(岡部 謙治 教育文化協会理事長)
1.寄付講座開設の目的
連合寄付講座は、働くこととはどういうことなのか、労働組合とは一体何なのかということを、大学生の皆さんにぜひ知ってもらおうという目的で開設したものです。毎回の講義の中で、今日本の労働組合の第一線で活動し、その仕事を担っている役員の人たちが、今の労働者をとりまく状況や、あるいはその状況の中で労働組合がどういう取り組みをしているのか、いろいろな角度から皆さん方にお話をします。ぜひ、この講座を通じて、労働運動や働くということが、人間にとって一体どういうことなのかということを考えていただければと思います。
2.連合とは
今日は第1回目ということで、まず、連合という労働組合について簡単に説明させていただきます。日本の労働組合は、企業別労働組合といわれるように、その企業で働いている人たちで労働組合を作っています。そして、それらの企業別労働組合が、同じような業種・産業で集まって、産業別組織があります。さらに、その産業別組織が1つのところに集まって、労働組合の全国中央組織が作られています。これをナショナルセンターといいますが、それが連合です。つまり、連合というのは、日本の労働組合の全国中央組織ということです。
なぜそういう仕組みになっているのか。労働者というのは、一人では弱いものです。労働組合の使命は、一人では弱いから皆で集まって団結をして、賃金や労働時間、休日や、あるいは職場の労働安全衛生の問題を、強い力を持つ経営者と対等に交渉して、改善を実現していこうというものです。
しかし、たとえば、月給、ボーナスなどを一社で決めようとしても、なかなか十分な成果が得られません。また、賃金を要求どおり獲得できたとしても、物価が高くなれば意味がありません。それから、賃金からは税金や社会保険料が引かれていきます。こうした年金や医療などの社会保険料や税金は、法律で決まっていますので、経営者に下げてくれといっても無理なことです。つまり、そうした制度・法律に対して労働組合がきちんと発言し、働く者にとってよい条件をとっていく必要があります。そういう中で、企業別の労働組合から産業別の労働組合へと結集し、その産業別労働組合が集まってナショナルセンターを作って、政府、政党、経営者の団体に交渉をしていく。こういった総合的な力を持とうとしている。それが労働組合の仕組みということです。
産業別労働組合と企業別労働組合の違いをイメージ的にいいますと、たとえば、自動車会社のトヨタ、日産、ホンダ、三菱などには、それぞれの会社の中に労働組合があります。これを企業別組合といいます。そして、これら自動車産業の企業別組合が集まって、自動車総連という産業別組織を作り、産業全体に関わることに対応しています。このほかにも電機、運輸、電力、サービス・流通、公務員の組合など、それぞれに産業別組織があります。それらの産業別組織が集まって作っているのが、ナショナルセンター・連合です。
3.連合の活動を支える3つの関係団体
このように組織された連合ですが、その本体だけでは不十分なわけです。政策面の研究や、労働組合や労働運動の普及を目的とする関係団体を、連合は3つ作っています。
その一つは、連合総合生活開発研究所(連合総研)です。これは、連合のシンクタンクとして、経済・社会・産業・労働問題など、幅広い調査・研究活動を進めています。最近では非正規労働者の労働条件の在り方などの研究をしています。
二つ目が、国際労働財団です。主に、途上国の働く皆さんの支援を行っています。最近では、労働安全衛生問題の改善に力を入れています。また、途上国では、家族のために児童が働かなければならないという状況がまだまだ残っており、そういう子どもは学校にいくことができません。そのために、そういう子どもたちに対する学習教材の提供や、現地で教育ができるような支援などもしています。
三つ目が、本講座を主催している教育文化協会です。ここでは、日本の労働運動の次のリーダーを養成するためのRengoアカデミーという研修や、絵や書道、写真、俳句、川柳の分野で働く人とその家族のための文化展なども行っています。また、日本の労働運動を考えるということで、「私の提言」として、毎年1回論文を募集しています。皆さんもぜひ応募していただきたいと思います。
この連合寄付講座は、教育文化協会の活動の大きな柱の一つです。大学生の皆さんに、寄付講座という形をとおして、労働組合や労働運動について学んでいただき、連合がどういう組織で、どのようなことやっているのか、紹介をしていきたいと考えています。
今後の講義を通じて、ぜひ、働くということについて十分考える時間にしていただきたいと思っております。
1.労働組合と何か
禹:これから、労働組合とは何かということを、労働組合の役割に絞って、岡部さんと対談をしながら皆さんに伝えていきたいと思います。
今、若い人たちには労働組合は身近な存在ではないかもしれませんが、岡部さんがお若いときは、組合がもっと身近な存在だったのではないかと思います。最初に、どのようなきっかけで労働組合にかかわることになったのか、お聞かせください。
岡部:私は1972年に大学を出て、福岡県の中間市役所に就職し、自治労という、地域の公共サービスに携わる人たちで作る労働組合の役員になって、最終的には労働運動を仕事にしてきましたが、最初からこうなると考えていたわけではありません。
私が市役所に入り、最初に配属されたのは市立病院の事務職員です。当時は、急患の患者に備えて、事務職員にも宿日直がありました。宿日直の時に、夜中に緊急で運ばれてくる患者の容態と待機している医師の専門が合わない場合には、診察してもらえる他の病院を片端から何軒も電話で探し回る、ということを毎晩のようにやっていました。そのうちに、これは医師やスタッフの個人的努力ではどうにもならないことであり、制度としてきちんとしなければならない、と思うようになりました。
その頃、自治労という労働組合が、全国の病院で同じようにこうした努力をしている人たちを集めていました。1976年頃は、全国的に救急病院のたらい回しが頻繁に起こっていて、社会問題化していました。そのような中、千葉県木更津市で25回病院をたらい回しになった揚句、青年が亡くなったという事件が起きました。その時自治労は、「これは運が悪いとか、やむを得なかったということではない。行政が医療受け入れ態勢をきちんと整備すれば防げたし、防がなければいけない」ということで、国を相手取って訴訟を起こしました。原告は亡くなった青年の両親でしたが、その父親が福岡県の職員組合の組合員だったこともあり、当時大変な反響をよびました。マスコミもとりあげましたし、自治労もキャンペーンをうっていましたから、当時の厚生省も、ついにこれに対して改善しなければいけないということになりました。
その結果できたのが、一次~三次の救急医療体制です。一次救急というのは、休日夜間診療所で、二次救急は、手術や入院が必要な場合に対応ができる救急体制です。そして、三次救急は、命を争う場合や、非常に高度な治療を要する場合に対応できる救急体制です。これを都道府県単位でつくることを制度化して、今日に至っています。
こうした、私たちが生きていくうえで必要な社会の仕組みを作っていくことを実現できるというのが、私が自治労運動に入っていった大きな理由です。
2.労働組合の存在感が薄れている原因は何か
禹:今のお話を聞いて、企業相手に交渉するのが労働組合であるというイメージだったのですが、少し違う側面があるということがわかりました。それはまたあとで話をさせていただきたいと思います。
それでは、これは皆さんとも議論をしていきたいことですが、今の若い人たちは、連合とか組合についてあまりよくわからないというのがふつうの現実だと思います。でも、今のお話では、組合はすごく存在感があるように思われます。今の若者たちにとって、あるいは今の社会にとって、労働組合の存在感が薄くなっている理由は何だと思われますか。
岡部:存在感の薄さは、数字の上でも出ています。全国の労働者に対して、労働組合員が何人いるかということを表した数字を、組織率といいます。実はこの数字が低下してきています。日本の労働組合というのは、1945年の第二次世界大戦後、日本社会の民主化を目的に、当時の占領軍GHQが、労働組合を積極的に作っていく奨励策をとりました。それにより、戦後続々と労働組合が誕生して、当時の労働組合の組織率は約45%でした。それが、残念ながらだんだん低下をしていき、現在では約5,500万人の雇用労働者の中で、18.5%しか労働組合を組織できていません。この20%を切っている組織率の低さが、労働組合の存在感を薄くさせている非常に大きな理由だといえます。
何故そうなったかは、様々な理由があると思います。しかし、私たち自身が反省しなければならない点から見れば、戦後日本が高度成長を遂げて復興していき、重化学工業からサービス部門へと産業が変化していく中で、正社員を中心に労働組合を組織していったという経過があります。しかし、今は労働者の3分の1が非正規労働者という働き方になっています。そのような労働者の雇用形態の変化や非正規労働者の処遇に対して、連合が十分に取組めなかったという反省点があります。
禹:埼玉大学はある程度恵まれているほうですので、皆さんは社会に出ると正規社員として就職をして、組合員になる可能性が高いと思います。ただ、正規社員になれるといっても、組合の存在感が高いかというと、必ずしもそうではありません。この間、雇用情勢は非常に厳しくなっていて、皆さんの働き先は非常に細くなってきています。また、正規を含めて労働者の賃金を見ましても、ここ数年はずっと停滞、もしくは低下している状況もあります。このように、非正規も含めて労働者全般の労働条件が芳しくない状況にあるわけですが、これを改善するために連合ではどのような政策を考えておられるでしょうか。
岡部:今、大学生の就職内定率は80%くらいでしょうか。また、社会の中では非正規労働者と言われる人が雇用労働者のうち3割以上となり、特に若い人の比率が高いという状況があります。これに対する取り組みをお話しする前に、なぜそういう状況に日本社会が至ったのか、ということを考えていく必要があると思います。
現状を指して、「100年に1度の危機だ」とよくいいます。とりわけ、経営者側から100年に1度の危機だから辛抱してくれという言い方をされます。何か100年に1度といいますと、自然災害のように天から降ってきたような言い方をされるのですが、果たしてそうなのかと思うわけです。
戦争が終わって60数年たちますが、製造業だけを見ても、先進国では、戦後目覚ましい発展を遂げてきました。とりわけ、ヨーロッパでは、戦後30年のあいだに福祉国家を建設してきました。日本もそれに倣ってかなりのところでそれを実現してきました。そして、それを支えていたのは、重工業でした。石油を産業の中心とする重工業によって、大量生産、大量消費が経済の活力となって社会を支えていきました。
その当時の日本社会の働き方と社会の仕組みをみると、行政が政治と一緒になっています。極端な言い方をすれば、官僚と族議員が一緒になって、企業や業界を保護していく。そして、企業や業界が、男性稼ぎ主を雇用して、その雇用された男性稼ぎ主が、妻や子を養う。これが日本の高度成長からつい先日までの社会の仕組みです。このことは、間違いなく日本を発展させてきましたし、生活の安定をもたらしてきました。しかし、産業構造の変化によって、そういったことが崩れてしまったわけです。
どういうことかといいますと、たとえば、日本的経営の特徴といわれる正社員・長期雇用が、グローバル化の中で維持できなくなる。また、国や地方自治体といった行政側も、これまでのように、公共投資をして地域雇用を支えていくことが、財政悪化のためにできなくなっています。そして、男性稼ぎ主中心の働き方において、女性の社会進出が余儀なくされる中で、正規・非正規という雇用形態へと変わっていきました。こうした中で、経営者は、経営が苦しくなり、産業構造が転換し、さらに、グローバルな競争の下、少しでもコストを安くしようという努力をしていくわけです。
そういった中で、働き方に大きな変化があります。その表れとして、1995年に日経連が出した「新時代の日本的経営」という報告書です。そこでは、それまで日本社会を支えてきた正社員で長期雇用という基本的な方式を変え、今後は「長期蓄積能力活用型グループ」「高度専門能力活用型グループ」「雇用柔軟型グループ」という3つの働き方に分けていこうということを打ち出しました。その3番目の「雇用柔軟型グループ」として、非正規労働者が膨大に出てきました。報告書が出る前の1986年には労働者派遣法が制定されて、企業はいつでも派遣労働者を使うことができるようになり、1999年にはその派遣法の規制がさらに緩和され、原則全業種へ派遣可能になりました。その結果、派遣労働者が増加していきます。このような流れの中で、格差社会というものが登場してきたのです。
雇用の滞留、賃金の停滞が格差社会という形で非常に顕著になってきたため、連合では、その格差を是正していこうということで、4年前から格差社会をなくすキャンペーンに取り組んでいます。
禹:私自身、この間トヨタ、ホンダ、日産とか、自動車産業について少し調査したことがあります。今はトヨタも赤字になっていますが、リーマンショック以前は自動車会社の収益率は非常に高かったのです。それにもかかわらず、賃金などはあまり上げていない。逆に、労働分配率が下がってきています。
これはある意味、企業は儲けているのに、労働者側には分配されていないということで、公平に分配するという大原則が守られていないのではないかという疑問があります。つまり、労働者が不利になってきたということになると思いますが、組合では、この分配率を戻していくということに対して、何か策がありますでしょうか。
岡部:2002~2007年の間は、まだ景気が拡大している時期でした。本来ならば、労働者の賃金を上げていって、内需を拡大し、経済発展を促していくという政策が取られてしかるべきなのですが、残念ながら日本では、その時それとは逆のことが行われました。労働者に対する待遇が下がっていく一方で、株主への配当や経営者に対する報酬金は、反対にどんどん上げていくといった策がとられていたわけです。
そこで、私どもは、先ほどいいました格差社会をなくすキャンペーンで、不公平な労働の在り方を是正していくべきだとして、「ディーセントワークの実現」を訴えました。ディーセントワークとは、「働きがいのある人間らしい仕事」ということです。たとえば、今、正規労働者の年収は平均300万円以上ですが、非正規労働者の半分が年収200万円以下です。こういった不公平・格差をこのままにしておいていいのかということで、当然そこから手直しをしていかなければいけないわけです。
具体的には、最低賃金の引き上げに取り組みました。日本では1時間当たりこれだけは支払わなくてはならない、という最低限の賃金の額を地域ごとに法律で決めています。地域によって差がありますが、これを全国どこで働いても1時間最低1000円にしようと、この間取り組んできました。1000円にはまだまだ届いていませんが、それまで毎年1円とか2円しか上がらなかった最低賃金を、ようやく10円単位でアップさせることができるようになってきました。
禹:連合は民主党が政権をとった時には、最賃を1000円レベルまでにあげると言っていたわけですが、近いうちに実現可能性はありますか。
岡部:最低賃金は、2008年度は全国平均で16円、2009年度は平均10円引き上げられました。今、最賃はもっとも高い東京でも791円、全国平均では713円ですから、1000円にはまだまだ相当な距離があります。しかし、これは労働組合が主張し続けないといけないと思っています。
経営側は、最賃を引き上げると中小企業が潰れてしまうと言いますが、それに対しては、政府が何らかの支援政策を打つべきであり、1000円を目指すということに変わりありません。
3.ディーセントワークに向けての連合のビジョン
禹:今、格差社会と非正規の問題が出ましたが、最初にお話ししたように、皆さんが正規として就職したとしても、皆さんの将来がバラ色だとはいえません。先輩に聞いてみればすぐにわかると思いますけれども、意外に残業が多いとか、職場環境が厳しいなどいろいろあるのではないかと思います。若い人たちに今後保障するべきディーセントワーク、働きがいのある人間らしい仕事を求めて、連合はどのようなビジョンを持っておられるでしょうか。
岡部:今、禹先生がおっしゃったように、社会の中で働く人、特に若い人が、将来に希望が持てない、夢がもてないということが一番深刻だろうと思います。連合としては、若い人に限らず、全ての働く人たちが安心できる社会ということで、「労働を中心とした福祉型社会」を目指して、さまざまな取り組みを行っています。
「労働を中心とした福祉型社会」とは、働くこと・仕事を要として、そこに誰でもが参加できる、仕事に就けるという社会システムを作ろうということです。その実現のために、私たちは、社会の真ん中にあるべき〈働く場・仕事の場・労働〉に、誰もが行けるような「架け橋」を整備することを目指しています。
たとえば、十分な教育を受ける環境になかった人が、そのために就労にまで差がつかないような教育の保障。また、就労から一端離脱をしなければいけない場合には、休業補償が与えられ、新しい職に改めて就こうと思った時には、職業訓練や職業教育を受けられる制度。あるいは、病気をした場合には治療をする機会が与えられ、そして改めて就労の場につける、あるいはその機会にチャレンジすることができる等、こういう労働を中心とした福祉型社会を作りたいと思っています。
皆が本当に働きがいのある人間らしいディーセントワークな労働社会にするために、排除のない社会をつくることを目指しています。これを連合は「労働を中心とした福祉型社会」ということで、そのためのワークルールを整備していきたいと考えています。
4.労働組合は若者に役立つのか
禹:今のお話を前提にして、組合のバックアップもあって、民主党が高校の授業料無償化を実現したことは非常に大きなことだと思います。高校教育のレベルは、他の先進国に追いついたと思いますが、日本の教育費は先進国の中でも非常に高いです。そうであっても、頑張って皆さんが大学を出ても、本当にいい仕事に出会えるがまだわからない、ある意味厳しい状況にあるわけです。それを前提として、若い人たちに組合は、今後どのように役立っていけるでしょうか。そのビジョンを語っていただければと思います。
岡部:労働組合が、若い人に対してどのような役割を果たせるかということなのですが、その前に、私はぜひ、若い皆さんに働くということはどういうことなのかということを考えてほしいと思います。働くということは、もちろん生活の安定のために所得を得るという、大きな役割があります。しかし、それだけだろうかということです。観念的な話になってしまいますが、私は、働くということは「社会で生きる場」を見つけることだと思っています。
それはどういうことかというと、私たちは、仕事の場、家族あるいは地域で生活をする場、それぞれの場のところで、他者からの承認を得て、生きがいや生きていく意味を見出していくのではないかということです。つまり、他者からの承認ということがないと、人はなかなか頑張れないと思うのです。こういった生きる場を得るというのが、まずは働くということの意味だということを、ぜひ考えてほしいと思います。
姜尚中さんが2年前に『悩む力』という本を出されました。その中で働くことの意味について述べているくだりがあります。そこには、「働くということの一番もとになることは、社会の中で自分が認められるということではないか」ということが書かれています。つまり、社会というのは他人が集まってできています。そこで自分の存在が認められるということは、何らかの努力が必要で、その努力の証が「働く」ということではないか。そして、働く中で、あなたの存在というのを認められるのではないか、というように言っているのです。このことをもっとつきつめていくと、承認の眼差しを受けること、それは、他者からの承認の眼差しでもあるし、他者への承認の眼差しでもあるということを、姜尚中さんはおっしゃっているわけです。
皆さんにとって、働くことは自分の夢を実現するとか、自分の目的をかなえていくとかいうことも当然あるでしょうが、それは今述べたことがあって、はじめて出てくる話だと思います。
先ほど、私がなぜ自治労という労働組合の中で労働運動を始めたかについて、私の市立病院での体験の話をしました。私は当時の組合の幹部の人たちから、こういう運動をやりなさいということをあからさまに教わってやったわけではないのです。目の前にあることをなんとかしなければいけない、自分がそのことをなんとかしなければ、本当に誇りを持って働ける職場でなくなる、そのような自らの声からやっていたということが、労働運動につながっていって、それを職業とするということになったわけです。
皆さんは、これから大学を出て、社会で働かれると思います。その中で、管理職や経営者として自ら会社を起こされる人も当然出てくると思います。どういう生き方をしてもいいと思います。しかし、どういうところで、どういうポジションで働かれていこうとも、働くという原点を理解して、人生を生きていただけたらと思います。労働組合は、そういう豊かな社会をつくるためのいろいろな制度政策を提供していく、社会的パートナーとしての役割をもっているということを、皆さんに理解していただければと思います。
5.21世紀における労働組合の意義
禹:皆さんが卒業した後で考えてみればよくわかると思いますが、大学の授業内容はほとんど残っていません。しかし、今日の岡部さんの話は、皆さんが覚えておく非常にいい言葉です。ぜひ、受け取って皆さんのものにしてください。そうしたならきっと、皆さんが社会に出ていって働く機会を自ら発見し、他の皆さんから承認を得ながら楽しく生活することができるだろうと思います。
最後になりますが、これから、2010年代にはいるわけですが、存在感が薄れてきた組合を立て直すために今後どのようなものにしていくのか。その意義をぜひ皆さんの前でアピールしてください。
岡部:国連の機関であるILO(国際労働機関)に、1949年に採択されたフィラデルフィア宣言という有名な言葉があります。1つ目は、労働は商品ではない、2つ目は、一部の貧困は全体にとって危険である、そして、3つ目は、労働者と使用者の代表は、政府の代表と同等の地位において民主的な決定にともに参加するというものです。この宣言の意義は、今も全く変わっていないと思います。
この宣言は、第二次世界大戦が終息に向かっている時期に、二度とこのような戦争を起こしてはいけないということ、それと戦争の原因となる社会不安、それを引き出すような劣悪な労働条件、こういうものを地球上の全社会からなくしていこうということで採択された宣言です。この宣言から66年経ちますが、今の社会における新自由主義的な政策の中で、この宣言が実現できているとは決して言えません。したがって、この宣言にあるような社会を作っていくということが、労働組合の大きな仕事であると思います。
社会は、政労使という三本の柱によって支えられているといえます。その柱の1つである労働組合が、働く人たち、あるいはこれから働こうとしている人たちの期待にこたえるような取り組みをしていかなければならないと思っています。
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