はじめに
みなさんこんにちは。生保労連の津田と申します。私は1993年に住友生命に入社し、日本橋支社に配属になりました。その後本社の営業企画部、その後の5年間は住友生命の支部長として営業現場で仕事をしてきましたが、2007年に住友生命労働組合の特別中央執行委員になりました。2008年8月からは生保労連の中央副書記長、そして2010年の8月からは生保労連の中央書記長を務めています。
本日は4点のお話をしたいと思います。まず1点目は生保労連について、2点目に出身元である住友生命について、3点目に住友生命労働組合の組織や活動、そして最後に住友生命労働組合の具体的な労使協議について、最近の事例などを含めてお話しします。
1.生保労連について
(1)生保労連とは
生保労連は正式名称を「全国生命保険労働組合連合会」と言い、1969年11月に結成し、もうすぐ42年になります。1969年以前は、事務職・内勤職員だけの「全生保」と営業職員だけの「全外連」がそれぞれ別組織として活動していましたが、同じ産業で働く者同士、力を合わせて活動したほうが労働条件の改善や産業の発展につながるという判断のもと、ひとつの組織になりました。組合員数は約25万人で、その約8割は営業職員と呼ばれる、まさに生保営業の現場で頑張っている方々です。残り2割が内勤職員です。営業職員は女性が大多数で、組合員に占める女性の割合は約85%です。
同じ業種に複数の産業別労働組合が存在する業界もありますが、生保産業の場合は生保労連が唯一の産業別労働組合です。生保会社は現在47社あり、そのうち18社に生保労連加盟の労働組合があります。他はどうなっているかというと、損保系の生保会社、たとえば東京海上日動火災の子会社には東京海上日動あんしん生命がありますが、親会社の労働組合と同じ損保労連に加盟しています。保険業界では、1996年まで生命保険会社と損害保険会社はそれぞれ専業で行うことになっていました。しかし、「金融ビッグバン」の流れの中で損害保険会社が子会社を作って生命保険事業を手がけることが認められるようになり、損害保険会社も多くの子会社を作り、生命保険業界に参入してきました。そこで働く組合員の多くは損保労連に入っています。なお、アメリカンファミリーなどの外資系会社には労働組合がないところが多く、また最近でてきたネット販売の生保にも労働組合はありません。また、2007年10月には、郵政民営化によってかんぽ生命ができましたが、かんぽ生命で働く人は日本郵政グループ労働組合の組合員になっています。
生保労連に加盟する組合は20組合です。先ほど、生保労連は内勤職員と営業職員の組合が合併したと言いましたが、会社によってはまだ別々に組合活動をしているところもあります。具体例としては、大同生命従業員組合と大同生命労働組合は同じ大同生命の労働組合ですが、別の組織として活動しています。ちなみに、生保業界には営業職員、内勤職員以外に、パートタイム労働者や有期契約労働者の方が多くいます。私たちが把握している範囲で2万数千名、実際にはもっと多いと思いますが、約10年前まではパート・有期労働者で組合員の人は1人もいませんでした。今は、6組合で7,454名のパート・有期労働者が組合員になっています。
生保労連も、ここ数年パート労働者の組合員化に非常に力を入れています。同じ職場で働く人の課題は当然一緒ですが、その中で組合に入っている人と入っていない人がいては、課題の改善や組合活動はなかなか進みません。現在、生保労連に加盟する全組合がパート労働者の組織化を強力に推進しており、その結果、パート労働者も組合員という組合が6組合になりました。去年の今頃は4組合でしたので、この1年間で2組合が組織化を実現しました。私の出身の住友生命労働組合も、この春から2,087名のパートの皆さんを組合員として仲間に迎え入れました。
(2)生保労連の行動理念
生保労連は、「夢が広がる豊かな生活、人と自然にやさしい社会の実現」を基本目標とし、以下の5つの行動理念を掲げています。
また、2年前の結成40周年を機に、これまでの経験を踏まえつつ新しい方向を目指していこうということで「ニュー・チャレンジ宣言」を取りまとめ、社会からの共感・信頼を得られる運動をめざして、「社会に『貢献』し、社会の『信頼』を得る」、「安心と働きがいのもてる職場・ルールをつくる」、「共感のもてる組織と新しい仲間づくりを進める」、という3つの方向性をまとめ、新たなスタートを切りました。
(3)生保労連の運動方針
労働組合の運動方針は会社でいえば事業計画や経営計画にあたりますが、生保労連は2010年度の運動方針の柱として次の4つを掲げています。
生保産業の社会的使命の達成
総合的な労働条件の改善・向上
組織の強化・拡大
それぞれの項目を少し補足すると、1つ目の「生保産業の社会的使命の達成」については、生命保険産業の存在意義はいざというときに保険金・給付金を困っているお客様にしっかりお支払いするというにあります。将来や老後の安心、世帯主に万が一のことがあった時の家族の安心など、本来であれば国がしっかり守らなければなりませんが、財源の問題があります。私たちは、保険業界が国の社会保障制度を補完していく役割をしっかり果たせるよう、労働組合としてその側面支援となる取り組みをしていこうと考えています。例えば、東日本大震災では、亡くなったご主人がどこの生保会社に入っていたかわからないため奥様が保険金を請求できず困っているというケースが数多くあります。生保労連は、避難所で途方に暮れているこうしたお客様に対し、生保協会と連携を図り、組合員が避難所を訪ね、生保協会に電話すれば調べられる仕組みがあることを一人ひとりに知らせる取り組みをしています。あわせて、連合加盟の労働組合に対しても、こうした仕組みを書いたチラシを配布していただくという取り組みも始めています。
もう1つは、「産業政策課題」への取り組みです。たとえば、生命保険に加入すると税金が少し免除されます。先ほど言ったように、国の社会制度を補完する仕組みであることから、国は税金の一部を控除しています。こういう制度がさらに拡充すれば、生命保険はさらにしっかり普及していくと思っています。私たちは、お客様にとって生命保険をより入りやすいものにするために、監督官庁である金融庁や国会議員に対して制度の拡充に向けた働きかけを行っています。また、銀行も保険を販売できるようになったことから、銀行の保険販売に関する一定のルールづくりに向けた働きかけにも取り組んでいます。なお、この取り組みの一環として、実は今日4時から金融庁の副大臣がヒアリングをするということで、私どもの委員長が対応することになっています。
運動方針の2つ目「総合的な労働条件の改善・向上」は、労働組合としてきわめて本質的な取り組みです。賃金に関する取り組みや、ワーク・ライフ・バランスの推進などに取り組んでいます。3つ目は、「組織の強化・拡大」で、先ほどふれましたパート労働者の組織化に力を入れています。4つ目の「生保産業と営業職員の社会的理解の拡大 」では、様々な社会貢献活動にも取り組んでいます。
(4)生保労連の活動
生保労連では、月に1回程度、中央執行委員会を開いています。また、その下に学者や有識者も加わった研究会を設置し、労働組合にかかわる課題や生保産業にかかわる諸テーマについての勉強会を年に何回か行っています。
また、経営側団体の生保協会と、産業全体の課題について意見交換を行う労使協議会を毎月1回程度開催しています。これは始めてから36年続いています。さらには、郵政改革に関する取り組みでは、生保産業に非常に影響が大きい法改正について、適切な法改正を求めて署名活動に取り組みました。100万名近い署名を集めて、当時の委員長が亀井静香郵政改革担当大臣に届けました。
その他にも、若手組合幹部向けの勉強会の開催や消費者団体との意見交換なども行っています。私たちの活動にご興味のある方は是非ホームページをご覧になっていただければと思います。
2.住友生命労働組合について
(1)住友生命の概要
住友生命を簡単に紹介した上で、住友生命労働組合の話に入りたいと思います。
住友生命は1907年創業の会社で、約700万名にご契約いただいています。保険料等収入は約3兆円です。保険金等の支払いは年間約2兆円です。単純に365日で割りますと、1日あたり約55億円の保険金をお客様にお支払いしていることになります。ちなみに、業界全体では約11兆円で、1日あたり約300億円をお客様にお支払いしています。
(2)住友生命労働組合について
住友生命労働組合の前身は、戦後まもなくできた営業職員の組合と内勤職員の組合です。それぞれは長年別々に活動していましたが、生保労連と同様、営業職員・内勤職員ともに力を合わせようということで、1996年に統合して住友生命労働組合になりました。組合員数は約4万名で、生保産業では日本生命、第一生命、明治安田生命に次ぐ4番目の規模の組合です。生保産業全体の傾向と同じく、営業職員の方が約8割を占めています。
(3)住友生命労働組合が目指すもの
①課題解決型・提言型の活動
住友生命労働組合は、労働条件の改善にむけて、会社に強気でどんどん要求するという考え方にはたっていません。しっかりと経営をチェックし、会社に対して必要な提言を行うこと、また、組合員の大半を占める営業職員がお客様との接点の中で抱えた課題を、組合員自ら知恵を出し合い横のつながりで解決していくことなどが非常に大切であると考えています。要求中心という労働組合も多くあり、それを否定するものではありませんが、住友生命労働組合は課題解決型・提言型の組合活動を目指しています。
②対等な労使関係
そのためには労使関係が対等でなければ話になりません。労使が対等な関係で、誠実に向き合うことが絶対に必要だと思います。しっかり本音を言い合って議論を戦わせることが大事であり、そうしなければ本当の意味での信頼関係はできません。
そして、対等な労使関係、経営との信頼関係をつくるためには、組合員同士がしっかりと結びつかなければいけません。「労使協議で合意を得れば会社全体がうまくいく」「労働組合は現場実態をよくつかんで主張している」「会社はそこまでつかめておらず、組合と話すことに大いに意味がある」等と会社に実感させることが必要です。
そのためには、現場感覚がきわめて重要で、組合の強みは現場を知っていることです。お客様が何を望んでいるのか、職場にどんな課題があるのかなどは、実際にその職務に携わっている者でなければ持ち得ない情報です。労働組合はそこを大事にしていきたいと考えています。
ところで、会社を人間の脳に例えると、組合は神経系という人がよくいます。指先が冷たいものに触れた、足が何か踏んだ、こういった情報を脳に上げる、労働組合には、そういう神経の役割があるということだと思います。
(4)住友生命労組合の組織概要
住友生命労働組合は、会社の機構に対応する形で組織が成り立っています。まず会社には、全国に約2000の支部があります。その支部が15~20程度束ねられたものが支社ですが、全国の中核都市の駅前に約90の支社があります。
労働組合の組織として、会社の支部に対応する組織を「分会」と言います。ここが組合活動の原点です。会社の支社に対しては「支部」を置いています。その支部は地域を8つに大括りした「地区」で構成され、地区は、北海道・東北、大阪など8つあります。なお、本社勤務の内勤職員はこれとは異なった体系になっていて、課ごとに分会があり、部門ごとに、たとえばシステム部門、運用部門ごとに支部を構成しています。
それぞれの組織は、毎月会議を開催して現場の意見や要望を本部に集約し、また、本部からの情報を分会まで伝達していくという活動を行っています。具体的には、まず分会は職場集会を開催しています。支部委員会は、支部の運営について話し合っています。地区委員会は、本部役員も出席し、地区内の支部委員長が現地で起きている問題を本部役員に伝え、対応策を協議する場になっています。本部では、営業職と内勤職半々の構成による中央執行委員24名が集まり、月に2~3回の中央執行委員会を開催し、組合としての意思決定を行っています。
(5)会社との協議体制と課題解決までの流れ
本部は本社と会社全体にかかわるテーマについて協議を行い、支部では支社長と支社の課題について協議し、支部・支社間で解決できなければ本部に情報が上がることになっています。地区と分会には会社のカウンターパートは特になく、地区は主に支部からの情報交換、分会は組合員の意見集約が主な役割です。
なお、会社との主な協議会には、次のようなものがあります。
各種協議会では、組合側から現場の実態に即した問題提起とその課題解決にむけた提案を行います。会社からは関係する案件の担当役員や部長クラスの人たちが出席し、お互いに率直な意見交換を行い、会社は協議会などを通じて課題を認識し、その具体的な解決策を組合に提案する、これが基本的な流れとなっています。
「交渉委員会」は、このような会社提案を受ける場、その提案に対して意見交換や協議を行う場で、月2回程度行っています。
「組合・会社協議会」は、社長をはじめ会社経営層と本部役員全員が出席し毎年4月に行われ、全社的な経営課題、年間の業務運営計画、販売計画なども含めて議論します。
「営業支援協議会」は、営業職員が8割を占める生保では、営業職員が保険を募集しないことには会社は成り立たたないことから、営業職員の保険の販売活動、あるいはアフターサービス活動をやりやすくするための支援策などを会社と協議しています。
「労働環境懇談会」は、主に内勤職員の問題が中心になりますが、営業職員も含めた職場環境の改善、よりやりがいを感じながら仕事ができるようにするための諸施策を議論しています。生保産業は一般的に長時間労働が常態化している業界ということもあり、長時間労働問題の改善やワーク・ライフ・バランスの取り組みもここで議論しています。また、権利であるはずの年休もほとんど取れていないというのが一昔前までの実態でした。現在は、無理なく年休が取れるようにしていくための議論をしています。
3.住友生命労組の労使協議について
(1)交渉委員会における労組の取り組み-「営業職員制度」の改正
最後に住友生命労働組合の具体的な労使協議について、最近の事例などを含めてお話しします。協議会や懇談会を経て、交渉委員会で提案された営業職員制度の改正を例に、具体的な取り組みを説明したいと思います。
営業職員はいわゆる歩合給で、成果が上がれば給与が上がり成果が上がらなければ給与が下がるという厳しい制度のもとで仕事をしています。しかし、成果が上がらなければ給与はゼロというわけにはいきません。固定部分をどうするか、どういう形で成果を給与に反映させるかなど、制度設計によっては、同じ成果を挙げていても給与が変わってきます。営業職員の給与体系や教育などについて決めているのが営業職員制度ですが、極端な例では、新たに成約した契約の保険料と受け取る給与が完全にリンクしている制度を持っている会社もあれば、新たな成約はそれほど多くなくても、多くのお客さまをしっかりと守っていれば一定の給与を受け取り続けられる制度の会社もあります。一概にどれがいいとは言えませんが、固定部分に多く払うと、成果が上がった時に出せる部分が減ってしまいます。逆に固定部分が少なければ、結果を出したときにはより多く払われますが、毎月の給与が安定しないという面があります。頑張った人が報われるというのが歩合給ですが、どの仕組みが適切かは一概に言えず、非常に制度設計が難しく、この制度をどうするかによって会社の業績も大きく変わってしまいます。
住友生命では、この営業職員制度を2011年4月に大きく改正しました。そのきっかけとなったのは、2009年1月の中央委員会で、「先行きが不透明な厳しい時代の中、組合自らで自分たちの将来をみすえた営業職員制度を考えて、会社にぶつけよう」という声があがったことでした。この声を受けて、組合では半年間の議論を行い、営業職員体制の将来ビジョンをまとめました。議論の途中である4月に、組合・会社協議会で労働組合の考えを示して会社とやりとりし、その後7月の交渉委員会で、半年かけて取りまとめた組合としての将来ビジョンを提案したわけです。それを受けて10月の交渉委員会で、組合の意見をかなり取り入れた形で会社から営業職員制度改正の概要が示されました。組合は、その後12月に中央委員会、11月、12月に全支部オルグを行い、会社の提案内容や制度改正の方向性を議論して意見を集約、それをもとに1月の中央委員会の議論を経て組合としての要望を取りまとめました。その後の交渉委員会で組合の要望を伝えた上で会社と議論を重ねた結果、2010年4月の交渉委員会において、会社から具体的な制度改正案が示されました。この間1年以上をかけて組合と会社で課題認識の共有化を図ったため、この段階では双方の認識に大きなずれはありませんでした。しかし、現場は今もっと厳しくなっており、さらなる改善が必要という声もありました。そこで、一部修正を会社に申し入れ、9月の交渉委員会で決定、2011年4月から新制度がスタートしました。
(2)労働環境懇談会における労組の取り組み―「休日休暇制度」の改正
2010年1月に労働組合が行ったアンケートでは、福利厚生について、「福利厚生を活用しやすい環境へ改善してほしい」という意見が多く出されました。具体的には、休みがとれないというもので、労働組合は、労働環境懇談会の場で改善にむけた提案を行いました。時期的には、ちょうど春期生活闘争の要求時期にあたり、福利厚生制度の充実にむけた要求も含めて春闘議論を行い、休暇取得につながる制度改正や運営面の改善が図られました。
こうした改正は、労使の信頼関係が前提となって、会社が組合員の声に真摯に応えた結果であると思っています。会社が真摯に応えることは、組合員・従業員の頑張ろうという気持ちにつながると思っています。そういう意味では、非常にいい形での制度改正になったと思っています。
4.企業別労働組合の課題-まとめにかえて
労働組合自身の課題も少なくありません。会社の仕事も専門化してきており、組合員の考え方も個別化していく中、組合活動が難しくなってきています。改めて、粘り強く合意形成をしていくことが大事だと思っています。また、世の中の動きもスピードアップしていて、何かあってから動いたのでは遅く、常日頃から意見集約をしっかり行うことが大事だと思っています。
私たちの活動は、組合員の組合費で成り立っており、組合役員にとっては、組合員はお客様でもあります。お客様に、私たちはこういう仕事をしています、皆さんにこういうことを返しています、ときちんと伝えることが重要だと思います。
私の年代以降、採用人数は減少し、同時に、組合の役員のなり手が少なくなってきています。しかし、組合役員となって活動することは勉強になります。組合員、仲間のためになると思っています。組合活動にかかわるマイナス、時間的な制約面などはあるかもしれませんが、それを何倍も上回る大きなプラス面があります。皆さんには、将来仕事をしていくようになったとき、労働組合はどういう活動をしているのか、自分はどうやってかかわっていくか、ぜひ真剣に考えていただきたいと思っています。きっと得るものが多いと思います。
以 上
▲ページトップへ |