埼玉大学「連合寄付講座」

2008年度前期「ジェンダー・働き方・労働組合」講義要録

第9回(6/11)

非正規労働者の均等待遇に向けた取組み

ゲストスピーカー:鴨 桃代 全国コミュニティ・ユニオン連合会 会長

1.全国コミュニティ・ユニオンについて
  はじめまして、ご紹介いただきました全国ユニオンの鴨と申します。
私たちがどういう労働組合なのか、簡単に説明します。今までの労働組合は、企業の中にある労働組合で企業別労働組合といわれていました。私たちの労働組合は、コミュニティ・ユニオン(地域にある労働組合)といわれています。組合員は正社員だけでなく、パート、派遣、請負、アルバイトなど様々な雇用形態の人がいます。年齢層も幅が広く、20歳前半から、65歳を超えた人たちも。シニア・ユニオンには、70歳近い人も加入しています。
  私は、1988年に千葉で「なのはなユニオン」を結成し、約20年間職場での様々なトラブルについて相談を受けてきました。相談内容によっては、法律的なアドバイスをすれば済む場合もありますが、会社と話し合いをしなければ問題解決しないものや、労働基準監督署や雇用均等室などの行政窓口にも協力してもらったり、裁判で解決しなければいけないものもあります。このような場合、相談者に労働組合の組合員になっていただき、一緒に解決へ向けて行動する、そういう活動を柱とした労働組合です。

2.広がる非正規労働
(1)非正規雇用が急増
  今日は、非正規労働者の均等待遇に向けた取り組みについて話をさせていただきます。
  非正規労働者は20年前と比べて非常に増えました。皆さんは、非正規労働を働き方の一つとして、当然のものとして受け止めているかもしれません。しかし、私の世代では、非正規労働は主にパート労働を表していて、子育てが一段落した中高年のおばさんの仕事という感覚が強く、家計においても仕事においても補助的労働とされていました。
  今、その非正規労働者は全雇用労働者の33.3%を占め、3人に1人を超えています。女性でいえば53.5%、2人に1人以上が非正規労働者です。特にこの10年間は、ロストジェネレーションと呼ばれているように、これからの社会を担っていく若い世代の非正規化が進みました。高校・大学卒業時に正規労働者=正社員への就職の入り口が断たれ、男女とも約50%が非正規労働者になっています。
  民間の職場だけではありません。官製ワーキング・プアという言葉がありますが、公務の職場でも非正規労働者が拡がっていて、現在その数は約45万人ともいわれています。公務職場では、非正規労働者の賃金は人件費予算から出されておらず、物品費、経費等の枠から出されているため、今までその人数さえも把握できませんでした。45万人という数字は、総務省が初めて調査した数です。これは正確なところ、45万人+αだと考えています。公務職場ではアウトソーシングが進み、保育所や清掃、給食などの業務がかなり民間委託化されていますので、この点もあわせれば、もっとすさまじい勢いで非正規化が進んでいるだろうと思います。

(2)「人」として扱われない待遇
①生活できない賃金
【ワーキング・プアの増大】
  非正規労働者の大きな問題は、ワーキング・プアという言葉が的確に表しているように、働いても、働いても、一人で生活できない賃金です。埼玉県の最低賃金は702円(2007年度)です。この金額を下回らなければ法律的に違反ではありません。しかし、時給702円で年間2,000時間働いても、年収は約140万円です。今、非正規労働者の圧倒的多くの年収は200万円以下ですが、これでは生活できません。そのため、生計を維持しているパート、派遣の人は、昼間帯パートと深夜パート、土・日派遣とウィークリーはパートというように、2つ以上掛け持ちで働いていて、一日10時間以上、年間3,000時間も働いています。いわば、過労死の危険があるといわれる労働時間です。それだけ働いてもこの時給では年収300~350万円がやっと、といった状況です。

【仕事に見合っていない賃金】
  非正規労働者は賃金に対し、仕事に見合っていないという不満が大きくなっています。以前だったら正社員がやっていた仕事を、今は非正規労働者がやっているし、一緒に働く正社員の仕事と同じ仕事をやっているのにと思うからです。
  全国ユニオンでは、KDDIで働く36名の女性非正規労働者が、KDDIエボルバ・ユニオンを06年11月に立ち上げました。彼女たちは国際電話のオペレーターです。共通語は英語、その他に電話交換業務として職務上必要とされる言語は、中国語、韓国語、スペイン語、ポルトガル語など、ありとあらゆる言語を駆使して仕事をしています。時給は1300~1350円で何年働いても変わりません。この時給で1日6時間と決められていて年収は約194万円です。ここから自己負担になっている交通費、社会保険料や雇用保険料の自己負担分、さらに税金を引かれたら、年収は150~160万円です。このため、彼女たちは今年の春闘で「自分たちは仕事に誇りをもって働いてきました。けれどもこの賃金では仕事に情熱を持ち続けられません」ということで、会社に対し、2008年4月1日に施行された改正パート労働法に則り、今後5年間をかけて正規労働者と均等処遇にしてほしい、という要求を出しました。
  KDDIは右肩上がりに業績を上げている会社です。実は、彼女たちがユニオンを結成した要因は、KDDIが2006年11月に、24時間勤務のために支給されていた2,000円の深夜手当を400円にする、さらに早朝手当、土日出勤手当をすべて2分の1にする、そして有期雇用契約の契約期間を1年間から3ヵ月にするという、労働条件の不利益変更を突きつけてきたからでした。彼女たちはやむにやまれなくなり、ユニオンを結成し、春闘で要求を掲げて、それを勝ち取るために取り組んでいます。彼女たちだけでなく、多くの非正規で働いている人たちが、自分の仕事と自分の賃金が見合っていない、仕事は一人前なのに賃金・処遇は1/2ということに不満、疑問、怒りを持っています。

②有期契約
  非正規労働者のもう一つの問題点は、有期契約であることです。非正規で働くということは雇用契約において契約期間ありが多く、正規で働くということは基本的に契約期間なしです。
  日本の非正規労働者は、仕事が一時的である、定型的な業務である、代替的な場合であるなどということと一切関係なく、有期契約が当たり前とされ、契約期間も1年未満~1ヶ月と、細切れの契約を結ばされています。これは、次の契約をしてもらえるのかという不安が頭から離れない働き方です。たとえば、年休をくださいとか、仕事はこのようにやったらいいのではないかなどと意見を言いたくても、そういうことを口にした途端に、次の契約更新時に契約解除されてしまうのではないかという不安をかかえているので、物言えないで神経衰弱状態で働かされています。
  一方で、会社にとっては大変メリットがあります。労働者をいらないと思ったら、いつでも簡単に契約解除できるしくみであり、何回契約の更新を重ねても、単なる契約満了、契約解除に理由はいらないということが、会社が効率化を追求する上で必要条件となっているからです。
  2008年3月から労働契約法が施行され、有期契約であってもやむを得ない理由がある場合を除き、契約満了期間まで労働者を解雇できないとする中途契約解除規制が17条に入りました。17条2も、必要以上に短い契約期間を定めることで、その労働契約を反復更新することのないように契約をしなければならないとなっています。積極的な解釈では、入口のところで規制がかかったのではないかという見方もあります。私たちは、これだけでは不十分だと考え、理由なき有期雇用の禁止を法律にきちんと明記すべきという取り組みをしています。

(3)雇用の劣化
  非正規化の流れの中で「多様化」ということで様々な働き方が作られました。国は、労働者側の働く選択肢が増えたと前向きな使い方をしますが、実態は、企業にとって扱いやすい労働者を様々な働き方ということで作ったということです。結論的に言えば、労働者にとっては雇用の劣化が広がったということです。

①労働者派遣
【三角雇用】
  多様化の中でも、今大きな問題となっているのが、派遣という働き方です。
  派遣は、労働者が派遣元と労働契約を結びます。しかし、実際に働く場所は派遣先であり別の会社です。つまり、労働者には派遣元・派遣先という二人の雇用主がいるという働き方です。派遣元と派遣先の関係は、派遣先が派遣元に仕事を発注する、派遣元はその仕事を請けて、その仕事に見合った技術や知識などの適性がある労働者を派遣先に派遣する、というしくみになっています。
  この三者の関係の中で一番力を持っているのは、何と言っても派遣先です。派遣先が仕事を発注しないといえば、派遣元は仕事がなくなり収益が入りません。しかし、労働者にとってトラブルが起きるのは直接働いている派遣先です。契約を解除されました、セクハラがありました、などという問題が派遣先で起きた場合、本来は、派遣元がきちんと苦情処理をしなければなりませんが、派遣先からの仕事がなくなると困るので何も言えない、という力関係になっています。ゆえに、この働き方の中で一番犠牲を強いられるのは、派遣労働者です。

【派遣法の規制緩和】
  1985年に労働者派遣法が制定される際、このような三角関係の働き方について、労働者側は危惧しました。一つは、派遣先に労働者の雇用責任がないということで、働かせたい放題になるのではないかということです。
  もう一つは、派遣元が中間搾取の温床になるのではないかということです。今、派遣先から派遣元へ仕事の代金として払うのは、1日当たり平均1万5,000円といわれています。そこから労働者に賃金として支払われる額が約1万円。派遣会社に管理費名目で約5,000円、約30%が残ります。30%が妥当であるかどうかは検討しなければなりませんが、平均なので30%を超えなければ良心的といえるでしょう。日雇い派遣会社のグッドウィルやフルキャストはこの管理費が40%超で、50%にまで及んでいました。中間搾取し放題となっていたのです。
  派遣法では、管理費の上限規定が設けられていないので、こうした状況がおきているのです。85年の派遣法制定時に、労働者側はそうした危惧についてかなり問題を指摘しました。その結果、労働者派遣は専門職派遣に限るということで出発したのです。
  しかし、派遣先が労働者を扱いやすい、あるいは派遣元が中間搾取をできるという、企業にとって非常にメリットある、扱いやすい働かせ方であるということから、その後企業の現場に合わせて、どんどん法律の規制が緩和されました。96年には対象業務が26業務に拡大、99年には対象業務が原則自由化され一時的・臨時的派遣も解禁、さらに2003年には、製造業派遣も解禁されました。
  この結果、99年を境にして派遣労働者数は一気に増加しました。99年の派遣労働者数は約90万人でしたが、05年には約255万人になりました。労働者派遣事業所数も9,678ヵ所から31,361ヵ所、売り上げは1兆4,605億円から4倍に膨れ上がり、派遣は4兆円産業といわれるようになったのです。

【夢ある働き方から雇用不安定へ】
  女性の働き方という観点から見ると、正社員であっても男性と女性では賃金格差が今もってありますが、以前はもっとありました。非正規では、派遣法の制定までパート=低賃金という働き方しかありませんでした。
  派遣は制定当初、専門業務に限定されていたので、2,000円前後と高い時給が設定されていました。女性にとっては専門知識や技術があれば、それを活かした働き方ができる、自ら会社を選択でき、自ら労働日数や労働時間を選べると、派遣は一時、夢ある働き方といわれたのです。しかし、99年を境に企業にとってのみ夢のある働き方に変質させられていきました。それ以降、派遣の時給はダウンして、今は平均1,300円といわれています。それだけではなく、派遣先は専門知識や技術ではなく、容姿、年齢、家族構成、既婚か未婚か、などを条件に派遣労働者を選びたい、という要求がかなりあるのです。それゆえ、35歳を過ぎると仕事の紹介が減るということで、派遣労働者の暗黙の定年は35歳といわれています。

②日雇い派遣
【実態と問題】
  規制緩和の中で、こんな働き方までできてしまったのかというのが、日雇い派遣という働き方です。派遣会社に登録すると、前日午後3時頃までに携帯電話やメールに「こんな仕事があります」と連絡が入り、「やります」と連絡すれば、契約が成立します。翌朝、派遣会社に「今から出ます」(私たちはお出かけコールと呼んでいます)と電話をして集合先に行き、マイクロバスに乗せられて現場に連れていかれて、8時間働いて、解散場所に連れてこられて解散、という働き方です。
  この働き方は、関東周辺では日給で6,000~7,000円といわれています。これを8時間で割った場合、埼玉の最低賃金702円は下回りませんが、拘束時間の12、3時間で割った場合には最低賃金を大きく下回ります。
  さらに、データ装備費や業務管理費という様々な名目で賃金から天引きされます。グッドウィルでは一日働くごとに200円が天引きされていました。一人当たりでは小額ですが、グッドウィルでは1日1万~3万人稼働だったので、1日当たり200~600万円が入るしくみをつくっていました。その上、管理費という名目で40%超をとっていますので、ピンハネどころか、まるまる儲け状態になっていました。
グッドウィルの本社は六本木ミッドタウンにあります。私たちはミッドタウンの前で抗議行動をよく行ないますが、このミッドタウンにある勝ち組の本社を支えているのは、それこそ時給500円以下の人たちです。その時給500円以下の仕事さえなくなった人は、アパートを追い出されて、ネットカフェ難民となり、ネットカフェで寝泊りできない人は、マック難民となり、マクドナルドの100円バーガーを食べて一晩過ごして、次の朝仕事にいくという、そういった現状です。私はこの格差は本当に許せないという思いで、いつもミッドタウンの前に立っています。

【違法派遣】
  日雇い派遣が、本当に品格がないと思うのは、労働者の命や健康について一切考えられていないことです。日雇い派遣には、今の派遣法で禁止されている建設業務や港湾業務、警備業務などで働かされている人が大勢います。それらの業務が派遣でなぜ禁止されているかといえば、安全が保障されないからです。しかし、実際にはそこで働かされて怪我や病気になってしまった人たちが、ユニオンに相談に来ています。
  今回のグッドウィル事業停止の発端となったのですが、グッドウィルから港湾業務に派遣され働いていた男性日雇い労働者は、25キログラムの風袋が体に直撃して怪我をしましたが、労災にしませんでした。それだけでなく、グッドウィルと派遣先との間に2つ別の派遣会社が入っていて、二重派遣、違法状態だったのです。救急車を呼ぶとその違法がばれてしまう、ばれたら事業停止になってしまう、ということで、会社は救急車を呼ばなかったのです。
  別の相談では、プールのような水槽の中で清掃中に転倒して右肩を強打してしまい、すぐ救急車を呼んでほしいといったところ、会社から、会社の車で病院に行きたければ2時間後にしてください、と言われたそうです。相談者は母親に電話をし、母親から派遣会社に救急車を呼んでほしいとお願いしたのですが呼んでもらえず、結局2時間後に病院に連れていかれ、そのまま2ヵ月入院し、今リハビリ中といった状態です。
  私たちは派遣の問題について厚生労働者と交渉を重ねていますが、厚労者も85年の派遣法制定時、日雇い派遣というこんな働かせ方は想定外だったと答弁しています。しかし、雇用調整が簡単にでき、雇用責任がなく人件費も抑えられるこのような働かせ方は、まさに企業が目指している効率化のニーズに合致して、定着し急増したといえます。

③偽装請負
  派遣は、偽装請負という働かせ方も作り出しました。偽装請負と派遣はどこが違うかというと、派遣は、派遣先から労働者は仕事の指揮・命令を受けて働きます。請負は、労働者は雇用契約を結んでいる請負業者からのみ仕事の指揮・命令を受け働きます。労働者は発注先で働きますが、そこの管理者や正社員から仕事の指揮命令を受けてはいけない、という形になっています。しかし、実際には、現場で仕事の指揮命令を受けなければ仕事がはかどらないため、発注先で指揮命令を受け、その結果、偽装請負状態にあると告発されたのです。
  現在、経団連会長を出しているキャノンでは、生産現場で在庫を極力出さないために、セル方式という方法を採用しています。通常、製造業ではライン全体で製品を製造するライン方式が多いのですが、セル方式は少人数のグループで一つの製品を作り上げていく方式をとっています。この場合、「明日はこれだけしか注文がない」となれば、セルを減らせば可能です。その時に労働者が正社員や契約社員では都合が悪いということで、請負をそこに入れたのです。請負労働者であれば、キャノンがいらないといえばそれで済むということで、それで在庫を出さないようにしたのです。
  しかし、キャノンでは、新製品を次々に開発して製造するために、請負であるにもかかわらず、キャノン側が仕事に関する指揮命令を行わなければならないために、偽装請負状態になりました。多くの製造業で偽装請負が行われ、マスコミにも批判されました。その結果、今は「正しい請負」ということで、ラインを別にして、指揮命令をする監督者に請負当事者を入れるやり方などに変え、今も続けられています。

④偽装個人事業主
  もう一つ、問題なのが偽装個人自業主です。これはどういうものか、私が受けた相談を例に説明します。ある有名な宅配業者と個人請負契約をした労働者が、同時に軽自動車のリース契約を結び働き始めました。しかし、彼は配送業務ではなく製造会社で働かされ、部品を作らされたため、6ヵ月程働いて腱鞘炎になってしまいました。そこで、会社に辞めたいと申し出ると、会社から「あなたはリース料の残金が残っています」と言われました。契約書をよく見ると、契約時に6万7,000円を44回払う、自分が辞める時には残金を払う、と判を押していたのです。働き出して6ヵ月間、毎月6万7,000円が引かれていましたが、残金がかなり残っており、それを払えと言われて彼は辞めるに辞められない、とユニオンに相談にきました。
  この会社は、チラシで月40万円以上稼げると宣伝していましたが、リース料月6万7,000円、30%は請負会社に天引きされ、本人の手元に残る賃金は17万円しかない、そういう実態でした。
  このやり方では契約上は労働者でなくなり、個人事業主ということで労働法の適用外になります。年休などは一切関係なく、また健康保険や厚生年金、雇用保険なども一切適用除外になってしまいます。いわゆる自営業者ということです。そのため、相談者は腱鞘炎になってしまっても仕事でなったと会社に責任を問えない働き方です。
  このようなやり方が、宅配業務やヤクルトの販売、保険の外交員など、今、様々に拡がっています。相談のケースは非常に詐欺的で問題だと考え、会社に交渉を申し入れました。その結果、本社から担当者がきて解決できました。しかし、一方で個人事業主は労働者ではないのだから、労働組合の交渉を受ける義務はないと主張する会社もでてきています。
  使用者と働く人たちの関係は、どう見ても日本においては対等ではありません。法的には契約は対等ですが、実際は対等な関係を築くのはかなり難しいことです。非常に強い労働組合が存在して、それでようやく対等といえるかどうか、という状態です。しかし、今の企業の中では、労働組合のないところが圧倒的に多いのです。特に、非正規労働者については、労働組合はほとんど存在していないという状態です。そうした状態では自分を守るのは、労働者であるからこそ、労働法が守ってくれるということを、ぜひ覚えておいてください。

3.全国ユニオンの取り組み
(1)日雇い派遣のユニオン結成
  全国ユニオンでは、今派遣という働き方に対して集中的に取り組んでいます。日雇い派遣の働き方を私たちに“ひどい働き方がある”と提起してくれたのは、フルキャストの内勤で働いていた30歳代の正社員4人です。彼らは、最初自分たちの相談でユニオンに来ました。彼らはA社に200人と言われたら、200人の労働者を電話やメールで集める仕事をしています。目標人数が集まるまで仕事は終了できないため、毎晩深夜まで仕事をしていました。翌朝には日雇い派遣の人から入ってくるお出かけコールを受けなければならず、会社に寝泊り状態でした。そのうちに体重は激減し、しかも会社からは一切残業代が支払われず、サービス残業で働かされていました。彼らは、このままでは過労死してしまう、なんとかしてほしいということで、ユニオンに相談に来たのです。
  その彼らが「自分たちの扱いもひどい。でも、自分たちが仕事を紹介する日雇い派遣の人たちの方が、もっとひどい。こんなことでいいのでしょうか」と、ユニオンに言ってくれたのです。そこで、全国ユニオンの仲間たちが日雇い派遣の現場に入りました。日雇い派遣は、履歴書も必要なく、登録すれば仕事紹介がくるので、簡単に入ることができます。グッドウィルやフルキャスト、エム・クルーなど様々な日雇い派遣会社の現場に入りました。そこでは、有休も社会保険も一切なく拘束時間が長い、時給500円以下という、労基法違反がごろごろしていました。さらに、派遣法違反の建設現場などで働かされていました。建設現場では、粉塵が舞う解体現場の中で、正社員は防塵用マスクをつけていましたが、日雇い派遣はコンビニでマスクを買ってつけるか、自分で持ってきたタオルで口を覆うかで、アスベストが舞っているようなところでも働きました。
  こんな実態をそのまま放置してはいけない、これは派遣という働き方の問題であり、社会的な問題にすべきだと考え、こんな働き方が広がっていることをマスコミに宣伝しました。そして、それぞれの日雇い派遣労働者で、フルキャスト・ユニオン、グッドウィル・ユニオンと次々に労働組合を結成し、会社に対して有給休暇の付与や雇用保険・社会保険への加入を要求し、データ装備費はおかしいではないかということを突きつけていきました。

(2)「労働者の誇り」を取り戻すために 
  その結果、フルキャストはユニオンの交渉に応じて、有給休暇等の是正について動きはじめました。フルキャスト・ユニオンは、このように労働条件の改善ができました、と交渉結果をメールやホームページなどでどんどん流していき、それを見た日雇い派遣の人たちが、自分の働き方にも問題がある、自分の職場でも労働組合ができないだろうかと、続々と日雇い派遣労働者のユニオンが作られ、現在までに6カ所作られています。
  私たちは、各社に対して、不当な天引きの廃止と、過去の不当な天引きは全額返還を要求しています。グッドウィルに対しては、26名の日雇い派遣労働者が立ち上がり、昨年8月に全額返還を求めて裁判をおこしました。彼らは、単に全額返還してほしいといっているのではなく、自分たちの働き方はやはりおかしいということを社会的にも拡げたいという思いを持っています。自分たちが、日雇い派遣という働き方の中で、労働者として傷つけられたプライドを取り戻したいと、裁判で闘っているのです。

4.均等待遇に向けた取り組み
(1)非正規と正規を隔てているもの
  非正規労働者と正規労働者の間には、賃金においても100対50といわれる格差が依然としてあります。労働条件や身分的な差別も様々あります。派遣だから、パートだから、アルバイトだからということで差別を受けているのです。格差を是正するために均等待遇を、私たちは求め続けています。
  格差の合理的な理由として、厚生労働省は、正社員の働き方は会社に対して拘束性が高い働き方であると説明しています。拘束性が高いということは、労働時間は長時間労働で異動・配転も当たり前であること。非正規労働者にはそうした拘束性はないのだから、その分格差があって当然、という言い方をされます。しかし、これを正規労働者がその通りだ、当たり前だと思っているとしたら、私は正規労働者の働き方はとんでもないことになっていくと言いたい。今すでに、とんでもないことになっている状態です。

(2)正規社員における窮状
  2008年1月にマクドナルドの店長が残業代を求めた裁判の判決が出ました。今、「見せかけ店長」という言葉が流行っていますが、その店長は朝4時半に起床、6時開店、夜は12時まで働くという生活をしていました。そのうち紙幣が数えられなくなっていて、体の異変に気付きました。そこで、会社に病院に行きたいといったら、会社から「店長のくせに自分の健康管理もできないのか」と言われたのです。彼はユニオンに「店長は、病気になってはいけないのですか」と相談に来ました。
  今、多くの正社員が長時間労働や成果を出すための競争にさらされて、体を壊したり、心の病気になっています。それだけではなく、会社からもう明日から来なくていいと言われて、相談に来る人たちが大勢います。拘束性の違いによる格差が当たり前だと言ったら、正社員の働き方は長時間労働が当然、異動・配転も当たり前、会社の言いなりになって働くのが正社員だということになってしまいます。
  それはいまどきの言葉で言えば、「見せかけ正社員」です。正社員とは、本来そういう働き方ではありません。正社員は、雇用期間に定めのない安定した働き方である、賃金が月給制である、各種保険が全て適用になっている、そして一人で働いた賃金で生活ができる、そういう働き方が正社員だと思います。それを、あたかも正社員は拘束性が高いことが当たり前であるかのようにされ、正社員自身もそうだと思いこまされている現状は問題です。

(3)人として生き、働くこと〈ディーセント・ワークへの挑戦〉
  非正規労働者は、格差を是正したいということで正社員になりたいと言いますが、現在のような正社員の働き方には魅力は感じていません。あんな正社員はなりたくないといいます。そういう働き方が、今、正社員の働き方としてあり、一方では権利も何も保障されない低賃金で、ワーキング・プアである非正規の働き方があるのです。
  もはや、2つの働き方の中で、どちらを選んだらいいかということではなくなってきています。人として労働者として生きたい、働きたいという想いを実現するためには、私たちはこれからどんな働き方をめざすのか、一人ひとりが考えなければいけない。労働組合はそういう働き方ができるように活動することが求められています。
  ILOは、21世紀の働き方として、「ディーセント・ワーク」を提唱しています。本当に人らしい働き方を、私は作っていきたいと思っています。そのために、ユニオンの中で、一人ひとりの相談をうけて一人ひとりの問題を解決するために走り回っています。しかし、今やAさんBさんそれぞれの問題として解決するだけでは、済まなくなってきています。個人個人の問題ではなくて、今の社会の構造的な問題、働かせ方のしくみの問題なので、均等待遇を実現し、理由のない有期雇用を禁止する、当面は改正パート法を職場で活かす、派遣法を抜本的に改正する、ことに全力で取組まなければと思います。あらゆる働き方の労働者とともに、希望ある働き方の実現をめざしたいと思います。
  これで終わりにします。ありがとうございました。

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