埼玉大学「連合寄付講座」

2008年度後期「若者・働き方・労働組合」講義要録

第11回(12/10)

社会保障と消費者政策について ~若者の「生活リスク」を考える~

ゲストスピーカー:小島 茂(連合総合政策局長)

はじめに
  皆さん、こんにちは。連合の小島です。はじめに、連合結成の流れとともに自分の職歴を紹介させていただきます。今の連合は、公務員も民間企業も一緒に組織していますが、発足した1987~89年の2年間は、民間の労働組合だけで先に組織されました。私は、そのときから連合で仕事をしています。
  連合結成前のナショナルセンターは、総評、同盟、中立労連、新産別の4団体に分かれていました。その当時私は、その中の総評で仕事をしていました。労働組合といわれる団体で通算31年間仕事をしていることになります。主に、年金や医療など、社会保障制度についての政策を担当しています。
  現在連合では、社会保障に関する制度の改善に取り組んでいます。今日の話の内容ですが、最初に生活を取り巻くリスクの概要と、そのリスクをカバーする社会保障制度の概要について説明をします。続いて、現在の社会保障制度が機能不全に陥っていること、それに対して連合はどういう取り組みをしているのか、をお話しします。最後に、消費生活における若者のリスクとそれに対する取り組みについても、話したいと思います。

1.人生のリスク(危険)への対応
(1)人生の様々な「リスク」
  社会生活を送るにあたっては、それを取り巻く様々なリスクがあります。具体的な例をあげると、出産のときのリスクがあります。最近、妊婦が救急車で病院をたらい回しにされた挙句、亡くなってしまったという悲惨な事故が起きました。基本的には出産に伴う危険(リスク)に対しては、医療保険制度でカバーすることになっています。通常のケガや病気についても同じです。
  また、仕事を退職した後の老後生活のリスクがあります。退職すると会社からの賃金がなくなりますので、多少の貯えだけではなかなか生活できません。老後の生活を保障するためには、公的な年金制度によって対応していく必要があります。
  それから、今のような不況下では、解雇や会社の倒産などにより、会社から賃金がもらえないということがあります。そうした場合には、雇用保険という制度によって、失業中の生活保障を一定期間受けることができます。そのほかにも、不当解雇・賃金切り下げ、長時間労働、過労死などの問題があります。これらについては、日頃から労働組合が労働条件の改善、雇用確保に向けて活動をしています。
  さらに、消費に関する様々な被害があります。特に問題になっているのは、サラ金や消費者金融における多重債務問題です。この場合は、地域の弁護士会や都道府県の消費生活センターに相談できるしくみがあります。

(2)「リスク」に対応する社会保障制度
  日本には、人生の様々なリスクに対応する制度として、5つの公的な社会保険制度と社会福祉サービス、雇用・就労支援などがあります。
  5つの公的な社会保険制度には、①病気や怪我に対する医療保険制度、②年老いたときに給付する年金制度、③年老いた親の介護をカバーするための介護保険制度、④失業した場合の雇用保険制度、⑤仕事上でケガなどを負った場合に補償を受けられる労働災害補償保険制度、があります。
  公的な社会保険とは別に、児童福祉、障害者福祉、生活保護などの社会福祉サービスがあります。また、雇用や就労支援などに関する法律や制度もあります。たとえば、労働者の権利を守る基本的な法律として労働基準法があります。労基法では、1週間の労働時間は40時間が原則としています。また、1時間あたりの最低賃金を決め、それ以下の金額で働かせてはいけないという最低賃金法もあります。ほかに、障害者の雇用促進のための法律などもあります。

(3)ライフ・ステージを支える社会保障制度
  私たちの生涯においては、ライフ・ステージごとに様々な社会保障制度があり、私たちの生活が支えられていることがわかります。出産に関しては、妊婦の健康診査が定期的に行われています。乳幼児がケガや病気をしたときは、医療保険制度でカバーされるようになっています。保育サービスも児童福祉法で定められています。所得保障の分野としては年金制度があります。さらに、病気やケガなどでどうしても働けず、収入が得られなくなった場合には、最低限度の生活を生活保護制度で支えるしくみがあります。このように、私たちの生活は社会保障制度を抜きには考えられず、私たちの生活において不可欠な制度だといえます。このような制度基盤の上に、私たちの生活が成り立っていることを理解してほしいと思います。

2.労働組合の社会的セーフティネット機能の強化
  働く人たちのリスクを考えた場合、労働組合も社会的セーフティネット機能の一翼を担う役割をもっています。どのような役割を持っているのか、具体的にみておきます。
  現在、非正規労働者が増加する一方で、正規社員の働き方にも問題が出てきています。特に、30歳代の男性で長時間労働が多くなっています。その結果、メンタルヘルス不全や過労死、あるいは過労自殺という悲惨な現実もあらわれてきています。また、残業しても残業代が出ない不払い残業(サービス残業)も頻繁におこっています。労基法では、時間外労働について、労働者の代表と使用者による協定(三六協定)を結ばなければならないとしています。しかし、労働組合が普段から厳しく職場をチェックして、協定内容を徹底させていかないと、サービス残業や長時間残業になってしまう場合もあります。長時間労働を是正していくことも、労働組合の大きな役割です。
  また労基法では、残業をした場合、最低でも25%の割増賃金を支払わなければならないことになっています。最近、この割増率を引き上げる改正法が国会で成立しました。さらに、労働組合は、この割増率を法定レベル以上に引き上げる交渉を行うこともできます。法律を守らせたり、法律以上に割増率を引き上げたりすることは、労働組合の交渉力にかかっています。
  現在、パートや派遣労働者など非正規労働者は、全労働者の3分の1を超えています。職場の3人に1人が非正規労働者という現状ですが、非正規の人たちは、賃金が低く、労働条件が悪い状況にあります。非正規の人たちの賃金や労働条件の改善も、労働組合の取組むべき課題です。
  このように、働く人たちの雇用を守り、賃金や労働条件を改善し、権利と安全を守るということは、労働組合があってはじめてできることだといえます。すなわち、労働組合が社会的セーフティネット機能の一翼を担っていると、改めて強調したいと思います。
  最近、大学生の内定取り消しがマスコミで報道されていますが、内定を取り消すということは、通常雇用されている場合の解雇とは若干扱いが異なりますが、法律上強い規制がかかっています。連合でも、学生からの内定取り消しに関する電話相談を受ける活動をしています。

3.社会保障制度(医療制度、年金制度)
(1)家族扶養から社会保障へ
  社会保障制度には年金制度、医療保険制度などがありますが、これらがどういう機能をもち、社会的にどのように発展してきたのか、簡単に説明します。
  かつて日本は、大家族を中心とした農業社会でした。これは、日本でもヨーロッパでも同じような形態ですが、大家族の時代は、自分の子どもや親の面倒は家族内でみるのが基本でした。都市部で働いている子どもも、田舎で暮らしている親に仕送りする形で、家族内での扶養を分担してきました。しかし、工業化や都市化が進み、都市に労働者が集中した結果、大家族主義が崩れ、核家族へと家族形態が変化しました。このような経済的、社会的変化は、とりわけ高齢の親を家族だけで扶養することを非常に困難にしました。そのため、国民が保険料や税金を支払うことで、公的な社会保障制度によって高齢者の生活を支えるしくみとなったわけです。
  要するに、かつての家族扶養から社会保障制度へと進んできた歴史的な経過の中で、現在の社会保障制度である医療や年金制度が形成されてきました。医療・年金制度はずっと昔からあったわけではなく、特に日本では、戦後になって、整備されてきたものなのです。そして、社会の変化に応じて、しばしば各制度とも改革が行われてきているのです。

(2)医療制度・医療保険制度のしくみ
  次に、医療制度・医療保険制度のしくみについて簡単に紹介します。医療保険にはいくつか種類があります。民間のサラリーマンの場合、大企業に勤めていれば健康保険組合、中小企業で働いている人は政府が直接運営している政府管掌健康保険(=政管健保)のどちらかに加入しています。また、公務員は共済組合、自営業や農業をしている人は、各市町村の国民健康保険に入っています。
  このように種類は分かれていますが、基本的なしくみは同じです。加入者が自分の入っている保険者、あるいは健康保険を運営している機関に保険料を納めます。サラリーマンが病院で受診した場合、かかった費用の3割は自己負担となり、病院の窓口で支払います。残りの7割の費用は、その病院が医療保険者に保険給付の請求をします。たとえば、入院して手術を受け10万円費用がかかった場合には、病院に支払う自己負担は3万円となり、残りの7万円は、病院が医療保険者に請求をするということです。国や都道府県、市町村は、各保険者に一定の税金を投入して、全体の医療制度を運営するしくみになっています。
  医療保険の給付にはいろいろな種類があります。たとえば、出産時に給付される出産育児一時金です。これは、子どもを生むと一人につき35万円の一時金が支給されるというものです。出産は多くの費用を要しますが、病気やケガをしたときの現金給付と違って、一旦自分で負担しなければなりません。そのため、後から35万円の一時金を受け取り、その負担の一部をまかなうしくみになっています。このほかに、死亡した時の埋葬料として5万円給付される制度などもあります。

(3)年金制度の役割
  次に年金制度について説明します。年金というのは、簡単にいうと、毎年一定額の現金を受け取る、あるいは給付をする制度をいいます。年金には、国が管理運営している公的年金、企業独自で持っている企業年金、あるいは生命保険などの金融機関が運営している個人年金などがあります。基本的には、公的年金制度がメインであり、全員が強制的に加入するしくみになっています。
  公的年金の種類には、長生きした場合のリスクに対応する老齢年金、障害を負った場合の障害年金、家族の稼ぎ頭が亡くなった場合に残された家族に給付される遺族年金があります。公的年金は、社会連帯で助けあうしくみとなっています。

(4)公的年金制度のしくみ 
  公的年金は、国民年金(基礎年金)の上に、厚生年金保険と共済年金がのっている2階建て方式になっています。民間企業で働いている人は、国民年金の上に2階部分として厚生年金に加入し、公務員は共済年金に加入しています。つまり、サラリーマンは、二重に年金に加入していることになります。
  国民年金は、20歳をすぎれば、日本に住んでいる人なら外国人も含めて全員が加入するしくみです。学生の皆さんも、20歳になると国民年金に加入しなければなりません。これは法律に書かれていることです。
  今、国民年金は、40年間かかさず保険料を払い続けると、生涯にわたり月額7万円弱が給付されます。その費用の3分の1は国庫から負担されますが、来年からその割合が2分の1に引き上げられると決まっています。しかし、国の財源の確保が困難な状態にあるということで、引き上げの実施は具体化していません。連合は、年金制度の安定化のために国庫負担(税金)の引き上げをずっと主張してきました。ようやく4年前に法律で明記されたので、連合としては引き続き、その実現を強く主張しているところです。
  国民年金は、保険料の納め方の違いによって、第1号、第2号、第3号とグループ分けされています。第1号は20歳以上60歳未満の自営業者、農業者等です。この人たちは、毎月一定額(2008年度は14,410円)を納めます。第2号が民間サラリーマン・公務員です。このグループは、厚生年金や共済年金の保険料の中に国民年金保険料も含む形で一括して納めるしくみになっています。第3号は、第2号のサラリーマン・グループに扶養されている配偶者で、一般的には専業主婦といわれる人たちです。第3号は直接保険料を払う必要がありません。第2号の厚生年金・共済年金の制度の中で、第3号の保険料分も負担している形になっています。

(5)年金制度と学生生活
  国民年金は、以前サラリーマンの妻である専業主婦や学生は任意加入だった時代がありました。そのため、20歳を過ぎて国民年金に加入しないまま障害者となった場合、障害年金の支給が受けられないという問題が生じ、学生で無年金の障害者が全国で訴訟を起こしました。自分たちが任意加入だった時の年金制度の不備なのだから、障害年金を補償すべきだと主張したのです。結果として、一部その主張が認められ、救済が行われました。
  こうした制度上の不備を改善するため、現在は、20歳以上の人は学生も含めて、すべて強制加入となっています。しかし、学生の場合はたいてい収入がなく、保険料が支払えないので、その場合は国民年金の「学生納付特例制度」が利用できます。在学中は保険料納付が猶予され、卒業後に未払い分の保険料を後払いするという制度です。この制度を利用したい人は、20歳になったらぜひ「学生納付特例制度」の申請を居住地の市町村窓口でしてください。申請を忘れてしまうと、障害を負った場合、障害年金が受けられなくなります。大学にもこの制度についてのパンフレットが置いてあると思います。

4.機能不全に陥った社会的セーフティネット
  医療制度や年金制度などの社会保障制度が、日本の社会的セーフティネットの基盤をなしていると説明しました。ここでは、現実においてそれがきちんと機能しているのかということについて、話したいと思います。

(1)社会保障制度から排除される非正規労働者
  連合は、今の年金制度と医療制度は十分に機能を発揮できていない、むしろ、機能不全に陥っているのではないかと評価をしています。なぜかというと、働く現場で非正規労働者の比率が3割を超えてきている中、彼らの働き方は一般的に不安定で低賃金であるため、働いても生活できない「ワーキングプア」という人たちが出現しています。ネットカフェ難民などと呼ばれる人たちも増えている状況にあります。偽装派遣、違法な日雇い労働者の問題も出てきています。
  しかし、これらの非正規労働者には、現行の社会保障制度は行き届いていません。なぜならば、今の医療制度や年金制度は正社員を対象にしたものだからです。非正規労働者は、企業を通じて加入する厚生年金、健康保険あるいは雇用保険に入れません。このため、非正規の人たちが失業しても、失業給付が出ないのです
  日本は一応、皆保険・皆年金制度として、全ての国民が何らかの医療保険制度や年金制度に加入しているのが建前となっています。会社を通じて加入する社会保険制度から外れても、市町村が運営する国民健康保険、あるいは国民年金に入ることになっています。ただ、保険制度ですから、保険料を納付しないと、制度を利用することはできません。しかし、低賃金の非正規労働者は保険料を納める余裕がないため、結果的に国民健康保険や国民年金から外れてしまう人たちが増えているのです。なかには経済的な理由で自殺する人もいます。今の日本は、社会的セーフティネットから、多くの非正規労働者が排除されてしまう状況になっているのです。
  本来、そういう人たちに対しては、公的扶助制度として生活保護制度があります。しかし、これも十分に機能しているとはいえません。現在、全国で約112万世帯が生活保護を受けており、低所得者層の増加でその数はかなり増えました。受給者の増加で生活保護に充てる財政が逼迫しているため、市町村の窓口では生活保護を厳しく制限している状況です。そのため、生活保護を受けたいと思っても、なかなか給付を受けられず、この制度から外れてしまう人たちが多いというのも現実です。

(2)福祉の最後の砦?―刑務所
  その結果、刑務所が最終的な福祉の「砦」となっています。全国の刑務所では、高齢者や心身に様々な疾患を持った人、あるいは外国人労働者が急増しています。本来、こういう人たちは、正規で働ける場や、生活のリスクをカバーする社会保障制度がしっかりしていれば、刑務所に入る必要はなかったと考えられます。しかし、ホームレスやワーキングプアと呼ばれる人たちは健康保険に入っていないので、病気やケガをしても病院にかかれませんが、刑務所にいれば、病気やケガをしても医師に診てもらうことができます。また、朝昼晩と三食の食事もでます。高齢の受刑者は健康のためにケアも受けられることになっています。これらを考えると、実際の社会より刑務所のほうが暮らしやすいというわけです。このように、まったく逆転した状況になっているのが、今の日本のセーフティネットの現実です。

5.連合の社会保障制度改革の取り組み
(1)三層構造による再構築
  連合では、これらに対する解決策として、三層構造による「社会的セーフティネットの再構築」を提案しています。この三層構造は、第1層は、雇用政策との連携による社会保険・労働保険の機能強化、第2層は、長期失業者等への「就労・生活支援給付」制度の創設、第3層は、住居扶助の社会手当化など生活保護制度の抜本改革、という構造になっています。
  もう少し具体的に説明しますと、自立支援に向けた積極的な雇用政策、労働市場政策の実施です。まず、働く場をどう作るか、あるいは非正規労働者を正規労働者に転換するために、様々な就労支援、職業訓練を行います。例えば、ネットカフェ難民やワーキングプアの人たちが、正規で働く場に戻るための職業訓練、就労支援プログラムを作ります。それとともに、働いている人は正規、非正規に関係なく、全て雇用保険や社会保険に加入できる制度に創り変える必要があります。
  さらに、職業訓練を受けている間、一定の所得(生活)保障をしていくことも必要です。すでに、ヨーロッパではこうした制度が以前からありますが、これを参考にして、日本でも「就労・生活支援給付金」という新しい制度の創設を強く主張しています。
  同時に、生活保護制度の見直しも必要です。低所得層の自立支援に向け、生活保護の住宅扶助を見直して社会手当の住宅補助として給付し、生活を支えていくことを通じて、正規労働の場に戻れるようにしていきます。

(2)労働組合と社会保障との関連
  では、なぜ、労働組合が、社会保障制度の改革を大きな課題としているのでしょうか。
  社会保障制度は「助け合い、社会連帯」が制度の原則です。この「連帯」というキーワードはまさに、労働組合の原点であり、力の源です。そういう意味で、社会保障制度と労働組合の原理・原則は共通であり、社会保障制度の改善・改革の担い手は、労働組合自身であるべきだということです。それが、労働組合に与えられた社会的・歴史的責務であると自覚して、社会保障制度に関与して取り組んでいます。

(3)社会保障制度改革に向けての取り組み
  三層構造の考え方をどう実現していくかということですが、新しい法律を作る場合は、国の審議会で審議します。労働組合代表、経営者代表、学者などのメンバーが審議会を構成しています。特に、労働に関することや、社会保障に関する審議会には、必ず連合の代表が委員として入ります。私も社会保障審議会・年金部会などの審議会委員をしています。
  その審議会に、連合の考えを意見として出します。そこで、合意がなされれば制度に反映され、新しい法律となります。しかし、審議会には経営側の委員もいますので、連合の要求がそのままストレートに反映できず、不十分な内容になってしまうことがあります。そうした場合には、国会で、民主党と連携して、その法律の修正・改善に取り組みます。
  あるいは、直接、麻生総理なり政府に要請を行うこともあります。最近も、連合の髙木会長が麻生総理に、緊急雇用対策の申し入れをしました。その申し入れ内容のいくつかが認められ、厚生労働省では緊急雇用対策本部を作り、当面実施する雇用対策を発表することになりました。このように連合が申し入れをした内容は、いくつか実現をしています。先ほど述べた三層構造による新しい制度の提案も、厚労省が先取りする形で、一部実施しています。
  このほかにも、国会前での座り込み行動や、主要な駅前で市民に訴える街宣行動も行っています。そうした大衆行動を通じて、私たちが掲げている政策をより多くの国民のみなさんに理解してもらおうということです。みなさんに理解してもらうことにより、政府や審議会で、私たちの意見を反映させる力になると考えています。

6.消費生活における若者のリスク
  最後に、消費生活における若者のリスクについて触れておきます。今、携帯電話やインターネットにおける詐欺など、消費における様々なトラブルが日常的に起きています。特に、重要なのは、消費者ローンやクレジットカードなどを利用して、様々なところから借り入れた結果、多重債務となり、返済できなくなってしまう問題です。
  今、サラ金でお金を借りている人は、全国で2000万人いるといわれています。そのうちの4割が20代です。若い人たちにとって、サラ金は極めて深刻な問題だといえます。政府もこの問題を放置できないということで、内閣府に対策本部がつくられ、様々な対応策を協議しています。
  多重債務になった理由をみると、収入以上に借入をして買い物をするという、無計画な借入が挙げられます。あるいは、リストラされて賃金が得られず、サラ金から借りてしまう場合もあります。また、知り合いから頼まれて保証人になり、借金の肩代わりをするという場合もあります。単に自分だけのせいではなく、外部的環境が関係している場合も多いことから、多重債務にならないための対策を知っておくべきだと思います。
  たとえば、サラ金で100万円借りたとします。金利が年20%とすると、5年目には最初の借り入れ金額の2.5倍に膨れ上がり、250万円を返済しなければなりません。そして、それが返済できず、また新しいところから借り入れてしまう状況になっています。これが多重債務といわれるものです。そうならないために、サラ金から借りても一本化していく、あるいは不当に高い金利で借りている場合は金利を引き下げ、高金利分を取り戻すということが必要です。
  そのための相談窓口が、市町村や弁護士会、あるいは各県の消費者センターなどにあります。また、労働組合でも連合埼玉では、そのような生活相談に応じています。ぜひこういうところで相談をして、対策を考えていかれるといいと思います。
  最近、サラ金の上限金利を引き下げるという取り組みが行われています。今までは、サラ金側が20~30%の間で金利を自由に選択できるなど、大きな問題でした。それに対して、労働者福祉中央協議会などが中心になって、金利の上限を20%以下に下げるべきという署名活動に取り組んできました。その署名を国会に提出し、上限金利を20%以下に引き下げることを法律化しようとしています。こういう取り組みを行っていることについても、ぜひ理解してほしいと思います。
  現在、こうした様々な消費者問題を一括で管轄する「消費者庁」という新しい省庁を作ろうという提案も出されています。
  今日は、社会保障制度や消費者金融の問題について、連合がどのような取り組みをしているのかについて、お話ししました。これで終わります。ありがとうございました。


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