【高田教授】
本日は「働くということと労働組合」をテーマに修了シンポジウムを行います。
ゲスト講師の南雲さんは、1970年に東京電力に入社、その後組合活動に従事され、1991年に東京電力労働組合の中央執行委員となり、2007年には上部団体である電力総連の会長を務められ、2009年から連合事務局長をお務めです。
本日は、南雲連合事務局長から「働くことを軸とする安心社会」実現にむけた連合の取り組みを伺い、その後、逢見連合副事務局長の進行で皆さんとの討論を行います。
【南雲】
1.はじめに
連合の南雲と申します。生まれは、いま話題のスカイツリーがある東京の墨田区ですが、そこにはカネボウという会社があります。私が生まれた頃はまだ「鐘ヶ淵化学」が会社名でしたが、私はこの会社の本社がある東武伊勢崎線の鐘ヶ淵という下町で育ち、その後はご紹介いただいた経歴で、現在は連合で仕事をさせていただいています。私からは、連合の提言と取り組みを説明し、その後皆さんと意見交換をさせていただきたいと思います。
連合は、2010年12月の中央委員会で、「働くことを軸とする安心社会」実現にむけ、日本が目指すべき社会像の提言と取り組みを確認しました。今日は、この「働くことを軸とする安心社会」の提言に至った経緯、2つ目に提言に記載しました「日本社会の持続可能性が脅かされている」ことがらにふれ、3つ目に、「働くことを軸とする安心社会」とは具体的にはどのような社会か、4つ目に、その実現にはどのような基盤が必要か、最後に、連合、労働組合に求められる役割と責任についてお話しします。
2.「働くことを軸とする安心社会」を提起するに至った経緯
連合は1989年11月に結成されました。この年は東西冷戦が終焉し、ベルリンの壁が崩壊した年です。連合結成以前には、総評、同盟、中立労連、新産別という4つのナショナルセンターがありましたが、それらを一つにしようという先輩方の高い志で、連合は結成されました。その後連合では、結成10周年を前に、労働運動の21世紀戦略の議論を開始し、2001年の第7回大会で、労働を中心とした福祉型社会を掲げた「連合21世紀ビジョン」を採択しました。
また、「連合運動は、世間からどう見られているのか」を知るために、イーデス・ハンソンさんや弁護士の中坊公平さんなど外部の方を委員に、連合評価委員会をつくりました。
2003年9月には、この委員会より連合運動の評価と目指すべき労働運動についての提言を受け、この提言をふまえた2003年の第8回大会では、「組合が変わる、社会を変える」という大きな目標を掲げ取り組みを進めてきました。また、2007年の第10回大会では、新たに「すべての働く者の連帯」を目標に、運動の強化を図ってきました。
そして、結成20周年にあたる2010年12月の中央委員会では、結成10周年を機に採択した「労働を中心とした福祉型社会」をバージョンアップした「働くことを軸とする安心社会」の提言を採択しました。この提言は、各組織の組合員、政府、政党など、さまざまな方々との意見交換やタウンミーティング等も行いながらまとめたものです。なお、この提言は、2011年3月11日に東日本大震災が発生し、連合も震災からの復旧・復興に全力を注ぐということもあって、その後の意見交換が少し遅れていますが、2011年10月の大会でもう一度、意見交換を行おうと考えているところです。
ところで、東日本大震災の発生後、連合は3月14日に救援本部を立ち上げ、連合加盟の組合員、家族などの安否確認を行っていきました。そして、3月31日からは、岩手・宮城・福島の3県に300名規模のボランティア派遣を行い、延べ26,400名の組合員が参加し、現在も継続中です。私も6月23日から26日にかけて3県を回ってきました。
3.日本社会の持続可能性が脅かされている
(1)生産年齢人口の減少と社会保障への影響
日本は人口減少社会に突入しました。これまでは右肩上がりでしたが、これからは下がっていくことになり、そのため、生産年齢人口も減少し、一方で高齢化が進みます。そうすると、社会保障の主な対象となる65歳以上の高齢者1人を、今は20歳から64歳までの約3人で支えていることになりますが、生産年齢人口の減少によって、2025年にはそれが1.8人に、2055年には1.2人で支えなければならないということになります。
(2)労働市場の二極化
労働市場は正規と非正規に二極化しています。2001年には3,640万人いた正規労働者が、今は3,355万人に減り、一方、非正規労働者は2001年に1,360万人でしたが、2010年には1,775万人と増えてきています。この1,775万人のうち1,000万人を超える方々の年収は200万円以下という実態にあります。
(3)労働組合の組織率と労働協約の適用率、ともに低率
日本の労働組合組織率は今18.5%です。また、日本の労働協約の適用率は、労働組合組織率とほぼイコールの関係にあり、労働組合のないところで働く人たちは、労働協約の適用を受けずに働いています。OECDの資料によれば、例えばフランスの組織率は7.7%ですが、労働協約の適用率は、労働協約の拡張適用が普及していて92.9%となっています。労働組合がなくても労働協約の適用を多くの人が受けられるので、労働組合をつくる必要がなく、組織率が低いのではないかとも言われていますが、日本は、そのような状況にはありません。国際的にみて、労働組合組織率も低く、労働協約の適用にも課題があります。
(4)皆年金・皆保険の崩壊
国民年金の第1号被保険者の内訳を示したデータによれば、本来被用者年金の被保険者であるべきフルタイム、フルタイムでない雇用者、完全失業者等の合計が約50%となっています。一方、国民年金保険料の未納者や滞納世帯が増えていて、国民年金保険の納付率が下がってきています。保険に入いっても保険料が払えない人が増えており、皆年金・皆保険の制度は崩壊し始めていると言えます。
(5)日本は「低福祉国」、そして「高齢者支援偏重型」
日本の社会保障支出は、OECDの資料によれば、GDPの26.1%で、アメリカの20.3%に次いで低く、日本は「低福祉国」であると言えます。ちなみに、同じデータによれば、ドイツは35.4%、スウェーデンは37.5%、フランスは39.4%となっています。
また、日本の社会保障は、人生の後半期に偏重していて、高齢者に手厚い社会保障制度と言われていますが、これを全世代支援型の制度に転換することが必要です。先ほどのデータから、各国の社会支出、税と社会保険料から支出される社会保障費の対GDP比をみてみたいと思います。ここで言う「社会保障」は、年金、医療、介護だけでなく、子育て世代への給付、雇用保険、職業訓練を含めた広い意味での社会保障です。日本では、年金や介護、保健(医療)の高齢者三経費と呼ばれるものの合計で20.9%になり、スウェーデンの21%に匹敵し、イギリスの16.9%よりも多くなっています。一方、子ども手当、保育経費など子ども関係支出をみると1.1%で、スウェーデンの4.5%、フランスの4.1%の4分の1程度しかありません。日本では女性の25歳から45歳の就業率が落ち込むため、労働力率が「M字カーブ」を示していますが、その原因の一つは子ども関係支出の低さにあると言われています。また、能力開発や就労支援などの積極的労働市場政策の支出なども日本では0.2%しかありません。
4.「働くことを軸とする安心社会」とはどのような社会か
(1)安心社会のかたちと仕組みのイメージ
次に、「働くことを軸とする安心社会」とはどういう社会なのか、説明したいと思います。
現行の社会保障制度を前提とすれば、今後の人口構成の変化のもとでは、負担を増やすか給付を減らす、あるいはその折衷案しかありません。連合が提起した、「働くことを軸とする安心社会」では、全く違う政策パラダイムを提案しています。それは、労働人口を増やそうというもので、これまで出産・育児などで労働市場への参加が困難であった女性や、高齢者、若者が希望すれば働くことができる社会の実現をめざした政策を提案しています。
「働くことを軸とする安心社会」では、「働くこと」を中心に位置づけています。この「働くこと」には、会社で働くだけではなく、自己実現や、「きずな」「つながり」「支え合い」に携わって働くことも含んでいます。そして、生活保護などのセーフティネットの上に、支援型・補完型の「第2のセーフティネット」をつくることで、労働市場に戻ってこられるようにしています。また、働くことへの参加支援・参加保障として、介護支援、高等教育、職業訓練、職業紹介、就労コンサルティング、均等待遇、保育サービスなどの仕組みを掲げ、働くことを通じ「活力ある社会・経済」にしていこうと考えています。
(2)働くことに結びつく5つの「安心の橋」を架ける
連合がめざす安心社会には、雇用につながる5つの安心の橋が必要であり、その1つ目は、例えば、パワーアップのための教育など、教育と働くことをつなぐための橋です。
2つ目は、家族と働くことをつなぐ橋です。出産や子育て、介護などで企業を辞めなければならない人が、もう1度働くことができるようにする必要があると考えています。
3つ目は、雇用と雇用をつなぐ橋です。非正規雇用から正規雇用に変わることも含め、自分の人生に合わせて自分の意志で働き方が選択できるということです。
4つ目は、失業から就労へつなぐ橋です。失業したらそれで終わりではなく、職業訓練などで再び就労へつなぐ橋を架けるというものです。
5つ目は、生涯現役社会をつくる橋です。定年退職以降も雇用に就ける、地域で今までの経験を活かすなど、退職と雇用をつなぐ橋を架けるというものです。
連合は、働く人がその時々に抱えている課題を改善しながら、生涯にわたって働き続けられるよう、5つの橋を架けていこうと提言しています。
(3)ディーセント・ワークの3つの要件
連合は、働くと言っても、その働き方は「人間的で誇りの持てる」ものでなければならないと考え、「ディーセント・ワークの実現」を提起しています。
このディーセント・ワークの3要件は、「仕事の価値に見合った所得」「ワークルールの確立」「ワーク・ライフ・バランス」です。例えば、「仕事の価値に見合った所得」とは、生活の安定を得るに足る所得ということです。今、中央最低賃金審議会が開かれ、各県の最低賃金の審議が行われています。今は全国平均で730円程度ですが、1時間730円で年間2,000時間働いても、年収は150万円にもなりません。日本の11県は、最低賃金で働いて得る金額が、生活保護の金額よりも少ない実態にあり、最低賃金を引き上げなければなりません。連合では、最低賃金を早いうちに800円、そして1,000円に上げていこうという取り組みを進めています。
5.労働運動に求められる役割と責任
(1)「働くことを軸とする安心社会」を支える基盤
「働くことを軸とする安心社会」を支える基盤には、「有効で分権的で信頼のおける政府」、「公平な負担による分かちあいの社会」、「地球環境保全とグリーンジョブの創出」、そして「企業の社会的責任と健全な労使関係」が必要です。連合は、これらの基盤の担い手である政府、企業、そして労働組合に、それぞれの役割と責任を訴えています。
また、労働運動に求められる役割と責任として、労働組合の組織率について申し上げたいと思います。2010年の調査によれば、従業員1,000人以上の大企業で雇用されている人は1,108万人、1,000人未満の企業では1,346万人、99人以下の企業では2,425万人となっています。一方、その組織率は、従業員1,000人以上の大企業では46.6%、1,000人未満の企業では14.2%、99人以下の企業では1.1%と、小さな企業になればなるほど、労働組合は組織されていません。そこで連合は、特に1,000人未満、100人未満の企業での労働組合づくりに力を入れています。労働組合があれば、集団的労使関係を通じ、企業と公正な富の分配について交渉を行うことができます。
(2)「働くことを軸とする安心社会」をいかに目指していくか
連合では、あらゆる政策・方針を「働くことを軸とする安心社会」を念頭に策定しています。そして、私たちがめざす社会像の共有化にむけて、政治、行政、教育者・研究者、マスコミなど、社会各層との対話活動を促進し、社会へのアピールを行っています。
具体的な取り組みでは、「働くことを軸とする安心社会」実現にむけた「2012-13 政策制度 要求と提言」の取りまとめ、高齢者に偏っている社会保障を全世代型の社会保障に変えていくとした「新・連合21世紀社会保障ビジョン」の提言、さらに、社会保障を支える安定財源のあるべき姿を示した「第3次連合税制改革基本大綱」の取りまとめなどを行いました。あわせて、連合運動の方向性を議論する「第3次組織財政確立検討委員会」では、地域に根差した労働運動を強化する観点から検討を行いました。
また、2009年8月に民主党が政権政党になって以降、政府との間では「政府・連合トップ会談」を行い、政府の予算編成や重要政策、連合の政策制度などについて意見交換を行っています。また、トップ会談の下に「政府・連合定期協議」があり、枝野官房長官と私や逢見副事務局長も出席して、1カ月に1回程度の協議を行っています。一方、経営者団体である日本経団連、商工会議所、経済同友会とのトップ懇談会でも、それぞれの政策で共通する内容については両者で提言を行っています。そのほか、各省庁との「政策協議」や、民主党をはじめ自民党、公明党など、共産党を除く各政党とも意見交換をさせていただき、連合の政策について理解を求めています。審議会を通じた法改正の取り組みでは、先ほどふれた中央最低賃金審議会以外にも、さまざまな審議会があり、それぞれの場で連合の考えを訴えています。私からは以上です。
【シンポジウム】
逢 見:ここからは、修了シンポジウムということで、皆さんの質問などを受けながら進めていきたいと思います。私は先々週の講義を担当しました副事務局長の逢見です。
今、南雲連合事務局長から「働くことを軸とする安心社会」についての説明がありました。まずは、その説明に関する質問をいただき、その後、連合寄付講座の全体を通じた質問、コメントなどをいただきたいと思います。そして、最後にまとめとして南雲事務局長から皆さんへのメッセージをお願いしたいと思っています。
第2回の講義では、岡部教育文化協会理事長も「働くことを軸とする安心社会」について説明し、受講生の皆さんから、「『働くことを軸とする安心社会』が実現すれば、より生活しやすくなると思うが、具体的にどう達成していくのか」、「どのように『安心の橋』を架けるのか、行政と民間が協力し合う新しい公共はうまくいくのか」、「『働くことを軸とする安心社会』というスローガンは共感できるが、大震災後の今、果たしてこうした社会を築くことができるのか」などの質問や感想が寄せられました。まず、これらについて南雲事務局長にお答えいただくこととします。
南 雲:確かに「安心の橋」を架けることは、非常に難しいことです。しかし、政権交代が実現し、連合が応援してきた政府が樹立されたことによって、働くことに関わる社会保障制度は充実しつつあります。先ほど、生活保護と失業保険との間の「第2のセーフティネット」にふれましたが、その具体策である「求職者支援法」が、この5月の通常国会で成立し、恒久化されました。これは、失業給付が打ち切られた以降も、職業訓練を受けられるよう支援していくものです。また、最低賃金についても、政府・連合・経団連の3者合意により、早いうちに800円、そして1,000円を目指すことについて取りまとめを行いました。そういう意味では、少しずつではありますが、「安心の5つの橋」となる政策を、一歩一歩確実に実現させていきたいと思っています。
問題は財源です。新聞報道でご存じの方もおられると思いますが、政府は社会保障と税の一体改革という論議を始め、6月末には、2010年代半ばに消費税を上げていくことを決めました。連合は消費税については、社会保障のための目的税、つまり使途を限定した上で増税することを提言しています。東日本大震災を理由に、社会保障と税の一体改革を先送りすることはできません。連合は、厳しくても両方ともにやっていかなければならないと考え、被災地の再生復興に向けた取り組みと合わせて、連合の求める政策を訴えているところです。
逢 見:私からは震災と新しい公共という点についてお話ししたいと思います。阪神淡路大震災があった1995年は、「ボランティア元年」と言われ、これを契機に、ボランティアやNPOの活動をもっと社会的に認知し、支えていこうという機運が出てきました。しかし、中央政府の壁は非常に厚く、NPOを法人化するための法律をつくるには至りませんでした。その時、皆さんの先輩の市村浩一郎さん、彼はいま国会議員になって国土交通政務官をやっていますが、この市村さんが兵庫県に入り、震災の時のボランティアの姿をみて、NPO法をつくりたい、そのために自分は政治家になりたいと思い、ずっとNPO問題に取り組んできました。その後NPO法はできましたが、NPO自体は国民の皆さんからの寄付金を活動資金に社会活動を行うわけですが、その寄付金がなかなか集まりません。集まらない理由の一つに官僚の壁もありました。寄付金を非課税扱いにすれば、企業や個人は寄付の部分を税金から引いてもらうことができます。しかし、財務省は、そう簡単には税控除させないという対応で、そのためNPOをつくるハードルも高く、なかなかNPO活動が広まりませんでした。そこで今度は、税額控除をしやすい仕組みにするためのNPO法の改正により、アメリカよりも進んだ画期的な仕組みができたのです。これは3,000円寄付している人が100人いれば、税額控除の資格がとれるという仕組みです。しかも、税額控除ですから、自分の所得税額が決まった後に寄付を申告すると、そこから税額を引いてくれる仕組みです。寄付する側から言えば、納税か寄付かを選択ができる仕組みができたことになり、来年以降、おそらく画期的に変わってくると思います。
こうしたNPOは、今後「新しい公共」の担い手になります。今までのように、税金を払って政府にやらせるだけではなく、自分たちでNPOをつくり、寄付を集め、それを活動資金に社会活動をすることが可能になります。今回の東日本大震災は、それを更に普及させるひとつの機会となると思います。そういう意味で、少しずつではありますが、世の中は変わりつつあると言えるのではないかと思います。
受講生の皆さんから、今日の南雲事務局長の講義について質問はありますか。
学 生:「安心の橋」構想はすごく良いと思いましたが、日本人だけを対象に考えているのではないでしょうか。例えば、日本人の雇用を守るため、海外からの労働者の受け入れは考えていないのか、外国からの労働者の施策について、お聞きしたいと思います。
南 雲:今、日本では年収200万円以下で働く人が1,000万人を超えています。まずは、この状況をなんとかしなければと思っています。その観点からは、外国人労働者は受け入れない方がいいと言えるかもしれません。現在連合では、外国人労働者の問題に関しては、高度な技術、高度な資質を持った人は受け入れても良いのではないか、そうした方々にはポイント制によって国籍を付与しても良いのではないか、こうした検討を行っています。しかし、例えばそうした人が食事を担当する人を一緒に連れてきた場合、その人たちの社会保障をどうするかという課題も生じます。したがって、今の段階は、まず日本の雇用実態をふまえた社会保障制度、全体的な制度づくりに取り組むべきではないかと思っています。なお、外国人労働者への対応に関しては、逢見副事務局長からお話しします。
逢 見:日本では、大学教授やプロ野球選手など、有資格者や優れた力量を持った人たちは、以前より働くことができましたが、しかし、日本の労働市場にとっては非常に限られた人たちでした。そうした中で、バブル経済の時代に人手不足が生じ、経済界から、もっと外国人を受け入れられるようにすべきという主張が非常に強くだされました。しかし、私たちは、慎重であるべきだと主張し、妥協の産物として、ブラジルなどにいる日系の人たちは、日本国籍を持つ人たちの子孫であり、受け入れてもよいということにしました。それから、技能実習でくる人たち、あるいは留学生が学業のかたわらアルバイトをすることなどは認めることとしました。その後、経済状況の変化で人手不足は解消したものの、外国人は徐々に増え、技能実習生が研修という名目で低廉で安上がりな労働力とされてしまう問題が生じ、技能実習での座学の実施や、最低賃金の適用など、見直しを進めました。
一方、高度な技能を持つ労働者を増やすためのポイント制が考えられています。
学 生:社会保障の安定化にむけて消費税を上げていくことは、やむを得ないと思っています。しかし、例えば、法人税や所得税などの累進課税によって、公正な再分配を実現させるという道もあると思うのですが、それに関してはどのようにお考えでしょうか。
逢 見:景気変動によって増減する法人税とは違い、消費税は安定財源と言えます。社会保障の安定化にむけては、先ほどの説明にあったように、人口減少社会のもと、それを支える者と支えられる者の比率が、やがては1対1になるだろうと言われており、安定財源としての消費税は非常に魅力がある財源です。ただし、消費税の逆進性をどうするかが課題となり、私たちは、消費税は上げる必要があるが、給付付き税額控除制度という形で、所得が低い人たちには税金を還付する仕組みをつくるべきだと考えています。
法人税については、産業界から、国際的にみて高すぎるという批判が強く出ています。日本の法人税が高いということは間違いないと思いますが、世界的にみると、グローバル競争の中で法人税の引き下げ競争が起こっています。「我が国に工場を造って欲しい。そのためには法人税は一定の期間ゼロにする」という国もあり、例えば、タイ、マレーシア、シンガポールなどは、外国企業を誘致するためのインセンティブとして法人税を使おうとしています。私たちは、例えば、国際競争上、法人税を下げるとしても、下がった部分を企業は国内投資に使うよう主張しています。
所得税については、応能負担という考え方です。所得の多い人の負担は多く、低い人は少なく、全体として所得を再分配するという考え方です。これまでの日本の税制はフラット化が進み、所得再分配機能が弱まっています。そこで、これをもう1度元に戻すため、所得の高い人の最高税率を上げ、所得再分配機能を高めていきたいと思っています。これは先ほど説明のあった「第3次連合税制改革基本大綱」の中にも入っています。
それでは最後に、南雲事務局長から、皆さんへのメッセージをお願います。
南 雲:今日はどうもありがとうございました。私にとっても大変良い経験となりました。皆さんには、3年後、または5年後に自分はこうありたい、こうなりたい、という目標を持って、毎日を過ごしていただきたいと思います。必ず5年後にエベレストに登る、富士山に登る、そういう事でもよいと思います。また、将来企業の社長になる、そのために努力する、それも大変重要な目標だと思います。
それぞれの目標にむかう道筋は、皆さん違うと思いますが、皆さんには、自分のためになる、手助けをして下さる方々がそれぞれいます。身近にいる方、学生時代の友人など、さまざまな方々から受ける影響も大変重要なものだと思います。
ぜひ、目標を持っていただき、卒業後の人生を振り返ったとき、楽しく素晴らしい人生だったと思えるようにしてください。私もこの9月末で東京電力を定年退職いたしますので、その後の人生にむけて何をしようか、いま夢中で考えています。また皆さんとお会いすることができれば、私のその後の目標をお話しする時間を持ちたいと思っています。
皆さんもぜひ頑張ってください。ありがとうございました。
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