埼玉大学「連合寄付講座」

2008年度後期「若者・働き方・労働組合」講義要録

第9回(11/26)

「労働組合の力を信じて」
~若者による組合づくりのいま~

パネリスト: 上山大輔 ソクハイユニオン執行委員長
  原 和人 メガネスーパー労働組合書記長
コーディネーター: 山口洋子 連合副事務局長

1.労働組合結成の背景

司会: 今日は、「労働組合の力を信じて~若者による組合づくりのいま~」というテーマで、パネルディスカッションをします。パネリストは、ソクハイユニオン執行委員長の上山大輔さん、メガネスーパー労働組合書記長の原和人さんです。コーディネーターは、連合副事務局長の山口洋子さんです。では、さっそくお願いします。

山口: 今、労働の現場では、皆さんと同世代の若者たちが大変な状況に置かれています。背景の一つには、長期的に人を育てる力量が企業になくなってきたため、すぐに即戦力になる人材が求められてきています。それから、労働の規制緩和という流れの中で、非正規労働者が大変増えたことです。それらの人たちは、総じて低賃金で労働条件も劣悪であり、企業にとって使い勝手がいい働き方をさせられています。このような状況に多くの若者が置かれており、その立場は辛いだけでなく、大変弱いものです。そして、辛い、弱いというのが、マイナスのスパイラルとなって、将来設計もできない状況にいるのです。
そうした中で、こちらのお二人は、自分たちの未来をきちんと構築していくために立ち上がった若者です。お二人は辛い、弱いという状況の中で、労働組合を自ら作ってこられました。今日は、ぜひ、このお二人の若者の闘いの歴史に耳を傾けていただきたいと思います。まず、今の職業についたきっかけについて、お話いただきたいと思います。

上山: 上山と申します。よろしくお願いします。就職活動の経験はありません。もともと自転車競技をやっていたので、高校卒業後も、そちらの方向を目指していました。しかし、なかなかうまくいかず、アルバイトをしながら生計をたてていました。ある時、テレビ番組で、企業間の書類などを配達するニューヨークのバイクメッセンジャーというものを知りました。その仕事の模様をたまたまテレビで見て、街中を自転車で走り抜けるシーンを単純にかっこいいなと思い、大変感銘を受けました。その後、自転車雑誌に日本のメッセンジャーのことが載っていて、それがこの業界に入るきっかけとなりました。プロ選手にはなれませんでしたが、自転車で生計をたてることができたことには満足をしています。

 原: メガネスーパーの原と申します。今の職業に就いたきっかけは、学校を卒業するときに、たまたま募集していた会社の事業内容に、ホテル、牧場、プロレスとあり、軽い気持ちで行ってみたら、メガネスーパーだったという経緯です。当時は、特に今の仕事に思い入れがあったというわけではありませんでした。

2.労働組合結成までの流れ

山口: 今の職業についたきっかけは、お二人には少々違いがあるようです。ただし、今のお話では触れていませんが、労働組合がない職場だったという点は共通しています。そのため、自分たちで労働組合を作っていくことになるわけです。お二人は、労働組合のない職場で働いていたことを意識していたのでしょうか。そして、労働組合を作ることになったきっかけや、それを通してのさまざまな出来事についてお話しいただきたいと思います。

上山: 最初にソクハイの仕事に就いたときに、労働組合について全く認識はしていませんでした。新聞やテレビなどを通しての労働組合は、荒っぽく、少し怖い組織だという程度の知識しかなかったです。
 労働組合を結成する以前は、株式会社ソクハイでは、労働条件や職場環境の改善を話し合う場がなく、個人が声をあげることも事実上不可能でした。ソクハイは、自転車のほかにオートバイ、軽自動車なども使って業務を展開しています。仕事の性質上、公道を使って配達をするので、常に危険と隣り合わせの状態です。年間約400件の事故が発生していて、日に1、2件は必ず起こっている計算です。不幸にも、年間一人くらいは命を落とされます。労働条件も厳しく、働いている人も長続きしないという状況が、ずっと続いていました。
 そうした状況を打開しようと、組合を結成する前年の2006年に、会社の上層部と話す機会を利用して、職場の労働条件の改善を提案しました。しかし、何も変わらず、逆に、給料システムの変更や賃金の引き下げなど会社からの要求だけが、勝手に決められていきました。労働環境はかなりひどく、事故にあったとしても、保障は何もありませんでした。そうしたことから、労働組合を立ち上げました。
 なぜ、労働組合という手段を選んだかと言うと、私たちの場合、労働条件の改善だけではなく、偽装請負という問題も抱えていました。どういうことかというと、会社との契約は、自分の裁量で仕事を進める個人請負契約という形なのですが、実際には会社の指示を受けており、働き方は正社員と同じであるということです。そのため、個人ではなんとかできる問題ではないということで、労働組合を選択しました。
 しかし、労働組合を作るといっても、どうしたらいいのか、全くわかりませんでした。労働法の本を見てもそういうことは書かれておらず、路頭に迷いかけていたときに、友人から連合東京を紹介されました。すぐ電話をして相談にのってもらい、組合を作る段取りの説明や必要書類の準備をしていただきました。そのとき対応していただいたのが、組合作りを中心に活動している古山さんでした。
 組合結成までに一番苦労したのは、結成を会社に通告するまでは、行動が会社にばれないようにする、ということでした。もし、会社にばれてしまったら、自分たちの志が挫けてしまいます。ソクハイの従業員は、正社員197名のほかに500名います。その500名にまず話をしようということで、都内30ヵ所にある営業所へ話に行き、営業所長に話した結果、数十名が加入してくれました。

 原: メガネスーパーでは、一般社員と呼ばれる店頭の従業員には、あまり深刻な問題はありませんでしたが、お店を任される店長には、今話題になっているいわゆる「名ばかり管理職」問題がありました。売り上げ目標に足りなければ、店長だけ営業時間を過ぎても残るのが当たり前、休みの日も売り上げが少なければ出勤するという状態が続き、他の地域も、どこも同じような状況でした。ここ2年ほどで状況がさらに悪化し、退職する人が多くなってきました。店長だけでなく、新入社員もすぐ退職してしまいます。理由を聞くと、仕事自体が嫌というわけではないが、会社の方針や、やり方についていけない、という意見が多く出されました。
 あるとき、新潟に会社の幹部が来るため、県内の全店長を集めろということになりました。中には、休暇をとって家族旅行を計画していた店長もいましたが、会社の一大事なのに出てこない店長はいらないと言われ、旅行をキャンセルさせられました。そこで今まで身を粉にして働いてきた店長をすぐに切るという言い方をしたことが、問題になったのです。このことが、労働組合を立ち上げる一番大きな要因となりました。
 昨年11月17日に、新潟県内の2市の店から2人ずつカラオケボックスに集まり、労働組合を立ち上げる相談をしました。いろいろな方法を模索していくうちに、社労士から連合を紹介してもらって、労働組合を立ち上げることになりました。
 実は、メガネスーパーでは、約10年前にも労働組合を立ち上げようとして、会社に潰されたことがありました。そのため、今回は慎重に事をすすめていきました。週に一度、営業終了後の夜9時半頃から夜中1時過ぎまで、連合新潟に集まって話し合いました。はじめは、新潟県内の4人からスタートし、全国的に広げていく計画でしたが、奇跡的に約1ヵ月で120人が集まり、会社に漏れることもなく、労働組合を結成しました。まずは、連合新潟のメガネスーパー支部という形で立ち上げました。
 当然、会社は猛反対でした。会社は、新潟県以外の営業所に、労働組合は会社を潰すと訴えかけました。そんな中でも、2ヵ月のうちに13県で組合が立ち上がりました。
このとき、我々が目指した形とは別の労働組合が、同時に立ち上がりました。同じ企業の中に2つ組合があると方向性が揺れてしまうということで、お互いに話し合い、今年4月に全国を網羅する「メガネスーパー労働組合」が誕生しました。この結果、産別組織には、連合傘下のUIゼンセン同盟に加盟しました。UIゼンセン同盟では、流通部会に所属し、同業種の組合が集まって情報交換をしたり、今後の方向性について議論したりして、活動しています。

山口: 上山さんは、組合を作るときにお一人で百数十名を誘われましたが、そのときの反応はどうでしたか。上山さん自身はいろいろな思いがあったと思いますが、周りの人も同じ思いだったのでしょうか。みんなは労働組合と聞いてどういう感じを持っていましたか。

上山: 一人で、百数十名全員に話をしたわけではなく、各営業所を回って、所長の一人ひとりに話をしました。9営業所のうち8の営業所長からは、すぐに賛同を得られました。営業所長は、入ってくる従業員の管理を任されていますので、入ってもすぐ辞めてしまうことに対して、何とかしたい気持ちがあったのです。その部分で意見が一致しました。残りの一人の営業所長には、賛同は得られませんでした。今でもなんとか入ってほしいと理解を求めているところです。

山口: 原さんが、メガネスーパーで労働組合を立ち上げるために連合に来られたとき、いわゆる労働運動家とは、全くかけはなれた雰囲気でしたので、とても驚いた覚えがあります。逆に、原さんは連合に来たときに、どういう感想をお持ちになりましたか。

 原: 私も労働組合を作る前は、組合は旗を振っているイメージが強かったものですから、屈強な男性が大勢いる場所と考えていました。でも、実際に連合の事務所に伺うと、女性もたくさんいて、年齢もさまざまで、イメージが崩れました。どこの連合に行っても、丁寧に話を聞いてもらったうえで、返答やアドバイスをいただき、ありがたかったです。

3.労働組合結成後の状況

山口: お二人の話で共通しているのは、そこの仕事が嫌なわけではないということですね。ただ、労働条件が劣悪であるということです。
 上山さんのところは、先ほど偽装請負という話が出ましたが、請負というのは、労組法上では労働者として認められない働き方です。そのため、勤務中に怪我や命にも関わるような事故があっても労災の対象にもなりません。本来、雇用労働者には労災が適用され、きちんと手当をするとか、休んで治療することが可能なのですが、偽装請負はそういうことを免れる、非常に劣悪な労働条件です。
 原さんのところでは、本来は管理職とはいえないのに、管理職のような労働条件で使われていました。重いノルマや長時間労働に耐え切れず、会社を辞める人が多くいました。そうした状況を見過ごすことができず、労働組合の結成に立ち上がったわけです。お二人とも、職業や持ち場が違っても、同じような気持ちで労働組合を作ったのだと感じました。
 今、多くの若者達が使い捨てをされています。彼らはそれを仕方がないと思い、労働者として保護されるさまざまな権利を知りません。どんなに低い給料でも、危険な仕事を労災保険なしにさせられても、それは仕方がないと受け止め、限界まできたら辞めてしまうのです。しかし、我慢の限界を越えたところで行動を起こしたお二人は、賞賛に値する方たちだと思います。こういう方たちがもっと増えていくように、連合はサポートしなければいけないと思います。
 話を次に進めます。労働組合は、結成してから大変な部分があります。お二人が組合を作られた結果、職場の状況はどうなったのでしょうか。組合員、また労働組合のカウンターパートナーである会社は、どう変わったのでしょうか。

 原: 組合結成後は、ユニオンショップ協定を結び、全従業員が組合員になりました。しかし、その結果、組合員からはわがままが多く出るようになりました。だんだんエスカレートしていく組合員の要求に対して、どう対応していけばいいのか、難しいところですが、今は、労働組合は最大の苦情処理係だと思って、がんばっています。
 メガネスーパーは、30年間オーナー企業でやってきました。労働組合ができて、多少変わり始めていると実感するのは、たとえば、売り上げが悪いからサービス残業をしなさい、という言い方がなくなってきたことです。そうした部分では、労働組合ができた意味があったと思います。
 また、店頭ではメガネ以外にゲルマニウム商品も販売しています。これについて、お客さんからも、メガネを買いにいったのに、ゲルマニウム商品をすすめられたと、クレームがあることが認められてきました。これについても、ゲルマニウム商品が売れなければ帰さないという部分は、だいぶ緩和されてきました。
 今後、組合としては、給料と一時金の査定基準を明らかにしていかなければいけないと考えています。実は、夏のボーナスについて、社長が一言「ボーナスはこのままだと50%だ」と発言したことが大問題になりました。このようなことを言われると、先が見えなくなり、やる気が失われかねません。こういった話が軽々に出ないようにすることが、これからの目標になっていくと思います。
 労使関係は、まだまだ円滑ではありませんが、会社は経営者のみのものではなく、そこで働く従業員がいてこそ会社が成り立つのだということを、経営側にもわかってもらうようにするのが、労働組合の役目だと思っています。

上山: 組合を結成してから、現場の士気は上がってきたと思います。これまで先が全く見えない状態だったので、皆さん非常に不安だったと思います。そういった中で組合という期待できるものがようやく現れたということで、今は職場の問題に対して、いろいろな意見が、執行部にくるようになりました。それまでは、会社のいいなりでしたから、それを変えることができたのは非常に大きなことだと思います。
 しかしながら、組合を結成した結果、逆に、会社との関係は非常に悪い状態になっています。私は、今年9月に経営的な理由ということで解雇されました。このため、11月5日に東京地裁に提訴し、争っている最中です。
 労働条件の改善は少し進みましたが、根本的な部分での解決には至っていません。しかし、組合結成によって厚生労働省を動かすことができました。昨年9月27日に厚生労働省から、我々メッセンジャーバイク便の働き方というのは、請負ではなく、労働者性がある、という見解を示す通達が出されたのです。それによって、労災が適用されることになり、事故で怪我をした人の救済ができるようになりました。まだ、適用者は一人ですが、このことは、組合を結成した一番大きな成果だと思っています。

4.質疑・応答

山口: 労働組合を作って、企業や職場の中がどのように変わってきたのかを、お一人ずつ伺いました。労働組合ができると、今まで諦めてきた労働条件に対して、何か解決できるかもしれないと、組合員が自覚をするようになってきます。すると、組合員がわがままになってくる、という原さんのお話がありました。また、企業も会社は自分たちだけのものではないと認識できていない状態のようです。労使関係は、時間や活動の積み重ねが大切なのだと思います。
 上山さんのところでは、労働組合の結成で一部改善はできましたが、根本的なところがまだ改善されていません。特に経営者の思いや行動が、全く改善されていない状態だということでした。そのため、上山さんは裁判で闘っているわけです。一方では、上山さんたちが行動したことによって、厚生労働省の労働政策審議会の中でその状況が報告され、連合は、ソクハイの配送者は労働者である、と主張をしました。それが通達という結果になったわけです。通達として出されるということは、世の中を動かすことにつながります。悩みながらも、自分たちの成果が確実にあらわれていると感じていることを伺いました。
 ここで、皆さんからの質問を受け、さらにお二人から話を引き出したいと思います。

質問: 上山さんに対して、組合を作ろうとして解雇されてしまったことについて、いろいろと質問が出ています。なぜ解雇されてしまうのか。解雇されて今は困っていないか。これからどのようにしてやっていくのか。これらについて、いかがでしょうか。

上山: 解雇された一番の理由というのは、明らかに不当なことです。経営上の理由というのは表向きで、組合の委員長をやっているからというのが、一番の理由だと思います。上層部の人の話では、ここ最近、会社の業績が非常に悪化しており、その中で、組合の意見を聞く余裕はなくなったという意思表示のために、解雇したということだそうです。非常に安易でばかばかしい決断で、それを受けて今闘っています。
 現在は、組合の専従というかたちで組合から給料をもらって、組合活動をしながら、生計を立てています。ただ、金銭的に体力のある組合ではないので、それほど長くは続けられないと思います。解雇撤回に向けて裁判をしている最中は、組合員から外れることはありません。会社には組合に関する権限はないので、現在も組合委員長を続けています。

質問: 原さんに対して、組合を結成してから、組合にできないことまで要望があるというお話でしたが、たとえばどのようなものがありますか。

 原: 一番多いのは、金銭的な要望です。今年の夏のボーナスはだいぶ低かったのですが、実際には社長の一言で決まったわけではなく、売り上げ状況を加味してのことでした。それを組合は許してもいいのか、ということなどです。
 また、全国展開の企業なので、どうしても転勤ということがついてきます。その転勤を自分の希望どおりにすることは、人事権は会社にあるので、組合だけではできません。転勤するためのルールや決まりを労使で作ることはできますが、異動先の店舗を選べるようにすることまでは、組合の範疇ではありませんと回答しています。

質問: お二人に次のような質問が出ています。労働組合がない会社で、労働条件が悪いと感じるとき、転職か、組合を作るか、どちらをすすめますか。

 原: 私は販売業ですが、正直に申しますと、この職種に向いていない方も実際いらっしゃるので、そういう人には転職をすすめてもいいと思います。ただ、仕事が好きでやっている、仕事をやっていきたいというのなら、ぜひ、組合を作るほうがいいと思います。組合はそれほど堅苦しいものではありません。自分たちの要求の全てがすぐに解決するわけではありませんが、職場の風通しをよくすることにもなるので、その会社でがんばりたいという方には、組合を作ることをおすすめします。

上山: 私も原さんとほとんど同意見です。仕事が好きで、そこに残って仕事を続けていきたいという思いがあるのなら、労働組合を作っていくべきだと思います。組合を作るといっても、必ずしも自分が先頭に立ってやる必要はないと思います。たまたま、僕は組合の委員長までやることになってしまいましたが、最初は、職場の友人同士で相談していくところから始めればいいと思います。気軽に、というのも変な話ですが、機会があれば、ぜひ組合を作ることをおすすめします。

質問: 労働組合を作ったあと、会社で仕事がしづらくなるということはありませんでしたか。また、組合に入らない人もいるということは、入ることで何かデメリットになることもあるのですか。

上山: 組合活動は民主的な取り組みなので、入るのも入らないのも、本人の自由であると思います。組合に入ることのデメリットは、結成当初は、組合活動によって首を切られてしまう危険性もあるということでしょうか。しかし本来は、会社側の不当労働行為にあたるので、心配入りません。しかも、自分たちの職場環境をよくしていけるわけですから、メリットの方が大きいだろうと思います。

 原: 最初は、会社自体が労働組合とはどういうものかわかっていなかったので、必死に組合員が広がらないようにしていました。連合が勧誘にきても、仕事中だからと丁寧に断るようにというFAXを、全店に流すなどしていました。しかし、法律で組合は守られていることや、組合活動を阻止するような行為自体が法律違反であると話したところ、こういう圧力はなくなりました。やはり知識だけは持っていた方がいいと思います。
 加入のデメリットは、ほとんどないです。組合を立ち上げて最初の数カ月は、結果が出ない組合に組合費を払うのは、デメリットになると言われましたので、何が何でも成果を出そうと思いました。最初に取り組んだのは、未払いだった休日出勤手当を会社にきちんと払わせたことです。これによって、デメリットという声が消えました。

質問: 労働者からの要望を会社側に伝えて、一番変化したことは何ですか。また、労働条件にもいろいろあると思いますが、特に重視しなければならない点について教えてください。関連して、労働者との関係が改善されていない会社もまだあるということを、改めて知りました。会社と労働者とが平等でない会社は、多くありますか。

 原: メガネスーパーで一番変化したのは、今まで未払いだった休日出勤手当の支給と、振替休日が取れる体制になったということです。しかし、全て改善されたということではなくて、会社側は、店長に対しては店舗の監督者であり、責任ある立場だから休みが少なくとも仕方がないという立場をとっています。そうしたことを全て解決していくためには、根気強く交渉していくことです。
 また、労働組合が、組合員の意見を全て要求しても、結局は相手のあることですから、一方的に言っているだけではわがままと捉えられてしまいます。会社も、自分たちが歴史を作ってきたという考えをなかなか変えられないということもあります。ですから、改善されるまで、根気強くやっていくしかないと思います。

上山: ソクハイユニオンでは、会社と話をして変わったことは、会社の本音がわかったということが一番大きいと思います。厚労省が通達を出したということもあるのですが、自分たちの立場がどのように捉えられていたのか、よくわかりました。それによって、今後どうするべきかという方向性が見えてきました。労使が良好な関係になっていくには、原さんも言われていたように、会社の意見も聞くことです。会社がなくなってしまわないため、経営が逼迫しないように活動をしていかなければいけないと思います。会社側にしてほしいことはいろいろとあると思いますが、労働組合だからこそできる活動もあると思います。ギブ・アンド・テイクという形でいてこそ、労使が対等になれるのではないかと思います。

司会: 質問について丁寧に答えていただき、ありがとうございました。最後は山口さんにまとめて頂きたいと思います。

5.まとめ~労働組合の力を信じて~

山口: お二人の話を伺って、労働組合をまだ結成して間がないとは思えないような志の高さに感動をしています。一人の労働者は弱いですが、労働組合を作り仲間を増やすことによって、劣悪な労働条件などを変えていくことができます。
 ただ、お二人がおっしゃっていたように、経営側にあれもこれもしてくれと言うだけでは、労働組合の役割を果たすことはできません。まずは、今の会社の経営状況ではどれだけのことが可能かを把握しておく必要があります。会社を持続させる中で環境整備をしていき、組合員のやる気につなげていく。この辺りを見極めながら交渉していくのが、非常に難しいところです。
 ですから、「組合員がプラスになったおかげで、企業の業績も利益もあがってよくなったではないか。だから、もう少し賃金を上げたり、労働時間短縮したりしても、大丈夫なのではないか。」というようにお互いが交渉していく。こんなにうまくいかないかもしれませんが、このようなwin-winの形に持っていければと思います。
 今、日本では事業所全体の9割が中小企業です。雇用労働者の7割が中小企業で働いているのですが、そこには1.1%しか労働組合がありません。多くの中小企業は労働組合がないために、経営者はやりたい放題です。家族的な中小企業も多いのですが、結構簡単に使い捨てもします。もし不満があれば、代わりはいくらでもいると言ってどんどん労働ダンピングをしていきます。このような経営者の考えや姿勢を変えていくのが労働組合の役割です。今、上山さんはこのような経営者を変えようと、係争中です。上山さんの背後には、彼に賛同するサポーターがたくさんいます。この訴訟は絶対に勝てるし、誰よりも本人がそう信じていると思います。
 また、原さんのおっしゃっていた風通しのいい職場というのは、自分たちが必要だったから労働組合を作ったのだ、という手応えを感じられるということです。皆さんもこれから就職活動をされていく中で、まずは労働組合のあるところを選ばれることをおすすめします。しかし、たとえ組合のないところに就職されても、諦めることはありません。上山さんや原さんのように、組合を立ち上げることもできます。連合では、今内定取り消しで大変な目にあっている大学生の労働相談もしています。厚労省とも連携をして、悪質な内定取り消しについてはきちんとした対応をすべきであるとも主張しています。みなさんや先輩の方でそういうことがありましたら、ぜひ連合にご相談ください。

司会: 最後にお二人から、講義に参加している学生達に簡単なメッセージをお願いします。

上山: これから皆さんも大学を卒業されて、いろいろな職場で働かれると思うのですが、いろんな会社があると思います。労働者のことを考えた非常にいい企業もあれば、表向きは優良企業でも、実態は長時間労働を強いる企業も、中にはあるかもしれません。就職活動では、全てを見ることはできないと思います。
 もし、自分の職場で何かあれば、絶対に一人で悩まないで、家族や友人に相談するのもいいですし、その職場に労働組合があればそこに相談することをおすすめします。なければ、労働局の労働相談室や連合の労働相談などに相談してください。悩みを打ち明けるだけでも精神的に楽になると思いますし、何か解決の手掛かりが見つかるかもしれません。そして、自分の身は自分で守る努力をしていってください。
 問題の対処法を知らなければ、不当な扱いを受けたとしても、結局は泣き寝入りをするしかありません。労働法関係の本を読むだけでも、だいぶ違うと思います。何かあってからでは遅いので、事前に準備をしておくことをおすすめします。

 原: これから社会に出るといろいろなことがあると思います。自分たちは労働組合という手段をとりましたが、他にもいろいろな方法があるかもしれません。どのような手段であっても、実際に行動してみると案外できるものです。労働組合がある企業はまだ少ないし、組合の経験がある人のほうが少ないです。ですから、もし就職した会社に労働組合がなければ、ぜひ皆さんが自分で労働組合を作っていく経験してほしいと思います。
 あとはどのような就職を選ばれるのか、いろいろな条件があると思います。我々の会社は、某雑誌に年収が悪いと書かれていました。それを改善するためにメガネスーパー労働組合はしっかり取り組んでいきますので、メガネスーパーもよろしくお願いします。

司会: では、これをもって今日の講義は終わりにします。皆さん、お三方に盛大な拍手をお願いいたします。どうもありがとうございました。

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