労働組合の組織化~非正規雇用労働者の処遇改善に向けた取り組み
はじめに
皆様こんにちは。UAゼンセン流通部門執行委員の新井美穂と申します。本日は「労働組合の組織化~非正規雇用労働者の処遇改善に向けた取り組み」について説明をいたします。簡潔にわかりやすく説明ができればと思っています。
本日の内容ですが、まず、UAゼンセンの成り立ち、流通部門の組織構成について説明をします。続いて、短時間労働者の組織化の取り組みということで、組織率の状況、なぜ組織化が必要なのか、具体的な組織化の取り組みといったことについて説明をします。次に短時間労働者、労働条件・環境改善の取り組みとして、同一価値労働・同一賃金の取り組み、職場環境改善の取り組み、意見反映に向けた取り組みを説明します。
自己紹介
私は1998年、株式会社ダイエーに入社いたしました。入社当時、株式会社ダイエーは全都道府県にありました。現在は関東と近畿のみで運営をしています。入社以来、中四国の店舗で働いており、3店舗を経験しました。ずっと衣料品を担当しており、そのなかでマネージャーなども経験しています。
2004年、ダイエーユニオン中央執行委員として専従者、組合の活動だけをするメンバーに立候補しました。その後、2017年にダイエーユニオンの中央執行書記長、組合の実務責任者として活動をつづけており、その当時UAゼンセンからの働きかけで東京都最低賃金審議会の委員もさせていただいています。2019年9月にUAゼンセン流通部門執行委員として単組から産業別組織に出向いたしました。現在、男女共同参画推進とパートタイム労働者総合対策を担当しています。単組時代も組織化を中心に専門委員の役割も果たしていましたので、おおむね単組の活動も説明できるかと思います。
UAゼンセンとは
UAゼンセンの正式名称は「全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟」といいます。現在は繊維だけでなく、化学・エネルギー、建材、食品、印刷、レジャーなど、また、もちろん流通もそうですが、国民生活に関連する多種多様な産業で働く仲間が集結しています。現在2356組合、約180万名が加盟する「日本最大」の産業別労働組合となっています。UAの意味ですが、同盟体という意味を持つ「UNION ALLIANCE」。それから、「UNION ALL-ROUND」、多種多様な産業のメンバーが一緒に活動するという意味でも使われています。
UAゼンセンの略歴
1946年に「全繊同盟」が誕生したときは、漢字の「全繊」という文字を使っていました。日清紡や、倉敷紡績など、繊維関連の組合が中心となり、94組合、約6600名にて結成をしています。1970年に流通部会が結成され、その3年後の1974年に組合員が3万名強になったことをうけ、流通など、繊維だけでない組合員も多いということで「全繊」の文字をカタカナの「ゼンセン」に変更しました。2002年、日本化学・サービス・一般労働組合連合(CSG連合)と合併し、「UIゼンセン同盟」が誕生しました。そして2012年、百貨店等が中心となっていた日本サービス・流通労働組合連合(JSD)と合併をして「UAゼンセン」となりました。これで流通のほとんどの組合がUAゼンセンに加盟したということになり、流通の産業別労働組合は1つになりました。
UAゼンセン流通部門の組織構成
組織構成について説明します。まず、UAゼンセン部門別構成について、流通部門は製造産業部門、流通部門、総合サービス部門の3部門制をとっています。製造は製造業を中心にしており、総合サービス部門は外食など、サービス全般の組合が加盟しています。流通部門の所属組合は445組合、25%ということで部門の中の一番所属組合数は少なくなりますが、106万強の組合員がいます。全体の約6割の組合員は流通部門ということです。なぜこれだけ組合員数が多いかというと、流通の組合は全国に店舗をもっている組合が多くあり、一つの単組の人数がとても多いということです。例えば、イオン。イオンリテールワーカーズユニオンは10万名くらいの組合員がおり、その他にもかなりの人数がいる単組もあるということです。
続いて、流通部門の男女雇用区分別組織構成です。男女合わせて短時間組合員が7割弱いるということです。とくに、女性短時間組合員だけで6割弱ということで、いかに短時間の方が多いかということがお分かりになると思います。
続いて、流通部門に所属する主な企業別組合を紹介します。非常に多くの組合が参加しており、スーパーマーケットではヨークベニマル、ヤオコー、いなげや、ダイエー、マルエツ、さらには地域のスーパーもたくさん加盟しています。GMS(総合スーパー)では、イオングループ各社、長崎屋、イトーヨーカドー、西友なども加盟しています。最近ではドラッグストアがかなり加盟していまして、どんどん組織化が進んで増えている状況です。そのほかにも、住生活関連、百貨店、専門店、家電も皆様がご存じの大手は、ほとんどUAゼンセンの流通部門に所属していると思っていただいてもいいかと思います。
短時間労働者 組織化の取り組み
2つ目に短時間労働者の組織化の取り組みについて説明します。日本における小売りにおける非正規雇用の割合は、2019年では50%を越えている状況です。こうした中、短時間組合員数はUAゼンセンになってからの7年間で20万人増加しており、UAゼンセンの短時間組合員比率は70%近くまで増加しています。しかし、企業内での組織率自体は58.3%と横ばい、あるいは多少下がっているという状況になっています。これはなぜかというと、20万人の短時間組合員が増えているなかでも、企業で働く人のうちの組合加入割合が変わっていないということになりますが、これは企業の雇用者数が人手不足もあり、どんどん増えているということです。また、店舗数も増えています。そのなかで、なかなか組織化する人数が追い付いていない。さらに、学生や契約時間が短い働き方の人が増えており、結局、組織率が上がっていないという現状があります。
UAゼンセン流通部門 組織化方針
流通部門としては、先ほど学生は組織化されていないという話もしましたが、原則は継続して6か月を超えて雇用されている方はすべて組合員にするという方針を掲げています。とはいえ、必ずしも6か月を超えなければならないというわけではなく、実際は1か月を超えて雇用されている人を組織化している場合であったり、試用期間に合わせて2か月、4か月で組合員にしていることもあります。しかし、すべての人を組織化しているわけではないということが課題でもあります。
組織化はユニオンショップ協定締結を基本としています。ユニオンショップ協定とは、労使で範囲を決め、その範囲に入る形で会社に雇用された場合は労働組合に必ず加入しなければならない。そういう協定を結び、加入した労働組合から除名・脱退したときには、解雇されるという強い協定になります。労働協約に「この範囲は組合員であり、除名、脱退した場合は解雇します」ということを記載します。基本はこのように労使で確認をして組合員の範囲を決めて、ユニオンショップ協定を締結することを方針として掲げています。そのほかにも、オープンショップ協定であったり、クローズドショップ協定というものもあります。例えば、オープンショップ協定であれば組合役員等が従業員に「組合員になりませんか」と直接アプローチして、同意した人だけを組織化するという手法です。非常に手間暇がかかりますし、なかなか組織率が上がらないという課題があります。やはり、ユニオンショップ協定のように、労使で協力して、「この範囲は組合員」としなければ、組織率を上げるのはなかなか難しいということです。
UAゼンセンにおける短時間労働者の位置づけですが、本日の講義テーマは非正規ですが、先ほどから非正規という言葉を使っていないということにお気づきかと思います。UAゼンセンの組合員の7割弱が短時間労働者ということもあり、同じ職場で働く仲間として、短時間労働者のことを私たちは非正規労働者とは呼びません。短時間労働者と呼んでいるということです。
なぜ組織化が必要なのか 短時間労働者の基幹化
なぜ組織化が必要なのかということに触れていきます。まず、短時間労働者の基幹化が進みました。1990年代までは、主に男性が正社員として責任を負い、女性は主婦が多かったため、業務を補う人としてパートタイマーで働いていました。補佐的な業務というと、スーパー、小売りのなかでも、例えばレジだけをする、商品の補充だけをする。男性正社員に言われたことだけをやり、単純定型作業だけをおこなう人という意味合いです。このような男女で役割分担をして、主に正社員は男性、パートタイマーは女性という働き方が多かったということです。
2000年に大規模小売店舗法が廃止されたことにより規制緩和が進みました。どんどん企業が増え、店舗数を増やしていきました。その結果、店舗が乱立するとともに、営業時間が長くなり、年中無休になったりと、長時間化が進んできました。長時間化が進むと、正社員だけでは追い付かない。それを補うために短時間労働者、補佐的な業務をしていたパートタイマーだけで運営するような時間帯が出てきたということです。別の視点から見ると、バブルが崩壊し、これまではどんどん正社員を雇って、賃金を上げていこう。店舗数を増やしても、正社員を増やせばいいではないかという運営でしたが、コストを抑えなければ利益が出ないということで、安価な労働力であるパートタイマーに責任を担っていただこうという考え方に至ったということです。
2000年代以降は、営業時間をカバーする人員体制であったり、安価な賃金での店舗運営ということで、パートタイマーに正社員と同じような働き方をしていただくなかで、時給は安いままという経営にとって都合の良い労働力として、パートタイマーが基幹化されていったわけです。責任はどんどん増えるが、賃金は変わらない。しかも組合員になっていないという状況が2000年代前半に起こりました。そのなかで、短時間労働者が増え、基幹労働化しており、こうしたなかで、賃金が安いまま都合の良い労働力として扱われるだけでは、いけないということで流通産業において、パートタイマーを組織化してきたわけです。流通においては、もはやパートタイマーは非正規ではなく基幹労働者ということで、労働条件、労働環境を改善するためには組織化が急務であるということに行き着きました。そのなかで流通部門中心に、2000年代以降、急速にパートタイマーの組織化を進めてきたわけです。
短時間労働者の基幹化~組合の必要性~
なぜ組合が必要かということを理解していただきたいと思います。皆様がアルバイトで働く中で、このようなことは起こっていないでしょうか。
まず、働く中で、組合がない組織で働いている場合があります。例えば、コンビニでアルバイトしている際に、勝手に時給が変わっている、あるいは規則が変わっている。さらには売り上げが下がったことを理由に辞めさせられる。そこで、私たちの働き方を一方的に決めさせないために、労働組合は会社と人事制度を確認し、協議をしているというわけです。
次に、評価制度自体がないという企業もありますが、自分の評価が低く、そのせいで賃金が上がらないといった際に、「なんで私は評価が悪いのか」という場合も労働組合があれば、チェックをし、公平・公正な制度をつくることができます。
また、職場のなかで、暑いであったり寒いであったり、例えば流通であれば、コロッケを揚げているときに、油が飛び散ってやけどをする、床がぬるぬるしてこけるなどということはよくあります。その際に労働環境の整備というのも労働組合の重要な役割ということになります。さらに、職場のなかでいじめられている、セクハラ、パワハラがおこっているという場合、誰にも相談できないということがあります。そういう場合にも、労働組合が意見を聞き、改善に結び付けています。
労働組合が存在する理由、それは労働者の立場がとても弱いということがあります。一人で立ち向かうことはなかなか難しいです。団結によって会社と対等な立場をもたなければ、労働条件や労働環境を改善するための声をあげることすらできません。なぜ労働組合は声をあげることができるのかというと、労働組合法で守られているからです。労働組合として声をあげたとき、例えば団体交渉を申し入れ、会社にとって耳の痛いことを言ったからといって不利益な取り扱いをすることは労働組合法で禁止されています。こうしたことから、労働組合という組織を活用して、弱い立場の労働者が意見を言うことができるということです。
しかし、日本の労働組合の組織率は低い状況が続いています。これはなぜかということです。私の出身であるダイエーユニオンで組合役員をしていたときも、組織化する前ではありましたが、例えばお店が閉店しそうだ、売り上げが悪いという際、みんなで協力してお店を残すために、会社から「労働時間短くしてよ」、「給与少し下げてよいか」などということが起こります。従業員はとても弱い立場なので、それに対して、「いやです」とは言いづらい。つまり組織率が低い理由は、解雇されそうになったり、評価が悪くなったり、危ない状況で働いていても環境を自分たちで変えられると思っていないことから労働組合が必要ではないと思っているわけです。
従業員代表としての存在の危機
従業員代表としての存在の危機というものも組織化と大いに関係があります。
一つ目に労働組合法第7条にユニオンショップ協定の締結という内容があります。先ほどお話ししたように、ユニオンショップ協定を締結しなければ、なかなか組織率を上げることは難しいということです。しかし、過半数の従業員を組織化しなければ、ユニオンショップ協定自体を締結することができないわけです。まず、過半数の従業員を組合員にして、ユニオンショップ協定を締結をするという流れになります。これ自体で組合の力が変わってくるということになります。組合員が従業員の過半数を超えていない場合は、協定が無効ということになりますので、ユニオンショップ協定を締結していても会社が訴えれば、協定内容がはく奪となります。
二つ目に労働基準法第36条、時間外および休日労働についてです。労働基準法上は時間外、休日労働はしてはいけません。しかし、過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、過半数で組織する労働組合がない場合は、過半数を代表する者と書面で「このぐらい時間外労働をしてもいいよ」、「この時間であれば休日労働してもいいよ」という内容を書面で交わせば、時間外や休日労働をすることができるということになります。過半数で組織していなければ、労働者代表と認められませんので、会社は組合ではなく過半数を代表する人を探して、その人と書面を交わすという面倒な手続きをしなければならないということになります。
三つ目は労働組合法第17条、労働協約の一般的拘束力になります。これは事業場の従業員の75%を超える組織率の組合がある場合、その組合と労働協約を結んだ場合は、残りの25%の雇用者にもその労働協約を適用しようという拡張適用が認められるということです。そもそもみんな組合員にしたほうがいいのではということもあるかもしれませんが、拡張適用が認められると、すべての労働者の労働条件を改善することができるわけです。組織化そのものも大事ですが、働く仲間がよりよい環境で働ける、より労働条件を向上できることのほうが、よっぽど大事ということで、こうしたことも組織化に取り組む理由になっているということです。このようにして、2000年代以降、短時間労働者が増加したことにより、従来の正社員組合のままでは50%の組織率を割ってしまう組合が増加して、短時間労働者の組織化が急務になったということです。しかし、いまだに過半数代表でない労働組合も多数あります。
パートタイマーの処遇改善に向けた法改正
続いて、パートタイマーの処遇改善に向けた法改正の状況について説明します。法改正が進んでいるということも、組織化が進んできた大きな要因になります。法律のなかで、パートタイムの働く仲間の雇用、労働条件を改善するような取り組みが進んできたということになります。まず、1993年に「働きに応じた公正な処遇」の実現ということで、パートタイム労働法が制定されました。パートタイムの定義は、正社員に比べて労働時間が短いということですので、労働時間が短いパートタイムに対して、公正な処遇を実現しようという目的で制定されました。2007年にパートタイム労働法は改正されました。先ほどお話をしましたが、基幹労働化が進むなかで、正社員とまったく同じような働き方をしているパートタイムもでてきています。例えば、同じ副店長なりマネージャーを担っていて、ほぼその役割が同じという場合は、「均等」な待遇を確保すること、そうでない場合は、「均衡」のとれた待遇を確保するということが、使用者に義務付けられました。パートタイム労働法以外にも、2013年4月に施行された改正労働契約法により、有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合は、本人の申し込みにより無期労働契約に転換できることとなりました。これによりパートタイマーあるいは有期労働契約で働く人たちは、無期契約に転換できるということになり、多くの方が正社員と労働条件が少しづつ近づいているのです。
2020年4月から施行されている、改正パートタイム・有期雇用労働法では、不合理な待遇差の禁止、労働者に対する待遇に関する説明義務の強化という内容が入りました。もともとパートタイム労働法は「均等」、「均衡」を目指して、公正な処遇を目指してつくられたわけですが、労働者に対して説明のできないような待遇差はしてはいけないということです。また労働者自身から、「なぜ私は正社員と賃金が違うのか説明してください」と求められた場合、それにきちんと答えなければならない。納得するように答えなければならないという義務が強化をされたということです。
これによりパートタイム労働者、有期雇用労働者もですが、不合理な待遇差の改善に向けた法改正が進むことで、短時間労働者の意見を聴き、改善することが急務であるという意識が労使ともに高まったことも、組織化の背景になっています。
組織化のメリット
組織化は組合が強くなるためだけにやるものではありません。組合員本人にとってもメリットがあり、会社にとってもメリットがないとユニオンショップ協定なんて結べません。つまり、win-winな関係に向けて組織化を実施するという立て付けが必要となります。
まず、個人のメリットは労働組合があることによって、会社と交渉してもらえます。代表して交渉するという立場で、組合に交渉してもらうことができますので、賃金、労働条件の維持・向上にもつながりますし、より公平・公正な評価につながります。「いつ首を切られるのかわからない」、「職場がとても働きづらい」、また労働安全衛生の観点からの不安をも解消する術ができるということです。つまり、労働者福祉の観点でメリットがあるということです。
会社にとってのメリットの一番大きなものは、組織化することによって営業力が強化されるということです。それは、企業内の組織化、企業のなかで短時間労働者だけを組織化していない場合であっても、その会社にそもそも組合がない場合も同じですが、組合はただ「賃金上げろ」、「労働条件あげろ」と言っているだけではなく、チェックアンドバランス機能というものがあります。会社が正しい運営をしているか、きちんとチェックして意見を言うことができます。従業員の声をきちんと拾い、会社に対して営業力改善に向けた提言をしたり、営業力が低下しそうな施策をしている場合は、「こういうところを改善してください」と意見を言うことによって改善する、または生産性向上の力になるということです。また、きちんとした労働組合がない場合、外部労組が介入してくる場合があります。一人を組合に加入させ、その人の労働条件だけを改善する交渉をしたり、会社の前で大騒ぎをしたりというようなことも起こりかねない。これは企業にとってはリスクになるので、それを回避するということもあります。そして、労働組合があるということで安心して働けることが、定着率の向上にもつながります。
労組のメリットとしては、組織力の強化が一番になります。組織力の強化により、安定的に、第一組合の地位を確保したり、組織や財政の基盤がつくられることにより、活動が充実したり拡大したり、外部への発言力が増えたりということもあります。そのほかにもお互い、それぞれがメリットをもって、よりよい働き方ができ、会社も発展するというwin-winの関係をつくるということが組織化の目的になります。
具体的な企業内での組織化手法~ユニオンショップ協定締結の場合~①
どのような手順で組織化をしているのかというお話をいたします。ユニオンショップ協定を締結している場合、どのような手順をとるか。もちろん組織率を上げたいという組合側のニーズがあって進めていきますが、対象となる短時間の従業員が「そんなことしてほしくない」、「今のままで十分」と思っていれば組織化はうまく進みません。短時間の従業員から相談などに基づき、未組織労働者のニーズを把握した上で、労使で協議をして組織化に取り組むことが重要です。
また、組織化にはかなりの時間がかかります。まず1年ほど前にニーズを把握したのち、労使協議を行う、ここが第一ステップです。まずは従業員からの組織化をしたいというニーズを会社に伝え、その上で組織化の範囲であったり、実施時期を労使で合意します。この合意が組織化の早道になりますので、いかに先ほどのメリットを会社に理解してもらうかが重要になります。団体交渉という手段を使って、合意を得てから進めるということが多くなります。会社と合意をしたのちでも、会社と合意をしたからといって組織化を進められるわけではありません。現在の組合員からの理解を得られなければ組織化は進められません。組合の最高決議機関である定期大会で、短時間労働者の組織化案、ユニオンショップ協定の範囲、短時間の従業員を組合員の範囲に設定する労働協約の改定、そして、チェックオフ協定の承認を得て進めます。チェックオフ協定とは、会社が組合費を給与から天引きして組合に一括して渡すことを内容とするものです。
定期大会で組合員の承認を得たら、次は対象従業員の同意確認という作業に入ります。同意確認がなぜ必要かということですが、ユニオンショップ協定は会社と組合で、この範囲の従業員は組合員にするということを約束する協定ですので、自動的に組合員になるのではと思われる方も多いかと思います。もちろん、労働協約を結んだあとに採用される人は、その範囲であれば自動的に組合員になりますが、今いる従業員で、これまで組合の範囲に入っていなかった従業員は、採用された当時には、組合員になるという雇用契約ではなかったわけです。こうしたことから、いくらユニオンショップ協定であっても、既存の従業員で組織化対象の方には、きちんと説明会を個別に開き、本人の同意を得てから組織化を進めるということが大事になります。これがとても大変な活動ですが、きちんと理解を得ていないと、勝手に組合費を引かれたといったトラブルが起こりかねないということです。
具体的な企業内での組織化手法 ~ユニオンショップ協定締結の場合~②
既存の組合員の組織化が終わったら、チェックオフの日までに、対象者をきちんと会社と共有をしなければなりません。会社が同意を得た人の翌月の給与から組合費を天引きするという作業も必要ですし、また、組織化した次の日から採用された方については、会社から「この人が組合員になりましたよ」というリストをもらわなければ、だれが組合員になったかわかりません。退職する方もいますので、組合員名簿の精査を組合だけで行うのは、非常に困難です。会社から組合員名簿を毎月もらう、チェックオフを会社にしてもらうという労使共同での運営が不可欠ということです。
次に、組織化後、ここが大事です。組織化は手段であって、目的ではありません。組織化することが目的ではなく、組織化の後、その方たちの労働環境であったり、労働条件を改善するという取り組みがとても重要になります。そのために、職場集会を開いたり、ランチミーティングで職場での困りごとを聴いたり、労働条件で改善すべきところについて意見を聴き、それを団体交渉等で交渉し、改善をしていく。この繰り返しをすることにより、「組合があってよかったな」、「組合員になったおかげで労働環境が改善された」、「労働条件が改善された」、「私もそこに参画して、一緒に活動しよう」という気持ちが生まれます。団結を高めるということにつながりますので、組織化後、いかに組合員を巻き込んでいき、みんなで活動していくかということがとても重要になります。
具体的な組織化手法 ~未組織企業・企業内の組織化すべて共通~
どうすれば組合員になることに同意して、納得して参画してもらえるかということをよく質問されます。組織化するときだけではなく、組織化後も質問されることが結構あります。「組合って結局なにしてくれるところなの」、「組合費のもとはとれるのかしら」ということなのですが、組合は誰かがやってくれる組織ではないです。労働組合はみんなの参画でつくるものであり、組合役員は幹部ではなく、組合員、経営者とも対等な立場の代弁者というわけです。つまり、組合はなにをしてくれるのといえば、みんなでつくるものであり、組合はなにか一つをする組織ではないということです。24時間生活サポーターとして、仕事、生活で「こういうことを改善したい」、あるいは「こういうことで困っている」ということに対して改善をするというのが労働組合の役割です。仕事上の悩み、職場の環境改善、労働条件改善だけでなく、例えば、借金を抱えて困っている、離婚問題で困っている、もっと生活充実させたいなど様々なものを改善するために全力を尽くす。それは誰かがするのではなく、みんなでする。そういった組織が労働組合です。労働者は弱い立場なので一人では解決できません。みんなで声を上げて改善することが大事です。
UAゼンセン、つまり産業別労働組合の役割はなにかというと、企業別組合の活動のサポート、企業内労使できちんと問題を改善するようにサポートしていくということが重要になります。企業内の活動は労使で実施をしていくのですが、やはり、組合が結成されてすぐだと、労働組合はどう交渉していけばいいかわからない、どう改善していいかわからないということも多くあります。こうした際には、UAゼンセンの役職員が企業別組合のサポートや教育をします。また、単組では解決できないことへの対応が大きな役割になっていて、産業全体で改善をしなければならないような課題にも、取り組んでいます。例えば、業界団体、政府、地方行政へ要請をしたり、また、私たちの中から、政治の場で活躍してくれる人をつくり、その政治家を活用して声をあげていくという活動もしています。
短時間労働者、労働条件・環境改善の取り組みについてのケーススタディ
短時間労働者の労働条件・労働環境の改善に向けた取り組みについて説明をします。ここで少し皆様にも考えていただきたいと思い、ケーススタディを入れました。皆様どうするか考えてください。
あなたがそう言われた立場として、少し考えてください。
では、どういうことが起こりうるかを、説明します。
例えば、「そんなに長い時間働けません、もう少し短くしてもらえませんか」とあなたが言った場合、おそらく社長は「そんな頑張って働かないような人、うちの会社に入らないよ。こんなに大変な時なのに。もうほかの人にお願いするから、明日から来なくていい」と言われるかもしれません。
あなたは靴が好きで、Bさんのように、「大変な時期なんで、みんなで頑張りましょう。みんなでこの大変な時期を乗り越えましょう」と言ったとします。そうしたら社長は、「ありがとう。頑張ってね。一緒にこれで頑張ろう」以上、終わりです。
例えば、Cさんが「それは労働基準法違反じゃないですか。少なくとも、1250円にしてくださいよ」と言います。一人で言いにいった時に、社長はこう言います。「Cさんそのことは誰にも言わないでね。Cさんだけ時給1250円にするからね」例えば、そういうことが起こりうるかも知れません。
多くが有期契約である短時間労働者の皆さんは、解雇や労働条件悪化につながりやすいということがあります。労働者の武器は労働力です。団体交渉を通じて、解雇の撤回や労働条件改善を求めたり、法的に認められているストライキという手段で、経営者に私たちの要求を認めさせることができます。一人で声をあげるより、みんなで声をあげることが重要だということです。例えば、この靴屋で、Cさんが社長に対して、みんなの代表として労働組合を立ち上げ、団体交渉をしたらどうでしょう。「残業時間を短縮してください、それから時給を1500円にしてください。そうでなければ、今日以降、全員がもう仕事しません。明日から私たち来ません」とCさんが言ったらどうなるでしょう。社長はストライキされたら、靴がつくれなくなってしまって、会社が倒産してしまう。「採用募集して残業を減らす、時給1500円は認めるから頑張って」ということになるかもしれません。労働者の武器は労働力です。労働しないということを武器に取ることも、私たちに与えられた権利ということです。これが例えば、短時間労働者を組織化していない労働組合が同じ立場になったとします。そうすると、「どうぞやってください。あなたの組合は過半数の従業員を組織していないですよね。残りの人に頑張ってもらえますから。どうぞストライキしてください」ということにもなりかねません。こうしたことから、多くの労働者が団結をし、同じ行動をするということがとても重要になるわけです。
UAゼンセン 同一価値労働・同一賃金に向けた取り組み
UAゼンセンの取り組みを紹介します。同一価値労働・同一賃金の取り組みです。法律の趣旨からすると、パートタイム・有期雇用労働法のなかでは、「同一労働・同一賃金」と言います。同じ職種・職務で働く労働者は同一の賃金であるべきだということです。UAゼンセンの取り組みとしては、「同一価値労働・同一賃金」という言い方をします。それは、やはり働いているなかで、パートタイムの皆さんは同じ職種でないなかで働いていたり、働き方が若干違うが、同じ価値のある働き方をしている方が多くいます。その場合、同一賃金であるべきという考え方を持っているので、「同一価値労働・同一賃金」と言います。もしかしたら、法律が変わったことで、「労働組合がなくても『同一労働・同一賃金』になるだろう」、「同じ職種・職務で働く労働者は同一賃金という考え方なのでしょう」と思われる方もいるかと思います。「同一労働・同一賃金」のガイドラインはありますが、その解釈はまちまちです。同一労働、同じ職務ということをどう切り取るかということなのですが、例えば、同じマネージャーであっても、勤務地の範囲が違う、正社員は転勤であったり、同じ仕事をしていても責任は正社員のほうが重いなどのようなことで、「同一労働・同一賃金」ではないと経営側から判断されることもあります。ですので、労働組合を通じて、実態の確認や意見集約、労使協議をすることが必要になります。企業労使のなかで、そのような協議をしていきますが、UAゼンセンという産業別労働組合の力を使い、同じ産業である流通は、同じ基準で要求し、同じ時期に交渉し、妥結をするということで、一緒に流通全体の賃金を上げていこうとしています。短時間労働者の条件を上げていこうということがとても重要になってきます。
2020年の賃金闘争における処遇改善の取り組みを説明します。短時間組合員に対する要求の考え方は記載の5つになります。流通総合労働政策の実現ということで、均等・均衡待遇に向けて、働く上での様々な政策を実現していこうという考え方です。次に、同一労働・同一賃金のガイドラインが国から出されていますので、それに合わせて、流通部門としてはどこまで手当を同じにしなければならない、どこは増額しなければならないなどの要求を設定しました。また、生活者の視点から、実質賃金維持のための持続的な賃金水準も必要ですし、連合の方針やUAゼンセン本部の方針と同様、物価上昇分であったり、格差是正であったり、そのようなものも含めて2%程度の賃上げをしたい。また、短時間労働者は、正社員より賃金が低いので、要求基準は少なくとも正社員組合員と同等、もしくはそれ以上の要求としたいという考え方を持っています。2020年の賃金闘争においては、特に法改正を踏まえ、通勤手当、出張旅費、食事手当は正社員に手当がある場合は短時間労働者だから違うということはありえないということで取り組みました。短時間労働者であっても通勤は同じようにしますし、出張命令されたら同じように旅費はかかります。食事も同じように食べます。その場合は同じように支給をしようという考え方です。また、一時金については、まったく短時間労働者に対して支給していない会社もあります。一時金を支給していない場合はまずは支給をしよう。水準については貢献度を踏まえて、設定してくださいという考え方を持ちました。
その結果、どのようになったかを示しています。通勤手当は51組合で改善をすることができました。また、家族手当についても、20組合で短時間労働者にも導入することができました。出張旅費や食事手当はすでに多くの企業で同額であることから、今回の改善項目にはあまりあがってきませんでしたが、すでに均等になっているという認識を持っています。一時金も、まだすべてではなく一部ではありますが、改善をするということに着手することができました。そのほかの手当もさまざま改善をすることができたということです。その一例をその右側に載せております。例えばA組合では、パートと再雇用社員の育児、介護、傷病の休職制度を正社員同様につくったり、百貨店のB組合では、私傷病に関する欠勤・休業の制度を契約社員も正社員と同一にしたり、ドラッグストアのC組合では、人事処遇制度の整備をしたり、契約更新などで65歳まで雇用を継続できる制度を導入したり、職務の遂行に必要な能力開発の教育訓練を正社員と同様におこなうなど、同一価値労働・同一賃金に向けて、各単組で取り組んでいます。今年1年でやりきれるとは思っていません。継続して、協議をしながら、毎年改善することが重要だと思っていますので、次年度以降もきちんと同一価値労働・同一賃金に向けて取り組んでいきたいと思っています。
現在は、正社員と短時間社員は賃金制度が違うのでその差がでてきますが、UAゼンセンとして最終的には、一つの雇用区分で働ける制度を構築していきたい。なにが違うかというと、短い時間の分は賃金が少なくなるが、基本的には同じ賃金制度だという制度構築を今議論しているところです。
UAゼンセン流通部門 職場環境改善の取り組み
UAゼンセン流通部門の職場環境改善の取り組みについて説明をします。小売業では、非常に悪質なクレームが多く発生しています。最近マスコミなどでは、カスタマー・ハラスメント(カスハラ)という言葉でよく報道されています。組合員にアンケートを取ったところ、例えば、威圧的な、権威的な態度で説教されたという事案は13,317件ありますし、暴言は24,107件もあります。多くの組合員は少なからず、何度も何度もこのようなクレームにあっている。それも正当なクレームではなく、悪質なクレームにあっているということが見て取れます。
そこでUAゼンセンとして、このような状況が起こっているということを把握したので、サービスをする側と受ける側が共に尊重される社会をつくろうという目標を掲げました。これは、私たちが良くなればいいということではなく、お客様つまりサービスを受ける側も、どちらも尊重されるような社会をつくりたい。士農工商が残っていて、どうしても流通で働く人は一番低い地位とみられがちです。また、「お客様は神様」ということで、お客様がえらいと思われがちでもあります。そのような流通で働く人たちの地位向上と、お互いに尊重される社会をつくるということを目標に取り組みを進めています。現在は、悪質クレームの定義とそのガイドラインを作成し、各企業労使で悪質クレームの改善に向けて、取り組んでいます。
ここで、悪質クレーム対策の動画を作成しましたので、少し見ていただきたいと思います。
(下記リンクよりご覧ください)
https://uazensen.jp/claim_cm/
これは従業員の実際の体験に基づいて、UAゼンセン流通部門が作成した啓発動画であり、YouTube等にアップしています。このように、非常につらい目にあっている従業員は多くいて、通常のクレームではなく、大きな声で怒鳴ったりすることも、しょっちゅう起こっています。こういうことを、こういう動画を使い、また、マスコミ等を通じて改善していくということもUAゼンセンの重要な役割となります。さらに、国会では私たちの代表である田村まみという参議院議員が、労働組合出身ですが、国会で悪質クレーム問題を議題にあげたりして、改善に向けて取り組んでいます。
UAゼンセン流通部門 短時間組合員の意見反映に向けた取り組み
最後に、流通部門の短時間組合員の意見反映に向けた取り組みについて説明をします。短時間組合員が7割程度おりますので、いかに、そのメンバーに参加・参画をしてもらうかが重要になります。短時間組合員はたくさんいますが、そのなかで、組合役員を担ってリーダーになりたいという短時間の方はまだとても少ない状況です。しかし、短時間労働者の声を、短時間の方が率先して改善していくという活動もとても重要です。そこでUAゼンセン流通部門においては、パートタイム役員リーダー会議を毎年開き、今年は38名が参加をしていますが、一緒に今年の賃闘で取り組む、一時金、手当を自分たちの力で、組合員の声を聴いてどう改善をしていくか、会社にどう伝えていくかというような議論をしたり、パートタイムの皆様が中心となって、改善をしていけるような取り組みとレベルアップを目指して、活動をしています。
また、専門委員会においては、パートタイム労働者総合対策委員会を開き、パートタイマーの様々な処遇・労働条件だけではなく、役員をどう増やすかという話し合いもしています。そのなかで、パートタイムの役員は今1名しかいませんが、次年度以降拡大をしていく予定です。
おわりに
皆様が労働組合を理解し、組織化について少しでも理解していただける一助になったとすれば、幸いです。今後も、UAゼンセンでは短時間労働者の労働条件の改善、職場環境改善に向けて、組織拡大と意見反映という取り組みを継続して実施をしていきます。
本日はご清聴いただきまして、ありがとうございました。
以 上
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