一橋大学「連合寄付講座」

2016年度“現代労働組合論”講義録

第8回(5/30)

公務労働の現状と良質な公共サービスをめざす取り組み

岸真紀子(自治労組織対策局長)

はじめに

 自治労の岸と申します。本日は、安定した職場と言われる公務の職場の現状と実際にどんな仕事をしているのかというかということを中心にお話したいと思います。
 最初に自己紹介をします。私は北海道空知郡栗沢町の生まれで、栗沢町に就職をしました。その後、平成の大合併のなかで、2006年3月に市町村合併により、現在の岩見沢市となりました。現在も岩見沢市役所の職員ということになります。
 2009年から自治労北海道本部空知地方本部の組合役員に専念する仕事をして、2013年9月から自治労本部で働いています。岩見沢市役所を休職して組合の専従役員となっています。給料は市役所からはもらっていません。自治労という全国組織に所属する全国の組合員から組合費を集めて、その中から給料をもらって組合活動に専念しています。
 私がなぜこの労働組合に出会って、なぜ今でも、この活動を続けているかということを最初にお話させていただきたいと思います。
 私の就職した栗沢町役場には労働組合がありました。管理職を除く職員全員が栗沢町職員労働組合に加盟をしていたので、私は18歳で町役場に就職した時に、みんな入っているからという勧誘があって、組合に当然入るものだと思って加入しました。組合役員についても、全員がやるものだと聞いていましたので、役員の順番がきたら、当然私もやらなくちゃいけないんだなと、組合役員になりました。
 みなさんは、公務職場は安定しているし、きっと恵まれているんだろうと思いがちだと思うのですが、実際にはちょっと違っています。そもそも市役所とか役場は、法律に基づいて仕事をするところです。この中でも地方自治について勉強されている方がいるかもしれませんが、そもそも国の法律であったり、市町村の条例に基づいて、いろんな仕事をしています。当然、法律は守るべきものなのですが、実際にはその仕事をしている職員に対しては、法律違反が見受けられます。定時は朝9時から夕方5時までとします。しかし、5時以降もみんな、仕事をしています。これから地元に帰ったときに、近くの役所を見ていただきたいのですが、夜中まで、庁舎の電気がついている部署があると思います。日曜日も、おそらく電気がついているだろうと思います。今、みなさんの公務員イメージのように夕方5時で帰れるところは、なかなかありません。
 法定労働時間を超えて労働するときには時間外手当、割増賃金を支払わなくてはいけないです。しかし、それぞれ自治体については財政が苦しいことを理由に、残業代が支払われないというのが当然のように行われていたりします。 
 そもそも私は自分の町に生まれて、町の住民のために何か仕事がしたいと思って、役場に就職しました。今から20年前になりますが、女性職員は、男性職員と比べるとかなり低位に置かれていました。当然ながら自分で一人前に仕事ができると思って入ったのですが、簡単な事務仕事しかさせてもらえないとか、実際には女性と男性の仕事の仕方は、公務職場においても差がありました。いわゆる男女差別です。仕事を一生懸命やりたいのに与えてもらえないという現実にも向き合いました。
 住民が私の職場の窓口に来た時に、私がいるにもかからわらず、「今日は誰もいないのか」という扱いをされました。私がいるにもかかわらず、私じゃ相手にならない、男性職員がいないから相手にならないという言い方なんです。そのように自分が仕事をしているにも拘わらず、透明人間のように扱われたということもあって、どんどんどんどん同期の男性とのキャリアにも差がついていきました。
 このままの職場ではおかしいのではないかと思い、労働組合を通じて、それを変えていきたいと活動しています。
 家族や知人からは「役所なので、いいところに就職したね。安定したね」と言われましたが、実際には私たち公務員は労働者だと思われていないという現実があります。夏期休暇は民間の企業にも公務の職場にもあります。7月から9月の間に3日間、3日連続して休むことが権利として与えられています。夏休みをとって自宅でリフレッシュしていたりすると、近くの住民から、「暇なんだね、公務員はいいね」と言われます。
 当然の権利で、誰もが民間も含めて休暇を取得する権利があるにも拘わらず、労働者として思われていない、働いて当然だと思われています。見られ方として理不尽だなあと思うことが蔓延している中で、私はそれを少しでも改善したいと思って、一人ではなかなか難しいので、労働組合を通じて改善を進める活動を行っています。

1.自治労とは

 自治労の正式名称は、全日本自治団体労働組合です。約60年前に結成して、北は北海道から、南は沖縄まで、各地方自治体の公務員、各都道府県の県庁や市役所とかで働いている職員が加盟している労働組合です。全国に約81万人の組合員がいます。最近は、地方公務員にかぎらず、公共サービスの民間委託先の労働者や臨時・非常勤等公務員も一緒に活動してます。
 ひとくくりに公共サービスといっても公立の保育園であったり、公立の病院であったり、様々な職場があります。公立とつくものは、たいてい各自治体が運営をしている事業所です。一般事務の方、保育園の保育士さん、給食調理員、介護福祉士、多くの職種の方がいます。
 自治労は「4つのサポート」を行っています。サポートは、労働組合に加盟している組合員たちに対する支援活動です。1つ目は当然ながら労働組合なので「働く」ということをサポートしています。賃金、労働条件の改善を進めます。民間企業の組合は、春に春季生活闘争を行っています。地方公務員についても春季生活闘争と力を合わせて賃上げ交渉を行っています。働きやすい職場作りは、職場の湿度や温度とかも取り上げます。たとえばエアコンの温度が適正でなければ、組合を通して適温にするように申し入れます。働きやすさや効率的な働き方について話し合いをしたりもします。
 2つ目は「暮らし」のサポートを進めています。賃金だけではなく、組合員の生活を支えるために、家族を含めて共済活動を進めています。自動車保険や火災保険は、自治労独自の共済制度を作って、なるべく安い掛け金で保障できるようサービスを行っています。
 3つ目は「仲間作り」をサポートしています。組合員同士の交流のために野球大会やバレーボール大会を全国規模で行っております。
 4つ目は「社会活動」をサポートしています。自治体は地域と密接した職場です。職場を守るためには地域も守るということを大前提としています。社会問題を解決しなければ、社会が良くならなければ、地域は守れません。たとえば原発問題や環境問題にも取り組んでいます。国際的な課題への取り組みも進めています。国際的に平和でなければ私たちの職場は守れないと思います。細々ながらも、外国の貧しい、いわゆる後進国、発展途上国に対して自治労の組合員のお金を使って、学校を作ったりという、様々な支援を行っています。このような活動を私たちは自治労を通して行っています。

2.公共サービスとは

 みなさんのなかにも、公務員になりたい方が多くいると伺っています。実際何人くらいいらっしゃいますか。意外と少ないですね。そんなに人気のない職場ではないですよ。公務職場は安定しているだけでなく、非常にやりがいのある職場でもあります。その一方で、仕事なので、様々な問題にもぶつかります。
 まず、地方自治体の公務員の仕事についてお話をさせていただきたいと思います。公共サービスは広く一般の人々のために公的機関が供する業務です。警察、消防、教育など様々です。
 みなさんは朝起きて何をしますか。みなさんは顔を洗ったり歯を磨いたりしますよね。そのときに必要なものは「水」ですね。この水を、安定的にみなさんのところに供給しているのが地方自治体の仕事です。蛇口をひねれば水が簡単に出てくるように、安定的に送るというのが私たちの仕事の1つであります。トイレや台所の排水口から流れる下水。下水道についても地方自治体の仕事です。
 玄関を出ますと、まず道路が見えると思います。道路もほとんどが公道だと思います。都道や市道もあります。その道路を工事するのは民間の企業だと思います。しかし、ここに道路を新しく作った方がいいとか、この道路を補修したほうがいいとか決めているのは、地方自治体です。自治体は計画設計や工事の発注、監督を行っています。ゴミを出すと、その後どうなるかご存じですか。パッカー車という大きい車が収集に来ます。それを運行するのは地方自治体の仕事です。回収したゴミを燃やしたり埋め立てたりします。それも公共サービスです。税金で賄っている事業です。これも公共サービスの1つです。都営バス・都営地下鉄は東京都が行っています。駅員や運転手も自治労の組合員です。子どもができれば、母子手帳を妊婦さんに発行します。その仕事も市町村の事務です。保健センターで保健師さんの妊婦健診があります。非常に多くの分野でみなさんの生活に関わっています。年を取れば年金の手続きがあります。介護保険もあります。すべてに公共サービスが関わっています。そのように非常に多くの仕事があります。
 みなさんの生活と公共サービスは切っても切り離せない関係にあります。公共サービスを必要とする人に公平に行き渡ることが非常に重要です。質の良い公共サービスが、みなさんに行き渡ることが非常に重要なことです。これをどうやって安定的に提供できるかということを考えることが、私たち地方公務員の仕事だと思っています。
 みなさんも税金が高いと、なんとなくテレビで聞いたことがあると思います。たとえばゴミの問題であれば、その辺に捨てておけば環境問題につながりますから、そんなわけにはいかないですよね。みなさんが少しずつ税金で負担することによって、一人ではできないものを補うということが公共サービスです。
 この公共サービスにおいて、何が必要で、何を優先すべきかと考え、コーディネートする人が地方公務員です。

3.公務・公共サービスの現状

(1)3つの問題
 ここでは3点ほど問題を上げさせてもらいました。
 行政改革や財政改革、市町村合併により公務員数は減少の一途を続けています。これが1つ目の問題です。
 2点目が国と地方自治体ともに、厳しい財政状況にあるという点です。その結果、自治体では職員の賃金を独自に削減するということも行われてきました。財政が厳しいから、職員の賃金を一方的に下げるという動きが横行してきました。ひどいときは、全国の7割の自治体で、なんらかの独自の賃金削減が行われていました。私の就職した岩見沢市は、札幌から車で1時間半くらいのところにあります。その隣には全国で唯一、財政破綻した自治体である夕張市があります。夕張メロンで有名な市でしたが、全国に大きく有名になったのは、市の財政が破綻したことです。現在は、市職員の賃金はそれまでもらっていた賃金より、年収で7割削減されました。今は、組合を通して少し改善されました。ひどいときには、生活保護受給者の毎月の受給額より低い金額での月給でした。財政が厳しいからといって、職員の賃金カットだけでなんとかしようと思っていた時代が一時期あったということです。
 3つ目は、民間委託です。それまでは正規の公務員が安定的にサービス提供を行ってきました。ゴミ収集などもそうです。それを民間企業に委託して、賃金を大きく切り下げました。さらに、正規の職員から臨時職員、いわゆる非正規職員へと置き換えがされました。今どんどん非正規職員が増えています。
 今後も公共サービスは重要な役割を果たす必要があります。例えば、熊本で地震があったときに、誰が対応するかという問題がありました。少子高齢化の時代で、若者が都会に出ていって、地方には高齢者しかいないという地域があります。その中でどうやって地方が町として成り立っていくかということを考えたときに、公共サービスの重要性が見えてきます。残念ながら職員が減らされていて、とてもじゃないけど、地方自治体の職員だけでは賄えなくなってきています。

(2)国際的に見ても少ない公務員数
 地方自治体の職員数は、1994年をピークとして20年連続で減少してきています。市町村合併や人員削減で、職員の数を減らして、人件費を抑えてきました。その結果として、ピーク時より54万人、16パーセントも地方公務員の数は減っています。
 職員の数は減らされていますが、少子高齢化に対応して自治体独自で生き残りをかけるために、地方自治体の仕事は増えています。例えば独居老人という高齢者の一人世帯が増えています。孤独死とかにつながらないように、保健師が訪問して見回るようにする必要がありますが、人手不足で手が回らなくなっているのが今の実態です。また、国から地方への事務の移管が増えています。54万人も職員は減らされていますが、仕事量は前より増えています。その結果、5時には帰れず残業が増えたり、残業代の出ないサービス残業が増えています。
 一般的には公務員の人件費が高いから国や地方の財政を圧迫していると思われがちです。しかし、公務員人件費のGDP比国際比較(OECD)を見ますと、日本の公務員人件費はGDPの6.5パーセントです。これは先進国で最低です。あの自由主義、資本主義のアメリカですら9.6パーセントです。社会保障の先進国といわれているデンマークやスウェーデンやフィンランドでは日本の倍以上の公務員人件費が支出されています。

 労働力全体に占める一般政府の雇用割合、つまり公務員の雇用割合について見てみますと、日本は韓国の次に低いです。ノルウェー、デンマーク、スウェーデン、フィンランドといった社会保障が充実している北欧に比べると、大きな差が出ています。日本の公務員の数は大変少ないです。このような状況下で、さらに地方自治体の公務員の数は減らされようとしています。

(3)行政改革
 次は「行政改革」がどのような影響を与えてきたかということをお話しします。
 2001年、小泉政権は「赤字からの脱却を目指した改革」として、三位一体改革、構造改革を進めました。「官から民」へという題目で行われました。
 2001年というと、みなさんは子どもだったから何が起こったかがわからないと思いますが、郵便局の民営化が進められました。それまでは郵便局の局員さんもみんな公務員でした。独居老人という1人世帯の老人宅を、昔であれば郵便局員が少なくても週に1回ぐらいは顔を出していました。今は民営化されたので、そんな余裕ありません。儲からないことにお金を出したりはしないので、郵便局員がそれぞれの世帯を一軒一軒回るなんてことはしません。その結果、老人の孤立を招き、1人世帯の安否確認ができなくなりました。
 その次に、「市場化テスト」や「指定管理者制度」の導入が進められました。地方自治体の業務だったものを、民間企業に委託しました。「官から民へ」と公共サービスの民営化を進めました。他方、税金を地方自治体に委譲するといっていました。しかし、残念ながら財源は、地方にさほど来ないままに、地方交付税は大幅に削減させられました。
 さらに、「医療制度改革」が進められ、主に公立病院の診療報酬の引き下げが進められました。その結果、病院経営が悪化していきます。都会にはいろんな病院があるのでさほど困らないと思います。総合病院だと検査機器などを置いて経費がかかります。経費をかけて運営するよりは、内科だけの町医者でいいということとなり、私の出身地の北海道の岩見沢市には、民間の総合病院はありません。だから岩見沢市は公営で岩見沢市立総合病院を持っています。儲からないと民間は撤退できます。しかし、住民が安心して生活するために病院はかかせないのです。みなさん、なんとなくイメージできますよね。一時間かけて札幌の病院まで毎日通うことはできません。岩見沢市はたとえ赤字であろうと、市民の生活を守るためには、市立の病院を守らなくてはいけません。そのあとの民主党政権で、診療報酬を元に戻したので、収支バランスがよくなりましたが、一時は病院を閉鎖しなくてはいけないのではないかという非常に深刻な問題が市民につきつけられたということがありました。
 小泉構造改革によって、社会的格差は拡大し、社会的セーフティーネットの機能が低下しました。結果として、富めるものが富んだだけで、経済が思うように循環しませんでした。
 この小泉構造改革のときに、今も続く「自己責任論」、つまり「自分のことは自分でやりなさいよ」ということが国民に対してつきつけられました。確かにできることは、自分でやってもらいたいのですが、すべてを自分一人でできません。道路は自分一人で作れるようなものではありません。公共サービスを守っていく、みんなの生活が壊れないようにすることが重要です。
 地方には無理やり、行政改革、人件費などをできるかぎりスリム化しなさいと言われました。多くのところは無理に行政改革を進めました。結果として、地方の長期債務残高は、1998年度末に163兆円でしたが、2015年度末でも199兆円と、ほぼ横ばいで、借金を増やしていません。
 他方、国の借金額は、1998年度末に390兆円でした。それが、2015年度末には837兆円と2倍になっています。これは国民全体の問題になってきます。地方には無理やり行政改革を進めましたが、国の方は改革が進んでいません。
 地方と国のプライマリーバランス(基礎的財政収支)を見ていくと、地方自治体のプライマリーバランスはゼロパーセントを超えています。地方自治体の自助努力というものが表れていますが、国の方は未だに随分下回っているということで、赤字のままということがわかります。

 次に、この三位一体改革、行政改革が行われて、地方にどんな影響が出たかを考えてみましょう。
 地方交付税が6.8兆円削減されました。地方交付税は地方にとってはすごく貴重な財源となっています。東京と岩見沢では、企業の数が全然違います。岩見沢市では独自に入ってくる法人税が少ないんです。北海道にある企業でもたいてい本社は東京にありますので東京都に法人税が入ってきます。地理的とか社会的に不利なところも含めて、全国一律できるかぎり均衡に、どこの町に住んでも国民が生活できるようにと、地方交付税という制度を使って税金を分配しています。本来であれば、国民がどこに住んでもそれなりの生活ができるように、社会サービスや公共サービスを受けられるようにしています。この地方交付税が6.8兆円削られました。地方にとっては非常に大きな問題でした。その結果、地方で無理な行政改革が進められます。
 結果として、事務事業の再編・整理、廃止・統合や民間委託を推進せざるを得ないところに追い込まれていきます。例えば、水道を公務から民間に委託したというところがあります。民間企業は儲からなかったら、水の供給をやめていいです。水道管の更新もしなければいけませんが、儲からないのでやらないとか、そういうことが起きていきます。
 定員管理の適正化として、職員数が減らされたり、給与の削減が強く推し進められました。全国どこに住んでもサービスを受けられるというのは、非常に重要なことです。好きで田舎に住んでるんでしょう、と考えがちだと思いますが、地方には地方の役割というものがあります。
 たとえば森林。日本の国土の多くを占める森林は誰が守っているか。みなさんが朝昼晩にご飯を食べます。そのときの食材は一体どこからやってくるか。とてもじゃないけれど東京や大阪などの大都市で賄えるものではありません。地方があって、地方に住んでいる人が、みなさんの生活を支えています。地方で田畑を守ったり、森林を守ったりする地域住民も必要だということになります。地方自治体は、地方を守るために、地方に住んでいる人が困らないようにするために仕事をするという役割があります。しかし、職員だけではなんともできないような行政改革が今推し進められています。

(4)民間委託と公契約条例
 今問題になっているのが民間委託です。これまで、自治体が直接雇用する地方公務員が行ってきたサービスを、たとえば指定管理者制度や民間企業に委託することが進められています。当初は公務員はサービスが悪いから「民間のノウハウを活かす」と言われました。これは小泉さんだけでなく、今の安倍さんも同じことを言っています。実際には単なる支出削減にしかなっていない状況です。
 何が問題か。民間企業に委託するにあたって、どういう方法で委託先の民間企業を決めていくかという問題があります。道路の工事だとか、学校の補修工事などを含めて、業務を委託するときには、公契約を結びます。委託先を選定する方法として「入札」が行われます。入札は価格による競争です。
 A社からE社まであるとします。一つの事業を委託するときに、それをいくらで賄えるかということを、札(紙)に書いて、入札箱に入れます。そして、一番安い企業が、落札(その事業を受ける)します。
 この民間委託、何が問題か。必要経費は、これまで自治体が直接の公務員でやってきたときと、実は変わらないはずなんです。運営自体にかかる費用は、人件費以外に変わるわけがないんです。入札価格を安くした企業・団体が業務を受けるということになった場合でも、建物の修繕や、ちょっと壊れてるから取り替えますねといったことや、電気代とか というものは変わりません。そこで働く労働者の賃金を引き下げるところで安くなっています。労働者の賃金をいかに低くして、入札価格を下げられるかという問題が起きています。
 もう一つは、委託期間は普通3年~5年です。平等にするためにも、未来永劫その一社に絞りますということを約束しません。委託期間は決まっています。3年から5年程度となっているので、終わったあとに、また同じ企業がその仕事を受けるとは決まっていません。また、入札をします。必ずしも、同じ企業が再度契約とはなりません。民間委託されていた職場で働いていた人たちはどうなるか。雇用が守られるとはかぎりません。
 A社が3年間、公民館を管理していたとします。A社の労働者が窓口の対応をしていました。その後、入札で負けて契約を取れなかった時に、そのA社で働いていた労働者の雇用は保証されません。新たにB社が取ったとしたら、そこでまた新たな雇用を生みます。そうなってくると、A社は非正規労働者しか雇わないでしょう。地域で非正規労働者が増えていきます。地域で働く労働者の雇用が不安定になっていきます。
 正規の公務員でやってきたものを委託したことによる成果は、あくまでも労働者の賃下げや雇用の不安定さを生んだだけです。確かに財政的には安くなっているかもしれませんが、そこで働く地域住民の雇用は不安定化し、賃金は下がります。
 そこで自治労は、地域に安定した職場、安定した雇用を作っていくために公契約条例の制定を推進しています。公契約条例とは、地方自治体が契約を結ぶ際、入札基準や落札者決定で契約先における労働者の生活賃金や雇用安定、男女共同参画、障がい者雇用、環境、地域貢献など社会的価値を評価することを定めた条例です。これを全国のいろんな自治体で作りましょうという活動を進めてきました。現在、都道府県を入れて、32の自治体でしか公契約条例の制定ができていません。自治労として、連合として、安ければ良いということではなく、人権を、人を守ることが重要なんだと取り組みを進めています。

(5)市町村合併
 1999年に、全国の市町村の数は3232ありました。国が主導権を持って、行財政改革の一環として進めた平成の大合併によって、2014年には1718になりました。おおむね半分くらいまで市町村の数は減りました。これは合併をしたくてしたのではないのです。地方自治体にとって重要な地方交付税というものを減らします。その代わり、市町村合併したところには、地方交付税を多く支払います。合併特例債を認めます。合併して、いろんな建物を建てたら、その借金の半分を持ちますよという甘いことを言って、どんどん市町村の合併が推し進められました。結果としてどうなったのか。住民にとってのサービスは低下したのではないかと思います。結果的に合併特例債という借金を、今後、返さなければいけないという問題が起きています。合併すれば、交付税は今のまま保ちますよと言われたのですが、何年か経ったら減らされ、財政が圧迫するということが問題も起きています。
 私の町、岩見沢市で考えると、住民サービスが低下したと考えています。岩見沢市は、2006年に栗沢町、北村を合併しました。実際に岩見沢市と、栗沢町役場は、車で15分くらいの距離しか離れていないです。岩見沢市のようにバスとか電車とか充実しているわけではないので、自家用車かタクシーで移動する以外に交通手段はありません。田舎はどこも公共交通機関は優れていませんので、自分の足でしか動くことができません。もともとあった栗沢町役場は支所となって、住民に提供できる公共サービスを減らしています。住民票の交付くらいしかやっていません。いろんな手続きは岩見沢市役所に行かなければなりません。栗沢町民は高齢の方が多いでので、みなさんタクシーで移動することになります。今までなら栗沢町役場で受けられたサービスが、タクシーで移動して、岩見沢市の本庁まで行かなくては受けられなくなりました。果たして、旧栗沢町民にとってはこれが良かったのかどうか。旧町民から「合併なんかをするからだ」と言われます。
 栗沢町の商店街のことを考えると、これまでは町役場の職員は町の商店街のものを優先して買っていました。岩見沢市の大きいスーパーの値段と、栗沢町の小さい商店の値段を比較すると、絶対的に岩見沢の大手のスーパーのほうが安いんです。本来であれば、安いほうに行きたいんです。しかし、栗沢町の住民を守ることを考えると、職員は自ら栗沢町の高い商品を今まで買っていました。合併後は多くの職員が岩見沢の本庁に異動になって、栗沢町の支所の職員は本当に少なくなりました。しだいに岩見沢市に移り住んだり、そちらで買い物をするようになりました。飲み会もそうです。今までは栗沢町の居酒屋さんを積極的に使っていたのですが、タガが外れましたので、安いほうで、なおかつ充実している岩見沢市に飲みに行ったりします。栗沢町の商店街の自助努力が足りないといえば、それまでかもしれないです。しかし、次第に地元で買い物をしなくなり、残念ながら閉店になるお店もたくさん出ています。これが、結果的に合併の悪い部分かなと自己反省もしています。
 今までは小さい町で職員同士のつながりがありました。合併をしたことによって、大きい町になったらコミュニケーションというものも取りづらくなっています。ただ、合併から10年経ったので、働きづらさや職員間の亀裂が徐々に解消はされてきています。今は旧栗沢町の職員だろうが、旧岩見沢市の職員だろうが、仲良くできるようになっています。組合を通して改善をすることを行ってきました。

(6)進む職場の非正規化
 地方公務員の正規の職員数が減らされた一方で、非正規職員が増えています。「官製ワーキングプア」という言葉がニュースでも取りあげられます。自治体職員の4割が非正規職員という実態があります。以前は一割くらいだったのですが、ここ何年かで増えて、4割は非正規職員に置き換えられました。3人に1人以上が非正規職員です。
 平均月給16万円、手当なし、期末手当や一時金もなく、年間の賃金が200万円以下で生活をしなくてはいけないということが公務の職場でも起きています。非正規職員、毎年契約更新になります。雇用が安定していません。
 比較的多いのが図書館の職員です。学童指導員はみんな非正規職員です。公立の保育園も非正規職員の割合が高いです。子どもに携わる仕事なので、責任は正規だろうが、非正規だろうが同じで、重いです。子どもに怪我をさせてはいけません。
 ほとんどの非正規職員は女性です。賃金は年間200万円以下です。シングルマザーで地元に帰ってきたんだけれど、非正規でしか仕事がない人もたくさんいます。年収200万円で子どもとどうやって生活していくかという問題があります。
 自治労としては、正規より、非正規職員の課題を最重点課題として取り組んでいます。地域の賃金を引き上げるには、まずは自治体職場にいる非正規職員の賃金を上げるということが重要なんじゃないかと、組合づくり・組織化を行ったうえで、賃金の引き上げや雇用の安定を求めて取り組みをしています。
 自治体の非正規職員については法律の壁があります。法律を改善しないと改善ができないことがあるので、自治労という大きな組織で取り組みをしています。しかし、なかなか改善できていません。

3.東日本大震災によって明らかになった自治体・公共サービスの危機

(1)「構造改革」路線の歪み
 構造改革が推進されて、自治体とか公共サービスの現場で、いろんな問題が出てきています。特に震災が起きたときに、その問題が明らかになってきました。平常時は職員がカバーすればいい、我慢すればいいんだと言われるかもしれません。しかし、実際に東日本大震災のときに起きた3つのケースをご紹介します。
 1つ目は、市町村合併の弊害です。十分な公共サービスが提供されない事態が起こってしまったところです。以前であれば、小さい自治体の単位なので、ほぼ住民の顔もわかっているし、提供もしやすかったんです。自分の町の面積が広くなると、きめ細かなサービスというものができなくなっています。石巻市では、合併前に比べて、職員が減らされたこともあり、情報提供もされないということもあって、被災者支援に結びつかなかったということがあります。
 2つ目は、医療提供体制の危機です。この医師・看護師不足は本当に大きな問題です。先ほど触れました診療報酬が引き下げられる前は、地域の公営の病院に医者や看護師を確保していたんですが、病院経営が悪化したことによって、人員削減が行われました。災害時に、民間の病院は残念ながら逃げてしまうんです。自分の身が危険ですので、先に逃げてしまうという実態があります。しかし、公立病院は、住民が怪我をしていたり、医療体制を確保できていないときに、逃げるわけにはいきません。しかし、職員数が減ったことによって、地震発生当初は医療提供体制がうまく機能しなかったという問題がありました。
 3つ目が民営化の問題です。民間に委託した水道のことです。水道は安定的に供給するということが一番大切なんです。安定的に供給されないと、住民が一番困るのが水なんです。脱水症状にもなりますし、体を拭くことができなくなる、一番大きいのは水だと思うんですよね。南三陸町では、水道事業を民間に委託していたことによって、当初は水を供給するということができなかったという実例があります。今回の熊本地震では、水は自治体が自前で供給していますから、いち早く復旧しました。民間では自分の危険を冒してまで、サービスを提供するということはできませんし、儲からない事業から民間企業は撤退していきます。

(2)東日本大震災における自治労の支援活動
 東日本大震災においては、自衛隊とか警察だけでなく、消防職員や自治体職員も救援活動を行っていました。自治体の職員は避難所の運営や被災者支援を行いました。職員の中には自分の家も津波で流されている人もいます。自分の家族の安否がわからない状態で、自分の家族とか自分の家がどうなったのかということをそっちのけにして、市役所に集まって、被災者支援を始めます。それが公共サービスです。
 自分の命を守ったり、自分の家族を守ったりできないと仕事がなかなかうまくいかないという問題もあります。しかし、実際には不眠不休で被災者支援を行ったということです。自分の家族が生きているか、生きていないかというのを、一週間後とか二週間後になって、やっと確認ができた職員もいます。避難所にも食べ物とか支援物資が来ますが、住民に先に渡すので、自分では先に食べません。もしお菓子があっても、自分は食べないで、住民に先に配らなくてはいけない。職員が飲まず食わず、食べない寝ないで、ずっと仕事をしなくてはいけない状態が続きました。
 それをなんとか支援したくて、自治労は、全国の組合員が同じように自治体の職員ですから、被災地の職員がやっていることを支援しようと、いち早く現地に入りました。自治労の組合員が現地に入って職員の代わりにやったことによって、4月から2週間ぶりにそこの職員は休むことができたという実態がありました。それまでは、本当に休息もとれないし、まともなご飯も食べられないような状態でした。自治労としては被災自治体の職員に焦点をあてて、支援を行いました。
 熊本地震でも、自治労として、いち早く被災自治体職員に対する支援を行っています。
 今、一番問題なのが、職員数が減らされ過ぎていることが問題ではないかなと思っています。
 災害が起きたとき、職員数が少ないので、自治体の対応が遅いと言われます。やりたくてもやれない実情があります。職員は決してさぼっているわけではありません。不眠不休で行っているのですが、対応できていません。職員数が減らされ過ぎていることが問題です。
 災害時の職員の労働条件をあらかじめ決めておくかとか、非常事態が起きたときに、どのように対応できるかとかを含めて公共サービスを考えていかなくてはいけないのではないかと思います。
 もう一つ問題となっているのはストレスに対する対応です。岩手・宮城・福島を対象とした自治労の調査によると、この東日本大震災が起きたことによって、今も職員は仕事がとても忙しい状態にあります。ストレスが非常に高い状態に職員は置かれています。休暇も取得しづらいです。定年まで働き続けることは無理だと考えている職員も多くいます。
 原発問題が解決していない福島県の被災自治体については、自治体職員が住民の不満や将来の不安を一手に引き受けることになっているなどの理由もあり、3人に1人がうつ病や疾患になっていて、病院に通っているというのが現状です。この災害がもたらした職員に対するストレスというのは非常に大きいです。
 自治労としては、職員に対してのカウンセリングを実施したり、精神科医の香山リカさんの電話相談なども行って、なんとかストレスをなくすように職員の健康状態を守る取り組みを行っています。

最後に
 公務・公共サービスというのは、みなさんの生活に欠かせないものとなっています。私も自治体職員として、非常にやりがいがある仕事と思っています。住民の生活が、私の一言によって変わってしまうかもしれないという責任もあります。一方で困っている人の手助けもできるという非常にやりがいがある仕事だと思います。他方、公務員という職業柄、どうしても労働者だと思われないということが現実としてあります。岩見沢市の若手の職員に、「あなたたちは自分が労働者だと思っていますか」と聞いてみました。「思っていない」という人がいました。聖職のように思っていて、公務員は労働者ではないと思っている人もいます。しかし、労働者として、自分の生活を守ってからはじめて、誰かの役に立てるということがあると思います。これは忘れてはいけないです。ひとりひとりが労働者としての権利を守られなければ、それこそ安定した公共サービスなんて提供できないです。これが一番重要だと思います。
 公共サービスという仕事は、社会ともすごく密接に結びついているので、自治労としては、組合員の生活だけでなく、社会そのものも良くしていくという活動も行っています。
 みなさんもこれから社会人になると思います。公務員になりたいという人もいます。公務員の職場は、仕事とはいえ、楽しいし、やりがいがあります。楽しいことばかりじゃなくて辛いこともあります。仕事を大切にするということと一緒に、忘れてはいけないのは自分自身を大切にするという気持ちだと思います。一番いいのは労働組合のある職場に入るということだと思います。組合というものがどれだけ重要な位置を占めるかということは、これからわかってくると思います。自分一人で解決できないことを、職場の仲間と力を合わせて解決していくのが労働組合です。是非組合に入っていただいて、自分の仕事にも誇りを持っていただければと思います。

以 上

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