はじめに~公務労協とは
みなさん、こんにちは。公務公共サービス労働組合協議会(以下公務労協と略記)という国家公務員や地方公務員、政府関係法人の労働組合が集まった大産業別組織(大産別)で仕事をしている大塚です。私は、筑波大学の社会学類(学部に相当)を卒業後、全農林労働組合(農林水産省の労働組合)に就職しました。全農林労働組合では、国家公務員の賃金、行政改革、公務員制度改革、農政を担当してきました。また、公務員関係の各組合が集まった公務員共闘という社会党系労働組合の共闘組織で、賃金専門委員会の担当をしてきました。
公務労協は、2003年10月に連合加盟の公共部門の労働組合協議会として結成されました。事務局は、事務局長と3名の副事務局長の専従役員と4名の職員で運営しています。公務労協には2つの部会があり、その1つである公務員部会は、公務員の賃金や労働条件について政府・総務省、人事院と交渉を行っている、公務労協の中核部隊です。もう1つの国営関係部会は、国営企業、すなわち印刷や造幣、国有林野事業の労働組合で構成されています。
公務労協の加盟組織は、自治労、日教組、国家公務員の組合である国公連合、都市交、全水道、国有事業の林野労組などです。JP労組は、民営化後はオブザーバーで加盟しています。組織人員は約130万人です。日本の労働組合全体の組織率は18.5%ですが、公務公共部門は60%程度の組織率になっています。ただし、公務部門も民間と同じように、非正規労働者が大幅に増えており、非正規労働者の組織化が課題になっています。
1.「新しい公共」とは何か
(1)組織強化・拡大
まず、「新しい公共」とは何かについてふれたいと思います。2009年10月に鳩山内閣総理大臣が行った所信表明演説では、「『新しい公共』とは、人を支えるという役割を、『官』と言われる人たちだけが担うのではなく、教育や子育て、街づくり、防犯や防災、医療や福祉などに地域で関わっておられる方々一人ひとりにも参加していただき、それを社会全体として応援しようという新しい価値観」と定義しています。また、内閣府のホームページでは、新しい公共に「New Public Commons」という英訳がついています。同じような言葉に「New Public Management」という用語がありますが、こちらは新自由主義が世界的に流行した1980年代に唱えられた概念で、当時のイギリスはサッチャー政権、アメリカはレーガン政権、日本は中曽根政権でした。日本では、1981年に第二次臨時行政調査会が設置され、東芝の会長であった土光敏夫さんが調査会長となって、1983年には電電公社や国鉄、専売公社の民営化を答申しています。この「土光臨調」では、効率性概念の大きな転換が行われました。それ以前は、効率性が確保できない、そもそも効率性を追求すべきではない分野は公務員、官が担うと考えられていましたが、土光臨調以降、小さな政府をめざした行政改革により、公務部門でも効率性が徹底的に追求されるようになりました。
新しい公共は、こういった話とは全く別の概念で、「Management」ではなく「Commons」と訳しています。 Commonsは、そもそもは“誰でも利用できる放牧地”という意味で、個人に属さない領域という意味があり、国民生活を支える公共サービスと言い換えて良いと思います。
このCommonsは、行政や公務員だけではなく、国民それぞれの立場で支え合おうという、新しい公共を意味していますが、ここで注意してほしいのは、小泉内閣の時に強調された「自己責任」論との関係です。新しい公共では、行政すなわち国や自治体の公共サービスに対する責任逃れの意味で、自己責任の名のもとに責任を国民に押し付けてはいけないということを強調しておきたいと思います。
(2)2010年「新しい公共円卓会議」による宣言
2010年、内閣府に「新しい公共円卓会議」が設置され、6月に「新しい公共宣言」が行われました。その中では、新しい公共は当事者たちの協働の場であり、国民、企業、政府などが一定のルールとそれぞれの役割をもって参加し協働する、そのルールを協働してつくることが、新しい公共をつくることだと宣言しています。また、宣言は、新しい公共の主役は国民であるとし、企業には、社会貢献活動やメセナ活動を通じた社会との関係の重要性を認識するよう求めています。政府には、公共の核となる部分を委任されていることの自覚や担い手間の協力関係の検討、国民が決める社会の構築に向けた具体的な方策を求めています。その後、2010年10月には「『新しい公共』推進会議」が設置され、このようにして、「新しい公共」の概念が決まり、取り組みが推進されつつあります。
(3)2009年「社会的責任に関する円卓会議」は、新しい公共の実践版
2009年3月に、麻生内閣のもと「社会的責任に関する円卓会議」が発足しました。メンバーには、事業者団体、消費者団体、労働組合、金融セクター、NPO・NGO、政府、専門家など、各ステークホルダーの代表が集まっています。この会議は、民主党政権になっても継続され、2010年5月には、「私たちの社会的責任宣言」が出されています。この会議は、いわば「新しい公共」の実践版と言え、協働の場ということで、会議事務局が委員を指名するのではなく、それぞれの団体が自ら代表を選んで参加しています。課題の設定、取り組みはそれぞれの団体が行い、政府も参加者の一員として課題を設定し、自ら取り組むこととしています。ただし、政府は、協働のための環境整備という責務を果たすという点が他の団体とは異なっています。この協働の場は、「新しい公共」のルール、役割・調整の協働の場になっています。
2.日本の政府の大きさ~巨額の財政赤字にかかわらず「小さな政府」であること~
次に日本における政府・行政サービスの大きさが世界的に見てどういう位置にあるのかを確認したいと思います。
(1)政府の歳出規模や機能別の歳出割合の比較から
国、地方ともに巨額の財政赤字を積み重ね、約900兆円になっていますが、実は日本政府は政府の大きさとしては小さい政府といえます。では、どうして赤字になっているのかというと、歳入が少ないことに尽きます。そのことを具体的資料に基づいてみていきたいと思います。OECD(経済協力開発機構)が2年ごとに公表している統計資料によれば、一般政府歳出規模のGDP比較では、日本は貧困大国と言われているアメリカ並みに小さい政府になっています。2009年のデータでは、日本は37.1%、アメリカが42.2%という数値になっていて、日本は相変わらず小さい政府です。
次は、2006年の一般政府の機能別歳出のGDP比較で社会保護の規模をみてみます。社会保護とは年金・医療・生活保護を一括した概念です。日本の生活保護は、2006年当時110万世帯でしたが、実際には、貧困状態にあっても給付を受けていない世帯が相当多く、貧困が放置され、その結果社会保護費の割合が諸外国の中で一番小さい数値になっています。
(2)公務員の人件費や数の現状から
さらに、公務員の人件費比率のGDP比較では、日本は1997年以降デフレ経済が継続し、公務員給与は下がってきており、2007年以降も引き続き下がっています。また、今国会で国家公務員の給与を引き下げる法案が提出されていて、これが成立すれば更に下がります。他のOECD諸国でも、今年あたりから公務員給与の引き下げが言われはじめ、アメリカでは軍隊と議会を除き2年間の昇給停止、フランスでは3年間で10万人削減、イギリスは6年間で60万人削減などが言われています。
しかし、日本以外はデフレになっていないことから、人員が削減されても給与自身は上がっています。全体としては日本の公務員の人件費比率の低さは明らかで、2009年のGDP比較では、日本は6.1%、ドイツは若干上がって7.4%、アメリカが11.0%です。ちなみにOECD33カ国平均は11.2%です。
また、日本の雇用者に占める公務員・公営企業雇用者の割合は最低で、アメリカの半分にも満たないという状況にあり、医療、教育、交通などの公共サービスが、民間企業によって相当程度担われている実態を示しています。
先ほどの鳩山総理の所信表明演説では、新しい公共は、官と言われる人たちだけが担うのではない、とのことでしたが、すでに多くの公共サービスが民間によって担われているというのが現実です。そういう意味で、官はすでに、公(おおやけ)に開かれており、新しい公共円卓会議が言うところの「政府は公共の核になる」ことが委任されているのか否かも、実は怪しいということになります。
日本では、国民生活を支える公共サービスは、公務員のみならず民間企業やNPOなど様々な人々によって担われ支えられている、そういう状況の中で公務員や公務員組合はどういう役割を果たしていくべきか、私たちは、公共サービスの実態を踏まえ、担い手のベストミックスを提起したり、公共サービス提供のコーディネーターとしての役割を果たすべきではないかと、この10年来考えてきました。以下では、その取り組みを報告します。
3.公務労働、公務・公共部門労働組合の役割
(1)公務労協構成組織の制度政策活動
公務労協の構成組織は、何らかの形で行政・公共サービスを担っているという意味で、「新しい公共」においても、その一翼を担うことになります。「新しい公共」の中には「古い公共」も当然あります。公共サービスは、その責任において官が引き受けるのが当然という思想があり、こうした「古い公共」の考え方には根強いものがあります。公務・公共部門の労働組合には、担い手は多様になっているものの、官優位の発想からどうしても抜けきれない、ベストミックスと言いながら、本来は公務員がやるべきだが民に任せている、という考えが残っているのではないかということです。また、コーディネーターという言い方にも、一段の高みからものを見るようなニュアンスがあり、限界もあったのではないかと思っています。さらに、労働組合の内部には、新しい公共に対しては、国や自治体の責任を放棄しているのではないか、国民に責任を押し付けるのではないか、という批判も根強く残っています。
こういった私たちの限界を突破させる取り組みが、このあと紹介する「良い社会をつくる公共サービスキャンペーン」です。その成果が「公共サービス基本法」の制定と、公共サービス基本条例及び公契約条例制定運動につながっていると思っています。
一方、公務労協の各構成組織は、おそらく結成以来はじめての取り組みとして、自らが担っている行政・公共サービスの改善・充実を求め、制度政策闘争に取り組んでいます。これは、国会や自治体が制定する法律や条例を施行する立場ではなく、生活の現場で直接国民・住民に接しているという立場、あるいは労働組合という立場で、国民・住民のニーズをくみ取り、それに基づいてより良い行政サービスの実現をめざす、そういう取り組みを進めています。その具体的な事例で私が直接関わったのは、国公連合・全農林のアフリカ救援米運動です。市民の参加を得て休耕田を使ってコメをつくり、アフリカのマリ共和国に送りました。コメをつくるまでは、大きな苦労はなかったのですが、問題はコメの輸送費のカンパをどうやって集めるかということでした。アフリカまで船で運ぶには、数百万円単位のお金が必要になります。アフリカ救援米運動の中心は、輸送費カンパ運動となり、それぞれの組織がこの運動に取り組みました。
(2)公務労協の「良い社会をつくる公共サービスキャンペーン」
公務労協は、2004年11月に「良い社会をつくる公共サービスを考える研究会」を立ち上げました。当時東大教授だった神野直彦教授に座長をお願いし、2006年11月に最終報告を取りまとめました。報告書の「良い社会の公共サービスを考える」のサブタイトルは、「財政再建主義を超え、有効に機能する『ほどよい政府』を」とされています。小さな政府、あるいは大きな政府をめざすわけではないとして、「ほどよい政府」という表現にしました。また、報告の最後では、「日本社会の市場経済の持続的発展のため、公共サービスの水準とあり方に関する基本法(公共サービス憲章)制定」という目標を掲げました。
公務労協は、この報告を踏まえ、公共サービス憲章の制定を求めた請願署名に取り組み、330万筆の署名を集めて国会請願を行いました。この運動は、2009年の超党派全会一致による公共サービス基本法の制定につながりました。なお、基本法制定の背景には、格差社会が一層深刻になる中、2008年のリーマン・ショックの余波もまだ冷めていない時期でもあり、公共サービスの重要性が再認識されたということがあったのではないかと思います。
ところで、公共サービスに関しては類似の法律があります。「市場化テスト法」、あるいは「公共サービス改革法」と呼ばれるもので、2006年、小泉内閣の構造改革において打ち出され、競争原理を導入し、公共サービスをできるだけ安く提供しようという目的でつくられました。しかし、その3年後の2009年に、今度は良質な公共サービスを国民に保障していくという基本法が制定されたことで、この流れも変わったと言えます。
しかし、この基本法が通った理由の1つに、基本法が政府になんら実体的な義務を課していないことがあります。あくまでも理念法であり、この法律の制定によって政府が予算をつけなければならないことまでは定められていません。その点では、箸にも棒にも掛らないから成立したのだという、皮肉な見方もできないわけではありません。
(3)公共サービス基本法の概要とその課題
公共サービス基本法(以下、基本法と略記)では、公共サービスの定義を「国民の日常生活及び社会生活を円滑に営むために必要な基本的な需要を満たすもの」とし、国や自治体の事務・事業、国又は地方公共団体が行う規制・監督等を明記しています。電力事業や私鉄、バスなどの交通事業、通信事業などは含まれていませんが、これらは、電気事業法、道路運送法、鉄道事業法、電気通信事業法などでそれぞれは規制されていることから、国・自治体の事務・事業に限定したということです。
公共サービスに関しては、国、自治体が果たしている割合より、民間企業やNPOが果たしている割合の方が大きい実態にありますが、公共サービス基本法は、民間企業やNPOを含んでおらず限界があります。この点については、あとでご紹介する基本条例では、民間企業やNPOをカバーする仕組みを設けているところです。
基本法の内容に戻りますが、基本法では、国民の権利として、ニーズの保障、情報を与えられる権利、健全な環境で生活する権利など8項目を定めています。これは、「消費者基本法」を参考にしています。ちなみに、この消費者基本法は、もとは消費者の権利を保護する「消費者保護法」でしたが、原口一博衆議院議員による議員立法で、消費者の権利を定める法律に改められました。実は基本法も原口議員のご尽力で成立したという経過があり、私をはじめ公務労協の担当者は、原口議員とともに条文を詰める作業を行い、基本法として日の目を見たという経過もありました。
さらに基本法では、国と自治体の責務を定め、民間に委託する場合もあることから、その場合の従事する者の責務と従事者に対する労働環境の整備を定めています。この労働環境の整備については、あとでご紹介する、公契約条例の適正な労働条件の確保という規定と同様な意味を持たせているところです。そしてこれらが相まって、基本法の目的は、国民が安心して暮らすことのできる社会の実現に寄与することとしています。
しかしながら、この法律はあくまで理念法であり、この理念に基づいた具体的措置に結び付けなければ意味がないことになります。そこで、労働組合には2つのことが求められました。1つ目は、各構成組織は、自ら担っている事業の改善について、この基本法を使ってパワーアップを図っていくこと、2つ目は、公共サービスは地域や生活の場で提供されるものであることから、理念法の限界を突破するものとして、自治体で基本条例を定める必要があることです。
(4)公共サービス基本条例(骨子案)のポイント
公務労協は、2009年頃からはじまった新しい公共の議論とは別に、基本法制定に取り組み、さらに基本条例の制定をめざしてきました。この基本条例における地方自治体、地方公務員が果たすべき役割が、今日のテーマである新しい公共における公務労協の役割ということになってくると思っています。
そこで、私たちがめざしている基本条例の骨子案をご紹介します。この骨子案は、基本法の骨格と同じつくりになっていますが、その内容において3点ほど異なっています。
その1つ目は条例の目的で、骨子案はすべての公共サービスを対象にしています。基本法は、国および自治体の事務・事業に限定していますが、公共サービスは官だけが担っているわけではなく、すでに新しい公共の局面に入っていることを前提に、骨子案では、民間企業やNPO等が担う公共サービスも対象としています。また、公共サービスの定義でも、そのことを明確にしているところです。
基本法と異なる点の2つ目は、地方自治体の責務を具体的に定めていることです。情報公開、苦情対応、市民会議からの提言への応答、NPO等による公共サービス実施の支援など、9項目を定めています。この点について基本法は、国や自治体の責務は抽象的に書くにとどまっており、ここが骨子案とは大きく異なっています。なお、地方自治体においては、これらの役割をきちんと果たし得る公務労働のあり方が求められ、公共サービス提供のコーディネーターの役割も求められることになると思います。
3つ目の相違点は、地域公共サービス市民会議の設置です。これが基本条例の肝となります。市民会議は、学識経験者、公共サービスを実施する者、市民などで構成し、公共サービスの調査と公表、公共サービスの実施者間の調整、改善政策のための提言を担うこととしています。また、市民会議は、公共サービスの実施について、自治体の長に改善等に関する意見を述べることもその役割としています。つまり、地方自治体は市民会議のアドバイスによってその責務を適切に果たしていくことになります。その意味で、この市民会議が地域における良質な公共サービス実施の肝になると思っています。
なお、市民会議の議会や審議会との相違点は、公共サービス実施の当事者が参加するということにあります。ステークホルダーも参加する、例えば、地域医療の課題であれば、国立・自治体立・民間の病院、開業医の代表、あるいは自治体の地域医療担当者、市民、利用者代表、学識経験者などが参加することになります。
自治体や公務労働者には、この市民会議を有効に機能させ、公共サービスの実施者として、コーディネーターの役割をきちんと果たしていくことが課題となります。さらに、もう1つ重要なことがあります。公共サービスの受け手である市民自身が会議に参加し、必要なサービスの創設、あるいは既存のサービスの改善、不要となったサービスの廃止などについて、声を上げていくことが大事であると思っています。時折、自治体トップが地域に行き、人を集めて意見を聞いていることが報道されますが、地域のボスが勝手なことを言う場になってしまい、1~2回やっていくうちに尻すぼみになり成果なし、ということがよくあります。そのようにしないことが大切です。
一方、基本条例は、良質な公共サービスを自治体レベルで確実に実施していくため、理念にとどまらない市民参加の具体的枠組みなどを提案していますが、大きな限界もあります。基本条例が制定されただけでは、公共サービスの具体的な改善につながりません。基本条例は、それでどうなるのか、何が変わるのかという疑問に正面から答えきれておらず、地域公共サービス市民会議の審議、実際の対応次第といったところがあります。また、公務労協では、この一年余り条例制定運動に取り組んできましたが、未だに一県たりとも制定に至っていないというのが実態です。
(5)車の両輪として取り組む公共サービス基本条例と公契約条例の制定
今年公務労協は、こうした実態を踏まえ2つの新たな取り組みを進めています。1つは、地域公共サービス市民会議のベースになるものとして、都道府県ごとに公共サービス基本条例制定を求める「県民の会」をつくるための取り組みです。2010年、すでに秋田で結成され、今年は福岡と徳島での結成に向けて取り組みを開始したところです。
もう1つは、直接成果が見える取り組みとして、公共サービス基本条例制定と公契約条例制定運動を車の両輪として取り組むことです。公契約条例は、すでに千葉県野田市、神奈川県川崎市、都内では、西東京市、国分寺市、多摩市、小金井市、八王子市、羽村市、世田谷区、他に札幌市、我孫子市、横浜市、相模原市、西宮市、高知市で制定されました。また、長野、鹿児島、沖縄の各県でも具体化されつつあります。ところで、公契約条例とは、国や地方公共団体が民間企業やNPO、指定法人に公共工事や物品の購入、あるいは会館の運営、ゴミ収集、ビルメインテナンスなどの業務を委託するときに結ぶ契約を言います。国や自治体の責任として提供すべき公共サービスの多くは業務委託されており、そこでは、委託先の適切な労働条件の確保が課題になっています。
公契約の入札は、一般競争入札が原則ですが、適用範囲が拡大する中、安ければ良いという風潮になっており、受託する方も、仕事がどんどん減っていて、背に腹は代えられないこともあり、ダンピング入札が頻発しています。こうした中、2006年に国分寺市でゴミ収集のダンピング入札の結果、入札した企業が賃金未払いや従業員解雇を引き起こし、ゴミ収集作業が止まってしまい、結局、自治体職員が対応したという問題が発生しました。賃金も最低賃金ぎりぎりのワーキングプア状態であることも問題視されました。
公務労協は、こうした実態から、公共サービスの着実な実施の保証と、適正な労働条件の確保を求めて、公契約条例の制定に取り組んでいます。2011年6月11日には連合東京の主催で、多摩市で公共サービス基本条例と公契約条例をめざすシンポジウムが開催され、多摩市長と千葉県の野田市長も参加されました。
野田市は2009年9月、全国ではじめて公契約条例を制定し、2010年度から実施しています。この条例の適用対象は、建設工事は1億円以上、業務委託は1千万円以上とし、賃金は野田市の用務員の初任給の時給換算829円に設定しています。ちなみに千葉県の法定最低賃金は745円です。シンポジウムでは、野田市長から、その後賃金を看護師は991円、保育士は1,031円、その他の職種別の基準も改正したというお話がありました。なお、川崎市は6億円以上が公契約条例の対象ですが、野田市長からは、6億円では敷居が高く公契約条例の適用範囲が狭くなってしまう懸念が表明され、野田市は、2011年9月に1億円を5千万以上に引き下げる改正を行うという意思表明がありました。ちなみに、条例制定の方法は野田市と川崎市では異なっており、野田市は新しく公契約条例をつくり、川崎市は既存の契約条例を改正しています。
私自身は、必要な条項を盛り込む限り、いずれの方法でも良いのではないかと思っています。このシンポジウムの概要については公務労協のホームページに載せていますので、興味のある方はぜひご覧いただきたいと思います。
以上です。ご清聴ありがとうございました。
▲ページトップへ |