埼玉大学「連合寄付講座」

2009年度前期「ジェンダー・働き方・労働組合」講義要録

第8回(6/17)

小まとめ・パネルディスカッション

パネリスト:片岡千鶴子(連合男女平等局長)
篠原淳子(連合生活福祉局長)
八野正一(日本サービス・流通労働組合連合事務局長)
コーディネーター:禹宗杬(埼玉大学経済学部教授)

1.これまでの講義の振り返りと補足、質疑について

禹先生:きょうのパネルディスカッションの進め方についてお話しします。まず、ゲストスピーカーの皆さんから女性の働き方や男女平等参画についての意見を述べていただきます。
  そして、これまでの7回の講義で皆さんから出された意見や質問に答えながら議論を進めていきます。そして、最後には、きょうの議論を含め、皆さんからさらに深い質問や議論をいただきたいと思います。
 まず、八野事務局長からお願いします。

八野事務局長:私からは「均等・均衡待遇の実現」について講義をさせていただきました。講義の後、質問票を拝見させていただきましたら、かなり鋭い質問がありました。みなさんも勉強されていたり、ご家族の中で、パートタイマーや契約社員で働いている方がいらしたり、また自分たちがそうであったりと、多くの質問をいただきました。
  私はある百貨店の事例を取り上げ、この会社にはフルタイマーと契約社員とパートタイマーがいることを講義しました。いわゆる小売業で見ていきますと、契約社員の比率は非常に少ないです。ほとんどのスーパーマーケット、チェーンストアは、パートタイマーとフルタイマーで構成されています。質問で出てきたのは、本当に均等・均衡待遇はできているのかということや、パートタイマーから正社員への転換制度は本当にあるのか、また、どの程度進んでいるのかということでした。
  均等・均衡待遇については、現状としてあまり進んでないと見ていただいて良いと思います。それでも、これからの人材を考えた時、均等・均衡待遇を進めなくてはいけないだろうということが、労働組合側からだけでなく、経営側からも出てきています。なぜならば、パートタイマーも契約社員も、企業と直接雇用契約が結ばれています。そのため、その契約が有期であろうと無期であろうと、ある程度は保障されているわけです。今、問題となっているのは、働いている企業と直接契約を結んでいない、派遣社員や請負をしている労働者の人たちが、よりクローズアップされていることです。雇用が柔軟性を持つようになると、労働条件をどう作っていくのかがいかに重要なのかという視点を、理解していただきたいと思っています。
  それともう一点、今回の講義で話したように、パートタイマーの女性の比率は、2005、2006、2007年と見ていきますと、90%が女性で、その割合は変化していません。ですから、均等・均衡待遇の実現を進めていくことは、働く女性の課題でもあることなのです。
  これまでの講義では、賃金や労働条件、ワークライフバランス、キャリア形成、セクシュアルハラスメント、均等・均衡待遇を取り上げてきました。これら全ての課題に取り組んでいかないと働く女性の問題の解決にはならないということです。そのうちの一つだけ解決できても、それは完成しないということです。例えば、私たちの組織、JSD(日本サービス・流通労働組合)で言えば、「ダイバーシティの推進」「ワークライフバランス」「均等・均衡待遇の実現」、これら3つのことをトライアングルとして一緒に取り組んでいかなければ、働く女性の問題は解決しないし、男女平等参画は進まないということです。
  また、労働組合では、様々な運動、活動領域に取り組んでいて、これら全てに男女平等参画の考え方を入れていくことが重要だと私は思っています。多くの質問をいただき、補足ということで話させていただきました。

篠原局長: 私の講義のテーマは、「募集・採用から定年、退職まで」でした。私が入社した1981年と現在とを比較して「何が」「どのように変わって」「どのような取り組みを労働組合としておこなってきたか」ということをお話しさせていただきました。
  皆さんからたくさんのご質問をいただきました。きょうは、個人的な経験も含めて、2つのご質問にお答したいと思います。一つは労働組合の専従となるきっかけは何だったのかという質問です。特に、両親は反対をしなかったのかという点です。両親には強く反対されました。東芝に入社したのは、労働組合活動をおこなうためではないだろうと母親が労働組合まで来たこともありました。母親に労働組合がどういう活動をしているのかを理解してもらって、私は労働組合の活動を続けているという状況です。
  もう一つは、利益を追求するのが企業であり、休暇や育児休職などを取ると生産性が下がるから、企業はそうした休暇制度を取らせないという考えを持っているのではないかという質問でした。
  企業は、利益をもっと上げて欲しい、従業員にもっとたくさん働いて欲しいと思っています。ただ、そこで働いているのは人間です。お休みもなく、毎日毎日残業してばかりではメンタルヘルスにかかってしまうかもしれません。企業も社員にきちんとお休みを取らせ、リフレッシュさせ、新しい気持ちで仕事に励んでもらうという考えを持った方が得なのです。そうした視点で企業からもきちんと休暇を取りなさいという取り組みを進めてもらっています。労働組合からも積極的に提言しますし、一人ひとりにきちんと休みを取ってもらい、リフレッシュして生き生きと働ける環境を労働組合からも作っていく取り組みをしています。

片岡局長:私は、初回の講義で「なぜ労働組合は男女平等参画社会をめざすのか」というテーマで、次回以降それぞれの講師が話される内容のアウトライン的な説明をさせていただきました。
  ご質問をいただいた点について、いくつか補足を申し上げたいと思います。まず、「どうして労働組合は男女平等参画に取り組むのか」ということです。基本的には、男女が、お互いに人権を尊重しつつ、責任も分かち合い、性別に関わりなく、それぞれの個性・能力を発揮できる職場あるいは社会を作るためと考えています。そのため、労働組合としては、労働組合における女性役員をもっと増やそうという取り組みをしています。
  また、もう一点は、「どうやってそのことを労働組合はめざすのか」ということです。第1回の講義では、あまり詳しく触れませんでしたが、連合、労働組合が今、力を入れて取り組んでいる活動が「アクションプラン」の実践です。この言葉の意味がわからないというご質問がありましたので説明しておきます。
  連合では、1991年から女性の役員を増やす目標を盛り込んだ「アクションプラン」を作っています。第1回目が2000年から始まり、現在は2006年から6年間の計画で、「第3次アクションプラン」の取り組みを進めている最中です。連合が呼びかけているのは、第4次は作らない覚悟で、今の「第3次男女平等参画推進計画」を進めようということです。今が正念場だという気持ちで、連合では女性役員を増やしていく取り組みをしています。
  アクションプランには、労働組合の女性役員を増やす取り組みのほか、めざすべき女性執行委員のロールモデルを作っていくことが、行動計画の中身にあります。
  組合によっては、女性の役員が少ないため、どういう活動をしていけばよいのかわからないということもあります。私がJTBに入社し、JTBで労働組合活動を始めた時、女性の執行委員はいませんでした。婦人部という組織があって、そこで女性の執行委員を選ぼうということになりましたが、先に手本となる人がいないため、どのような活動をしていけばよいのかわからなかったわけです。そういう時、執行委員としてめざすべき存在、例えば、東芝の篠原さんのような役員になりたい、また篠原さんのようにキャリアを積んで仕事につなげたいと思えるモデルが必要だということです。
  もう一点、皆さんから総括的な内容の質問をいただきました。それは、「男女の完全な平等は不可能ではないか」という質問です。私も正直そのように思います。しかし、男女平等は早急に解決する問題ではありません。
  かつて、国際的な取り組みから採択された「人権宣言」では、女性の人権については全く意識されなかったこともありました。あるいは、選挙権を行使したくても女性に選挙権はありませんでした。そういう時代に、どうして自分たちには人権や選挙権は認められないのかと疑問を持って、女性たちが運動でそれを獲得して今日まで来たわけです。そして、現代に近づくと、女性が結婚・出産でなぜ退職をしなければいけないのか、また、なぜ男性は60歳まで働けるのに女性は30歳で定年なのかという壁を、自らの仕事のやりがいを見つけたい、働き続けたいという先輩たちの思いによって、少しずつ崩していったわけです。
  ですから、完全な平等は無理かもしれませんが、過去の先輩たちの思いの積み重ねを、今度は皆さんにバトンタッチしていきたいと考えています。それぞれの役割の中で、男女の完全な平等をめざした運動を続けていくことが大事であると思っています。

禹先生:次に、皆さんから出された質問をもとに議論をしていきたいと思います。
  皆さんの多くは、アルバイトを経験しているようです。八野事務局長にお聞きしたいと思います。流通業では、非正規労働者として働いている人がたくさんいるとお話ししていただきましたが、その中にはアルバイトもたくさん含まれています。それで「アルバイトが労働組合を組織することは可能でしょうか」という質問がでています。

八野事務局長:結論を言いますが、可能です。ただ、それぞれの企業の組織形態の中で、短期間のアルバイトもあるし、長期で働いている場合もあると思います。短期間のアルバイトの人に労働組合に入るメリットがあるのかどうかということです。労働組合に入ると組合費が徴収されます。例えば、時間給を月例換算した時の1.5%~2%程度が組合費として徴収されます。労働組合は組合費を財源として様々な活動に取り組み、皆さんに還元します。これは、労働組合もきちんとしていないところがいけないのですが、ある程度長い期間を想定した交渉を今までおこなってきているわけです。短期間のところでは、時間給の引き上げ等はおこないますけれども、それ以外にはあまりメリットが享受できる活動には至っていないことが課題としてあります。
  今は、個人で加入できる労働組合もできてきましたので、そういう意味では間口は広がっていると思います。ただそれは、何か問題が起きてからの個人の労働組合ということになっているので、今までの企業単位の労働組合の形とは少し違うものです。その点は労働組合としても検討していかなければいけないと思っています。

禹先生:皆さんがアルバイトをやっている途中で、労働組合から話かけられた経験がある人はいますか。手をあげてください。・・・・一人もいらっしゃらないですね。

八野事務局長:それだけ労働組合が、非正規労働者に声をかけていくという運動ができていないと思っていただいてよいと思います。現在、連合は非正規労働センターという部署を設け、取り組みを進めています。また、産業別組織においても取り組みが進められています。
  こうした点が、労働運動の遅れていたところで、時代に合っていない運動をしていたと指摘されても仕方ありません。しかし、連合、産業別組織、企業単位組合が、一体となって取り組みを始めました。

禹先生:先ほど片岡局長は、ロールモデルということをおっしゃいました。そこで質問です。今まで、性差別で仕事を辞めたいと思ったことはあるでしょうか。

片岡局長:性差別で辞めたいと思ったことはありませんが、性差別を受けたことはあります。私は1973年にJTBに入社し、1975年に転勤したのをきっかけに、先輩から勧められ労働組合の分会の役員になりました。分会の役員をしていた時、差別だと感じたのが、昇進・昇格についてです。
  当時のJTBでは、入社し、ほぼ4年ごとに資格が上がっていくようなシステムでした。私の場合、上司の評価によって次の資格に上がることができなかったことがありました。この時は、非常に辛い思いをしましたが、私は労働組合の役員を務めていたこともあって、上司に「昇格できない理由は何か」を聞きました。この時の上司はきちんと答えをくれたので、私は乗り越えることができました。仕事の割り振りも男性と女性とでは違うということで、仕事の価値も違ってくるということでした。
  しかし、同じ仕事なのに、男性の評価が高く、女性の評価が低いのはおかしいことです。自分だけでなく多くの女性がこういう状況にありましたので、これは差別だと、職場交渉で訴えました。女性が差別だと感じる原因を追及し、改善していく。このような取り組みが労働組合にとって大切だと思いました。
  ただ、やはり労働組合の役員をしていたからできたことで、もし役員でなければ差別を受けて辞めるということがあったかもしれません。これが私自身の体験です。

禹先生:余談になりますが、皆さんを社会に送り込む教員の立場からアドバイスします。企業に就職したのち、企業側にいじめられない、または解雇されないコツが一つあります。それは何かと言いますと、自己主張するということです。日本には「出る杭は打たれる」ということわざがあります。しかし逆に、たとえば人事考課の結果が良くなかった時に苦情を言うと、上司から「これだけ自己主張できるということは、こいつは使い物になりそうだ」という評価を受けられる可能性もあります。このように自己主張できる人は、解雇される対象にはなかなかなりません。皆さんは、この講義を受けたことで、主張すべきときは主張するようになるでしょうから、企業に長期雇用される可能性が高まると思います。
  では次に篠原局長への質問ですが、篠原局長はキャリアについて多くのことを語って下さいました。それを踏まえて、このような質問が出されています。例えば、女性では事務職を担当するケースが多いです。事務職で仕事を続け、恋人と会いたい、自分の趣味を大事にしたいという気持ちにもなってきます。その人が、会社からみてキャリアの形成に消極的になってしまった時に、処遇または働き方に、普通の人たちと違いが発生する恐れはないかということです。いかがでしょうか。

篠原局長:人によって、働き方、考え方が違うと思います。例えば、昇進をしたくて、一生懸命その企業で働きたいと思う人もいるかもしれませんし、場合によっては腰掛け的、何かの仕事のサポート的仕事をやりたいと考えている人もいるかと思います。残念ながら今の日本では、その一生懸命頑張りたいと思っている人が、頑張れない社会になってしまっています。頑張りたいと思っている人を助けるべきなのではないかと思います。今、労働組合としても、そういう頑張りたいのに頭打ちになってしまう人たちのために何かサポートできないかということで取り組んでいます。
  自分たちはどういうキャリアを積んで、どのような働き方をして、こういう職業を身につけたいと思うかどうかで変わってくると思います。ですから、そういう一人ひとりのこういう点を伸ばしたいといった時に、伸ばせるような仕組みを労働組合ではサポートしたいと思います。

禹先生:これからは、議論の焦点を3つに分けて進めていきたいと思います。1点目は、男性・女性や正規・非正規含め、均等・均衡処遇にかかわる質問です。これは主に八野事務局長と議論していきたいと思います。
  2点目は、女性のキャリアまたはワーク・ライフ・バランスの問題を、主に篠原局長と議論していきたいと思います。最後に、男性・女性の意識、今後日本で制度をどうすればよいのかという問題を、片岡局長と議論していきたいと思います。
  まず、均等・均衡待遇について、八野事務局長ともう少し議論をします。皆さんから、このような質問が出ています。契約社員と正社員の壁を除いていくことによって、正社員側から不満などは出ていないのでしょうか。もし出ていたとしたら、どのように対応していけばよいのでしょうか、ということです。

八野事務局長:ひとつ押さえておいていただきたいことがあります。契約社員の位置づけが企業によって違います。それを前提にお話をさせていただきたいと思います。
  契約社員を組合員にする時、賃金の問題が起こります。今まで正社員のことしか考えていなかった労働組合が、他の雇用形態のところまで広げた時、労働条件の根幹となる賃金が壁となります。今まで正社員が中心だった原資の配分が、契約社員を組合員にすることによって、自分たちの賃金が減ってしまうのではないかという意見が出てきます。
  また、労働組合は活動を続けていく上で組合費を徴収します。そうしたなかで、正社員側からは、本当に私たち全部の面倒を見てくれるのかという意見が出てきます。一方、契約社員側からは、本当に私たちの労働条件を上げてくれるのかという意見が出てきます。
  このような問題については、それぞれの売り場の環境、契約社員との人数のバランスなどそうした点を一つひとつ見ていかなければなりません。

禹先生:学生の皆さんに、私から質問します。皆さんが企業に入って何年か経てば、月収が30万円になるとします。皆さんと同じ仕事をしている非正規労働者が時給1000円だとすれば、8時間×20日で16万円です。例えば、賃上げをおこないましょうとなった時、「選択肢1:正規も非正規も同じく3%ずつあげる、選択肢2:非正規は時給5%ぐらいあげる正規は0、選択肢3:格差があるから非正規は6~7%あげる、そのかわり正規は1~2%減らしてもよい」という選択肢があります。皆さんであればどれを選択しますか?皆さんは選択肢の3、2を選択できますか。選択肢3はいないようですね、選択肢2を、選ぶことができる人はいるようですね。
  それから、他の国では同一労働同一賃金が成立しています。他の国では成立しているのに、なぜ、日本では同一労働同一賃金が成立しないのでしょうか?

八野事務局長:諸外国の事情をすべて知っているわけではありませんが、同一労働同一賃金は、特に、EU諸国が進んでいると言われています。中でも、デンマーク、オランダが同一価値労働同一賃金の原則がきちんと確立されていると聞いています。まず一つは、法で担保されている面があります。それから、日本ではまだ「就社」なんですね。ヨーロッパでは、企業の中の職務が明確になっていて、「職務に就く」という意識が強いようです。例えば、小売業ならば、私は販売に就く、レジに就くという意識を持っているようです。ですから、そのための資格を持っているということで職務が明確であると言えます。それは、働く時間が違うだけで、その職務についての価値は一緒であり、責任も一緒であるということにもなります。
  それから、日本の場合、特に戦後、「男性は仕事で、女性は家庭の維持」という通念ができてしまいました。日本の税制度もそうしたライフスタイルに沿ってできているのですが、ヨーロッパでは基本的に、お互いが働くという前提で法や制度が整備されています。したがって、そのための社会保障制度、保育施設の整備などの問題が出てきます。また、OECD諸国の中ですと、企業に入る前に職業訓練をする機会が与えられています。
  このように、社会保障の財源を労働者の年金や企業を退職した後に使うことに比重をおくだけでなく、就職する前、あるいは雇用や職業訓練にも財源を使っているわけです。このような社会保障制度を作っていくという視点を持っています。そういうようなことを日本もクリアしていくことで、同一価値同一賃金にひとつずつ近づいていくようにしています。

禹先生:次は篠原局長に伺います。キャリアまたはワーク・ライフ・バランス、セクハラ等に関する問題です。このような質問が出ています。セクハラについては窓口に相談してくださいとのことでしたが、その窓口係を務める人の性別はどうなっているでしょうかということです。つまり自分が女性であれば、相手が女性だと話しやすいということです。ただし、セクハラされる側は、男性もいるわけで、そうなると相談に行ったのに窓口に女性が座っていると、話がしづらいかもしれないということです。いかがでしょうか。

篠原局長:わたしの出身組織では、相談の窓口は書記長が全体的なまとめをやってくださっています。ただ、労働組合は男性の割合が多いので、窓口で相談を受ける書記長もやはり男性が多くなってしまいます。しかし、職場によっては、女性が全くいないわけではありません。
  今、セクハラという例をいただきましたが、セクハラについてはきちんと対処しなければいけないという法律があります。そのため、相談窓口において、それぞれの企業の中で労働組合と一致をして正しい判断をするために、相談者は複数設置をすることになっています。そして、男性ばかり女性ばかりという偏った構成ではなく、できれば同数、少なくとも女性あるいは男性を必ず一人は入れるようにしています。そして、一人だけの判断ではなくて、複数の相談者を設置するという取り組みを、労働組合ではおこなっています。

禹先生:次の質問です。労働時間削減に向けての様々な取り組みや休暇の制度があるということですが、企業がそのようにおこなっているとしても、労働者側にその制度の内容が伝わっているのかということです。例えば、労働者がよく理解していれば、なぜメンタルヘルスの問題などがなぜ起こるのだろうかという質問です。篠原局長、いかがでしょうか。

篠原局長:きちんと制度を理解し、休暇を取得することが本来の姿であると思います。しかし、それがなかなかきちんと伝わっていないという現実はあると思います。労働組合としては、機関紙・誌やホームページ等を通して、広報をしています。また、労働組合と会社が協力して、社員・組合員の退職後の生活を考えるセミナーを開催したりしています。
  また、育児休暇を取る前に、ご本人と職場の上長に来ていただいて、育児休暇制度の説明、職場としてのサポートの方法をアドバイスしたりしています。労働組合と企業が連携して、制度を正しく使える取り組みもおこなっていますし、労働組合独自の取り組みを続けています。

禹先生:今、話が出たので学生の代わりに私から質問します。例えば、国は男性にも育児休暇を取るように言っています。男性が育児休暇を取った時、自分のキャリア形成に支障はないのかということです。この点はいかがでしょうか。

篠原局長:育児休暇制度を3年、5年取るという人は、ほとんどいません。やはり、それまで積み上げてきたキャリアがすっかりなくなってしまうのではないかという不安があるからだとだと思います。その分のキャリアを取り戻すのは大変になるためだと思われます。したがって、育児休暇を短くしたい、なるべく早めに職場復帰したいと考える女性・男性はたくさんいます。
  育児休暇等を取得している人と常に連絡を取る、関わっていく取り組みを労働組合ではおこなっています。例えば、Eメールを送って、今、職場でこういう話題が出ている、今年の売り上げはこのくらいだったという情報を提供したりしています。職場の仲間も広報誌を送ったりしていて、常に職場、仕事とのつながりを持つ取り組みをしています。

禹先生:篠原局長は出身が電機連合、電機産業の職場ですね。特に電機、東芝のようないわゆる大企業では休暇等の制度がよく整っていると思います。しかし、中小企業の職場では休暇等の制度はそこまで整っていないと思います。このように産業間・企業間の格差はどうすれば解決に近づきますか?

篠原局長:電機連合は、確かに大手企業の従業員が組合員として集まっています。しかし、賃金を見てみますと格差は出ています。中小企業の職場と同じ悩みを抱えています。どのようにすればお互いを引き上げていくことができるのかという点ですが、「東芝にはこのような制度があります」「日立はこういう制度を持っています」等の一覧表が掲載されている本があります。こうした情報を組合や組合役員に提供することによって、自分の職場でもこういう取り組みができるかなと思うようになれます。こうした情報提供ということも労働組合の役割だと思います。

禹先生:次は、片岡局長に聞きます。女性は仕事が軽減されるような働き方、責任があまりない仕事を任されることを望んでいるのではないかという質問がありました。これについてどう思われますか?

片岡局長:女性が自ら、責任のない仕事を選んでいるとは思いません。むしろ責任のある仕事を与えられていないということが、今の職場の実態だと思います。また、責任のある仕事とない仕事という区分けは職場にはありません。どんな仕事でも、結果を含めて責任はつきまとっています。
  ただ、男性の方が、先輩から仕事を十分に受け継いだり、成果が出る、見えやすい仕事を与えられ、その結果、昇進をしていくというレールがあって、女性にはそのレールに乗れない目に見えない壁があるのかなと思います。そうした男女の仕事への期待度の違いから、重い責任がある仕事はしたくないと女性たちが思ってしまうということが、今の職場の実態だと思います。

禹先生:もうひとつ、職場の実態について片岡局長に伺います。はっきりと意見を言う女性は扱いにくいということです。こうした考え方は、今後どのようにすれば変わりますでしょうか。

片岡局長:はっきり意見を言う女性が扱いにくいということは、「ジェンダーとは何か」が関わると思います。「女はこうあるべき、男はこうあるべき」という考え方が、しっかり刷り込まれているわけです。女性を個で見ないために、生意気な意見を言うと、女性は扱いにくいという話になると思います。私は、偏見や誤解、明らかに差別意識のある男性や男性の上司については、その人の意識そのものを変えることは難しいと考えています。ですから、私はそうしたことにチャレンジをしようとはあまり思いません。
  しかし、それは我慢することではありません。皆さん、考えてみてください。はっきり意見を言う男性は扱いにくいと、職場で言われるのでしょうか。男性の場合は、おそらく自分の考えをしっかり持っていると評価されると思います。
  どうして女性は扱いにくいと考えているのか、相手の考え方を聞きたいと思います。
  連合の男女平等参画の実現に向けた活動で採り入れている手法に、相手も自分も尊重した自己主張トレーニングがあります。その手法を使ってみたいと思います。違う考えを持っている人と、最終的に仕事の成果を共有するといった場合は、相手の意見を尊重する、しかし、自分の意見もきちんと伝えるというスキルが必要となります。なので、自分の考えていることを相手にきちんと伝え、相手に誤解や偏見を持たせないようにする、あるとすればそれを変えるようにする。そうすれば、「扱いにくい」ということから「あなたに期待するよ」ということになると思います。相手とコミュニケーションを取っていくことも必要だと私は思います。

禹先生:八野事務局長に伺います。八野事務局長ご自身、女性が多く働く職場で仕事をされ、業務指示などをされていると思います。例えば、百貨店ですと、商品の仕入れや陳列など女性の視点、発想も大切にされると思います。だとすると、「男性は男性らしく、女性は女性らしく」と考えて何が悪いのだという意見が出てくるのではないのでしょうか。性差別ではなく、女性は女性として尊重する、男性は男性として尊重するという考え方があってもよいのではないでしょうか。

八野事務局長:個人的な考えも入ります。女性らしさ、男性らしさという考え方は、永遠に存在すると思います。今、問題になっているのは、仕事を続けていく上、男性・女性の差はないということです。要するに「個」ということです。「個」としてお互いが認め合う、ダイバーシティの基本的な考え方はそこにあります。「個」を認め合う者になっていかなければいけないということです。
  一つの事例を申し上げます。地方のある百貨店での出来事です。その百貨店は大卒者のみの採用で、ある売り場に女性が3人、男性が1人、配属されました。しかし、バイヤーは男性社員にしか業務について教えていませんでした。私どもJSDの地域での討論会の際、その百貨店で働く女性から、そうした職場の実態について意見を言われました。私は、その百貨店の労働組合の委員長も経営側の人事担当役員もよく知っていたので、話をしに行きました。その百貨店にとっては、バイヤーが男性社員だけを相手にすることが慣習でした。労働組合の委員長も人事担当役員も男性なので、これまで気が付かなかったのです。
  この時、そうした慣習を止めてもらいました。その後、その女性社員は、どんどん伸びて、今は売り場のリーダークラスになっています。
  結局、機会を均等にしていくことが重要なのです。男性でも課長や部長に昇格してつぶれた人は大勢います。ただ、男性ばかりが課長や部長だったので目立たなかっただけです。
  にもかかわらず、女性をポジティブアクションとして一人だけ昇格させ、その結果、その人が仕事でつぶれてしまうこともあります。だから「女性は駄目だ」という意見を聞きます。ですから、複数の女性を一度に昇格させていくようポジティブアクションを実現していかないとだめですし、女性を活用できない企業はだめになると私は思います。

2.ジェンダーや女性労働をめぐる課題解決に向けて

禹先生:これまでは、皆さんの質問に基づき現状の課題について議論してきました。ここからは、どうすれば男女共同参画が実現できるのかという課題に移っていきます。
  私から、お三方に今後の課題について質問をしたいと思います。まず、八野事務局長に対してです。講義の中で、事例として出された会社は良い会社だと思います。労働組合の発言権もあって、良い取り組みをしているということです。ただし、そういう企業ばかりではなくて、むしろ日本は、男女の格差、正規・非正規の格差は通常のレベルを完全に超えていると思います。ですから、このことをどう解決していくのかを真剣に考えていきますと、一部の企業でも行われている非正規から正規への登用制度を設けるといったことでは解決できるようなものではないと思います。根本的な解決方法を考えていかなければいけない段階に至っていると思います。
  一つの解決策として、短時間正社員制度があると思います。つまり、正規・非正規の間に差は設けず、ある人は週40時間の勤務、ある人は週30時間の勤務にするというように、働く時間の差があるだけにするという考え方です。このような短時間正社員制度を設けましょうと議論されてきました。短時間正社員制度を導入できる可能性はあるでしょうか。

八野事務局長:現状では、短時間正社員をどのように見るかがあると思います。私は、正社員も非正規社員もないと思っています。フルタイマーなのかパートタイマーなのかという考え方を浸透させていくべきだと思っています。それから、「正社員とはどういう人なのか」と言いますと、雇用の期間の定めのない人たちを正社員と言っています。これから働き方といった時に、それぞれ仕事に対する意識がそれぞれ違っていく時に、ある程度期限のある仕事をやっていくという選択肢を選ぶ人たちも出てくるでしょう。
  ですから、自分としては、同一価値労働同一賃金とする労働条件を労使で話し合いながら工夫をしていくこと、法の整備をしていくこと、そして、働くという選択肢をマイナスのベクトルではなくて、プラスのベクトルとして選べるようにしていけないだろうかと思っています。
  短時間正社員を考える時、いわゆるライフサイクルに合わせ選択できないかということを検討すべきだと思っています。現在、JSDで議論を進めている喫緊の課題は育児と介護です。育児休暇については、今、小学校3年生までですが、なんとか4年生まで延長できないだろうかということです。お子さんが2人いると、ずっと短時間勤務で働くことになってしまい、最長で10年というケースが出てきました。ならば、短時間正社員制度という選択肢もありうるだろうと考えています。
  また、地方では、親と同居している人の割合が高く、介護がかなり深刻な問題となっています。あるスーパーマーケットの組合員が、介護で病院に行ったら、同じ病院に自分の会社の人たちが4人いたそうです。そのうちの1人は仕事を辞めざるを得なくなっていたということです。もっと使い勝手が良い制度に変えていかなければならないと思います。

禹先生:次は篠原局長に質問をします。日本で女性が抱えている大きな問題は、キャリアが途中で途絶えてしまうということです。色々な理由で1回職から退いてしまったら、元の職には復帰できないことです。様々な試みがあって、例えば、お医者さんであれば、育児のため一時職を離れても、現場に復帰できるよう病院で面倒を見てくれるところもあるようです。
  私自身、職業訓練の施設などを調べたのですが、このような訓練施設に来ているパートの方は1人か2人くらいしかいらっしゃいませんでした。若い人たちは訓練を受けるものの、女性が再就職を希望しても訓練を受けられる機会がない。そして、女性自らも職業能力を高めて、もっと良い職に就くという考え方はあまりなくて、周りも時給800円のパートさんで働いていくということになるわけです。
  今後を考えた時、女性に対して生涯の職業能力開発をどのくらい社会でバックアップできるかが重要な課題だと思います。労働組合として考えられる方策は何かないでしょうか。

篠原局長:まず、国が真剣に考えなければいけないと課題だと思います。もしかして、その職業が自分に合っていないと思って次の職業を探したけれども、どういう職に就けばよいのかわからないという場合もあるかもしれません。そういう場合、いろいろな選択肢を揃えてあげることが必要だと思います。
  例えば、現在、職業に就くための教材が数多く出ていると思います。出産などで仕事を辞めてしまった時、そうした教材を利用することもできると思います。私の知り合いは、出産のため仕事を辞めましたが、妊娠中に一生懸命勉強をして、社労士の資格を取りました。そのような機会を大切にして欲しいと思います。労働組合でもそうしたことをもっと広報していく必要があると思います。そして、自分は何をやりたいのかということを、しっかり持ち続けることも大切です。
  また、保育園を見つけることができず、会社を辞めざるを得ないという場合もあります。そういう時のために企業内保育、職場に保育園を作っていく選択肢もあります。そうした点は国が、きちんとサポートし、企業も労働組合も連携していかなければなりません。色々な情報を提供することも極めて大切です。

禹先生:学生の皆さんの意見を聞いてみます。比率はわかりませんが、埼玉大学の女性教員が少ないことは確かです。女性教員の比率を、例えば、今8%ならば倍の15%に上げるという案を学長が出したら、皆さんは賛成しますか。反対ですか。(学生挙手)反対の方が少ないですね。
  では、女子学生の比率が、今30%くらいだと思います。女性にチャンスを与えるということで、この割合を40%くらいに上げるという案を出したら、皆さんは賛成しますか。反対しますか。(学生挙手)男の人たちがたくさん賛成していますね。反対の意見もありますね。
  実は、今のように男性と女性の比率を上げていくこと、ポジティブアクションが結構とられています。女性の参画を積極的に進めることです。
  片岡局長にお聞きします。アファーマティブ・アクションやポジティブ・アクションは、日本にとって有効な手段となりうるのか。もし、なりうるならどのようにやっていけばよいでしょうか。

片岡局長:日本の企業でも、女性にもっと活躍をして欲しいという取り組みとして、ポジティブ・アクションを実践しています。例えば、これまでの男性中心の人事慣行を変えたり、募集採用に関しても、女性がもっと応募してくれるようなキャッチフレーズに変えていくといったことです。そうすることによって、企業の目的もはっきり打ち出され、女性は、その企業の姿勢が読み取ることができるので、受けてみようという動機になるかもしれません。
  しかし、教員にしても、労働組合の役員にしても女性の割合は圧倒的に少ないのが現状です。やはり日本では、法律で行動計画を義務付けていく必要があると思います。均等法の次の改正の重要なテーマは、ポジティブ・アクションを行動計画として盛り込むことです。
  同じような手段として、アメリカのアファーマティブ・アクション(Affirmative action, 肯定的措置)というものがあります。アメリカの場合は、多くの人種によって社会が構成されています。しかし、差別を訴えただけでは変えられないという現実があります。そのため、企業が雇わなければならないマイノリティーの人たちの枠を決めるものです。あるいはそうした基準を満たしている企業には、政府の仕事を任せるなど、ある種のインセンティブを与えるものです。日本でも法律でこうした内容を義務付けることができるかどうかが今後の課題です。

禹先生:今までの議論で、深まった点もあれば、新しい疑問が出てきた点もあろうかと思います。残った時間は、フロアの学生との質疑応答にあてます。

質問者:日本ではワークシェアリングが難しいと言われていますが、労働組合ではワークシェアリングをどう考えていますか。また、育児休暇や介護休暇ではなく、働く時間を変えたいという相談は受けられたことがありますか。

篠原局長:今の日本ではワークシェアリングという考え方は、まだ馴染まないかもしれません。仕事をシェアしようという考え方になると、根本的なところから考えていかなければいけないところもありますので、日本社会では、ワークシェアリングという働き方について、日本風土にどう馴染ませるか十分な議論が必要だと思います。

質問者:女性の就業率が高くても、出生率は低くならないというデータがあります。しかし、日本では、男性の育児休暇の取得率がとても低く、男性・女性の役割分業意識が根強いと思います。企業が女性をきちんと雇用し、活用していくためには、今の制度以外で何をすべきだと思いますか。また、そういった意識を改善するためには、どういったことが必要だと思いますか。

片岡局長:私は、まず男性の働き方を変えていくことが、女性が活躍する上で、もっとも大切なことだと思っています。働く時間の長さの問題は、女性の活躍には重要な課題です。ですから、やはり男性の長時間労働を前提とした働き方を変えていかないとだめだと思います。

質問者:育児休暇を取得したり、セクハラへの対応など労働組合の助けを得て、企業に相談することができるとお聞きしました。こうしたことはいわゆる大企業だけではなく、比較的規模が小さい会社でも対応してもらえるのでしょうか。
  また、中小企業の場合、労働組合の力がだんだん弱くなっているのではないかと感じます。大手の自動車会社、電機メーカー等、いわゆる大企業の労働組合が、中小企業の労働組合をバックアップすることはできないのでしょうか。

八野事務局長:まず、後段の質問について言えば、それが産業別組織の役割です。小売業でも50人以下のところが90%を占めています。ですから、この50人以下の職場をどうやって支援していくのかということが大きな課題となります。
  また、前の質問については、労働組合運動において、何を目標に掲げるか、掲げないかはとても重要なことです。賃金や労働時間は、労働組合の根幹にかかわることですから、わざわざ掲げなくとも必ずこれらの課題は入っています。ただし、男女共同参画や同一価値同一労働賃金という課題を目標に掲げて進めていくと、それに対するロードマップができてきます。なので、私たちが、小さい企業の代表者や労働組合の人たちを支援することは可能だと思っています。

禹先生:きょうまでの講義とパネルディスカッションでは、ジェンダーについての課題、そして、その課題に対してどのように取り組んでいるか、課題の解決の方向性はどうなるかを議論してきました。次回の講義からは、解決の取り組みにあたって、組織化、政策、国際あるいは地域という視点で、どのような取り組みなどをおこなっているのか、課題は何かについて本格的に議論していきたいと思います。

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