一橋大学「連合寄付講座」

2011年度“現代労働組合論I”講義録

第7回(6/10)

働く現場の抱える課題と取り組み(5)
非正規労働者の組織化の取り組み~イオン労働組合の事例を中心に

ゲストスピーカー:水谷雄二(連合総合組織局長)

はじめに

 皆さん、こんにちは。私はジャスコ、現在はイオンというスーパーに1977年に入社しました。会社の仕事をしたのは6年少々で、その間、衣料品やインテリア、スポーツの売り場などを担当し、7年目に労働組合の専従になりました。入社当時、管理職から「若いうちは仕事を一生懸命やって、労働組合も頑張ってみろよ」と言われ、労働組合の世界に飛び込んだような気がします。その後2007年にイオン労連の役職を退任するまでイオン労働組合の活動に携わり、2007年11月からは連合で仕事をしています。
今日は、何故単組が非正規労働者の組織化に取り組むのかということについて、私がイオン労働組合で取り組んできたことをお話ししたいと思います。

 具体的な中身に入る前に、東日本大震災について連合の取り組みを少しお話しさせていただきたいと思います。ナショナルセンターである連合は、非常に大きな責任・役割を持った組織であり、3月11日の大震災以降、大きく4つの活動に取り組んできました。
1つ目は救援カンパです。連合組合員680万人の仲間に呼び掛けて、6月10日現在で30億円を超えるカンパ金を集めました。私の出身のイオンも、労使一緒になって6億円近いカンパ金を集めています。2つ目は救援物資の調達・移送です。47都道府県にある各地方連合会が支援物資を集め、現地に移送しました。そして、3つ目はボランティアの派遣です。4月1日から現在まで、延べ人数で約2,800人、1人が7日間活動するので、延べ日数では、ほぼ2万日近い活動をしています。しかも300人近い人数を常に送り続けていますから、期待と感謝の声が寄せられていると聞いております。4つ目は政府への要請です。雇用対策をはじめ、復興に向けた要請を政府に行っています。
このように、ヒト、モノ、カネ、そして政策という4つを一体的に実践できる民間団体としては、連合は最大組織であると自負しており、責任を自覚し活動を続けています。

1.非正規労働者の現状

(1)組織化とは
「組織化」とは労働組合のない企業で労働組合をつくることです。あるいは労働組合はあっても、すべての従業員が入っているわけではない場合、労働組合に入っていない人たちに、労働組合への加入を勧める活動を組織化と呼んでいます。ちなみに、この組織化という単語は、1TUC(国際労働組合総連合)や、ホワイトカラーの労働組合が加盟しているUNIなどでは、一つの国際的な共通語になっていて、「オー, ミズタニ,ソシキカ! ソシキカ!」とからかわれたことがあります。
組織化は労働組合活動の原点です。ただし、組織化はあくまでも手段です。組織化の目的は何か、これは今日のお話しの中でふれますので、是非皆さんにも考えていただきたいと思います。組織化は仲間をつくっていく、組織を拡大していくための活動ですが、何のために行うのか、組織化をする立場と組織化をされる立場によって、この目的は変わるのか、そのことも含めて是非考えていただきたいと思います。

(2)非正規労働者とは
まず非正規とは雇用形態上の区分のひとつです。一般に「有期」、「短時間」、「間接」のどれかにあてはまれば、非正規雇用労働者とみなされます。「有期」とは雇用契約期間に定めのある人を指し、例えば1年契約や半年契約で働いている人たちです。この人たちは非正規労働者と位置付けられています。つぎに「短時間」とは正規労働者の労働時間よりも短い人を指します。正規労働者の労働時間は、ほぼ1日7時間から8時間です。労働時間が正規労働者よりも短い人、パートタイマー、契約社員、準社員など会社によって呼称は様々ですが、こうした人たちも非正規雇用労働者とみなされます。次に「間接」ですが、企業によっては、雇用契約を結んだ直接雇用の正規労働者以外に、派遣労働者や請負労働者など、その企業の従業員ではない人も働いているところがあり、この人たちも、非正規雇用労働者と位置づけられます。しかし、この非正規という言葉はあまり良くありません。「正規に非ず」と言われると、自分たちを特別な人間のように感じてしまう人がいます。パートタイマーで働く人の中にも、非正規という言い方は失礼ではないかと言う人もいます。産業別組織によっては非正規とは言わず、「有期・パート契約労働者」と言っているところもあります。マスコミを含め、社会全体で非正規という言葉が一般的に使われていることから、連合も使っていますが、もっといい言葉があれば変えたいと思っています。
この正規・非正規とは、雇用形態の違いだけで、労働そのものには違いはありません。パートタイマーや契約社員であっても、同じ労働の質に変わりはない、労働組合として運動を進めていく場合には、常にそのことを考えておかなければなりません。

(3)急増した非正規労働者
近年、非正規労働者が急増しています。日本の雇用労働者数は全体で約5,400万人です。雇用労働者とは、企業などに勤めて給料を貰う人のことですが、このうち約1,700万人が非正規雇用労働者で、全体のほぼ3分の1です。ちなみに、私の家族は妻と4人の子どもですが、長女は正社員で仕事に就き、結婚で仕事を辞め、現在は派遣社員で働いています。次女は2年間教員試験に通らず、非常勤講師をしていました。三番目、四番目は昨年医療系の会社に勤めることができました。妻はパートで働いていましたから、私の家族は5人のうち3人が非正規と言われる働き方をしていました。皆さんの回りでも、家族や知人・友人を含めれば、非正規雇用で働いている方が多いのではないかと思います。非正規労働者の問題は、身近な問題であり、関心も持たなければならない課題だと思っています。
現在、全労働者に占める非正規労働者の比率は35.5%です。初めての就職で、非正規で働く人は43.8%です。私が入社した1977年当時は、正社員で働くのがあたり前でした。35.5%という数字は2010年の調査結果ですが、5年前の調査では32.6%でしたので、増加傾向にあり、一旦非正規で働くと、5年間はそのまま非正規だという人が約半分います。

(4)急増の背景
2000年代の初頭には、グローバル化を背景に政府は規制緩和施策を進め、企業の経営戦略も変わり、労働者派遣法の改正などにより、非正規労働者が増えてきました。経営が非正規を採用する理由は、人件費の節約と仕事の繁閑への対応が主な理由です。

(5)非正規労働者の質の変化
非正規労働者は数の増加とともに、質の変化も進んできました。つまり全体の3分の1まで増えた中で、非正規労働者の担う役割も変わってきました。
1つは「基幹化」です。これまでは補助的な仕事をする人が非正規労働者でした。しかし現在スーパーマーケットでは、パートタイマーが店長を担っている店舗が出てきました。小売店だけでなく、今はリン-ガーハットやガストでもパートタイマーが店長をしています。従来、店長は正社員が担っていましたが、今は非正規の皆さんもその役割を担い、大変重要な仕事をされています。そうなると、その役割や仕事に相応しい処遇をしているかが問題になりますが、人件費が安いからパートを雇う、ということであれば非常に問題だと思います。
2つ目は、主たる稼ぎ手である非正規労働者の増加です。今までパートタイマーの多くは、家計補助的な収入を得る人たちでした。しかし、企業が正社員を非正規に置き換えていく中で、正社員の働き口が少なくなり、非正規であるパートや契約、派遣で働く人が増えています。厚生労働省の調査では、2008年に初めて非正規労働者自らが家計の主たる稼ぎ手である人の数は、そうではない人を上回りました。
労働者派遣の質的変化も進んでいます。そもそも派遣労働者は、通訳のように専門的な能力を持った人に、一時的あるいは臨時的にその職を担ってもらうことを想定したものでした。ところが、今は企業が直接従業員を雇わず、派遣労働者を使うという、常用代替が進んでいます。
偽装請負は一時期より減ってはきたものの、まだなくなったわけではありません。「請負」とは、A社の一部業務をB社が請け負い、B社の従業員が業務を遂行することを言います。請負の場合、発注元は請負会社の従業員に指揮命令をする権限はありませんが、発注元が請負会社の労働者に直接指揮命令をしてしまうケースがあり、これを偽装請負と言います。経営者にとって請負のメリットは、労務管理や社会保険の加入などが必要なく、事故があった場合の労災責任も負わずに済むことなどにありますが、こうした責任逃れの偽装請負は、依然として大きな問題です。

(6)非正雇用問題は社会全体の問題
非正規労働者が増えることにより、格差が拡大し、貧困やワーキングプアの問題が顕在化してきました。最近では、高学歴ワーキングプアや官製ワーキングプアという言葉も出てきました。大学院を出ても講師のポストがないために、非常勤講師をしている人がいます。非常勤講師は1コマいくらで仕事をしています。そういう方から一度電話相談を受けたことがありますが、非常勤講師では月7万円程度の生活費しか稼げず、空いている時間は塾やコンビニでアルバイトをしているとのことでした。官製ワーキングプアは、県庁や市役所で働く非常勤職員や臨時職員が、低賃金で働いていることからつくられた言葉です。地方財政が厳しくなり、正規の公務員が雇えない中、臨時、非常勤職員が多数採用されるようになっています。賃金は低いのですが、仕事は正規雇用の公務員とほとんど変わりません。
非正規労働者にとって、「メンタルとしての居場所」が大きな問題となっており、このことは、特に派遣労働者について言えることです。派遣で働く人の中には、処遇の低さや福利厚生などは、あまり問題にしていない人もいます。彼らが一番辛いのは、正社員や直接雇用の人たちと同じ職場で働いているにもかかわらず、自分たちは疎外されていて、職場における自分の居場所がないと感じることです。例えば、数年前になりますが、秋葉原の歩行者天国で無差別殺人事件がありました。許してはならない事件ですが、この事件を起こした彼は派遣労働者でした。彼はブログの中で、職場では部品の様に扱われ、このまま自分が消えても代わりの部品が来て、何の変化もないだろう、と書いていました。
非正規労働者は、ただ雇用形態が違うだけで、労働そのものには変わりはありません。労働組合では、花見や忘年会、送別会、職場の懇親会などがあるときに、社員やパート、派遣という区別なく、職場の仲間として声を掛け合おうと呼びかています。
収入面では、年収200万円以下の人が全雇用労働者5,400万人の内1,000万人を超えました。「相対的貧困率」という言葉がありますが、これは1人あたりの年間所得を低い方から並べて真ん中(中央値)以下の人の割合、例えば中央値が400万円ならば、200万円以下の人の比率を表したものです。日本の相対的貧困率は先進国の中ではアメリカに次いで高く、約15%となっています。

2.連合の取り組み

(1)パート共闘の設置と非正規労働センターの設置
連合は、非正規労働者の現状と課題をふまえ、2006年にパート共闘を設置しました。これは、パートタイマーを組織化している産業別組織が集まり、連携をとって非正規労働者、特にパートタイマーの賃上げと組織化に取り組もうと立ち上げたものです。
その後、2007年には、パートタイマーだけではなく、派遣労働者も含めた非正規労働者の問題を連合の中心的課題に据えて取り組むため、非正規労働センターを設置しました。

(2)パート労働者の実態把握
2008年以降はパート労働者の実態把握を目的に、「パート労働者のつどい」や生活アンケートを実施してきました。パート労働者のつどいでは、約100名のパート労働者に集まっていただき、意見交換を行いましたが、その中で「正社員になりたいと思っていますか」という質問をしました。私は、処遇も上がり、やり甲斐も高まるから、全員が正社員になりたいと答えると思っていましたが、結果は半々でした。家庭の事情や、子どもがまだ小さく、正社員のように8時間は働けないという人もいましたが、「正社員を見ていると、重い責任を持たされ、毎日残業で疲れた顔をしている、あんな正社員なら、なりたくない」という答えが返ってきたときは、大変残念な気がしました。正社員が輝いていない職場では、パートタイマーの皆さんも正社員になりたいとは思わないというわけです。こうした状況は労働組合の責任でもあり、正社員が生き生きと働ける環境、職場をつくっていくことが労働組合の役割であり、それができていない現実を思い知らされました。
生活アンケートで労働条件などへの要望を聞いた回答では、「賃金や一時金などの改善」が一番多かったのですが、三番目に「教育の機会」があがりました。正社員にはセミナーや自分の知識や技能を高めるための教育の機会がありますが、パートタイマーにはあまりないのが現状です。イオンも同様でした。しかし、雇用形態に関係なく仕事に関する知識や技能を高めたいという気持ちは誰もが持っています。パートタイマーの皆さんにも教育の機会を与えていこうということで、イオンでもそういう場を多く持つようになりました。

3.なぜ単組が非正規労働者の組織化に取り組むのか

(1)単組が取り組む意義
イオン労働組合の活動理念は、イオンで働く従業員が生き生き働き、幸せになっていく、そんな企業をつくっていきたいということです。そのためには、イオンという企業が健全に成長していく必要があります。私は、企業内の労働組合は、従業員の幸せ実現と企業の健全な発展を考えることが第一義の活動であって良いと思っています。
そのためには、正社員かパートタイマーかに関係なく、すべての従業員が一丸となって企業活動に取り組まなければ、厳しい企業環境への対応や、従業員の不平・不満の解消、働き甲斐を阻害している要因を取り除くことなどはできないと思います。
流通業界は、1990年代後半から、冬の時代を迎えました。大手企業も含めた多くのスーパーの業績が厳しくなり、希望退職を募らなければならないような環境に追い込まれてきました。イオン労働組合として、何ができるのかを考えていたとき、あるグループ会社であるスーパーマーケットの総菜売り場で「事件」が起こりました。
総菜は地域によって微妙に味付けが違います。店長が総菜の売り上げが悪く、なぜ売れないのかを探るため、良く売れている競合店に行き総菜を買って食べてみました。そこで、自分の店の味付けと違うことに気づき、パートタイマーの皆さんに「うちの店の味付けは違うのではないか」と聞いてみたところ、「そんなことは前から解っていました」という返事が戻ってきました。パートの皆さんはその地域で生活をしていますから、地域の味付けを解っていて、解っていなかったのは転勤族の店長だけだったわけです。私は、おそらく店長の意識の中に、パートタイマーから意見を聞く発想がなく、心の中に「パートのくせに」という意識があったのではないかと思いました。パートの皆さんにも、「店長に嫌われてまで言いたくない、時間通り働いて言われたことをして給料を貰えばいい」という意識があったそうです。私は、流通業が非常に厳しい時代にあって、このままではいずれイオンも厳しい状態にのみこまれてしまうと思い、こうした意識の壁を取り壊すには組織化しかないと思いました。
この話には後日談があります。味付けを含めその売り場をほとんどパートの皆さんに任せたところ、ご近所の奥さんや友達に「うちの売り場の味付けが変わったから買いに来てほしい」と誘うようになったそうです。また地域の花見やイベントがある時に「うちの売り場からオードブルを買ってほしい」と、営業をするようになり、当然売上は良くなりました。人間がやり甲斐を感じるのは、賃金が高いことや休みが多いことだけではなく、自分で工夫をし、仕事がうまく行った時や、達成感を感じた時に一番やり甲斐を感じるものです。私は、正社員とパートタイマーという雇用形態の壁を壊し、従業員が自分たちの職場を良くし、働きやすい企業をつくるために力を合わせ、がっちりとスクラムを組むために、組織化の取り組みを始めました。

(2)単組の視点での課題
イオンでは、今までパートと正社員の人事制度は別々でしたが、正社員とパートタイマーの間にブリッジを掛け、一体的な職能資格制度を導入しました。パートタイマーから正社員に転換できる制度です。雇用区分に関係のない、一体的な労務管理、職能資格と賃金制度の導入です。これはイオンだけではなく、例えばロフトでは、パートタイマーで入っても、登用試験を受けて昇進できる人事制度を導入しています。要するにパートタイマーと正社員を一体的に労務管理することにより、処遇や社員へのチャレンジのしくみが透明性をもち、オープンにされたということです。そして、職務に見合った処遇制度への転換です。例えばパートタイマーも店長になれる資格要件を満たすと、店長になることができます。当然処遇は、時間当たりの賃金で正社員との間に差はないというものです。

(3)単組の組織化への取り組み
私がめざした組織化は、単に組合員を増やすことではなく、自分が働く職場・企業を守り成長させ、家族に誇れる、家族が誇れる職場をつくること、そのために雇用形態の壁を取り払い、従業員がスクラムを組む原型をつくることです。例えば、企業の業績が悪化して倒産目前になれば、どれだけ頑張っても自分たちの労働条件を上げることはできない、これが現実です。それを避けるには、従業員が力を合わせなければなりません。
以前、アメリカのスーパー業界で7番目の売り上げを誇るアルバートソンというスーパーマーケットを視察したことがあります。店長にヒアリングへの対応をお願いし、約束の時間より少し前に行ってお店を見ていたのですが、そのとき、店長が売り場全部を回り、1人ひとりの従業員に声を掛けていました。後で仕事の指示かと聞いたところ、「子どもの病気は治ったか」「奥さんは元気か」などと声をかけているとのことでした。イオンの店長も、「あれは出来たか」「これはどうなったか」など業務のことは聞いていると思いますが、アルバートソンの店長は、人間的な触れ合いが朝の仕事でした。店長へのヒアリングで記憶に残ったことは、「私はこの会社の店長をしていることに誇りを感じている」「私の父も兄弟もこの会社に勤めている。この会社は地域の皆さんに愛され、会社も地域の皆さんに奉仕をしている、そういう企業で働けることに誇りを感じている」という話から始まったことです。私も従業員が誇れる会社をつくってみたい、とその時思いました。
企業は、収益性や安定性、成長性などの経営指標が優れているだけでは、素晴らしいとは言えないと思っています。私は、すばらしい企業の指標として従業員の満足度と社会への貢献度という指標が要るのではないかと思っています。どれだけ利益を出していても、そこで働く従業員が不満を抱えて働いていれば、すばらしい企業とは言えません。自分の企業さえ良ければいいという発想では素晴らしい企業と言えず、地域のお客様にどれほど奉仕をしているのか、貢献しているのか、そういうことも大きな要素になるのではないかと思います。
組織化の具体的なステップは、①実態把握、②組織化方針の決定、③事前準備、④加入活動です。最も大切なことは実態把握です。自分の企業に非正規と言われる労働者がどれくらいいるのか、どんな仕事をしているか、処遇や労働条件はどうなっているか、まずこれらを知らなければいけません。私は、自分の企業で働く非正規労働者を把握し、労働条件などを知った上で、組織化しなければいけないと思っています。そして、状況を把握した上で組織化方針を決定します。次に事前準備を進め、オルグ器材を用意します。組合への加入を呼びかけると、「組合に入るメリットは何か」あるいは、「組合は何をしているのか」「組合費を払った見返りはあるのか」など、いろいろな質問があり、それに応えられるようなQ&Aや、労働組合を紹介したビラなどをオルグ器材と言います。
オルグとは、組合への加入を勧誘する組織化活動のことで、イオンの加入勧誘の活動では、対象者1人ひとりと話をしました。これは当然、1人ではできません。全国の職場の仲間の賛同を得て、それぞれの店の職場の組合員や役員が、1人ひとりのパートタイマーに声をかけ、「是非イオンの組合に入って、一緒に働きやすい職場をつくろう」と勧誘しました。1人ひとりに話しても、「はい、わかりました」とすぐに加入の返事をくれるわけではなく、様々な質問も出ますので、1人ひとりを説得する加入活動では、大変苦労しました。しかし、現在ではイオングループ全体で12万人を超えるパートタイマーが組合員としてがんばっています。

(4)処遇改善への取り組み~均等・均衡待遇に向けて~
先ほど、組織化は手段と話しましたが、目的は当然、処遇改善に取り組むことです。連合は、パート共闘会議の中で、時間給であれば20~40円の引き上げ、もしくは絶対額で1,000円以上という要求を掲げ、パート共闘に参加している産業別組織や単組がこれに取り組みました。人事処遇制度では、正社員への転換制度の導入や、通勤費を正社員と同じ基準にするなどを統一項目にあげました。
昇給のルール作りも重要です。昇給制度のある企業では、どうなれば賃金が上がるかが明確になっています。昇給ルールが明確でない企業では、どうやったら自分の時間給が上がるのかが解りません。先ほど触れたパート労働者のつどいで、「自分の時間給についてどう思うか」という質問をしましたが、その時の最も印象的な回答は、10年間働いても時間給は20円しか上がっていない、というものでした。パートタイマーの時給は需給関係によって決まり、隣のお店が例えば720円であれば、自分のお店も720円にしなければパートタイマーを採用できません。このケースは、そのお陰で20円上がったというものです。本人の10年間の成果や能力の向上は一切評価をされずにきたわけです。皆さんもアルバイトをされていて、時間給はどのように決定されるのか、自分の時間給はどうすれば上がるのか、疑問が多いのではないかと思います。連合は、こうした実態から、昇給ルールを明確にしようと取り組んでいます。
また、パート労働者のつどいの中で、「私は1年のうち、7月と12月が非常につらい、それは正社員には7月と12月にボーナスがあるが、私たちには一銭も出ないから」と言う発言を聞いて衝撃を受けました。一般に、ボーナスには業績の成果配分要素が入っています。その企業業績は、正社員だけではなく、パートタイマーも含め、みんなの努力で上がったものです。そうなると、その配分は正社員だけでなく、パートタイマーにも配分すべきだと思います。イオンもパートタイマーに一時金はありませんでしたが、組織化によって、一時金の支給制度をつくりなおしました。
時間外手当は、残業をした時の割増賃金で、1日8時間を超えて働いた場合、割増賃金が支払われます。法律では最低25%の割増となっていますが、イオンの場合、正社員には時間給の30%が支払われることになっていました。しかし、パートタイマーは25%だったため、これも組織化の後、会社と交渉して30%まで引き上げました。

(5)組織化によって何が変わったか
労働組合は会社と話し合い、いろいろな改善に取り組みましたが、最大のものが社員割引制度です。イオンでは、イオンでの買い物には割引の制度があり、当時、正社員の場合は、食品も衣料品もすべて8%引きでしたが、パートタイマーの皆さんは5%引きでした。組織化の後、この区別をなくし、すべて同じ割引率にしました。
そして、肝心のパートタイマーの皆さんは、組織化後どうなったのか、ということですが、組合員になった人が、「今まで、不平・不満や仕事の改善提案があっても、自分たちは発言する場がなかった。私は、労働組合のメンバーになって、発言の場ができたことが一番嬉しい」という話をされました。イオンだけでなく、他の組合でもこういう反応が多くありました。企業の中で疎外され、思ったことが言えない職場で働くことのつらさが、組合加入によって改善されたことの意義は大きかったと思います。そして、自ら積極的に活動するパートタイマーの方も非常に増えてきました。頑張れば処遇も良くなり、働く職域も拡大され、その結果、やり甲斐を感じます。これまでは、所定時間内に言われた仕事だけをやっていた人たちが、積極的に自分たちのやり甲斐を求めて活動するようになってきました。

おわりに

 イオンでは、最初に配属された売り場で、「商品に指紋を付けよ」と言われます。これは商品に触りなさいという教えです。まず衣料品売り場であれば、一番はじめに商品整理をします。お客様がくしゃくしゃにした服を綺麗に整理整頓します。その時ただ単に綺麗にたたむ人と、商品に汚れや値札の落ちがないかをチェックする人がいます。あるいは昨日と在庫がどう変わったか、どの商品が売れたのか、どういう商品をお客様は買っていくのかをチェックする人もいます。同じ作業でも、目的や目標を持ってやっている人とそうでない人とでは、日頃の仕事の成果も変わってきますし、その後の成長も違ってきます。
私は、組織化の目的は組織拡大ではなく、目標をもって働く人をいかに増やすかだと思い活動してきましたが、今はそれが間違っていなかったと確信をしています。
皆さんは、これから大変厳しい環境の中で、社会に出ていかれることと思います。仕事は、やらされると思うと辛い、と感じるものですが、自分で目標を持ち、どんな環境におかれても、精一杯前を向いて頑張っていかれるならば、やり甲斐を感じるようになるのではないかと思います。

以 上

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