一橋大学「連合寄付講座」

2015年度“現代労働組合論”講義録

第8回(6/1)

非正規労働者の処遇改善に向けた取り組み〜労働組合をつくる

野角裕美子(自治労組織拡大局長)

はじめに

 こんにちは。まず自己紹介からはじめたいと思います。私は2001年に、町田市立図書館に嘱託員として入りました。大学卒業後2年半民間企業に勤めて、そのあと専業主婦をしていました。もともと図書館が大好きで、大学時代から図書館で働きたいと思っていました。でも、私の大学時代、図書館正規職員の募集はほとんどありませんでした。今でもそうです。40歳になった時、残りの人生ずっとやりたい仕事をしたいと思い、応募をして、図書館の非正規の嘱託員になりました。
 図書館では児童担当として乳幼児や小学生対象の「読み聞かせ」を行い、「子どもと本をつなぐ」仕事に携わっていました。みなさんも小さい頃図書館に行って、読み聞かせなどの会に参加したこともあるのではないかと思います。また「YA(ヤングアダルト)サービス」という、中高生向けに図書館の本を紹介したり、調べ物の仕方をオリエンテーションするなどの仕事にもあたっていました。また、「レファレンスサービス」の担当もしました。たとえば、大学生の皆さんのレポートのために文献を探す、アメリカの大学にある論文を探す、沖縄の図書館にある本を取り寄せてほしいなどの要望に対応する仕事です。町田市には地域図書館もあり、そこで主任を務めたこともあります。2007年に労働組合を立ち上げ、2013年9月からは自治労本部で組織拡大局長の任に当たっています。

1.非正規労働者の現状

 現在の日本における非正規労働者の現状をお話しします。総務省の労働力調査によると、非正規労働者数は、2014年の平均で1962万人です。これは前年から56万人増で、5年連続で非正規労働者が増加しています。全労働者の37.4%が非正規労働者であるという数字も出ています。1990年の非正規労働者比率は20%です。これが2013年は36.2%、2014年には37.4%と増加しています。これは若年層の非正規化が進んでいることだけではなく、様々な要因もあるとは思いますが、37.4%というのは、大きな数字ではないかと思います。
 
 民間の非正規労働者をめぐって近年法改正が進みました。非正規労働者の増加に伴い、法改正をして非正規労働者を守る取り組みが進められてきたのです。2012年には、労働契約法の改正で、5年を超えて働いた労働者は自分の申し出により有期契約を無期契約に変えることができる、というルールもできました。雇止め法理の法定化や不合理な労働条件の禁止が法に明記されたことは大きなことだと思います。また2014年にはパートタイム労働法の改正が行われました。この法律では、正規職員と同じような仕事をするのであれば、たとえ短時間勤務でも、正規職員と非正規職員の不合理な待遇があってはならないとされました。

2.公務職場を取り巻く現状

 このように民間の労働法制は変わっています。一方、公務職場を取り巻く現状についてはどうか?2012年の自治労の調査によると、全国の自治体で働く非正規職員は70万人と推計されています。自治体で働く職員の約3人に1人が非正規ということです。6割が非正規という自治体が存在するほど、非正規職員は増加しています。
 非正規職員の多くは、年収200万円以下で「官製ワーキングプア」とも呼ばれています。官製、つまりお上が作ったワーキングプアということです。それにも関わらず、法整備は進んでいません。自治体で働く非正規職員には労働基準法も労働契約法もパートタイム労働法も男女雇用機会均等法も一部しか適用されず、民間労働法制から適用除外されています。
 
 自治体で働く非正規職員の割合を細かく見てみましょう。都道府県では16.6%とあまり多くありません。しかし、町村では38.0%、他の一般市では36.9%となっており、財政的に厳しい自治体ほど非正規の比率が高くなっています。
 次に賃金について見てみましょう。時給では800円から900円(34.1%)、月給では14万円から16万円(29.1%)の間が一番多いということです。今みなさんはアルバイトをしていると思いますが、自治体で働く非正規職員はアルバイト並の給与しかもらえないのです。しかしながら、正規職員と同じような仕事を担っているので、正規と非正規との間に圧倒的な格差があると言われています。
 次に昇給について見てみましょう。何年働いても賃金が上がらない現状があります。私が勤務している町田市の図書館の嘱託員でも、1年目も17年目も賃金は同じです。1円も上がりません。年数を積み重ねることによって経験が蓄積され、スキルが上がり、責任を持つということで賃金が上がっていくのが普通だと思いますが、1年ごとに自治体から任用されるため、昇給制度がない自治体がほとんどです。一時金や勤勉手当なども支給されない自治体も多いです。昇給制度がある自治体が2割前後、一時金がある自治体が3割程度というデータもあります。通勤費すら出ていないところもあるのです。みなさんは不思議に思われるかもしれませんが、自治法の解釈により、通勤手当は非正規職員には支給できないという考えの自治体もあり、通勤手当が支給されていない自治体は2割と言われています。
 そして、これがいちばんの問題なのですが、雇用年限の上限がある自治体がたくさんあります。たとえば、1年任用4回更新で5年しか働けない、1年任用2回更新で3年しか働けない、1度働くと、2度と同じ自治体で働けないというところもあります。専門職として働いている非正規の方はたくさんいるのですが、5年の壁、3年の壁に阻まれて、どんなに仕事があっても、勤務したくてもできないという現状があるのです。
 
 また、正規職員には5日程度ある夏季休暇が非正規職員には付与されていない、育児休暇や病気休暇などについても制度がないといった実態もあります。なぜ育児休暇が付与されていないのかというと、特別職非常勤職員や臨時職員は育児・介護休業法の適用が除外されているからです。赤ちゃんができたら辞めざるをえない、病気になったら辞めるしかないという非正規職員はたくさんいます。こうした休暇制度がある自治体は非常に少ないのです。

3.非正規職員の実態の認知度

 今、自治労では、自治体で働く非正規職員のことを知ってもらいたいということで、メディアのインタビューに応じるなどして、新聞や雑誌に取り上げてもらうということに取り組んでいます。また、議会で質問をしたり、街頭でマイクを握ったりすることもあります。しかし、非正規職員の実態はあまり知られていないのが現状です。

 上の左図を見てください。内側が一般的な非正規労働者について聞いたものです。詳しく、あるいは少しは知っていたと答えた割合は約70%です。外側は非正規公務員について聞いたものです。詳しく、あるいは少しは知っていたと答えた割合は約40%に過ぎません。
 上の右図は官製ワーキングプアについて聞いたものです。詳しく、あるいは少しは知っていたと答えた割合は約40%です。自治体で働く非正規職員の実態はまだまだ知られていないと言わざるを得ません。
 
 みなさんに質問したいのですが、公共図書館や大学図書館を利用されている方はたくさんいると思いますが、正規職員と非正規職員の区別ができるという人はいますか。おそらく区別はできないと思います。対応するうえで、正規職員と非正規職員の差はないと思います。公立図書館の窓口で対応する職員の多くは非正規職員ではないかと思います。圧倒的に非正規が多い職場のひとつが図書館なのです。

4.処遇改善、雇用安定にむけて

 自治体の非正規職員の課題・問題はたくさんあります。
 雇用年限上限の設定については、3年、5年という制限があるということです。またその自治体で働きたいと願う非正規職員がいるにも関わらず、2度と働けないという制度がある。あるいは、1年空けないと非正規職員の試験が受けられない自治体も数多くあります。
 賃金については、昇給制度がなく1年目も17年目もまったく同じ賃金という問題があります。
 手当については、一時金、退職金、勤勉手当、通勤手当、あらゆる手当が出ていないという実態があります。
 休暇制度については、育児休業、介護休業、病気休業の制度がない。忌引休暇がない自治体もたくさんありますし、結婚休暇がある自治体は珍しいのではないかと思います。
 福利厚生についても、正規と非正規との間に格差があります。私が働いている町田市の図書館にも2ヶ月働いて、2ヶ月お休み、という契約で20年近く働いている臨時職員の方々がいますが、ほとんど報酬は上がっていませんし、ロッカーや机などは1人に1つ与えられません(スペース的な問題もありますが)。そういうところに私は差別的なものを感じます。外周りの仕事をする時、正規職員には防寒用のコートが支給されるのに、非正規職員には支給されないので自分のコートを着て作業を行っています。そういう目に見えない差別が、職場のいろいろなところにあるのです。

5.労働組合の役割

 なぜ労働組合を作るのか、というお話しをします。

「2012年度自治体臨時・非常勤等職員の賃金・労働条件制度調査結果報告(ダイジェスト版)」より
 
 上の表を見れば一目瞭然ですね。組合がある方が、休暇制度はあるし、賃金も多いのです。組合で交渉して処遇を上げていくことがどんなに必要なことなのかが分かります。
 1人で声をあげても、なかなか処遇が改善されないのが現実です。やはり組合がなければ、どんなにひどい目にあっていても、声をあげることはできないし、「じゃあ、辞めてください」と言われるのがオチだと思います。直接の交渉相手にきちんと要望書を提出し、改善に向けて交渉することができるのが組合の大きなメリットだと思っています。

6.町田市図書館の場合

(1)嘱託員の増加
 町田市の図書館で嘱託員制度が始まったのは1998年12月です。相模原市の図書館と相互に本を貸したり返したりできるようになったことがきっかけでした。相模原市は政令指定都市なので、かなり大きな自治体ですが、図書館にはあまり力を入れていないのでは?との印象をもっています。一方、町田市の図書館は蔵書数、貸出数、サービスなど、同じ規模の自治体で比較すると全国で上位にランキングされています。
 相互利用が開始されれば図書館の利用登録にかなりの人が押し寄せるのではないかということで、10人の嘱託員が採用されました。この時はかなり高倍率だったと思います。採用された嘱託員はほとんどが20代で、ほんとうに優秀な方ばかりでした。翌1999年に、中央図書館に4人増員され、地域図書館にも12人配置されました。私は2001年に入りましたが、その時もかなりの倍率で、6人が20代、2人が30代、1人が40代の合計9人が採用されました。
 大きな変化があったのが2007年です。町田市の定員適正化計画により、正規職員の25%を削減するという方針がでました。当時、正規職員は120人程度、嘱託員は20人程度いました。正規職員を25%削減すると、図書館が運営できないのです。このまま正規職員と嘱託員で仕事を回すのか、それとも直営をやめて指定管理や業務委託に出すのかについて、図書館内で何度も会議が行われました。結局、正規職員を25%削減する代わりに、嘱託員を50人配置し、直営を守ることになりました。

(2)労働組合の結成
 図書館の直営をやめ、指定管理者制度導入や業務を委託に出すという話が出てきたとき、「この危険な状況を打破するためには、組合を結成しなければならない」と私は思ったのです。そのことが1つの理由となり、2007年11月に組合を立ち上げました。2015年現在、町田市の図書館は8館あります。2015年5月に新館が1館増えました。ここで、みなさんに質問をしたいと思います。増えた1館の図書館は、正規職員と嘱託員あわせて、だいたい20人ぐらいで運営する規模と考えてください。では、20人の配置があったと思う人はどれぐらいいますか。誰もいないですね。では、10人ぐらいの配置があったと思う人はどれぐらいいますか。けっこういらっしゃいますね。ありがとうございます。
 実は増員は0です。どうしてなのかというと、7館の図書館から少しずつ人を集めて、増えた1館の図書館の運営をすることになったのです。こうした厳しい現状が続いています。最近、図書館では指定管理や業務委託が増えているので、直営を維持するため人員削減を余儀なくされています。

(3)嘱託員の思い[1]
 ここで、新卒で1年間ほかの企業で働いて、どうしても図書館で働きたくて嘱託員になった24歳の嘱託員が書いてくれた文章を読みます。これは、自治労町田市図書館嘱託員労働組合の結成大会議案集から抜粋したものです。
 
 「私たち嘱託員は、図書館司書という職務に対して、高い理想と意欲を持って取り組んでいます。皆、図書館という職場を大事にし、誇りを持ってこの仕事を続けていきたいと考えています。しかし、正規職員と比較して、仕事の内容はそれほど変わらないのに対し、労働条件は不安定で、その報酬も生活を支えるには心もとない限りです。将来も変わらずに勤務できるかどうか、雇用そのものに対する不安も常についてまわります。このような状況下で勤める私たちは、安心して長期に仕事を続けていくために、より一層、雇用条件を求めていく必要があると考えました。そこで、自分たちの要求を少しでも実現へ近づけるための方法として、今回の労働組合の結成に至りました。
 今、私たちは自分たちの将来のために、勇気をもって立ち上がらなければならない状況にあります。他の誰かに頼るのではなく、自分たちの力で可能性を切り開いていかなければなりません。そのために、安定した継続雇用の確保や、育児休業・介護休業の取得など、様々な要求を団体交渉によって解決したいと考えています。今まで一人で悩み、弱々しかった小さな声も、皆でまとまれば大きな声になって、きっと解決の道が開かれると信じています。
 私たちの行動が一つでも多くの実を結ぶよう、今後の活動に取り組んでいきたいと思います」
 
 ここで、もう一度みなさんに質問をしたいと思います。公立図書館の職員になるにはどうすればいいでしょうか。専門職で司書採用の公務員になるというケースがあるのですが、全国で年間どれくらいの司書採用があると思いますか。おそらく年間40~50人です。もう一つのケースとして、公務員となり、人事異動で図書館に配属される場合があります。しかし、あくまで人事異動の一環なので、ずっと図書館で働きたいという人は、非正規の職しかないのが現状です。
 町田市ではほぼ毎年、嘱託員を募集していますが、若干名の採用に対して、応募者が殺到し、高倍率になることが多いです。また、図書館で働きたい人が全国から集まってくるため、ある年の例で言いますと、岩手県から2人、山梨県から1人が採用になるなど、地方出身者も多くいらっしゃいます。

(4)嘱託員の思い[2]
 先ほど、雇用を守るために組合を立ち上げたと言いましたが、それは理由の一つに過ぎません。私の中でもっと大きな理由は、育児・介護休業法が適用されないため制度が整備されておらず、多くの仲間が辞めざるをえなかったからです。図書館業務の中でも本の配架は重要な業務の1つですが、1日4時間繰り返すと、腱鞘炎などみんな身体の具合が悪くなってしまうのです。特に若い嘱託員で、腱鞘炎になって辞めざるをえなくなった人をたくさん見てきました。
 腱鞘炎になって辞めざるをえなくなった嘱託員の手紙を読みたいと思います。
 
 「いろいろありがとうございました。野角さんの元気な声、大好きでした。私が辞めると言った時、ほんとうに驚いてくれて、私、図書館にいてもいい人間なのかなってすごくうれしかったです」
 
 彼女は身体を悪くしたのですが、誰も守ってあげられませんでした。もちろん私もそうでした。彼女の代わりに、たとえば、本を書架に返す仕事をみんなで分担して、1日4時間だったものを5時間できるかというと、それはなかなか難しかったのです。これは2001年の出来事ですが、当時の業務のほとんどは、返却された本を書架に返すという仕事でした。身体を壊したら辞めざるをえなかったのです。でも、「私、この職場にいてもいい人間なのか」と思わせてしまう職場でいいのかと強く思いました。
 
 また、赤ちゃんが生まれたことで辞めざるをえなかったたくさんの嘱託員がいました。たとえば若い正規職員の方が朝礼で、「明日から産休に入ります。しっかり育休を取って、また職場に帰ってきます」と言うと、みんなほんとうにうれしいんです。私ももちろんうれしかったです。しかしながら、嘱託員が「産休に入ります」と言ったら、同じ反応が返ってくるかといえば、決してそんなことはありません。嘱託員1人が欠員になるため、その穴を誰が埋めるのかを考える必要があります。そのころはまだまだ正規職員が多かったので、正規職員がその穴を埋めていました。たとえば、火曜日、水曜日、金曜日は20時まで夜間開館があります。夜間開館がある時に、正規職員がそのシフトに入る。また、土曜日、日曜日でも図書館は開いているので、正規職員が出勤を代わる。欠員補充がないという意味で、正規職員に負担がかかり、心から喜んであげられない雰囲気があったと思います。
 私にも子どもが2人いて、産休に入った時、ほんとうにうれしかったです。世の中がバラ色で、生涯でいちばんうれしい期間ではないかと思います。その時に「みなさんに迷惑をかけ申し訳ないです」と言いながら産休に入って、赤ちゃんが生まれて、誰かが預かってくれるのであれば仕事が続けられるのですが、産後2ヶ月でどこかに預けることは非常に難しいと思います。そういう意味で、仕事を続けたくても辞めざるをえない人がたくさんいたのです。
 
 メンタル不全の方が自治体職員にもけっこういらっしゃいます。図書館もその例外ではありません。「住民サービスの最前線」と私たちは呼んでいますが、いろいろな利用者の方がいらっしゃるわけです。利用者と1度トラブルがあって、カウンターに2度と出られなくなった嘱託員がいました。私も首根っこを掴まれて「責任者を出せ!」と言われたことがあります。メンタル疾患になると復帰するのに時間がかかります。正規職員には復帰プログラムがありますが、嘱託員にはそういったプログラムはありませんでした。メンタル不全になったなら、職場に戻ることは考えられないという状況だったのです。

(5)交渉の成果
 私は、なぜ正規職員と嘱託員の扱いがそんなに違うのかと思いました。これは差別ではないか、正規職員は守られ、嘱託員はそこまで差別される存在なのか、と思ったのが組合を立ち上げた最大の理由です。私は組合を立ち上げた時、怒りしかありませんでした。なぜこんな目にあうのか。なぜこんなに差別を受けないといけないのか。結婚、出産、病気の時にこれほどの差別があっていいのか。忌引については、嘱託員は3日、正規職員は10日でした。正規と非正規はこれだけ違うのかと思いました。「人として認めてほしい」という思いで組合を立ち上げ、交渉をしていきました。
 
 まず、最初に要求したのは賃金アップです。町田でアパートを借りた場合、ワンルームで5万5000円はかかると思います。当時、給与は18万3200円、手取りで15万円ぐらいではなかったかと思います。そんな中で、アパートを借り、光熱費を払い、食費がかかると、生活をするだけでも厳しいという実態がありました。組合員からアンケートを集めた時、「今のままでは生活ができない。実家に帰ろうと思っても、実家からお金を送ってもらわなければ帰ることができない。お昼ごはんも節約している」といった意見が出ました。
 そこでまず報酬を上げることに取り組みました。自治体の任用は、継続雇用ではなく、1年ごとの任用で、報酬を上げるなど考えもしていませんでした。しかし19万2000円に上げることができたのです。
 どのように交渉したのかというと、組合で要求して、町田市の嘱託員の報酬一覧を出してもらったのです。それを見ると、22万円のところも、20万円のところもありました。なんと18万3200円が最低だったのです。嘱託員は全員が司書の資格を持っていましたし、専門職として何年も継続して働いている方がたくさんいらっしゃいました。そうした中で最低だったわけです。報酬の引き上げを求めて交渉を続けた結果、2008年4月に19万2000円への引き上げを勝ち取りました。組合ができてからたったの半年です。もっともこのときは、文学館の嘱託員4人に対してしか適用されませんでした。4人だったらいいと当局が思ったのかもしれませんが、まずはこの4人の報酬を上げたのです。翌年からは全員の報酬が上がりました。
 次に要求したのは育児休暇と介護休暇です。若い嘱託員がたくさんいるので、赤ちゃんを産んだら休みを取れるよう求めたわけです。これは育児・介護休業法が自治体の非正規職員には適用除外されていたのを交渉によって獲得しました。しかし無給です。制度はできていますが有給ではありません。
 また、忌引も正規職員と同じように付与されるようになりましたし、育児休暇と介護休暇という制度を作ったことで、法律が変わるたびに制度に反映されています。交渉にあたっては、当事者の声を大事にします。育児休暇・介護休暇の交渉時には、私たちのところには20代の人が多いのですが、「私たちはこの図書館でずっと長く仕事がしたい。町田の図書館が大好きなのです。子どもを産んでも帰って来たいのです」と涙ながらに訴えました。その訴えに私たちはもちろん、当局側も泣いていたのです。その時は、ほんとうにありがたかったです。

(6)今後の課題
 しかし、すべてがうまくいったわけではありません。
 例えば継続雇用の確保は実現していません。来年、私が町田市の図書館で仕事をしているかどうかは、今もなお分からないのです。指定管理や業務委託の波が押し寄せてきているからです。だいたい6月に議会でそうした提案があります。そして9月にどういう業者を選定するかという話になり、12月に業者が決定され、翌年4月から指定管理や委託になるという流れになります。来年、町田市の図書館が直営かどうかははっきり分からないため、雇用不安はいつもついて回っているということです。
 次は資格給の取得についてです。現在、町田市の図書館は、正規職員が60人、嘱託員が110人、臨時職員の体制で運営しています。嘱託員は全員が司書資格を持っているため、資格給を要求しています。残念ながら資格給はありませんし、1年目も17年目もまったく報酬は変わりません。また、福利厚生の充実や財形貯蓄なども求めてきましたが、まだまだ実現していません。
 2012年には、ボランティア休暇と骨髄移植休暇を要求しました。2011年に東日本大震災が発生した時、私も含めて被災地にボランティアとして入り、避難所で子ども達に「読み聞かせ」を行ったりしました。当局は今でも、「いろいろな処遇が改善されたり、休暇ができたりするかもしれないが、ボランティア休暇については無理だ」と言っているのです。「あなたは町田市の教育委員会に採用されたのだから、別に被災地に行く必要はない」と言われていますし、議会でボランティア休暇を問題視する質問が出たこともあって、なかなか難しいということです。骨髄移植休暇については、私がたまたまドナーになって、最後の2人まで残り、どちらかがドナーになるという時に要求しました。ドナーにはなったのですが、骨髄移植休暇が付与されることはありませんでした。「嘱託員は人のためにならなくてもいい」と当局が言っているように感じて、私は怒りを覚えています。

(7)組合を結成して良かったこと
 自治労では、次の世代を担う多くの人が安心して働ける社会の実現を求めて運動しています。今、ブラック企業やブラックバイトが問題になっています。なにか困った時には労働組合に相談してほしいと思います。もし労働組合がない場合には、2人いれば労働組合を立ち上げることができるのです。会社と対等な立場で要求書を提出し、交渉し、処遇を上げていくことができるのは労働組合だけです。要求を通すのは、1人ではなかなか難しいです。「そんなに文句があるなら辞めてもらってけっこうだ」と言われてしまうと思います。職場で困っている人たちが結集して、労働組合として交渉していくことは、会社にとっても良いことだと私は思っています。
 私は町田市図書館嘱託員労働組合を立ち上げました。町田市には町田市職員労働組合という正規職員の組合があります。そこと連携を取りながら、今も職場のためにいろいろがんばっているのです。
 組合を作る前は、私たち嘱託員は「正規職員は私たちと同じ仕事をしているにも関わらず、給料を3倍もらって、仕事は1人前。給料分ぐらい働けばいいのに」と陰で言っていました。一方正規職員は「嘱託員の人たちは分かって入ってきたんでしょ。契約書にそう書いてあったよね。それなのに、雇用の安定や処遇の改善を要求するなんておかしくない。だったら正規職員になればいいじゃない」と陰で言っていました。
 しかし、組合が立ち上がると、正規職員と嘱託員がひとつになって、町田市の図書館を直営の良い図書館にしようというふうに、めざす方向が変わってきたのです。お互いを悪く言うのではなく、これは制度が悪いのだから、制度を変えていこうというベクトルで改善要求を進めてきたこと、このことが、私が組合を立ち上げて良かったと思っていることです。職場の風通しがすごく良くなりました。正規と非正規の間に大きな壁があった職場には、今では1ミリの壁もありません。

おわりに

 最後に「スイミー」という本を紹介したいと思います。これは、私が図書館の司書ということで、色々なところで読み聞かせをしているのです。

「ひろいうみのどこかに、ちいさなさかなのきょうだいたちが、たのしくくらしてた。みんなあかいのに、一ぴきだけはからすがいよりもまっくろ、でもおよぐのはだれよりもはやかった。なまえはスイミー。ところがあるひ、おそろしいまぐろが、おなかをすかせて
すごいはやさで、ミサイルみたいにつっこんできた。ひとくちで、まぐろはちいさなあかいさかなたちを、一ぴきのこらずのみこんだ。にげたのはスイミーだけ。スイミーはおよいだ、くらいうみのそこを。こわかった、さびしかった、とてもかなしかった。けれどうみには、すばらしいものがいっぱいあった。(中略、絵を示しながら進めた)
そのとき、いわかげに、スイミーはみつけた。スイミーのとそっくりの、ちいさなさかなのきょうだいたち。「でてこいよ、みんなであそぼう。おもしろいものがいっぱいだよ!」
「だめだよ。」ちいさなあかいさかなたちはこたえた。「おおきなさかなに、たべられてしまうよ。」「だけど、いつまでもそこにじっとしてるわけにはいかないよ。なんとかかんがえなくちゃ。」スイミーはかんがえた。いろいろかんがえた。うんとかんがえた。それからとつぜんスイミーはさけんだ。「そうだ!」「みんないっしょにおよぐんだ。うみでいちばんおおきなさかなのふりして!」スイミーはおしえた。けっしてはなればなれにならないこと。みんなもちばをまもること。みんなが、一ぴきのおおきなさかなみたいにおよげるようになったとき、スイミーはいった。「ぼくが、めになろう。」あさのつめたいみずのなかを、ひるのかがやくひかりのなかを、みんなはおよぎ、おおきなさかなをおいだした。
レオ=レオニ作/谷川俊太郎訳『スイミー』好学社、1969年

これが「スイミー」です。私は組合を立ち上げた時に、みんなに1人ひとりは小さくて、弱くて、声を上げることはできないかもしれないけれども、だからこそ、みんなで団結して大きな黒い魚をやっつけようと言いました。1人ひとりは小さな魚ですけれども、団結すれば決して大きな魚に負けないというのが労働組合だと思っています。「スイミー」を見たら、「これ、労働組合のお話しだった」と思い出してくれるとうれしいです。この講義が非正規のことを考えるきっかけになればありがたいと思いますし、自分は正規をめざしているので非正規は関係ないと思わないで、みんなが同じ労働者で、少しでも明るい未来を築ければ良いと思っています。

以 上

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