埼玉大学「連合寄付講座」

2009年度前期「ジェンダー・働き方・労働組合」講義要録

第1回(4/15)

連合寄付講座において埼玉大生に学んで欲しいこと
―労働組合は、なぜ?男女平等参画社会をめざすのか?―

ゲストスピーカー:片岡千鶴子(連合男女平等局長)

1.労働組合はなぜ?男女平等をめざすのか

  皆さん、こんにちは。連合の総合男女平等局の片岡と申します。私からは、今年度前期の寄付講座のテーマである「ジェンダー・働き方・労働組合」について、連合の基本的な考え方に触れてから、来週以降予定されている講義内容について、ご紹介するという役割でお話をさせていただきます。
 まず、「労働組合は、なぜ男女平等社会をめざすのか」ということについて、私は2つの答えを持っています。男女平等と言いますと、かなり多くの人は女性の問題ではないかと考えられると思います。もちろん、現実は、女性の置かれた不平等な状況をどう変えていくのかということにあるのですが、私は、男女平等を実現することで、職場や家庭、社会にあって、女性だけでなく、誰もが働きやすく、生活し易い状況になると思っています。
 もう一つは、労働組合における男女平等参画は、労働組合が公正・公平性を持っているか、健全な存在か、そういった点を図る物差しになります。労働組合で頑張っている女性役員がどれくらいいるのかということが大変重要で、社会正義を貫くために欠かせない存在である女性役員を増やすことが、労働組合にとって重要になってくるわけです。
 誰もが働きやすく生活し易い社会づくりには男女平等の取り組みが重要で、それを担う労働組合はもっと女性役員を増やすことが重要というのが私の意見です。次回以降の様々な講義を通して、皆さんがこの点どう思われるのか聞いてみたいところでもあります。

2.男女平等の実現に向けた労働組合の課題と取り組み

(1)私たちがめざす社会の姿
  私自身の2つの意見をベースに、男女平等の実現に向けて労働組合が抱えている課題は何か、あるいは取り組みは何かということを話したいと思います。
  現在、麻生内閣がさまざまな緊急的な経済対策を行っています。ただ、それらの中身を見てみますと、「この事業に何兆円」「この対策に何兆円」と桁数がわからないような数字が飛び交うだけで場当たり的な対策のように思われます。「チョウチョウが飛び交っている」と皮肉られるように、ニュースを聞いていても私には、そうした政策によってどういう社会を実現しようとしているのか、目指す姿はどういうものなのかということがわかりません。目の前の課題をなんとかしようということはわかるのですが、どういう社会を作っていこうとするのかというところまで読み取れないという感想があります。
  そこで、労働組合がめざす社会の姿を紹介し、そのためにどんな運動をしているのか、労働組合の男女平等参画の課題は何かをお話しします。
  現在、人口の半分以上5000万人を超える人たちが何らかの形で働いていますが、労働組合は、働く人たちを中心とした福祉型社会をめざしています。その「働く人たちを中心とした福祉型社会」の中身については、これからの講義で明らかになっていくと思います。
  二つ目はワーク・ライフ・バランス社会の実現です。連合は、全ての働く人たちがやりがいのある仕事と充実した生活の両立できる社会、そして自分の意思で多様な選択が可能になる社会をワーク・ライフ・バランス社会と定義をしました。
  現状はどうなっているのかといえば、労働の現場では過労死や過労自殺を生み出すような長時間労働の問題が存在しています。あるいは、非正規労働者が多くなっている中で、労働条件の格差など働きにくさの問題が生じています。現状はワーク・ライフ・バランス社会とは程遠いものがありますが、そうした状況を変えていく、ワーク・ライフ・バランス社会を目指すことを打ち出しています。
  三つ目は、今、私が担当する分野との関わりでもありますが、男性だ女性だという性別による偏りのない、一人ひとりの能力を十分に尊重し、責任をそれぞれ分かちあう、男女平等参画社会の実現です。

(2)めざす社会実現の鍵は、「あらゆる分野への女性の参画」
  今後行われる講義では、賃金、労働条件、キャリア形成、ワーク・ライフ・バランス、セクシュアル・ハラスメント対策、男女平等参画などのテーマを扱っています。今、働く現場で実際に起きていることや、労働組合がそれぞれの課題にどのように取り組んでいるのかについて取り上げる講義が来週から始まります。皆さんが講義をどう受け止め、どう感じたのかをその場で講師とディスカッションをしていただきたいと思います。
  私のいる男女平等局では、こうしたテーマの具体的な前進に向け、女性役員を増やす取り組みを進めています。労働組合は、企業と交渉をし、自分たちの労働条件を改善していくために活動しています。活動の中心的課題に、女性が働き続けるための課題をどうやってきちんと位置づけていくのかということは非常に重要なことで、そのためには、女性が自ら運動の担い手になっていく必要があります。
  また、課題に取り組む場は労働組合だけではありません。例えば、労働政策を議論する審議会があります。労働者側委員、使用者側委員と、公益委員という立場での学識者あるいは弁護士の三者で構成され議論していきます。その審議会では、例えば、働く女性に関る男女雇用機会均等法をどのように改正していくのかも扱われています。
  審議会には労働側委員を選んで、現場で働く人たちの主張として何が必要かということを提案します。使用者側は、法律で規制されることは経営上、非常に問題が多いということで規制を強めることに反対するわけです。私も1995年から10年間ほど男女雇用機会均等法を審議する審議会に参加していましたが、使用者側と対立するような場面も含めて議論をした経験もあります。こうした場にも、当事者である女性の参画が不可欠です。
  その他、連合は、働くことに関わる制度、法律をどのように改正すべきかなどをまとめ、所管する官庁、厚生労働省や内閣府などに対する要請行動も行っています。こういったことを含め、労働組合は課題の解決にむけた様々な取り組みを続けています。
  さて、労働組合に女性組合員は3割近くいますが、役員となると非常に少なくなります。女性役員の選出は非常に遅れているというのが現状で、連合が毎年データをとっている産業別の労働組合を見てみますと、女性役員は単純平均で7%くらいしかいません。労働組合の女性役員選出は非常に遅れていて、そうすると男女平等の課題については、優先順位が後ろに置かれたままという状況が続くわけです。
  労働組合において女性役員の参加が遅れているということだけではなく、日本の場合はあらゆる場で女性の参画が遅れています。日本には「男女共同参画社会基本法」という法律があり、この法律では、指導的な地位に就く女性の割合を2020年までに30%へと引き上げていこうという目標が掲げられています。
  しかし、現実はそこまでいっていませんし、ジェンダー・エンパワーメント指数(女性の国会議員の比率、専門職比率、推定労働所得の国際比較)をみても、日本は93カ国中54位となっています。日本は経済的には優位な国だといわれる一方で、女性の活躍を表わす指数ではまだまだ低いのが現実です。
  こうした現状からも、労働組合で、女性役員をどう増やしていくのかが非常に大きなテーマとなります。女性役員が非常に少ないということは、日本の労働組合ではまだまだ男性中心の運動が行われているということです。女性役員を増やす上で、男性を中心とした組織運営を見直していくことなども、私どもの取り組みの非常に重要なテーマとなっています。
  組織運営の見直しの課題には、会議中の喫煙、長時間の会議、さらに会議の場で結論が出なかったことを飲み会の場に移して議論するということなどがあり、労働組合の男女平等参画にむけては、そうした組織運営の見直しが不可欠となります。
  連合では、こうした組織運営を見直すための行動目標を盛り込んだ「第3次男女平等参画推進計画」を策定し、女性組合員の比率にふさわしい女性役員の選出をめざしています。

(3)労働組合の取り組みに不可欠な「ジェンダーに敏感な視点」
  男女平等参画をめざす上で、大事だと思うことの一つに「ジェンダーに敏感な視点」で取り組むということがあります。ジェンダーという言葉は知っていてもそれがどう意味なのかを理解し、あるいは自分なりの考えを持っている人は少ないと思います。内閣府では、ジェンダーに敏感な視点を次のように説明しています。

  • 「社会的性別」(ジェンダー)の視点:人間には生まれついての生物学的性別(セックス/sex)がある。一方、社会通念の慣習の中には、社会によって作り上げられ「男性像」、「女性像」があり、このような男性、女性の別を「社会的性別」という。
  • 「社会的性別」は、それ自体に良い、悪い価値を含むものではなく、国際的にも使われている。「社会的性別の視点」とは、「社会的性別」が性差別、性別による固定的役割分担、偏見等につながっている場合もあり、これらが社会的に作られたものであることを意識していこうとするものである。

 この説明文は、国の男女共同参画社会基本法に基づく「第2次男女共同参画基本計画」から抜粋したものです。こうした視点から、現在の労働組合における女性役員の選出状況をみた場合、ジェンダーに敏感な視点を持っているとは言い難い状況が見られます。
  例えば、女性の役員を選出しようとすると、男性の役員からは「女性が労働組合で責任のある立場に就くのは大変だろうし気の毒だ」と言われることがあります。本当にそうでしょうか。そういうチャンスがないことが女性の役員が増えない原因でもあります。男性の役員の意識の中に「労働組合で責任ある立場に女性が就くことは無理ではないか」という考えがひそみ、一人ひとりの能力に着目をせず、「女性とはこうだ」という偏見で、女性を排除してしまう例だと私は思います。
  あるいは「しっかり意見を言う女性は扱いにくい」という男性がいます。本当はしっかり意見を言う人こそ労働組合の中枢に引き上げ、会社と交渉し、会社を説得して労働条件を変えていく役割を担うべきです。しかし、しっかりと意見を言う女性は、出る杭は打たれるの例えのように、生意気だと言われてしまいます。
  男女平等参画を進めるには、労働組合活動にジェンダーに敏感な視点を浸透させることが不可欠です。

3.男女平等参画にむけた女性のためのネットワークづくり

  女性のためのネットワーク作りも、男女平等参画をめざす上で大切なことです。女性の役員はいるものの男性が圧倒的に多いという中で、労働組合活動を続けていますと、女性役員が孤立感を感じることがあります。
 あるいは所属する労働組合では女性の役員が自分一人しかいなくて、過去にもいない、つまりモデルになる人がいないことがあります。企業に入った場合でも同じではないかと思いますが、「こういう人を目指したい」という女性役員の目標となるモデルの存在が重要で、女性役員の少ない現状からからは、女性役員・組合員が、所属する組織を越えて集まり、つながる場が重要となっています。
 また、私は、役員をやりたいという人を増やすには、エンパワーメント(女性の潜在的な力を引き出す)の場が重要だと考えています。エンパワーメントの場において女性が自らの潜在的な力を確信し、交流を深めて自信をつけていく、自らポジションに就くという主体性を引き出すことも重要だと思います。
 連合では、そうした動機付けの場として、女性役員・組合員対象のエンパワーメント講座を開催しています。

4.おわりに

  労働組合の活動を通じ、男女平等参画社会を実現していくことは一朝一夕ではできません。しかし、男性役員・組合員との話し合いを積み重ねていく中で、労働組合の活動に多くの女性を参画させていくことがその実現に結びつくことは間違いありません。
 働く人が自分自身の働き方をより良い方向に持っていくためには、労働組合の存在は不可欠で、一人ではできないことを、2人3人とつながって、男女がともに知恵を出し合い解決を図っていくことが、働くすべての人の働きがいにつながっていきます。
 来週から「ジェンダー・働き方・労働組合」に関ることをテーマに講義が進められていきます。興味を持つテーマを通じてさまざまに感じていただきたいと思います。あるいは、私たち労働組合の役員にもアドバイスやご意見などをいただけたらと思います。以上で私の講義を終わります。皆さん、ご清聴ありがとうございました。


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