職場の課題とその取り組み
賃金・処遇改善に向けた取り組み-2014春闘を中心に-
はじめに
みなさん、こんにちは。JEC連合・ADEKA労働組合で中央執行委員長を務めている笠井です。私はADEKAに研究員として入社し、放射線取扱主任者やX線作業主任者などの資格を持つ技術系の社員として働き始めましたが、縁があって今は労働組合の仕事をしています。労働組合では専従13年目になりました。専従役員ということで会社は休職中です。
ADEKA労働組合が加盟しているJEC連合は、連合に加盟している産業別労働組合で、エネルギーと化学産業を中心とした企業の労働組合が集まっています。組合員は約12万人です。化学系では富士フイルムや東ソー、大陽日酸、日本触媒など、石油系ではJX日鉱やコスモ石油などの組合が加盟しています。その他には太平洋セメント、医薬化粧品関係ではコーセーや日本化薬などの組合が加盟しています。このJEC連合は、日本合成化学産業労働組合連合会(合化労連)が前身の一つですが、この合化労連を結成した太田薫さんは、総評副議長(のちに議長)として1955年に「春闘」をスタートさせた方です。
1.株式会社ADEKAの概要
会社設立は1917年で、2017年には創立100周年を迎えます。現在資本金は228億円、従業員数は海外の会社をあわせて約3,000名です。ADEKAは、元々は古河グループの会社、東京電化工業所として設立されました。足尾銅山に発電所があったので、その電気を使って何かできないかということでつくられた会社です。当時の日本では、産業に必要な水酸化ナトリウム(か性ソーダ)を輸入に頼っていました。それを国産で作り始めたのが会社のルーツになります。2007年に社名変更をしてADEKAになりました。
主な製品には化学品と食品があります。化学品では、DVDの色素、半導体メモリをつくるための薬剤、ヘアケア製品に含まれる界面活性剤、工業用油脂などを作っています。それ以外にも、イメージしやすいところでは、水膨張性シール材という、水に浸けるとその樹脂が膨れて止水効果がある産業資材を作っていて、東京ドームの地下やアクアラインのトンネル部分の継ぎ目に使われています。食品では、水素と触媒を使ってサラダ油を固形化し、マーガリンをはじめとする加工油脂を作っています。また、業務用のホイップクリームや冷凍のパイ生地、マヨネーズなどの加工食品も作っています。このように、主に化学品と食品を手掛けており、売り上げの3分の2が化学品で3分の1が食品となっています。
ADEKAグループの業績は、2006年に過去最高の経常利益を記録しました。その後、リーマン・ショックと東日本大震災の影響で一時落ち込みましたが、順調に回復し、2014年3月期決算で連結売上高は2,000億円を突破しました。
企業の業績が上がることによって、従業員の賃金や労働諸条件は向上していきます。業績が悪ければ、労働組合は給料を上げてくれとは言いづらく、労働条件の改善を進めていくときには、どうしても企業業績を見ながら行う必要があります。ADEKAグループの場合、経常利益と売上高利益率がよくマッチングしています。実は日本のGDPの動きと一致していて、労働組合的には、我が社は日本の景気に左右される一般的な会社であると分析しています。
2.ADEKA労働組合の変遷と活動
(1)労働組合の変遷と組織体制
ADEKA労働組合は1945年、終戦の年に旭電化従業員組合として発足しました。その後、関連会社ができていくなか、旭電化、アデカアーガス、東海電化、旭友産業の4社で一つの組合を構成していました。労働組合は来年12月で結成70周年を迎えます。
ADEKAでは、その後会社の統廃合が進み、1990年には樹脂添加剤を作っていたアデカアーガスを、1999年には過酸化水素を作っていた東海電化を合併します。また、2000年には運輸部門や各工場で請負業務を行っていた旭友産業が解散しました。この解散に伴い、労働組合は、ADEKAの資本が100%入っている会社の従業員の組織「ユニオメイトA・B」と、資本関係のない会社の従業員の組織「ユニオンメイトC」を発足させました。2007年には再雇用者や嘱託・パートで働く従業員を対象とする個人加盟の組織「ユニオンファミリー」を発足させました。なお、2006年に現在のADEKA労働組合に名称変更しています。
こうした組織体制のもと、ADEKA労働組合全体の組合員は約2,000名となっています。ADEKAユニオンの組合員は約1,200名です。ADEKAユニオンメイトの組合員は約600名です。ユニオンメイトAとBは、それぞれの会社は独立していますが、労働組合はそれぞれ1つの組織にしています。ユニオンメイトCは、工場での構内作業や、充填、製造などを担う会社の組合員が集まった組織です。いわゆる非正規雇用者の組織、ユニオンファミリーの組合員は約200名です。ADEKAには本体、関連会社あわせて現在12社ありますが、その12社で働く60歳定年以降の再雇用者や、パートで働く人たちがユニオンファミリーの組合員です。その構成は、半分が再雇用者、それ以外が下請けの会社で働くパートの人たちです。
(2)労働組合の活動
ADEKAユニオンメイトは、通常それぞれの労使で交渉をしますが、必要があれば本部も経営協議会や団体交渉に参加します。グループ全体に関わる課題については、ADEKAユニオンも取り組んでいます。例えば、請負会社は業務委託料収入のほとんどをADEKA本体から得ている関係から、労働組合は、業務委託をする側とされる側両方に働きかけをしています。それぞれの労使関係で解決ができなければ、労働組合本部がADEKA本体、人事部を巻き込んで交渉を行います。
また、労働組合では、「労組ファミリー共済」という共済活動に取り組んでいました。組合員になることで、労金や全労済、上部団体のJEC連合の福祉共済制度の利用が可能となります。なお、労組ファミリー共済は、2010年から「(労使)ADEKAグループファミリー共済制度」へ移行しました。
ADEKAユニオンは、ユニオン・ショップ制をとっていて、ADEKAで働く人は、入社する=組合員となります。チェックオフ協定(組合費を給料から天引きしてもらう協定)も結んでいますので、組合費は給料から天引きされます。ADEKAユニオンメイトA、Bもユニオン・ショップ制をとっていますが、ADEKAユニオンメイトCは、オープン・ショップ制です。オープン・ショップ制とは、組合に入りたい人だけが入る仕組みですが、組合員になれば先ほどふれた共済制度を利用できるので、組合加入を勧めている組合も多くあります。
共済制度では、結婚祝い金や出産祝い金、病気の際の見舞金など、さまざまな共済金が出ます。なお、労使協議の結果、労働組合が単独で運営していた共済制度を、会社側がやっていた共済制度と一本化できたことで、資本関係がない会社も共済制度に組み込めることになりました。組合員になると、金融機関であれば労働金庫を利用でき、保険であれば全労済を利用できます。加えて、例えば組合活動中にケガをした場合、会社の労働災害とはなりませんが、JEC連合の共済制度からお金が出ます。また、弁護士相談も開設され、民事相談などが受けられます。組合の保養所の利用も可能です。ちなみに、このファミリー共済は、グループ共済会とファミリー共済会の二本立てになっていて、再雇用者やパートで働く人たちは、ファミリー共済の対象で、こちらの掛金は低く設定されています。こうした助け合いは、労働組合の根本となる活動です。
3.2013-2014年の運動方針
労働組合では、年度ごとに運動方針を決めて活動しています。ADEKA労働組合の2013-2014運動方針の1つめは、「健康経営の積極的な取り組み」です。企業は、従業員の健康診断を行うことが法律で義務付けられています。40歳以上の従業員にはメタボリック検診があり、配偶者もその対象となっています。私たちは、配偶者の検診を奨励することや、保健指導の充実強化、職場環境の再点検などに取り組んでいます。ちなみに、この健康診断の費用は、ADEKAの場合、ADEKA健康保険組合が負担します。これは単一の企業で運営している健保組合で、私たちの給料から保険料が徴収されています。この保険料は、病気になる社員が多いと保険料率も上がっていく仕組みになっています。企業が単一の健康保険組合を組織する理由の一つは、医療費に対する個人負担の上限を独自に決めることができるというメリットがあるからです。例えば、心臓手術をすると総額で300〜400万円かかりますが、ADEKA健康保険組合の場合は、自己負担は上限2万5,000円となっています。他方、従業員が健康で医療費支出が少なければ、企業側の負担額も少なくて済み、企業にとってかなりのメリットになることから、最近では「健康経営」という言葉を使う企業が多くなったと認識しています。実際、病院に行けば、私たちも3割負担となりますから、健康経営は労働組合としても重要な取り組みと考えています。
2つめの方針は、「生涯賃金の向上」です。賃上げやボーナス交渉への取り組みです。
3つめの方針は、「共働き世帯の制度見直し」です。今、日本の単身世帯以外の半分以上が共働き世帯になっています。給料が伸びない状況では、共働きがスタンダードになりますから、この取り組みは重要です。具体的には、女性就労の促進、育児・介護制度の充実などです。男女を問わず、育児や介護で離職するケースがありますので、それを食い止めるための取り組みになります。
4つめの方針は、「グローバル生産・販売体制への取り組み」です。ADEKAには、海外にも工場があり、生産や販売をフォローできる人事制度が必要になります。その具体的な取り組みには、例えば「グループSの拡充」があります。これは、日本から海外に逐一指示を出すことが難しいため、現地社員にある程度の裁量権を持たせるという、新しい形の裁量労働への取り組みです。
5つめの方針は、「地震対策と総合住宅対策の取り組み」です。昨今、直下型地震が来る可能性が高いと言われています。私たちの会社は化学薬品を扱っていますので、地震が原因で設備の爆発などのトラブルが発生する可能性があります。そこで、労働組合としても社宅を含めた地震対策などに取り組んでいます。
4.2014春闘の課題
今日のテーマである賃金・処遇改善に向けた、2014春闘の取り組みをご紹介します。ADEKA労働組合では、運動方針のもとで春闘の方針を立てるため、12月から準備を始めます。2014春闘では、[1]年間収入の改善、[2]生涯賃金の向上、[3]退職後の生活保障、[4]昇給・昇格基準の見直し、[5]共働き世帯の制度見直し、[6]労働時間短縮、[7]地震対策と社宅・寮など施設改善、[8]安心して働き続けられる環境整備に取り組むことにしました。
生涯賃金の向上では、定年後の再雇用者の処遇改善が課題となっています。退職後の生活保障では、退職金・年金制度の見直しが課題です。年金制度には公的年金制度以外に企業年金があり、ADEKAでは確定拠出年金、いわゆる401Kを導入していますので、定年が延びた場合の対応について労使協議が必要と考えています。昇給・昇格基準の見直しでは、昇給・昇格に試験を行い、昇給や昇格できなかった場合の「賃金下限管理基準の設定または改定」が課題となっています。
賃金に関して、ADEKAユニオンは、次の6つを要求することにしました。まずは「基準内賃金1%の賃金改善」です。今春闘では、安倍総理が企業に賃上げの要請をしたことが非常に影響したように思います。ただ、これは感想ですが、実際に企業と交渉をしている私たちからしてみれば、よけいなお世話でした。ああいう雰囲気のなかでは、組合員は給料が当然上がるものと思ってしまいます。実際には、企業業績とのバランスを考慮しなければならず、ムードだけで賃上げを要請されても困ります。
要求の2つめは「加工サービス各社の業務委託料引き上げ」、3つめは「再雇用制度の査定昇給導入」です。4つめは、「パート従業員の時給改善」です。組合員全体の賃上げを求めているので、これは当然の要求です。5つめは、「時間外・休日・深夜業手当の割増率の改定」で、長時間労働是正に向けた要求です。6つめは「年間一時金要求」です。
また、賃金以外の労働諸条件の改善では、休憩時間の5分延長や福利厚生の取り組み、リフレッシュ休暇の充実(対象範囲の拡大)や育児・介護制度の拡充(育児・介護を理由とする退職者の復職制度の導入)、子の看護休暇の拡充(子の人数による取得制限を設けないことや取得要件に学級閉鎖を加える)などを要求することとしました。子の看護休暇についていえば、私たちは法律で定められた最低基準をクリアすれば良いとは考えていません。法を上回る取り組みを行うことが労働組合のスタンスであり、重要なことだと思っています。
5.要求書の提出と交渉の進め方
要求を組織決定したあとは、文書で会社に要求書を提出します。これを受けて会社は会社内部で協議した結果を労働組合に回答します。交渉の進め方は労働組合によって違いますが、私たちの組合は、回答が出る前に少数の組合役員と人事部で事前交渉をしています。人事部の回答に組合側が意見を言う、そういった押し問答が何度か繰り返されます。2014春闘では、2月中旬に要求書を提出して3月中旬には会社回答を得ましたが、この1カ月の間に、事前交渉を8回やりました。他の労働組合から聞いた話では、労務担当役員と書記長が2日間寝ずに交渉したという話もありましたが、ADEKA労働組合では、ユニオンメイト各社も同じように交渉し、不調であれば私たち本部が介入していきます。
6.2014春闘の取り組み結果
(1)年間収入の改善
年間収入の改善では、定期昇給と、ベースアップとして基準内賃金1%の賃金改善を要求しました。1%の根拠は、消費税のアップに加え、厚生年金の掛け金が毎年上がっていますから、収入が増えてもそれを支出が上回れば、給料が上がったとは言えません。これを理由に1%としました。定期昇給とは、勤続1年経過すれば1歳年上の先輩と同じ給料になるということです。ベースアップは、定期昇給プラスαの部分になります。政府の賃金改善要請もあいまって、組合員もベースアップをというマインドになっていました。ADEKAの基準内賃金は、役割給、資格給、住宅手当、扶養手当となっていて、平均の基準内賃金は月約31万円です。したがって、1%要求は3,100円アップを要求することになります。
会社の回答は、役割給平均1,000円のベースアップでした。当初、会社はベースアップについてゼロ回答でした。ところが、3月12日に2014春闘の交渉状況がニュースで取り上げられ、その時点で7割の会社がベースアップを回答したという報道がありました。この報道に接した組合員は、これでベースアップがゼロ回答となると、ADEKAはその7割にも入れなかったという気持ちになるわけです。しかも、事前に実施した組合員アンケートでは、ベースアップ要求で一番多かった意見は1%でした。こうしたなかで、ゼロ回答では組合員は納得できないと粘り強く交渉を進めた結果、1,000円という金額が出てきたわけです。1,000円の回答を引き出すにもなかなか難航しました。
(2)加工サービス各社の業務委託料引き上げ
業務委託会社で働く人にとっては、委託料が上がらなければ売り上げも上がりません。さらに売り上げのなかから必要経費を差し引いて給料が支払われるわけですから、働いている人の給料を上げるには業務委託料を上げる取り組みをしなければなりません。2014春闘では、ADEKA本体には業務委託料の引き上げを、同時に各委託先の会社社長宛てにはベースアップ要求を出しました。両方やらなければ意味がなく、定期昇給制度のない会社もありますから、こういった取り組みは重要です。他社でこうした取り組みをしている組合はあまりありません。実際の製造現場は業務委託で働く人たちが根幹を成していて、もしこの人たちに不満があると、製品の品質にバラつきが出かねません。私は、製造現場が企業の根幹である以上、所属会社が違っても同じ現場で働く人の処遇をしっかり考えていくことは、労働組合の非常に重要な取り組みだと思っています。
業務委託料引き上げ要求に対する会社の回答は、委託内容や加工技術のレベルアップにより、委託料を含めた見直しをはかるというものでした。あわせて各社の人材確保と育成にも取り組むというものでした。また、委託先会社の人事制度などについても、ADEKA本体の人事部が相談に乗るという回答も得られました。今後は、ADEKA本体に対し、各加工サービス会社からの業務委託料引き上げの要求が出されていますので、どの程度上がるか様子を見る必要があります。いまはまだ金額は分かっていませんが、各加工サービス会社の中には、ベースアップをしたところも何社か出てきています。
(3) 再雇用及びパート従業員の処遇改善
ADEKAの再雇用制度にはA、B、C、Dのランクがあって、月々の給料がそれぞれ15万、20万、25万、30万と決められています。昨年の2013春闘では、「アドバンスコース」を設定して、現役のときの基準内賃金の7割が給料になる仕組みに変えました。一方、現役は査定昇給で給料が上がりますが、再雇用者にはそうした制度はありません。2014春闘では、再雇用者のモチベーションを保つために、制度の是正要求を行いました。
これに対する会社の回答は、一時金の査定部分を見直すというものでした。今まで再雇用者のボーナスは、給料の1カ月分で、査定が良ければ1.5カ月、2カ月分と上がっていました。これを是正してもう少し細かくした制度をこの冬から導入する予定です。
また、パート従業員の最低時給は、15円アップの885円になりました。法律で定められた最低賃金(法定最賃)は各都道府県で違い、東京都は現在869円です。今回の回答額はこれをクリアしていますが、秋には法定最賃が改定されます。その結果、例えば東京都が890円となれば885円では法定最賃を下回ってしまうので、その場合は自動的に引き上げるという交渉も行いました。
(4) 時間外・休日・深夜業手当の割増率の改定
ADEKAの現行の[1]時間外割増率は28%です(法定は25%以上)。[2]休日出勤の場合の割増率は35%です(法定は35%以上)。[3]深夜の時間外割増率は37%です(法定は25%以上)。
2014春闘では、[1]35%、[2]40%、[3]45%を要求しましたが、会社回答は、現在の割増率は世間水準にあり、改定はしないというものでした。
この残業代の割増率には、労使の考え方に大きな隔たりがあります。会社は、割増率を上げると残業が増えるという認識を持っています。働く側のマインドとして収入は多い方がいいとなる、つまり、割増率を上げると残業や休日出勤を勝手にやり始めるのではないか、というのが経営側の感覚です。しかし、労働組合側は逆です。割増率を上げることはコスト増に直結しますから、残業抑制につながると考えています。このテーマでは、経営側とのこうした溝をどう埋めるかを考えながら、毎年交渉しています。
(5)年間一時金
年間一時金の交渉額は、労働組合が検討し算出しています。ADEKAの場合、「150万円+ADEKA単独決算の経常利益10億円ごとに2万円」という計算をしています。例えば80億円の経常利益が上がった場合、150万円+16万円で年間一時金は166万円になります。この計算式は労働組合が根拠としているもので、会社が同調しているわけではなく、業績を踏まえながら毎年交渉を行っています。
今春闘では、交渉中にハプニングが発生しました。過酸化水素を作っている工場が赤字を出し、会計上、特別損失(固定資産の減損損失)を計上することになったのです。この影響は株価など多方面に及び、3月14日の回答日には、会社はこれを理由に一時金について最初の回答より2万円ほど下げてきました。結果は夏が79万円、冬が80万円で合計159万円でした。昨年比プラス2万円にはなったものの、この額は要求額には届いていません。
7.労働諸条件改善の取り組み結果
(1)労働時間の短縮
労働時間の短縮では、昼休みの5分延長を要求しました。法的には1日8時間労働の場合、休憩時間は45分となっています。ADEKAの所定内労働時間は7時間40分で、休憩時間は55分となっています。この休憩時間を1時間にしようという要求です。なお、ADEKAの年間休日は124日で、年間総労働時間は現在約1,847時間です。休憩時間の5分延長によって、年間で労働時間が20時間短くなるため、企業側はこれを非常に嫌がり、実際の回答も現行通りというものでした。労働時間を短縮すると1時間あたりの単価が上がります。つまり労働時間の短縮は、時間外単価などのコストに跳ね返ってくるわけです。短縮した分給料を下げれば問題は解決しますが、そういうわけにはいきません。ですから、企業側はコストパフォーマンスの点で、なかなか労働時間の短縮に踏み切れないのです。労働組合としては、一方で時間外労働をさせていれば同じことだろうという論理です。時間外でコストを払うのか、しっかり基準内賃金を上げたうえで時間外労働をさせずに生産性をアップさせるのか、交渉ではそういうやり取りをしています。
(2)リフレッシュ休暇の拡充
リフレッシュ休暇の拡充は実現しました。従来のリフレッシュ休暇は、勤続30年または55歳に達したときに取得ができ、連続8日間の休暇と会社から15万円分の旅行クーポン券が出ます。グループ共済会からも5万円の給付があります。2014春闘では、勤続10年、20年のリフレッシュ休暇を要求しました。実は、このしくみは内規としてあったことを人事部も労働組合も忘れていたのです。現行では、24時間稼働のプラントで働く人たちだけ、勤続10年、20年の節目でリフレッシュ休暇を取っていました。そこで、これを営業、スタッフ、研究員などにも適用するよう要求し、勤続10年で5日間、20年で7日間、30年で9日間のリフレッシュ休暇が取得できることになりました。
(3)育児・介護制度の拡充
育児・介護制度の拡充に向けた復職制度については、継続協議扱いとなりました。育児や介護を理由に退職を余儀なくされる人は少なくなく、特に地方出身者には、親の介護が必要になったとき、会社を辞めて実家に戻る人がいます。育児に関しては、子どもが大きくなったら会社に復職できる「ジョブリターン」という制度を要求しましたが、実はこの制度は1990年代にあったものです。この制度は対象が女性のみだったため、男女雇用機会均等法に違反するとして、当時の労働組合が廃止したという経緯があり、改めて男女双方を対象とする制度として要求したのです。
今春闘の交渉の中では、育児や介護で離職した人が職場のチームワークを乱すような人だった場合、戻す必要があるのかという意見が会社側から出ました。また、離職期間の上限も設定しなければなりません。極端に言えば、育児や介護を理由に退職し、59歳で戻られても困るという話です。交渉の結果、協議を継続することで決着しました。
(4)子の看護休暇の拡充
子の看護休暇の拡充は実現しました。法定では子の看護休暇は、子どもが1人の場合は年間5日、2人以上は10日という日数になっています。ADEKAでは、取得しきれない年休は、上限50日まで積み立てておくことができます。また、積立特別休暇という制度もあり、同様に50日ストックができるため、最大100日の積み立て有給休暇があります。そこで私たちは、そのストック分から看護休暇を取得できる、ストックがない場合でも無給休暇として取得できるよう要求しました。
会社回答は、子の人数に関係なく10日間の看護休暇を取得できるというものでした。また、インフルエンザやノロウイルスで学級閉鎖になった場合に取得できるようにする要求にも会社は理解を示し、取得要件に加わることになりました。
8.2014春闘:妥結に向けた組合員投票
ADEKA労働組合では、[1]賃金、[2]年間一時金、[3]労働諸条件について、組合員全員の投票によって妥結の判断を行います。今春闘の投票結果は、それぞれ[1]97.5%、[2]98.5%、[3]98.4%と、概ね98%の賛成率を得ました。賃金については、ベースアップ3,100円の要求に対し、1,000円では足りないという理由から、やや賛成率が下がったと思っています。
ADEKA労働組合の場合は、全員投票で賛成・反対を集約しますが、他の労働組合では、事前にスト権を立て、それを背景に交渉し、実際の妥結判断は執行部に委任する、つまり執行部が回答にOKを出せば妥結するところもあります。
9.今後の課題
ADEKA労働組合では、春闘時以外にも、賃金や処遇について毎月の労使協議会のなかで、委員会を設定し議論をしています。委員会には、「労働時間等設定改善委員会」、「人事制度ステップアップ委員会」、「心身の健康増進委員会」の3つがあります。
「労働時間等設定改善委員会」では長時間労働の禁止をテーマに掲げ、残業管理の徹底をはかっています。残業は本来上司の命令で行うものですが、管理が甘くなると勝手に残業してしまう人が現れます。そのコストで人件費が嵩むと、製品の価格を上げなければならず、高機能で価格を上げても売れる製品であればいいのですが、そうでなければ企業の利益を損ないます。こうした認識を管理する側も働く側も持とうという取り組みです。
また、柔軟な勤務体制の課題として「カバー残業の削減」があります。連続操業の場合、年休取得者が出ると、その人の仕事を前後のシフトに入った人が早出、もしくは残業でカバーするやり方で対応します。このときのカバー残業をどうやって削減するかが課題のひとつになっています。
「人事制度ステップアップ委員会」では、労働組合としては人事制度を変えたいと考えています。現行制度では職務給的要素がだんだん強くなっており、それを職群別に考えていきたいというのが労働組合のスタンスです。この委員会では、70歳現役社会の実現をテーマに、60歳以降の雇用のあり方についても議論しています。
「心身の健康増進委員会」では、メンタル不調でうつ病になった人の職場復帰プログラムを作成しています。うつ病は、プライベート、仕事、健康のうち、2つ以上がダメージを受けると発症率がグンと上がると言われています。仕事上問題はなくても、家族が重病でメンタルの問題を抱えてしまうこともあり、家族のための看護休暇を取れるようにするなどの取り組みも必要です。また、委員会では、80歳健康寿命の達成をテーマに、70歳まで元気で働き、80歳まで病院にかからないための取り組みを考えています。
さらには、今後の課題として、2025年を想定した「VISION2025」をつくることにしています。これは10年後の日本や世界情勢を考え、そのとき何が必要かを組合員に理解してもらおうというものです。人口減少社会にあって、労働組合がどのような役割を担うかを考えることは非常に重要です。60歳リタイア時代が終わったなかでの働き方を考えるとき、そこに労働組合が関与していくことは、当たり前のこととも言えます。
おわりに
困っている人がいたら手助けする、これが労働組合活動の原点です。働く一人ひとりは弱い存在でも、その集団である労働組合は、働く人全員の仕事や生活を支える存在になります。今日お話ししたように、資本系列のない請負会社に関与し、そこで働く人の給料を上げていくことは、企業から見ればコスト増で、それによってADEKA本体の利益も減ることになります。しかし、よりよい製品を作って売るという高次元の目標を達成するには、そこをコストダウンしてはいけません。
ADEKA労働組合は、今後も弱者を助けるという精神を忘れず、そしてよりよい仕事をするための活動を続けていきたいと思っています。本日はご清聴ありがとうございました。
以 上
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