埼玉大学「連合寄付講座」

2010年度前期「働くということと労働組合」講義要録

第2回(4/21)

働く現場・地域での取り組み①
働く現場で今何が問われているか~連合の雇用政策を提起する~

ゲストスピーカー:團野 久茂(連合 副事務局長)

1.はじめに~雇用政策の変遷

 今日は、連合の雇用政策をテーマにお話ししますが、まず、これまでの経緯について、日本の歴史を振り返りながら、お話していきたいと思います。
 日本は1945年8月15日に終戦を迎え、その後占領軍によって、様々な制度改革が行われました。その一端である労働改革によって民主的な労働組合の組織化が進みました。また、国家予算の3分の1に相当する額がアメリカから資金投与されたと言われていますが、それによって産業設備の近代化が進み、日本は成長時代に突入していきました。
 1955~1984年は黄金の30年といわれています。1955年に春闘が始まり、1960年に成立した池田勇人内閣が、実質国民所得を10年間で2倍にするという「所得倍増計画を打ち出して、ものの見事に所得はあがっていきました。その後に出てきた田中角栄内閣は、高度成長で生みだされた成果を公共投資という方法で各地方に配分して、それにより日本は、世界でも例をみない格差なき経済成長を実現しました。「1億総中流と言われたのがこの時期です。1985~1989年の5年間はある意味ではピークでした。
 それが崩れはじめたのが1987年頃です。急激な円高による不況を防ぐ目的で行われた、政府の金融緩和政策と減税の結果、余剰資金が日本の土地投機に回りました。そこで土地バブルが起き、そのバブルが崩壊したのが1991年です。1990年代の平均経済成長率は0.75%で、1%に満たない成長しかできませんでした。
 続いて、2001年4月から小泉純一郎政権が始まります。「構造改革なくして景気回復なし」という合言葉のもとで、竹中平蔵氏を経済財政政策担当大臣に起用し、新自由主義の考えに則った新しい成長戦略で突き進みました。2001年から5年間の平均経済成長率は、実質2%の成長を遂げましたが、2008年に起きたアメリカのスーパーバブルの崩壊によって、マイナス2%に逆戻りしてしまいました。結局、2010年まで「失われた20年が続いてしまったという状況です。
 こうした一連の流れの結果、1990年代から雇用が相当壊れました。1973年以前の失業率はほぼ1%でした。それが1980年初めに2%となり、80年代後半から3%になり、2000年代に入って4%にあがっていきました。現在は4.9%です。バブル崩壊前までは、いわば完全雇用状態で、人並みに頑張って人並みに働くなら、生涯のライフビジョンを描くことができました。つまり、雇用が最大の生活保障になった時代でした。ところが、今はそうではなくなってしまったということです。
 1995年に、今の日本経団連の前身である日経連が「新時代の日本的経営」という提言を出しました。それは、経営者自らが、それまでの長期勤続雇用を崩壊させる考え方を打ち出したものでした。その一つが、雇用を「長期蓄積能力活用型グループ」「高度専門能力活用型グループ」「雇用柔軟型グループ」の3つに切り分けるという考えかたです。これをきっかけにして、非正規労働者が増大しました。したがって、それを支える仕組みを作り直さなければならないのが現状です。

2.労働者をとりまく現状の把握

(1)内部労働市場

 では、正規労働者と非正規労働者の数はどのように変化したのか、少し詳しく見てみます。労働者派遣法が施行されたのが1985年です。当時は約15%ほどだった非正規労働者が、1995年には約1000万人(20.9%)、その後700万人増えて、2008年には1760万人(34.8%)に達しています。雇用労働者の約3割超という状況になっています。
 これを労働市場という側面から見ると、日本は内部型労働市場といわれていて、会社に入ると、たいていの人は定年までその会社で職業生活を全うするというシステムがあります。企業の教育を受けて知識を蓄積し、経験を積みながら能力を伸ばし、それに合わせて賃金も伸びていくシステムです。これは極めて日本的な市場であるといえます。たとえば、ヨーロッパでは仕事で労働契約を結びますから、職種で賃金も決まります。280種類くらいの職種別賃金があります。それに対して日本の場合は、会社に入るという契約をしますが、何の仕事をするかという契約はしません。今、そのような労働市場で働く人たちが3割失われたということです。
 また、日本は企業毎に正社員の労働組合をつくってきました。この40年間、そうした企業別労働組合が会社と交渉することで、賃金や労働条件が決められてきました。しかし、非組合員である3割の非正規労働者はそうした労使交渉の結果が適用されず、あるいはそもそも交渉の対象とならず、極めて労働条件が悪いままになっています。ここに大きな課題があるといえます。

(2)賃金・労働条件

 現在、非正規労働者では、年収200万円に満たない人たちが1000万人を超えています。また、生活保護の受給者は約180万人、世帯数では約150万世帯です。これが、現在ほぼ固定をしています。階層的にも固定化し、賃金の二極化が始まっているのが現状です。
 雇用労働者全体の平均賃金は、1997~2008年にかけて下がっています。これを企業規模別にみると、大企業では賃金水準が維持できていますが、10~99人の中小企業では、10年間で賃金水準が下がっています。
 年収分布をみると、年収200円以下の人は全体の23.3%でした(2008年)。200万~400万円の層は33.3%です。つまり、年収400万円以下の層が雇用労働者全体の56%程度です。これが今の年収の実態です。 
 次に、労働時間ですが、1995年には、企業規模500人以上のところが一番短い月間総実労働時間で、企業規模が小さいほど、労働時間が長くなっていました。しかし、1995年を境にして、全く逆転をします。規模が小さくなればなるほど、月間総実労働時間が短くなっています。これには様々な原因がありますが、大きな原因としては、大企業に比べ中小企業の方が、非正規労働者の割合が多いことがあげられます。その結果として労働時間が短くなっているということです。
 それから、この10年間のマクロの分配の動きですが、1997年を100としたときの2008年の民間法人企業所得は154になっています。これに対して雇用者所得は97です。これは企業に利益が出ているにもかかわらず、労働者に配分が行きわたっていない状況を表している数字です。
 さらに、大企業の付加価値分配の推移をみると、2001年を100とした場合の2008年1社あたり配当は297.7、1人当たり役員報酬は118、それに対して1人当たり人件費は74.6です。企業が収益をあげて、株主への配当を増やしている一方で、1人当たり人件費が下がっているということは、1人当たりの付加価値生産性は伸びているにもかかわらず、労働者に対する配当が下がっているということです。ここに大きな問題があるといえます。

(3)若者の雇用問題

 これまでの日本は、学校を卒業して就職をすれば、人並みの生活が送れるという状態でした。しかし、現状は、雇用が不安定で収入も非常に低い非正規労働者が増えています。1990年代初頭は、ある意味で現在と非常に似ています。若者が大学や高校を卒業してもなかなか就職ができない時代でした。そういう若者たちが、非正規労働者やアルバイトとして働きました。労働単価は、月給ではなく時給で決まっている状況です。
 そういう人たちが、今は40歳位になっています。たとえば、私の息子ももう30歳を超えていますが、寿司屋で非正規として働いています。親に稼ぎがあり、同居していれば、そうした働き方でもあまり問題はないかもしれません。しかし、私がリストラされたり、病気などで働けなくなったりすれば、息子は完全にワーキングプアになります。そういう非常に身近な話題になってきます。

 以上のように、この20年で、雇用と労働が非常に傷んだということがおわかりいただけたと思います。こういう状況から、雇用労働をどのように再生をしていくかということが今、連合につきつけられている課題だと思っています。

3.これからの連合の方向と取り組みについて-基本的考え方

(1)多様な働き方を前提とした制度設計

 今までは、男性が外で働いて、女性が家で家事・育児を担うという分業型の男性片働きモデルが日本の典型的なパターンでした。税金も社会保険等の各制度も、それが前提で組み立てられています。しかし、今後これらを全て変えなければいけません。すでに、1997年には共働き世帯数が片働き世帯数を上回っています。今後は1人稼ぎ型ではなくて、2人稼ぎ型のモデルをつくらなければいけないと思います。
 ただし、全部どちらかにしなければいけないということではありません。1人稼ぎ型モデルもあれば、2人稼ぎ型モデルもあるということです。あるいは、1人が正規労働者で働き、もう1人が非正規で働く、両方正規雇用で働く、両方非正規雇用で働くというように、いろいろなパターンがあると思います。大事なのはそれぞれの働き方を選んだときに、それを支えていける仕組みや、そのための制度設計が必要であるということです。
 また、今は、働き方だけでなく収入も多様化してきています。要するに、1995年の「新時代の日本的経営の中で経営側が打ち出した考え方が、そのまま現代の実態になっているのです。ですから、この多様な働き方を支える様々な仕組みを作っていく必要があり、ここに今の課題があると私は認識しています。

(2)新しい社会保障制度の設計

 これまでの社会保障は、失業しても、雇用保険から失業手当を給付されている間に再就職することが最大の前提でした。そのため、雇用保険というセーフティネットからはずれると、すぐに生活保護という道しかありませんでした。そこで、連合は、この中間に第2のセーフティネットをつくる必要があると政府に要請し、今後、そうした制度が整備される見通しになっています。
 第2のセーフティネットとは、失業手当の支給が切れても、すぐに生活保護を受けなくても済むように、生活に必要な給付を受けながら、職業訓練を受け、再就職できるようにサポートするシステムです。今政府に要求しているのは、これを恒久的な制度として実施させることです。
 雇用政策では、就労を促進する積極的労働市場政策が重要になっています。また、育児や再教育のための一時的な就労中断を支える生活保障も必要です。育児期間中も働き続けたい人もいるだろうし、育児のために一時仕事を中断して、再就職したい人もいると思います。現状では、退職せずに一時休職できる育児休業制度はありますが、一旦退職して、もう一度再就職しようとすると、もとの職業や収入と同等の仕事にはなかなか就けないのが実態です。いろいろな生活パターンであっても、もとの職業や収入に近い賃金が得られるようなシステムをこれから作っていく必要があると思います。
 連合は、10年前の結成10周年の時に、21世紀のめざすべき社会像として「労働を中心とした福祉型社会を目標にかかげました。この考え方を少し説明しますと、全ての人に働く場所を保障し、賃金や労働条件などが社会的に公正な基準で張り廻らされて、労働災害や失業、老後に対するセーフティネットが組み込まれている、そして男女が対等な構成員として活躍できる社会をめざしたいということです。
 その理念として3つあげています。1つ目は、ともに責任を担うべき社会をめざしていこうということ。2つ目は、自らの仕事に誇りを持って、次世代に受け継いでいく社会をめざすこと。3つ目は、仕事と生活を調和させることで、自らの人生観を大事にできる社会をめざすことです。これらの理念を大切にしながら、私は雇用と社会保障をもっと結びつけて考えていかなければいけないと思っています。
 今まで日本の雇用政策は、主に失業対策が中心でした。しかし、これからの社会は、様々な就労をとおして、働くことを希望する人が全員社会に参画をしていく、そして、共に支えあっていくということが求められます。したがって、そうした様々な働き方を支える仕組みを考えていく必要があるというのが、雇用・労働政策の基本的な考え方です。

3)具体的な取り組み

①均等・均衡処遇の確立

 具体的には、2つのことが非常に大切だと考えています。1つは、均等・均衡処遇に裏付けられた雇用と労働条件をいかに確立していくかということです。均等・均衡処遇が大切だと言われていますが、具体的にどのようにアプローチし、実現するのか、まだ整理されていません。連合としては、これを至急整理して、均等・均衡処遇に裏付けられた取り組みをスタートしていきたいと考えています。今、専門家である大学の先生方とともに、研究をすすめている途上ですが、来年の春闘までに、賃金部分についての具体的な取り組みを打ち出すことをめざしています。

②最低賃金の引き上げ

 もう1つは、最低限の生活の底支えをする最低賃金です。最低賃金は、地域別にその額が決められています。東京は1時間あたり791円で最も高く、最低は沖縄の692円です。全国平均は713円ですが、この額は低すぎます。たとえば、時給700円で1ヵ月平均165時間働いたとすると、賃金は約11万円で、年収では150円程度と極めて低い数字になります。今、高卒の初任給は15万~16万円位ですから、最低限この金額まで引き上げることが必要です。連合では、最低賃金の全国平均を1000円に引き上げることをめざしています。
 これに対して、経団連は真っ向から反対しています。生産性が上がらない状況で、収益もあがらないなか、時給をあげれば、中小企業はつぶれてしまうというわけです。しかし、この2007~2009年の3年間で最賃を40円上げましたが、この間の零細企業の平均賃金水準は下がっています。最賃を40円上げても賃金水準が下がるということは、企業にとって負担は増えていないということです。したがって、私としては、企業の負担に直接つながるレベルまで最賃をあげる必要があると思っています。真っ向から経営側とは対立していますが、なんとか合意にこぎつけたいと考えています。

③春闘体制の改善

 2009年から春闘そのもののやり方も変えました。従来は、基本的に産業別組織を中心に取り組んでいましたが、昨年から産業基盤の共通する組織を5つの共闘連絡会議に分け、それぞれで交渉するスタイルにしました。その上で、産業別組織から個別企業ごとの賃金データを連合に出してもらい、それを基にして、連合が働き方別に賃金水準を作るという方向にしました。そうすることによって、多様な働き方における均等・均衡処遇を実現させたいと考えています。

④職業能力開発の充実

 もう1つは職業能力開発の問題です。日本の社会では、小中、高校、大学と学び、卒業後にそれぞれ就職をするのが一般的な形です。しかし、皆さんが学校で勉強したことが会社ですぐに役立つかというと、そうではありません。学校で学ぶのは基礎教養としての学力であり、その意味で優秀な学力を持った学生のみなさんに企業に入ってもらって、企業のなかで職業教育をし直すシステムになっています。
 つまり、これまでの社会は、企業が社会人としての人材教育を担ってきました。しかし、現在はこうした企業内教育がなかなか難しくなってきています。連合としては、企業に企業内教育を続けさせると同時に、公的な職業訓練も充実させていく必要があると考えています。具体的には、独立行政法人雇用能力開発機構や、国や地方自治体の公的職業能力開発機関の活用です。

⑤労働力不足時代への対応

 今、日本は就職がなかなかできないと言われていますが、近い将来、労働力が非常に不足する時代が来ます。現在、1人の女性が一生の間に生む子どもの数を表す合計特殊出生率は1.37です。このまま推移すれば、2100年には日本の総人口は今の2分の1になります。したがって、技術・技能を持っている外国の人たちに、日本で働いてもらわなければなりません。そのために、今のうちにそれに対応できる労働条件を整えておかないと、誰も来てくれないということになります。将来に向けて、魅力ある働き方を継続できる国にしていかなければいけないと、我々は考えています。
 そういう意味で、産業政策に裏打ちされた様々な雇用創出にチャレンジしていかなければいけないと思います。日本では現在、ものづくり製造業は全体の産業構造の25%です。ドイツも約25%ですが、10年後には10~15%に減少するとみられています。しかし、日本はものづくり製造業が得意分野ですので、産業構造的な比率は下がるかもしれませんが、生産量では2倍に上がるだろうと思っています。
 そのように、日本は自分たちの得意分野で成長を支えて、また新しい産業を創出し、様々な分野で産業を起こして、活力ある社会を作っていく方向を考えています。そして、そのなかで、雇用・労働条件をきちんと確立していこうということです。

4.今後取り組むべき課題について

 以上、これからの連合の方向と取り組みについて大まかな考え方を提起させていただきました。このことを踏まえて、現行制度に対する問題提起をしたいと思います。

(1)子ども手当と教育費補助

 日本では、これまで子育てや教育にかかる公的支出は、諸外国に比べて低い割合となっていました。つまり、そうした費用は、子どものいる人が主に賃金の中から個別に負担していたといえます。今回の子ども手当は、これを国の公的給付として、次代を担う子どもの成長を社会全体で支えていく方向に変えることを意味しています。
 教育の無償化も、基本的には正しい方向であると思います。ただし、なにゆえに高校・大学の教育費を公費で支払うのか、もう一度立ち返る必要があると思います。たとえば、日本の大学教育は文科系の割合が非常に高くなっています。学校における教育も基礎教育を高めることは当然必要ですが、将来社会に出て、職業を選ぶときに職業に直結するような教育も必要なのではないかと考えています。そういうことも含めて、考え方を整理し、議論していく必要があるのではないかと思います。

(2)3層の雇用セーフティネット

 先ほども説明しましたが、3層の雇用セーフティネットとは、「雇用保険」「求職者支援制度」「生活保護」という3つのセーフティネットを階層化したものです。連合では、世界金融危機の時に、第2のセーフティネットとして「求職者支援制度」を政府に要請し、創設してもらいました。これは、職業訓練期間中に、最大10万円の就労・生活支援給付を支給するものです。ただし、3年間の時限的な制度となっていますので、これを恒久化していくことを求めています。
 また、雇用保険(失業手当)の受給期間が終わった後も、たとえば失業給付という形で長期間にわたって給付するケースが考えられます。ヨーロッパなどはきちんとこの部分が整備されています。こういうことも含めて検討を行っていく必要があると思います。
 また、第3のセーフティネットである生活保護についても、母子家庭の問題があります。働きながら子どもを育てているシングルマザーの人たちの中には、生活保護水準よりも収入が低い場合があります。このバランスをどう考えるか、矛盾をどう解消したらよいか、ということです。
 働かない人が得をする社会は、極端にいうと異常な社会です。これは最低賃金についても言えることです。今、最低賃金の水準は生活保護よりも低く、働いている人よりも生活保護給付の方が高い場合があります。これは2年前に最賃法を改正した趣旨でもありました。こういうところも解決しなければならないと思っています。

(3)非正規労働者の待遇改善

 今、労働者派遣法改正案が国会に提出されています。改正案では、登録型派遣は、専門26業務以外は原則禁止、日雇い派遣や製造業派遣も原則禁止となっています。年越し派遣村等により労働者派遣が様々な問題を抱えていることが露呈しましたので、そういう背景から、今回の法改正につながったということです。
 登録型派遣は、専門26業務に限りOKという形になりますが、処遇は低いままです。また、派遣事業は役所に届け出れば誰でもできますので、悪質なブローカーも出てきます。たとえば、派遣先企業と派遣元企業が時給1800円で契約したとしても、派遣労働者本人には1200円しか払わない。また、本来ならば、派遣元企業が派遣労働者の社会保険料を半分負担しなければいけないのに、負担していないというケースも出ています。そういうことを防ぐ意味でも、事業を届け出制から許可制に変えるべきであると思います。
 それから、労働組合がもっとしっかりしなければいけません。今年の春闘でもそういう方向で打ち出しますが、派遣労働者の受け入れにあたっては、きちんとした労働条件になっているか、企業側がきちんとチェックしたうえで労働組合に報告をしてもらう。それがなければ、我々労働組合は派遣労働者の受け入れを拒否する。そのくらいの機能をもたないと労働組合としての役割が果たせないと思いますので、そのような対応をこれからしていきたいと考えています。

(4)年齢差別と新規学卒一括採用システム

 募集採用に関しては、すでに年齢差別禁止の規制があります。しかし、就職氷河期世代の若者の多くが非正規雇用になった後、なかなか正社員のコースに入り込めないのは、やはり、今でも新規学卒一括採用が正社員採用の慣行となっているからだろうと思います。
 毎年4月に新卒学生を一括採用するのが日本企業の慣行です。そのため、就職できなかった新卒の人たちが一旦非正規労働者になり、いずれ正社員として再び就職したくても、企業の方では嫌がるわけです。したがって、連合では、緊急対応として、不幸にして新卒で正規採用されなかった人たちを教育して受け入れるシステムを、至急作ってほしいと、政府に申し入れています。そして、頑張った人たちが正社員として就職できるような制度を作ってくれということも申し入れています。
 今のような状況を考えると、新卒は4月の一括採用だけではなくて、通年採用に切り替えていく必要があるだろうと思います。また、海外から人材を受けいれたいと思っても、諸外国の大学卒業時期は日本と違いますので、新卒での採用は難しいということになります。そういう意味でも、通年採用に切り替えていく必要があると思います。

(5)労働政策決定システムと三者構成原則

 最後に、労働政策決定システムと三者構成原則について、申し上げておきます。雇用と労働にかかわる分野においては、政労使の三者構成で話し合うのがILOの大原則となっています。連合としてはここを大変重要だと考えており、政府が企業と癒着をして、自分たちのやりやすい方向にもっていかせてはいけないと考えています。
 2001年の小泉政権では、経済財政諮問会議において、新自由主義の考えに則り、様々な雇用政策を打ち出しました。そこでは、労働組合は全く排除されました。政府、企業、新自由主義的な考え方をもった学者だけを登用し、決定をしてしまいました。それが今の状況をもたらしているわけです。
 したがって、雇用労働政策にかかわる分野においては、政労使が参加をして審議をして決めていくという大原則を、あらためてきちんと確立していく必要があると思っています。多様な働き方や多様な価値観に対応するためには、審議会で様々な課題を議論する必要があります。今後は、労働組合だけではなくて、NGOやNPOなどの様々な団体もそこに参加し、議論をして、決定するシステムがますます必要になってくるだろうと思います。それが、今後の社会運営にとって非常に重要であると思います。

以上

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