一橋大学「連合寄付講座」

2017年度“現代労働組合論”講義録

第4回(5/8)

多様化する職場での取り組み―男女平等と非正規労働者の処遇改善

宮島佳子(UAゼンセン流通部門執行委員)

はじめに

 皆さん、こんにちは。UAゼンセンの宮島と申します。今日は、「多様化する職場での取り組み ~男女平等と非正規労働者の処遇改善」についてお話をさせていただきます。身近なテーマとして、範囲の広い分野でもありますけれども、皆さんと一緒に考えていけるテーマなんじゃないかなと考えております。
 私はUAゼンセンという組織の中で、流通部門という、流通産業に特化した労働組合をまとめている部署におります。流通部門といいますと、物流かなと思われるかもしれませんけれども、実際には、店舗を持っている小売業を中心に、労働組合を集めているところです。

わたしのライフチャート

 この中で、今、接客業のアルバイトをしている方はどのくらいいらっしゃいますか?ありがとうございます、いらっしゃいますね。私も学生のときに、接客業でアルバイトをしていて、そこからスタートして、今の仕事に携わっていくことになるんですけれども、まずは、今日のテーマの中でどういう話をするかということを、自己紹介を踏まえて話をさせていただきたいと思います。
 スライドを用意しました。私の履歴ということで、縦軸が私のモチベーションを表しています。100パーセントがやる気満々のときで、0がまあ普通かな、マイナスはもう全然やる気のないときを表しています。それぞれどんなときだったかをご紹介したいと思います。

 まず、私は、一度短大を卒業した後、もう1回短大に入学しました。なぜかというと、就職氷河期だったというのもありまして、四年制大学への編入でもよかったのですが、ちょっと社会に出るのを一歩待とうと思い、短大に入学をしました。そのときに、その後入社することになる東急ストアというスーパーマーケットでアルバイトをしました。そこでは、お客様の商品をレジで通して、袋に詰めるといったレジの接客の仕事をしておりました。そもそもは、アルバイトなのでお金がほしいと思っていたんですけれども、だんだん仕事が楽しくなりました。なぜ楽しかったかというと、お客様から「ありがとう」と言われることがだんだん増えてきたんですね。最初は、商品とお金しか見てなかったんですけれども、だんだんお客様の顔というものが見えてくるようになりました。どうして「ありがとう」と言われたのか後から考えると、お客様の商品を袋に詰めるとき、丁寧なやり方をしていたみたいです。自分が気づかないことにありがとうと言われるっていうことは、アルバイトを通じて初めてだったと思っています。
 このようにアルバイトをするなかで、お客様にも「辞めないでね」といった、ありがたいお言葉をいただくという経験もあり、就職活動の1つとして、東急ストアの入社試験を受けて入社をしました。じつはこの時に、私はモチベーションがものすごく落ちています。アルバイトをされている方は分かるかもしれませんけれども、入社して最初の仕事が、アルバイトをしていたときの仕事とそんなに変わらなかったんですね。例えば、レジという仕事をとっても、同じ新入社員の同期と比べて、自分は完璧にできてしまったんですね。なぜ私はできない同期と同じ位置にいるんだろうみたいな、そういうつまらない不満というか、個人的に納得いかない部分があり、モチベーションが下がっていました。
 もう1つは、学歴社会と言ったら変な言い方かもしれませんけれども、この会社は、学歴で給料が決まるという仕組みでした。私は、年齢は四年制大学卒業の人と同じでしたが、短大卒業、準学士の新卒で入ったので、給料は四年制大学卒業の人より実質3万円少なくなっていました。先ほど言ったように、スキルは私の方が高い。そして年齢も一緒。なのに、給料が低い。そのため、入社時は結構モチベーションが下がっていました。仕事はもちろん好きですし、今までの経験がある会社ですので、どんな会社かは知っていましたが、そういった事情で結構モチベーションが上がらなかったという時期があります。
 その後、モチベーションが上がった時期があります。東急ストアには社内論文という制度があり、論文を通じて、自分の職場に関する提案をすると、賞や賞金をもらえました。私は接客も好きだし、仕事も好きなんだけれども、そういったモチベーションがなかなか上がらなかった時期に、文学科出身だったので、自分の特技を活かせる何かがあればと思って、論文にしばらく傾注しました。仕事というよりも、賞金目当てのような感じで、ちょっと動機が不純だったかもしれませんけれども、自分の強みをどう仕事に活かすか、ということを自ら見つけた期間だったと思っています。
 流通小売業は店舗がいっぱいあるので、異動で店舗が変わることもあります。次のモチベーションが下がっているところは、30歳のときです。ストレスが原因で帯状疱疹という病気になりました。このときは、店長と、そのもう一つ上の上司であるマネージャーとの間で板挟みになりました。先ほど社内論文の話をしましたが、色々提案をすることが自分のスキルになったので、会社にもっと提案をしたいと思うんですけれども、やっぱり指示命令系統があって、お店なので店長のルールに従わなければいけない。もしくは、1つ上のマネージャーに指示を仰がなければいけない。でも私はやりたいことがある、というような感じで、空回りしてしまった時期がありました。そうなると、新しい企画を提案するときに誰に相談したらいいんだろうとか、こういうやりたいことがあるのに、どうしてやらせてもらえないんだろうとか、そんなストレスが自分の中にありまして、それが原因で帯状疱疹になりました。このときは、職場のパートさんが、「それは帯状疱疹と言って、ストレスの病気だから早く病院に行きなさい」と言って助けてくれたので、すぐに病院に行って治りました。しかしその時に初めて、仕事をしていて、もどかしさというものが、体の体調不良、ストレスとして出てしまったという経験をしました。
 その後も色々賞をとるなどしてモチベーションを保っていたのですが、次に、管理職といわれる、店長や副店長といったリーダー格になったときにモチベーションが下がっています。このときは、新店舗のオープン準備を任されました。例えば、店のコンセプトの決定や、採用面接、その他諸々、事務関係を全てやることになりました。このとき30歳だったんですけれども、初めてやる仕事ばかりでした。初めてやる仕事なんだけれども、やっぱり管理職なので、誰に相談したらいいのかわからなくて、うまくいかなかったんだと思います。今は、どういうことについてはどの人に聞けばいいのか、人脈というものを身につけてきましたが、このときは、それが分からなかったので、ストレスになりました。これが3回目のモチベーションダウンのときで、突発性難聴になり、右耳が聞こえなくなりました。このときも、周りのパートさんが「早く病院に行きなさい」と言ってくれたので、すぐ聴力が回復しました。そういった周りの助けもあって、ストレスを改善しています。新しいお店をオープンするということは、気持ちが引き締まるもので、これを32歳くらいのときに経験し、入社をして10年経って、一人前になったと思う一方で、やはり悩んだら人に相談しなければいけないこともあるなと思った、気づいたことが多い、というような時期でした。
 この後、労働組合の世界に入ってまいります。労働組合は企業の中にあるんですが、今でも労働組合の仕事って何をするのか、実は分からないです。分からないながらに、自分なりに仕事を見つける、ということでやってきたのですが、35歳のときに、今私が所属しているUAゼンセンという産別に出向となりました。同じ業種の企業別労働組合が集まって構成している産業別の組織です。35歳から、産別で少し視野の広がった労働組合の仕事をしています。今の職場は、男性ばかりです。みなさん不思議に思うかもしれませんが、労働組合は、歴史をたどると男性が中心であったということもあり、今でも女性はものすごく少ない世界です。そして、企業の中ではそれなりに経験値を持っていたのですけれども、労働組合の世界では、35歳というとまだまだ若手と言われる世代です。加えて、労働組合の中でも年齢が上の方は、まだまだ女性に対して固定観念があるようで「なぜ女性が俺と同じ立場なんだ」と言われることも実はありまして、結構へこみました。
 しかし、私はそんなところでめげていられないと思い、キャリア・コンサルタントという国家資格を取りまして、仕事そのものに対する専門分野を学び、そういったハラスメントはもう過去のものだと割り切りまして、前向きに取り組んでいます。そして、昨年の10月に、私は東急ストアを辞職して、この労働組合の世界を専門にしようと決めました。転職です。初めてです。この労働組合の世界では、専門分野といっても、企業籍があると、いずれはみんな企業に帰ってしまいます。そうすると、やはり今まで自分がやってきたことを歴史としてつないでいくことが難しいだろうということと、今日のテーマであります、男女平等や非正規労働という分野は、まだまだ研究が足りないですし、事例も少ないです。なので、やはり誰かがやらなければ道は開けないという思いを持ちまして、最近退職して、労働組合という世界に本格的に足を踏み入れています。労働組合の専門家としてはまだまだこれからですけれども、今日は皆さんと、男女平等と、非正規労働者について、一緒に勉強していきたいと思います。以上が自己紹介になります。

本日お話すること

 今日は、大きく2つのことについてお話します。男女平等と非正規労働者の処遇改善です。範囲が広いので、それぞれ3つずつのテーマに区切ってお話をさせていただきます。まず男女平等については、男女雇用機会均等法と男女共同参画社会基本法という法律について。2点目が、男女間の賃金格差。それから、ポジティブ・アクション。この3つをテーマとさせてもらいます。次に、非正規労働者の処遇改善については、私は流通小売業が専門ですので、流通小売業の非正規労働者にはどういう特徴があるか、皆さんに知ってもらいたいと思います。それから、労働組合がなぜパートタイマー、非正規労働者を組織化するのかということをお伝えします。最後に、処遇改善の具体的な事例をお伝えしようと思っています。

UAゼンセン流通部門 組織現勢

 まず、私が所属するUAゼンセンの流通部門についてご紹介します。この流通部門には、流通の小売業などの労働組合が加盟しており、その数は558です。組合員数は96万人です。
 短時間組合員というのは、いわゆる正社員が例えば1日8時間勤務だとすると、それより短い労働時間で働く労働者と組織で決めています。イメージとしてはパートタイマーですとか、契約社員ですとか、いわゆる非正規労働者と今日は捉えていただければいいと思います。
 組合員を雇用区分でみると、正社員が34パーセント、いわゆる非正規労働者は66パーセントで、非正規労働者が非常に多く3分の2となっています。一方で、男女比率は男性が34パーセントで、女性は66パーセントとなっています。男女比率は雇用区分で分けていませんが、女性の内訳としては、2割が正社員で、8割がいわゆる非正規労働者といった割合になっています。

UAゼンセン流通部門 組織現勢

 流通部門には約500社の企業が所属しており、皆様の住まいの近くですとか、この国立周辺、また全国規模ですので、地方にも企業があるかもしれません。こういった企業に労働組合があり、その労働組合が所属しているのが、UAゼンセンです。以上がUAゼンセン流通部門のご紹介となります。

「男女平等」の考え方

 さて、本題に入りますが、まず男女平等をどう考えますか、ということです。
 ケーキを例にとって説明したいと思います。男女平等というテーマがあるときに、よく平等とか、均等とか、対等とか、そういう言葉についつい縛られてしまうんですね。例えば、重たいものを持つときに、男性が、男女平等なんだからお前も重たいものを持てよ、みたいなことが果たして平等なんですか、とか、これは対等なんですか、とか、均等なんですか、と、ここまで縛られてしまうと、なかなか進まないというところがあります。
 なので、私が発信するときは、そういった言葉の定義を見るというよりは、例えば、このケーキを切る人とそれを選ぶ人という2つの役割があります。このときに、これを寸分違わず、5等分してくださいと言われると、ちょっと1つが大きくなっちゃったりします。そのようなことがあるときに、私がもうその5等分は切ります、その代わり、あなたが好きな大きさのものを1枚とっていいですよと、そのような役割分担という考え方で、男女平等というものを捉えていってはどうかと。こんな話をしています。言葉で縛られてしまうと、つまらないことで引っかかって前に進めなくなってしまうんですね。ちょっと漠然としていますけれども、そういった考え方で、男女平等を捉えています。

「男女平等」の考え方

男女雇用機会均等法と男女共同参画社会基本法

 一方で、法律ではどうなっているのかというと、男女雇用機会均等法、こちらが男女平等といわれるときによく出てくるもので、男女がイコールになってくるものです。これは、雇用に関する内容です。一方で、男女共同参画社会基本法といった法律もあります。ここには男女が対等な立場で、と文字には書いてありますけれども、社会活動全般に関するものです。これら2つの法律をどういうふうに掛け合わせて労働組合として運動していくか、こういった概念をどういうふうに労働組合の活動に活かしていくか、そのようなことを考えています。
 男女共同参画って一体何すればいいんですか、と労働組合の役員の皆さんからよく相談があります。そういったときに、私は、組織には色々な歴史も過去もありますし、それぞれの成長度合いも違うと思いますので、1つではなく色々な切り口でテーマがあるんですよとお伝えします。例えば、男女平等とか、機会均等とか、記載の通りのキーワードを挙げていますけれども、こういった観点で、男女共同参画というものを考えていけばどうですか、というふうに、提言というか、提示をさせていただいております。

 連合も「第4次男女平等推進計画」という推進計画書を作っておりまして、その中にキーワードが3つあります。1つが、ディーセント・ワーク、人間らしい仕事ということと、二つ目が仕事と生活の調和、つまり、ワーク・ライフ・バランスということ。それから3点目が、多様な仲間の結集と労働組合の活性化です。今日は、機会の均等と、ポジティブ・アクション、それからワーク・ライフ・バランスというキーワードで、少しご紹介をさせていただきます。

男女共同参画の課題…男性中心型労働慣行

 今、連合の事例を挙げましたが、国も「第4次男女共同参画基本計画」を策定しています。多分皆さんはそんなに差は感じられないかもしれませんが、少し前までは、いわゆる滅私奉公ですとか、24時間働くだとか、企業戦士とか、そのようなキーワードで、とにかく仕事に専念するのが男性だと言われる時代が非常に長かったこともありまして、国の資料の中には、男女共同参画社会の課題は、男性中心型の労働慣行があるからだ、と指摘している箇所があります。
 昔は、年齢で給料が決まっているとか、女性が家で家事と子育てに専念するから男性は外で長時間労働を厭わず働くといった時代がありました。それから、既婚女性というのは、基本的には家にいる人なわけだから、家計補助的にパートタイマー、非正規で働く。そういった家族のモデルがありました。こういうものが根付いているので、女性は外で働くことはないし、男性は長時間労働をなかなかやめられない、これが今の課題なのではないか、と書かれています。また、皆さんはそんなに違和感がないのかもしれませんが、男性が家事をするとか、育児をするということを恥ずかしいと思う人もいます。ですので、皆さんが就職をして、もしかしたら、頭では分かっているけど、まだまだ心では分かっていないというような上司がいるかもしれません。
 私も、60歳、65歳ぐらいの男性に聞きますと、今までは奥さんにばかり家のことをさせて、自分はなかなか家のことに目を向けなかったとか、今では子どもにも嫌われてくちをきいてもくれないという方もいます。また、自分は転勤族だから、自分の実家というか、自分の拠点の場所がない、だから地域に貢献しようと思ってもできない、と悩んでいる方もいます。「濡れ落ち葉」という寂しい言葉があるようですけれども、そういった時代の中で生きてきた背景がありますので、その人が悪いというわけではありません。これから皆さんが社会に出ると、色々な世代の方と接する場面がありますし、色々な考えの方がいると思いますので、こういった背景を知っておくことは重要ではないかと思います。
 特に、皆さんの少し先輩になる30歳前後の男性では、もし子どもが生まれたら育休を取りたいと思っている方が増えてきていますので、もしかしたら、皆さんが就職される企業では、そういった取り組みが進んでいるかもしれません。もしそういった会社であれば、喜んで、男性の方は、積極的に家庭も充実させていただけたらと思いますし、女性の方も、自分だけ悩むということではなくて、パートナーと協力してやっていく、そういったことを皆さんには期待したいなと思っております。こういったことが国の資料にも課題として書かれています。

男女間賃金格差が生じている原因と課題

 男女共同参画という話をするときに、必ず上がってくるキーワードが、男女間の賃金格差です。女性活躍推進法を作るときにも、賃金格差という指標を入れるか入れないかがものすごく議論になりました。結果的には、入ってこなかったのですが、企業においては、賃金格差が、ものすごく分かりやすく出てきます。
 今日は、実際に企業の数値を賃金プロットで皆様に見ていただこうと思っています。賃金プロットの縦軸は、平均賃金、平均的にもらっている給料を表しています。横軸が年齢です。
 1つ目の企業を見てみると、27歳ぐらいまでは、男女の給料がほとんど同じになっています。しかし、27歳を超えると、男性と女性の給料に少しずつ開きが出てきます。第1の理由は、女性が子どもを産んで育児休業を取得すると給料がもらえなくなるからです。今は平均結婚年齢が、28、29歳ぐらいになっていますが、大体これぐらいの年齢から給料に開きが出てくるのです。30~35歳ぐらいまでの間にも開きが出てきます。これは、昇進・昇格をしたりするのが、大体30歳から35歳ぐらいだからです。女性は、育休を取ったり育児短時間制度を利用したりと、仕事と育児を両立しなければならないケースが多くなるので、結果として昇進・昇格が遅れ、給料が下がってしまいます。さらに、40歳くらいになりますと、その企業の中では中心的なメンバーになってきますので、男性の場合は、昇進・昇格すれば、どんどん給料も高くなっていきます。
 こういった賃金プロットというデータを見ると、男女の格差がどういうふうに出るのかが各社別に分かります。何を言いたいかというと、男女間賃格差の有無はよく議論になるのです。しかし、賃金制度上は、男女という性別で差を設けているわけではないけれど、やはり実際に格差はありますよ、ということです。これをどういうふうに解消するかというのを、みんな一生懸命悩んでいるといえます。
 次に、二社目の事例です。ここは、先ほどの企業に比べると、男女でほぼ給料の分布がそろっています。これは実は外資系の会社でして、海外の人事制度が採り入れられています。このような制度は会社に入ってみないと分かりません。男女間賃格差でいうと、こういった企業だと理想的で良いよね、と私は捉えてはいるんですけれども、こういった制度を日本では作れるんだろうか、という問題意識があります。それがどういう問題意識かというのは、次の会社の事例でお見せします。
 この企業はですね、男性が非常に多く辞めずに会社に残っている。年齢的に見ても大体30歳ぐらいまでは男女であまり賃金格差は見られないんですけれども、30歳ぐらいになると、急に開きが出てきます。おそらく30歳ぐらいになると、女性の場合は子育てとの両立があるので、ポストを取りにくる男性と比較すると、どうしても賃金格差が出てしまいます。日本にはこういった企業が多いのかな、というふうに見受けられます。
 次のグラフは、先ほどの企業と同じなのですが、諸手当を抜いたものです。手当には、住宅手当や配偶者手当などがあります。特に配偶者手当は、世帯主に支給されるという要件となっておりますが、大体の場合は、結果的に男性につくことが多いです。そういった手当を抜いて指標を出すと、同じ企業でも、賃金格差が縮まります。このような図を見ると、手当をなくせばいいのかと思いますが、一概には言えず、これは非常に労働組合としても悩む問題です。労働組合は、会社と賃金の交渉をしますが、配偶者手当や地域手当がルールで男性だけについてしまって、それは男女間格差の是正だからといって一概に手当をなくしてしまっていのか、という非常に悩ましい問題でもあります。しかし、こういったことが男女間の賃金の格差には見え隠れしています、ということです。なお、現在、流通小売業では、配偶者手当はほとんど廃止され、配偶者に限定せず扶養者全般を対象とする家族手当や、子どもに限定した子ども手当を導入している場合が一般的になっています。
 最後の例です。これは、極端な例ですが、この会社では、男性に、非常に昇格・昇給にエントリー・チャレンジさせるという企業でして、チャレンジした人はどんどん上に行ける、そんな企業のため、非常に格差があります。採用を見てみると、35~41歳ぐらいの社員では、男性よりも女性の方を採用しているのですが、女性の方はそんなに昇格していません。これは会社の風土も影響してきます。この会社はやはり男性がマネジメント層にあがるという風土があって、賃金格差が出てしまうのです。
 このように男女平等をテーマにするときは、賃金格差が課題としてついてきます。各企業は経営理念に則って人事制度を作っていますが、こうしてグラフで実態を見てみると、この格差をどうやって縮めるのかが労働組合としても悩ましい問題です。賃金制度そのものの問題というよりは、運用面や雇用管理における問題点から生じていると考えられるからです。

ポジティブ・アクションの取り組みに向けて

 次に、ポジティブ・アクションについて説明します。これは、厚生労働省の言葉でいうと、男女の役割分担意識から生じる役職等の差を解消するためには、このポジティブ・アクションという制度を使って、女性に下駄を履かすというと、ちょっと変な言い方ですけれども、積極的に有利に扱ってもいいですよ、というものです。
 まず、男女の採用比率、平均勤続年数、女性管理職比率という数字も産業によって差があります。ですので、皆様が就職するときに、女性活躍をキーワードに就職先を考えるのであれば、こういったデータもありますので、見てみると面白いのかなと思います。

ポジティブ・アクションの取り組みに向けて

 こういったことを踏まえて、流通産業の課題もご紹介したいと思います。

 これ、ここに流通産業の状況を1枚にまとめてますけど、管理職の女性比率が低く、ものすごく恥ずかしいと私は思っております。私の考えなんですけれども、今、男性でも女性でもいいんですけども、活躍というキーワードがよく出てくると思うんですが、活躍を管理職比率で見るとすれば、それまでの過程も大事になると思います。
 まず、採用についてです。、採用の男女比率に大きな差があると、当然、最終的に会社に残って管理職になる人の比率にも影響が出てきます。流通産業の採用を見ますと、女性の比率だけ示していますが、半分を少し下回るくらいの比率となっています。このように、採用の段階では、決して女性が圧倒的に少ないわけではありませんが、現在在籍している女性の社員の比率は27.2パーセントとなっています。採用数が多いわりに、女性の社員数は減っています。
 次のキーワードは教育です。教育はよく話題になるのですが、皆さんが入社をして、最初に経験する仕事によって、その後のキャリアが左右される傾向があります。例えば、私のいる小売業では、新入社員のときに、レジでしたという社員の方は、なかなか店長にはなれないというような、いわゆるルートみたいなものができてしまいます。なぜかというと、店長になるためには商品や売り上げの数字なども知っていなければいけないのに、レジという接客だけの仕事にしていると、その経験が薄れてしまう。なので、入社をして最初にどういう仕事をしたのかによって、その活躍のルートが決まってしまうということも、労働組合として考えなければならないと思っています。
 3つ目は、定着です。ここでは3年目定着と、10年目定着を示しています。3年目は、22歳で入社をしたとしたら25、6歳のときです。どのくらい残っているかというと、男性が大体8割、女性が7割ということで、男性も意外と辞めているということが分かります。10年目になると、われわれの流通産業では、男性でも57.2パーセント、女性でも32.9パーセントとなります。これを低いと見るか、高いと見るかは、一つ前の図を見ていただければと思います。私たちの産業は、男女ともに定着していないということが課題になっています。なので、男女平等というテーマではあるんですけれども、男性もいきいき働けるように、それから女性もいきいき働けるように、といったことが、課題という産業です。
 この定着率の低さの背景にはどんな課題があるかといいますと、今色々な課題がありますが、一つに長時間労働があります。スーパーでも、24時間営業のお店があったり、朝の7時からなど早朝開店のお店があったり、23時、24時まで営業しているお店があったりして、営業時間が長いことに縛られてしまって、働き方が変えられないという恥ずかしい現状にあります。実際は、シフトを回すので、例えば、6時出社の人は8時間後に帰るとかですね、私も三軒茶屋のお店に勤めていたときは、14時から23時というシフトをしていましたので、長時間働くというよりは、シフトの中で、時間内で働くということをしていました。しかし、ついついお客さんがいると残らざるをえないという、そういう職業の癖のようなものが出てしまう。そういった背景もあります。また、土日も働いています。年末年始も、もちろん深夜も働いていますという産業です。最近プレミアムフライデーといって、月末の金曜日に15時に帰れるという話もありますけれども、われわれの産業は、15時からがピークで忙しくなります。主にカレンダー通りに休んでいる会社と違って、そういった働き方をする人もいるということを今日は知っておいていただければと思います。
 それから、店舗が多いので、約3年に1回の頻度で転勤するという、転勤の多さも課題になっています。
 最後に、活躍。今、世の中では、企業の中の管理職比率というものを女性の活躍の指標にしています。こういったものも見ていただければ参考になるのではないかなと思います。

ワーク・ライフ・バランスは全ての人のために

 それから、ワーク・ライフ・バランス。これは、この後の他の講義でも事例の紹介があるようですので、簡単に説明します。
 ワーク・ライフ・バランス、仕事と生活の調和と言いますと、仕事と家庭と半分ずつを割り当てればいいんでしょ、というふうなこともよく聞かれますけれども、今日私が皆様にお伝えしたいのは、例えば、仕事とかキャリア、それから衣食住、それから健康、家族・パートナー、友人・人間関係、能力開発、趣味・余暇、これらがそれぞれゼロにならないような働き方、バランスというものを考えておいていただけたらなという、ヒントをスライドとして1枚持ってきました。

 例えば、女性の場合は、結婚・出産みたいなときは、仕事・キャリアというのが、少し薄くなってきまして、家族・パートナーみたいなところが増えてくるという感じですね。全部で100パーセントあるとすれば、どこに何パーセントくらい割り当てますかということを、皆さんで自分に置き換えてみてもらえればなと思います。今皆さんは学生なので、仕事よりは、能力開発とか友人・人間関係の比重が重くなってくるかもしれませんね。ただ、働き始めると、その比重がだいぶ変わってきます。大体、仕事・キャリアの方に比重が多く置かれてきて、趣味とか余暇とか能力開発とかの時間がだんだん薄れてきたりします。これは年齢によっても変わってきまして、40、50歳になってくると体の不調も増えてくるので、衣食住とか健康とかに気をつかってくる。このような時間の割り当て方を捉えておくと、ワーク・ライフ・バランスというもののヒントになるかなと思いますので、参考にしていただければと思います。
 

今後の課題…ダイバーシティ推進

 最後に、今後の課題を紹介したいと思います。今、男女平等というもののキーワードを色々紹介してきました。LGBTや人権というキーワードは皆さんもご承知にかもしれませんが、今、労働組合は、残念ながら、年齢や性別、障がい、国籍、人種など表面的にわかりやすいキーワードだけを捉えて取り組んでいるケースが多くなっています。例えば、年齢だと高齢者雇用だとか、性別では男女とかLGBTの働き方・働かせ方、障がいでは障がい者の雇用比率とか、国籍だと外国人就労者とかですね。ただ、こういった形式的なキーワードだけでは捉えられないものも非常に多くあります。例えば、両立支援ということになりますと、女性だったら、子育てと仕事とか、余暇とかもあるかもしれません。今後は、男性の場合は、介護と仕事というキーワードが出てくるかもしれません。それから、例えば、がん治療とかの病気療養と仕事とかですね、いかにして辞めずに働き続けるか。こういったものは、実は労働者個人個人の経験や私生活にも深くかかわる深層的な問題で、表面的には分からない場合もあります。なので労働組合としても、今後の課題として、ダイバーシティというキーワードでやるかどうかは別として、表では見えないものに対して、どういうふうに組合の立場から会社に提言するかというのは非常に課題になってくると思っています。ちょっとこれはまだ答えも何もない状況ですし、連合でもダイバーシティというキーワードの切り口では、まだ取り組みが進んでいないところではありますが、こういった表面では分からないものを、どのようにして労働環境を整えていくのか。男女平等の切り口から始まって、今後は、多様性とか、多様化というキーワードになるんですけども、見えないものをどう考えていくか、これが課題だと考えております。ここまでが男女平等のお話になります。

非正規労働者の処遇改善

 次に、大きなテーマの二つ目である非正規労働者の処遇改善について、ここで改めて、私の産業を例にご紹介します。
 働いている方々の雇用契約には異なる種類があります。先ほど、アルバイトをしていますかと皆さんにお聞きしましたけれども、ここでは例として4つの雇用区分を紹介しています。
 正規社員は、いわゆる新入社員で入社して、大体終身雇用で定年まで勤める無期雇用というモデル。それとは違って、契約社員は、大体正社員と同じ8時間労働だけれども、雇用契約期間が3年とか、雇用期間があらかじめ決まっています。それから、パートタイマーは、労働時間が短い方。アルバイトは、主に学生の方。流通産業にはこういった4つの雇用区分で働き方が混在しています。

 その中でも、パートタイム労働者を性別・年代別みてみると、40代女性の方と50代女性の方で大半を占めています。どうしてこういった方々が多いのかを、時代背景を含めて見てみたいと思います。これは、なぜ処遇改善をパートタイマーにしなければならないのかということのヒントになるかと思います。

 パートタイム労働者の性別・年代別比率

パートタイマーの歴史

 時代を振り返りまして、1950年代になります。流通産業のパートタイマーというものが誕生しました。具体的な企業を言うと、大丸の東京店というところになります。労務管理上、仕事のピーク時間にどうしても社員が足りない、だからこのピークの3時間だけ働いてくれる人が欲しいという形で誕生しました。当時からアルバイトという言葉はあったのですが、大丸東京店では、その当時使われていなかった、パートタイムという言葉を、初めて採用して、広告を出しました。なぜ女性を採用したかというと、いわゆる百貨店はお金持ち層の方がお客様になってくるので、言葉遣いとかが生活に馴染んでる方をすぐ採用したいというアイデアだったそうです。当時の雑誌の記事を見てみますと、言葉遣いが、「私は旦那様に了解を得られるかと思って勤めてみたんですけれども、意外とすんなり旦那様がオーケーしてくれたのよ」みたいな書きぶりで書いてあったり、いわゆる奥様用語でしゃべっていらっしゃる記事が見受けられます。こういった方々が最初に百貨店業界に入ってきたというのが、流通小売業でのスタートだと言われています。
 次は1960年代を見たいと思います。この頃、多くの女性は働いていませんでしたが、「容姿端麗」が働く女性の条件だったそうです。実際に募集案内に書いてあって、これ本当なのかなと思って聞いたら、「本当です」とパートさんが言っていたので、本当だったんだなと思います。昔は女性が働くというのは容姿端麗じゃなきゃいけない、そのようなことがあったそうです。あとは、職業婦人と労働婦人という言葉があるんですけれども、職業婦人、いわゆる学校の先生とか看護師さんという方は、職業として認められている職業婦人といいます。一方で、民間企業の人は、休まず働けという意味なのか、労働婦人という呼び方をしたりして、区別が結構あったんですね。なので、女性が働く職場というのは意外と限られてました、というのが1960年代です。
 時代は巡りまして、1970年代ですね、この頃は、社会的にも高度成長期で、休まず働けの世界が蔓延していた時期でした。このころ労働組合は、週休2日制にすべきだとか、労働時間を短縮すべきだとか、余暇の充実をすべきだ、という働き方の提言をしていました。一方で、流通小売業というものは、やはり一人あたりの勤務時間が短くなると、仕事が回らなくなってしまいます。この時に、百貨店業界で先行していたパートタイマーの活用、1日の空いた時間に業務のピーク時だけ働いてもらう人、こういった人を活用しようという動きが、徐々にブームになってきました。接客業という括りで言うと、1971年にマクドナルドの1号店がオープンし、いわゆるアルバイトとか、パートタイマーとか、そういった、いわゆる正社員ではない働き方が世の中に出てきました。この時代を一言で言うと、社員が休むためにパートを活用した、という時代になります。
 次のグラフは、1980年代に、企業が労働時間短縮のためにどのような対策をとっていたかを示したものです。やっぱり企業の中で、パートとかアルバイトとかの比率を拡大しようとか、パート・アルバイトの職域拡大、つまり今まで正社員がやってきた仕事をパートさんに任せようということが多くなっています。POS、EOSというのは機械化ですね。レジが手打ちだったのを機械化するといったことです。こうして、正社員の仕事を減らしていこう、みたいな時代が1980年代にありました。まさに正社員の労働時間を短くするためにパートタイマーを活用しよう、そんなような時代で、パートさんがどんどん増えてきたという時代になります。こういったときは、企業は積極的にパートさんを採用したいと思っていた背景があったんですね。

 1990年代になりますと、営業時間の変化というものが出てきます。法律の改正もありまして、それまでは営業時間が限られていたのが、これからは24時間営業していいよ、ということになりました。1980年代は、夜7時くらいまで、1日10時間ぐらいの営業だったものが、1990年代になりますと、10時間以上、2000年代になりますと24時間営業が増えてきた。そうした中で、8時間勤務の正社員だけでは賄えないので、その時間を、パート・アルバイトで代用しようというふうになったのが、1990年代だということになります。

 次に、2000年代は、そういった主婦パートを、どういうふうに会社側が活用したいか、というものがブームになってきました。雑誌の顕著なものを持ってきたんですけれども、どうやってパート・アルバイトの人材育成をするかといった内容のものです。左から2番目の雑誌には、「自ら考え、自ら動く『パート・アルバイト』の時代です」と書いてありますが、いやいや自ら考え、自ら動くんだったら、社員じゃダメなのか、と思ってしまいます。それ以外にも、『パート・アルバイト戦力化の完全マニュアル』も出てきたり、右から2番目の、「仕事をまかせる」とかですね。それまでは、パート・アルバイトというのは、補完的な仕事でした。いわゆる正社員のお手伝いみたいな仕事でよかったんです、1990年代は。それが2000年代になると、いよいよ「まかせる」とか「育てる」とか、そういった時代になってきました。皆さんもアルバイトを経験していて、もしかしたら仕事を任されている方もいるかもしれませんが、大体2000年ぐらいのときに、こういったブームが来た、ということです。

 これについては、私個人の反省もあります。2000年代、私は店舗にいまして、パート100パーセント化戦略という仕事を任されました。例えば、レジの仕事を、正社員もやっていたのを、全部パートにしてください、というのが会社の命令でした。今まで例えば、大卒初任給22万円の正社員がレジの仕事をしていたんですけれども、それを月収15、6万円くらいのパートさんに全部任せるということになります。そうすると、その浮いたお金はどこにいくのか。大体スーパーですと、商品の価格転嫁で、皆さんが商品を安く買えているのは、正社員の仕事をパートさんに振った、その浮いた利益を商品に回しているから安く買えたんだということが、私、あとあと労働組合の仕事をしてから分かるようになりました。ですので、振り返ると、2000年当時、パート100パーセント化戦略という業務命令を受けた私が、どうして、じゃあ社員の仕事と同じ仕事をしているパートさんに、正社員と同じ給料をあげるという提案をしなかったんだろう、と今でも悔やまれます。労働組合の仕事を専門にして、これを訴えていこうということを考えたきっかけが、2000年だったという経緯があります。

なぜパートタイマーが労働組合に加入するのか

 次のグラフは小売業における雇用者数の推移になります。このような時代背景でどんどんパートさんが増えていったということもありまして、ちょうど2000年ぐらいを境に、男性の正社員より、女性のパートタイマーのほうが多くなりました。それから、世の中的には、男女雇用機会均等法という法律がありますけれども、われわれの産業で働く女性は、正社員は実はどんどん減っていって、パートタイマーという雇用区分に多くいる、ということが特徴です。さらに、今、いわゆる非正規の働き方が課題になっているように、男性のパートタイマーも、1992年ぐらいから増えてきまして、女性正社員の数に近づこうとしているという状況にあります。

 非正規労働者の適正な労働条件の確保や雇用管理の改善を目的とするパートタイム労働法といった法律が1993年にできましたが、この小売業の数と法律のできた年を見てみますと、やっぱり後付けですね。例えば、1992年頃は、女性のパートタイマーの数が女性の正社員の数を超してきた、という時代に、ようやく法律が後からできたということになります。それから、2007年にパートタイム労働法が改正されているんですけれども、この2000年代に、男性の正社員を超えるくらいの勢いで女性のパートタイムが増えてきました。ということで、後付けの法律になってきています。なので、私は、よくパートさんに、パートタイム労働法なんてあてにするな、と言っています。これは会社が雇用を管理するための法律だから、あなたたちを守ってくれる法律ではないよ、と言ってしまうんですけれども、パートタイム労働法という法律はあっても、実態に合わせて後からできている。ただ、労働組合は審議会などを通じて法律の制定や改正に関与することもできますので、こういった法律をどういうふうに見ていくか、どのように変えていくのか、ということも1つのキーワードになってきます。
 そして、われわれの産業はもう6割がパートタイマーということもありまして、皆さんが、スーパーでお買い物をして売り場で、いらっしゃいませ、と声をかける人はほとんど正社員ではなく、ほとんどパートタイマーの方だろうと思います。なので、労働組合としても、職場の中心となったパートタイマーの組織化に取り組むようになってきています。どうしてパートタイマーの方を組織化するんですか、と聞かれることがありますが、これは必然的なことなんです。じゃあ組合に入って何かいいことあるんですか、というのも、よく聞かれることなんですけれども、メリットと言いますと、色々な分野の方々にメリットがあります。今までは、悪く言うと、正社員に使われるのがパートとアルバイトでした。しかし、組合に入ると、雇用区分の名称だけにとらわれず、働くときの処遇、働くときの問題を、労働組合を通じて解決できます。これが1つのメリットになるのではないかと思います。また、実は労働組合に関わっていると、情報が増えます。会社の数字とかもだんだん分かってきますので、会社の仕組みをパートさんも知ることができるようになってきます。そして、ただ家と会社の往復だけではなくて、色々な方とのネットワークもできる、というメリットもあります。

 組織化のメリット

処遇改善…均等待遇と均衡待遇

 次に、処遇改善というキーワードからみていきます。最近では、同一労働・同一賃金という言葉を耳にすることもあると思いますが、ここでは、「均等待遇」と「均衡処遇」について説明します。
 「均衡」はバランス、というふうに捉えていただければと思います。このバランスに必要なものは、例えば勤務地エリアの手当や、仕事に必要な教育面が挙げられます。正社員で全国転勤する方には勤務地手当や転勤手当などがあり、パートで店舗限定的な働き方の場合は手当の差があるなど、客観的・合理的に理由があるものです。教育面や能力開発は、仕事の範囲や業務の特性によって仕事内容が異なるのであれば、役割や職務の変化によって異なる部分があるといったことです。
 「均等」は、人として等しくあるべきものは等しくしたらいいんじゃないかという考え方だと私は思っています。
 パートタイマーの方が、均等について課題・問題視するときに、一番よく皆さんが声をあげているのが、慶弔休暇結婚式とかお葬式のときのお休みのことです。。これをパートさんたちはものすごく気にします。それは、先ほどデータで見ていただいたように、40歳、50歳のパートタイマーの方が多いので、やっぱりお子さんの結婚、もしくは親戚の方々がお亡くなりになる、そういったことが続く、という事情があるからです。しかも、会社によってもちろん違うんですけれども、正社員の方は、慶弔休暇が有給である場合が多い。しかし、パートタイマー、いわゆる非正規の方は無給である、休んだらお給料をもらえない、そういった制度がまだまだ多いです。なので、労働組合の仕事としては、まず1つ、具体的な例で、慶弔休暇というものがあったならば、人として等しくあるべきものは等しく、です。雇用区分で差があっていいものではないと思いますので、バランスではなくて、人として等しくあるものは正しく等しくしてください、という要求をしよう、という声がけをしています。
 具体的に処遇の事例ということで、ちょうど国立駅からここまで歩いてくる間にツルハという企業があったので、紹介したいと思います。このツルハユニオンには、パートタイマーの組合役員がいます。多くの場合、労働組合というのは、いわゆる正社員の組合役員だけが会社の役員と交渉します。しかし、ここのツルハユニオンは、パートタイマーも経営者と交渉する場面に参加することができる、というルールを作っています。先ほど例に挙げた慶弔休暇が、ツルハでも正社員は有給でパートは無給だったんですね。これをパートタイマーの方々が、私たちがメインで働いている職場なのに、どうして雇用区分だけで差があるんですか、という問題提起を、会社側に直接しました。そうしましたら、2012年5月から、有給と無給という差がなくなりました。これは、ツルハユニオンさんがパートタイマーの方も組合員化して、そして組合員の皆さんの声を聞いて、おかしいものを等しくする、こういう労働組合の運動あっての結果です。会社側としては、パートタイマーとかアルバイトは安く使いたいんですね。安く使いたいのにどうしてパートとアルバイトが休みだから有給にしてお金払わなければいけないんだ、というようなスタンスは結構多いんですけれども、このように労働組合が意見を言うことで、会社のムードが変わっていく、という処遇改善の事例です。
 次は、原信という、新潟のスーパーマーケットの事例です。労働組合のイベントは、幹部が企画して開催し、パートタイマーの方は参加するだけということが多いのですが、この原信の労働組合は、パートタイマーの皆さん自らが、自分たちのしたいことを提案してイベントなどを開催しています。具体的にはラッピング教室というものを開催しました。実は、パートタイマーの方は、会社からラッピングの教育を受ける機会がなかったんです。けれども、レジでお客様から包装してくださいと言われたらもちろんやらなければならない。そこで、会社にそういう教育がないんだったら労働組合で勉強する場をつくりましょう、ということで実行しました。このように、どんどんパートタイマーの方からも意見を聞いて参画させる、といった事例もあります。
 それから、コメリユニオン。この企業も新潟が中心なんですが、全国1000以上の事業所があります。家電や生活用品、工事現場の方が身に着けるもの、軍手などの商品を扱っている企業です。ここも、もともとはパートタイマーを組織化していなかったんですね。それは労働組合の皆さんが怖かったからだそうです。なぜなら正社員中心の労働組合のほうが運営や活動が簡単だからです。同じ雇用形態の人だけを集めて話し合うということは、とても楽なことです。なので、パートタイマーといった、ちょっと雇用形態の違う人を仲間に入れるということは、非常に怖かった、と聞いています。この労働組合がパートタイマーを組織化、組合員にしたのは、2015年です。パートタイマーの方を組合員にしようと動いたときは、どういうふうにしていいのか分からなかったので、とりあえずパートさんを集めて声を聞いてみようというような感じで、集会をしたそうです。話を聞いたら、非常にいい意見が出てきたそうです。例えば、この企業ではアルバイトの方も制服を着用していたのですが、この色って変じゃない?とか、この素材って汗吸わないよねとか、ポロシャツのほうが動きやすい、という意見がありました。そういった意見を採用して、この2017年から、制服を変えることになったそうです。会社のルールなんだけれども、職場の人が働きやすいように、どんどん変えていく、これも処遇改善の1つです。他にも、時給が不満ということがあったらしいので、こういうのもパートさんから意見を聞いて、どんどん改善をしているそうです。つまり、なんでも話し合いをしてみましょう、ということが分かってきた、という事例になります。
 最後の事例は、サニーマートという高知の会社になります。最初に言ったように、均等、人として等しくあるべし、という話は、実はまだ浸透していません。ニュースで、同一労働・同一賃金が、去年あたりから少し話題になっていますが、正社員とパートタイマーは差があって当然だ、という意見がまだまだあります。そういう状況ですので、パートタイマーの方は、会議に参加した時に、社員とパートって同じでもいいの、ということに初めて気づいた、というようなこともあります。労働組合の会議に参加したら、他の会社の労働組合の取り組みを聞いて、それを自社でも提案しようという流れになって、パートさんが実際に、先ほどお話した慶弔休暇を正社員とそろえる要求をしよう、ということで、パートさん自らが提案をして会社側に提言する、ということをし始めました。その結果、有給という目に見える結果は出なかったそうなんですけども、パートさんは、労働組合って他の会社がどういう取り組みをしているか知ることができるんですね、このネットワークを活かして他の会社のいいところをどんどん真似できるんですねと言っていました。先ほどの北海道のツルハユニオンさんが、慶弔休暇が無給から有給になって正社員とパートがそろった、という事例を、高知の人が知って、じゃあ私も提案しよう、ということでやってみたら、少し変化が出てきた、労働組合では横の連携を大事にして処遇の改善に結びつけているというような事例があります。ここで言いたいのは、パートタイマーだから、アルバイトだから、正社員と差があっていいという決めつけではなくて、どんどん提案をして、労働組合を活動させるのは、自分たちなんだとパートさんたち自身が動いたということです。
 ここにいらっしゃる皆さんはまもなく就職活動をして、色々な企業に入ることになると思いますが、せっかくこういう講義を受けているので、これから就職する先に労働組合ってあるのかなとか、正社員と非正規社員の処遇、制度が同じなのかな、といったことなど気にしていただきたいと思います。もし、労働組合があれば、そうした制度の違いなどを意見して変えることができます。ぜひ、皆さんが就職活動をして働くというときには、労働組合のある企業に入る、もしくは労働組合がなければ作るとか、そういった運動をしていっていただけたらなと思っております。
 以上、男女平等と非正規労働者ということで、少しの事例でしたけれども、話をさせていただきました。どうもありがとうございました。

以 上

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