労働組合の求める政策とめざす社会:男女平等参画社会の実現をめざして
~ジェンダーの視点からみた労働組合の課題を中心に
はじめに
皆さんこんにちは、国公連合の井上と申します。本日は連合の女性中央執行委員という立場から 、「男女平等参画社会の実現をめざして」というテーマでお話をします。
はじめに自己紹介をさせていただきます。連合には54の産業別労働組合(産別)が加盟していますが、私が書記次長を務めている国公連合はその産別の1つです。この国公連合の構成組織の1つに、「政府関係法人労働組合連合(政労連)」があり、私はこの政労連に所属しています。政労連は、国の機関や独立行政法人などの公務・公共部門で仕事をする組合員、約2万4000人で構成している労働組合です。国家公務員ではありません。例えば、貿易事業をやっているJETROや、奨学金を扱っている日本学生支援機構は私たちの仲間です。また、特殊法人であった日本道路公団が民営化され、いまは東日本高速道路、中日本高速道路、西日本高速道路となりましたが、ここも私たちの仲間です。私自身が所属しているのは、文部科学省傘下の「日本スポーツ振興センター」で、2020年のオリンピック招致活動や国立競技場の管理運営、サッカーくじtotoの仕事などをしています。
政労連が加盟する国公連合は、約10万人を組織しています。ここには全駐留軍労働組合という、米軍基地で働いている日本人スタッフの労働組合も加入しています。そこで働く人たちは国家公務員ではなく、アメリカの法律のもとで仕事をしていますので、日本の労働基準法は適用されません。例えば、私たちは勤続年数に応じた年次有給休暇を取ることができますが、米軍基地で働く人には適用されませんし、育児休業も適用されません。国公連合とは、そうした環境下で働く人たちも組織しています。皆さんが就職活動をする時には、このような仕事があることも知っておいていただきたいと思います。
1.数字で見る日本の女性の実態
本日の講義では、ジェンダーの視点から見た労働組合の課題を中心にお話しします。また、日本が抱える課題、男女平等参画の必要性、男女平等に関する政策、課題となっている制度・慣行などに触れ、私たち連合がめざす男女平等社会とはどのような社会なのか、そのために私たちが何をしているのか、あるいは何をしなければならないのかということについてお話をします。
まず、本題に入る前に数字で見る日本の女性の実態ということで、数字を10個あげました。この数字は何を示しているか、以下で説明していきます。
【数字で見る日本の女性の実態】
[1] 2020年30% [2] 10.6%と18.2% [3] 2.2%と6.5% [4] 32.9%と29.1% [5] 15.3% 8.1% 5.1% |
[6] 3.8% 27.3% 9.3% [7] 49.1%と70.8% [8] 70.9% [9] 15.8%と28.1% [10] 101/135 |
[1]2020年30%は、2020年に指導的地位に女性が占める割合を30%とするという、国の目標数値です。[2]10.6%と18.2%は、国会議員の女性比率の現状で、衆議院は10.6%、参議院は18.2%です。[3]2.2%と6.5%は、国や自治体の女性管理職の現状で、国家公務員は2.2%、都道府県では6.5%です。政府や都道府県には、政策を議論する審議会がありますが、[4] 32.9%と29.1%は、その女性比率を示すものです。国レベルでは32.9%、都道府県レベルでは29.1%となっています。[5] 15.3%、8.1%、5.1%は、民間企業の役職者に占める女性の割合で、係長は15.3%、課長で8.1%、部長になると5.1%です。[6] 3.8%、27.3%、9.3%は、労使団体における女性役員の現状です。3.8%は日本経団連の女性役員、27.3%は連合本部の女性役員、9.3%は連合に加盟する産別の女性役員比率です。
[7] 49.1%と70.8%は、15歳以上で労働する能力と意思を持つ者の総数に対する、実際に働いている人の割合、労働力率の男女比率を示したもので、女性は49.1%、男性は70.8%となっています。[8]の70.9%は、男性正社員を100とした場合の女性正社員の賃金の状況を示したもので、非正規女性の場合はもっと格差が大きくなります。[9]15.8%と28.1%は、女性の相対的貧困率に関する数字です。相対的貧困率とは、国民が得る年収の中央値の半分未満の割合を示したものですが、皆さんと同じ年代、20~24歳の女性の相対的貧困率は15.8%、80歳以上の女性では28.1%となっています。[10] 101/135は、政府も労働組合も一番重要視している「ジェンダーエンパワーメント指数(GEM)」の日本の位置を示したものです。GEMは国連開発計画(UNDP)が導入した、女性の政治参加や経済界における活躍、意思決定への参画を表わす指数です。日本はこのGEMが135カ国中101位となっています。日本は経済大国と言われ国際社会ではいつもトップを走ってきたわけですが、一方で、女性の政治参加や経済界における活躍に関しては100位台と低く、しかもどんどんランクが下がっています。
2.ジェンダーとは
一橋大学にはジェンダー教育プログラムがあると伺ったので、すでにジェンダーという言葉に触れている方も多いと思います。ジェンダーは、日本語では「社会的・文化的性差」と訳されていて、女や男は「こうあるべき」という固定的な役割を「性」を判断材料に個人に与えてしまうことへの問題提起を含んだ言葉です。例えば、男性は子どもを産めませんが、女性は産めます。これは生物学的な性差です。しかし、家事や子育ては男性でもできるのに、女性の仕事とされています。これがジェンダーです。私には皆さんと同年代の大学2年生になる姪がいます。姪は現在管理栄養士をめざして大学に通っていますが、私たちの親世代からは、「女の子は結婚できれば大学まで行かなくてもいいが、男の子は大学に行かせないとね」というような言葉がまだ聞こえてきます。まさに固定的な性別役割の考え方ですが、今日は、一人ひとりがジェンダーにとらわれず、その人らしく生きることをお互い認め合っていこう、こうした考え方に立って以降の話を進めたいと思います。
3.男女平等社会をめざすうえで日本が抱えている課題
女性が働くことや男女平等をめざす上で課題となっていることを10項目あげてみました。これは、政府が「第3次男女共同参画基本計画」をつくるにあたり、専門家会議が答申した内容から引用したものです。
日本では、全女性に占める働く女性の割合を年齢ごとにグラフ化すると、18歳あたりから働く女性が増えていきます。しかし、20代後半になると出産や育児を契機に仕事を辞める女性が多くなり、30代では働く女性の数が急減します。その後は、育児などが少し落ち着いた年代の40代以降で働く女性が増え、50代後半からまた徐々に減っていきます。この働く女性の数の変化がM字カーブを描いていることから、各年代を通じた女性の就業率の向上が日本の課題となっています。
女性の年齢階級別労働力率(国際比較)
また、先ほどのデータでも紹介した女性管理職の比率が低水準であることは、出産や育児を契機に仕事を辞める女性が多いこととも関連しています。日本では、第1子の出産を機に仕事を辞める女性が約6割となっています。一方、出産後も仕事を継続している女性の約9割は、育児休業制度を活用して働き続けています。こうした状況から、出産や育児で辞めてしまう女性と、育児休業を取って働き続けている女性それぞれの勤続年数を平均すると、女性全体の平均勤続年数は短くなり、企業が女性を管理職に登用することを躊躇する理由にされてしまいます。
そして日本では、長時間労働、残業が多い企業が多く、特に子どものいる30代男性層の労働時間は残業を含めて大変長くなっています。そうなると、男性は実態として育児ができず、女性だけにしわ寄せがいってしまい、子どものいる女性の仕事と生活の両立困難につながっています。男性の長時間労働の問題も含む上記の10項目が、男女平等社会をめざすうえで日本が抱えている主な課題となっています。
4.男女平等参画をめぐる情勢
(1)取り巻く環境
今、日本で大きな問題となっているのは少子高齢化と労働力人口の急減です。
日本は、1971~74年が第2次ベビーブームでした。私が小学生の頃はクラスが6クラス、中学校も8クラスあったことを覚えています。しかし、この時期をピークに子どもの数が減少していく少子化が進行しています。一方、1947~49年の第1次ベビーブーム生まれの団塊世代がこの5年間に企業を退職して労働力人口は減少し、高齢層が増えていきます。このように、日本は少子高齢化、労働力不足の時代を迎えています。
また、働く人にとっての一番大きな問題としては、正社員が減り非正規で働く人が増えており、女性では非正規で働く人が過半数を超えていることです。
さらに、雇用における男女間格差が大きいという問題があります。賃金格差や管理職の男女比率に大きな差があることはデータで紹介しましたが、この格差の何が問題なのか、事例でお話ししたいと思います。大学を卒業した女性Aさんと男性Bさんは同じ企業に採用されお互い仕事を続けてきましたが、Aさんは結婚し、妊娠を機に5年目で会社を辞めます。Bさんはそのまま仕事を続け係長になり、やがて課長、部長と昇進します。Aさんは5年目で仕事を辞めてしまったので収入がなくなり、会社に勤めていた間のキャリアもなくなります。一方、Bさんは仕事を続け昇進があって年収も上がっていきます。
こうした男女の働き方の違いは、賃金格差や役職者比率、勤続年数の男女差となって現れるだけでなく、生涯賃金の大きな格差につながってしまうという問題です。そして、高齢女性の貧困化という問題となって現れています。
総務省の「労働力調査」によると、男性の生涯賃金は、現役時代正社員だと約2億3,200万円、女性が子育てのために30歳で退職し、その後は就職せず専業主婦で過ごした場合の生涯賃金は3,000万円との結果が出ています。
(2)男女平等参画をめぐる国内外の情勢
男女平等参画に関する国内外の動向にも触れたいと思います。国連は1979年に女性差別撤廃条約を採択し、日本もこの条約を1985年に批准しています。多くの国やITUC(国際労働組合総連合)、GUFs(国際産業別労働組合組織)では、この条約の目的を達成するため、男女平等参画を推進するクォータ制を導入しています。具体的には、労働組合の役員総数の40%を女性に割り当てる仕組みです。なお、ITUCは各国のナショナルセンターが加盟する国際組織で、連合も加盟しています。GUFsは、労働組合の国際産業別労働組合の総称で、連合の構成組織は、関係する各国際産業別労働組合に加盟しています。
日本政府の直近の動きとしては、2010年12月に、「第3次男女共同参画基本計画」を策定し、あらゆる分野の指導的地位に、女性が占める割合を2020年までに30%程度にするという目標を立てています。
経済同友会、これは経営者団体ですが、「意思決定ボード」の真のダイバーシティ実現にむけて、2020年までに女性管理職割合を30%以上にするという目標を立てています。
私たち連合の女性組合員は全体の約3割を占めていますが、女性役員の割合は平均すると1割未満という現状にあります。今、全労働者の4割は女性であり、連合役員の女性比率も働く女性の割合にふさわしい比率にしなければならないのですが、その姿にはほど遠い、というのが現状です。この背景には女性の側にも役員を引き受けたがらないことや、労働組合は暗いというイメージや、労働組合の役員は男性がやるものという見方などがあり、なかなか増えていません。国際的潮流として女性の活躍、登用を促進しよう、政府も推進しようとしている中、働く者の代表である連合が、女性の登用では実は一番遅れています。
(3)なぜ、いま男女平等参画なのか
日本は1945年に戦争が終わり、その後高度経済成長の時代に入りました。企業が経済成長の担い手となりました。私は小さい頃父親がサラリーマンだったことから社宅に住んでいました。母親は家で家事や育児に専念するという家庭でしたが、父親の会社には家族対象の扶養手当もありました。高度経済成長期は、企業が家族福祉も担い、男性が仕事に集中できるようにすることが国の政策としても行われていたわけです。
こうした時代状況は、1990年代のバブル崩壊を経て大きく変化しました。そして、女性の高学歴化が進み、多くの女性が働くようになりました。しかし企業では、依然として高度成長期時代の仕組みであった男性中心の組織運営や制度が続いていました。
そこで、社会・経済の活力や持続可能性の維持という観点から、その担い手づくりとして、男女平等参画が最重要かつ喫緊の課題であると強調されるようになったわけです。今、多様な人材の就労と能力発揮の機会の保障が大きな課題となっていますが、その対象は女性や若者、非正規で働く人たちです。私たち労働組合にとっても、この層に大きなスポットを当てなければ労働組合の将来もありません。一時「ニート」という言葉が流行りましたが、その世代もいま30代後半から40代になろうとしています。大学を卒業しても仕事に就けないまま40歳を超えてしまう、これでは日本社会に未来はありません。出産を機に仕事を辞めてしまう女性が6割もいる、これでは女性の力は発揮できません。
日本では男女平等参画が喫緊の課題となっており、私たち連合は、まさに組織の総力をあげてこの問題に取り組まなければならないと考えています。
5.男女平等に関する政策-「第3次男女共同参画基本計画」とは
政府の「第3次男女共同参画基本計画」の策定に至る経過と計画の概要を説明します。
日本では、1999年に“男女共同参画社会の実現が21世紀の我が国の最重要課題”と位置づけた、「男女共同参画社会基本法」が制定されました。この前段の1995年には、国連が北京で第5回世界女性会議を開催し、女性のために平等・平和・開発の達成を促進することを表明した、「北京行動綱領」を採択しました。この中では、「貧困、教育、健康、女性に対する暴力、経済、人権」などの各分野における戦略目標と行動が示されました。これを受け、日本は1996年に「男女共同参画2000年プラン」を策定し、あらゆる分野における社会制度や慣行を男女平等の視点から見直し、男女共同参画を推進していく社会システムを構築していくこととしました。こうした経過の中で、「男女共同参画社会基本法」が制定され、2000年には法に基づく「第1次男女共同参画基本計画」が策定され、国の取り組みがスタートしました。以降、2005年には「第2次男女共同参画基本計画」が、2010年には、1999年の法制定から10年が経過しても男女共同参画が十分進まなかったとの反省を踏まえて、「第3次男女共同参画基本計画」が策定されました。
全体像は内閣府のホームページをご覧いただきたいと思いますが、計画は、第1分野(政策・方針決定過程への女性の参画の拡大)から第15分野(国際規範の尊重と国際社会の「平等・開発・平和」への貢献)で構成されており、今回新設された分野が4つあります。その1つは、男性や子どもにとっての男女共同参画の意義や理解の促進です。2つ目は、貧困など生活上の困難に直面する男女への支援です。私は労働組合の役員になって約20年になりますが、貧困といえば、発展途上国などの一部の地域のことであり、遠い世界のことという認識でした。しかし、ここ数年日本でも貧困問題が取り上げられるようになり、日本の暮らしや豊かさを取り巻く環境が大きく変わってきたことを実感しています。3つ目は、高齢者、障害者、外国人などが安心して暮らせる環境の整備です。そして4つ目は、地域、防災、環境分野における男女共同参画の推進です。この分野は、阪神淡路大震災の際に、男性と女性が一つの避難所に入ったことからプライバシーへの配慮がなく、ストレスにつながった経験をもとに議論されました。
6.男女平等をめざす上で重要な課題となっていること
(1)2020年30%の目標達成
「第3次男女共同参画基本計画」では、「政策・方針決定過程への女性の参画拡大」に向けて、あらゆる分野の指導的地位に女性が占める割合を2020年に30%とする目標が立てられ、政府はその達成にむけた積極的な働きかけを行っています。例えば、政治分野では、女性候補者の割合を高めるために、各政党に対して候補者の一定割合を女性に割り当てる「クォータ制」の導入などを奨励しています。残念ながら、2013年の参議院選挙では、まだクォータ制を導入する政党はありません。政党もまだまだ男性中心の運営になっていると思います。
(2)「M字カーブ問題」の解消
大きな課題の1つは、最初の方でも触れた、女性の働き方、M字カーブ問題です。例えばスウェーデンでは、どの年代の女性も働いていて、このカーブは逆U字型になっています。M字型カーブとなっているのは韓国と日本のみです。
このM字カーブの解消に向けては、男女間の賃金格差の是正や長時間労働の抑制、子育て支援策の充実による仕事と生活の調和推進などが課題となっています。
(3)雇用における男女平等
「第3次基本計画」の第4分野は、「雇用の分野における男女平等の推進」です。各都道府県に雇用均等室という行政機関がありますが、2009年度の厚生労働省調査によると、そこに寄せられた相談の過半数はセクシュアル・ハラスメントに関するものです。次に多いのは、妊娠や出産を理由とした不利益取り扱いに関する相談です。「出産後は育児休業を取りたい」と会社に言ったところ、「ウチにはそんな制度はないから辞めてくれと言われた」、「産前休暇をとりたい」と言ったところ、「あなたが休むと他の人の仕事が大変になるから辞めてくれと言われた」などの事例があります。雇用における男女平等では、均等法や出産や育児に関する権利を定めた法律はあるものの、その実効性の確保が大きな課題となっています。
(4)ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の実現
日本では、1992年に「生活大国5ヵ年計画」という、女性が育児や介護などで職業生活の継続が困難にならないよう、両立支援を行う計画が立てられました。この課題は「第3次基本計画」でも取り上げています。また、日本は女性の就業継続の課題に加え、男性の長時間労働の実態も多く、「男は仕事、女は家事・育児」という、固定的性別役割分担意識も依然残っています。そこで、ワーク・ライフ・バランスの実現を通じ、男性が家庭や地域の活動などに積極的に関わることができるよう、固定的性別役割分担意識に基づく実態の見直しが重要となっています。労働組合にとって、ワーク・ライフ・バランスの実現は、賃金など労働条件の改善と合わせ、あるいはそれ以上に重要な課題となっています。
7.連合がめざす社会とその実現にむけた男女平等参画への取り組み
(1)働くことを軸とする安心社会をめざす
連合は、現在「働くことを軸とする安心社会」の実現に取り組んでいます。日本では、小泉政権時代に断行された構造改革によって、教育や福祉、医療に関わる予算が削られた結果、雇用への影響が深刻化しました。こうした現状を変えるため、代案を提起したものが、連合の「働くことを軸とする安心社会」です。働きがいのある人間的な雇用の保障をベースとする社会、具体的には、働くことに軸をおき、病気や怪我への対応、子育てや介護との両立、失業など、人生の各段階におけるリスクやニーズに対応する制度の確立した社会をめざすものとなっています。
(2)労働組合への女性の主体的な参画を促す
こうした社会づくりでは、女性がその担い手になることが重要です。私は、自分の活動経験から言えば、自分が労働組合の役員を引き受けた時には、女性が関わる分野は限られていて、今のように様々な分野に女性が関わるということは想像できませんでした。私自身は誰かがやらなければ現状は変わらないという思いから、長く活動を続けてきましたが、それぞれの女性のこうした思いや行動で、日本社会は変わってきたと思っています。
その上で、私は改めて女性の皆さんに、「もっと頑張ろうよ。女性自身が変わらなければ、この社会はこれ以上変わらない」と言っています。働く女性の環境は変わったものの、女性がさまざまな場に主体的に関わっているとまでは言えません。学生時代は男女の差がなく、むしろ女性の方が主導権を握る場面が多いようですが、社会に出るとなぜか女性は控え目というか、仕事の違いからかどんどん引き下がってしまっているように感じます。例えば、係長から課長、部長とポストが上がっていくにつれ、「これ以上の役職はできない」と断る女性たちも多いのです。その原因には男女平等や仕事と生活との両立の課題があると思っていますが、最近特に感じるのは男女間の人的ネットワークの違いです。男性は年齢を重ねるにつれネットワークが拡がっていきますが、女性の方は同世代に限定されてしまい、それ以上にネットワークが拡がらないということがあり、このことが、主体性の発揮に影響していると感じています。
(3)連合の「男女平等参画推進計画」とその進捗状況
連合は、こうした現状を変えていくため、行動計画をつくり取り組みを進めています。まず、1989年の連合結成時には、「連合の進路」という基本文書の中で、あらゆる分野
に女性の積極的な参加を進めることを確認しました。そして、1991年には、「第1次男女平等参画推進計画」を策定し、女性役員比率を2000年までに15%にする目標を立てました。目標設定したことで、女性役員の比率は高まりましたが、1999年時点での全体平均は6.9%という状況にとどまり、目標は達成できませんでした。
そこで、2000年からの「第2次男女平等参画推進計画」では、単に女性役員を増やすだけではなく、仕事と家庭の両立環境づくりや労働組合の改革を取り組みに加えました。これまで労働組合の活動は男性中心であったため、例えば、夜遅くまでの会議や、結論が出なければ場合によってはお酒も入った場で物事が決まることもありました。こうした組織運営では女性の参画は進まないと考えたわけです。
その後2006年に策定した「第3次男女平等参画推進計画」でも、男女が共に参加しやすい労働組合活動、休日や夜間に及ぶ活動の見直し、女性組合員が参加しやすい活動をめざしました。この中では、具体的な成功事例も出てきました。労働組合の事務所を禁煙にしたり、スペースを設け昼休みにランチを食べられるようにしたことで、組合事務所に女性が集まってきました。女性たちがその場で組合役員に相談を持ちかけて労働組合がそれを解決する、それがきっかけとなって女性役員が誕生したということもありました。しかし、こうした行動計画による取り組みには、連合の構成組織や単組によってその取り組みに濃淡があり、全体的には大きな前進がみられませんでした。
そこで、2012年10月には、「連合が掲げる男女平等参画の理念と必要性について、組合役員から組合員に至るまで、理解と共感を得た運動ができていたとは言い難い」として、改めて行動計画の策定にむけた組織討議を行いました。その討議をふまえ、働きやすい職場づくり、仕事と生活の調和、そして若者や女性や非正規の人たちと一緒に活動できる労働組合づくりを目標に、2013年5月末に「第4次男女平等参画推進計画」を決定しました。
今回の計画には、2020年までに連合役員の女性割合を30%にすることや、連合の定期大会、これは労働組合の意思決定機関ですが、定期大会の代議員枠が2人以上の組織は1人を女性にするという「クォータ制」を導入するなど、方針決定への女性参画の具体策を盛り込みました。
8.男女平等参画社会の実現をめざして
日本は、高度経済成長時代の雇用環境から大きく変わりました。バブル崩壊後は、正社員もリストラの対象となり、突然首を切られて自殺する中高年の問題も浮上しました。現在では、正社員になれずアルバイトで生計を立てざるを得ない人たちもいます。そういう意味では、高度成長期のような「男性片働き」がモデルの時代は終わりました。女性のライフスタイルだけをとってみても、結婚する、しない、結婚して子どもを産む、産まないなど様々です。性の多様性も含め、多様な価値観、生活スタイル、働き方・生き方の尊重が求められています。これから社会に出る皆さんには、こうした時代状況を頭の中に入れていただきたいと思います。
また、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」と考える若い女性が増えているという調査結果はあるものの、女性の主体的な参画が社会の活性化につながることはまちがいありません。一例を挙げれば、企業では多様な消費者ニーズへの対応から、女性が乗りやすい車づくりが重視されるようになっています。昔は男性が楽しめる車として、スポーツカーなどスピードが出る車づくりが中心でしたが、今は女性が運転しやすく、子どもを乗せる車内空間がある車づくりなどが重視され、女性がそうした車づくりにも携わっています。
経済的な側面からも男女共働きが多数派になっており、女性が働くことを通じて社会貢献を担うようになる一方、男性の地域社会での出番も増えています。この地域活動は現役時代の活動としても重要ですが、退職後の肩書のない生活にとって、地域に居場所があることはたいへん重要です。男女平等参画は、企業、家庭、地域それぞれの領域の活性化につながります。
一方、OECD(経済協力開発機構)は、働いていない女性たちが社会に出て働くとGDPが16%増えるという試算をしていますが、その前提として重要なことは女性労働の質の確保です。女性の過半数は非正規雇用で年収も低く生活も苦しい実態にあり、女性の参画には雇用の質の改革や正社員への転換を推進することが不可欠です。
さらに重要なのは、女性の積極的な登用に向けたポジティブ・アクションの活用です。自治体における公共事業の入札制度はポイント制になっていますが、そのポイント計算の際に、女性が活躍している企業には加点するといったインセンティブ付与方式も行うべきだと思います。あるいは、男女の能力が同じ場合には、女性の採用や登用を優先するというプラスファクター方式もあり、これは国家公務員ではよく行われていますが、こうしたポジティブ・アクションの活用で男女平等参画社会を着実に実現していくことが大切です。
さらには、女性の側に求められる課題もあります。女性の中には、まだまだ受け身の人が多く、自ら行動する人が少ないことは先ほどお話ししましたが、その他に、女性が女性の足をひっぱることがあります。「あの人だからできるのよ」と、女性の敵は女性だと周囲に思わせてしまうことがあります。『デフレの正体』の著者である藻谷浩介さんは、連合の女性集会の場で、「結局は腹を据えて表に立ち、批判を堂々と受ける女性の増加が世の中を変える」と言っていました。女性自身も頑張らなければいけません。
さいごに
男女平等参画社会の実現に労働組合が果たす役割は大きいと思っています。まずは働く女性が声を上げる手段として組合活動への女性の参画を促進し、代表性の確保(組合幹部ポジションへのチャレンジ)を進め、働く女性同士の連帯を強めていきたいと思います。
そして、もう1つ触れておきたい労働組合の役割は、組織率を高めることです。今、日本では約18%という非常に低い組織率になっています。職場の課題を解決するには、会社と対等な立場で話ができる労働組合の存在が不可欠です。そのために憲法28条は労働組合をつくる権利を保障しています。私たち連合は、女性の役員を増やす観点からも組織拡大に向けた様々な取り組みを進めていきます。
今日は、男女平等参画社会の実現に関わる様々な課題や動き、労働組合の取り組みをお話ししました。男女平等参画社会の実現には、その重要性についての認識と行動に対する一人ひとりの自覚がなければ現実のものとはなりません。私が活動を始めた頃に比べれば、男女平等参画は格段の進歩を遂げていますが、どうぞ、皆さんの世代でさらに男女平等参画が進むよう、頑張っていただきたいと思います。
そのための環境整備として、私たち連合は、だれもが働きやすい職場づくりに引き続き取り組みます。
以 上
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