働く現場の抱える課題と取り組み[5]
非正規労働者の組織化と処遇改善に関する取組み~流通産業労組の事例を中心に
自己紹介
私は、1997年にイオンの前身のジャスコに入社しました。学生時代に異文化コミュニケーションの分野が専門であったことから、アジア地域との繋がりを深めたい、広い舞台で活躍したいと希望して入社したのですが、入社をしてすぐに労働組合の役員を頼まれたのが最初のきっかけとなり、今では当時は予想もしなかった労働組合の運動に携わっています。
入社をしてみると、会社の中で矛盾や疑問に思うことがたくさん出てきました。組合役員になってからは、そうした事に対し自分なりにいろいろな人と繋がりを持って学んだり、出かけて行って話をしたりしていました。そうするうちに組合の仕事を専門にやってみないかという話があり、専従になって11年になります。
1.イオンリテールワーカーズユニオンの概要
まず会社についてご紹介します。持ち株会社であるイオン株式会社は国内外180のイオングループ企業を束ねています。小売業、ショッピングセンターから始まり、現在は銀行やクレジット事業を扱う金融事業、店舗開発を行う不動産事業、結婚や葬儀などのサービス事業を含め、地域の暮らし全般に関わる事業を行っています。これらイオングループ企業に対応して、イオングループ労働組合連合会があり、加盟組合は28、私たちの組合もその1つです。イオングループ労働組合連合会の組合員は全体で17万人です。
次にイオンリテールワーカーズユニオンをご紹介します。私たちはイオンリテール株式会社と労働協約を結ぶ単体の労働組合でしたが、この4年間にイオンリテールから多くの会社が分社、独立したことを受け、組織体制の検討を行いました。その結果、分社化していく各社と労使関係を継続しようと決め、現在は単体の労働組合でありながら、16社と労働協約を結んでいます。組合員数は10万4700人です。私が担当する北関東グループの組合員数は1万300名です。組合員の約8割は、有期契約で時間給制の「コミュニティ社員」と呼ばれる従業員です。支部は516支部あり、1つのショッピングセンターが1支部だと考えていただけければ良いと思います。なお、支部の組合員数は、50名に満たない支部もあれば400名から500名の支部もあり様々です。
1969年の組合結成から43年がたちましたが、ずっと問い続けてきたテーマは、組合員の雇用と幸せの実現です。その後大きな転機もあり、1999年に策定した中期ビジョンでは、これからの時代における組合員の幸せの実現には、労働条件だけではなく、働きがいを感じられる職場づくりが必要ということを打ち立てました。策定に前後して働き方の改革にも取り組むなど、こうした新しい視点の戦略を持ち活動を進めてきました。
2010年12月にはカルフールの店舗を運営していたイオンマルシェと企業統合、2011年3月にはマイカルと統合し、その後各社にあった労働組合も統合し一つになりました。その結果、組合員は約11万人になっています。
2.10年前の職場のすがた-なぜ、パート社員の組織化が必要だったのか
パートタイマーの組織化がどのように始まったのか、10年前にさかのぼってお話しします。イオンでは、創業当時から国籍、性別、年齢を問わず登用や処遇を行うという理念がありました。そのため男女の性別を理由とした賃金格差はありませんでした。一方、当時は非正規社員の処遇が社会問題として取り上げられていました。こうした社会情勢を踏まえ、イオンピープルの8割がパートタイマーであることから、パートタイマーに受け入れられ活躍してもらえる人事制度に変えていくことをいち早く労使で合意しました。社員が主でパート社員が従という、それまでの人事制度を改め、2004年にコミュニティ社員制度を導入しました。
この制度は、能力・成果・意欲で役割や処遇を決定する制度であり、従業員区分による役割や期待、教育・登用機会の違いはないという人事制度として導入しました。これにより、処遇の格差は必要最低限になっていきました。全国転勤のあるN社員、エリア内転勤のあるR社員、転居転勤のないコミュティ社員の3区分にわけ、転居を伴う転勤をするか、しないかを根拠とした処遇の差としました。なお、労働時間・勤務形態の差による処遇差もありますが、これ以外のベースはすべて正社員と一緒です。
有期雇用契約、転居転勤のない時間給コミュニティ社員(以下、パート社員)は、職務Ⅰからスタートし、社内試験に合格すれば、職務Ⅱ、職務Ⅲに、それ以降は3つの社員区分共通で、J2、J3、M1、M2、M3と資格が上がっていく制度となっています。現在では、たくさんのパート社員がこの登用制度でステップアップをめざし、主任や課長を務めている人も数多くいます。この制度の導入以前は、パート社員の場合職務Ⅲが上限でしたが、新たな制度の導入により資格の天井が取り払われました。また、社員との横の壁もなくなり、パート社員が希望し試験に合格すれば、R社員やN社員になれるようにもなりました。仕事基準、均衡処遇、機会均等という価値観のもと、誰にも活躍の道がある画期的な制度となったわけです。
しかし、この制度も約8年が経過し転換期を迎えています。多くの優秀なパート社員が登用された結果、転居転勤なしという区分であることから、今度は用意できる仕事やポストに制約が出てきました。そうすると、資格と職位のアンマッチが起こってきます。試験でJ3に登用されたものの、それに見合う役職・ポストに空きがないという状況が起こっています。こうした新たな課題をどう解決していくかを現在検討中ですが、大切なことはパート組合員の意見をきちんと取り上げていくことだと考えています。
一方、2004年の制度導入によって職場の状況がすぐに劇的に変わったかと言うと、そう易しいものではありません。当時の職場の状況を表す象徴的な事例がありますので、ここでご紹介したいと思います。この事例は、食品売場の主任から専従役員になった私の仲間が、現場の実態として作成したものをアレンジしています。今日は、この事例をロールプレイングの形でご紹介します。
◆◇◆◇ロールプレイング◆◇◆◇
S店は、ここへ来て競合他社から立て続けに出店攻勢を受け、店長としてはここで一発生鮮食品に力を入れ、競合他社に負けずに邁進したいところです。そういうS店の農産売場に中村主任は最近転勤してきました。
店長:「中村君、この地域は非常に競合が激しいところだ。野菜果物はS店にとっての差別化だと考えている。価格もあるが、絶対的な鮮度とどこにも負けない味というのがお客さまに支持され儲かる農産だと考えている。いっしょに頑張ろう!」
翌朝、中村主任は着任のあいさつで農産のパート社員さんに次のようにいいました。
中村主任:「農産は食品の顔だと考えています。競合が激しく苦しいのは事実ですが、お客さまには鮮度と味という価値を提供し、信頼を得て地域に貢献できるS店にしていきましょう」
パート社員さんたちもこの言葉を聞いて思いました。前任の主任に、「最近野菜悪いね~」というお客様の一言から、価格重視のやり方について意見をのべたところ、何の返答も改善もなく、ここ最近、仕事にやりがいを感じない日々が続いていたところでした。でも、今度の主任とはほんとにお客さまに喜んでもらえる売場づくりができるかもしれない・・・ そんなある日のことです。
中村主任:「山本さんちょっといいかなー。最近皆さんのおかげでお店の数字も上向き加減です。山本さんも本当によくやってくれるし、意見も積極的でとても助かっています。どうですか。野菜の発注やってみませんか?」
山本さん:「エー、私なんかできませんよ。数字嫌いだし。責任重たいし。」
中村主任:「大丈夫ですよ!主任代行の安藤君も教えてくれるからやってみましょうよ!是非」
山本さん:「はっ、はい・・・」
発注は社員のもの、そう思っていた山本さんは驚きと不安でいっぱいになりました。
<山本さんの思い>
(鮮度のいいもの、味のいいものを売場に並べられるはず。やってみよう!そして、少なくともS店のパートさんに自分の店の農産売場で買ってもらう様になろう!)
ここで、一つ補足します。特に売り上げの良くないお店では、パート社員さんに話を聞いてみると、自分自身も自分のお店で買い物をしたくないという声が少なくありません。自分で売っている商品に自分でも不満があるという実態があるということです。 ある日のこと、部長がS店に巡回に来ることになりました。中村主任は朝からそわそわしています。部長と店長が農産売場に回ってきて中村主任に言いました。
部長:「何だ、この菜っ葉のボリュームのない売場は。この時期売れるだろう!ビュっと積まないか、ビュっと」
店長:「部長、しかし菜っ葉ものは傷みやすいですし、補充頻度を上げて回転させたほうが・・・」
部長:「ボリュームがないとお客さまの目にとまらんだろう。いいから積みなさい!」
店長:「はっはい。」「中村君、すぐに菜っ葉を積んで・・・」
中村主任:「わかりました。山本さん、バックルームにある菜っ葉を5ケースだしてください!」
山本さん:「えっ! でも売場にはきちんと並んでいます。5ケースも積んだら菜っ葉は傷みますし、私の発注では痛む分まで考えていません。仕入れた一つひとつ、すべていい状態で売ることを考えています。」
中村主任:「分かっているけど、部長と店長がそう言うんだから仕方ないよ。」
山本さん:「仕方ないって、お客さまはそんなこと望んでいません。最近の主任おかしいと思います。」
中村主任は声を荒げて言いました。
中村主任:「いいから、出して!」
山本さんはビクッとして、バックルームに菜っ葉をとりにむかいました。
現場の従業員はお客さまのことも商品のことも一番良く知っています。この事例はわかりやすくするために管理職の言動について極端な表現をしていますが、現場の担当者の思いを組織の論理で潰していることが少なからずあることを訴える内容でした。労働組合がこの事例を通じて全国の職場に訴えたかったことは、現場で一番お客さまに近い所にいるパート社員の声を潰すこと意欲を削ぐことが、企業にとってどれだけの損失を生んでいるかということです。
次に2003年に実施した組合員アンケートの結果をご紹介します。これは組織化準備のため社員・パート社員全員を対象に実施し、約3万名のパート社員と約8千名の社員の回答を得たものです。
この中で、「今の仕事が楽しい」と答えた社員は45.2%、パート社員は57.2%、「会社やその事業は社会的に意義がある」と答えた社員は80.7%、パート社員も67.5%がそうだと答えていました。この結果、仕事については社員よりもパート社員の方が楽しさを実感していることがわかりました。当時多くの社員には、パート社員は"時間給だから仕事に対する思い入れはない"という先入観が少なからずありました。他にも興味深い結果があり、それはイオンで働くパート社員と他社のサービス関連業で働くパート社員との比較です。「仕事を通じて様々な経験ができておもしろい」、「広く社会と関わることができて張り合いを感じる」、「社会の一員であることを実感できる」といった回答で、イオンで働くパート社員の割合がいずれも大きく上回っており、意欲・意識の高さを感じられる結果になりました。
一方、「パート社員に対し、社員からのサポート・ねぎらいが十分ある」には、社員は58.4%が「はい」と答え、パート社員は39.5%とギャップがありました。また、パート社員への質問、「上司は仕事に関する提案や意見をよく聞いてくれるか」には44.6%が「はい」と回答し、社員への質問、「部下の意見をよく仕事に反映させているか」には59.1%が「はい」と回答しました。つまり約6割の社員は部下の意見を反映していると思っていますが、パート社員でそう思っている人は5割もいないということです。この結果から、上司の部下に対する思い込み、社員のパート社員に対する思い込みの実態を確認できました。
先ほど1999年の中期ビジョンでは、「働きがいを高める」を目標としたことをお話ししました。次の図は外部機関の知恵も借りて分析した働きがいと仕事の楽しさの相関図です。
「仕事の楽しさ」の方に矢印が向いている要素が、働きがいに影響を与える要素ということです。各矢印の脇の数字の大小がその影響度合を示しています。この図から、「仕事の楽しさ」に影響を与えるのは、職場の人間関係、コミュニケーション、職務の多様性、自律感などであることが整理できました。
そして、福利厚生や給与からは「仕事の楽しさ」に直接つながる矢印がないことが分かると思います。これらについては充足感が持てる一定水準は必要ですが、その向上だけで仕事にやりがいをもって働けるわけではないということ。つまり、賃金改善に焦点を当てるだけでは組合員が楽しく働くことができる職場にはならない、働きがいは高まらないということが分かってきました。人事制度や均衡待遇がいくら進んでもそれだけでは根本的な問題解決は完結しない、本当の意味でパート社員と正社員が同じ従業員としてやりがいや働く楽しさを感じられる職場にしていこう、改めてこの目標を確認しました。
3.組合加入活動-3年間の取り組み
(1)計画と準備
次にパート社員の組合加入活動についてお話しします。イオンでは2004年~2006年当時、社会保険適用で月間120時間以上勤務するパート社員は7,594名でした。月間119時間以下で勤務し雇用保険適用のパート社員は56,601名でした。この合計64,195名が3年間で組合員となりました。
当初の計画では2004年の第1段階、「社会保険適用かつ職務Ⅲ資格以上」の3,681名から始まって4年間をかける計画だったのですが、計画を前倒し修正し、2005年の第2段階「社会保険適用かつ職務Ⅰ・Ⅱ資格者」の3,913名と第3段階「雇用保険適用かつ職務Ⅲ資格以上」3,421名の組織化を1年間で完了させました。そして2006年の「雇用保険適用かつ職務Ⅰ・Ⅱ資格者」の53,180名の組織化で全員の組合加入を実現しました。6万人に直接会って説明し、組合加入と給与からの組合費天引きについての同意書にサインを貰いました。本当にやり切れるのかという思いが途中で何度も頭を過る活動でした。
(2)ぶつかった問題・課題
組織化を進める中で生じた課題が4つありました。1つ目は既存組合員(役員)の納得・共感です。常日頃、職場では、「組合費が高い、組合は何もしてくれない」という声が目立っていたため、組合役員ですら、パート社員が自分から組合に入るというはずはない、と思っている人が少なくなかったということです。その様な状況に対しては、リーダーが信念を持って話し続けることが重要です。しかしそれだけではなく、一人ひとりが自分で考え、自分の言葉で意見を出し合う場を数多くつくりました。多くの組合会議の中で、なぜパート社員に労働組合が必要なのか、なぜ私たち正社員が加入活動をしなければならないかを何度も話し合いました。組合活動は会社の仕事とは違い、トップダウンによる指示命令には限界があります。加入活動に携わる人たち自身が気づき、やはりこれは必要だと感じることが活動の推進力になると考えました。
2つ目の課題は見える活動です。既存の活動スタイルではなく、職場の役員が主体的に職場活動や参画者数の拡大を意識して活動を企画する、という進め方に転換していきました。その結果、現場に近い活動が増えていき、組合員にとって見える活動が自然に広がっていきました。
3つ目は人員体制です。6万人を超えるパート社員に納得した上で組合に加入してもらうことは大変難しく、専従役員を大幅に増やさないとやりきれない、という声が多くありました。しかし私たちは、専従者を増員して進めた場合、将来にわたって専従役員中心で運営する組織になってしまうのではないかと考えました。そこで専従役員の増員は行わず、職場の役員と分担し職場の組合員の協力もできるだけ得ながら進めること、つまり職場で働く支部役員が主役となる組織化にするということを目標に、そのために必要なツールを準備し環境を整えました。
4つ目の課題は経営者の理解です。経営トップは、パート社員の抱える問題を解決することは企業としても非常に重要な課題であるという認識を持っていました。次のステップとして、トップのみでなく現場の管理職に理解を深めてもらうため、会社会議をまわっての説明など一つひとつ丁寧な取り組みを進めました。
(3)パート社員の声を受けて
パート社員の皆さんの反応は4つに整理できました。1つ目の「情報と実体験の不足」については、パート社員の視点を意識した声かけや情報提供を行い、活動に参加できる機会を増やすことで自然に解決していきました。
2つ目の「不信」や3つ目の「あきらめ」は、本当に深い感情であり、単なる情報提供や説明だけではなかなか理解を得られませんでした。不信感は、主に世間一般の労働組合に対する誤解や拒絶反応からくるものも多く、「どうせ組合費を集めたいだけだろう」ということを必ず言われました。あきらめ感については、先ほどの農産売場の事例で紹介した様な経験を繰り返し積まされたパート社員には、「組合に何ができる」、「組合に入ったところで何も変わるはずがない」と必ず言われました。こういった方々には、繰り返し誠意を持ってお話しを続けるしかありませんでした。実際に、私もお店を回り一緒に作業をしながら空き時間をみつけて話をしたり、食品の作業場に何度も足を運んで声を掛けては話をし、最後には、渋々の方も多かったのですが、「あなたがそこまで言うのなら一緒にやろう」ということで同意いただいた方がたくさんいます。
4つ目の「強制感への抵抗」については、ユニオンショップ制(会社との労働協約で定めた範囲の従業員全員が組合員になる仕組み)をとっていることが背景にありました。これについては「みんなが加入することで力が発揮できる」、「全体の利益にむけて役割や責任を分けあおう」と信念を持って言い続けてきました。
このように、1人ひとりに向き合い話を続けることは、パート社員の皆さんが長い年月の中で抱えてしまった様々な不信感・無力感を一つひとつ取り除いていくことだったと感じています。
以上の3年間の活動を終え、2003年までは正社員のみの労働組合であった組織が、2006年にはパート社員が8割を占める新しい労働組合になることができました。
4.処遇の変化、組織の変化(10年間の成果と課題)
パート社員の組織化によって職場の組合役員の意識も変わってきました。自分が説明し多くのパート社員が組合員になったことから、それに恥じない・嘘をつかない活動をしなければならないという責任感が組合役員に強まっていきました。活動の規模も組合員の関与も一気に増えていき、組合員による組合員のための労働組合をめざそうと、本格的に考え始めたのはこの時期です。パート組合員であっても例外ではなく、パート組合員で活動を企画し、運営に携わってもらうようになりました。新しい気づきや感動を得てもらいたいと、近くのお店との交流会や、本社見学会を企画しパート組合員が本社の部長と直接話しをする場も設けました。新しく組合員となった皆さんからは、「世界が広がった」、「新しい目標が出来た」、「今まで仕事で悩んでいたことが解決した」といった反響がどんどん出始めました。1年間の活動への参加者は、2003年の時点ではのべ8,000名程度でしたが、2010年時点では、のべ50,000人という状況になっていきました。
組織の活動方針・活動領域にも変化が起きました。これまでは、働き方の改革や職場の問題解決に特化して組合活動を進めていました。しかし、パート社員が仲間になることで、活動領域が地域や社会まで拡大しました。昨日は、パート組合員の仲間との国会見学会を企画し、私たちと繋がりのある議員の皆さんと、暮らしの問題・課題について意見を交換する活動を行ってきました。パート社員として働く仲間の声を国政の場にダイレクトに伝えていくことも労働組合の重要な役割であると思います。
処遇面の変化もありました。基本となる人事制度は2004年に整っていましたが、積み残し課題であった福利厚生などの格差を1つひとつ交渉し改善していきました。60歳以降の雇用は会社のリードによって比較的スムーズに導入され65歳定年制が確立されました。しかし、時間外割増率は、会社としては正社員を25%に下げて揃えるべきだという主張で、長い年数がかかりましたが、最終的には正社員・パート社員とも30%に揃えることができました。従業員買物割引制度は、食品について社員が8%から5%に下がっています。食品は購入頻度が高く生計費に直結することから、社員の家族も含めて反対の声が巻き起こりました。最終的には従業員全員にとってどのような制度があるべきかという議論を重ね、パート社員も正社員と共通の制度を導入することができています。今年からは、正社員だけの制度であった勤続表彰・慰労制度がパート社員にも適用されるようになりました。
組織の変化では、今では多くのパート社員が活躍する姿が見られるイオンリテールとなりました。パート社員の売場リーダー、パート社員出身の売場責任者が増加し活躍している方が増えています。労働組合の役員の中でもパート社員の役員の割合が大きく増えています。私が担当する北関東でも約4割がパート社員出身の組合役員となっています。
一方、新たな人事制度上の課題も発生するなど、良い制度であっても導入から7年もたつと環境に適応できなくなっています。またマネジメントの変化としては、これまでの正社員主体の店舗運営から、パート社員を含めたメンバー全員の力を発揮する、ファシリテーション型の店舗運営を目標とするまでになりました。私が現場で活動している実感としては、お客さま・現場・地域を大事にする意識の高まりが起きているのではないかと思っています。企業として、短期的競争に追われるのみではなく、真にお客さまや地域に貢献し支持されるとはどういうことなのか、という本来の目的を考える力を継続して持てているか。この重要なテーマに、お客さまに近いパート社員の皆さんの声や思いは重要な役割を果たしてきたし、これからも果たしていくと考えています。
働くという行為においては、一生懸命にやり誰かの役に立ちたい、喜んでもらいたいという思いに正社員とパート社員の差はないと思います。私たちはそのことを信じて十年近くをかけ、様々な制度や組織をつくってきました。課題は山積であることを実感する毎日です。これからも従業員が一体となって活躍し、一人ひとりが成長できる職場をつくっていきたいと思います。10万人の雇用を抱えるイオンリテールとして、そこに働く人が元気に働くことができる職場をつくる、そのことが私たちの社会の中での役割であり、責任ではないかと考えています。
以 上
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