一橋大学「連合寄付講座」

2012年度“現代労働組合論I”講義録

第4回(4/27)

今、働く現場で何が起こっているのか
~労働相談からみた職場の現状と労働組合の役割

ゲストスピーカー:田島 恵一(連合中央アドバイザー)

1.働くものの権利と労働者の現実

(1)ワーキングプアの広がりと労働者の現実
働く現場で起きていることを通じ、労働組合の役割について話をしていきます。
皆さんに身近なものに「就職」活動がありますが、就職は法的には労使対等の契約です。しかし、それは法制度であって、実際に力関係では明らかに使用者の方が強く、労働者が弱く困難な状況にあり、これが様々な形で尾を引いています。
また、対等の契約といっても、失業率は5%という大変な状況にあり、一家に2人の働き手がいるとすると、10軒に1人失業者がいるという世界です。例えば、有効求人倍率が0.7の場合には、就職したい学生100人に対し採用は70人ということになり、3割の学生は職にあぶれてしまいます。そうすると、物の値段と同じように労働者の賃金が安くなったり、あるいは応募しようと思っても正社員の枠が少なく、パートや派遣労働など、いわゆる非正規での就労を選択せざるを得ないようになります。
今、社会の矛盾のしわ寄せを受けているのは若者だと思います。働いても、働いても生活が困難な、ワーキングプアの若者が増えています。慶応大学の樋口美雄教授が、25歳時点で「正規」と「非正規」だった人たちが、35歳になったときの結婚率を調べたところ、正規の人の場合は6割以上が結婚していたのに対し、非正規の人たちでは4割にも至っていませんでした。これが個人の選択の結果であれば別にかまいませんが、結婚したい、子供を産みたいと思っても、その環境にない若者が増えている社会というのは、やはりいびつだと思います。それをどう正していくかが労働組合の大きな役割であろうと思っています。
労働基準法や労働契約法という法律があります。これらの法律をつくる場合には、学者たち公益委員と使用者側、労働者側の三者構成によって審議を行い、報告書を出します。私自身2000年から2008年まで、この審議の場に関わっていましたが、使用者側の人たちは、「雇用の多様化は選択肢が広がるからいいのではないか」という主張をしていました。それに対し、私は、「選択肢が広がるというが、選択する権利が就職する労働者の側にあるのか」と反論しました。「選択肢」が広がったとしても、「選択権」が使用者側にあるのでは、結局は悪い働き方を強要される環境になります。労働者に選択する権利が保障されてこその多様化であり、今はそうなっていないという主張です。
雇用形態というと、直接雇用には、「社員、パート、契約、嘱託、アルバイト」などがあります。アルバイトも社員も、労働契約関係でいえば労使が対等に契約を結んでいるという同じ位置付けにあり、アルバイトで働いて半年が過ぎると、年次有給休暇を取得する権利が保障されます。
一方、最近増えているのが間接雇用です。例えば、国立にクニタチ工業という会社があるとします。そのクニタチ工業で雇う場合は直接雇用ですが、クニタチ工業で働くものの、雇っているのは立川の派遣会社という場合があり、これが間接雇用です。こうした間接雇用という働き方は1985年まで禁止されていましたが、雇用の多様化という流れのなかで、労働者派遣法が制定され、以降、派遣会社に雇われて別の会社で働くという人が増えていきました。
また、間接雇用には「業務請負」がありますが、最近問題の多い働き方に「個人請負」があります。会社の指揮命令下で仕事はしているものの、会社との雇用契約関係にはなく、個人事業主として業務委託契約のもとで働く労働者がいます。とりわけ営業の人たちを個人事業主扱いにしているケースが多くあります。会社は、人を雇うと社会保険など、福利厚生を保障しなければなりなせん。しかし、これらの保障が個人事業主の場合にはありません。会社は経費節減のために個人事業主扱いにするため、保険も補償も一切なく、怪我をした場合の治療費なども自分持ちです。ただし、2011年4月に出された最高裁判決では、契約関係が事業契約であっても実際に会社の指揮命令下で働いている場合には、労組法上でも「労働者性がある」と認めています。

(2)労働者の保護を定めた法律とその効力
このような働き方が広がっている中、最低限知っておくべき権利があります。しかし、権利は知っていれば使えるというわけではありません。権利を使おうとしていきなり解雇されたという労働相談も多いので、どうすればいいのかをお話しします。
まず、労使対等の契約といっても、実態的には使用者のほうが圧倒的に強く、これを文字通り対等の関係にするにはどうしたらいいのか、という問題があります。この点に関しては、まず働き方のルールの最低基準を定め、これ以下で働かせてはいけないという労働基準法や、均等法などの法律があります。例えば、労働基準法では週40時間以上働かせることはできず、40時間を超えて働かせるのであれば、労使協定を結んで労基署へ届け出ることが必要です。また、週40時間、一日8時間を超えて残業した場合25%の割増賃金を払わなければならないと定めています。
次に、有給休暇でいえば、アルバイトでもパート社員でも正社員でも、勤めて半年経てば有給休暇を10日付与しなければならないと定められています。有休の付与日数は、働く勤務日数によって比例で付与されることになっています。これは雇用形態とは関係ありません。働く側が「アルバイトだから有給休暇はいりません」という契約に署名した場合でも、労働条件の最低基準を定めた労働基準法によって、使用者は有給休暇を補償しなければなりません。
労働相談に次のような事例がありました。職安の紹介で行った会社の面接で、「うちの会社は中小企業で厳しいから、何時間働いても残業代が出ない。それでもよかったら働いてくれ」と言われたそうです。この相談者は50代で家族も抱え、どうしても就職しなければならない人でした。私は、20代・30代の若者からの相談でしたら、違法なことを強要する会社は止めて、別の働き口を探したほうがいいと言いますが、今すぐ働かなければ生活が困ってしまい、50代でいろいろ経験を重ねている人ということで、「残業代を払わないという契約にハンコを押さなければ採用しないのであれば、押しなさい」と言ったのです。法律違反の契約は、いくらハンコを押しても法的には無効であり、就労後に「法律に基づいて残業代を支払いなさい」と会社側に請求できます。請求権がある2年間の間に請求をするための記録をきちんと付けて取り組めばいいわけです。
労働基準法、最低賃金法などは、いわゆる「強行法規」であって、これら法律が定めた最低基準を下回った場合、その内容は無効となります。道路交通法には、事故を防止するための時速制限があり、例えば警察は、親が死にそうだと事情を言ってもスピード違反を見逃してはくれません。労働基準法も同様で、会社が苦しくて残業代を払うお金がない、有給休暇を与える余裕がないといっても補償しなければいけません。強行法規は労使が合意していても、法律に反する合意は無効になるということです。

(3)憲法・労働関係法と労働者の権利
憲法12条は、自分たちの持つ権利は、自分たち自身がきちんと行使していかなければならないと謳っています。労働者の権利は、誰が保障してくれるものではなく、自分自身が権利をきちんと学び、行使していくため努力することが前提です。そして憲法25条では、健康で文化的な生活の保障を、27条では賃金、就業時間、休息などの最低基準を法律で決めるよう定めています。また28条では、使用者が実態として圧倒的に力が強いことをふまえて、労使対等とするために、労働者に権利を与えています。これは3つの権利で、「団結権、交渉権、団体行動権」です。
2004年にプロ野球で東北の楽天という球団ができました。楽天という球団が出来た経過は労組プロ野球選手会の闘いがあったからです。当時、大阪の近鉄球団がオリックスと合併し、パ・リーグが5球団になりかかっていました。そのとき、今はテレビなど解説者として活躍している古田さんが、プロ野球選手会の代表(組合委員長)として、「パ・リーグが5球団編成では運営していけない。自分たちの働く場も失われ、球団職員も困る。これからプロ野球を目指す子どもたちの夢も摘むことにもなる。」と、オーナーに言いました。ところが、読売巨人軍の渡邉恒雄オーナーがそのとき古田さんに言った言葉は、「無礼者、たかが選手が!」でした。当時ヤクルトで4番、キャプテンで3億円プレイヤーという有能な選手であった古田さんでさえ、経営問題に口を出すなと言われたわけです。古田さんや選手側は、そう言われながらも労働組合としての権利を行使し、「球団を残せ、残せないのならパ・リーグにもう1球団作ってリーグを守れ」とオーナー側と粘り強く交渉を行い、そのためにストライキまでやりました。その結果、東北に楽天ができパ・リーグは6球団制を維持しました。
労働組合が自分たちの権利のために、会社側、使用者側に交渉をもちかけた場合には、使用者側はそれに応じなければならないと法律は定めています。これが交渉権です。交渉結果などに不満があれば団体行動権(スト権)があります。さきほどのプロ野球選手会は、土曜日も日曜日もストライキをやっていました。ストライキをやると試合ができませんから球団は困り、球場の出入りの弁当屋も困ります。しかし、労働組合は権利行使によって利用者や経営者にいくら損害を与えても、民事罰も刑事罰も受けないと、法律で保障されています。当時オーナーは「ストライキをやるならやってみろ、裁判で損害賠償を要求する」と主張しましたが、損害賠償は要求できませんでした。
労働者には、団結する権利、交渉する権利、ストライキをやる権利があって初めて労使対等が保障されるわけです。この三つの権利を労働三権、労働基本権と言います。

(4)2つ権利と相談事例からみた課題
次に、私たちに直接関わる2つの権利についてお話しします。1つ目は、年次有給休暇です。労働者が働き続けるうえで有給休暇は必要ということで、労働者にはその権利が与えられています。レジュメに年次有給休暇の取得率は47.1%とあります。これは厚生労働省がとっているデータですが、5割にも達していません。もう1つの取得率68.3%は連合のデータで、連合の組合員の取得率は約7割となっています。
年次有給休暇について、印刷会社に勤める女性から次のような労働相談がありました。今まで有給休暇を取ったことがなく、「友人の結婚式にでるので有給休暇を取りたい」と言ったところ、上司から「結婚式の案内状をコピーして持って来い」と言われたそうです。本来有給休暇は、例え遊びに行くとしても理由を言わずに堂々と使える権利です。しかしこうした権利があっても堂々ととれず、日本では取得率が5割をきっているというのが現実です。つい先日も、正社員になれず期間が定められた雇用のため、3ヵ月単位の更新をしながら働いている女性から相談がありました。通算で2年間働いて「有給休暇をください」と言ったところ、「3ヵ月契約で更新だから有給休暇はない」と言われたというのです。3カ月更新でも半年以上継続して勤めていれば有給休暇を10日付与しなければならず、これは法律違反です。
2つ目は、育児・介護休業制度です。これは労働組合が一生懸命取り組む中で、法制度はどんどん充実してきました。私が子育てをしていた時代には育児休業制度はなく、労基法の産前産後休暇しかありませんでしたが、今はこれが制度化され、厚生労働省によれば、出産した女性の83.7%が育児休業を取得していると言っています。しかし、みなさんは、有給休暇が47%という取得率の中で育児休業が80%以上本当に取れていると思いますか。実は、働く女性で出産1年前に常勤だった人を100とした場合、出産半年後に常勤のまま働いている人は約4割です。この「常勤のまま勤め続けている人4割」を分母とした場合の取得率が8割ということで、実際の取得率は32.8%となり、育児休暇制度も活用しきれていないという現実があるわけです。労働組合のないところでは、妊娠・出産を機に多くの女性は辞めざるを得ません。というよりも退職に追い込まれているという労働相談が最近多いというのも現実です。妊娠を理由に解雇すると法律違反になるので、別の理由で解雇するのです。

2.労働相談の内容と法による権利

(1)労働契約の締結=就職するということ
通常、就職までには、募集、あるいは学校に紹介があり、試験や面接を受け、そして内定後4月1日に入社日を迎えます。この場合、労働契約はいつ成立したのかということが実は大きな問題で、内定が労働契約の成立時点だと言われています。内定通知を受け承諾書を出す時点は、「始期付解約権留保付」の労働契約です。「解約権留保」というのは、健康障害などで働き続けることが困難ということが判明したときなど、面接や採用時点ではわかり得ない事実が内定後にわかった場合に会社側が行使するものです。会社が大変だから、その人が気に食わないからという理由などで内定を取り消すことはできません。
内定が重複したときどうするか、という相談も結構あります。重複のときには学生側に契約を解約する自由もあり、その場合には2週間前が原則です。内定が重複した場合は早めに連絡をする必要がありますが、内定は、人身拘束のように自由がきかないというわけではありません。

(2)入社時の相談内容と法の規定
労働基準法では、契約内容と働き方が全く違う場合、労働者は即時解約できるとしています。
募集内容と働き方が違うという相談も多くあります。労働基準法15条では、「働く場所、仕事、労働時間、退職などに関わる事項」については、労働者に書面で渡さなければならないとあります。ところが、ブラック企業と呼ばれている問題企業は、ほとんど渡していません。また、労働基準法では、10人以上が働く会社は、必ず就業規則をつくりそれを労働基準監督署に届け出ると同時に、その就業規則を働いている人たちに周知することが定められています。しかし、就業規則さえも隠すような企業があります。労働条件を明示しない、就業規則を隠すなどの企業は危ういと見たほうがいいと思います。
次に雇用保険、社会保険への加入についてです。保険料は基本的に労使折半で支払うよう法律は定められていますが、会社としてはできれば払いたくありません。そこで試用期間をアルバイト雇用にしてしまい、「アルバイトだから社会保険は該当しない」と言います。しかし、いつの時点から加入になるのかといえば入社時です。いつまでも社会保険に加入させないというのはおかしな会社です。
最近では、雇用期間を定めた有期労働契約がどんどん広がってきています。通常、正社員として入社する場合は雇用期間の定めのない契約を交わし、その期間はほぼ定年までとされています。本人が別の進路を選択した場合には、その間に退職することはあります。一方、最近の非正規雇用は、正社員より賃金が安くてすむ、あるいは様々な一時金を出すコストが低くてすむ、雇用調整が容易などの理由で広がっています。
非正規で無権利状態の人たちが増えている中で、正社員の人たちは幸せに働いているのかと言えば、そんなことはありません。正社員だからということで、長時間労働化が進んでいるという現実があります。これに関連して、就職が困難な、いわゆる「就職氷河期」にあった30代の女性正社員の方から労働相談がありました。派遣で10年働き、有期雇用が不安ということで正社員を望んでいたところ、30歳を過ぎてやっと正社員になれました。そして、せっかく得た正社員という椅子を失いたくないという思いから、無理をしてしまいました。その会社には労働組合がなく、長時間労働を強いられ結局うつ病になってしまい、労災の申請をしたということでした。正社員には正社員で、「あなたは正社員だから」と、頑張り過ぎを強要する状況が広がってきていると感じています。長時間労働やパワーハラスメントにあったとき、自分の権利をしっかり行使できる環境があるかどうかは、極めて重要な課題です。
2008年に施行された労働契約法は、労働者が権利を行使しようという場合、結構使える法律です。例えば第3条では、労働契約は労使が対等な立場の合意に基づいて締結、あるいは変更すべきだとしています。契約は一方的に変更することは許されないということです。しかし、労働者個人が弱い場合、経営者の言いなりになってしまいます。これをどうするかは後ほどお話しします。

(3)解雇や退職、有期雇用に関わる課題と法の規定
解雇や退職に関わる課題では、民法は労使対等という立場をとっています。民法627条は、使用者は2週間前に言えば契約を解約でき、労働者も2週間前に通告すれば辞められるとしています。ところで、使用者が労働者を解雇する場合にこれを行使されると、労働者の明日からの生活はどうなるのかという問題になります。そこで労働基準法18条の2に「勝手に解約はできない」という規定がありました。現在この規定は、労働契約法に移され、16条に明記されています。
労働契約法16条は、解雇は「客観的に合理的な理由」を欠き、「社会通念上相当である」と認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とするというもので、会社は労働者を勝手に解雇できないと書かれています。したがって、民法627条を修正し、労働契約法16条で労働者の権利を保障しています。また、労働基準法では身分差別の禁止や、産前産後休業中とその後30日間の解雇禁止、労組法では労働組合に入ったこと、均等法では性別や妊娠を理由した解雇などを規制しています。
労働契約法の「客観的で合理的な理由」、「社会通念上相当である」とされていますが、解雇ルールでいえば、会社都合での解雇の場合に恣意的な解雇は権利の濫用として無効とされています。会社都合での解雇の場合、整理解雇4要件といって、解雇の必要性、解雇を回避するための措置をとったか、被解雇者選定に合理性はあるか、解雇の手続きを労働者、労働組合としっかり話し合ったかどうか、というのが合理性の判断になります。これらの要件は判例法理として定着していますが、法律条文には一切書かれていません。
有期雇用では、1年あるいは3ヵ月などの有期労働契約で雇用されていて、更新がない場合は更新拒否となります。更新拒否は実質的には職場を失うわけですから、解雇ルールと同じように合理性や社会的相当性を適用させるなど、通常の労働者と同じように扱えというのが労働組合の要求です。しかし、使用者は、有期雇用労働者には解雇要件を適用することに反対であり、安くて使い勝手のいい雇用調整しやすい労働者として、増やしてきているというのが現実です。
一方、退職を申し出ても辞めさせてもらえないという相談も多くあります。相談の時点では、みなさん「退職願」しか知りません。「退職願」は、自分自身が申し出て、会社が了承すると成立します。ところが、民法627条にあるように、14日前に通告すれば解約は可能ですから、「退職願」ではなく、「退職届」を出せばいいのです。会社が受け付けないようであれば、内容証明郵便で送ることで法律上は退職することができます。この退職する自由は、人身拘束を防ぐためにも極めて重要な権利です。
それから、解雇、退職と雇用保険の問題があります。2008年暮れにかけて、多くの派遣労働者が派遣切りにあい、日比谷公園に派遣村ができたことがニュースになりました。この派遣村に集まった失業者の7割に雇用保険による失業手当受給の権利がありませんでした。本来労働者が失業した場合、セーフティネットとして雇用保険による失業給付がありますが、派遣村に集まった失業者の7割の人たちが雇用保険の適用がなかったわけです。その理由は、当時の雇用保険制度では、6カ月以上の雇用見込みがなければ加入させなくてもいいとなっていたからです。
連合には、社会問題が起きた時、それを政策にどう生かし、解決していくかという課題があります。こうした事態を受けた連合は、速やかに雇用保険を適用するように政策要求を行いました。現在では、31日以上の雇用見込みがあれば、日雇やアルバイトも雇用保険に入れるように改正されました。

3.労働組合の役割・任務

(1)集団的労使関係の確立で労働条件の向上をめざす
労働組合をつくり活動することは、憲法で保障されている権利であるという話をしました。ところが、労働組合の組織率は現在20%を下回っています。nhkでは1973年から日本人の意識調査をしていますが、その中で、「新しくできたばかりの会社で雇われていて、しばらくしてから労働条件に強い不満が起きたとしたら、あなたはどういう行動を起こしますか」という質問をしています。この問いに対し、1970年代は「労働組合をつくって活動する」という回答が3割を超えていたのですが、今は17.8%という低さになっています。そして「静観をする」という回答が増えています。
集団的な支え、団結があって初めて権利は行使できます。有給休暇の取得率を見ても、労働組合のないところでは5割未満であるのに対し、労働組合があるところでは7割を超えています。育児休業制度も連合の組合員の場合には、制度を活用して働き続けています。ちなみに女性が働き続ける際の壁は3つあると言われ、1つ目が結婚した時、2つ目が出産、3つ目が親の介護です。女性に家庭責任が押し付けられている実態から、こうした壁があります。現在では結婚退職する人は少なくなってきましたが、出産や介護を契機に女性が辞めざるをえない状況は今もあり、社会的な支援策や介護保険制度を充実させていかなければいけません。そして、個人が権利を行使するには集団的な労使関係、労働組合がその人たちを支えていくという形がやはり必要です。
ところで、労働組合というと、皆さんはいわゆる企業別の労働組合をイメージされると思いますが、労働組合として団結する単位は職場単位でなくてもいいのです。例えば、国立という地域で働いている人たちが集まって「国立ユニオン」というのをつくる、学生が入っても構いません。団結する自由はありますが、1人では団結できないので、2人以上が結集する必要があります。
日本は企業別労働組合が主流であり、厚生労働省のデータではその65%がユニオンショップ協定を結んでいます。これは会社に入って社員になったら、労働組合に入らなければ解雇するという協定で、全員加入が原則です。なお、公務員の労働組合は、ユニオンショップ協定は法律で禁止されています。たとえば東京都庁に入り、東京都に労働組合があっても、入るかどうかは本人の意思であって、加入の強制はできません。

(2)重要性が増す労働組合の役割
労働者は個人では弱く、団結してこそ労使が対等になります。去年の話ですが、パナソニックに勤めていて組合員だった人が、退職し組合がない外資系の企業に行きました。その彼が、「労働組合の組合員だった時は、労働組合の大切さはよくわからなかったが、労働組合のないところで働いてみたら、自分たちの権利や労働条件が労働組合によってどれほど守られていたかがよくわかった」とつくづく言っていました。労働組合とはそういうもので、労働条件を改善し、権利も当たり前のように行使できる環境づくりが役割です。働きやすい職場、労働条件の改善を実現している環境のもとでは、労働組合の大切さや存在が忘れられてしまうということもあります。しかし、労働者が団結し、集団的労使関係を築いているからこそ、権利が当たり前に行使できることを忘れてはいけないし、労働組合をしっかりと職場に定着させていくことを取り組んでいます。また、労働組合は一方的な雇用破壊から労働者を守っています。
加えて、連合は労働組合員以外の人たちのためにも取り組んでいます。連合が行っている労働相談もその一環で、労働者の労働相談に対応しながら社会一般に起きている問題を解決しています。そして、その解決を糸口に、労働組合をつくろうと運動しています。さらに各労働組合は、正社員だけではなく、パート労働者、派遣労働者も含めた組織化運動に一生懸命取り組んでいます。
この講義をきっかけに労働者の権利や労働組合の役割を是非知っていただきたいと思います。

以 上

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