務のところでは、8時間労働の3交代で、24時間体制をとっています。その場合、8時間働いて休息を取らせるとなると、その次の休息がとれなくなる可能性があります。具体的には、午前8時から8時間の労働をしたとします。昼休みを1時間取ったとして、終業時間は午後5時となります。次の勤務の人は、引き継ぎなどもあり、午後4時から勤務に入り、夕食時間を1時間取って午前1時まで勤務します。その次の人は、夜中の0時から勤務に入り、やはり1時間休憩を取って、午前9時まで仕事をします。こういう働き方が交代制勤務です。こういう働き方では、基本的には連続とならないようにしますし、通常は朝からの勤務の人が夕方に終業後、深夜からの勤務に入るということもしません。しかしながら、年次有給休暇を取得する人が出たり、病気で休んだ人が出た時などは、夕方終業した人が深夜からの勤務に入るという必要性も出てきます。こうした時に、インターバル規制があると難しくなってしまうということです。
  情報労連ではこうした勤務体制は少ないですが、こういうところも含めて、私たちは取り組みを進めているということをご理解いただければと思います。
   ご清聴ありがとうございました。

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