労働組合の求める政策とめざす社会[1]
公務労働の現状と公共サービスの役割:なぜ公務員は「改革」されなければならないのか?
はじめに
最初に自治労について説明します。正式名称は全日本自治団体労働組合です。1955年に結成され、現在の組合員数は82万人、連合加盟の中では2番目に大きい労働組合です。かつては、地方自治体の職員、地方公務員を中心に組織していましたが、現在は自治体の仕事がアウトソーシングされる中、公共サービスの担い手が多様化し、公務員ではない公共サービスの担い手が多く生まれています。そのため、そうした人たちも積極的に組織化しています。組合員の職種は、県庁や市役所などにおける一般の行政職員、保育士、看護師、ケースワーカー、給食調理員、国民健康保険や年金業務、清掃や上下水道、公園管理など、いろいろな職種があります。
1.なぜ行政改革・公務員制度改革が必要なのか
行政改革・公務員制度改革が必要とされる理由は、簡単に言うと国、あるいは自治体にお金が無いからです。国や地方の基礎的財政収支を「プライマリー・バランス」と言います。資料1の折れ線グラフの一番太い線が国・地方を合わせたプライマリー・バランスの推移ですが、国・地方を合わせると平成3(1991)年度以降赤字続きです。右下がりの細い線は国のプライマリー・バランスで、多額の赤字になっており、ほぼ横ばいの細い線である地方は、ここ数年は黒字基調を保っていますが、国・地方を合わせると赤字になります。
資料2は、「財政の硬直化」に関する図表です。図表の右側に「国債費」、「地方交付税等」、「社会保障関係費」、「その他」、「公共事業関係費」という分類がありますが、「国債費」は簡単に言うと国の借金、「地方交付税」は国が地方に払うお金、これは元々地方の独自財源ですが国から払われる形になっています。「社会保障関係費」は年金や医療などにかかるお金、「公共事業関係費」は、いわゆる「箱物」をつくるお金です。
国の財政構造は、図表から分かるようにずいぶん変わってきました。国税に占める地方交付税の割合は、昭和35(1960)度年から大きく変化していませんが、「国債費」は年々増えています。「公共事業関係費」は最近になって減っており、増えているのは「社会保障関係費」です。少子高齢化で社会保障関係にかかるお金が年々増えています。「その他」の内訳に「文教費等」という項目がありますが、昭和35年度は半分を超えていましたが今は4分の1もありません。「その他」の部分が年々小さくなっているのは、政策の自由度が年を追うごとに狭まっていることを意味します。昔は50%の枠で時の政権が自由に使えたのですが、今はそれが減少してきているということです。
社会保障関係費の問題としては、世代間の不公平も拡大しています。社会保険料収入は、国民から払ってもらっているお金ですが、これがほとんど増えず横ばいです。ところが、社会保障給付費、国が払う方の費用は急速に増えています。お年寄りが増え、介護や年金に使わなければなりません。しかし、保険料収入が増えていません。そのため、収支と費用の乖離分は税金で穴埋めし、今年はその国税負担が30兆円にもなる見込みです。
日本は少子化で子どもが急速に少なくなり、一方、お年寄りの平均年齢は急速に伸びて行きます。1965年の社会保障給付費は1.6兆円に過ぎなかったものが、年々増えて2025年には145兆円になろうかという状態になっています。社会保障関係費については、その時々の人口比が問題となります。働き盛りとお年寄りの人口構成(20歳以上64歳以下人口/65歳以上人口)は、1965年は9.1倍でしたが、2012年には2.4倍となっています。これは、1人のお年寄りを何人の働き盛りで支えるかを表しています。1965年は9.1人でお年寄り1人を支えていましたが、現在は2.4人で支えています。そして2025年には1.8人と、2人で支えることすら出来ない社会になると見込まれています。
お年寄りが元気でいるということ自体は大変良いことなのですが、社会保障給付費が継続的に増えていることから、国の財政が回らなくなってきており、改革をしなければなりません。
2.財政赤字からの脱却をめざして
国の財政構造にメスを入れるということに関しては、最近では小泉・竹中構造改革が有名です。2001年に始まった小泉政権の構造改革は、大企業や富裕層を優遇することで経済活動を活性化させ、逆に公務部門・公共部門を徹底的に縮小させるという考え方を基本に政策が行われました。「財政赤字が続いているから行政機関、公共部門にかかるお金を減らす」と考えること自体は自然だと思います。具体的に実施したのは、[1]郵政民営化、道路公団などの特殊法人の民営化、[2]市場化テストや指定管理者制度の導入、[3]国税から地方税への税源移譲、自治体への補助金や交付税の大幅削減(「三位一体改革」)です。これらの他にも、[4]医療制度改革(窓口負担の増加)などの改革を行いました。小泉政権は、2002年度から毎年、社会保障費の自然増分のうち、2,200億円を削減することを決定し、その結果、当時の自公政権下7年間で、総額1兆6,200億円の社会保障費を削減しました。その抑制・削減の対象は、医療、介護、障がい者、母子、生活保護、年金、雇用保険など、すべての分野に及びました。
また、地方では2つの大きな改革がありました。その1つは、「平成の大合併」です。自治体の数は1999年時点では3232ありましたが、政府主導で行われた市町村合併の促進により、2010年には1727まで減りました。そして、その合併効果として、すべての市町村で職員を削減しました。このとき自治体は、合併による「合併特例債」の融通を受けたのですが、これは借金であり、いずれ返さなければなりません。なお、読売新聞が2011年に特定の地域で行った調査によれば、合併で「サービスが向上したかどうかわからない」という答えが過半数を超えていました。
もう1つは自治体に対し、「三位一体改革」を行いました。国庫補助金と地方交付税を大幅に減らし、合計6.8兆円削減しました。しかし、これには国家財政の赤字分を地方に転嫁した側面があります。前述の通り、地方は黒字基調を保っていましたが、この改革によって地域や自治体にお金が来なくなり、大きな打撃を受けました。また、小泉政権下では、県民所得格差も一貫して拡大しました。
このような改革を受けて国・地方の行政機関はずいぶん変わりました。総務省の資料によれば、1967年度の国家公務員の定員は90万人であり、その後15年ほどはほぼそのままで推移してきましたが、2000年度あたりから大幅に減りはじめ、国の行政組織等の職員数は、省庁再編のあった2001年時点では約84万人、公務員に類似する特殊法人では約42万人でした。その後の民営化等の影響により、2003年3月の行政機関職員は省庁再編約80万人、2011年には約30万人になります。減った部分は、国立大学法人、独立行政法人、特殊法人で非公務員となっています。特殊法人はさらに民営化されていきました。
次に、私どもの主なフィールドである地方自治体の総職員数の推移ですが、1994年は328万人でしたが、毎年減り続け2011年には278万人にまで減少しています。具体的な職種で見ると、地方自治体による違いはありますが、警察官と消防吏員(消防士)は増えています。一方、防災、福祉事務所、児童相談所、総務、企画、清掃などの部門で大幅に減っています。
3.公務のアウトソーシングの進展
資料-3は、「アウトソーシングと公共サービスの担い手の多様化」を示したものです。
図の中ほどに、「国家公務員」と「地方公務員」がいます。公務員には、自衛隊や海上保安庁といった治安関係の人たちや、現業職員と言われる清掃、学校給食、あるいは公営企業、上下水道などに携わる人たちがいます。その周りに、「特定独立行政法人」があり、造幣局、印刷局、国立公文書館などで仕事をしている人たちです。ここまでが「公務員」ですが、これら公務員の仕事の民営化や外部委託によって、企業や民間事業者へ仕事が流れていきました。
また、図の右上に「公益事業」と書いてありますが、これには、運輸関係、郵便、電気通信(NTTなど)、水道、電気(東京電力など)、医療、公衆衛生などがあります。このような公益事業も公の仕事です。同じく、図の右中ほどに、「特殊法人など」がありますが、これには、公社・公団、事業団、特殊銀行、公庫、金庫があります。これらも普通の民間企業や事業者になっていたり、仕事がアウトソーシングされたりしました。
そして、さらにその周りには、「NPO・協同組合・ボランティア・公益法人など」があります。こうした組織は古くからあり、そういう人たちも含めて、全体として公共の仕事、公共のサービスが担われています。かつては、「公共サービス=共生サービス=公務員がやっている」という側面がありましたが、今はそんなことはありません。
今、これらの担い手における給料、雇用条件、雇用環境などが大きな問題となっています。
4.公務員制度改革とは何か
公務員は削減され、公の仕事が次々と多様化していく傾向にあります。その一方で、数を減らすだけでは無く、その機能や中身を変えていくのが公務員制度改革です。
公務員制度改革には大きく2つあります。1つは、既に行われた改革です。これには、[1]退職管理の適正化、いわゆる天下り問題の規制と、[2]能力・実績主義の徹底があります。後者は職員の採用試験の種類や年次にとらわれず、人事評価に基づいて行います。また、職員の昇任や転任は、職員の人事評価、またはその他の能力実証によって行います。
もう1つは、「国家公務員制度改革基本法」に基づく改革です。この法律の目的は、「国家公務員に関する制度を社会経済情勢の変化に対応したものとすることが喫緊の課題である」として、国家公務員は「一人ひとりの職員が、その能力を高めつつ、国民の立場に立ち、責任を自覚し、誇りを持って職務を遂行」するための改革を行うことが書かれています。
基本方針は、第5条から第12条に書かれています。第12条は、私たち自治労とまさしく関係がある、労働基本権に関する規定ですが、ここには「国民に開かれた自律的労使関係制度を措置」すると書かれており、これは、[1]国家公務員に、労働協約締結権を付与、[2]地方公務員についても同様に付与することを意味しています。
日本国憲法は、第28条で労働基本権と呼ばれる団結権、労働協約締結権、争議権を定めていますが、公務員は地方公務員法、あるいは国家公務員法によって労働基本権が制約されています。ほとんどの国家公務員、地方公務員は、労働三権のうちの団結権によって組合をつくることまではできますが、労働協約を結ぶことはできません。また、公務員と名のつく者は、すべて争議権(スト権)が認められず、ストライキはできないことになっています。これは日本に独特のもので、他の国では必ずしもそうなっていません。私たち自治労としても、労働基本権の拡大は歓迎すべきことであり、基本的にはこの法律に関しては賛成であり、この法律に基づいて一刻も早く改革を進めて頂きたいという立場です。
5.日本の公務部門は国際的に見て肥大なのか
内閣府の資料「人口千人あたりの公務員数の国際比較」を見ると、日本の公務員の数は、実際は少ないことが分かります。また、OECDの資料「公務員人件費の対GDP比」を見ると、日本は6.5%でOECD諸国の中で一番少ない数値となっています。公務員の改革は、行政機関の削減として進められてきましたが、国際比較をした場合、日本の公務員はそれほど肥大しているわけではありません。したがって、ただ人を減らせばいいというものではないと私は思います。
6.東日本大震災によって明らかになった自治体・公共サービスの危機
2011年3月11日に東日本大震災が起こりました。この震災が公務部門の削減、自治体職員の削減の問題点を幾つか明らかにしました。小泉政権が行った構造改革路線は効率化を最優先し、非採算部門を切り捨てた結果、幾つかの問題を引き起こしたのです。
1つは、「平成の大合併」で他の自治体に組み込まれた自治体では、充分な公共サービスや情報が提供されませんでした。例えば、宮城県の石巻市は合併で大変大きくなりましたが、合併前に比べて職員が大幅に少なくなっていました。その状況で震災の対応を迫られたため、物資を受け取りに旧市内に行くことが出来たのは、震災から5日も経ってからでした。
2つ目は、医療提供体制の危機です。岩手・宮城・福島の三県の沿岸部では大きな震災被害がありましたが、そこは震災前から深刻な医師・看護師不足に悩まされていた地帯です。これらの地域では、公的機関として県立病院の果たす役割は非常に大きかったのですが、赤字で経営環境が厳しいという理由で切り捨てられ、震災前から病床の廃止が行われていました。そこに震災が直撃し、300を超える病院や診療所が廃止・休止に追い込まれました。
3つ目に、民営化はサービスの質の向上をもたらしたのか、という問題があります。南三陸町という町があります。防災無線を流した女子職員の話が有名になった町ですが、あの人は自治労の組合員でした。南三陸町では、従来より地震対策や安全かつ安定的な水の供給を求められており、経済性・効率性の向上、サービスの質の向上を図るため、2009年4月から水道事業に対し、小規模水道事業体としては全国初の包括的民間委託を行いました。ところが、震災後の2011年6月時点の水道復旧率はわずか7%に過ぎず、他の自治体に対して大きく遅れた形になりました。地震対策として民間に委託したにもかかわらず、このような事態になっているのです。
自治体職員のメンタルダウンの問題も深刻です。考えてみれば、被災地における自治体職員も当然被災者であるわけですが、自治体の役場の職員ですからサービスを提供しなければなりません。被災地では、今なお昼夜を問わない作業が続いています。緊張状態も続いています。一方で、仮設住宅などに居られる住民の皆さんはストレスや不安が溜まっており、そうした住民の怒りは、「お前ら、何やってるんだ!」と、役場の職員、自治体の職員にぶつけられます。連日、こうした叱責を受ける立場にあるため、鬱になってしまう人も大変増えています。現在自治労では、被災地で精神科の医師や臨床心理士による「こころの健康相談室」を開き、メンタル相談などを続けています。
7.進む職場の「非正規化」とその対応
次に官製ワーキングプア問題についてお話しします。自治体の正規職員が次々と減らされ、臨時職員や非常勤職員と言われる非正規の公務員が急速に増えています。全自治体の職員の27.6%が、臨時職員・非常勤職員になっています。保育士の臨時・非常勤等職員割合は51.3%です。学童指導員は、ほぼ全員が非正規であり、図書館では約6割が非正規の公務員です。
非正規公務員は、最低の労働条件と不安定な雇用という問題を抱えています。例えば、日給・時給型の賃金では、時給800円未満が24.3%、4人に1人は時給が800円未満です。800~900円の人が30.8%ですから、900円以下の人が過半数の状況になっています。月給型では、月給10万円未満が10.4%、10万円以上12万円未満が5.5%、12~14万円が16.6%です。月給20万円以上の人は、わずか14%しかいません。非正規のほとんどの人が年収200万円に達せず、いわゆるワーキングプアに位置付けられてしまうのです。今日、臨時職員、非常勤職員は自治体職員の3分の1にまで増加しており、今や基幹職員として中心的な仕事を担っています。また、家計補助としてではなく、主たる生計維持者である方が大変多いにもかかわらず、年収200万円以下で働いています。さらに、臨時職員・非常勤職員には雇い止めがあり、1年未満の雇用契約であることなど、きわめて劣悪かつ不安定な労働環境にあります。
自治労は、こういう人たちを組織化し、彼らの賃金労働条件を向上させることを大きな運動の1つにしています。お配りした資料に「非正規と賃金シェア」という見出しの毎日新聞の記事があります。この記事は自治労の定期大会で徳永委員長が、「正規・非正規の均等待遇を実現するためには、もう一歩進んだ運動展開が必要な時期に来ている」と述べたことを取り上げたものです。ただ単に、「非常勤職員・臨時職員の給料を上げろ」と抽象的にスローガンを言っていても現実には進みません。給料の原資は変わらないので、正規職員の賃金をそのままにして非正規職員の賃金を上げようとしてもそう簡単にはいきません。そこで、委員長は、自治労の考え方として正規と非正規が賃金をシェアする。つまり、正規職員の賃金水準を少し落としても良いから、非正規の賃金を上げることを運動としてやるべきだと訴えたのです。この運動を進めると正規職員の中から批判や反対も出ますので、実際にはなかなか難しいです。しかし、こういうことにトライしていかなければ現代の労働組合は生き残っていけない、と私などは考えています。
8.「新しい公共」と「公共サービス基本法
連合は、「格差社会の危機が叫ばれている今こそ、新しいリスクに対応する公共サービス(「新しい公共」)の重要性を認識し、機能させることが必要であると考える。その『新しい公共』の担い手は、官、民、NPOなどの多様な提供主体のベストミックスによるべきであり、そのもとで、『新しい政府(中央・地方)と新しい公務員』が実現される必要がある」という見解を2006年に発表しています。
また、2009年の鳩山総理の所信表明演説では、「『新しい公共』とは、人を支えるという役割を、『官』と言われる人たちだけが担うのではなく、教育や子育て、街づくり、防犯や防災、医療や福祉などに地域でかかわっておられる方々一人ひとりにも参加していただき、それを社会全体として応援しようという新しい価値観です」という一節がありました。連合の見解と似たようなことを言っています。もはや「公共=公務員」ではなく、「有効な公共サービス」に向けた改革は必然的に行われなければなりません。しかし、その改革は、公務員の数や賃金を減らすということだけではない、というのが私たち自治労の主張です。
最後に「公共サービス基本法」という法律を紹介します。これは公共サービスに従事するすべての者が、誇りを持って働ける環境をめざす法律として自治労などが働きかけ、2009年5月20日に全会一致で可決・成立しました。この法律の基本理念は、「次に掲げる事項が公共サービスに関する国民の権利であることが尊重され、国民が健全な生活環境の中で日常生活及び社会生活を円滑に営むことができるようにすること」です。そして、次に掲げる事項とは、「安全かつ良質な公共サービスが、確実、効率的かつ適正に実施されること」です。また、公共サービスの実施に従事する者の労働環境の整備について、「安全かつ良質な公共サービスが適正かつ確実に実施されるようにするため、公共サービスの実施に従事する者の適正な労働条件の確保その他の労働環境の整備に関し必要な施策を講ずるよう努める」ことを政府に義務づけています。つまり、安全で良質な公共サービスを国民に提供するためには、提供する従事者自らの適正な労働条件や労働環境が整備されていなければ実施できないと書いています。
公共サービスは、住民の生命・財産に直結します。そういったサービスを担う従事者が適正な労働条件、適正な労働環境の中で働けなければ良いサービスは提供できない、私たちはそう考えて運動を進めています。
以 上
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