埼玉大学「連合寄付講座」

2008年度前期「ジェンダー・働き方・労働組合」講義要録

第8回(6/4)

メンタルヘルス・ハラスメントへの対応

ゲストスピーカー:矢田 稚子 松下電器労働組合連合会 中央執行委員

1.自己紹介
  みなさん、こんにちは。松下電器労働組合連合会の矢田稚子と申します。
  今日は「メンタルヘルス・ハラスメントへの対応」について話をさせていただきます。今、日本の企業では、メンタルヘルス(心の健康)で悩む方が増加しています。このような悩みが高じると、会社に行けなくなるばかりか、ひどい場合は自殺につながる場合も出ています。
  このような現状の中で、労働組合が心の病や性的なハラスメントなどで悩んでいる方々に対して、どのような取り組みをしているのか、説明させていただきます。
  今日は、大きく3つに分けて話を進めていきます。一つ目は、私が所属している松下電器労働組合連合会の概要、二つ目は、メンタルヘルス・ハラスメント対策の取組み、三つ目は、セクシュアルハラスメント対策の取り組みについて、報告致します。

2.松下電器労連の概要
2-1.組織の概要
  松下電器は、パナソニックとナショナルという二つのブランドで、国内で家電商品等を生産販売している会社です。そこに集う販売会社や子会社、孫会社まで含めた会社に対峙している組合を、現在65組合、8万6,000人を組織化したのが、松下電器労働組合連合会、略称松下電器労連です。連合会の前身である松下電器労働組合は、60年にわたり活動してきましたが、2年前に発展的に解消・解散し、より大きな規模の連合会という位置づけで活動しています。

2-2.労働組合を取り巻く環境認識
(1)未組織労働者の増加
  日本では、労働組合の加入者数は2007年度で約1,000万人と、徐々に減ってきています。労働組合への加入率を表す組織率は、現在18.1%で、100人働いている人がいたら、組合に加入している人は18人しかいないという状況です。労働組合数は58,265組合で、これも1994年に比べ、約1万3,000減っています。組合数も減っているし、加入している労働者の数も減ってきているという状況です。
  一方、組合に入っていない、あるいは組合のない未組織労働者は現在4,565万人です。組合が組合員のことだけを考えていたら、世間から認められない時代になってしまうのではないかと、私たち自身も感じながら活動を進めている状況です。

(2)世間から組合がどう見られているか
  こうした状況を踏まえて連合では、2002年に労働運動の再生にむけて世間から組合がどう見られているか分析する必要があると考え、外部有識者による「連合評価委員会」を立ち上げました。委員会の最終報告では、現在の労働組合運動は、①雇用が安定している労働者や大企業で働く男性正規社員の利益のみを追求している、②労使協調の中で緊張感がたりない、③不条理に対する怒りがあまり感じられない、④組合自体が守りの構造になっている、⑤労働組合運動が国民の共感を呼ぶ運動になっていない、などの厳しい意見が出されました。
  しかし、これは日本の働く人達のためにある労働組合がもっとしっかりやってほしいという期待が込められたメッセージであると私たちは受け止めています。
  労働組合は、春になると労働条件の維持・向上を目指した取り組みである「春闘」を年間行事のひとつとして行っています。マスコミも春闘については報道してくれますが、春闘が終わるとほとんど報道されません。労働組合は春だけでなく年間を通じて様々な活動をしているのですが、世間一般から見ると春にだけ闘っているというイメージがあるのではないかとも感じています。

(3)時代の流れと労働運動
  私たち松下電器労連は、松下電器労組の時代を合わせると結成から60年が経ちますが、時代の変化とともに労働組合の活動も変わらなければいけないという認識をもっています。 
  戦後、労働者は企業に対して怒りを持って働き、抵抗をあらわにした時代でした。高度成長期には、賃金や労働条件の向上を求める要求の時代に入ります。現在は、グローバル競争時代を迎え、労働者が質的な心の満足・内的な報酬を求める時代に入ってきており、働きがいのある職場であってほしい、やりがいのある仕事につきたい、もっと職場で人間関係をよくして働きたい、という要求を持つようになってきています。
  そのため、それに応える労働組合が必要になり、経営に対して参加・参画をしていくような労働運動が求められるのではないかと考えています。

2-3.健全なる労使関係を目指して
(1)松下の志(こころざし)
  松下電器労働組合は、1946(昭和21)年1月31日に、大阪市で結成されました。当時、世間一般には会社は組合の結成を快く思わず、どちらかといえば潰そうというような時代でした。そういう状況の中、創業者である松下幸之助は、組合の結成大会にかけつけスピーチをしました。これについて当時の組合委員長がまとめた文献があります。「労使関係というものは『対立と調和である』と言われた。まず対立がある。しかし、それだけでは不適当だから調和が必要になる。このことは、私の経験においてもいくつかその姿勢を垣間見たものである。」このように松下幸之助は当時として稀なくらいに労働組合に対してパートナーシップを求めていたのだといえます。
  松下幸之助は松下の志ということで「人間には無限の可能性があり、人間として生まれた意義とその責任を果たす必要がある」と語っています。松下電器という会社については、「社会の公器であり、人間を大事にする会社でなければならない」、働き方についても、「社員一人ひとりが『独立した経営者だ』という気持ちで仕事に取り組まなければ偉大な力の発揮はない」という個人を尊重した考えを持っていました。

(2)「人を活かす」「人が活きる」組織風土の構築
  松下では、健全なる労使関係を築こうということで、「対立と調和」「信頼と対等」という考え方があり、それをベースに労働協約で経営参加制度を規定しています。これは、月に一回職場運営委員会を開催し、社長に労働者の考えを直接聞いてもらうものです。また、役員と組合がともに経営課題について語り合う場でもあります。仕事上は上司と部下ですが、職場運営委員会の場では対等な立場で協議をします。
  今年の春闘では、「人を活かす」「人が活きる」組織風土の構築をテーマに経営側と話をしています。その一つの方法として、成果に基づく報酬制度があるのですが、それだけでなく、安心できる職場環境や人材の内部育成、経営理念の徹底、人を最大限に活かす職場環境の整備を私たちの取り組むべき課題としています。
 
3.メンタルヘルス対策について
  現在、心の病で休職中の従業員を抱えた企業が増えてきていると、先日の新聞にもありました。松下電器でもメンタル不全の人が増えており、組合もこの課題に取り組んでいます。まず、メンタル不全者が増えた背景と考えられることについてお話しします。
 
3-1.現場の現状
(1)会社環境の変化
  2000年に松下電器は創業以来、始めての大幅な営業赤字を出し、それにより、いわゆる雇用構造改革を行いました。私たちは、意思をもって人員削減とは言わずに「特別ライフプラン支援施策」と名づけ、新しい人生において退職を選択した人に退職金を何倍も上乗せして支払い、新しい道を提供していくと位置づけたものでした。
  労働組合として対応を迫られる中、新しい生き方を組合員に与えることも労働組合として必要なのではないかという結論を出しました。結論を出すまでの数ヵ月間は非常に悩みましたが、最終的には、松下電器という会社を守るために苦渋の選択をせざるを 得ず、その結果、約2万人が1年以上かけて退職を選択していきました。
  その時に、一人ひとりと詳細な面談を行い、「あなたは今の仕事についてどう思いますか」、「今後こういう仕事をしていただきたいと思っていますが、あなたはこの要求に応えることができますか」「新しい生き方を考えることは、あなたにとってどういうことですか」と尋ねられました。おそらく、一人ひとりがこれからどうすべきか、自分自身と向き合い、考えたことと思います。結果として会社に残った人も、「残った以上はしっかりがんばってください」というメッセージを受け止め、しっかりやらなければいけないというプレッシャーがあったと考えられます。

(2)急激な仕事の変化
  さらに、急激な仕事の変化が求められるようになりました。たとえば、国内生産の商品を海外で生産する、ラインで仕事をしていた人に職種転換をしてもらう、営業から他の部門に移ってもらうなど、様々な職種転換や質的な仕事の変化が求められました。さらに、人員削減による仕事量の増加もあり、当然、一人ひとりにいろいろな意味で負荷がかかり、結果としてストレスが蓄積され、メンタルな部分の悩みが多くなっていったと考えられます。
  当時、私もいろいろな相談を受けました。それは自分一人の悩みではなく、家族全体の悩みでもありました。家のローンや子どもの教育費がかさむ中、松下を辞めて本当に大丈夫だろうかというように、自分と向き合い、より強くなった人もいれば、自分はストレスに弱いということに気付いた人もいたのではないかと思います。

(3)グローバルな競争環境への移行
  もう一つは、今、賃金制度が成果主義に移行しているという状況です。それまでの賃金制度は一つ年をとれば賃金が上がっていくという年齢をベースにした体系でした。これが2000年以降、大きく変更されたのです。
  終身雇用制の中では年功賃金の構図を従業員みんなが承認していました。しかし、若い世代から「いくら頑張っても、あまり働いていない50歳以上の人より賃金が少ない」という不満の声が聞かれるようにもなり、賃金の一部分を成果主義という名のもとに、仕事のアウトプットにふさわしい報酬に変えていくというしくみを導入しました。
  このしくみでは、どちらのアウトプットが大きいかにより報酬が変わっていくので、職場にいる同じ仕事グループの人が、ライバルとなっていきます。そうした中で、職場の人間関係にも歪みが生じていった可能性があると考えられます。
  また、今まで賃金が下がる経験をしたことのない人が下がる場合が出てきます。評価の結果だとはいえ、これまでそういう経験はなかったわけですから、そういうこともストレスになっているのです。

(4)メンタルヘルス不全者の現状
  以上のように、いろいろな要因が重なり、それがストレスとなってメンタル不全の方が増えてきたのではないかと考えています。
  そこで、組合では課題分析を行うため、独自に組合員に意識調査を行いました。その結果、従業員の約60%が職場でストレスを感じる、約30%が職場に相談者がいない、高ストレス職場の約60%が上司や同僚の支援が低い、という回答でした。
  メンタル休職者の実態をみると、今は20歳後半から30歳前半が急増しています。以前は中高年層の方々が中心でしたが、徐々に若年層が増えている状況になっています。同様に休職率も若い年代の方が高く、せっかく意気揚々と入社したのに、会社になかなか馴染めない傾向があるのではないかと見ています。
  職種では、30歳代の技術・開発職が増えてきています。日々他社との競争の中で進化していかざるを得ないため、この職種では残業時間が他より多く、それもかなり影響していると考えられます。
  このような中で、メンタル不全で休職中の人にいろいろ対策を講じているのですが、なかなか減らない現状にあります。社内には健康管理室があるのですが、外部の医療機関などを受診している人もいて、メンタルで悩んでいる人は健康管理室が把握している以上の人がいると考えられます。

3-2.メンタルヘルスに対する取り組み①
  2000年の経営が悪化し、「特別ライフプラン支援策」を実施した時に、春季交渉で「メンタルヘルスを含めた安全衛生の取り組みの強化」を会社側に要望しました。そして、労使でメンタルヘルス研究会を発足し、取り組みを行いました。
  一つは、心の健康について正しい知識を持ち、職場において健康で活力ある集団づくりを進めるための手助けとしてもらう目的で「メンタルヘルス職場マニュアル」を作成し、全管理職に配布をしました。主な内容は、メンタルヘルスの基礎知識として、ストレスとは何か、うつ病、神経症・心身症とはどういう症状をいうのか、さらにメンタルヘルスケアの基本的考え方や対応方法についてまとめたものです。
  もう一つは、「メンタルヘルス教育指針」を作成し、各事業場で具体的にメンタルヘルス教育を既存の教育体系に組み込み、継続的・効果的に実施していくこととしました。管理職にマニュアルを渡すだけではなく、たとえば昇格研修などの必須項目として、きちんとメンタルヘルスについての教育の場を与えてほしいと意見提起を行いました。
【松下電器健康保険労働組合の概要と組合参画】
  大手企業には自社の健康保険組合があるところが多く、松下も健康保険組合があります。松下の場合は、松下グループ155社で、実際に働いている被保険者と妻や子どもなどの被扶養者を合わせた組合員総数約36万人が、健保組合に加入しています。
  健保組合には、松下記念病院、はーとぴあ(介護保険老人保健施設)、松下看護専門学校、松下健康管理センターという健康管理のための機関などがあります。健保組合では、新たに健康管理を推進する部屋として、「健康松下21推進室」を設けました。
  健保組合には、運営の意思決定機関として組合会と理事会があります。ここに労働組合も議員や理事として参加し、健康推進に関することを決定する際に、必ず労働者代表として意見を述べることができる場があるのです。たとえば、組合としてメンタルヘルスで悩む労働者の状況についてデータを説明し、「こんなに悩んでいる人がいるのだから、○○といった対策を講じてほしい」と意見を述べているのです。

3-3.メンタルヘルスに対する取り組み②
(1)「健康松下21推進委員会」
  厚生労働省は、2003年に国民一人ひとりが主体的に健康づくりに取り組むことを前提に「すべての国民が健やかで心豊かに生活できる活力ある社会」の実現をめざす運動として、「健康日本21」を発表しました。松下ではこれにさきがけて、その2年前に「健康松下21」を策定し、具体的な取り組みを決定する機関として「健康松下21推進委員会」を発足しました。会社・健保組合・労働組合が三位一体となって健康増進運動を支援する活動をしています。
  「健康松下21」では、病気の早期発見や治療だけではなくて、健康増進のための一次予防を重視するとともに、一人ひとりを取り巻く環境に注目して、より健康に働くことのできる職場環境づくりを目指して、「生活習慣病対策」「喫煙対策」「メンタルヘルス対策」を三本柱に10年間活動を続けています。
  「メンタルヘルス対策」については、「健康松下21」2008年度計画において、重点対策を3つ掲げています。
  一つは、メンタルヘルス対策方針の周知徹底です。働くということは、自分の労働に対して報酬を受けるということですから、いろいろ心の葛藤があると考えられます。しかしそれらをできるだけ軽減するためには何が必要なのか、という視点で松下グループとして、メンタルヘルス対策方針を作成しました。もともとの松下の経営の基本的な理念を引き継ぎ、「『人間大事』で安心・いきいき職場」という大きな目標を掲げて取り組んでいます。
  二つ目は、「職場コミュニケーション強化のための機会設定」です。悩みを少しでも軽減するには、コミュニケーションをよくすることが一番大切ではないかということです。ITの進歩で、会社の中でも携帯メールやパソコンメールも当然の如く使われていますが、隣同士の上司と部下が「明日、有給取ります」と、直接口で言えばいいことをメールで送る。上司も口で言えばいいのにメールで返事を送る。こういうこともあると聞いています。コミュニケーションがうまくいかない理由には、顔を見て話すことが少なくなった現状が原因の一つにあると考えて、良好なコミュニケーション機会の提供に向けてしっかり取り組んでいきたいと考えています。
  三つ目は、早期相談体制および復職支援体制の確立と相談先の反復周知です。併せて、過重労働対策という取り組みをしています。
  過重労働が行われている原因は、結局のところ人員不足です。そのため、繁忙期には、人員の集中投下など人員配置の対策を講じています。また、月に80時間以上残業した人は、必ず産業医という専門的な医師の面接を受けることと定めています。
休業・休職管理復職支援については、1度休職してしまうとなかなか出てこられなくなったり、あるいは出てきてもまたすぐに休んでしまうため、休職者がスムーズに職場復帰ができる勤務管理システム、たとえば、働く時間帯の調整などを考えています。
休職中のフォローも重要です。休職中は、自分は見捨てられてしまったのではないか、もう会社に戻れないのではないかと考えがちです。そのため、小まめに会社の情報提供をしたり、あなたが戻ってくることを会社は期待していますというメッセージを出したりしています。しかし、一切会社からの連絡を取らない方がいいという心身症の方もいるので、これに関しては産業医と相談しながら行なっています。
  また、福祉施策として休職中の収入減に対して所得補償制度を導入し、経済的なサポートを行っています。
さらに、休職者本人・上司等にもメンタルヘルス教育を取り入れました。また、新入社員教育の中にも、メンタルヘルス教育をプログラムとして取り入れています。
  現在、人事と健康管理室と上司の三者が一体となって専門機関と連携をとりながら、メンタル不全者に対してチーム対応していく形で支援を行っています。労使による安全衛生委員会では、月に一回必ず会合を行い、そこでも休職者への対応などについて話し合っています。
  組合独自の取り組みとしては、「悩みの相談」という相談機関があり、私自身も相談員の一人です。また、専門の相談員によるカウセリング・センターを設けています。
また、組合では組合役員が本人の家を訪ねて、お見舞品や休職中の支援として現金などを届けたりする活動も行っています。

(2)職場コミュニケーションの強化策
  自分の悩みを話せない、話す相手がいないということほど辛いことはありません。話を聞くだけで、相談者の悩みが解消されるケースは多いです。こうしたことから、幅広く相談ができるいろいろな体制に取り組んでいます。
その一つとして、上司と本人がとにかくフェイス・トゥー・フェイスで、言葉で話をする機会を増やしていこうという取り組みをしています。もともと上司と部下の間にはコミュニケーションプログラムというツールがあり、最低でも年に3回面談することになっています。
  まず、4月に1年間の自分の仕事の目標を3つ上司と約束します。その時、単に仕事の目標について話すだけでなく、家族のことや今興味をもっていること、資格の取得希望など、ざっくばらんに話す機会をきちんともってもらうようにしています。そして、9月の中間期に仕事の進捗状況と併せて、どういう状態で仕事を進めているか話し合い、3月になって成果は出しましたかと、確認してもらうようにしています。
  しかし、このような機会が十分に活用されているとはいえません。組合では、本当は1対1で個室に入って30分以上話し合ってほしいと要望しているのですが、上司も多忙なため、また、営業職では、外部に出ていて上司と部下のスケジュールが合わず十分に時間が取れない実態も見受けられます。しかし、1年間のうちのほんの3時間ですから、これだけはしっかり守ってほしいとお願いをしているところです。

(3)松下グループに必要な外部EAP機能
  社内でのコミュニケーション強化による取り組みだけでなく、社外でも相談できるように、健康管理室や労働組合OB・人事経験者による相談室を設け、上司や周りの人に相談できない時にはいつでも来てください、という体制を作っています。
それに加えて、EAP(Employee Assistance Program)相談室といって、松下とは全く関係のない外部の相談室を設けました。これは、健保組合の理事会で、労働組合側がぜひとも必要であると要望したものです。会社は、社内に健康管理室があるのに本当に必要なのかと言いましたが、やはり内部で相談できず、外の一般の医療機関に行っている人も多いことから、外部にもそういうチャンネルを一つ増やしたいと主張しました。
  その結果、相当の費用がかかるのですが、会社を説得して、24時間メールや電話で専門的な産業医のカウンセラーが相談を聞いてくれる専門機関と契約することができました。最初は電話やメールによる相談なのですが、要請があれば、各都道府県に相談所があって面談相談ができる体制になっています。
  EAPを導入して、一つ意外なことがはっきしました。それは、メンタルヘルス不全の部下を抱えている上司も悩んでいるということです。部下に心の悩みを抱えている人がいると、上司はどう対応したらよいか分からず、まず人事に相談するのですが、人事も専門家ではないので的確なアドバイスをすることができません。その結果、外部のEAPに相談することになり、こういうことからも、外部機関は有効であったと思います。

3-4.今後の課題
  労働組合では、労働組合役員によるメンタルヘルス対策検討部会を設け、現行の対応策についてフォローするため、現場の現状をきちんと確認して、労働条件改善につなげていく議論・検討を行っています。
  
4.セクシュアルハラスメントについて
4-1.セクシュアルハラスメントとは
  セクシュアルハラスメントは、1985年に男女雇用機会均等法の中でこの防止のための配慮義務が新設されました。この時に松下では、禁止行為を行った時には懲戒処分にするということを労働協約に追記しました。2007年には、均等法改正で男性に対するセクハラも含めた対策を講じることが義務化されたことに対応し、就業規則の懲戒規定を改定しました。
  セクシュアルハラスメントとは、相手方の意に反する性的な言動ということです。これは、対価型セクハラと環境型セクハラという2つの種類があります。対価型セクハラは、職場において行われる性的な言動への対応により、解雇、降格、減給等の不利益を受けることです。典型的な例でいうと、性的な関係を要求したが拒否されたため、労働者を解雇したり、腰や胸に触ったところ抵抗されたため、不利益な配置転換をしたりといったことです。こういったことが行われているという悲しい現実があり、労働組合でも対策を進めているところです。
  環境型セクハラは、職場において行われる性的な言動により、女性労働者の就業が害されることです。たとえば、性的な内容の噂を流され、苦痛に感じて仕事が手につかない、あるいは職場にヌードポスターが掲示されたり、パソコンの画面にヌードの女性が出てきたりして、気が散って業務に専念できないといったことです。その場ですぐに、やめてほしいと言える人ならいいのですが、言えない人がいるわけです。
  セクハラは、直接被害もあれば直接ではないこともあることがおわかりいただけたと思います。また、ここにいる全員が被害者にもなるし、加害者にもなるということです。

4-2.セクシュアルハラスメント対策
(1)意識啓発
  セクハラ対策の一つとして、セクハラに関する広報物を作成し、配布しています。セクハラに関しては、年配の方ほど意識が低く、セクハラである行為を親しみとして考えている場合が多いのです。このことから、組合としては、女性が被害者になるのを守るということもあるのですが、男性が加害者にならないように守ることも必要だと考えました。そこで、まず意識改革をしていこうということになりました。
  広報物には、4コマ漫画を入れて、皆に読んでもらえるような形にしました。そして、こんなことも全部セクハラになりますという例を漫画化して、わかりやすく説明するようにしました。セクハラを招く原因にとなることについての注意も加えています。

(2)人事方針
  先ほども申し上げたように、松下ではセクハラが行われたら懲戒処分という厳格な方針がとられています。職場における相手方の意に反し、性的な言動に起因する問題をおこさないということを社員規律の中に入れています。
  懲戒処分は、禁止行為に該当する事実が認められた場合には、行為の頻度や執拗さ、被害者への精神的圧迫度、行為者の属性等を判断基準とし、就業規則の懲戒規定に基づき処分を行うこととしています。

(3)相談活動
  専門の相談窓口を設けて、セクハラなどで困っている場合は、まずは相談にきてくださいという体制をつくっています。私も8年前から相談窓口担当をしていますが、そこには、多くの女性が、「こういう行為を受けたのですが、セクハラと言っていいのでしょうか」「こういう苦痛を受けているのですが、誰にどう相談すればいいのでしょうか」、と相談にきます。
  それらの相談は話をしてすっきりするレベルものが多いのですが、中には本当に困っていて、なんとかしてほしいといったものもあります。ここが重要なポイントで、本人がどうしてほしいのか、これは調査していいものなのか見極めていきます。調査ということになれば、相手と向きあって事実確認をすることになりますから、本人の意向をきちんと確認して、必要があれば事実調査に入っていきます。
  事実調査の後に、事実として判明した場合には、懲戒委員会を開いて処分します。
  私たちは、イコールパートナーシップ相談体制として、基本的には本社、ドメイン、BU(事業場)の各レベルに会社と組合両方の相談窓口があり、皆さんの相談を受ける体制をとっています。自分が尊敬していた上司に性的な関係を強制されたというようなことで人間不信になり、メンタルで休職している人もいます。性的な相談といいながらもメンタルに関わることが多いので、会社と組合で相談体制をきちんとしていく活動を進めています。

5.よりよい職場環境をめざして
  最近の徴候としては、松下ではここ数年間、女性の役付者をどんどん増やしていく動きが高まってきています。そして、高い職位につくことで女性の仕事に対する責任や組織での役割が大きくなっていくようになりました。その反面、女性はまだ家庭における責任も大きいといえるため、家事・子育てと仕事の重責に悩んでメンタル不調に陥り、休職するケースも出ています。
  いずれにしても、私たち労働組合としては、働く方々の心身ともなる健康づくりを目指しています。心も体も健康で、その人の最大限の能力を発揮して、会社における役割を果たしていただけるような、職場環境づくりに取り組んでいきたいと思っています。
  長時間、ご清聴ありがとうございました。

ページトップへ

戻る